やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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VSはるのん篇、これにて終了です。


やはり最後に現れた大物が全部を持っていくのは間違っている。

 

 チョロチョロチョロ……カツン、カココン……と静まり返った道場内に(此処からだと少し離れてるんだろうが)この藤堂家の庭内に設えられていると思われる池の鹿威しが石を叩く音が木霊する。

 そう言や藤堂さんが言ってたっけな、お母さんとお姉さんが舞踊とかお茶とかの教室やってるって、その関係でもしかしたら庭園的なものを設えてるのだろうか、あらやだ風流。

 暦の上ではもう秋とはいえどもまだまだ暑い日は当分続くであろう八月の下旬のお昼前、古くから日本の夏を彩る風物詩たる風鈴の涼やかな音やこの鹿威しが奏でる質素でありながら侘び寂びと言うものを感じさせる渋い音がこれもまた実に風流で、思わず一句詠んでみたくなるのはやはり俺の中の日本人としてのアイデンティティが為せる技か。

 と、冒頭からこの様に現実逃避をしてみた訳だがそれは何故かと言うと、其処の所は前話をご確認頂きたい。

 

 さて本日俺は雪ノ下さんからの挑戦を受ける形でこの藤堂流道場へと馳せ参じた訳だが、格好つけで馳せ参じたとかって言ったが本当はただ来訪しただけなんだけどっとまた脱線してしまったわ、八幡ったらうっかり。

 まぁその雪ノ下さんとの闘いも終わり何だかんだと話をしていたところへ、何時の間にやら知らんけどこの場に駆け付けて居た雪乃と結衣といろはが合流し、俺と雪ノ下さんと藤堂さんの三人だけしか居なかったこの場の人数は一挙に二倍の六人となり、人口密集率も跳ね上がってしまった。

 まるで国土の狭い我が日本国の住宅事情をそれは恰も体現しているかの様だ、ってそれ程大袈裟なモンじゃあねぇだろうがッ!

 今現在この道場にて雪ノ下姉妹が正座にて着座し1メートル程の距離を置き互い正面から向き合っているのだが。

 

 「…………。」

 

 「…………。」

 

 二人共何を言うべきか、どう向き合うべきかを思案しているのか先程から数分間ばかり沈黙してしまっている、雪ノ下さんは己の妹に対する愛の告白をまさかその意中の愛妹に聞かれていたなどとは梅雨ほども思っては居なかったからだろうか、何だかバツが悪そうに曖昧な笑みを浮かべしきりに頭をポリポリと掻いているし。

 対して雪乃の方はと言えば………いやもうね本当にねその心中たるや戸惑いとか困惑とかそんな思いが綯い交ぜで一言では言い表せないだろう、だってそりゃりあんたしょうが無いでしょう(こう言うと自分で言うのはちょっと面映いが)自分と懇意にしている男子と自分の姉が闘った上にその後の会話の流れで、その姉がまさかの己に対しる愛の告白を臆面もなくブチかましたんだからね。

 家族としての友愛とか慈愛とかでは無く恋愛的なLOVEな想いを、だからなぁコレは何と言うかアレか例のポリ○レってヤツなのかなマイノリティにも配慮します的なエピソードを差し挟む的なモノなのか、違うよな!?

 

 おっと、思考が暴走してしまったみたいだな大変失礼。

 

 話を戻そう、今の雪乃は正気を保つのにも一苦労だろうかもな、まさか身内が『世界の中心でアイをさけぶケモノならぬ、道場の中心で愛を叫ぶ姉』だからな、そりゃあ雪乃にしてみりゃスタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃状態で精神的インパクトもデカイよな、その威力たるやサードやフォースなんてものは可愛いモンで因果地平の彼方で消滅するレベルまである。」

 

 そんな他愛も無い事を連連と考えていたらいきなり俺の両脚の太腿に鋭い痛みがズキンッと疾走ったッ、それは俺の両隣に並び正座を崩した所謂女の子座りの体勢でこの道場の板張りに座り雪ノ下姉妹の様子を見守っている二人の少女が思いっ切り俺の太腿を抓りあげたからだ。

 

 「もうはちくんはッ!こんな時にアホなネタとかいい加減にして下さいっ、馬鹿じゃないですか死ぬんですか、恥ずかしいからそう云うのは時と場合を選んでからにして下さい。」

 

 「本当だよハッチンは、あたし達の大切なゆきのんがお姉さんと大事な話をしようとしてんだからちゃんと見守ってあげなきゃだよ!」

 

 毎度の事ながら俺はまた心の声をダダ漏らせていたらしい全く成長しないよな我ながらさ、あんまりパターンばっかりやってちゃ視聴者さん(読者様)に飽きられちゃうよ視聴率(UA)取れないよ。

 ロボットアニメだって四十年以上前にパターン破りをやってんだからね、いい加減成長しようぜ俺っ、て何をだよあとメタ過ぎ。

 

 「うっ、なんかすんませんでした。」

 

 見目麗しき二人の姫君よりのお怒りの苦言と忠告に俺は逆らうことなぞ出来よう筈も無く素直に謝罪する。

 謝る事に関しては俺は最強の男だからな故に『東西南北中央謝罪・ゴメンネチバ』の称号を得られるまである。

 

 悪いことをしたらちゃんと素直に謝るこれ大事、そしてその失敗を活かし同じ過ちを繰り返さない事これも大事、ああ何か出来るかな俺。

 

 「全く他人事じゃ無いんですよ、この件に関しては私達も間違い無く当事者なんですから、今はちゃんとお二人の事見守らなきゃですよ分かってますか……まあでもこんな場面で無ければはちくんのそんなお馬鹿さんな所も好きなんですけどねぇ。」

 

 いろはの発したグウの根も出ない程のド正論に俺が返せる言葉はどこにも存在してい、と同時に最後にちゃっかり俺を擁護する発言をも付け加えてくれるいろは姫は何ともいたずらっ子な笑みを湛えている、何なのこのあざと可愛すぎる生命体は天使かな。

 まぁいろはが言う様に時と場合を考慮して、そこいらの事は後でって事で今は雪乃達の方を気に掛けないとだよな。

 故に俺は無言で頷きひとつ入れると雪ノ下姉妹の動向に目を向けてみる。

 雪ノ下さんの先の愛の告白は置いて、何があったかは知らないが雪乃の方は些かばかり雪ノ下さんに対して隔意と言うか何某か思うところがある様だからな、この機会にそう言った蟠りを解き解してもらいたいものだ。

 

 「……あっ、その………。」

 

 躊躇いに躊躇いを重ねて漸く雪乃がその重い口を開いたかと思えば、その後に続く言葉が見つからないのか再び彼女は口を噤みまたしても長考に入った様だ、持ち時間は余り残ってないんだが雪乃は大丈夫だろうか。

 そんな雪乃の様子に雪ノ下さんはワクワクとドキドキ、そして若干の不安とが入り交じった様な何とも複雑な表情で雪乃が紡ぐ言葉を待っている、ような気がするってか多分それで有っていると思うんだが。

 

 「……姉さん、私は幼い頃は常に姉さんに憧れ目標にして来たわ。」

 

 そして雪乃はやがて意を決したか静かにその胸の内を語り始めた、その言葉に雪ノ下さんは嬉しさからピクンッと身体が反応し、喜色を顕した面貌に口元がちょっとだらしなく緩んでし今にも鼻歌でも歌いそうな雰囲気を醸してる、大好きな妹にそんな事を言ってもらえて嬉しさが大暴騰してるのかな。

 

 「常にどんな事でも姉さんは私の二歩も三歩も先を歩いていて、勿論姉妹なのだし年齢差が在るのだからそれは当然なのだろうけれど。」

 

 うんうんと頷きながらニッコリと微笑む雪ノ下さん、其処にはまるで見えない尻尾を振り見えない狐耳をピコピコさせる雪ノ下さんの姿が幻視出来る、余程雪乃の言葉が嬉しいのだろう。

 紛うことなき『千葉の姉、妹大好き此処に極まれり』を地で行ってる雪ノ下さんに俺はちょっとしたシンパシーを感じているが、流石に恋愛的な感情まで抱いては居ないからある意味雪ノ下さんは俺よりも二歩も三歩も先を歩いている。

 

 否その道を追う気は俺の中には1ミリグラムたりとも存在しないがな、本当だよマジでこの件に関しては嘘や誤魔化しなどしないから。

 

 「けれど、私も年齢を重ねる毎にその年齢だった頃の姉さんと自分とをどうしても比較してしまって、その域に達する事の出来ていない自分が不甲斐なくもあるのだけども、其れ以上に姉さんに対するコンプレックス、劣等感を掻き立てられてしまって私は何時しか姉さんに対して自ら壁を作ってしまっていたわ。」

 

 ああ、その辺りの事は以前に雪乃から聞いた事があったっけな、その気持ちは少しばかり俺にも理解できる。

 兄貴達と出合い、テリー兄ちゃんから闘う術を教わっていく中で俺よりも二年早くから鍛錬を始めたロックに対してそんな感情を抱いた事があったよな。

 それは同い年で同じ師の元で学ぶ間柄だし、尚且幼い子供だからってのもあったんだろうけど俺の思いは何時しかそう言った(マイナス)の感情は兄弟子に対する敬意へと変わっていった、それは。

 テリー兄ちゃんもロックも二人共互いに壮絶な過去を背負っている(それはアンディ兄ちゃんもだが)にも拘わらず二人ともその過去の怨讐を超えて血の繋がりなど無くとも家族として確かな絆を育んでいるんだ、そんな姿を目の当たりにしてしまっては嫉妬なんてちっぽけな感情に何時までも囚われてる何て馬鹿馬鹿しい事だ。

 何よりも大きかったのはみんなの為人にあったんだけどな、兄貴達は強くてそして優しく暖かな人達だし嘗ては復讐に身を焦がし修羅の道を歩んでいたとは思えないほどだし、ロックもまたその辛い生い立ちを乗り越えテリー兄ちゃんの薫陶を受けたのか或いは生来のものか、不器用ながらも優しさを備えている。

 『八幡は俺のファミリーだ』まだ辿々しい日本語で俺を毛嫌いするクラスの連中に力強くそう断言してくれた、あの時から俺はアイツと本当の兄弟になれたんだと思う。

 とまぁ、俺のことを連連と語ってしまったが雪乃は果たしてどうなんだろうかな、叶うことなら姉妹の蟠りが解ければと俺は思うけど、雪ノ下さんの雪乃に対する想いはちょっとアレだから難しいってか厳しいかも知れんな。

 

 「うん、それはお姉ちゃんも薄々感じてはいたんだよ、だからねだったら私はそんな雪乃ちゃんのその気持ちを利用して雪乃ちゃんを奮起させる事が出来たらなって、お姉ちゃんに追い付き追い越そうってそう雪乃ちゃんが思ってくれたらなって思ってたんだけどね。」

 

 「ええ、けれど私はあの件以来他者に対して心を閉ざしてしてしまったわ。」

 

 あの件か、それは例の葉山が絡んでいたってヤツなんだろうな、雪乃が人気者の葉山と幼馴染の関係だって事と雪乃自身の可愛さに嫉妬した女子連中からのやっかみによる排斥行動、しかしその事を知った葉山が中途半端に介入した為に更に雪乃はそれ以降頑なに心を閉ざし、敵対者に対し己の持てる智と武とを駆使し殲滅していったと言う。

 

 「ごめんね雪乃ちゃん、お姉ちゃんその事に直ぐに気付く事が出来なくて、あとから知って私は隼人やその連中をきっちり締め上げてやったけど、雪乃ちゃんからしてみれば今更遅いってものだったよね。」

 

 雪ノ下さんが葉山や雪乃を敵視していた女子達を制裁したってのも聞いた事がある、けどそれは雪乃からして見れば自分が出来無い事を雪ノ下さんが颯爽と登場しては華麗に解決してしまったって訳で、更にコンプレックスを重症化させる結果になったって話だったな。

 

 「それに雪乃ちゃんが私に対して劣等感と隔意をを抱いているのも何となく解ったからさ、だから敢えてお姉ちゃんは雪乃ちゃんを焚き付け挑発する様な態度を取ったんだけどさ、それも巧く行かず雪乃ちゃんとの溝も却って深くなって結果は逆効果になっちゃったんだよね。」

 

 「其れは私が姉さんの真意に気が付かなかったから、私の成長を促そうとしてくれていた事に自分の事で精一杯だったあの頃の、いいえ八幡君や結衣さんやいろはさんと出合って共に行動をする様になる迄私はちっともそれに気付け無かったわ、ごめんなさい姉さん。」

 

 頑なに他者を受け容れず敵対者は力で排除する、そんな態度の雪乃に周りは腫れ物を触る様に或いは居ないものとして扱われる様になり居場所を失った雪乃はアメリカへと渡る事となってしまった。

 

 「そんな謝らなくても良いんだよ雪乃ちゃん、あの頃は私もまだ小中学生で小癪なだけの小娘だったから上手いやり方が出来なくて雪乃ちゃんを追い詰めちゃったんだから。

 でもそうなんだね、私が長年出来なかった事を比企谷君達がやってのけたんだね。」

 

 僅かに口惜しさを声音に滲ませ雪ノ下さんはそう締め括る、それは彼女の俺達への嫉妬心を多分に含むが故に漏れ出た思いだろう。

 

 「ええ、みんなとの出会いがあって共に過ごした日々の積み重ねがあって今の私が居るの、ほんの一年半程の時間だけれど、その僅かな時間が私に大きな実りを与えてくれたのよ。」

 

 そっと目を閉じ静かに微笑み、さも大事な物を仕舞い込んだ心の宝石箱を愛でるかの様に雪乃は己の胸元に両の掌を添える、俺と結衣といろははその雪乃の横顔に暫し見惚れてしまっていた。

 それだけ俺達には雪乃が気高く美しく輝いて見えたからなんだが、それは雪ノ下さんも同様であった様で彼女の表情はある意味残念な感じと言える程にだらし無く蕩けきっている、まぁ解りますよ今の雪乃の美しさは破壊力抜群でしたからね、まさに100メガショーック!!

 

 「……あの陽乃さん……。」

 

 俺達と共に雪乃に見惚れていた結衣だったが、彼女は俺達の中で逸早く我に返ると静かに口を開き雪ノ下さんへ話し掛けるが、直ぐにまた口を閉じた。

 それはおそらく雪ノ下さんに対して何をどう伝えるべきかと心の内から彼女なりに適切な言葉を探しているからなのだろう、雪乃に勉強を教わりせいせきこそ向上してはいるものの結衣の語彙は然程多くはないからな。

 

 「ん、何かなえっとガハマちゃんだったっけ?」

 

 顔はニコニコと笑顔を拵えちゃいるけど雪ノ下さんの結衣へと返答する声には何処かしら薄ら寒い物を感じる、しかも何故だかこの道場内の気温さえもが数度程下がった様にも感じるんだが其処は気の所為だよな、きっと多分。

 でもまぁ、雪ノ下さんからするとある意味結衣といろはも恋敵みたいなものだろうし、そんな感情を抱いていてもおかしくは無いだろう。

 

 「あの、あたしってもしハッチンやゆきのんと出会えなかったら多分、ううんきっと今頃はすっごい駄目な子だったと思うんです。

 何てかあたしって昔っから優柔不断って言うか自分を持たないってか、周りに流されてえっと…ああそうだ『長いものに巻かれる』みたいな、そんな感じだったと思うんです。

 でも今は違います、ハッチンとゆきのんといろはちゃんと出会って自分のそう言う弱い部分を三人が指摘して注意してくれて、そうしてちょっとずつ変わって行けたんです。

 特にハッチンとゆきのんはあたしには無い自分ってのを確りと持っててちゃんとしてて、でも何処か抜けてるってか独特すぎてちょっとアレなところもあったりして、そう言う所は案外あたしやいろはちゃんの方が上手く対処出来たりとかしてあたしはそんな三人が大好きで。

 えっとそれで、あのだからあたし達ってそうやってこれからも自分に足り無い所を四人で補い合ってきっと上手くやっていけるってそう思うんです。」

 

 若干だが雪ノ下さんの(プレッシャー)にビクつきながらも結衣は切々と己の想いを確りと告げ切った、その態度には彼女の確かな成長の跡が見て取れ、何だかな結衣のその姿とその成長とが俺はとても誇らしく思えそして先の雪乃の姿にも劣らぬ美しさを見た。

 いや、改めてこんな素敵な少女達が俺なんかで良いのだろうかと思わずにはいられない。

 

 「結衣さん、ありがとう。」

 

 雪乃は顔を横に向け結衣に優しく微笑んで感謝の言葉を贈るり、結衣もそれに応える様に満面の笑みを湛えて『うん』と一言応える、そして太陽君と由美ちゃんが見つめ合い心で会話する様に二人もまた、うんこれぞ正しきゆるゆりの在るべき姿。

 

 『嗚呼、尊い!』と俺は二人の姿に心洗われる思いを懐いたんだが、しかし肝心なのは結衣からその想いを語られた雪ノ下さんだ。

 その雪ノ下さんが果たして結衣の言葉に何を思いどの様に解釈し、どの様に返してくるのか此処がある意味正念場ってヤツだろう、雪ノ下さん貴女はどうそれに応えますかね。

 

 

 

 「……ふぅ〜ん、あっそう。」

 

 暫しの黙考の後の雪ノ下さんの第一声がそれだった。

 

 彼女のその声音に含まれているモノは侮蔑、いや侮蔑未満の限りなく無関心に近しいモノの様に思える。

 どうやら結衣の想いは雪ノ下さんには届く事無かった様だな、彼女のその心を解かし動かすには至らなかった様だ。

 

 「ねぇ、由比ヶ浜ちゃんだったかな、面倒くさいからガハマちゃんって呼ばせてもらうね。」

 

 「あっ、はい。」

 

 雪ノ下さんから呼び掛けられ結衣はその身をピクッと反応させ返事を返す、これから何を言われるのか不安感と緊張感とが彼女にそんな反応をさせてしまったんだろうな。

 

 「何てかさ、物は言いようだよね。」

 

 「えっ!?」

 

 「おやぁ、解らないかな。」

 

 これはやはりと言うべきか、雪ノ下さんはフッと仄暗く嗤いながら結衣へと否これは俺達も含まれるんだろう、反撃を開始した。

 

 「っ……。」 「ふぁっ!?」

 

 俺の両隣、結衣といろはが突如雰囲気を変えた雪ノ下さんに気圧されたじろいでいる、武道の心得の無い者に圧を掛けるとか本当にいい趣味しているわ、もう止めてあげてマジ。

 

 「じゃあ言ってあげるけどさ、互いに補い合ってる何て言えば綺麗に聞こえるけど、要はそれって互いに依存しあっているだけだよね。」

 

 にこやかにそして得意気に雪ノ下さんは俺達三人へと視線を向けながら言う、それは『どうだ反論が出来るのならばやってみろ』と、挑発でもしているのか若しくは『どうだ何も言えまい』と勝ち誇りマウントを取っているのだろうか、だとするとどちらでもちょっと趣味が悪いのと違いますかね。

 

 「ねぇ雪乃ちゃん、雪乃ちゃんもそう思わない?」

 

 雪ノ下さんは己が発したプレッシャーに萎縮してしまった結衣といろはの事を放って、雪乃へと向き直り二人とは違い優しい笑みを向けて同意を求める。

 ホントあんさんええ根性してはりまんなぁ、おっとイカン思わずエセな西の方の人に為りかけてしまったわ、テヘペロっ八幡自重……ってキモいな。

 

 「……はぁ、姉さん一つ聞きたいのだけれど。」

 

 「うん!何かな雪乃ちゃん。」

 

 ピンッと見えない幻の狐耳をおっ立てて喜び顕な雪ノ下さんすっげえ嬉しそうに返事してるし、マジどんだけ好きなんですかね妹ちゃんの事。

 そんな姉の様子に雪乃は深い溜め息を一つ吐いて額に手を当てた、ハイ出ました雪乃の十八番頭痛いポーズです、まぁ何だ、雪乃さんガンバです!強く生きるんだぞ俺達が影になり日向になり応援するぞ。

 

 「では言わせてもらうわね、それの何処がいけないのかしら。」

 

 声音はさして大きくも無く淡々としたものだが、その眼差しには彼女の意思の力が込められている事が確りと俺達にも伝わる。

 

 「ほへっ!?」

 

 問われた雪ノ下さんは雪乃のその問が意外過ぎたのか、何か気の抜けた声がその朱色の唇から漏れた。

 

 「何処がいけないのかと聞いたのよ、だってそうでしょう現代社会に生きているのなら人は何かしら他者に依存していても何も可怪しくは無いでしょう。」

 

 あくまでも自然体に平常運転で雪乃は姉を見据えそう告げる、別段論破しようだとかやり込めようだとか言う考えは其処には無さそうだ、ただ純然たる現実を語るだけ。

 

 だから俺も。

 

 「まぁ確かにそうだよな、食い物を手に入れるにも米や野菜穀物なら農家の方に生産を依存している訳だし、肉なら畜産農家ってな具合だしな。」

 

 ならばと俺もと、雪乃の言に続けると結衣といろはもまた得心とばかりに相槌を打ち。

 

 「あっ、そっか!」

 

 「ですね、私達が普段身に着けている服だってメーカーが製造して流通に乗って私達に行き渡るんですからね、まあ当然ながら金銭という対価を支払わなきゃですけどね。」

 

 口を開いた俺達を見ている雪乃は一つ頷くと雪ノ下さんへ再度向き直る。

 

 「そうねもう一つ加えるなら、当然聡明な姉さんなら知っているでしょうけれども、この国の食料自給率は四割を下回っているわよね、そしてその不足分を補う為には輸入に頼らざるを得ないし現にそうしているわ、これ即ち食料を他国への依存していると言う事よね。」

 

 「それだけじゃ無いよな、何だったら石油や安価な海外の石炭なんかのエネルギー資源も輸入しているしそれだって海外依存だよな、と言う事はすべからくこの世は依存に依って成り立っていると言っても過言では無いまであるな。」

 

 まぁ、それは多分に国の政策だとか企業の都合だとかが係わっているから実際はそうだとばかりは言いきれ無いんだろうがな。

 

 しかしその俺達の反論に雪ノ下さんはまるで『鳩が豆鉄砲を食った様な』との形容がピッタリ当てはまりそうな表情を顕し絶句してしまった、たが直ぐに気を取り直しちょっとムキになって反論して来る、曰く。

 

 「ちょっと何よそれッ、屁理屈もいい所じゃない社会と個人とを同レベルで語るなんて話の挿げ替えじゃない、それってさ言ってみりゃゴールポストをずらす行為と何ら変わらないじゃないよ。」

 

 だそうだ、まぁそう言えなくも無いだろうけど今の雪ノ下さんのお言葉は悪く言えば負け犬の遠吠えに近いモノだ、だがまぁ案外雪ノ下さん自身も己の不利を理解していて、それでも尚言わずにはいられなかったのかも知れんな。

 

 「姉さん。」

 

 雪乃は微かに微笑みながら気負いも無さげに雪ノ下さんに呼び掛ける、この後に続く雪乃の言葉を聞いて雪ノ下さんはどんなリアクションを取るだろうか。

 適うならばこれでこの問答の終止符となってもらいたい所なんだが、どうなるかな終わってくれないかな。

 

 「けれど社会と云うものは大多数の個が集まり集団を形成した上で成り立っているのものよ、私達はその個人の集まりである社会の中の依存と言える事柄を事例として幾つか上げただけよ、なので私達が言った事は何ら間違ってもいないし姉さんが言う様な話の挿げ替えを行った訳ではないのよ。」

 

 「うぐっ………。」

 

 雪ノ下さんは大好きな妹ちゃんにとどめをさされ力無く項垂れた、別に俺としては雪ノ下さんに口論で勝ってマウントを取ろうだとか思っていないから、流石に落ち込んだ女性を見るのはあまり精神的によろしく無い。

 何と言っても、俺の本意としてはただ俺達の事を雪ノ下さんにも認めてもらいたいと思っているだけなのだから。

 

 

 

 

 雪乃の反論によって雪ノ下さんは心を挫かれたのだろうか、項垂れたてしまい言葉も発しなくなってしまった。

 それは大好きな妹ちゃんを翻意させる事が出来なかった事による失意から来ているんだろうか、まぁ神ならぬ身の俺には人の想いを完全に読み取る事は出来ないんだが多少は推察する事は出来る、ジャンルは違うけど同じく妹を愛おしく思う者として。

 

 なので俺的には彼女に対して『心中お察しします』などと言う思いを抱いている訳なんだが、大丈夫ですか雪ノ下さんなどと声を掛ける事も何だか憚られてしまう小心者な俺。

 しかし俺達四人と、その俺達から少し距離を置いてこの一連の成り行きを見守ってくれている藤堂さんを前に沈黙していた雪ノ下さんだったが、何やら次第にその雰囲気が変わり始めた。

 小さく、とても小さな耳にはっきりとは捉えられ無い程のボソボソとした呟きが漏れ出し、ソレが少しずつ大きくなり始めそしてガバっと顔を上げると。

 

 「だって雪乃ちゃんお姉ちゃんの事大好きって言ってくれたじゃん!おっきくなったらお姉ちゃんのお嫁さんになってくれるって言ってくれたじゃん!

だからお姉ちゃんは雪乃ちゃんをちゃんと守れるように強くなろうって、そう思って頑張って来たんだよッ!」

 

 『頑張って来たんだよッ、来たんだよッ、来たんだよッ………』と俺達(多分雪乃達もそうだと思う)の脳内にエコーを無駄に響かせる雪ノ下さんの叫び、思わずこの場のみんなが呆気に取られ思考がフリーズしてしまう、それは恰もスタープラチナ・ザ・ワールドが発動し時間停止してしまったが如く。

 

 一秒経過。

 

 二秒経過。

 

 三秒経過。

 

 四秒経過。

 

 たっぷりと言えるかどうかは置いて、四秒程の間固まって居た俺達は時間停止から解かれると速攻で雪乃へと顔を向ける、どうやら今はまだ四秒しか時を止める事は出来……じゃあねぇよ、ある意味暴走した雪ノ下さんの暴露により判明した幼い頃の雪乃の発言が今日の雪ノ下さんの有り様を決定付けてしまった実が判明した訳で、なので徐ろに俺達三人はその当事者たる雪乃へと目を向けた訳だ。

 

 「ゆきのん………。」

 

 「雪乃先輩………。」

 

 「ちっ、違うのよ結衣さん、いろはさんッ、姉さんが言ったのはまだ私が幼稚園児だった頃の話であって、解るでしょうその年頃の子供って頼り甲斐のある人に全幅の信頼を寄せる、貴女達にもそんな経験があるでしょう!?」

 

 あちゃ〜っ、ヤラかしてたんだネと言いた気な表情と声音で二人に呼び掛けられた雪乃は、何とも普段の彼女からは想像も出来無い様な焦りの表情を浮かべると、あたふたと若干パニクりながらそんな言い訳を開陳する。

 

 そんな姿も可愛い、しかし雪乃の言うことも分かる俺ガイル。

 

 何なら我が比企谷家にも大天使コマチエルが降臨しているし、俺や親父はご幼少の砌の小町の『お兄ちゃん大好き、小町大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる』とか『お父さん大好き、小町大きくなったらお父さんのお嫁さんになるよ』の言葉に気を良くしていたものだ。

 まぁ最終的には『ロックお兄ちゃん大好き、以下略』となったんだが……。

 てか何だよ冷静に思い返して見るに小町ってもしかすると幼い頃から俺達を言葉一つで思うが様に転がしていたんじゃね、大好きの言葉を此処ぞと言う場面で的確に使う言葉の魔術師ナチュラルボーン大好き詐欺師だったのか!?

 

 「アハハハ、まあ落ち着いてよゆきのん……」

 

 否それは違うんだけどな、まぁ話を戻すとしよう、あたふたと言い訳をするする雪乃に結衣といろははそれを宥める様に声を掛け、続けて自身の経験を語りはじめた。

 

 「あ〜、うん小さい子ってさそう言う事確かに言っちゃうよね、あたしもちっちゃい頃パパにそんな事言った事があるみたいでさ、あたしがちょっとパパウザいとか言うと何か涙目で『結衣は小さい頃はパパのお嫁さんになってくれるって言ってたのに』とか言って悄気るんだよね、そんな小さい時の事とか覚えてる訳無いじゃんね。」

 

 「確かにですよねぇ、まあ私は多分うちの父にそんな事言った記憶はありませんけど、身近に居る異性に頼り甲斐や親愛を感じて好意を抱くってよくある話ですよね、所謂小さい女のコあるあるですよねそれって。」

 

 二人の言葉に意を得たのか雪乃の表情には安堵の色が現れた、雪乃としては心底ほっとしたってところだろう。

 

 「でもさ、まあゆきのんには悪いかもだけどさ、お姉さんにそれはあんま聞かないよね。」

 

 「ですね、私もそれは聞いたことがないですし、それを真に受けるお姉さんってのもちょっとアレですよね。」

 

 「ええっ!?そんな……結衣さん…いろはさん……」

 

 だがしかしその後に続く言葉は雪乃に取っては甚だ不本意で尚且信じられないお言葉だった様で、うるっと絶望感を漂わせた目尻に微かに光るものを滲ませている、どうにも二人の同志のフレンドリーファイアに雪乃は絶望した様だ。

 

 「ちょっと君達さあ、そんな自分達の狭い価値観で私達の事を論じ無いでくれないかな、それだけ私達姉妹の絆と想いは固く結ばれていたって事の確かな証なんだから他人にとやかく言われる筋合いは無いんだけど!」

 

 しかしそんな妹の窮地にこのシスコン姉ちゃんが黙っている筈も無く、絶望に打ち拉がれる妹を援護すべく雪ノ下さんは立ち上がり喧々囂々たるガールズバトルが勃発し、道場内は姦しさを増す。

 まさに字の如く女三人寄ればで、俺はそれ様子を産まれたての子鹿のように震えて見ている事しか出来ないでいる。

 

 『あぁ、もう誰か止めてくれ』と願う事しか出来ない俺は、この成り行きを静かに見守る藤堂さんに救いを求め視線を送るが、俺の視線に気が付いた藤堂さんはニコっと穏やかな笑みを浮かべるだけだった。

 使えねぇ〜、何て失礼な事を内心に思った俺たがコレは悪く無いだろう、いや悪いのだろうがそう思ったとしてもこの場は已む無しだろう、と思う。

 

 「ですけど女性同士じゃ子供だって授かれないんですよ、なのではるさん先輩の雪乃先輩への想いは不毛だと私は思いますけどね。」

 

 「そうですよ、それに陽乃さんとゆきのんは家族なんですから結婚なんて出来っこ無いし!」

 

 「なによ、そんな逆境なんてあたしの想いの力でどうとでも捻じ曲げてでもふきとばしてでもやって見せるわよ!」

 

 尚も続く女の闘いに辟易としながらも打開策が浮かばない俺はただただ黙って事の成り行きを見ているしか無いのかとあきらめムードを漂わせていた、だって仕方が無いよな女性陣怖いし、超怖い。

 

 しかしそんな俺の願いが天に届いたのか遂に俺の前に救いの神が降臨された。

 それは襖の戸板が滑り開かれる音を響かせて顕現された、鋭い眼光を輝かせ結い上げた和装の髪型と和服姿の淑女の姿を以て我等が前に現れし神。

 

 「貴女達、もう其処までにしておきなさい。」

 

 凛と響く声音を以て一言の元、姦しく言い合う少女達を窘めるその挙措はまるで大地割りそそり立つ姿の如く大いなる威厳を感じさせる。

 

 「なっ……母さん……何でッ、どうして此処に母さんが居るの?」

 

 そう誰あろう、それは紛れもなくこの場に居る二人の姉妹の母である『ままのん』事、雪ノ下母乃さんであった。

 雪ノ下さんはその姿に恐れ慄きながらも何故にままのんがこの場に現れたのかと言葉に詰まりながらも問う。

 

 「何でと言われても、陽乃貴女が八幡君を相手に何やら善からぬ事を企んでいるとの情報を得たので雪乃達と此処へ訪れたのですよ。」 

 

 シャンと姿勢正しく佇みつつも右手を突き付けてままのんは雪ノ下さんの質問に答える。

 

 「えっ何、どう言う事……まさか比企谷君が母さん達にッ!?」

 

 キッと俺を睨む雪ノ下さん、だが俺には何の見に覚えも御座いませんでして、それは濡れ衣と言う物なのですが。

 俺は首を横にフルフルと振り否定するのだが「じゃあ誰が言ったのよ」とキチンと見の証を立てなければ信じないぞと俺を睨めつける。

 そんな雪ノ下さんのお怒りの状況にビビリつつもおずおずと手を上げて結衣が名乗り出て話始めた。

 

 「あの、実はあたしがハッチンに朝から電話掛けてたんですけど、ハッチンが電話に出ないから小町ちゃんに連絡取ってみたんです、そしたら藤堂さんの道場に行くって言って出ていったって聞いたからゆきのんに連絡して……。」

 

 「それで、私も朝から姉さんが都筑さんに車を出してもらって出掛けて行ったのをたまたま見掛けたからもしかしてと思って帰ってきた都筑さんに問い質したのよ。」

 

 結果俺と雪ノ下さんが手合わせをするこ事を知り、そして結衣といろはとも合流して此処へとやって来たと言う訳だったのですね、八幡解りました。

 

 「ですがまさかこんな事になっていようとは思っても見ませんでした、ごめんなさい八幡君、うちの娘がご迷惑をお掛けしました。」

 

 事の顛末を明かし俺に謝罪までしてくれたままのんはに俺は極ありきたりに、気にしていませんからと差し障りの無い返事を返すのが精一杯だった。

 何と言っても今回の雪ノ下さんの行動とか今までの言動とかには母親として思うところが多々あるのだろうと、人の親ならぬ身の若造の俺にはそんな想像を働かせる位が精々だからだ。

 

 深く頭を下げた後、その頭を上げままのんは次いで未だにままのんの予想だにしなかった登場に慄く雪ノ下さんへと向き直り関係の無い俺でさえもが凍て付くほどに底冷えする様な冷徹なる声音を以て告げるのだった。

 

 「さて陽乃、貴女は普段から私や父さんの手伝いを良く果たしてくれて居ますし、雪ノ下家の家名に泥を塗る様な真似をしないのであればある程度の自由は許すつもりでいましたけれど。」

 

 雪ノ下さんを睨みつつお小言を言い聞かせ、俺を始め高校生組が予想だに出来なかった否、雪乃は知っていたかも知れないが、強烈なプレッシャー。雪ノ下さんへと浴びせ掛けると堪らず雪ノ下さんは。

 

 「ひッ……。」と小さな呻きを漏らし後ずさる、まさか俺を相手にあんな死闘を繰り広げた雪ノ下さんがこんなに怯えるとはな。

 

 「貴女にも抱えている思いも在るでしょうが、しかし流石に血を分けた実の妹に懸想するなど以ての外です!」

 

 ズビシッと人差し指を雪ノ下さんに突き付けて恰も弾劾するかの様に、いや紛れもなく弾劾してるんだけど、ままのんは母親として雪ノ下さんを正道へと戻そうとしているのだろう。

 

 「……でも、だって私は……。」

 

 「デモもだってもありませんッ、それに何ですか先程貴女は雪乃達の事を共依存だの何だのと蔑む様な事を言っていましたけれど。

 気が付いていますか陽乃、何よりも誰よりも貴女自身が雪乃に対して心底から依存しているではないですか。」

 

 「……わ、私が、依存して、る……」

 

 そうですよね雪ノ下さん、貴女ままのんが仰る通り雪乃に依存してますよ、自覚が無かったんですかね。

 さっき自身で言っていましたよね雪乃が自分を慕ってくれている事が嬉しくて強くなろうと頑張ってきたって、それって明らかに雪乃の存在を依存の或いは極端に言い換えると信仰の対象としているとも言えるんじゃないですかね、まぁその辺は何とも言えんが。

 

 「そうです、はぁ何と言事でしょう本人に自覚がまるで無かっただなんて。」

 

 ままのんの嘆く姿を雪ノ下さんは戦々恐々として眺めやる、まるでそれはこれから何やら我が身に恐ろしい事が起こる事を危惧しているかの様に。

 

 「貴女をそんな歪んだ娘に育ててしまったのは私自身の不徳とする所なればこそ、その間違えは己自身で拭い糺さなければなりませんね。」

 

 篤々と己の非を口にし反省の弁を述べるままのんと、そのままのんを驚怖に慄きながらその一挙手一投足を見つめる俺達と雪ノ下さん。

 

 「……あっ、あの、母さん!?」

 

 ジッと口を噤み座った眼光を雪ノ下さんへと注ぎ、それは決意を固めた母親の強い意志の力を映し出しているのか、そんな母親の姿を固唾を飲んで見やる雪ノ下さん、その心境は十三階段を登り行く死刑囚の如しだろうか。

 

 「ここは一つ私自身が貴女を再教育を施さなければ成らぬ様ですね。」

 

 「へっ、いや、あの母さん……私もほら、もう二十歳になった事だしさその辺りはもうじゅうぶんかなって……。」

 

 「あら、何を言うの陽乃、大丈夫です安心なさいふふふ……私とて嘗ては香澄ちゃんと共に藤堂のおじさまから藤堂流古武術を学んだ身、貴女の躾程度何程の事もありませんよ。」

 

 「嫌ぁァァーっ、それってちっとも安心出来ないんですけどぉ〜っ!?」

 

 和服の袖を捲り右腕を晒して五指をメキョメキョボキボキとさせながら凄みを発する母親の姿に心底恐怖を掻き立てられ後ずさる雪ノ下さんを追いその襟首を引っ掴みままのんはホホホと咲いながら道場を後にする。

 道場を出る前に一度此方を振り向くとままのんは、フッとその固かった表情を解くと。

 

 「それじゃあ私達はこれでお暇しますね、香澄ちゃん今日はうちの娘の我儘を聞いてくれてありがとう。」

 

 「ふふふ、構いませんよ二人共またいらしてね。」

 

 気さくな態度で互いに別れを告げるままのんと藤堂さん、長い時を友とし友誼を結んできた二人にはそんな態度でも解り合える絆の深さが窺える。

 そしてままのんは次に俺へ向かい一つ頭を下げて、言葉をかけてくれた。

 

 「それと八幡君、貴方には多大な迷惑をお掛けしました、そしてこの馬鹿娘の相手をしてくれて本当にありがとうございます。」

 

 「あっ、はい……いいえそんな俺は別に改めて御礼を言われる様な事はしてませんから、どうかお気になさらずに。」

 

 「フフっ、そうなのですか、私達は此れで失礼しますけど後は貴方達四人で確りと話し合う事ですね。」

 

 「……うっす。」

 

 ままのんは俺の余り行儀の良くない返事に頷くと『では』と一言告げて道場を後にして行った、長かった様で過ぎ去ったら、やっぱり短くは無い雪ノ下さんとのイベントはこれにて終了と相成ったのだが。

 しかしままのんは最後に俺に置土産を残してくれた訳で、どうやら俺にはこの後もう一波乱が待ち構えているのは確実で、嗚呼なろう事ならば透明人間にでもなってこの場をエスケプりたい。

 しかしそんな願いが叶う訳は無く、俺にはママより怖いお仕置きタイムが待っている事なのだろうな。

 

 




この後、三人からたっぷりとお説教を喰らいました、モチのロンで当然正座で。
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