全ては世界を救う為に!   作:やがみ0821

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何か続いてしまった。


経費で落ちる追いの10連召喚

「その……ありがとう」

 

 オルガマリーは麻菜にそう言って、頭を下げた。

 麻菜は構わないわよ、と手をひらひらと振る。

 

 

 精神的な疲労により眠っていたオルガマリーが目覚めてすぐに、ロマニとダ・ヴィンチによる説明が行われ、経緯を彼女は把握した。

 

 麻菜は命の恩人だ。

 

「それと、あなたって異世界からの転生者って聞いたわ。頼りにしていい?」

 

 頭を上げて、おどおどしながら尋ねてきたオルガマリー。

 麻菜の答えは決まっている。

 

「勿論構わないわ。しかし、あなたも大変だったわね。経歴を簡単に見た限りだけど、その歳で良くやっていると思う。私もあなたのそういった面で力になりたいわ」

 

 麻菜の言葉にオルガマリーは嬉しく思う。

 

「オルガか、マリーと呼んで欲しいわ。あなたには感謝してもしきれない。私の蘇生は勿論、カルデアの設備や死亡した職員まで元に戻してくれたから……」

「それじゃマリーって呼ぶわ。あなたも麻菜と気軽に呼んで」

「ええ、麻菜。世界を救いましょう」

「勿論よ。ところでこの後、暇? 食事でもどう?」

 

 麻菜の誘いに、オルガマリーはそれもいいか、と彼女の誘いを承諾した。

 

 

 

 

 

 

 2人揃って食堂に行くとそこにはアルトリアが延々とハンバーガーを食べ続けていた。

 もっきゅもっきゅ、という擬音が聞こえてきそうだ。

 彼女は戦いとなると苛烈な剣士となるのだが、普段は無表情でひたすらにメシを食い続ける無害な存在である。

 

「ところで、何でサーヴァントがキッチンに立っているのかしら?」

 

 アルトリアを見なかったことにして厨房にいるサーヴァント――エミヤに目をつけた。

 

「実は彼、料理が得意らしくてね。聞けばカルデアの食堂ってあんまり美味しくないらしいじゃないの?」

「予算がね……」

「美味しい食事ってやる気を出す為に必要な要素よ。というわけでエミヤに頼んだ」

 

 オルガマリーは納得して、軽く頷いた。

 そして麻菜が問いかける。

 

「マリー、スマホは持っているかしら? 電話番号とか交換しない?」

「え、いいの?」

 

 麻菜の提案にオルガマリーは驚いた。

 彼女の私用スマートフォンには残念ながら、友人と呼べる存在は登録されていない。

 

「いいわよ。世界を救って、はいさようならでは寂しいもの。ダメかしら?」

「ぜ、全然構わないわ! こんなこともあろうかと、私は常に持ち歩いているの!」

 

 オルガマリーの態度に、もしやと麻菜は思いついた。

 友達とかそういうのいないんじゃ、と。

 

 しかし、そこは彼女の名誉の為、麻菜は触れることはない。

 

 オルガマリーが慣れない手付きで自分の電話番号とメールアドレスをスマートフォンの画面に表示させた。

 麻菜は慣れた手付きでそれを登録し、メールに電話番号を記入して送信。

 オルガマリーのスマートフォンが鳴動し、麻菜からのメールが届いたことを知らせた。

 

 オルガマリーはそれをどうにか電話帳に登録することに成功した。

 

「ところでマリーの髪って綺麗よね」

「え、そ、そう? あなたの金髪のほうが綺麗だと思うけど……」

 

 そう言いながら照れた顔をみせるオルガマリーに麻菜は可愛さを感じた。

 

「そこの2人、注文はあるのか? ないなら、よそでやってくれ」

 

 厨房からエミヤがジト目で2人を見ながら、そう告げた。

 

「ですって、マリー。何を頼む? エミヤってわりと無茶な注文も受け付けてくれる気がするわ」

「そうね……それならとりあえず紅茶とケーキで」

「私も同じやつで」

 

 エミヤは溜息を吐きながらも、注文された以上は手を抜くことはない。

 

「それでマリー、私はあなたのこれまでのことが知りたいわ。あなたがどんな思いを抱いていたのか、どんなことをやってきたのか、そういうことを知りたいの」

 

 真っ直ぐにオルガマリーの瞳を見据えて、麻菜は告げた。

 

「ええ、ええ、いいわよ、たっぷりと全部教えてあげる」

 

 オルガマリーとしては、そういうことを聞かれるとは思ってもみなかった。

 しかし、それは彼女にとって嬉しいものだった。

 

 今まで彼女にはそういうことを言える存在はいなかった。

 

「ねぇ、マリー。サーヴァントがコヤンスカヤとマシュも含めると13人で不吉な数字だと思うのよ。だから、もう10回……ダメかしら?」

 

 麻菜のお願いにオルガマリーは考える素振りをしてみせるが、既に心の中では決まっていた。

 

 人理修復の為だからしょうがないことだと彼女は判断したのである。

 

「分かったわ。次の特異点へのレイシフトまでには召喚しましょう」

「だからマリーって好きだわ。あなたは本当に優秀だと思う。若いのに適切な判断を迅速に行える。それは中々できないことよ」

 

 微笑みながらストレートに褒めてくる麻菜に、マリーは頬が緩みそうになってしまうがどうにか堪えたのだった。

 

 

 次の特異点が安定するまでとは言ったが、すぐに召喚しないとは言っていない――

 

 オルガマリーはその場で通信端末を取り出して、各所に指示を下す。

 そして、迅速に召喚の準備が整えられる。

 

 カルデアの士気は極めて高い。 

 何が人理修復だ、こっちには玲条麻菜がいるんだぞ、という具合にスタッフ達は人類最後のマスターという絶望的な状況をも麻菜はひっくり返せると確信していた。

 

 士気を高め、更には麻菜に対する感情を良いものとする為にということで爆破テロによって失われたものを全て元通りにしたのは彼女であるという情報開示がなされている。

 しかもこれはダ・ヴィンチによって微妙に情報が改竄されていた。

 

 麻菜は突然変異的な人物であり、彼女しか使えない特殊な魔術を命を削って使用し、カルデアを元通りにしてくれた――

 

 実際には全く違うのだが、結果だけしかスタッフ達には見えない。

 そんなとんでもない魔術ならば、命を削る必要があるのも当然だ――魔術師的な常識を逆手にとって、納得させてしまった。

 

 命を削ってまで元通りにしてくれた――そう思い込ませた為にカルデアにおける麻菜の評価は非常に良いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて追加の10連召喚である。

 立ち会うのは麻菜とマシュであったが、キアラも立ち会いたがった。

 彼女としては童話に出てきそうな魔法使いの魔法でもって願いを叶えてもらったので、サーヴァントらしく振る舞いたいという思いがあったのだ。

 

 彼女は麻菜でしか満足に達することができない身体にされてしまった上、その気持ち良さは魂が蕩ける程の極上のもの。

 そんな風にされては永遠に尽くすしかなくなってしまう、困りますとかなんとか言いながらもキアラは喜んでそうなったのである。

 

 しかし、キアラが立ち会っては誰も出てこなくなる、というコヤンスカヤの容赦ない説得、そこへ隙を突いて玉藻が呪術を叩き込んで彼女を拘束した。

 

 本来ならばコヤンスカヤも玉藻も互いに決して協力なんぞしないが、キアラ相手では別である。

 

 そんなことがあったものの、無事に召喚は行われた。

 

 そして、出てきたのはマトモな倫理観や価値観を持ったサーヴァントであったのだが、やっぱり変なのからは逃れられなかった。

 

 

 

 

「……やっぱり私、変なのが憑いているのかしら」

「ふむ? それは良くない。どれ、朕が一つ祓ってやろう」

「いや、今回召喚した中で言っちゃ悪いけど、一番変なのはあなたなんだけど……いや、私もあなたの功績とかそういうのはリスペクトしているけど……」

「そうであるか? 朕としては其方が珍しい輩であったから、応じただけなのだが……それにどうやら色々と行き違いがあったようだ」

 

 麻菜は何だか面倒くさそうな話だと肩を竦めてみせる。

 

「もしかしてだけど、これから先、あなたが敵として出てくることがあるの?」

「うむ。いわゆるネタバレというやつだが、異聞帯という言葉を知っているか?」

「知らないわね」

「そういうことだ。もっとも、朕が見る限り……この世界ではそうなることはないだろう。座はどこにでも繋がっているから、こういうこともある」

「その理由は?」

 

 麻菜の問いに始皇帝は鷹揚に頷き、告げる。

 

「其方は汎人類史の項羽を召喚した。それに反応して虞美人が自力で蘇ってきただろう?」

 

 始皇帝の問いかけに麻菜は思い出す。

 召喚が終わってから1時間もしないうちに緊急警報が鳴り響いた。

 

 コフィン内で凍結保存されていた筈の芥ヒナコがコフィンを無理矢理こじ開けて這い出てきたのだ。

 不運にもコフィン近くにいたスタッフ達はどんなホラー映画よりも怖かったに違いない。

 緊急警報を聞いた麻菜は召喚したばかりのサーヴァント達を引き連れて事態の鎮圧に動いたのだが――

 

 向かった先で項羽と芥ヒナコこと虞美人が感動の再会を果たし、人目も憚らず幸せなキスをして事態は終了した。

 その後に芥ヒナコは自らの正体を暴露した、という顛末である。

 

「ぐっちゃん先輩のことね」

「うむ。朕はそもそもその虞美人と共闘していたし、そこにはタユンスカポンもいた」

「タユンスカポン……コヤンスカヤ?」

「そうだ。そのタユンスカポンも一応は協力者だった」

「語感がいいわね、タユンスカポン」

 

 私も使おうかしら、と呟く麻菜に始皇帝は告げる。

 

「其方がそれを使うのはやめてやれ。信じられないことだが、アレは其方に対しては乙女のように従順だ……何をしてきた?」

「出会ってすぐ魂がイケメンって言われた」

「……御愁傷様と言えば良いか?」

「私としては実務的な能力が半端なく高いから、普通に有り難いんだけどね。それに彼女と玉藻の短歌とか俳句は凄いわよ。素人の私でも感動しちゃった」

「それはまあ、そうであるが……朕にはできない所業だ」

 

 始皇帝は感心と呆れが入り混じった称賛を麻菜に送るのだった。

 

 

 


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