全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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イシュタル?

 

 麻菜とケツァル・コアトルは囚われていた生贄達と共に転移門(ゲート)でウルクへと戻った。

 便利な転移魔法にケツァル・コアトルは感心し、生贄とされた男達はおっかなびっくりだ。

 ともあれ、生贄達を救出するにあたりケツァル・コアトルは一つの条件を出した。

 どうやら彼女は生贄として連れてきた男達を鍛えていたらしく、ウルクに戻った後も兵士達を鍛えたいということ。

 

 麻菜が生贄達に確認したところ、それは事実であり、彼女は強くなることは良いことだとギルガメッシュに提案することを約束した。

 

 そんなこんなで、麻菜はケツァル・コアトルにおんぶされて拠点としている住居に戻ってきた。

 住居には全員が揃っていたが、更にカルデアとの通信を繋げた状態でケツァル・コアトルによる経緯の説明が行われる。

 その間、麻菜はケツァル・コアトルの背中から降りて、適当な椅子に座って机に突っ伏していた。

 麻菜が本格的に疲れているということが誰の目にも明らかであり、かなり珍しいことだ。

 

 全てを聞き終えて、まず口を開いたのは虞美人であった。

 麻菜が疲れていようがいまいが、容赦をする彼女ではない。

 

「おい馬鹿後輩、何で救出しに行って主神をサーヴァントにして戻ってくるんだ?」

「まぁまぁパイセン、落ち着いて……」

「お前本当にやらかしまくっているな!? 少しは自重しろ!」

「ちゃんと拳で語り合ったから。二度とやりたくないけど……でもパイセンとならやってもいい。ケツァル・コアトルとやるよりは楽そうだから」

「お前、ムカつくな。ちょっと面貸せ。捻り潰してやる」

「あん? ボッコボコにしてやんよ!」

 

 がるるるる、と殺気立つ2人の間にケツァル・コアトルは割って入る。

 

「どっちも落ち着いてクダサーイ」

「私が言うのも何だけど……本当にいいの? そこのバカ、色々とアレよ」

 

 そんな彼女に虞美人が問いかけると、ケツァル・コアトルは鷹揚に頷いて答える。

 

「とても面白そうだわ」

「神霊とかそれに近い奴って碌なのがいないわね!?」

 

 虞美人、渾身のツッコミ。

 そんな彼女の服の裾を麻菜が引っ張る。

 

「何よ? 引っ張るな」

「パイセンパイセン、イシュタルが殴っ血KILL(ぶっちぎる)って顔している」

「私を一緒にしないで頂戴!」

 

 憤慨するイシュタルに虞美人は面倒くさい、と溜息を吐いた。

 神霊やそれに近い奴には碌なのがいないという部分が駄目だったのだろう。

 イシュタルは更に問いかける。

 

「麻菜、あなたも私だけの女神になってほしいとか言っておきながら、他の女神を連れてくるなんてどういうことかしら?」

 

 彼女は鋭く睨みつけるが、麻菜は不思議そうに首を傾げる。

 

「ケツァル・コアトルにはそんなことは言ってないわよ? 拳で戦えって言われたから、剣とか魔法とかそういうの無しで拳で戦っただけで……あなたのようにルビーを贈るなんてことはしてないし」

「……本当に?」

 

 ジト目でイシュタルは問いかける。

 麻菜は頷き、ケツァル・コアトルもまた告げる。

 

「私だけの女神になって欲しいなんて言われてないわ。あなたはそう言われたの? 羨ましいわね」

 

 その言葉にイシュタルは満足げに頷きながら告げる。

 

「そうよね、信じていたわ……で、神殿売春の件はどう弁明するの? シドゥリから聞いているんだけど」

「あなたを祀っている神殿に寄進したら駄目なの? それに、そういうことも含めて宗教上の儀式ってあなたも知っている筈よね?」

 

 そう言われるとイシュタルとしても弱い。

 本来のイシュタルならばともかく、この場にいるイシュタルは依代となった少女により、マイルドな性格になっている。

 気に入らないからぶっ殺すなんてことはしないのだ。

 

「……今度、デートしなさいよ」

「明日なら空いているから、どう?」

「決まりね」

 

 トントン拍子で決まってしまい、マシュが頬を膨らませる。 

 麻菜はそんなマシュに今度、デートに誘おうと思ったところでオルガマリーが口を開く。

 

 色々と衝撃的なことがありすぎて、カルデアにいる彼女達は理解が追いつかなかった。

 麻菜がぶっ飛んでいることはこれまでのやらかしの数々で知っていたが、主神と拳で殴り合いをして勝利するというのは予想もしなかったことである。

 

『麻菜、ケツァル・コアトルによく勝てたわね……』

「お情けで勝たせてくれたようなものよ」

「違いマース。麻菜は私の全力パンチを防いでみせました。彼女の戦闘スタイルを全て封じた状態で、それをしてみせたのだから彼女の勝利デース」

『……参考までに全力のパンチってどのくらいの威力が?』

 

 オルガマリーの問いに麻菜が答える。

 

「私の全魔力を使って防御に回さないと頭が吹き飛ぶくらいかしらね。隙きを突いて関節技で制圧したんだけど、あの状態からでもケツァル・コアトルはひっくり返そうと思えば簡単にできた。誰の目にも明らかな勝利とは言い難い」

「うーん……麻菜は疑り深いわね。私のパンチって簡単には防げるものじゃないわよ。そうよね? 2階でこっそり聞き耳を立てているジャガーマン?」

 

 ケツァル・コアトルの呼びかけにジャガーマンはすぐに現れた。

 

「ククルん! 別に隠れていたわけではなくて……!」

「そんなことはどうでもいいから、私の全力パンチはどう?」

「無理ッス。避けれないし防げないッス。それを防いだ麻菜さんはスゲーっス。ウッス」

 

 直立不動でそう答えるジャガーマンにケツァル・コアトルは満足げに頷く。

 

『まあ、勝敗云々はともかくとして、結果だけ見ればケツァル・コアトルが味方になったということよね。その調子で、さっさと特異点を修復して頂戴』

 

 オルガマリーはそう言って言葉を締めくくった。

 その横でダ・ヴィンチが告げる。

 

『実はだね、麻菜に持たせていた通信機はちょっと特別製で……そう、こんなこともあろうかと! 私の天才的な技術によって、真横からの映像が撮れているんだよ』

「本当に凄い技術だわ、それ」

『もっと褒めてくれたまえ。といっても、実際のところは君のやらかしを横から撮影することで、君が言い逃れできないようにする為の機能なんだけどね』

「前言撤回、最悪の技術だわ」

『そうだろう? 天才を舐めるなよ』

「帰ったら覚えておけよ」

『楽しみにしているよ。それじゃ上映会でもしようか』

 

 そんなこんなで上映会が始まった。

 しかし麻菜は解説をケツァル・コアトルに丸投げして、2階へと上がりベッドに倒れ込んでぐーすか寝たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 ゆっくりと麻菜は瞼を開く。

 彼女が上半身を起こすと、既に窓の外は真っ暗だった。

 

「モモンガがアルベドに追いかけ回されている夢を見た気がする……」

 

 モモンガもまた麻菜と同じような――しかし、彼の方は完全な異世界で――ナザリックの支配者として頑張っているような気がした。

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 その声に麻菜が視線をやるとイシュタルが立っていた。

 彼女はにこやかに微笑みながら、手近な椅子に座る。

 

 何となく麻菜はイシュタルに違和感を覚える。

 雰囲気が微妙に違う気がするのだ。

 麻菜がそんなことを感じているとイシュタルが言葉を紡ぐ。

 

「あなたとはもっと早くに色々と話してみたかったんだけど……本当にあなたって自由奔放ね」

 

 呆れ顔のイシュタルに麻菜はドヤ顔で告げる。

 

「欲望一直線、それが私なので」

「羨ましいような、羨ましくないような微妙な感じ……で、あなたって何なの?」

「何なのと聞かれれば答えてあげるが世の情け……というか、女神パワーで視えるんじゃないの?」

「女神パワーでも視えないことがあるのよ。とりあえず、混沌っていうのは分かるけど……何というか、普通はそういう人格にはならないのだわ」

「私でもどうしてこうなったのか分からないけど、まああれじゃないの。何か変な影響でも受けたとかそういうの」

「ふーん……あなたには悩みとかはなさそうね。ホント、羨ましいものだわ」

 

 短い付き合いながらも、麻菜にはどう考えてもイシュタルがこんなことを言う姿は想像できない。

 もしかしたら、これもまたイシュタルの一面であると言えるかもしれないが――とりあえず情報収集に努めることにする。

 

 判断するには情報が不足しているということもあるが、イシュタルの姿を真似るという命知らずな輩がどんなことを話すか、純粋に興味があった。

 麻菜は問いかける。

 

「女神にも悩みとかってあるの?」

「神によるのだわ。私なんて生まれたときからずっと仕事ばかりで、神話時代から嫌われ者、日陰者で……」

「……これは未来の話なんだけど、未来ではそういうのをブラック労働と言われるのよ。実は私も昔は嫌われ仕事をやっていてね。こうなったことで解放されたんだけど」

「……あなたも色々あったのね」

「まぁね。あなたのお話を聞きたいし、私もあなたに自分のことやこれまでの特異点のことを話したいんだけど……良いかしら?」

 

 麻菜の提案に彼女は小さく頷いたのだった。

 

 

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