やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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やはり入学式の日に無傷で犬を助けるのは間違っている。

 

 あの地獄の如き、卒業祝いの連荘組手とそのダメージによる痛みに苦しんだ春の休暇を終え、本日より私事比企谷八幡は晴れて市立総武高校へと入学する事と相成りました。

 

 とまぁ高校入学に当たっての挨拶はこの辺で良いだろう、と云うより俺は一体誰に対して挨拶しているんだよ。

 

 高校生に成ったからと言っても俺のやる事には何ら変わりはない。

 朝、目が覚めたらストレッチで身体をほぐし、ロードワークの10kmランニング、それが終わり帰宅後は筋トレを熟した後に、庭に設置してある、親父が買ってくれたウォーターバッグを叩く。

 

 これが朝のメニューだ、一通りのメニューを終えは俺は「ふぅ〜っ……はぁ〜っ」と呼吸法により「気」を練る。

 

 繰り返しの呼吸により、体内の気が高まってゆくのを感じる。

 高めた気のエネルギーを右の拳に集約してゆく、良しと意を決し構えを取る。

 

 「パワーァゲイザーッ!」

 

 掛け声と共に拳を庭の地面に叩きつける、俺の練った内気と大地を巡る気が合わさり、溢れ出たエネルギーが激しく空へと立ち昇る。

 

 

 

 

 のだが、本来は……………。

 

 

 パワーゲイザーのフォームはその拳を地に叩きつける為に、しゃがみ込む姿勢になる、なので目線が若干下方を向く、更に技を出した後は立ち上がるのだが。

 

 「…なぁ小町、どうだった今の?」

 

 立ち上がりながら、それを見ていた小町に俺のパワーゲイザーの出来栄えについて尋ねる。

 

 「…あ〜、駄目駄目だね、テリーお兄ちゃんのパワーゲイザーの3分の1位しか出てなかったよ。」

 

 小町の率直な指摘に、ハートがブレイクしそうになる八幡君十五歳。

 だがまぁそう言われてしまうのも仕方無い、俺のパワーゲイザーはまだ未完成品だからな。

 

 「…そうでしゅか、その程度じゃせいぜいラウンドウェイブの超強化版位の威力しかないよなぁ。」

 

 哀しさの余り思わず少し噛んでしまった。

 パワーウェイブをマスターして以降、中学に入学してから、更に気を練る鍛錬に身を入れ、それに比して気力も上がって行った事もあり、2年程前から俺は憧れの技であるパワーゲイザーをマスターすべく、毎日の様にこうして朝から練習しているのだが、完成への道程は未だ遠い。

 

 クズマさんとこの頭のおかしな紅魔の娘の一日一爆裂よろしく、トレーニングの締めに壱ゲイザーしている訳だ。

 尤も爆裂娘はその日の出来如何で「ナイス爆裂!」と評して貰っているが、俺は未だ「ナイスゲイザー!」とは言って貰えない。

 

 ベッ、別にくや……いいやもう。

 

 「八幡、小町朝食の用意出来てるから早く食べなさい。」

 

 キッチンに居る母ちゃんの声が庭まで聞こえて来る、サンキューな母ちゃん。

 

 「分かった、シャワー浴びたら食うからちょっと待っててな。」

 

 「小町は先に食っててくれよ、後で行くから。」

 

 母ちゃんに返事をし小町に声を掛けると、「アイアイサー!」とあざとく敬礼をして食卓へ向かう小町、くっ!今日も可愛いじゃねぇかコンニャロ。

 

 

 

 シャワーを浴び朝飯を食い終え、俺は母ちゃんと二人食器の片付けをしながらも、母ちゃんに言わなければと思っていた事を話した。

 

 「なぁ母ちゃん、何も無理して入学式に来てくれなくても良いんだよ、疲れんだろ?」

 

 俺のその発言にやれやれとばかりに、一つ溜息を付き俺に答える。

 

 「アンタは全く、母さんが行かないで誰があんたの入学写真を撮るのよ。」

 

 「イヤイヤ無理して撮らなくて良いって、魂を吸い取られるかも知れないじゃん。」

 

 正直、入学式に来てくれると言う母ちゃんの気持ちは有り難いんだが、何だか思春期真っ只中の俺としては、母親に入学式に来られるのがものすっごい恥ずかしくて、何とか来させない様にと誘導工作するものの。

 

 「アンタは幕末の人間か!良い八幡、今日は母さんアンタの入学式に行く為に有給取ったんだからね、母さんだって楽しみにしてたんだから、それにテリーさん達に入学写真見せるって約束してんのよ、アンタはその約束を破れって言うの!?」

 

 うっ!痛いとこを突いて来るじゃあねぇか、母ちゃんよ、兄貴達の名前を出されると弱いんだよなぁ。

 これ以上の反論は無駄だと悟りましたよ俺、ええ悟りましたとも。

 

 「それよりもう八幡、アンタ今日は下見がてら早く家を出るんじゃ無かったの、もう結構な時間じゃない?」

、もう結構な時間じゃない?!」

 

 確かに時計を確認するともういい時間だ、急いで支度を済ませ行くことにしよう。

 

 「そうだな、ほんじゃあ着替えて先行くわ。」

 

 母ちゃんに断りを入れ、学校へ行く準備の為キッチンを離れ、自室で制服へ着替えて学校へ行く。

 

 俺は学校へは自転車通学をするつもりだったんだが、それを知ったジョーあんちゃんが、入学祝いだと言って自転車をくれたんだが、その自転車が問題有り有りだ。

 随所にジョーあんちゃんによる魔改造が施されたそれは車体重量が50kgを超え(フレーム部分に溶接により金属プレートや鉛板を取り付けている)タイヤは26インチの極太を履かせブレーキはディスク式、本来は後部に荷台は付いていない使用だったのを、自分で溶接して取り付けている。

 まぁ其処までは良しとしよう、問題はギアだ、ギア比とか詳しい事は知らないがベダルが半端なく重く、しかも変速ギアは付けていない。

 上り坂はメチャ苦労しそうだ、全くとんだドM仕様だぜ。

 

 『ナ〜ハハハッ、通学も修行の時間だと思ってコイツで通えよ八幡!』

 

 高笑いしながらジョーあんちゃんは、ほざいてくれやがった、しかしこの自転車ジョーあんちゃんが自分で改造してんだよな、あのオッサン随分とまた器用だなおい。

 

 ドM号(仮)に乗って学校への道程をひた走る、新たな希望に萌える心のワクワクを抑えながら。

 なんて気分は無い、重いベダルを漕ぐ為に脚に力を集中、5分も漕いでいると既に汗が浮き出ている。

 

 「はぁ、はぁ〜…此れから毎日これなのかよ、はぁはぁ…かなりキツイなこりゃ…平坦場は良いけど、上り勾配は地獄だ…。」

 

 しかし車体重量に加え俺の体重だ、こりゃ相当タイヤに負担が掛かるな、更にブレーキもこの重量を止めるとなったらパッドとディスクも相当すり減るぞ、もう一個オマケにチェーンとスプロケットも普通のチャリンコよりも太いの付けてるし交換の時大変だぞ、多分コイツ相当コスパ悪いぞ。

 財布に対してまでドM仕様かよ。

 

 

 しかし今日はかなり早く家を出たんだが、意外と人の通りが多いな。

 通勤のサラリーマンにOL、ジャージやユニホーム姿の部活生か、それにジョガーや犬の散歩をしている人も割と居るな。

 てか、小さな犬に引っ張られている女子、あれきちんと躾けてないな。

 

 「サブレ待って、そんなに走んないでってばぁ!」

 

 おいおい、早朝とは云え全く車の通りが無い訳じゃ無いんだ、もし車道にでも飛び出したらどうすんだよ。

 

 「待ってよサブっ!あっ!!」

 

 あいつ力負けした挙げ句にリード離しやがった、ヤバいんじゃないかこれ。

 俺がそう思って見ていると、案の定と言うべきかその犬は車道へと飛び出た。

 

 「駄目ぇサブレ!戻ってぇ!!」

 

 その飼い主の女子の声に反応したのか犬は車道で立ち止まって振り向いた、バカヤロー其処は不味いだろうが!

 黒塗りのデカイ車がその犬の方へと向って来ている、運転手も気が付いたのかブレーキは掛けている様だが!?

 

 「嫌あーっ!サブレーっ!」

 

 「チイッ!!」

 

 その女子の絶叫と同時に俺は、ダクネス号(仮)から乱暴に降りそのまま放置、犬へと向かい走った、名前の通りなら放置プレイも本望だよな。

 

 しかし間に合うか!?車と犬との距離は刻々と近づく、クソッ間に合え、間に合え、間に合えぇッ!

 

 コンペイトウでの核ミサイル発射を阻止すべくGP−01Fbを駆り、アナベル・ガトーのGP−02サイサリスの元へと駆けるコウ・ウラキの如く、俺は犬の元へと駆ける。

 

 だがこのままじゃあ、どうする!?

 

 甲高く響くブレーキ音が、心を逸らせる。

 やるしか無い、俺は瞬間的に体内の気を高め、そして。

 

 「斬影拳ッ!!」

 

 アンディ兄ちゃん直伝の超高速突進打撃技、斬影拳で俺は犬へと近づく。

 この技は比較的、技を出した後の硬直が短いので次の動作へ移り易いという利点がある。

 良し、お陰で何とか車より早く犬の居る場所まで来れた、だがしかし車はもう目の前だ。

 

 素早く体勢を戻した俺はアスファルトを軽く蹴ると、上体を下方へ向け倒し込み、逆に脚を空へと向けて上げる。

 所謂逆立ちの様な状態になりながら、犬の身体を片手で掴む、掴んだ犬を胸元へと抱きながら叫ぶ。

 

 「ライジングタックル!」

 

 片手は胸元で犬を抱き、もう片方の腕は水平に伸ばす。片脚は垂直にまっすぐ伸ばして、片脚は軽く膝を曲げる。

 その状態で錐揉み回転をしながら、空へと翔けあがる。

 

 良しギリギリだが車は躱せた、と思ったんだが、しくじったか?伸ばした方の腕の拳が車と接触しゴツンと音がした。

 

 くっ!だが大丈夫だ。

 

 ライジングタックルは上昇中は無敵時間が有る!

 

 だから俺に怪我は無い、だがヤバイぞ車の方はどうなった?

 あの車相当高いよな、無傷で有ってくれれば良いけど。

 

 俺の身体が上止点へ到達する頃には、車は既に俺から数メートル離れている。

 やがて重力に従い俺の身体は降下に移る。

 車の方も更に数メートル先で停車した様だな、それを確認しながら俺は着地した。

 

 

 

 車の運転席のドアを開け、ドライバーの初老の男性が降りて俺の方へと、駆け足で近づいてくる。

 やっべー、どうしよう車壊してしまったかな、弁償となるとどんだけ掛かんのかな。 

 

 「申し訳ありません、お怪我はありませんか?」

 

 俺がとりとめもなく弁済の事を気に掛ける中、初老のドライバーさんは優しく俺の身を気遣ってくれた。

 ヤバこの人すげえ良い人だ、老紳士且つ有能な執事って感じだな、そういう人には相応の対応をしないとな。

 

 「あっ、いいえ、自分の方こそ突然飛び出したりしてすいませんでした。」

 

 俺は背筋をしっかり伸ばしてから、45度の角度でお辞儀をして敬意を表しつつ詫びた。

 

 「あの、自分は大丈夫です、怪我一つありませんから心配は御

 無用です、それよりもそちらの車の方は壊れたりしていませんか。」

 

 車と接触した右手を挙げて、グーパーをしてみせて怪我が無いとアピールしてみせてから、車の状態について伺う。 

 

 「いえ、車の事よりも貴方の御身体の状態の方をこそを第一にと考慮すべき事です、救急車を呼びますか。」

 

 俺の身を案じてくれている老紳士、正直無用の心配です。

 

 「常日頃から鍛えていますので平気です。」

  

 もう一度アピールするが、老紳士は尚も俺を気遣う、こいつは埒が明かない。

 そう、思いアプローチを変えてみる。

 

 「分かりました、自分としては何の問題も無いと思いますが、もしもと云う事も有るかも知れませんので、お互い連絡先を交換すると云う事でどうでしょうか。

失礼ながら何か急ぎの用が有るとお見受けしましたが」 

 

 「此方の事情にまで配慮して頂けるとは、若さに似合わぬ貴方の見識には痛み入ります。」

 

 イヤイヤ、俺としては面倒事をさっさと終わらせたいだけなんです、とは馬鹿正直言えないなが、此れは何だか良い感触じゃね!?

 よっしゃあ、面倒事回避だぜぃ!

 

 「貴方の提案通り、連絡先の交換をする事に私に否はございません。」

 

 そうです、そうしましょう、それがお互いの為です。

 

 「ですが、此れは紛れも無い事故でありますので、私共の主への報告と警察への連絡は義務で有りますれば、誠に申し訳有りませんが、今暫くお付き合い願います。」 

 

 深々とお辞儀をして、老紳士が仰る、ですよね〜っ。

 

 老紳士は警察と雇い主へ連絡を入れる為、俺の側を離れ車の方へ歩いて行く。

 結局は俺も、このまま警察の到着を待たなきゃいけない訳だ。

 さてどうするか……。

 

 「ワン、ワンっ!」

 

 俺の腕の中の犬がむずがりながら吠えた、あっ!犬の事すっかり忘れてたわ、

しかしコイツ今迄大人しくしていたのにな、話が終わった途端に吠えたぞ、もしかしてコイツ空気が読めるのか。

 躾けなって無いのに凄えな、まともに躾けたらコイツ相当賢いんじゃねえの。

 なんて名前だっけ…確か…サプリって言ってた様な…。

 生き残ったら余生は健康に留意するのかな。

  

 アムリッツア会戦。

 

 おっと、そういや飼い主の事も忘れてたわ、八幡ったらうっかりさんね。

 ほんで、飼い主の女子は、あら歩道にへたり込んでいやがりました。

 

 しゃあない、犬を返してやらないといけないしな、俺は飼い主の元へ歩いて行く。

 しかしいつ迄呆けて居るんだこの飼い主は。

 

 「ほれ、お前の犬無事だからな。」

 

 俺はしゃがみ込んで飼い主に犬を手渡した、お〜い正気に戻れよ。

 犬を受け取った飼い主は微かに身体を震わすと、その眼に少しだけ正気の色が戻り始めているのが見て取れた。

 緩やかに顔を上げ、飼い主の視線は俺の顔へと向けられた。

 あれ、コイツは、ちょい地味目な感じだが顔立ちは童顔で眼はパッチリとしているし、正気に戻ればかなり可愛いんじゃねえか!?

 

 「あっ…あ、あり…あり…。」

 

 幾分か正気を取り戻した様だな、喋ろうとしてるし、だが、何だよありありって。

 

 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリッ!

 

 ブチャラティなのん?

 

 「うっ、ひっく、ふぇっ、あり、ありがとう…ふぇ〜ん」

 

 アチャー、泣かれちまったよおい!

 

 どうするどうなる比企谷八幡、まぁ礼を言ってくれてるし、悪感情を持たれている訳じゃ無いだろう。

 でもな、俺は女子に免疫無いからな、こういう時の対処法が。

 

 「おっ、おい泣くにゃって、犬も怪我一つ無いからよ。」

 

 嗚呼もう、此処で噛むかよ俺の馬鹿。

 

 「…だって、だってぇ、サブレが、サブレがぁ、ふぇ〜ん………。」

 

 イヤ、サブレでも鳩サブレでも良いから泣き止んでくれよ、頼むからさ。

 こんな眼つきの悪い男の側で女子に泣かれた日には速攻通報モンだよ。

 

 「うっ…ううっ…ひっく…ぐすっ…」

 

 う〜ん、泣き止む気配がない、しゃあ無いな、やって見るか、小さい時の小町にやってた様に。

 

 「…大丈夫、落ち着け…な、良い子だから…。」

 

 俺は飼い主の頭に手をやり、ゆっくりとその頭を撫でながら、努めて優しいイケボ声をかなり無理して作り、語り掛けた。

 多分当社比1.25倍位優しいと八幡は思うんだ。

 

 しかしこの撫で心地、何だか知っている様な。

 

 まぁ気のせいだよな、うん気のせい、

俺に女子の知り合いなんか居ないしな。

 

 

 

 

 

 

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