やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
八月某日、千葉村PM10∶00〜ジョー・ヒガシ
夏真っ盛りのこの季節、地球温暖化の影響だのと言われ街場にあってはエアコンが無ければ安眠も出来ぬ程の熱帯夜が続くこの時期でも、青々とした木々も生い茂る高現地である此処は千葉村はそんな街場よりも気温も低く過ごしやすい気候でありこの時間帯ならば寧ろ肌寒くさえある。
そんな中『嵐を呼ぶ男』と呼ばれるムエタイチャンプは前日の夜、弟分とその同級生達と共にとある少女が直面していた思わしく無い状況をどうすべきかを話し合った休憩スペースの木製の長椅子に腰掛けテーブルに両腕を掛け、周囲には遮る人工の輝きがほぼ皆無な為に街場とは違い満天に輝いて見える無数の美しい星空を眺めながら感慨に浸っていた。
それはこの日の夕刻を前に、彼にとっては弟分たる少年比企谷八幡との初めての真剣勝負の様子を思い起こしていての事であった。
「フッ、たくよぉ八幡のヤツやりやがるじゃねぇかよ。」
輝く銀河の星々に向かい、表情にはサッパリとした漢好きのする良い笑顔を湛え爽やかささえ感じられる声音で呟く。
その後暫くの時間彼は無言で輝く星を眺めやっていたが、ふと思い立ち着用している膝下辺りまでしか無いベージュ色の半ズボンのポケットから愛用のスマートフォンを取り出すと、慣れた手付きでそれを操作し彼にとって馴染みの相手である男のアドレスを表示させると、その相手に電話を掛けた。
ごく僅かだが、相手の電話に繋がるまでに時間が掛かってしまったが直ぐに呼び出しのコール音がスピーカーから聞こえて来る。
その回数が五度程響くと相手がその着信を受けた様でコール音が止む、すると幾ばくかのラグをおいて聞き慣れた男の声が受話スピーカーから響く。
『ハロー、よう久し振りだなジョー元気だったか?』
ジョーのスマートフォンから伝わるその声はまるでその人物の為人を現しているかの様な、陽気で朗らかで明瞭な声音で以て響いてくる。
「おう勿論だぜ、へっだがお前ぇも元気そうじゃねぇかよテリー、今は大会の真っ最中なんだろう。」
電話の相手は彼にとってはもう随分と長い付き合いになる、親友でありライバルでもある男。
そして同じ少年を弟分として同様にその少年に対して自らの技を伝える師匠的立場にある男、世界トップクラスの実力を持つ格闘家『伝説の狼、テリー・ボガード』
『ああ昨日予選大会が終わってな今日と明日はインターバル期間で明後日から本大会開始だから、取り敢えず今は部屋でノンビリしていた所さ。』
「何だそうだったのかよ、で、当然お前の本戦出場は確定として他の連中はどうどったんだ?」
セカンドサウスに於いて約十年ぶりに開催されたシングルマッチによる『キング・オブ・ファイターズ』ディフェンディングチャンピオンであるテリーには当然出場のオファーがあり、主催者サイドからは本来シード選手として予選大会の出場は免除されていたのだが本人たっての希望で、より多くのファイターと手合わせをしたいと望み予選大会にも出場したのであった。
『ああ俺は勿論だがロックと北斗丸のヤツも本戦に勝ち進んだぜ、しかもこの大会にはあの極限流の遣い手までもが出てきたんだ、まあ無敵の龍や最強の虎じゃ無いのは残念だけどな、けどそいつと
テリーが心の底から今大会を楽しんでいると云う事がその弾んだ声音からアリアリと伝り、ジョーはそんなテリーの出合った当時から変わらぬ格闘バカっぷりが嬉しく、そして可笑しくてたまらなかった。
「ほうそいつはまた奇妙な偶然ってヤツだな、一昨日八幡のヤツに聞いたんだがアイツの学校の同級生にも極限流の遣い手がいるんだとよ。」
数ヶ月ぶりに電話機を通して互いの近況を語り合う二人、三分程そうやって語り合っていたがやがて其処に何かを察したテリーはジョーに対して本題を切り出す様に促すのだった。
「へっ、やっぱ付き合いも長くなりゃあそれなりにお互い色々と解っちまうモンなんだな、まさかテリーお前ぇ俺の事を愛してるんじゃねぇだろうな!?」
ジョーはそのツンツンと尖って上を向く黒髪をボリボリと掻きながら、自分の思いを察してくれた親友に対してそんな減らず口を叩きながらも、その顔は気持ちの良い微笑みを湛えていた。
『ハハッ、ソイツはゾッとしねえジョークだなジョー、あんまり笑え無い冗談を言うのは止めとけよ受けなかったら自分が惨めになるだけだゼ。』
「チッ、うっせぇなァこの格闘馬鹿アニキはよ。」
『オイオイ、ジョーそりゃあお互い様ってヤツだろう。』
「へっ
その様に気心の知れた二人の関係故の減らず口の叩き合いもこれまでと、ジョーは気持ちを切り替え改めて本題を語るべくその口調と態度を改めるのだった。
それは先程までこの場でジョー自身がこの場を訪れ感慨に浸る原因となった昼間の出来事、それを彼はテリーへと語るのだった。
「……まあ、てな訳であのヤロー最後の最後にパワーゲイザーを俺に
所々オーバーアクションを交えながらもサッパリと清々しさ溢れた声音でジョーが結果を伝えれば、テリーもまたワクワクとした好奇心に満ちた声音で合いの手を入れる。
『へえ、じゃあ結果はドローって事だったんだな、フッしかしやりやがるじゃねえかハチマンのヤツ、ジョーを相手に引き分けに持ち込むなんてよ。』
「ああ、あのヤロー生意気にも成長の足跡ってヤツを確りと俺に見せつけやがったぜ。」
二人共通の弟子であり弟分でもある少年の成長が何よりも嬉しい様で、語る方も聞く方も互いの姿は見えずともその互いがどの様な表情をしているのかがアリアリと脳裡に浮かぶ。
それもまた彼等の長い付き合いの時間で築き上げてきた絆、そして気性、為人を熟知しているが故であろう。
『そうかあれから八年ハチマンも着実に成長してるんだな、ハハッそいつは今から秋が楽しみだな。』
「そうかテリーお前、秋には此方に来る予定なのかよ。」
テリーの語り口から彼が秋に来日予定だと知ったジョーだったが、残念な事にその時期彼は格闘大会出場と教え子達の試合とが重なってる為自身はその時期来日が出来ない為に、久し振りに友と会う機会を失してしまった事を残念に思うのだった。
『ああチョイと日本で、いや千葉でやる事が有ってな。』
「ほう、ソイツはもしかして何かのイベント事に参加するとかって事だったりするのか、今んところ格闘関係の大会があるなんて話は八幡からは聞いてないからな。」
『ハハハッよく解ったなジョー、だけど主催者サイドからは正式発表があるまでは内密にって事だから詳しい事は言えないんだけどな。
まあそこんトコロは置いといてもだがな、俺もロックもハチマンやコマチやヒキガヤの兄貴と姉貴に会えるってのも、やっぱり嬉しいしな。』
来日する度に自分達を家族として迎えてくれる比企谷家の皆の顔を思い浮かべながらテリーが自らの思いを口にすればジョーの方も「確かにな」と返す。
「けどなテリー今回はそれだけじゃあ無ぇんだぜ、聴いて驚けよ!
八幡のヤロー三人の女の子に同時に惚れられて挙げ句に一遍に告られやがってよ、アレには流石の俺様もビックリこいちまったぜ!」
『What!?マジかよジョー、それでハチマンのヤツはどうしたんだよ!』
想像だにしていなかった弟分の色恋沙汰と云う意外な情報にテリーは出歯亀根性を丸出しにして、その情報の詳細をジョーに求めるのだった。
「まあ待てよ、そう慌てんなって今聞かせてやるからよ。」
ジョーの方もまたテリーがその様な反応を示すだろうと予想が付いていた事もあり、そしてジョー自身が騒動事を好む性格でもある為八幡と奉仕部の少女達の事を、そして八幡にとっては初めて得たであろう親友と呼べる存在戸塚彩加の事を嬉々として語るのだった。
『なるほどな、フッ……ハチマンのヤツとうとう逢えたんだなハートで繋る事の出来る仲間ってヤツとよ、しかもあの日俺に花束をくれた女の子達だったなんてな、コイツはまた日本へ行く楽しみが増えたぜ。』
「おう、楽しみにしとけよテリー、みんないい娘達ばっかりだからよ。」
『ああOKジョー、Thanks!、しかしまあアレだなハチマンのヤツがそんな状況になってんなら、そのネタを利用してロックのヤツにもガールフレンドの一人や二人作る様にけしかけられるってもんだな。』
「おいおい、ちょっとからかう位なら構やしねぇんだろうがよ、あんまりやり過ぎると子供に嫌われっちまうから気を付けろよ“オヤジ”さんよぉ!」
八幡に託けて悪乗り次いでにロックをもけしかけようと企むテリーにからかい当て付ける様に、オヤジと言う単語を強調するジョー。
『ハッ!言ってくれるじゃねぇかよジョー、まあ確かに俺はロックの親権を得ちゃいるが気持ち的には親父ってより兄貴って心積りで……ってまあ良いか。
それよりもジョー、結構な時間話してるが大丈夫なのか。』
反論を試みようとするも、サウスタウンと日本との時差などを考慮してテリーはジョーへと問い掛ける。
言われたジョーの方も確かに結果な時間を話していたなと思い至り、スマートフォンのバッテリー残量も気になる頃合いだと判じ話を切り上げる事にした。
「そんな訳でよまた近い内に連絡するからよ、大会精々ガンバっとけよ。」
『ああ、お前もなジョー、それじゃあまたな。』
再会を約して二人は通話を切り、ジョーはポケットにスマートフォンを仕舞うとボリボリと頭を搔く、そしてその表情は何やら気恥ずかしさと言うかバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「ふ〜っ、イヤすいません待っていてくれたんすよね電話が終わんのを、静さん。」
そして振り向きもせずにジョーはその
「はい、いえ大切なお話をされている様でしたので、テリー・ボガードさんと話されていたのですね。
すみません私は邪魔をしてしまったのでしょうか。」
ジョーの方からみて彼の背後に当る方向、宿泊施設の方からこの場へと訪れた平塚静は何とは無しにジョーがテリーとの会話を打ち切ったのは自分のせいなのではと推察してそう問いかけ謝罪の言葉を述べる。
「いやっ、そんな
「そうでしたか、なら良かった。」
ジョーは平塚の方へと振り返りながら申し訳無さげな彼女へと答え、平塚もまたその言葉にほっと胸をなでおろすとジョーの元へと近づき彼が座るイスノ対面の椅子に腰掛ける。
二人の間には差し挟まれたテーブルが存在し、それは恰もこの出逢って間もない二人の男女の微妙な距離感を顕していると云う訳では無く、単に二人がこの新たに始まった恋愛に関して案外不器用なだけなのかも知れない。
その証拠に二人は向き合って椅子に腰掛けていながらも、頬を紅に染めて照れ臭そうに視線を逸したり向けてみたりと忙しなく動かし、まともに合わせることを出来ずにいる。
それは恰も付き合いたての中学生カップルの如くある種初々しくもありもどかしくもある、暫しの間続く気不味い沈黙の時。
しかしこれではいかんと意を決しその気不味さを打ち破ったのは、此処は己がリードすべきと決意した(大した決意では無いが)男性たるジョー・ヒガシの方からだった。
とは言えど、やはり照れ臭さが先立ってか意中の彼女のご尊顔を直視出来ず頭を搔きつつのチラ見しながらになってしまっているのは致し方なしか。
「なん
ジョーよりその様に言われた平塚は一瞬はて何の事だと思考を巡らせる、常の彼女であればジョーの言葉の意味に直ぐに気が付くであろうが、十代の頃から憧れていたヒーローの一人でありこの数日間の交流を重ね憧れ以上に恋慕の想いを寄せる様になった男との逢瀬に、何処か浮かれている部分があったからだろう。
「なっ、ジョーさん何を仰られるのですか貴方が格好悪くなどある筈が無いでしょう、寧ろ私は比企谷と相対しながらも彼を教え導く貴方の姿に眞の大人のあるべき姿をまざまざと見せつけられた思いですよ。」
しかし彼女も流石は大人の女性、ジョーの言葉の意味を直ぐに理解し自らの思いを真摯に情熱的に彼へと伝える。
「えっ、いやでもほら俺八幡の奴相手にほぼ負けって言ってもいい位の醜態晒したんすよ、これまで彼奴に技を教える立場にあったってのに。」
「それはジョーさん、貴方やボガードさん達の指導が適切で確かな物であったと云う事を如実に現している事を物語っているのではないですか、御三方の教えを元に比企谷は常に研鑽努力を怠らず遂にはジョーさん……貴方と云う、彼にとってはきっと大きな目標の一つだろうと思いますが、その目標に着実に近付いていると云う事を貴方を相手に示したのですよ、ですから貴方はその事を自らの誇りとして構わない筈なんです。」
「そっ、そうっすか。」
己の事、弟分の事、そして仲間達の事を真剣な眼差しと声音で以て語る美貌の女教師の勢いに百戦錬磨の格闘家たる男が思わずたじろぐ。
「はい、それはもう間違い無く!」
平塚はテーブルにバンッと音を点てて両手を着きその身を乗り出し、その顔をジョーの顔の眼前まで近づけ力強く肯定の意を示す。
己の目の前に迫る美貌にジョーは思わず生唾を飲み込み、一連の会話の流れも頭から離れただ彼女を『眼の前で間近で見ると本当に綺麗な
「…………ゴクッ………。」
「……はッ!?」
ジョーの生唾を飲み込む音が小さく響き二人は互いその距離が近過ぎる事に今更ながらそれを意識してしまい、平塚は慌ててその乗り出していた身を引き離して慌てふためく。
「その、しっ失礼しました……。」
「いやッ、全然平気っすよ、寧ろスゲェ良い物を見せて貰ったっすよ。」
「いえ、お見苦しい物をお見せしてしまいまして………。」
三十路男とアラサー女の年齢にそぐわぬ不器用に展開される恋愛模様、やがて二人は言葉を無くしその場に沈黙の時間が訪れる。
『拙いなこんなもんはどう考えても俺のキャラじゃ無ぇぞ、いい加減この場の雰囲気を変えなきゃいけねぇよな、はぁどうするよ八幡のヤツみたいに何かアホなネタでもかますか……イヤイヤそれじゃあ静かさんをドン引きさせる事になるのは火を見るよりも明らかだぜ。』
『はぁ、これは私とした事が失敗したのだろうか、まいったなもしかするとジョーさんにはしたない女だと思われなかっただろうか……けれど、間近で見てもジョーさんは本当に凛々しく漢らしい御顔をしていらっしゃる、素敵だ。
私のこれ迄の不幸な恋愛遍歴はもしかしたらジョーさんと、この
訪れてはいるが内心は二人共にこの状況をどう打破すべきかなど、その他の事を脳内で忙しなく思考を巡らせているのだがそれは互いに知る由も無い事なのだが。
『あーっクッソ、もうあれこれ考えんのは止めだッぜ俺は俺らしく何時もの俺を貫くノミだ!』
頭をガリガリと乱暴に掻きむしりながらジョーは自身の有り様を取り戻し、そして目の前の女性に向き合うと決意表明を行うのだった。
「そうっすね、やっぱ天才は天才らしく堂々としてんのが一番っすよね。」
白い歯を少し剥き出しニカッと笑いながら、顎に手を当てて調子の良く自己肯定発言を彼女に聞かせる。
「えっ……ええそうですともッ、豪快にして痛快なる日本男児、嵐を呼ぶ男それが伝説の餓狼の一人ハリケーンアッパーのジョー・ヒガシですよ。」
平塚はジョーの急な態度の変化に一瞬言葉に詰まるり戸惑いそうになっが、その彼の変化が良い方向に向いている事を見て取り同意し、それを更に煽るように囃し立てる。
「な〜っハハハハハッ!そうでしょうそうでしょう、やっぱ俺様はこうでなくっちゃな!」
両手を腰に添えて豪快にそして高らかに笑う、それは見る者によっては下品な笑いだと唾棄する者もいるだろうが、少なくとも平塚にはとても頼り甲斐のある男らしい物と映るのだった。
その証拠に平塚の表情は恍惚としてそんなジョーの様子に見惚れている、それはある意味彼女の男の趣味の悪さを発露しているのかも知れない。
そんな彼の高笑いは数秒間続けたが、ジョーはそれをピタリと収めると再び真面目な表情を平塚へ向けると改める様に彼女へと問い掛ける。
「そのっすね静さん、ありがとうございます、貴女の様な先生に出会えて八幡のヤローは幸運っすよ、これからあと一年半位でしょうけど彼奴の事をよろしくお願いします。」
ジョーが生真面目な態度でスクッと頭を下げ平塚に弟分の学校生活のサポートを願い出ると、平塚もまたそれに合わせる様に真摯な態度で了承の意を示す。
「はい承りましたジョーさん、私では些か力不足ではありましょうが微力を尽くす所存です。」
平塚の返事を期に二人は視線を交わし合う真剣な眼差しを以て、そしてジョーはその眼差しの熱さと変わらぬ熱の籠もった真剣な声音で、彼女へと一世一代の告白の言葉を告げた。
「静さん、俺って男はこの通りの男っすけど、もし貴女がこんな俺でも構わ無ぇってのなら正式にお付き合いをしてくれないっすか。」
その告白の言葉に平塚は感極まり一滴の水滴が目尻から零れ落ちる、そんな自分の状況に慌てた様に彼女は指先でしの雫を拭い返事の言葉を、彼と出会った二日前からそうなれたらなと彼女が願っていた彼の言葉に否との言葉があろう筈も無く。
「……はい!私の様ながさつな女で良ければ是非とも、よろしくお願いしまジョーさん。」
僅かに頬を朱に染めた穏やかな表情を意中の男性に向け彼女はそう答えたのだった。
「ヨッシャーッ、静さんありがとうございますッ!まあ暫くの間は遠距離恋愛ってヤツになるんだろうけど、よろしくお願いします。」
林の中にも大きく木霊しそうな程の大音声でガッツポーズを決め、ジョーはテーブルから離れて彼女の側に寄りその両手を取りながら言う。
「はい」と小さく呟く様な返事をジョーに返すと二人は見つめ合い、やがて少しずつその二人の顔が距離を縮める。
「…………。」
無言で見つめ合い静はゆっくりと瞼を閉じて口唇を彼に差し出す様に首を上向きに曲げ、その時を待つ。
その彼女の思いに応える様にジョーもまた、彼女とは逆に首を下方に曲げてゆっくりと彼女の右頬に自身の左手を添えながら顔を近付けてゆく。
「………はぁ〜っ、静さん本っ当にすんません。」
もう後数センチで互いの口唇が触れ合う距離まで近付けておきながらジョーは溜め息と共にその行為を停め彼女に詫びるとその距離を離してしまった。
「えっ、あ…あのジョーさん…」
そのジョーのあまりな行動に静は戸惑い何故に彼がその様な行為に出てしまったのかが解らずに困惑し、不吉な考えがその頭を過る。
自分の何かが彼の気を損ねてしまったのか、顔を近づけて近距離からアップで見たら小皺が目立ってでもいたのか、それで彼が自分に幻滅したのかなどとマイナス思考が彼女の脳内が駆け巡る。
「いや、こんな素敵な場面だってのに俺の身内がどうもすいません。」
だが彼女のそのマイナス思考は杞憂に過ぎずその問題とは他の処に在った、ジョーはキッと眼光鋭く直ぐ側の林の中に目を向けると、大きな声を出して呼ばわる。
「オイ隠れてんのは判ってるんだ、痛い目ェ見たく無ぇならとっとと出て来やがれってんだ!」
そのジョーの声に林の中からやがて何やらボソボソと女性の声でアレコレと話をする声が微かに聞こえて来る、それにより静もまた己がどの様な状況にあるのかを理解した。
「……にゃ、ニャ〜ン。」
「…ほっ、ホーホケキョ。」
しかしジョーの誰何の声に応えたのは明らかな人間の声真似による猫の鳴き声と、何故かは理解出来ないが鶯の鳴き声の真似だった。
「ほう、お前ェらいい根性してんじゃねぇかよ覚悟は出来てるみたいだな、アーーーんッ!!」
両手の指ゴキゴキと鳴らし序に首の骨もコキッと鳴らしながらその林の方にゆっくり歩みながらジョーが呼ばわる。
「きゃ〜〜っ、ジョーお兄ちゃんごめんなさいぃ〜っ!」
「あっ、待ってこまちゃん自分だけ逃げるなんてズルいわよ!」
「テメーらッタダじゃ済ませ無ぇぞ、待ちやがれ小町ッ、舞ッ!」
ジョーと静の逢瀬を出歯亀していた犯人はその声から小町と舞だと二人は理解し、ジョーは蟀谷をヒク点かせながら逃げを決め込んだ二人を追い掛け林の中へと駆け去っていった。
そのジョーの走り去る姿を呆然と見つめる静は恋の前途はもしかして多難なのだろうかと、思ってしまったのは致し方無い事だろうか。
「静ちゃん邪魔しちゃってゴメンナサイねぇ〜ッ!」
「うわ〜ん、平塚先生ごめんなさぁ〜いジョーお兄ちゃんとおじあわぜにでずぅ。」
彼女の幸せな逢瀬を妨害してしまった二人の声が林の中から木霊し、何故かそれがとても可笑しく静はフッと苦笑するのだった。
「これでも喰らえやぁーッ、ハリケーンアッパーァッ、オラオラッオラオラオラァーッ!」
それに続くのはたった今迄己と愛を語り合った愛する男の必殺技を放つ声、こうして平塚静とジョー・ヒガシの林間学校最後の夜はどうにも締まらない形で幕を閉じた。
本当は千葉村編の後直ぐに入れたかったエピソードを此処で入れてみました、ジョーとテリーの会話から最後は良い感じに大人二人の恋愛模様で終わろうかと思いましたが、ジョーならこんな感じのオチが着く方が良いかと思い出歯亀女子二人をブッ込みました。
次は近い内にテリーとアンディの会話劇とか行ってみたいと思っております。