やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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狼との絆、そして新たな来訪者。

 

 長いようで短かった夏休みも間もなく終焉の時を迎えようとしている八月最終週、その夕刻の早くなったとは言えどまだ日没迄はそれなりに時間もある。

 『そんな時刻に俺は今、何時もの鍛錬場へと無人の野を征くが如く一人歩みを進める』などと御大層な事も無く、その道中の商店街をてくてくと歩いている。

 時刻が時刻だけに今現在この場にはご家庭の台所を預かっていると思われる妙齢からお年を召したご婦人方が大半を占め商店主さんや従業員の方達とあれやこれやとやり取りをしていらっしゃる。

 店員の接待的な褒め殺しの言葉に財布の紐を緩める人も居れば、逆に店員を上手い事言い包めてディスカウントに成功している遣手の御婦人も見受けらる、あの御婦人ならきっと関西近畿圏へ行っても逞しく生きていけるだろう。

 

 「終わりの見えない不景気の真っ只中に在る現代日本に於いて、果してこの中の奥様方の何人位が専業主婦なんだろうかな。

 全くけしから羨ましい限りだ、働かずに食う飯はきっと途轍もなく旨いに違い無いまである。」

 

 何て事をボソリと、ついうっかり俺は声に出してしまっていた。

 

 だって八幡羨ましいんだもん。

 

 「ハァ、あんたはこんな往来で何を馬鹿な事言ってるのさ、まあそれは良いとしても、あんたあんまり専業主婦をナメてんじゃないわよ。

 主婦の仕事ってのはね、あんたが思っているよりもずっと大変な労働なんだからね。」

 

 突如俺の背後から、そうお怒り混じりのクレームを入れてきたのは最近はすっかり聞き慣れた女子の声だっあ。

 なので俺は彼女と挨拶を交わすために後ろを振り返り、きっと少しだけ不機嫌そうな表情をしているだろうと思われる彼女に何時もの様にその彼女名を弄って誂おうと思い反転すると。

 

 「よう、川サ…キぃ……!?」

 

 反転し左手を手刀の形にしてサッと手を上げ挨拶の言葉を発しようと口を動かして直ぐに、俺は思わずその口をポカンと阿呆の様に開きっ放しにしてしまう結果となってしまった。

 

 何故なら、其処に居たのは俺がその名を弄ろうとした彼女一人では無く、二人の連れが居たのだった。

 

 「あっ、わ〜いやっはろー、はーちゃん!えへへ~っ」

 

 自身の姉が声を掛けた相手である俺が振り向いた事により、それが誰かを認識し結衣から伝播したとしか思われない、ってかそれしかあり得ない非常に残念な例の挨拶の言葉を口にしながら、にば〜っと小さな花を咲かせたかの様な笑顔の天使が俺の右半身にギュと抱き着いて来た、嗚呼なんて尊い(たっとい)んだろう。

 

 「おお、けーちゃんしばらく振りだな元気だったか、元気だよな今日も可愛いぞマイ・エンジェル!」

 

 俺の半身にその身を預けるけーちゃんのサラサラヘアーをグリグリとかき混ぜながら、そう問えば『うん!』元気に答えを返す。

 おおっ、これはあれだな、今は此処にいない俺の元祖マイ・エンジェルシスター小町と併せて『俺と友人の妹達が天使すぎる件』ってタイトルでラノベ書けば売れるな確実に。

 っと、思考がまた変な方へと向かったが其処はご愛嬌と思って頂こうか。

 

 「なぁ川崎ッ、俺今日はけーちゃんをお持ち帰りしても良いよな、今日からけーちゃんは比企谷京華だ!」

 

 俺は何処ぞの村の鉈使いの女子中学生宜しくお持ち帰りを告げると、ライトブルーを基調としたトレーニングウェアと同色のサンバイザーを装着した姿の川崎がその顔を顰め宣う。

 

 「ハァッ!?アンタ何巫山戯た事言ってんのよ、たとえ冗談でもそんな巫山戯た事言ってるとぶっ飛ばすからね!」

 

 ケンシ○ウ宜しく、両手を合わせボキボキと指の骨を鳴らしながら凄む川崎の姿は、その身に修羅を宿し何時でもどんな状況下からでも直ぐにでも即行動に移り、たちまちのう内に俺を殲滅してしまいそうだ。怖っ!

 

 「おっ、おう……解ったから冗談だから落ち着いてくれ怖いってお前、全く世紀末救世主伝説じゃ無いんだから。」

 

 瞬時にその表情を変え怒りを顕にし俺を威嚇する川崎に慄きつつも、その怒りを宥める為に発した俺の言に彼女は物凄い深い溜め息を吐き、そして『本当にしょうが無い奴だよねアンタは』と少しだけ語感を和らげてそう言った。

 その彼女の言葉に俺は安堵し、川崎と共に現れたもう一人の少女に視線を向けると、彼女は俺の目を真正面から(身長差があるから俺を見上げる形になる)見つめ静かに口を開く。

 

 「八幡師匠…………。」

 

 それは数週間前にとある切っ掛けで知り合い、その縁から俺と川崎と共に格闘技を学び始めたその少女はまだ半人前で卵の殻も全部は取れてはいない、謂わばカリ○ロな俺や川崎の事を師匠と呼び慕ってくれる。

 まだまだ俺には師匠などと呼ばれるには色々なモノが足りてはいないし、何ともそう呼ばれるのはむず痒いのだが彼女が俺をそう呼びたいのならばと受け入れている、柄じゃ無いとは思うが。

 

 「おう留美も今朝方ぶりだな、どうだ暑さがまだまだ酷しいがコンディションは調っているか、ってかトレーニングウェア新調したんだな、何かゼ○タガンダムのテールスタビライザーとかウイング部の色っぽい色調が渋くて良いな。」

 

 年齢の割にとても物静かで大人びている留美は、どうも服装などの色合いの趣味もその様な落ち着いた色合いが好みなのだろうか、彼女が購入して着用しているトレーニングウェアもミッドナイトブルーに細い赤のラインが入ったシックな感じで、大人しめな彼女によく似合う。

 きっと将来は雪乃にも匹敵するクールビューティーになる事だろう。

 

 「うん、でも八幡師匠……闘ってる時とかトレーニングの時とか、私に色々教えてくれる時の師匠は凄くカッコいいし優しい人だけど、今とかさっきみたいな時の師匠はあんまり格好良く無い。」

 

 最初はじっと俺を見据えながら話し始めた留美だったが、最後はプイっと外方を向いて苦言を呈する。

 

 「おっ、おぅ何かすまん。」

 

 俺にとっては妹分と言っても差し支えの無い留美からの苦言に対して咄嗟に詫びて彼女の柔らかな絹の様な髪を撫でながら、彼女のその苦言を受け己を改められるかどうかは何とも言えんが心に留め置く事としよう。

 

 「………むぅ、子供扱いしないで。」

 

 「あっ、すんません……」

 

 うむ、どうやら留美は頭を撫でられるのがあまりお気に召さない要だな、プクッと頬を膨らませ顔を紅く染めて留美はそう言った。

 小学生とは言えども留美も年頃の少女って事か、軽々しく頭に手をやるのは控えなければならないな、ちと寂しい気がするが。

 

 

 

 思いがけず川崎とけーちゃんと留美の三人と合流し、俺は否俺達は商店街を何時もの鍛錬場へと向かい歩く。

 けーちゃんと手を繋ぎ歩く川崎は、周りの色々な物に興味を示し質問をぶつけてくるけーちゃんの、その疑問に優しく答え教える。

 普段彼女が俺達他者に見せるキリッとした表情では無く慈愛に満ちた優しい微笑みさえ浮かべて。

 

 「悪い、少し待ってもらえるか。」

 

 そんな彼女達の様子をまったりとした気持ちで愛でていた俺だったがこの商店街に俺はちょっとばかり用があり、今まさにその用がある店の前に着いたので彼女達にそう呼び掛けた。

 顔に疑問符を浮かべた川崎と留美に俺は目的の場所を指差し伝える。

 

 「ちょっと其処の肉屋に用があるんだが、みんなも付き合ってくれるか。」

 

 商店街の肉屋のその肉屋の一角に俺は用がある、其処では一人の壮年の男性いて真剣な顔でフライヤーを見つめ片手に菜箸を持っている。

 その男の人に俺が視線をロックした事に気が付いて川崎が「ふぅん肉屋の惣菜コーナーね、何か買う気なの比企谷」とそう聞いてきた。

 

 「ああ、まぁそんな訳だし序だからお前達もすまんが付き合ってくれ。」

 

 三人が俺の頼みを快く了承してくれたので、俺が先頭に立ち肉屋の店先へと向かい歩く。

 店先へ着くと俺はフライヤーの中の品物を上げ油切りをしている、その男性に挨拶の声を掛け次いで商品を注文した。

 

 「どうもお久し振りっす、おじさんメンチカツ四個ください。」

 

 真剣な顔でフライヤーを見ていた店主のおじさんは、ピクリと反応し俺の注文の声に元気に答える。

 

 「はいよまいどありぃ!メンチカツ四個ね…っておぉ八幡君か、何だぁ本当に随分と久し振りだなぁ。いやぁ八幡君も小町ちゃんも最近ちっともに買いに来てくれないからウチの味に飽きたのかってオジサン思ってたよ。

 おっとそう言や今日は小町ちゃんは一緒じゃ無いんだね。」

 

 「そんな事ははいっすよ、今でもたまには来てますからねってか俺が買いに来る時って、最近はおばさんか他の店員さんが此方を担当していておじさんとはあんまり会えなかっただけっすからね。

 後、小町は夕飯の仕込みをやっていて後で合流する予定っすよ。」

 

 肉屋のおじさんに俺がそう答えると、当のおじさんは『ハハハ』と上機嫌に笑いながら、実はおばさんや店員さんに聞いていてたまに俺と小町が来ているのを知ってたと答えつつ、手先はテキパキと注文のメンチカツを個別包装し俺に手渡してくれた。

 流石に長年の経験により培われたワークスキル、それはまさに流れる様な洗練された動作だと言っても過言では無い。

 

 「どうもっす。」

 

 代金を支払い商品を受け取る、クレジット決済でも電子マネー決済 でも無くニコニコ現金払いだ。まぁ電子マネー決済は兎も角として未成年者がそうそうクレジットカードとか持てないしな。

 

 「ほれ、みんなも食べてみてくれ。」

 

 受け取ったメンチカツを俺は三人へと手渡すと律儀な事に川崎も留美も俺に代金を支払おうとする、しかし俺がそれを拒むと渋々ながら二人は財布を引っ込めてくれた。

 

 「まぁ、代わりと言っちゃ何だが食べてみて気に入ってくれたらこの店ご贔屓にしてくれよ、留美はこの辺りは近所だけど川崎はちょっと遠いからあんまり来れ無いだろうけど。」

 

 「ああ、ありがとうそれじゃあ頂きます、ほらけーちゃんも。」

 

 「うん、はーちゃんありがとう、いただきま〜す。」

 

 「頂きます八幡師匠。」

 

 川崎と留美そして小さなけーちゃんまでもが確りと、御礼の言葉を口にしソースを少し垂らしてメンチカツを一口齧りつく、モグモグと口の中でその一欠片を噛むと三人の表情が劇的に変わった。

 

 「美味しい」と異口同音に三人がそのメンチカツの味を称賛する言葉が紡ぎ出されると、ソレを作った店主のおじさんも満足気に頷く。

 いやお世辞とか抜きにしてマジで美味いっすからね。

 

 「おぅ気に入ってくれたか、実はな此処のメンチはテリー兄ちゃんのお気に入りでな、此方に来る度に絶対に寄ってく店なんだよ。」

 

 「そうなんだ……」

 

 俺がそう言うと川崎と留美が自らの掌の中のメンチカツを見つめる、彼女達なりに何かしらの思うところがあるのだろうか。まぁ女性の気持とか疎い俺にはその辺りよく解らんが。

 

 「ハッハッハッハ、いやぁ〜っ実はそうなんだよ、何だかテリーさんウチの味を気に入ってくれてねぇ。此処へ来てくれる度に毎回十個はペロリとたいらげてくれるんだよ。」

 

 「今年の夏は来てくれなかったけど秋には此方に来てくれるんだってね」と受け付けから身を乗り出しおじさんは朗らかに笑って、追加補足の解説を加えつつ右手の人差し指を店の軒先の上方を指ししめす。

 その指の示す先を三人が目で追う。

 

 「あっ、大っきいしゃしんだよ、さーちゃん!」

 

 けーちゃんが見上げた先にあるソレに気が付き真っ先に声を上げ、それに川崎が「ああ本当だね、大きいね」と相槌ちを打つ。

 けーちゃんが言う様に其処にはケースに収められたA4サイズの一枚の写真が飾られている。

 

 「ねえ八幡師匠、テリー老師とこの小さな男の子達は八幡師匠とロックさんだよね、それと小さい女の子は小町お姉さんと、それから後はお肉屋の人達?」

 

 「ああそうだよ、テリー兄ちゃんを中心にこの肉屋のみんなと一緒に撮った写真なんだよ、アレ。」

 

 写真を見ながらの留美の質問に、俺はそうだと答えると留美はもう一度顔を上げ写真に見入る。あれッ?てか何気に留美はテリー兄ちゃんの事を老師って言ったけど、この場合は大師匠と呼ぶべきではなかろうかと思うんだが、俺自身が本来なら師匠なんて呼ばれる程の人間でも無いしな、その辺の事ちょっと考えてみるか。

 

 「だけどまぁ、ウチの店もだけじゃ無くこの商店街自体の顔みたいなモノだからねテリーさんはさ、なっ八幡君。」

 

 そんな事を考え答えを出しあぐねていたからか、俺は肉屋のおじさんから振られた言葉に(留美の事に思考の大半を使っていた為か、ちょっと虚をつかれた感じになってしまったが)頷く。

 

 「あぁ、例えばあっちのジーンズショップも行き着けの店だし、其処の居酒屋のメニューは大抵制覇してるって言ってたし、向こうの酒屋の立ち飲みコーナーでは鳶とか左官屋のおっちゃん達と一緒にワンカップ片手に詰まみにスルメ食ってるしな。」

 

 商店街の他の店舗を指差しながら俺はおじさんの言に追加補足を加える。

 

 「ハッハッハッハ、そう言や何時だったかテリーさん言ってたな『なぁオヤッサン日本酒のツマミには乾き物(カワキモン)が最高に合うんだぜ、知ってるかい』何てね。」

 

 それな、テリー兄ちゃんって俺と違って大概は誰とでも直ぐに打ち解けられるから、あっと言う間に交友関係が広がって色んな人から妙な知識とか仕入れてソレをトークに組み込むんだよな。

 まぁ、中には間違ったネタとか拾ってきてソレを話すもんだから笑いのタネになったりするんだけど。

 

 

 

 それからほんの数分間程度の時間だが俺達は肉屋の軒先で残りのメンチカツを食べ終えるまで其処で過ごし、そうこうしている内に小町が合流し俺は小町の分のメンチカツを購入、それに拠り財布の中身がまた少し寂しくなる。

 

 「それじゃご馳走様でしたおじさん、今日もすっけぇ美味かったっす。」

 

 「はいよ、毎度ありぃまた来てね、留美ちゃんとけーちゃんもね。」

 

 後から合流した小町がメンチカツを食べ終えるのを待ち、肉屋のおじさんに別れの挨拶をすませ俺達は鍛錬場へと向かう。留美は俺と同じ学区だからこの商店街は家から近いが学区の違う川崎は若干遠いから頻繁には来れ無いかもだが、川崎もけーちゃんもおじさんのメンチカツの味が気に入った様だし今後も脚を運ぶかもな。

 

 「さーちゃん、おいしかったね。」

 

 「うん、そうだね美味しかったね。」

 

 「まあたべたいな。」

 

 「うん、今度買いに来ようね。」

 

 姉妹仲良く手を繋ぎ歩く二人の様子をまったりとした気持ちでニヨニヨと見守る俺と小町と留美、しかしそんな俺達の視線に気が付いた川崎は照れを誤魔化す為か、キッと眼光鋭く睨みつけてくる。何故か俺に対してだけ。

 

 「………納得いかねぇ〜。」

 

 その思いが口を吐いて出てしまった俺を小町が苦笑しながら『まぁまぁ今日の夕飯はお兄ちゃんが大好きなチーズinの煮込みハンバーグを作ってあげるから腐らないの』と俺の背中をポンポンと軽く叩きながら慰めてくれた、俺の妹マジ天使。

 

 「うん、ありがとうな小町……っと何だ!?」

 

 小町の思いやりに思わず感激の涙を流しそうになった俺を、右肩に掛けたスポーバッグのサイドポケットに差し込んでいた俺のスマートフォンがその時振動し着信を告げてきた。

 

 「おっと電話みたいだな、ちょっとすまん。」

 

 其処で立ち止まりみんなに断りを入れ俺はスマートフォンを取り出しモニターを確認する、其処に表示されていた意外な相手の名に俺は僅かに戸惑う。

 

 「ん……春日野先生からだ。」

 

 訝しく思いながらも俺は春日野先生からの電話に応答すべくスマートフォンを操作し耳に当てると、間髪入れずに春日野先生の元気な声が流れてくる。

 

 「もしも~し比企谷君。」

 

 「はい、比企谷っす。」

 

 「あっ、ゴメンね急に、比企谷君今日は夕方の鍛錬はやらないのかな。」

 

 「いえ、今鍛錬場へ向かっている途中です、もう五分もあれば着きますよ。」

 

 そう言って俺の現状を伝えると春日野先生が要件を話してくれた、それはざっくりと言えば俺に会いたいと訪ねて来た人が居て、その人と一緒に春日野先生は俺がこの時間なら鍛錬場に居るだろうと推察した直接そっちへと向かったそうなのだが、肝心の俺が其処には居らず春日野先生は電話を掛けてきたと云う事だそうだ。

 

 「はぁ、俺にっすか……まぁ別に会うのは構わないっすけどってかもう間もなくそっちにつきますから。」

 

 「いや〜っありがとう比企谷君、いきなりでゴメンねぇ、じゃあ此処で待ってるから。」

 

 俺は通話を切り、スマートフォンをバッグに片付けるとみんなに事のあらましを説明し鍛錬場へと急ぎ向う。

 やがて鍛錬場として借りている雑木林へと向かう三十段程の階段の前に到着すると、その頂上から大きな声で俺を呼ぶ声が聴こえてきた。

 

 「お〜い比企谷君!」

 

 大きく手を振りながら俺を呼ぶ春日野先生の姿を見留め、軽く手を上げて春日野先生に挨拶を返し階段を登る。

 鍛錬場へ向かい一段一段石段を登毎に次第に見えてくる情景。春日野先生の少し後方に一人の人影、シルエットが徐々に見え始める。

 どうやらそれは浅黒い肌の色に頭頂部をドレッドヘアにしている様で、その特徴から中南米方面の人だと云う事が見て取れ、更に登る事でよりはっきりとその人物の全体像が見える。

 黄色い道着をその身に纏い左手にカラフルな柄の(多分バスケットボールだと思われる)ボールを持つ、俺と変わらない年齢と身長の若い男がクチャクチャと口を動かしている。ガムでも噛んでいるんだろう多分。

 

 「…………。」

 

 どうでも良いが、いや良くは無いんだろうが、ああ言うのって何だか随分と挑発的ってか不遜な態度に見えるんだが。

 変な風に揉め事になったりするのは出来ればご遠慮願いたい、内心俺はそう思いながら石段を登りきった。

 鍛錬場へと到着した俺をその男は、僅かな時間だが値踏みする様に俺を観察したかと思うと、プクッとガム口元で膨らませるがほんのちょっとだけ膨らむと直ぐにプチッと音をたててガム風船は潰れてしまい、そのガムを男はサッと口内へと戻すとその口を開いた。

 

 「……ふぅん、お前が八幡だよな。」

 

 「ああ。」

 

 その不遜な態度な問い掛けに、俺は一言返事を返すと俺とその男は互いに眼を合わせメンチを切り合う。

 しかしこうやって睨み合う事をメンチと言うのの語源って何処から来てるんだろうな、さっきメンチカツ食べたばかりだから妙に気になる。こんな場面なのにな。

 

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