やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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二人の決着を目前に昔話は再び。

 Jrの巨体に似合わぬ小技連打から必殺技へと繋ぐ強烈なコンビネーションにより、材木座は強かにマットへと叩き付けられた。

 中段へと打ち込むパンチと冗談からの打ち下ろしの二連撃、親父さん譲りの豪快な必殺技ダブルコングにより、マットの上を数度バウンドし材木座は小さな呻きを漏らす。

 

 「ぐふぉッ……はぁ、はぁ……うぐぅっ、ゲホッ…はぁ、はぁ……」

 

 蹲り痛みとダメージに咳き込む材木座は少しでもその痛みとダメージから逃れようと荒い呼吸を不規則に繰り返す。

 そして材木座を叩き伏せたJrもまた材木座から受けた技によりかなりの体力を消耗している様で、材木座程では無いものの乱れた息を調えている。

 

 「フゥ、ハァー、フゥ………。」

 

 吸って吐く、それを幾度か繰り返し落ち着いた頃合いを見図りJrは、材木座へとグローブを着けた右手を向けて挑発する様に叫んだ。

 

 「ダァーーーーーッ、Heーy!Come On! Stand Up!!ケンゴーッ!!」

 

 まだ終わりじゃ無いだろう、立って続きをやろうぜとJrは材木座にそう呼び掛け大声で叫ぶ。

 そして材木座もまたJrのその思いに応えるつもりの様で、乱れた呼吸を調えつつ静かに立ち上がろうとしている。

 

 「まじ?アイツ、E組の何とかってヤツじゃん、アイツもヒキオや川崎みたいに格闘技やってたん?」

 

 「うん、そうみたいだね……スゴイねザザ君。」

 

 「べーっ、マジかーっあんなの食らってまだ立とうとしてるっしょ、マジリスペクトだわぁ……」

 

 あーしさんと腐女子さんそして戸部もリング上の二人、殊に同じ学校の同級生が闘い熱いガッツを見せる姿に感じ入る物があるんだろう、かく言う俺もそうだからな。

 普段共に組手等の鍛錬を共に行っている材木座が、実戦になると縮こまってしまい手を出せなくなっていた材木座が、今熱い思いを胸に闘っていやがるんだもんな。

 

 「はぁ、はぁ……くっ、ゆっ、征くぞぉッJrッ、拳豪将軍材木座義輝推して参る!」

 

 少しふらつきながらも立ち上がった材木座は、もう完全には回復しない体力を気力でカバーし鼓舞する様に大声を張り上げてJrへと向けて前進を始める。

 

 「ハァ、ハァ、フゥ……Nice Fighting Spirits ダッぜ、ケンゴーッ!」

 

 Jrも材木座の闘志を讃えると打ち合う為に前進する、材木座よりも若干の体力的なアドバンテージはある様だがJrもそれなりに消耗してるし。

 此処は日本で周りは日本人ばかり、所謂判官贔屓が多い日本人の気質もあるのかもだが、観戦者達からの声援の多くは材木座に対してのものだ。

 その中でこれだけの、親父さんから受け継ぎそして己で磨き上げただろう力を引っ提げ異国の地を訪れ闘うJrに、柄にも無く俺は今敬意を抱いてる。

 

 「……こりゃあどっちに転んでもおかしくは無いな。」

 

 「だね、アタシもそう思うよ。」

 

 誰かに同意を求めるでは無く、ただ俺の口から漏れ出た言葉に川崎が同感の意を示し、そして坂崎のご隠居も無言ながらも頷き同意する。

 

 「これが……格闘家の、俺と同世代の高校生の闘いなのか……これが……。」

 

 残り少ない気力と体力を振り絞り、なおも衰え無い闘志をその身に宿す二人の姿に葉山は圧倒されたんだろう、驚愕にその目を見開き声を震わせてボソリと呟いた。

 

 「フンッ、ガァーーーッ!」

 

 「何のぉッ!」

 

 まぁ何てか、もしかしてだが俺や材木座は他者からの印象としてある種陰キャ的に思われてるんじゃなかろうかと、俺は自己分析しているんだが(いやもしかしたら俺は雪乃や結衣にくっついている忌々しいお邪魔虫的に捉えられてるかも知れんけど)俺の事は兎も角葉山にしても材木座の事なんかはそう思っていたのかも知れないが、いやよくは知らんけどその陰キャが(多分)意外な事にこれだけの格闘能力を見せたんだからその衝撃たるやだ。

 

 「ああ、Jrと材木座のヤツが長い年月を掛けて学びそして研鑽してきた成果だよ、これがな。」

 

 「……………っ」

 

 葉山の漏らした言葉に俺は返答をしてみる、葉山がそれを求めていたかは知らんけども。

 俺のそれに葉山は何とも苦虫を噛み潰したって形容が当てはまりそうな、いやちょっと違うかもだがエスパーでもニュータイプでも無い俺に人の心を読む事は出来る筈もないから、それが正しいのかどうだか解らないがまぁそんな感じだろうと思っとく。

 

 「もしかしてだが葉山、お前自分も格闘技をとか強い力を得ればとか、そんな事を考えてたりするのか?」

 

 「力なんてものは余程の例外を除きゃぁ一朝一夕簡単に身に付くもんじゃ無いんだよ、格闘家は誰もが皆長い年月を掛け目標を持って鍛練に励み続けるんだ。

 格闘家を志した理由は人それぞれあるだろうさ、誰かに憧れたとか自分が世界最強になりたいとか復讐の為とか色々とな。

 いや、別にお前が何を考えているかとか何を思っているかとかどうでも良いからこれ以上は俺は何も言わないがな。」

 

 そう、たとえば葉山が格闘家を志そうがどうしようがな、だが間違った事はやってほしくは無いがな。

 それこそ力に溺れて我を見失うとか、さっき坂崎のご隠居が語ってくれたリュウさんの流派の殺意の波動とか、まあ豪鬼って人が今でもその力に溺れてるかは知らんし、もしかしたら今ではその力をコントロール出来てるかもだけど。

 

 「ダァーッ、StepAxs!」

 

 「ゆくぞ喰らえぃッ!サイキョー蹴りィィ!」

 

 Jrのダッシュからの強力な右ストーレトと材木座の上段回し蹴りがぶつかり合い、二人共に体勢を崩し互いに弾き飛ばされるが、気合で踏ん張る。

 

 「ぬぅーーっ……波動拳!」

 

 「ウォッ!?Shiィィtッ!」

 

いち早く体勢を立て直した材木座が速攻で波動拳を放ち、遂にそれはJrの胸部へと着弾するが気合の声を発し片膝は着いたものの、Jrはそれに耐えて立ち上がる。

 

 「見事だJrよ、ならばこれはどうだっ!!晃ォー龍ゥ拳!」

 

 材木座は言うが早いか速攻でJrへと接近し内懐へと潜り込み、リュウさんの昇龍拳やロバート師範の龍牙と似た技、晃龍拳を放つ。

 

 「フンッ!!」

 

 「なぬッ!?」

 

 しかしそれはJrが上体をスウェーし反らすことで回避に成功、材木座は空中で無防備な状態となってしまう。

 

 「PowerBIcycゥ!!」

 

 「うおっ!?ぐぁーっ!」

 

 其処へ繰り出されたJrの高く大きく振り上げた蹴りが材木座を捉え、その威力に材木座が大きく吹き飛ばされる。

 しかし材木座も晃龍拳が不発した段階で反撃を受ける事は予測していたのか、吹き飛ばされながらも受け身を取る事に成功し、ダーメジは最小限に止められた様だ。

 

 「くっ、っつぅ………はぁ、はぁ…」

 

 「ぜハァーっ、ハァ、ハァ……」

 

 攻撃を当てたJrもそれを食らってしまい立ち上がろうとする材木座も、互いにかなりの体力を消耗した事が手に取る様に理解出来る。

 二人共に呼吸が乱れていて中々それが調わない、こりゃもう謂わば満身創痍的な感じってところだろうかな、だとするとおそらく。

 

 「この勝負、二人共先はもう長くは無いであろう、おそらくは次の行動によって決着を見る筈じゃ。」

 

 俺達がそう感じていた事を坂崎のご隠居が敢えて言語化してくれる、それは葉山をはじめとするこの場に居る格闘家以外の者達への配慮なのかは知らんけど。

 

 「あのご隠居、話を蒸し返すようです申し訳ないんですけどいいでしょうか、先程ご隠居が話された春日野先生と縁のある流派の方々の……剛拳と言う方とはそれっきりお会い出来ていないって事ですけど。

 もう一人の、豪鬼という人とはどうなったんですか以前に見た事があるんですけど、ご隠居の左胸にある大きな傷痕はもしかしてその人との闘いによる拠るものなんですか。」

 

 坂崎のご隠居の言に続けて川崎が先の過去の話についての、ご隠居のその後の事や豪鬼さんの事を尋ねる。

 確かにそれは俺も聞きたいとは思うし話してもらえるのなら是非お聞かせ願いたい、しかし何故川崎はこの話題を今この時に尋ねたのかって事だよな、何故だろうか。 

 

 「……スッ、スッ、ハァー……スッ、スッ、ハァー……フッ。」

 

 「……ハッ、ハッ、フーッ……ハッ、ハッ、フーッ……ハッ、ハッ……」

 

 リングの上では材木座も立ち上がり息を調えようと吸って吐いてを繰り返しながらも闘志も露わに相手たるJrを見据えて対峙する、そしてJrもまた。

 リズミカルにそして小刻みに刻まれていたステップも今はもう失われかけている二人だが、気力はまだ途切れてはいない様だな。

 そんなリング上の二人と、リング下の川崎と坂崎のご隠居の二人にチラチラと周りの幾人かは視線を移しつつ見守る。

 そして当の、この話題を振った川崎はチラッと葉山へと向けていて、そこで俺は合点が行った。

 要するに川崎は、葉山の事は多分よく知りはしないんだろうけど、なにせ川崎は学校では孤高ってかボッチってかあまり人とつるまないし、興味の無い奴にはトコトン興味を持たないって感じか。

 それでもこの数分間の間に葉山が何かしら、力とか格闘技とかに興味を抱いているって事に思い当たったんだろうな。

 もしそれが、葉山が安易な思いであったのならそれこそ力に溺れて取り返しの付かない事をしでかすかも知れない、だから川崎は葉山に対して格闘技の怖い面や負の面をご隠居の過去の事柄から知らしめてもらいたいと思ったのかも知れんな。

 

 「ふむ……そうだな、確かにワシは豪鬼によって胸部肋骨を折られはしたがこの身に残った傷跡自体はその後に相対した別の者との手合わせによって負ったものでな。」

 

 坂崎のご隠居は再び語り始めた、それは若き日のご隠居が剛拳さんと袂を分かってから幾年かが過ぎ去り、ご隠居が研鑽の末に極限流空手も完成に近づいていた頃の事だったそうだ。

 

 「海を渡りアメリカを訪れたワシは其処で一人の中国拳法の遣い手と出会ったのだ。」

 

 その人の名は『リー・ガクスウ』師、年齢は坂崎のご隠居よりも四十以上も歳上だったそうで、二人が出会った当初既にガクスウ師は六十を超える高齢で在ったにもかかわらずその動作は二十代の坂崎のご隠居に引けを取るどころか圧倒される場面もあったとの事だ。

 

 「何せあの男は齢九十を超えてなお、サウスタウン刑務所の主事を勤めておったからな。」

 

 「なっ、マジっすか………。」

 

 「うむ、あの者は中国拳法と漢方医学を極めておったしな、それもあってか齢を重ねようともその実力に衰えは見えなかった、本当に大したものよ。」

 

 世の中には恐ろしい(おっそろしい)人も居るもんだと、ご隠居の話を聞いて改めて俺は思った訳だが、でも確かにテリー兄ちゃんのお師匠さまのタン老師や十平衛先生だって八十超えた今でも弟子を抱えてたり、元気にセクハラ行為に及んでいたりするし爺様連中凄えな……ってセクハラは駄目だろうどう考えても。

 まぁ十平衛先生のセクハラ行為に付いては取り敢えず放置して、若き日のご隠居とガクスウ師はサウスタウンにて対戦し遂にその決着は見る事は無かったそうだ。

 しかしその二人の熱くハイレベルな攻防はそれを観た者達に圧倒的な印象を残し、やがて誰からとなく坂崎のご隠居には『無敵の龍』と、そしてガクスウ師には『最強の虎』の呼び名が贈られたのだそうだ。

 その時こそが元祖にして初代無敵の龍と最強の虎の誕生、これはその逸話だった。

 

 「であるからこの身の古傷は豪鬼とガクスウ、その強大な二人の敵手の手に依って着けられたモノなのだ。」

 

 凄い、全くもって凄い話を聴けたものだと心から思うし、何てか坂崎のご隠居とリュウさん達の流派との関わりやガクスウ師との逸話に身震い、いや俺が闘った訳でもないのに武者震いしそうだ。

 

 「沙希坊は極限流の真髄、奥技とは何かを知っておるかな?」

 

 ガクスウ師との出会いと闘いの経緯を語った後坂崎のご隠居は唐突にその様な質問を川崎に投げ掛けた、それを受けた川崎は下顎にそのしなやかでありながらも長年の修練によって少し拳ダコの出来た手を当てごく僅かな時間黙考し。

 

 「極限流の真髄それは限界を超えた極の精神と肉体と技に在り、そしてその極限を超えた先にある闘争心により発現する闘気こそが極限流奥技発動の要、其処には至る事が出来て初めて放つ事が叶う物が覇王翔吼拳であり龍虎乱舞だと学びました。」

 

 真剣な面持ちと声音をもって川崎は坂崎のご隠居へ返答し、坂崎のご隠居もその川崎の答に対して首を縦に振るが。

 

 「うむ、だがそれは我が極限流に於ける、そうじゃな言わば目指すべき最初の段階の到達点であり通過点でもある。」

 

 「……最初の到達点で通過点……。」

 

 川崎は坂崎のご隠居のその言葉を胸に刻み込む様に繰り返す、それを見つめ坂崎のご隠居は語ってくれた。

 若き日のご隠居は己の流派となる極限流空手の完成を目指すと同時に、あの日相対した殺意の波動と再び出会った時の対抗手段を模索していたそうだ。

 日々の鍛錬の中で徐々にその強さを増してゆくご隠居、そんな頃にアメリカへ渡り出会ったのがガクスウ師であり、その実力は初めて相対した時の殺意の波動に翻弄されていた豪鬼さんにも引けを取らなかったと。

 

 「ワシは正直に驚愕の思いであった、よもや剛拳殿やあの殺意の波動の一端を開いた豪鬼にも匹敵する者が居ったとはな、あれからも日々の鍛錬を積みワシも当時よりも遥かに力を増しておったが、それでもガクスウは僅かながらワシを上回って居った。」

 

 ガクスウ師に一歩先を行かれ手傷を負った坂崎のご隠居は、己の敗北を覚悟し始めたその時。

 

 「その時ワシの精神(こころ)はそれまで抱いていた筈の闘争心が鎮まり、心穏やかにそしてやがて白き光に包まれたかの様な、心境へと到達したのだ。

 それはまるでワシの精神と肉体とが天然自然(てんねんじねん)と一体化したのではないかと後にして思った物だ。」

 

 「あの時にワシが至った境地こそが明鏡止水、或いは無我の境地であろうか。

 そしてワシの身体は意識するでも無く構えを取り覇王翔吼拳をいや覇王至高拳を放っておったのだ。」

 

 そして覇王至高拳を受けてガクスウ師は地に膝を付き立ち上がる事適わず、坂崎のご隠居もまた力尽き膝を付いたのだそうだ。

 

 「その時初めて我が極限流は完成を見たと言っても差し支えなかろう、その境地に至り放たれた技こそが究極覇王至高拳であり真の龍虎乱舞なのだ、そして其れこそが殺意の波動へと対抗出来うる高みなのだ。」

 

 坂崎のご隠居は静かにしかし厳かさを感じる声音でその様に語り、そこに春日野先生が付け加える様に言った。

 

 「なる程、かつて私が出会った時の剛拳さんも殺意の波動を封じる技を会得していました、その技を、その波動を剛拳さんは無の波動と言っていましたよ、案外坂崎の言う無我の境地と剛拳さんの無の波動は近しいものなのかもですね。」

 

 春日野先生の言葉に坂崎のご隠居はよく比喩表現として言い表されるまるで雷に撃たれた様な表情ってやつ、その表現が当てはまりそうな顔で「なんと…剛拳殿もその様な……」と。

 しかし、直ぐに坂崎のご隠居はそこから平常へと戻ると、ちょっとばかりアレな事を言い放った。

 

 「しかしなその境地、おいそれと到れるものでは無い、かく言うワシも実戦に於いてその境地へ至ったのは両手の数で数えられるほどの回数よ。

 それにワシはその後極限流の力を欲する裏社会の者共に妻を殺害され復讐に身を焦がし残された子を顧みず父親としても人としても碌でもない生活を送り折角身に付けた力も無為な物と堕してしまったのだ…」

 

 奥さんを殺害され坂崎のご隠居のその後の事は少しばかりユリさんやロバート師範に聞いた事がある、確かにあれはろくでなしと呼ばれても仕方無かろうだ、いくら犯人の裏社会の相手を見つけ出す為とはいえ、見つける事の出来無い犯人を探す日々に膿んでいたとはいえ、その裏社会と関係を持ち博打に身を崩して、あまつさえテリー兄ちゃんとアンディ兄ちゃんの義父(おやじ)さんのジェフ・ボガードさん暗殺の片棒を担がされそうになったりと、どんだけなんだよ坂崎のご隠居ェ………。

 

 「力の使い方を過てばろくな事にはならぬ、まさにワシの人生がそれを体現しておるわ。」

 

 坂崎のご隠居はサラリとそんな事を言ってのける、てかその時にご隠居とサカザキ総帥やロバート師範はそうとは知らずに対峙したんだよな、そう考えりゃあよく赦したもんだよサカザキ総帥もユリさんも、そんな言っちゃ悪いけどク○オヤジだよ。

 

 「そして此処が肝心なのだが、二十年程前の事だが、豪鬼の奴めがワシの前に現れよった……しかし当時のワシは長き年月の激戦と乱れた生活が仇となり格闘者としての力を失っておった。

 そんなワシを豪鬼は闘うに値せずそう判断したのであろう、何もせずに去っていったわ。

 其処には落胆の思いもあったのやも知れんな、しかし彼奴(あやつ)めさり際に言いよったわ。」

 

 日本の南アルプスの山中の秘境に秘して伝わる秘湯が在ると、その秘湯は傷を癒やし回復させる事のできる効能があると、当然クレージーダ○ヤモンドの様に完全に治すって事は無いんだろうがな。

 その言葉を真実と受け取った坂崎のご隠居はその秘湯を探し当て、其処で不定期的ながらも幾度も脚を運び数日間の湯治を行い、少しずつだが坂崎のご隠居の心身は回復して行ったとの事だ。

 全盛期の力程では無いにせよ、坂崎のご隠居はその力を取り戻す事が出来、既に総帥の座をサカザキ総帥に譲っていた事もあり、その補佐として後進の育成に当たり始めたそうだ。

 その頃、サカザキ総帥やロバート師範を始めとする門下の腕利き達が名を轟かせていた事もあり、極限流は規模を拡大し各国に世界進出して行く。

 そして日本に進出ってか凱旋ってか、日本道場も開設し其処で坂崎のご隠居は川崎姉弟と出会い、その才能に惚れ込み適性のあったロバート師範のスタイルを伝授したって訳だ、無論川崎はロバート師範を師匠と呼んでいる事からもロバート師範がメインとして川崎の指導に当たったのだろうけど。

 

 俺達が坂崎のご隠居の昔語りを聞いている一方でリング上の二人は共に、最後の攻めのタイミングを覗っているのか睨み合いを続けて入る、そんな中で雪乃が俺に要望を告げる。

 

 「八幡君……どうか貴方はそんな風にならないで。」

 

 「うん、そんなハッチン嫌だな…あたしは今のちょっと……な所もあるけど優しいハッチンが良いな。」

 

 「ですね、でもでももしはちくんがそんな事になったなら私達で正気に引き戻してあげますからね。」

 

 続けて結衣といろはからも、まぁ彼女達の反応も致し方無しだよな、坂崎のご隠居の身を崩した辺りの話は其れだけ女性陣には受け入れ難い物だろうな。

 

 「おっ、おう…まぁその鋭意奮闘努力致します。」

 

 俺は彼女達にそう答えておいた、多分これが今の俺にとって最も無難な答えだろうと………。

 

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