やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
キュッキュッと地下足袋を履いた俺が道場の板張りを踏みしめステップを刻む音と、ススっと殆ど聞き取れないくらいの小さな音だ、が雪ノ下さんの素足が俺と同じく道場の板張りを移動するたびに聞こえる。
其処に加えて俺と雪ノ下さんが行動を起こす度に幽かに聞こえる二人の衣服からの衣擦れの音と呼吸音、そして。
「破ッ、やぁーッ!」
「南無三ッ、クッ!、そこッ!」
雪ノ下さんが俺に攻撃を繰り出してはそれを俺が防御、若しくはそれ。回避してからの反撃を試みては雪ノ下さんがそれを防御。
「させない……ッゥ!…」
「ちッ!やるッ、でもっ!」
だがやはり雪ノ下さんは俺が撃ち込んだリバーブローが効いているのか右の反応が若干鈍っている、だから俺は積極的にフェイントも含めて左から雪ノ下さんを攻める、その彼女の道着の右袖を掴もうと。
「はぁーッ!」
リバーブローもそうだが先の山嵐も左袖を取ってからの攻撃だったからか雪ノ下さんも殊更に、彼女自身にとっての右側の防御はより強く警戒しているからか中々スキを晒さないんだからな凄いもんだよ。
しかしまぁ、それでもあれから俺も雪ノ下さんも互いに単発ではあるが有効打を二発ずつ程食らってはいる。
がそこ迄で終わってしまい真に遺憾ながらこれまたお互いに、連撃を加えるには至らないでいる。
「くッ、同じ手をそうそう何度も食わないよ!」
そして言葉通りに雪ノ下さんは袖を掴もうとする俺の手をピシッと上手い具合に払い除ける、そこから更に今度は払い除けた俺の左手を逆に掴もうとするしマジ気を抜けねえ。
「っ、やべッ!」
俺が柔道のスタイルを採り入れたが為に戦いの様相が打撃よりも掴む事の方をより注力している感じになっている、故に激しい打撃戦を好む観戦者の目から見ると、もしかしたら今の状況はすごく地味に見えるかも知れない。
それこそプロのリングでは例えば“KOこそがボクシングの華”とかって言われてる程だし、一見地味で消極的にもみえるテクニカルな駆け引きとか攻防とかだと退屈だと見做され野次を飛ばしたりする人居るけどさ、言っとくけどあれだってやってる方はかなりの神経とか精神力とか体力とかごっそりと削られるんだからね。
そこに来て試合に集中しているはずなのに不思議とヤジとかってすっげえ耳に付くしなんか気持ちが萎えるんだよ。
と言う訳だからしてどうか観戦者の皆さんにはそういった駆け引きとかも生暖かい目で見ていただきたいんだよ此方としてはな、まぁ目の肥えたファンの人とかはそういった駆け引きとか緊迫感とかもボクシングの醍醐味として楽しんで見てくれるんだが。
とまあ、ちょっとばかり愚痴っぽい事を考えていた俺だが、確かにド派手に打ち合う打撃戦ってのが観ていて血湧き肉躍る感バリバリで興奮してしまう事は否定しようがない事実な訳でまぁ何が言いたいかと言われると、俺としても此処らで一つ流れを変えるべきだろうと愚考した次第でありますん。
「シィィッ!」
雪ノ下さんと近接戦で掴み合い取り合いの駆け引きを暫しの間展開していた俺だったが、此処で出方を変えてみた。
軽く状態を振りながらバックステップで雪ノ下から距離を取るべく動く、それを見て雪ノ下さんは対応すべく俺を追って前進する、其処へ俺は狙いすまして。
「フッ!」
「っ!」
闇 浴びせ蹴りを放つ、しかしこれは牽制のた為に出したものでありヒットを狙ったモノでは無い、いやちょっと偶然でも当たれば良いな位は思っていたけど。
何せ相手は雪ノ下さんだし、防御か若しくは回避される可能性大だと思ってたし実際に雪ノ下さんには上体をスウェーする事で回避されたし。
だが、それは俺の想定通りの流れで其処ですから更にトントンと二度後方転回で以て雪ノ下さんとの距離を空ける事に成功した。
「ハァーッ!」
数メートルの距離が取れた、俺は間髪入れずに直ぐに前方へジャンプする。
ジャンプし空中で右肘を突き出しての攻撃体勢を整えると傾斜角を付けての高速急降下。
当然雪ノ下さんは直様迎撃の体勢を取り始める、さてこれに雪ノ下さんはどう出るかな先のあの多重に気の連なった様な技か、それとも当て身を狙ってくるのか一体どう出てくる?
「やらせないよッ!」
雪ノ下さんは軽く左半身を若干前に両腕を大きく上方へと振り上げた、成程あの多重の気弾を放つつもりなんですね。
しかも、この状況でそれをやろうって事はあの技対空としても使えるって事だな、まぁさっきは空中からも繰り出していたし今更驚きはしないけどね。
「しゃーッ!」
高速降下を始めた俺に合わせて雪ノ下さんは上体を大きく反らし、その振り上げた腕を掛声と共に思いっ切り振り降ろした。
「やーーッ!!」
雪ノ下さんの振り下ろした腕を起点に斜角を付けて空へと登る雪ノ下さんの気弾、この気弾ならば空へ浮かぶ俺を飲み込めるって、そう思っているんですよね雪ノ下さん!
「けど、甘いっすよッ!」
迫りくる多重気弾を俺もまた多重の残像を残しながらそれをすり抜ける、そして雪ノ下さんの右斜め後方へスタッと着地する。
「なっ!?」
驚きましたか雪ノ下さん、これぞアンディ兄ちゃん直伝の不知火流『幻影不知火』だ。
「ハぁーッ!!」
意外な、おそらく雪ノ下さんが思い描いていた状況とはまるで違う結果、俺が気弾をすり抜けてしまった事に咄嗟に対応が間に合わず俺の踵落としを食らう事になってしまった。
「うぐぁっっ……」
やっぱり雪ノ下さんは俺のリバーブローのダメージが残っていて、その影響で右側の反応が若干鈍い。
それにより雪ノ下さんは
「そりゃーッ!」
踵落としから続けて上段回し蹴りを雪ノ下さんの側頭部へと叩き込み、更に蹌踉めく雪ノ下さんを追って次に繰り出すのは。
「ラァーゥドウェーブッ!」
掛け声と共に一発、気を込めた右の拳を床へと叩き付け気の衝撃波が広がり、雪ノ下さんはその衝撃波にその身を翻弄されまるで軽く酔っ払ったかの様に千鳥足でふらつく。
ヒット確認と同時に俺は次の技を繰り出す為の準備をさっと整え、大きく飛び上がる。
「オッラァーッッ!!」
空中でコンパクトに己の身を回転させつつ踵を雪ノ下さんの右肩にガッツンと叩きつける、これぞジョーあんちゃん直伝の『黄金のカカト』だ。
技の性質はテリー兄ちゃんのクラックシュートと近しいが、飛び上がる軌道は黄金のカカトの方が高いがコンパクトに回転する分、近距離攻撃に適しているっぽい感じかな。
因みにジョーあんちゃんの場合はその掛け声が俺と違い『オラオラーッ』って叫ぶんだが、何か少し恥ずかしいから俺はオラーにしている。
「そりゃーッ!」
そしてこの一連のコンボの締めとして着地と同時に水面蹴りを放ち雪ノ下さんの脚を払い。
「きゃぁ〜っ!?」
雪ノ下さんは右半身を下に強かに板張りにその半身を打ち付けて、此処にこの闘いに於いて初めて打撃戦でのダウンを奪う事に成功した。
「はぁ、はぁ、ハァーっ、よぉっシャーッ!!」
まだこの勝負終わった訳では無いんだが俺の技がこの強い
「ふーっ、雪ノ下さん、まだまだイケるっすよね!?」
俺は一つ呼吸を整え雪ノ下さんに呼び掛けてみる、横倒し状態の雪ノ下さんが俺の声に幽かにピクリと反応し手と肘を使いながら徐々に立ち上がろうとする。
そうしながら雪ノ下さんはキッと射貫く様な眼光で以て俺を睨め付ける、そちら方面の趣味のある者にはこの眼光はある種のご褒美になるのかもだが、俺にはそちらの趣味は無いので恐怖心しか沸かない、なまじ雪ノ下さんが美人なだけにその恐ろしさが倍加してんだよ、正に更に倍率ドン!
「……くっ、やってくれちゃって…」
悔しさとか疎ましさとかそんな気持ちが込められている様な、そんな声音で雪ノ下さんはそう吐き捨てて立ち上がり。
「ホント君ってあったま来る程ムカつく子だよねぇ……でも何だろうちょっと悔しいのに何だか楽しくなって来ちゃったよ。」
憎まれ口を吐きながらも最後にはこの日初めて、いやこの人と出会ってから初めて本当に楽しそうな顔を見せた。
これは思い掛けない変化と言って構わないだろう、愉しいでは無く楽しいと言葉の意味合いも変わっているし。
「言ってる事はアレですけど、それってもしかして雪ノ下さんによ格闘家としての本能っぽいモノが目覚め始めてるのかも知れないっすよ。」
俺は構えを取りながら、柔道のスタイルでは無くテリー兄ちゃんに最初に教わったスタイルの構えで以て雪ノ下さんを迎え撃つべく身構えつつそう言葉を投げ掛ける。
「さぁねぇ、どうなんだろう……何しろこんな気持ち初めての経験だしよく解んないんだよね。」
「でもやっばりヤラれっぱなしは癪だからね、きっちりお返しはしなきゃだよねぇ!」
そう返答を返しながら雪ノ下さんは構えを取り直す。
「えっ!?」
しかしそこに俺はちょっと否かなりの疑問を感じた。それは何故か、それは雪ノ下さんが取った構えがすごく意外だったからだ。
雪ノ下さんは今俺に相対するに当たってその身を極端に半身に、しかもリバーブローを食らった事によりダメージを受け反応が若干鈍くなった右半身を敢えて前へと晒しているからだ。
「何を考えてるのかは解らんけど、だからって迷ってる暇は無いッ!」
雪ノ下さんがどう出てくるかは知らんけど、考えられるのは弱点的な右側を前にして防御に割り振り、左を攻撃に割り振るってところだろうか。
しかしどうもなぁ、防御を考えるなら行動に制限がかかるダメージ受けた部位を普通は晒さないと思うんだが、敢えてそうするって事はやっぱり何かあるんだろうな。
「シュ、ハッ!」
俺は雪ノ下さんに対して牽制を兼ねて攻撃を繰り出してみる、拳打を蹴りをまたは体勢を変えての投げを狙っての掴みかかりを、フェイントを織り交ぜながら繰り出す。
対して雪ノ下さんはそれを上手く躱し避け防御しながら、スキを突いては逆撃を放とうとするのだが。
「どうしたんすか雪ノ下さん反応が遅れていますよ、それじゃあ俺は捕まえられないっすよッ。」
雪ノ下さんの動きはやはり鈍く、俺が今言った様にこれじゃあ捕える事は出来ないだろうにな、因みに今の問い掛けは少しばっかし挑発を加えてみたんだが。
「別に私はこの勝負を投げた訳じゃ無いよ、まあそれは君自身がこれから体験する事になるだろうしねっと!」
額に汗を流しながら雪ノ下さんの目と声音は勝ち気な色が未だ衰えずにいる、体力はかなり消耗しているだろうしダメージも蓄積されている筈にも係わらず。
「シッ、シュッ、ハッ!」
「何のッ!それっ、やぁーッ!」
俺が仕掛ければ雪ノ下さんは防御を固めながらもスキを見ては攻撃に転じようとする、反応が鈍っているとは云えども未だそれだけ動けるんだなこの人。
しかしそれでもやはり雪ノ下さんのその動作は次第に遅くなり俺もそのスピードに慣れ始めた、これならもう直ぐ捉えられる。
「ハァーッ、フゥー……」
そして息も次第に切れ始め呼吸も荒くなっていっている、もう間もなくだ。
動きの鈍った雪ノ下さんのスピードにはもう慣れた、なので次に雪ノ下さんが右を繰り出して来たらそれに合わせて反撃を与える。
「シ、シッ!……シッ!」
牽制の途中で腕を引き戻すジャブを二度放ち、更に肩でフェイントを入れてからのもう一発ジャブを放った。
「シュッ、破ァーッ!」
来た、ごく僅かな溜を作ってからの俺の左を捌いてからの雪ノ下さんの左の拳打だ。
これあるを想定して俺は予め左は端から弾かる事を前提にして繰り出した、そして雪ノ下さんの左に合わせて右のカウンター狙いのストレートを撃つ。
「ハァーッ!」
いわゆるダブルクロスカウンターだ、まぁちょっと違うけど、そう云う事で納得して欲しいと八幡はおもうんだ。
ゲフンゲフン、とっ兎も角、行ける勝った第三部完!と逸りそうになる心を戒めて俺が放った右ストレートは狙い過たず雪ノ下さんの頬を捉えると、そう思っていた時期が俺にもありました。
「取ったぁッ!」
だが雪ノ下さんはそんな俺の計算し尽くしたと思っていた、その思惑の更にもうひとつ上を行っていた。
俺はまんまと雪ノ下さんの策略に嵌ってしまった、それはプロの試合でもよく見かける策で俺も使ったことがあるし、何だったらテリー兄ちゃんだってあの時の草薙さんとの一戦でそれを使っていたしな。
雪ノ下さんは要するに敢えて己の弱点となっていた、俺から受けたダメージ部位である右を敢えて晒すし鈍っているその動作を見せ付け、更に実情以上に弱ったかの様に演じ俺の目をその速度に慣れさせ打ち気を誘ったって訳だ。
それまで遅く見せていたスピードを急激に上げて、狙い澄ましてバシッと俺の右肘を掴み取った。
「なっ!?」
『相手に対して勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』その言葉の意味を今俺は嫌ってほど味わっている、雪ノ下さんは掴み取った俺の肘をグッと自身の方へと引き寄せる。
それは俺の感覚的に力を込めている様には感じられず、寧ろ軽く引き寄せられるって感じだった。
にも係わらず、俺の身体はごく自然にバランスを崩しながら、彼女に引っ張られるとその軌道上に用意されていた雪ノ下さんの掌へと吸い込まれるように打ち付けられた。
「グェっ……」
呻き声をあげる俺に構う事無く雪ノ下さんはその掌打を俺の顔ごと前方へと突き抜く様に打ち放す。
「うっ…」
その威力に俺の身体は蹌踉めきながら半回転、それを追って雪ノ下さんの追撃が俺を襲う。
「やァーッ!、ッ、砕ィ!」
その身を捻り回転を加えた雪ノ下さんの水平手刀が俺の左頬を、そしてフロントステップを刻みながら手刀の直撃によってふらつく俺にアッパーカットの様なモーションで繰り出される打ち上げの掌底打とそれに連なる肘打ちが俺の下顎を強かに捉え、その衝撃の前に俺の身体は僅かに宙へと浮き上がる。
『拙い、コイツは孥エラいモノが来るわ』と頭を貫かれた影響で脳が揺すられ薄れかける意識の中、どうにか必死に意識を繋ぎ止めようと気を張っているんだが、そのせいで俺はそんな嫌な一瞬先の未来が見えているのに身体の方は反応出来ずに、その時を待つしかない状態だ。
俺の目に微かに見えた雪ノ下さんは、サッと両手を大きく空へと掲げて技の発動の体勢をもう既に終えていて『ああ、こりぁ食らっちまうわ』と俺は何故か不思議とその覚悟が決まっていた。
「秘伝、超ッ重ね当てっ!!」
大きく振り下ろされた雪ノ下さんの両腕からはさっきとは比べ物にならない程の巨大な連なった気の衝撃波が俺へ向けて穿たれた。
「ぐぁあ~ぁーっ……うぐぅ…。」
巨大な気の衝撃波が俺の身体を複数回直撃し、体力を削り大きなダメージをこれでもかと与える、その威力の前に俺は吹き飛ばされて堪らず思いっ切りダウンしてしまった。
「ふぅ~っ、まあざっとこんなところかな、どうだった今のが『藤堂流秘伝超重ね当て』だよ結構なものだったでしょう、まあ連撃を優先して気の充填が十分じゃなかったけど。」
痛みとダメージにより薄れている俺の意識下にそんな雪ノ下さんの声が届く、此奴はヤバいわ、もう今すぐにも意識を手放して眠りたい欲求が身体を支配して来ている、もう十分にやっただろうとまるで身体が俺の精神にそう語り掛けて来ている様だ。
そうだよな、そう出来れば楽になれるし、このままそうしようかな……何て事を倒れたまま板張りの感触を味わいながらそんな事を思っていると、意外な声が言葉が意外な人から不意に俺に投げ掛けられた。
「またでも今のでもう十分に君にダメージを与えたとは思うけど、まだ立てるよねえ比企谷君。」
その言葉は俺の鈍くも繋がっている意識の中でもその耳朶を打ってくる、全くもう簡単に言ってくれるっすねぇ雪ノ下さん、確かにもうちょっとだけ体力は残ってますけどね。
「くっ、痛ったぁ……っ、ぷはぁ、ハアーッ、否そうは言いますけどね雪ノ下さん今のはものっそい痛かったんすからね、そう簡単には立てませんって。」
ゆっくりと頭を振り、呼吸を整えつつ雪ノ下さんに返答すし重く感じる身体を手肘を使って、少しでもダメージの削減と体力の回復の為に時間を掛けて起き上がる。
その時間を使い冷静に自分の現状を俺は確認する、身体の彼方此方に痛みがあるが致命的なモノは今の所無しだな、気力の方も徐々に回復している。
問題はこれまでに被ったダメージと体力の方だな、そのダメージ値大凡八割から八割五分と云ったところだろうか。
「ふぅ〜っ、まいったなこりゃある意味虫の息ってところですわ、いや本当にマジでもう止めたいっす。」
頭のふらつきも収まり始めてるし、視界もバッチリ十分見えているしもうひと踏ん張りは出来るだろうけど、もう限界は目前だな冷静に見て。
「あはは正直だね、でも『悔しいけど僕は男なんだな』とか言ってたよね、だったら最後までその言葉を自分で確り証明しなさい!」
そう言って俺に試合の続行を促す雪ノ下さんの、その表情と声音には嘲り愚弄する様な負の感情は一切感じられない。
其処に見て取れるのは純粋にこの闘いの決着を着けようと対戦相手である俺に奮起を促している、一格闘家としての彼女の心からの欲求だろう。
「はぁーっ、全く貴女はマジに容赦無く厳しい
「……何よそれ、全く君って本当に訳が解んない子だよねぇ、そうやって変なネタを振る余裕があるなんてね。」
「……おっ、これがネタだって解るんですね雪ノ下さん、て事はその出処も知ってるんですかね雪ノ下さん!?」
「いや、知らないけど……ただこの数分間で君がどんな子が大体分かったからね、何ていうかアレだよアレ。」
勿体つけて雪ノ下さんは其処で一旦言葉を止めてニヤッと笑うと右手を前に差し出して人差し指で俺を指してこう仰られた。
「そうスバリ“残念な子”だね!」
「……あっ、はい誠に遺憾ながらの否定のしようがございません。」
雪ノ下さんに突き付けられたそれは、内心俺自身そうじゃないかなとは思っていましたともですよですよマジ、だからまぁこう返答するしかないんだよな、
「……ぷっ、くふふふっ、あ〜もう可笑しいたりゃありゃしないよ、本当に変な子だよ君は。
でもまあ一格闘家としてならそれなりに敬意を評しても良いかもね。
さて、もう十分に君の事は知れたしね此処から最後の攻防ってやつをさ、始めようか比企谷君!」
「うっす。」
雪ノ下さんの呼び掛けに答えて、それを合図として俺と雪ノ下さんは互いに構えを取る、雪ノ下さんが言う様にこれが最後の攻防になるだろうと覚悟を決めて互い向き合って。
この最後のアタックに際して俺は雪ノ下さんに対してかなり有効だった柔道の構えでは無く、オーソドックスにテリースタイルで先ずは臨む事にした。
やっぱり何と言っても此れこそが俺の原点だからな、此れこそが雪ノ下さんに最後に相対するに相応しいと判断したからだ。
まぁ途中の流れに依っては臨機応変にスタイルを代えるけどな。
「シャーァーッ!」
「ハァーッ!」
同時に、俺と雪ノ下さんは大きく声を張り上げて突進する、互いにその眼を見据えてどんな些細なスキさえもを見逃さないと、または絶対に相手を上回ってやるぞとの気迫を込めて。
「「スッ、スッ、ハァーッ」」
互いが接近した事によりほんの僅かな間隔を開けて対峙する俺達、これまでの展開で互いに相手の力量や置かれた状況状態もある程度把握している。
なのでこの最終局面で俺達はまたしても互いに見合ってしまうって状況となった、まぁ正確には俺はやはり雪ノ下さんのウィークポイントとなっている右側を狙ってゆっくりと時計方向へと動いているし、雪ノ下さんの方はそうはさせじと右を庇いつつかなり半身の左構えを取っていて俺の動きに対応して動いているって形だ。
だがまぁしかし、そんな静かな立ち上がりに傍目には感じられるだろうが、俺にしても雪ノ下さんにしても既にエンジンは6速全開レッドゾーンに突入しているし。
「ッ!」
「フッ!」
今現在行っている行動、フェイントもガードも回避も攻撃も虚実硬軟駆け引きに至るまで全てにありったけの神経精神力を注ぎ込んでいる、二人が共に逸早くその相手の僅かなスキを見逃さず、其処に最後の一撃を喰らわす為にだ。
『来る、絶対に、その時は、絶対に来るからな、だからそれまで持ってくれよ俺の集中力!』
声に出さずに心の中で俺はそう言って自分に発破をかける、雪ノ下さんからしこたまにダメージを被ってしまってるからな、エンジンブルブル絶好調とは行かんけど大丈夫俺は集中している、雪ノ下さんの動きも見えてるし何なら息遣いまでも聞こえてるしな。
「はぁ、はぁ、ふっ、ハッ!」
しかし闘いの最中でありながら何で女性の息遣いと吐息とかって、こう何て言うかすごくリビドーを引き起こすんだろう……はっ、とイカン集中集中!
「おっとッ、っべぇッ!」
目まぐるしく変わる攻と防、俺もそうだが雪ノ下さんもまたやはり体力気力共に衰えている事は明らかで、ちょっとした凡ミスがチラホラと表れ始めている。
互いに辛うじて決定的なミスには至っては無いが、どうやらその時はもう直ぐ近くまで迫っているのかも知れん。
「スッ、ハッ、フぅ……」
「フッ、スゥ、ふぅ……」
こんな状況に在ってもどうにかやり繰り対応出来て居るのは、やっぱり兄貴達や十平衛先生の教えやこれまでに拳を交えた強い人達との濃密な時間があったからだろうなと、そうつくづくと思う俺ガイル。
テリー兄ちゃんに一年間みっちりと基礎を教わり、それからは自分で独自に鍛錬しつつも偶に俺の元へ訪れてくれる三人の兄貴分達に、その都度色んな事を教わったよな。
殊にアンディ兄ちゃんは日本に拠点を置いてる事も在って、何かと俺の事を気に掛けてくれて度々此方まで顔を出してくれてたっけな、それで鍛錬の様子を見てくれ的確なアドバイスをしてくれて。
この間もそうだだたよな、あの言葉は俺の現況を見極めた上で言ってくれたんだよな確かにさアンディ兄ちゃん、兄ち
ゃんが指摘してくれた事はさ俺も理解はしているんだけどさ、それでもやっぱり俺は皆が教えてくれる事を全部覚えたいって、まぁ贅沢で貪欲だと思われるだろうけど俺はそうしたいんだ。
闘いの最中俺はふとそんな事を何時の間にか考えていた、それは俺の集中力が切れ掛けている事の証左なのだろうか。
オーソドックススタイルから柔道の左構え自然体へと移行しようとした時だった、その時何故かちょっとだけ俺の右膝がカンクと折れた。
「ぅおっ!?」
そしてやっぱり当然だが、そのスキを見逃す様な事を雪ノ下さんがする筈も無い訳で、空かさず彼女は俺に対して攻撃を繰り出す段取りを始める。
「もらったぁーッ!」
雪ノ下さんが発したその声もそのために行っている攻撃の段取りも、そして俺の動きもすべての時間が引き伸ばされたかの様に遅く感じられる。
左腕を前方へ突き出し肘を直角に曲げて上段ガードの構えを取り、グッと後方へ弓弦を思いっ切り引くかのように右手を構え掌底を突き出そうと溜めを作る。
左脚を前に右脚を後方へ、膝を僅かに曲げてしなりを作りその威力を高めるんだろう。
それはもう既に発射の態勢が整っていると判断して構わないだろう、であれば俺はそれを貰わない様に対処を早急に完了せねばなら無い訳で、なので俺の脳は高速で肉体に動く事を命じている。
『急げ、動けぇーッ俺の身体っ!』
絶体絶命のピンチに陥っているこのじょうだが同時に此れは遂に訪れた最後のチャンスなんだよ、だからッ間に合うように動けッ俺!
そして瞬時に確りと溜めを作られた剛弓から遂に、獲物を仕留めるべく必殺の破壊力を秘めた矢を放たれた。
「矢ァァァッ!!」
『来たぁァッ!』
幸運は二つあった、俺が陥ったピンチである膝カックン状態だがそれはほんの僅かにバランスを崩した程度の事で思いの外体勢を立て直すのに時間が掛から無かった事、そして雪ノ下さんが放った掌底突きがその肉体的ダメージの影響で思いの外に繰り出す速度が然程速くは無かった事。
だから直ぐに体勢を立て直しそれに対応する準備を整える事が出来た。
ジョーあんちゃんが言ってくれた俺の武器、眼の良さと反射神経を最大限に活かして雪ノ下さんが放ったストレートの軌道の掌底打を確りと見据え。
『来るッ!』
過たず俺の頬を目指して一直線にたに突き進む雪ノ下さんの掌底打、それを俺は限界一杯にまで引き付ける(怖い)一歩間違えればその瞬間この闘いは俺の敗北に終わってしまう。直ぐに体勢を立て直しそれに対応する準備を整える
『そして、来たぁッ!』
ギリギリもギリギリ、雪ノ下さんの掌底打が俺の頬に触れてるか触れてないかの刹那の間隔、ミリを下回りミクロンの単位。
俺はその瞬間に合わせて首を振って雪ノ下さんの掌底打を往なす、良し巧く決まったわ、俺の十八番“スリッピングアウェー”が。
「えっ!?」
そんな意外そうな声を漏らして何が起こったのか解らないって感じっすかね雪ノ下さん、必勝を期して体ごと前進しながら掌底打を撃ち込んで来た雪ノ下さんは当然それがカスあたりした為、その威力の発動する場を失い無防備に前方へとつんのめってしまう。
「“待”ってたぜェ!、この
相悪と日章旗カラーのロケットカウルのを纏ったインパルスに乗ってツルハシを持っちゃいないし、これから出すのは左のボディーブローだけど、マシで待ってたこの瞬間。
「フンッ!」
つんのめり体勢を崩しながらも何とか立て直そうと図る雪ノ下さんを追って回り込みながら放ったのはこれまた得意のリバーブローだ。
今度こそ俺のリバーブローは狙い過たず雪ノ下さんの右腹部肝臓付近へと鈍く大きく音を立ててブチ当たる。
「……ごぶぁッ、ブふッ…」
その痛みと衝撃に雪ノ下さんの口から呻き声が漏れ出し(しかもあまり女性の口から漏れ出させるには余りにも…な呻きだが、どうもスミマセン闘いの中での事なので勘弁願います。)更にその脚が板張りから十数センチ程離れ雪ノ下さんの身体は浮き上がっている。
当然の事であるがこの好機を逃す手など長征一万光年の旅路の終わりの先にさえ存在していない、俺はその身を浮かせてしまった雪ノ下さんを追い今度は反時計回り方向へとステップを刻み。
「ふっ!ハッ!!」
その浮いた脚が板張へと降着するかどうかと云うスレスレのタイミングでグッと右肩を下方へと下げ左腕はガードの体勢をとり雪ノ下さんのボディ目掛けて、渾身の超低空からのボディアッパーを振り抜く様に突き刺す。
「うぁ……っ……ぐふっ…」
腹部を強かに叩かれた雪ノ下さんはその体内、肺の中に残っていた呼気を全て強制的に吐かされ再動呻き声をあげた。
地に着きかけていたその脚は再度板張りから離れ後方へと吹き飛ぶ、辛うじてダウンは免れはしたが雪ノ下さんはよろよろと揺らめき、体勢を立て直せないでいる。
やっとだ、随分と長かったけど漸っとこの瞬間が到来した。
『アンディ兄ちゃん、兄ちゃんが言う様にさいつか俺は皆からの教わった事を取捨選択しなきゃならない時が来るだろうと思うよ、でさその上でそっから更に独自にそれを発展させなきゃならないんだよな、それは解ってるんだよ俺もさ。
でもやっぱり皆が教えてくれた事はさ空っぽだった俺を目一杯に満たしてくれた大切なモノなんだよ、だからさ俺は此れからもそれを大切にして行きたいんだよッ、そしてさ今から俺がやるのはその決意を新たにした俺のッ、これはその第一歩だッ!』
此れから俺が放つ技はある意味此れまで兄貴達に学んだことの現時点での集大成ってところだろうか、テリー兄ちゃんのあの技を俺なりに構成した技だ。
それを俺はブチ込む為に、徐々にふらつきが治まり始めた雪ノ下さんに目掛けて突進する。
「フッ!!」
先ずは斬影拳のモーションで雪ノ下さんへと超高速で突進する俺は驚くべきモノを目撃した、それは俺の攻撃によりかなりのダメージを受け意識を繋いで居らてれる事も驚異的な事なのに、そんな状況にあって尚雪ノ下さんは己に向かい来る俺の肘鉄を取ろうとしその手を伸ばしてくる。
『全く、何て
急速接する俺を待ち構え当て身を取ろうとする雪ノ下さん、テリー兄ちゃんのバーンナックル、ジョーあんちゃんのハリケーンアッパーと並びアンディ兄ちゃんの代名詞的な技と云えば斬影拳だ。
だから雪ノ下さんも斬影拳がどう言った技か知っていたんだろう。
『でも、そうは行かないっすよッ!」
朦朧としながらも俺を待ち構える雪ノ下さんのその内懐直前、彼女のその手が俺の肘に手が届く直前に俺は斬影拳による突進に
この日の為に用意したゴム底の地下足袋が完璧に仕事を熟してくれた、このブレーキングの直前から俺はある行動を起こしていた、それは前方へ突き出した左の肘を上半身ごと円を描く様に後方下方へと引き下げる。
わかり易く説明するなら幕之内○歩のデンプシーロールの軌道っぽい動きと言えばいいかな。
だから俺の肘と上体はグルリと無限軌道の回転故に当然今度は再度前方へ下から上へと向かい突き出され、雪ノ下さんの鳩尾へとブチ当たる。
しかも、俺は残念ながら慣性制御戦闘ドリファンドでは無いから慣性力を消し去る事は出来ない、なのでブレーキングにより停止したとは言っても上半身には前方へと向かい進む力は残っており(単車のジャックナイフ現象の様な物)そのエネルギーと回転運動の力が加わり。
「が……ガハァ……っ……」
激烈な痛みが雪ノ下さんを苛んでいる事だろう、だがまだだ。
ヒット確認の後俺は次の体勢へと移行する、身を屈める雪ノ下さんに対して正面からググッと力を込めながら膝を屈めて飛び上がり。
「ハアーッ!」
掛け声一発、強烈な膝蹴りをタイガーキックをお見舞いする。
空高く吹き飛ばされる雪ノ下さんと共に俺もジャンプし飛び上がる、但し通常のタイガーキックとは違いその上昇高度は役三分の二程で済まし、着地の体勢を取る。
その時両の拳にありったけの気を瞬時に込め、最後の締の技を撃ち出す準備を整え降下すると共に俺は叫ぶ。
「ハァイアグゥルッ、ゲイッザーーーーッ!!」
着地と同時に俺は拳を道場の床の板張へと三度叩き付ける。
一度、二度、三度と叩き付けた拳と板張りから発生しあ巨大な気の牙は雪ノ下さんの肢体に三度食らいつき弾き飛ばして、道場の板張りへと沈めた。
「うぁぁぁ…………っ………」
雪ノ下さんの断末魔の様な悲鳴がやがて静かに途切れその気力と体力を奪い尽くして。
此処に一つの闘いの幕は下ろされた、互いにその力の全てを出し尽くし残酷に勝敗を決定づけて。
止めはハイアングルゲイザーでした。
八幡版のハイアングルゲイザーは斬影拳〜タイガーキックと繋ぎ、超必殺技バージョンはゲイザー一発で潜在能力バージョンはトリプルで締めです。
粗方の話の流れは出来ていたんですけど中々言葉が浮かばず、浮かんできたかと思えば更にもう一波乱欲しくなり、その結果が………。