やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
はるのんが使う藤堂流の技の組み立てや性質や軌道等をゲームとは変更しております事をご了承下さい。
ほんの暫しの間だったのだろうが、俺は己が身に起きた事態を飲み込めず道場の板張りに倒れたまま呆けていた。
しかしその呆けていた俺の意識は外部からの強制により破られる、殺気と共に視界の隅に高速で迫るソレを俺は後に思い出して自分自身に感心してしまう程の反応速度で以て己が身を右方向に回転して回避し、膝立ちの状態で何があったのかを確認すると。
「ちえっ、あ〜あ躱されちゃったかぁ
僅か一、二秒程前まで俺の顔があった位置に雪ノ下さんがその身を前傾させ自身の拳を振り下ろした姿勢で、あっけらかんとした声音でそんな事を宣った。
「まっ、あっぶねぇ〜ってか怖っ!」
慄然と俺はそんなドSチックな事を平然と口にする雪ノ下さんの人格に恐怖心を抱きながら立ち上がり、その思いが口を吐いて出る。
「いやぁ、ボーッとしてたみたいだからさ、ちょっと気合いでも入れてあげようかと思ったんだけどね、あ〜あ惜しかったなぁ。」
そんな雪ノ下さんのサイコパスチックな言動に物凄い冷や汗タラタラな気持ちを味わう、何なのこの人マジ怖すぎなんですけど。
「……いや、そう言うの間に合ってますのでお気遣いなく………ふう。」
雪ノ下さんのおっかないお言葉に対し丁寧にお断りを入れて一呼吸、俺は改めて構えを取りながら先の技について雪ノ下さんに問い掛けた。
「何をされたのか解らない内に倒されたんですけど、あれって藤堂流の技なんですか。」
雪ノ下さんもまた構えを取り直しながら俺を一睨みしたかと思うと不意にその表情を崩し、さも楽しげにクスリと笑いだした。
「あははっ、イヤイヤ技なんてそんな大した物じゃ無いんだねどね。」
そして何の気紛れなのかは知らんけど雪ノ下さんはご丁寧に先の技に付いて解説をしてくれたのだった、曰くそれは。
「さっ……捌きっすか。」
「そっ、君がパンチを繰り出しながら前進して来るのをタイミングを合わせてほんのちょっと躱して、その躱しざまにチョチョチョイって軽く捻ってあげたって訳だよ。」
さも何でも無い事ってな感じで平然と雪ノ下さんは答えるが最後はフフンと得意気に道着の上からも判るその豊満な胸を張る、舞姉ちゃんよりは多少劣るものの結衣にも匹敵するそのたわわに思わず視線を奪われそうになったってか若干奪われてしまったのは内緒な…っと!?今一瞬背筋に悪寒が。
否、そう言うのは(何かもの凄く怖いから)置いといてだな、雪ノ下さんはいとも容易くやりましたみたいに言ってるけど、俺はあの時フェイントも多用しながら攻撃を仕掛けたんだけど雪ノ下さんは其れをあっさりといなして俺の体勢を崩したんだよな。
「あの一つ質問なんですけど、雪ノ下さんはこれまでに公式な大会とか他流試合とかって経験ありますか。」
だとすれば彼女の力量は俺が思っていた以上のものだろうし、実戦経験も日々の鍛錬もかなり積んでいるのかも知れないと思い問うてみたのだが。
「えっ、ううん残念だけど大会とかには出場した事も無いし他流試合とかも経験無いよ、殆どこの道場で香澄おば様や門下の人達と組み手や乱取り稽古をやってる位かな。
後はまぁ自慢するわけじゃ無いけど私ってそれなりに見栄えするからねぇ、偶に変な輩に絡まれたりするんだけどまあそういった連中に軽〜くお仕置きしてるって程度だね。」
下唇の辺りに右手人差し指を添えてちょっと考えてそう語る雪ノ下さんの所作には一見すると隙だらけにも見えるんだが、己の力量に対する自信から来るのか随分な余裕が感じられたってか何だか今の仕草が姉妹故か雪乃と似ていてちょっと可愛いと思ってしまった。
ってまた俺は対戦中に要らん事を考えてしまってるし、しかしどうにも俺は雪ノ下さんの実力やその他諸々に対して衝撃を受けたんだろうか、何か集中力が乱れているみたいだわ。
だが雪ノ下さんの実力は本物だ間違いなくな、それは言うならば天性の才覚ってヤツだろうな。
実戦経験も殆ど無いのにあんな事が出来るんだからその力量は川崎やロックに勝るとも劣らないものだろう、どうするかなこれは生半可な事では勝て無いかも知れん。
俺はそう雪ノ下さんの評価を二段も三段も上方修正を余儀なくされたって訳だな、てな事で其れを踏まえて此処からは改めて事に当たろうか。
「そっすか、まぁ聞くべき事は聞けましたし仕切り直しとしましょうかね。」
言いながら俺はバックステップで雪ノ下さんから少し距離をとり次はどう攻めるかと思案する、まぁ逆立ちしたり胡座を組んで『ポクポクポクポクチ〜ン』ってやって閃いたりはしないけどな。
そして思案する事数瞬、俺は次に何をするべきかの答えを導き出し動きを始める。グッと両の拳に力をため下から上へと大きな動作で拳を振り上げる。
「ハリケェンアッパーァッ!オラオラオラーッ!」
それにより発生する小さな複数の竜巻きはその発進源たる俺の身体を中心軸として、僅かに放射線状となって拡がるように放ち、これは雪ノ下さんの出方を窺い選択肢を絞るためにそうした訳だったりする。
先ずは一つは雪ノ下さんがガードを固めた場合だが、その時は此方から距離を詰めて近接戦に持ち込むか、まぁそうすると雪ノ下さんは当て身系の技を狙ってくる可能性が高いだろうから掴まれない様にフェイントを多用し狙いを絞らせない様にしなきゃだな。
それから次は雪ノ下さんが回避を選択した場合だな、だが爆裂ハリケーンを俺は放射線状に放ったから左右何方へ回避するにも彼女からの接近には遠回りを強いられるだろうからな、果たして雪ノ下さんはこれを選択する可能性は低い様な気がする。
そしてもう一つ雪ノ下さんがジャンプした場合だが、これは雪ノ下さんが飛び蹴りなどの空対地攻撃行動を取った場合だが、その場合俺は対空攻撃を掛けられるだろうからそれで撃墜出来るかも、それに或いはバックステップでそれを回避して雪ノ下さんの着地のタイミングに合わせて連撃を加える事も出来きそうた。
後はタイミングをバッチリ合わせてのブロッキングか
「さぁて、どう出て来ますか雪ノ下さん!?」
爆裂ハリケーンを出し終えそのモーションを解き構えを戻しながら俺は独りごちる様に呟き、自身に迫る竜巻に今にも対処をしようと構える雪ノ下さんに目を向ける。
己に向かい地を疾走し迫る竜巻を雪ノ下さんはその眼に確りと捉えている、さてブロッキングかジャストディフェンスか雪ノ下さんがこの攻撃にどう対応するのかを俺は瞬きもせずに見据える。
そんな中遂に雪ノ下さんに動きが見られた、それは長年修行を続けてきたこの道場の事を知り尽くしているが故か、蹴った!床をッ!!蹴った先には……ってもまぁ雪ノ下さんがただジャンプによる回避を選択しって事なんだけど。
「たぁーッ!」
掛け声と共に雪ノ下さんが前方ジャンプにより俺の方へ目掛けて空中から迫りくる、果たしてそれはただのジャンプによる回避行動なのか或いは空中からの攻撃を仕掛けてくるのか、どっちだ。
「ッ!?」
右脚を蹴り足として左脚は膝を上げて上へ、そして軽く前傾の体勢で飛び上がった雪ノ下さんの身体はやがて上止点へ到達する。
其処で雪ノ下さんが大きく両手を頭上へと振り上げる様を見て取った俺は判断した、雪ノ下さんは空中から何某かの攻撃を繰り出すつもりなんだとな。
それは、断定は出来ないのだろうが多分両の手を組み大きく振り下ろすつもりなのだろうとな、そう考えた俺はどう対応するかを高速で思考する。
対空攻撃で迎撃するべきか、それともワンステップ下がって雪ノ下さんの着地の瞬間を狙っての連撃を繰り出すか、無難な対応をと考えるならば前者で与えるダメージ量で考えるならば後者だろう。
『よし決めた。』
別に帽子を被った永遠の少年に『君に決めた、行けハチマン!』とか言ってポッケにナイナイ出来るあのボールの中に閉じ込めたモンスターをバトルステージに投げ入れられる様に俺が放たれる訳ではないんだが、要は雪ノ下さんのこの攻撃に対する対処をどうするかを決定しただけなので悪しからず。
「シッ!」
俺の選んだ、選択したってのはこの雪ノ下さんの攻撃をスルーし彼女の着地の瞬間を狙っての連撃を叩き込む事だ、雪ノ下さんのジャンプの角度と飛距離とを目測を以て推測し着地地点を大まかに予測し、依って俺は彼女の攻撃範囲から僅かに外れたであろう位置に陣取る。
「なっ、何ぃ!?」
陣取り空にて攻撃行動を行っている雪ノ下さんの様子を確認し、そして其処で俺は己のこの選択が最良では無かった事を思い知る。
それは何故か、俺が予想した雪ノ下さんの攻撃手段としての選択が両手を組んでの振り下ろしによる打撃(嘗てテリー兄ちゃんと対戦した草薙さんが使った)では無かったからだってのも在るんだがそれ以上に、雪ノ下さんの繰り出そうとしている技が俺の予測の上を行く思い掛け無いモノだったからだ。
「やあーーーーッ!!」
降下しながら雪ノ下さんは振り上げた両手を組む事無くそのまま自らの両腕大きくを振り下ろした。
それに依って生じたモノ、それは幾重にも折り重なる波の様に見える気の衝撃波だろうか、それが俺の立つ場所へと押し寄せてくる。
此れこそが先に雪ノ下さんが言っていた藤堂流の遠当ての技だろう、しかもそれを空中から放つ人が居るだなんて予想だにしていなかった。
まさか嘗て動画で視たサカザキ総帥や話に聞いていたあのギース・ハワード以外にも居たとは……。
「くッ……ぬぉーッ!?」
あまりの事態に俺は咄嗟に反応が遅れてしまった為その波状の気を回避する時間はもう無いだろう、事此処に至って俺に辛うじて出来る事は防御を固める事だけだ。
怒涛の如く押し寄せて来る波濤を俺は全力で防御する、時間にするとほんの僅か秒単位の衝撃をガードによって必死こいて防ぐとやがてその衝撃波は何も無かったかの様に消滅し、俺の肉体は(気分的にだが)漸くソレから開放されたのだったが。
「まだまだッ行くよ比企谷君!」
俺の居る位置から少し離れた場所に着地した雪ノ下さんがそう言いながら突進して来る、離れた位置とは言えども道場の中だし然程の距離では無いうえに雪ノ下さん自身の身体能力故だろうが。
『速い!』正にそう表現するしか無いって程のスピードで俺の元へと瞬く間に迫り、先の空中で放った雪ノ下さんの攻撃を防ぐ為に構えた上段ガードの体勢を解けていない今のままじゃ逆に俺が雪ノ下さんからの連撃を喰らってしまうかも知れんぞ、どうする『動けよ!俺の身体ぁッ』と俺の意志は高速思考で肉体に命令を出しているが、当の肉体の動きがまどろっこし過ぎる位に鈍くそして遅く感じる。
その間にも雪ノ下さんは近接戦闘を仕掛けるつもりだろうが俺との距離を着実に縮める、対して俺は事此処に至っては回避するも反撃に出るも時間的に敵わないだろう。
ブロッキングもジャストディフェンスも間に合わん、だからせめてダメージを最小限に留める為に防御だけでも間に合ってくれ。
焦りの色も濃く必死こいて俺は上方から両腕を下げて雪ノ下さんが此れから放つであろう攻撃に備えるべく急いでいるんだが、その時間が物凄く引き伸ばされている感が半端ない。
まさに今の俺の心境たるや止まった時の中で僅かな時間だけしか動くことが出来ない承○郎の気持ちが、何だか痛い程に解る気がするわ。
承○郎の気持ちは兎も角、遂に雪ノ下さん俺との距離は指呼の間と言える程の距離へと相成り当然そのまま彼女は攻撃の体勢に移行する。
「はぁーっ!」
「ッぅ!」
僅かに低くしたその体勢から雪ノ下さんが始めに振るうのは素早く俺の内懐へと突入してからの左の肘打ちだった、それを何とか間に合う事の出来たガードで防ぐが打撃を受けた部位がジンジンと痺れる、全くなんて威力だよと愚痴りたくなる。
しかしそれで終わる事無く更に続けて右の手刀の水平切りが繰り出される、やはりそれもガードで防ぐが雪ノ下さんの高速ラッシュはまだ続く。
「やッ!それッ!」
巧みに放たれる雪ノ下さんの上下の打ち分け、掌底が膝が肘が素早い速度で繰り出され俺は何とかそれをガードに依って防いではいるものの、ジリ貧状態を未だ脱せないでいる。
それだけ雪ノ下さんの技巧が高いレベルにあるって事の証明だな、対して俺はその予想外の其れに翻弄されて反撃の糸口どころか、このままでは辛うじて保っているガードだってブレイクされてしまうかも知れないって状況だ、そしてそれは程なくして現実のモノとなって俺の身に降り懸かってしまった。
『バシッ』と鈍い音が響き雪ノ下さんのラッシュを受け続けた俺のガードが遂に決壊してしまった、俺の両手は衝撃に弾け雪ノ下さんの前に俺は無防備をさらけ出してしまう。
「ぬぉッ!?」
焦りに妙な声を漏らし心に己の失策を悔いるが、それは後の祭りってやつで当然その状況を作り上げた雪ノ下さんがそんな俺を黙って見ているだけな訳がある筈も無く。
「破ァーッ!」
膝を少し折る事で体勢を低くし雪ノ下さんは曝け出された俺の腹部に左右両手の掌底をブチ込む、ってか俺的にはブチ込まれてしまった訳だが。
「ぐはぁッ……っ」
腹部から伝わる衝撃がやがて痛みへと取って代わるのに、いやその二つが合流し二つの感覚を俺が味わう迄にと言うべきだろうか、その時が訪れる迄にか果たしてどれ程の時間を要しただろう。
漏れて出る呻きの声と共に折れ崩れそうになる上体と打撃を受けた腹部に手を押し当てようとする俺だが、しかし雪ノ下さんはそれを許さずさらなる追撃を仕掛けてくる。
「やァーッ!」
咆哮一喝右手掌底をアッパーカットの様なモーションにより俺の顎は打ち抜かれて後方へ仰け反る、其処に押し寄せる流るような雪ノ下さんの連撃。
手刀、肘打ち、下段蹴りの三連撃から止めとばかりに繰り出される上段回し蹴りによって俺の身体は道場の壁に叩き付けられる。
「……ぐはっ!?」
叩き付けられた道場の壁から響く衝突音と漏れ出る呻き、そして壁から跳ね返された俺を雪ノ下さんの次の技が襲う。
「はっ!」
掛け声と共に雪ノ下さんは自身の腕を伸ばして俺の脚を取る、そして俺は何の抵抗感も感じ事無くフワリと空へと舞い上げられた。
空を舞いながら俺は意識せずまたまた偶然ながら道場に立つ俺を投げ飛ばした雪ノ下さんの様子を目撃する、雪ノ下さんは俺を投げ飛ばした後その両の腕を静かにくるりと回転させた後、構えをもとに戻した。
俺は雪ノ下さんが見せたそのポーズに見覚えがあった、そして今雪ノ下さんに喰らった技をこの身を以て知っていた。
忘れもしないそれは俺の兄弟分であるロック・ハワードに去年の夏に喰らった技だ。
『……まさか…真空投、げ……だと雪ノ下さんが……』
心に呟きながら空を舞う俺の身体はやがて、ビシリと衝撃音を轟かせ道場の板張りへと叩き付けられた。
喰らった技による衝撃と兄弟分の技を雪ノ下さんが使ったという精神的な衝撃という、その二つの驚愕的な事実に意想外のダメージを被って。
「がっ…ガハァ……ッ」
この勝負、俺は事の始めから今の所完全に雪ノ下さんにペースを握られっぱなしの状態だ、このジリ貧の状況を俺は果たして打破する事が出来るのだろうか。
雪ノ下さんはダウンした俺を不敵な笑みを湛えて見下ろす、その表情は部様を晒す俺を嘲笑っている様だってか嗤っているわ完全に。
はるのんが真空投げを使えるのは、以前のエピソードで語ったように香澄さんがギースの古武術の師である周防辰巳師の元で中学時代に教えを請うたとデッチ上げ設定を作ったからです。