やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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番外編その7 狼のエンブレム。

 

 八月八日 アメリカサウスタウン、パオパオカフェ ボガード兄弟Withロック・ハワード AM8∶30〜

 

 早朝のまだ開店前の静かな店内のカウンター席に美しい金色の長い髪を持つ二人の男が並び座る。

 一人はその髪を肩より少し胸元あたりで切り揃えたガッチリとした筋肉質の力強さと頼もしさを感じさせるその恵体をボア付きフライトジャケットに身を包んだ男と、その右隣には隣の男よりも二十センチ以上は長い髪を邪魔にならない程度に軽く束ねて纏めていて、やはり筋肉質ではあるが隣の男よりも比較的小柄で均整の取れたスプリンターの如き肉体を華美では無い無いが仕立ての良いジャケットに身を包んでいる。

 

 そしてカウンター内にはごく平均的な長さの柔らかでサラサラの美しい金髪を持つ細身であるが確りと筋肉の付いた、所謂細マッチョな体格の(普段は赤と白と黒の三色のカラーで彩られたライダースジャケットを纏っているが、今はそのジャケットを脱ぎ)黒いTシャツにジーンズ姿がサマになっている年若いハンサムな少年がテキパキとキッチン仕事をこなしていて、僅かな時間でその仕事を終えるとカウンター席に座る二人に慣れた手付きでグラスを差し出す。

 

 「テリー、アンディさんお待たせご注文の品だよ、つか未成年者に酒を注がせるなんて年長者としてどうかと思うんだがな。」

 

 ほんの微かにグラスとカウンターテーブルとが触れた接触音が聴こえたがその音は本当に小さく、若者が如何に繊細に丁寧に仕事を熟しているをそれが物語っている。

 

 「オゥサンクス!ロック、まあ何事も経験ってヤツさ、色んな事を経験する事で男ってヤツは人生の幅ってのが拡がるもんだぜ、それにかく言う俺だって此処ではしょっちゅうやってた事だしな。」

 

 一塊の氷が浮かぶ琥珀色のウイスキーオンザロック、そのロックグラスを受け取り礼を述べながらも若者の主張を経験の一言でやり過ごすのは、その若者の養父であり師である男。

 この街の者なら知らぬ者は居らぬであろう有名人であり謂わばこの街の顔と言っても過言では無い男。

 サウスタウンヒーロー、ワイルドウルフ伝説の狼と呼ばれる世界トップレベルの格闘家テリー・ボガード。

 

 「はぁ全く説得力があるんだか無いんだか解らねえよ、それにテリーの場合はツケを溜め過ぎるからやらざるを得ない状況になってたんだろう、だからソイツはテリーの自業自得ってものだぜ。」

 

 やれやれと額に手を当てその自身の生活能力の乏しい養父の、その適当にも過ぎる発言に溜め息を吐く若者はテリー・ボガードにより格闘技の手解きを受け、昨今はメキメキとその実力を確かなものとしつつある若き次代の狼。

 この物語の主人公たる比企谷八幡とは同門の兄弟子であり血の繋がりは無くとも心で繋がった兄弟分、そしてかつてこのサウスタウンに君臨した裏社会の覇者にして彼の養父と因縁の関係で繋がれていた相手ギース・ハワードの血を引く実の息子、ロック・ハワード。

 因みに今彼が取っているポーズは、奇しくもその兄弟分の想い人の一人雪ノ下雪乃が八幡がアホな言動を取るたびに恒例の如く取っているポーズだったりするのだが、今はそれを彼等が知る由も無い事である。

 

 「ははっ一本取られたね兄さんこの勝負兄さんの負けだよ、だけどすまないねロック、今の僕が言えた事じゃ無いけど相変わらず君には兄さんが苦労を掛けてる様だね。」

 

 そんな血の繋がらない二人の親子の舌戦とも言えない舌好調を傍で聞き思わず苦笑してしまい、血の繋がらぬ甥っ子にやはり血の繋がらぬ兄の自身の不徳を棚上げした発言を代わりに詫びる。

 不知火流骨法の遣い手であり同じく忍術を体得する美形格闘家として女性ファンの心をガッチリと捉え一時代を築いた好男子、アンディ・ボガード。

 

 「いや、別にアンディさんが謝る事は無いよ、それにテリーの世話はもう慣れてるからね今更だよ。」

 

 自分が飲む分のソフトドリンクを作りながらロックがその様に言うと、アンディは声に出さず微笑みながら内心に思うのだった。

 

 『これじゃあ何方が保護者だか分からないな』と、兄のテリーがロックグラスを掲げ琥珀色の液体の上に僅かに顔を出した氷がグラスに触れて小気味の良い音を立ててる、その澄んだ音を聞きながらテリーは何やら感慨深げに呟いた。

 

 「まあだけど俺はあと四年待たなきゃいけないんだぜ、だったらせめて気分だけでも味わいたいと思ったんだよ。」

 

 悪びれた様子もなく、ごく当たり前の事だろうとでも言う様にテリーがロックにそう答えると、訝しげな表情をさっと作ったロックは「何をだよ」と溜め息でも吐きたそうな声音でテリーにそう問い返すと、掲げ持ったロックグラスを小さく揺らしながらテリーほその問いに答えるのだった。

 

 「フッ、そりゃあ決まってるだろうロック、お前とハチマンと一緒に酒を飲める様になるまでの月日がさ、今日で丁度あと四年だろ。」

 

 そう答えながらテリーはロックが作り終えたソフトドリンクのグラスに己のグラスを軽く打ち付けた。

 アメリカの法律では飲酒が可能になる年齢は二十一歳からであり、この日迎えた誕生日により八幡が十七歳と相成り従ってロックと八幡の二人と共にテリーが酒を酌み交わすことが可能になるのが丁度四年後となる。

 カツンと響く二つのグラスの接触音に耳を傾けるとテリーは気分良さげに微笑み目線の高さまでそのグラスを再度掲げて見せると、ロックの目を見つめ「Cheers(かんぱい)!」と言うとそのグラスに口を付けるのだった。

 

 「テリー…ちっ、まだ敵わねえな。」

 

 グラスを呷る養父の姿を見つめながらロックはそう思うのだった。

 この前日まで開催されていたキング・オブ・ファイターズ、その晴れの舞台の準決勝にてロックはテリーと相対し彼に肉薄するには至ったが、残念ながらまだまだその高みを超える事敵わず敗北を喫してしまった。

 格闘者としての実力もだが、一人の人間として男としても自分はまだ兄弟分と自分とを導いてくれたこの師父を超える事は出来ていない、それがもどかしくもあり同時に己の超えるべき目標が未だ健在であるという事実が嬉しくもあり、そして彼が自分と八幡との成長を何よりも願いが望んでいてくれていると云う事が妙に照れ臭かった。

 

 「そうか、だったらお前も先ずはハチマンの様にガールフレンドを作ることから始めなきゃだな。

 それでロックどっちの娘がお前の好みなんだよ、あの拳法使いの儚げな感じの日本人のカワイイ娘かそれとも彼処で寝こけてるジェニーちゃんか、何だったらハチマンみたいに二人共ってのもアリじゃあないのか。」

 

 テリーはイタズラにウインクしながら被保護者の少年を、さも愉快そうに誂い唆す様にそんな事を宣う。

 その言葉にロックは彼らの陣取るカウンターから少し離れたテーブルに突っ伏して眠る長い豪奢な金髪の少女の方へと視線を向ける、起きている時はウザったい位に威勢が良く元気な少女が今は心地良さそうに静かに寝息を立てている、そのギャップに思わずどきまぎとしてしまうロック少年だったが。

 数秒程でその視線を外すと羞恥心から少し赤らめてしまった顔の事を誤魔化すかの様に少しムキになった風を装い彼は保護者へと抗議の声をあげた。

 

 「なっ……それとこれとは関係無いだろう、テリーッ!」

 

 否、実際シャイで女性にあまり免疫の無い彼は恥ずかしさから少しばかり本気でムキになっているのたが。

 

 「どうだかな、誰かを思う気持ちってヤツが自分に力を与えてくれたりする事だってあるんだぜ、ソイツをロックお前は知っているんじゃないか。」

 

 テリーにそう言われロックは直ぐにその人物に思い至った、幼き日初めて訪れた日本でその少年は複数人によって痛め付けられていた。

 抵抗もままならず、ただ理不尽に振るわれる暴力に耐えようと身を竦めていただけだったが、その暴力を振るう側の一人が発した言葉により少年は恐れを振り切り数という圧倒的不利を顧みず、守る為の闘いを挑んだのだった。

 

  「そうか八幡か……。」

 

 兄弟分との初めての出会いの日の事を思い出してロックは感慨深げにその名を呟く。

 アメリカと日本、互い遠く離れて暮らしているが会う度毎に組み手を行い互いの力量を試し合い、互いのその成長の度合いに更なる奮起を誓う。

 

 「ああ、ハチマンもな。」

 

 ロックの言葉にテリーは首を縦に力強く頷く、ハチマン“もな”とテリーは言ったのだがそれはその後におそらく『お前にだってきっとそう云った部分があるはずだぜ』と、口に出しては言わなかったがロックにそう伝えたかったのかも知れない。

 

 兄弟分の事を思いロックは何だか妙にしんみりとした気分になってしまい、それを払拭しようと手にしたソフトドリンクをグッと一気に呷る。

 そんな少年の思いを察したのだろう、場の空気を変えるべく二人のやり取りを見守っていたアンディが珍しく戯けた調子で兄を誂う。

 

 「フッ、まあそれは兎も角として、兄さんは後四年も待つつもりなんだろうけど、僕は一足先に三年後にロックと八幡と一緒に飲みに行く事にするよ。」

 

  「何ぃ?おいアンディそれは一体どういう事なんだ。」

 

 アンディの言葉にテリーの頭には疑問符が浮かび、即座にその言葉の意味する処を知るべくテリーは問い掛ける。

 

 「ああ、兄さんは知らないかも知れないけど日本では二十歳から飲酒が許されるんだよ、だから兄さんより一足早く日本で八幡とロックを連れて飲みに行ってくるよ、と言うかあれだけ日本に行っていながら兄さんがそれを知らなかったと言う事に驚いたよ。」

 

 アンディはフッと笑い、そして直ぐにその笑いを修めるとテリーの疑問に対する答えを、何の事は無い日本の飲酒に付いての法律を説明し得意気に兄を煽る。

 

 「おいおいマジかよ、そう言う情報はもっと早く教えてくれよアンディ。

 そうか日本でなら一年早く飲めるのかよソイツは良い事聞いたぜ、サンクスアンディ。」

 

 そしてテリーはこの場で三年後の日本行を即決で決定したのだった、何時までも変わらないんだなとアンディは即断即決思い立ったら即行動と、子供の頃から変わらぬ兄の気性を好ましく思い微笑を浮かべ頷くと、それから彼はスツールから身を軽く捻り自身の愛弟子へと目を向ける。

 

 「むにゃむにゃ……小町っちゃんオイラもう食べれないよ……。」

 

 つい今し方三十分程前、日本に居る比企谷家の面々とのリモートによる対面を行って直ぐ迄は夜通しで起きていた北斗丸だったが、今はもう眠りの精にその身を委ね何やら楽しげな夢でも見ている様で、お約束的な寝言を呟いている。

 

 「フッ、今の北斗丸の寝言を八幡が聞いたらまた何か妙なネタをかますんだろうな。」

 

 アンディは苦笑を漏らしつつ数刻前迄話をしていた弟分たる八幡を引き合いに出し独り言を呟く。

 

 「うん!?ハハハッ何だやけに静かだと思ったらホクトマルのヤツも寝ちまってたのか、まあしょうが無いさ子供に徹夜はちと厳しかったんだろうしな。」

 

 テリーの呼び掛けによりここパオパトカフェへと集ったファイター達、夜を徹しての飲めや歌えやの大騒ぎにその参加者達の殆が限界を向かてえ眠りの園へと誘われ、残るはこのカウンターに陣取る三人のみとなってしまっていた。

 

 

 

 テリーとアンディは共に一杯ずつのウイスキーオンザロックを飲み干し、既に二杯目を口にしていた。

 ロックグラスをゆるゆると揺らしながら波打つ氷の音を楽しみつつアンディは優しい声音で先程モニター越しに対面した比企谷家の面々や弟分の友人恋人達に対し、その弟分の恋人達に対する印象を言葉として紡ぐ。

 

 「安心したよ、どうやら三人共とても良い娘達の様だし、他の子達も八幡の事をちゃんと認めて付き合ってくれているみたいだしね。」

 

 「ああ、そうだな……しかしどうしてハチマンのヤツには驚ろかされたぜ、三人が三人共とびっきりの可愛子ちゃん揃いだったじゃないか、やっぱりお前も負けていられないぜロック。」

 

 アンディの言葉に頷くテリーだが、彼は数日前にジョー・ヒガシからの連絡によって八幡にガールフレンドと親友が出来ていた事を知っていたのだが、そのテリーをしても三人の少女達の想像以上の可愛らしさには冗談抜きで驚き、そしてそんな少女達のハートを射抜いた弟分に称賛を禁じ得ず、且つまた女性に対して奥手でシャイな被保護者の少年にも奮起を促さずには居れなかった。

 

 「ああ、まあそうだなって混ぜっ返すなよなテリー、それに人の事ばっかり言ってるけどそう言うテリーの方はどうなんだよ。」

 

 しかしそんなロックもいい加減言われっ放しでいる事が癪に障ってか、反撃に撃って出る事とした。

 

 「うん……おいおいロック、一体何の事を言ってるんだ?」

 

 だが、何を言っているのかサッパリだぜと態々ゼスチャーを加えながらテリーはロックへと問い返す、その仕草を八幡辺りに見られれば『テレビや映画に出てくる典型的なステレオタイプのアメリカンだな』とでも評すだろう。

 

 「ハァ、全く、何ってマリーの事に決まってるだろうテリー。」

 

 そんな保護者のリアクションに、さも呆れたぜと言わんばかりに溜め息を吐くとロックはテリーと関係の深い一人の女性の名を上げて指摘する。

 

 「えっ、マリーだって!?まあ確かにマリーは俺にとって最も気の合う友人だし大切な仲間さ、でも俺と彼女とはそんな関係じゃ無いぜ。」

 

 マリーと言うその女性の名がロックの口から出されてもテリーはまるで何事も無いとばかりに平然と、寧ろ何故その名が出て来るんだとクエスチョンマーク付きで答えるのだがロックとしてはどうにもそれが納得行かず更に言い募る。

 それは傍目から見ていても二人が互いに好意以上の思いを抱いている事は明らかだとロックにも理解出来る位に見て取れるから。

 

 「なあテリーももう三十五だしマリーだって三十路を超えてんだぜ、なのに二人共独身だし定期的に二人で会ってんだろう、ならもうそろそろその辺りハッキリさせてもいいんじゃないのか。」

 

 そして更にロックは師父を相手に、若干先程まで誂われていた事への意趣返しの気持ちもあっての事だろうが、此処ぞとばかりに攻め続けるのだったが。

 

 「止すんだロック、もうその辺で止めておきなさい。」

 

 苦笑するばかりで何も言い返さないテリーに代わりアンディが、少しムキになってしまっているロックを諌める。

 テリーへと向けていた顔をロックはアンディへと向き直り、何で止めるんだよと声無き声で何故止めるんだとでも言いたげな視線を向けて。

 

 「大人には色々とままならない事情と云う物があるんだ、それは自らが置かれた状況だったり精神的なものだったりとそれこそ人其々様々なね。」

 

 優しい眼差しをロックに向けてアンディは少年を諌めの言葉を掛け、ロックもまだ言いたい事はあったのだろうがかれの意を汲み矛を収める。

 だがこれがもしも八幡でたったら『いや、それを言うんだったら子供にだってそれなりに事情を抱えている奴は居るんじゃね』などと屁理屈を並べていたところだろうが。

 

 「アンディさん……」

 

 生真面目で常識人な、少なくともロックの目にはそう見えるアンディの言葉故にロックはその言葉を受け止めるとフッと表情を崩してアンディが付け加える。

 

 「まあ僕としても、ロックの気持ちも解らないでは無いんだけどね、だけどこればかりは兄さんの気持ちの整理が付くのを待つしかないんだよ。」

 

 素直に己の言葉に従ってくれた甥っ子に慮る様に。

 

 

 

 

 

 流石に一晩中寝ずに過ごして来た事が堪えたか、年長者二人の給仕役を努めていたロックの瞼がしょぼしょぼと上下し今にも完全にくっつき固定され様とし始めていた。

 

 「サンキューロック、俺達の事はもういいからお前も座ってろよ。」

 

 テリーがそう声を掛けると少年は素直にそれに従い年長者二人から少し離れたスツールに腰掛けると『ああ、そうさせてもらうよ』と答えると、直ぐにテーブルに突っ伏して自分の腕に顔を預けるとあっと言う間に寝息を点て始めた。

 

 「いやこりれは年長者としては反省しなければかな、どうもロックには悪い事をしてしまった様だね兄さん。

 大会を終えたばかりの昨日の今日なのに徹夜で付き合わせてしまって。」

 

 その様子を微笑ましく見守りつつ兄弟二人残り少ないグラスの中身を味わいながらアンディがそう言うと、テリーは少しだけバツが悪そうなまるでイタズラがバレて怒られた子供の様に頭を掻きながら弟に礼の言葉を述べる。

 そんな兄をしょうが無いなと思いながらもアンディは、改めて気持ちを糺すと以前から兄に対して気に掛けていた事を問うのだが。

 

 「話は変わるけど兄さんは、やっぱりまだ彼女達の事を、いやすまないこの話は止めておくよ。」

 

 しかしその件にアンディ自身も関与していた為に、それを問う事を思い止まるのだった。  

 深く愛した女性を喪ったと云うその辛く哀しい出来事により、兄が女性と深い仲に為る事に躊躇している事を。

 

 「悪いなアンディ、お前にも気を使わせちまってな。」

 

 その弟の気遣いを受けテリーがそれを素直に詫びるとアンディは目を閉じると首を左右にゆっくりと振り、気にすることなど不要と言葉無く告げる。

 

 「けど、ロックの言った事も間違っちゃいないんだよな、まあそうだなロックとハチマンのヤツが独り立ち出来る様になったらその時は俺も改めて考える事にするさ。」

 

 そう言ってテリーは弟の気遣いに対しての一つの答えを示し彼を安心させる為の意思表明を告げる。

 悲しみを癒やすには人其々違うアプローチが過程があるのだろうが、その一つに時間の経過と云うものがある。

 良くも悪くも時間が記憶を風化させてしまうと云う事もあるし、またその過程に於いて新たな別の出会いが辛い過去を払拭してくれると云う事も有るだろう。

 テリーにとっては二人の少年とマリーと云う女性との交流の日々がそれなのだろうと、アンディはそう結論付ける。

 

 そしてまた別の話へと話題を変えて二人は語り合う、それは先にモニター越しに語り合った日本に居る弟分八幡についての話題をである。

 

 「しかしな、ハチマン奴ジョーと遣り合って引き分けに持ち込むなんてな、今回の大会のロックもそうだが小僧っ子達も着実に成長して行ってるんだな。

 しかもハチマンの奴、聴く所によるとあの放浪の格闘家リュウとも手合わせしたって言うしな、今度会う時を思うと今からワクワクしてくるぜ。」

 

 そう言うと僅かに残ったグラスの中のウイスキーをグッと呷り爽やかとも取れそうなな笑みを浮かべ、テリーは来る日に思いを馳せる。

 

 「そうだね、しかもあの極限流のタクマ・サカザキ氏と最強の虎ロバート・ガルシア氏とも知己を得ていたとはね。

 僕が日本へ戻る頃には案外その御二方のうちの何方かと手合わせしているかも知れないね。」

 

 アンディものテリーの思いに同意し頷きそこへ一言付け加えるのだが、そのアンディの口にした言葉はその後直ぐに現実のものとなったのだが、この時の二人にはそれは知る由もない事である。

 

 「ところでなアンディ、俺は今回の大会少しだけ不満があるんだよ、ソイツはな御前とジョーのヤツが今回の大会に参加していなかったって事さ!」

 

 グラスのウイスキーも無くなり、この二人の兄弟のささやかな酒宴も終わりに差し掛かった頃、テリーがアンディに対して今大会の不満を口にする。

 

 「……兄さん……」

 

 「まあお前にも色々と事情ってのがあるって事は承知しているんだけどな、まあて事でアンディどうだ此処で一丁手合わせしてみないか、お誂え向きにこの店にはリングも有ることだしな。」

 

 口ではアンディの事情を鑑みる発言をもしながらもテリーは己の欲求に素直に従い、弟をリングへと誘う。

 

 「全く兄さんは、昨日大会が終わったばかりじゃないか、しかも酒だって飲んでいるんだよ。」

 

 この元気過ぎる兄にアンディは呆れ気味に返すと、テリーもそう言われるだろうと予測が着いていた様で妥協案を提示する。

 

 「解ってるさ、だからまあ少しインターバルを置いてから軽くスパーリング程度に留めるってのでどうだ?」

 

 この根っからの格闘家である兄は、こと格闘に対しては言い出したら聞かないと熟知しているアンディはその提案を受ける事とした。

 何だかんだと言ってアンディもまた格闘家としての血が騒ぐのか、そして今だ己のが目標たる兄テリーとの手合わせとなればそれも一入であろう。

 殆ど気休め程度の効果しか無いだろうがそれから三十分程の仮眠を取りアルコールを抜き、水を一杯飲み干しウォーミングアップをすませた後リングへと登るのだった。

 そしてその頃には眠りこけていた祝勝会参加者達も目を冷ましこの一戦に注目する事となり、店内は大いに盛り上がりをみせる。

 伝説と呼ばれる二人の餓狼がスパーリングとは云えども相対する、格闘の世界に身を置く者に取ってこの一戦注目をせずにはおれぬと云うものだ。

 

 「全力で行くよ兄さん!」

 

 「OKアンディ!」

 

 真正面から相対し、ファイティングポーズを取り互いにひと声かけると、その一戦は開始された。

 

 〜伝説の餓狼いまだ健在、狼は眠らない〜

 

 




次回からは本編再開の予定です。
近いうちにまた新たに格ゲーキャラを登場させたい処であります。
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