「ふっふっふ、よく来たのだわ! 私が冥界の女主人! エレシュキガルよ!」
7つの門を越えた先にいた髪色を除けばイシュタルそっくりの少女が満面の笑みで出迎える。
麻菜が何かを言うよりも早く、イシュタルが物凄い速さで近づいていき、エレシュキガルに無言で拳を叩き込もうとしたが、エレシュキガルは華麗に回避した。
「おっと危ない! 本当にイシュタルって性格が残念だわ! いきなり暴力を振るうなんて!」
「あんた、私が悶絶するところを絶対見ていたでしょ!? 見ていたに決まっているわよね!? 死ねぇ!」
連続して拳が振るわれるが、エレシュキガルも負けてはいない。
その拳を全て拳で受けながらも麻菜に告げる。
「改めて……私がエレシュキガルよ」
「色々と言いたいことはあるんだけどさ、とりあえずそのイシュタル、止めたほうがいい?」
「お願いするのだわ」
麻菜は頷いて、かつて獅子王の動きを完全に止めた神封じ系のアイテムである青い紐を使った。
「何だか微妙に効果が薄い……? やはり胸の大きさで効果に差が……」
「なんですって!? 本来の私はもっと大きいのよ!」
イシュタルはそう叫ぶも、大人しく青い紐に捕まった。
一応、冷静さを取り戻したらしい。
麻菜は咳払いをして、エレシュキガルと向き合う。
「天命の粘土板頂戴。で、ラム肉……食べる?」
「冥界の女主人として、三女神同盟の一角として戦うのだわ! 私に勝ったら天命の粘土板を授けよう……あ、ラム肉は頂戴」
麻菜は無限倉庫から焼き立てのラム肉の串焼きを1本取り出して、エレシュキガルへと渡した。
それを受け取り、美味しそうに頬張るエレシュキガル。
「お前ら、真面目にやるのかやらないのか、どっちかにしろよ」
「先輩のペースに巻き込まれて、エレシュキガルさんも程よく緩い感じになっていますね」
「心配して損したわ。色んな意味で!」
虞美人は呆れ、マシュは苦笑し、そしてイシュタルは座り込んだ。
正反対の性格であるエレシュキガルに一言文句を言おうとしていたのだが、そんな気も失せてしまった。
アナは呆れて言葉もない。
「といってもエレシュキガル。聞いた話によれば冥界であなたと戦うなんて、私達に最初から勝ち目なんてないんじゃないの? それは公正な勝負と言えないのでは?」
「……そう言われるとそうね。何かいい方法、ないかしら?」
エレシュキガルに問われ、麻菜は自信満々で告げる。
「私とエレシュキガルとパイセンとイシュタルで脱衣麻雀っ……」
物凄い音が響き渡った。
エレシュキガルは目を丸くし、地面にめり込んだ麻菜と凶行に及んだ虞美人に視線を交互にやる。
「えっと……大丈夫? 死んだ? 魂、保管しようか? 麻菜が私のモノになるなんて……嬉しいのだわ」
「まだ死んでないのだわ……」
エレシュキガルにそう答えながら、麻菜はゆっくりと起き上がった。
後頭部にでっかいたんこぶができている。
「おいバカ、アホなことを言ってみろ。私の拳が火を吹くぞ」
「流石パイセン! ぶっ殺すと心の中で思ったとき、既にその行動は終わっていた! そこに痺れる憧れる……! パイセン、素手でもいけたのね……めっちゃ痛い」
「当たり前だ。長生きしていると暇になるから……あと自衛の為にな」
「……カッコいいのだわ」
虞美人と麻菜のやり取りに目を輝かせるエレシュキガル。
イシュタルは変な影響を受けないか、心配に思ってしまう。
「あの、それならトランプで勝負というのはどうでしょうか? ババ抜きとか……」
マシュの言葉にアナは彼女の服の裾を引っ張る。
引っ張られてマシュは小首を傾げながらもアナを見る。
「マシュ、それは禁句」
「……あっ! す、すいません!」
意味を察して慌てて頭を下げるマシュ。
イシュタル・エレシュキガル・虞美人は顔が引き攣る。
その様子に麻菜は肩を竦めながらも提案する。
「トランプもいいけど、UNOとかいいんじゃないの?」
「そうしましょう! 先輩、それがいいです!」
麻菜の提案をマシュが押ししたこともあり、皆でUNOをやることになった。
せっかくなので麻菜がグリーンシークレットハウスを使ってコテージを作り出し、そこの一室で皆でコタツに入りながら、みかんやらポテチやらを食べつつやって大いに盛り上がった。
エレシュキガルは楽しかったので天命の粘土板を開始30分くらいで麻菜に渡した。
そして、UNOだけでなくトランプや他のボードゲームまでやり始めたとき、イシュタルは何気なく尋ねる。
「ところであんたは麻菜と契約するの?」
「今はしないわ。契約はお互い対等にフェアな状態で行うべきもので……」
イシュタルの問いかけにそう答えるエレシュキガル。
彼女としては自分の力をアピールしてから、という思いから出た言葉だ。
しかし、麻菜にそんなものは関係ない。
「うるせぇ! 行こう!」
「……行くのだわ! 今すぐ契約する!」
麻菜の言葉にエレシュキガルは一瞬躊躇をしたが、そう返した。
「見事な掌返しを見たわね」
「流石先輩、相手の都合なんぞ知ったこっちゃないです」
「強引過ぎますね……」
「傍迷惑だけど……そういうのを悪いとは言えない時もある」
イシュタル達がそれぞれ感想を述べているが、麻菜とエレシュキガルには聞こえてはいない。
調子に乗った麻菜がエレシュキガルの両手を握りしめたあたりで、マシュと虞美人が麻菜を後ろから羽交い締めにして事なきを得た。
なお、この後に外套を纏ったキングハサンが乱入してきてエレシュキガルの女神同盟の契りを切った。
しかし、あっさりと帰す麻菜ではなく、彼も交えてそのまま宴会へ突入する。
そんなこんなで冥界にて散々遊んだ後、麻菜達は顔見せということでエレシュキガルも連れてウルクへと帰還する。
帰りは
一方でエレシュキガルはギルガメッシュがクタの住民達の遺体をジグラットの地下に全て保管していると知り、またギルガメッシュ自らが彼女がやったことは被害総額的に大したことではないと告げた。
その事実にエレシュキガルはショックを受けたが、ともあれ衰弱死させたクタの住民達の魂を解放することに異論はなかった。
そして、いよいよ『自分のことをティアマトだと思いこんでいるゴルゴーンをフルボッコにしよう――姉様達の許可は取ってあるよ』大作戦の準備に取り掛かるのだった。
作戦名は麻菜が考えたものであり、アナとしては複雑であったが、姉様達の許可を本当に取ってあるらしいのでどうしようもなかった。