やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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少年は、伝説の狼と出会う。

 今でも鮮明に覚えている、その人達との出会いは、小学三年生の夏休みが始まって間もない七月末の、土曜日の近場の公園での事だった。

 

 夏休みの宿題の、自由研究のネタを探して歩いているうちに、行き着いその公園で、偶々遭遇してしまった同じクラスの四人の男子。 

 まぁ俺としては、全くもって会いたいとも思っていない連中なんだがな。

 

 その頃から、否それ以前からだが、俺は他者との距離感やコミュニケーションの取り方が下手で、オマケに目付きが悪く、その為になのだろうか、人から距離を置かれる様になっていた。

 

 子供ってやつは残酷な生き物だ、自分達と違う所があれば、ソレをネタに蔑み嘲笑し、やがてシカトされたり、物を隠されたり壊されたりする様になる。

 幼さ故に限度というものを知らないから、理性の箍が容易く外れその行為はエスカレートして行く。

 俺に対して行われる行為が、暴力へと発展して行くのにさして時間は掛からなかった。

 

 四人は俺を見つけるなり、ニヤリと嗜虐的な笑みをその顔に浮かべ、ゆっくりと俺の退路を断つ様に四方へと分かれながら俺に近づいてくる。 

 それに対して俺は……。

 

 俺の身に暴力が振るわれる様になって、既に久しく、俺の心はとっくに折れていて、だから俺は、逃げる事もせずに、これから始まるであろうソレを、凍てついた心で受け入れていた。

 

 

 そして始まる。いとも容易く行われるえげつない行為。

 

 あぉマジ、D4C。

 

 四人の同級生により行われる殴る、蹴るの暴行。

 ソレを受ける俺は、いい加減さっさと終わってくれないかな、あぁでもやっぱり痛いなぁ、とかそんな程度の気持ちでその時間が過ぎ去るのを待っていた。

 

 元来が臆病な性格の俺は、相手に反撃しようなどと云う気持ちは持ち合わせていなかった。

 始めのうちは「止めてくれよ」と懇願する事位はしていたんだが、連中がそんな事を聞き入れる事など有る筈も無く、奴等が飽きる迄、連中にとっての宴は奴等が飽きる迄続く。

 

 そして小3にして、連中のやり方は狡猾で、その攻撃は俺の肌の露出している部位には振るわれず、腹や背中にその攻撃は集中される。

 稀に顔にその攻撃があたる事も有り、顔を腫らしたりもしたんだが、もしソレをチクろうものなら更なる報復を受けるんじゃないかと考えてしまい、大人達には転んだとかぶつけたとか言い訳をしようと考えていた。

 実際は、先生は気付いてもくれなかったし、共働きの両親とは余り自宅で顔を会わす事が無く、気付いてもらう以前の問題だったけどな。

 

 だが唯一人、妹の小町だけはそれに気が付いてくれた。

 自宅で傷薬を付けている所を見られた事があり、悲しそうな、悲痛そうな表情で、薬を付けるのを手伝ってくれた事があったんだが。

 その治療後、小町は両親や先生に相談しようと提案してくれたんだが、その後の報復がもしかしたら小町にも及ぶんじゃあないかと思った俺は、小町に口止めした。

 

 『弱虫な兄ちゃんでゴメンな小町』と心の中で詫ながら、小町の頭を撫でて、不格好な作り笑いを浮かべて、大丈夫だとアピールする。

 

 どれ位の時間が経ったのだろうか、体感ではもう何十分も暴行を受けていた様な気もするが、実際にはほんの数分といった処だろう。

  

「あぁ、なんかコイツ殴んの飽きて来たなぁ」

 

 「だよなぁ、なんかつまんねぇよ反応うすいし」

 

 「コイツたしか妹居たよな、なんなら妹の方もやっちゃう?」

 

 「ソレ良いな!やっちゃおうぜ!」

 

 ふと気付くと交わされている奴らの会話、ソレが切っ掛けだったんだろう。 

 それが俺の中の何かを変えたんだ。 

 

 今まで、怖さと自分の弱さから、立ち向かう事を諦め、只事態を受け入れる事しか出来なかった状況。

 その状況を奴等の会話が動かした。

 

 小町をヤル……だと!

 

 コイツ等はそう言ったのか!!

 

 俺は初めて、身体を震わせながらその手に力を込めて、握り拳を作っていた。

 

 小町がお前等に何をした!!

 

 俺が弱いからか?

 

 俺の弱さがコイツ等を付け上がらせたのか!?

 

 この世でたった一人だけ、俺に笑顔を向けてくれる。

 共働きで帰りが遅い両親の代わりに俺が作った、拙い料理と言って良いのかよく分からない食事を、文句も言わず笑顔で「美味しいね」と言って食べてくれて、俺の手を握り笑顔で共に歩いてくれる、たった一人の妹。

 

 俺は身体を震わせ、唸り声を挙げながら、握り込んだ拳を持って奴等に反撃して行った!

 

 

 だが、所詮は多勢に無勢。

 俺の反撃は、ほんの僅かな時間で奴等に鎮圧された。

 ソレに怒った、奴等は更なる攻撃を俺に加えようとした。

 その時だった。

 

 

 「ヘイ!小僧共、よって集ってたった一人を甚振るなんざ男のヤルことじゃあねぇぜ!!」

 

 そう大きな声がして俺は、そして奴等もその声がした方向へと振り向くと、そこに居たのは。

 

 白いTシャツに、肩口で切られた袖の無い赤いジャンパーを着た、長身で均整の取れた逞しい身体付きの、赤い帽子、キャップを被った、長い金髪の外国人の若いイケメンの兄ちゃんだった。

 

 そしてその隣には、俺と同い年位の同じく外国人のこれまた将来は、間違いなくイケメンに成長するであるだろうと思わせる風貌の金髪の少年が、その手にカメラのような物を持って立っていた。

 

 金髪の兄ちゃんは、まるで威圧するかの様な厳しい表情を奴等に向け「見た所、お前等は普段からその坊主に対して暴力を振るっている様に見えたんでな、さっき迄のお前達の行動を撮影させてもらったぜ。」

 「コイツを然るべき所に提出したらお前等はタダじゃあ済まないだろうな。」

 

 ニヤリと不適に笑い、金髪の兄ちゃんは、奴等を一睨みしながらそう言った。

 俺は呆然とその事の成り行きを見ているだけだったんだが、奴等の表情はなんだかまるで、野生の獣に追い詰められたかの様な、絶望に満ちた様な表情を浮かべていた。

 

 俺には只、金髪の兄ちゃんが奴等を睨んで、叱っているだけの様に思っていたんだが。 

 これは後で知ったんだが、この時兄ちゃんは、奴等に対してほんの少しだけ闘気を放っていたんだ。

 まぁ普通の人間が闘気なんて物をまともに放たれたら、恐怖に駆られて腰を抜かしたり、或いは気絶したり、失禁したりしてもおかしくは無いだろうな。

 

 だから奴等が、兄ちゃんに恐れをなして前後不覚な様相で、その場から逃げ出したのは至極当然の事だよな。

 でもその時、そんな事を知らない俺はと言えば、漸く奴等の宴が終わったんだと思い、緊張が解けて、その場にヘタりこんだ。

  

 

 奴等が去った公園のベンチにすわらされ、俺は金髪の兄ちゃんに怪我の治療してもらった。

 兄ちゃんが、肩に掛けていた頭陀袋の中には、ちょっとしたした薬等が常備されていて、そのお陰で俺は治療をしてもらえたのだが、見ず知らずの人の手を煩わせてしまった事を、何だか申し訳無い気持を、若干ながら抱いていた。

 

 治療を終え俺たちはそのままベンチに座り、兄ちゃんが買ってくれたジュースを手に、暫し無言の時間を過ごす。

 元が社交性なんぞ持ち合わせていない俺は、初対面のしかも外国の人相手に何を話せば良いかなんて分かるはずも無く

、すっげえ気まずい思いを抱いていた。

 

 いったい、何を言えばいいのん?

 誰か何か言って!

 この沈黙、気まずいよぉ……。

 

 そんな事を思っていると、ゆっくりと金髪の兄ちゃんが話し掛けてきた。

 「…お前大したヤツだな、大勢を相手によ、自分の為じゃ無くて、誰かの為に闘ったんだろ!」

 

 俺は、ハッとして顔を上げて金髪の兄ちゃんの顔を見つめた。

 何でこの兄ちゃんは、知ってるんだ?

 

 「コマチってヤツの為に、闘ったんだろ!? …何だ、坊主お前気付いて無かったのか!お前大きな声で言ってたんだぜっ、コマチに手ぇ出したらお前等赦さねぇぞ!…てな。」

 

 全然気付いて無かった、俺はそんな事を言いながら奴等に殴り掛かって行ったのかよ…

 

 そっか、だからこの兄ちゃんは、俺が人の為に闘える人間だと評してくれたのか、けどそれは違う。

 

 「小町は妹だ………」

 

 小町は家族で、たった一人だけ俺の事をまともに見てくれる、相手をしてくれる。

 たった一人の存在で、だから俺のせいで小町が苦しむような事か有っちゃ駄目なんだ。

 

 だから今日、俺が奴らに立ち向かったのは、只の偶然。

 奴等が小町を標的にすると口に出したから、だから俺は思がけず我を忘れたんだと……

 

 「だから俺は……そんなもんじゃ無くて……」

 

 いつしか俺は何故か、これ迄の経緯をこの金髪の兄ちゃん話始めていた。

 たどたどしく語る俺の話を、兄ちゃんは静かに聞いてくれて、そして話終えると、兄ちゃんは俺の頭の上にそっと掌を置き、優しく撫でてくれた。

 その手は少しゴツくて、でもすっげぇ暖かくて、その手が優しく俺の頭を静かに動いて。

 見上げて見るとその表情は、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 どれ位振りだったのだろうか、人に優しくされたのは、こんな裏表の無い優しさを示されたのは。

 だから俺は、それに気付いたのかも知れない、否ちがうな、きっと誤魔化していたんだ、自分の心を、俺の心は限界が来ていたのかも知れないと。

 

 「俺、強くなりたいなぁ………」

 

 俺の口からはその言葉と、そして俺の眼からは涙が漏れ出していた。

 

 

 しばらくの間、俺の気持ちが落ち着くのを待っていてくれたのか、やがて少し俺の気持ちが落ち着いて来た事が解ったのか、兄ちゃんの掌は俺の頭から離れて行った。

 何だか少しだけ、俺はそれが名残惜しく感じてい事は俺の心の中にしまっておく事にした、だって恥ずかしいしな。

 

 

 「なぁ坊主、ちょっとばかり俺に付き合ってくれないか、なぁに悪い様にはしねぇからよ!」

 

 唐突に兄ちゃんは、俺に対してそう提案してきた。

 別に何か予定がある訳でも無いし、助けてもらった恩もある、だから少しくらい付き合っても構いはしないんだが、どうやら俺は何だか訝しげな表情をしていた様で、「ハハハッ!なぁに別に取って食おうって訳じゃねぇさ、ちょっとばかりお前に見て欲しいモノが有るんだよ坊主。」

 と付け加え、ニッと眩しい笑みを浮べて俺を見ている。

 

 あぁ、きっとこの兄ちゃんは、これから俺に何か、これから先の俺に対しての何か一つの道を示そうとしてくれているのかな、短い時間だけどこれ迄のこの金髪の兄ちゃんが、俺に示してくれたその行為は、信頼するに足るものだと俺にはそう思えていた。

 だけど俺って奴は、どうにも素直じゃ無くて、俺の口から兄ちゃんに対して紡がれた言葉は……

 

「……坊主じゃ無い…八幡だよ…」ポツリと呟き。

 「!?」

 

 「俺の名前、比企谷八幡だよ、坊主じゃ無い…」まるで照れ隠しの様な、ぶっきらぼうな態度で、自己紹介をした。

 

 「ヒキギャ…ハチマン!?」

 

 どうやら、比企谷という姓は外国の人には発音が、し辛い様だ。

 

 「悪いな、上手く発音出来ないみたいだな、ハハハッ……ハチマン、ハチマンだな!」

 

 発音を確認する様に、俺の名を呟きそして。

 

 「俺は、テリーだ!テリー・ボガードってんだ、宜しくなハチマン!」

 

 金髪の兄ちゃんは、俺に自分の名を教えてくれた。

 そして……

 

 「こいつはロックだ、ロック・ハワード、訳あって俺が面倒見ているんだが、日本語はまだ話せなくてな、でもまぁ、こいつの事も宜しくしてやってくれよなハチマン!」

 

 金髪の兄ちゃん、テリー兄ちゃんと俺と同い年位の金髪の少年ロック、それが二人との出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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