やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
前回までの「やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。」は!
春日野先生から紹介された海外からの来訪者、リュウさんの兄弟弟子であり元全米格闘王ケン・マスターズさんの弟子だと云う。
その男の名は日系三世「ショーン・マツダ」
その男ショーン・マツダはケン・マスターズさんの元を訪れたリュウさんから俺の話を聞きつけて、態々海を渡り来て俺と一戦交えるつもりだったのだと言うんだから御苦労な事だ。日本までの渡航費だって馬鹿にならんだろうにな。
そしてマツダに対戦を挑まれた俺だったが、それに待ったを掛けたのが……意外!それは髪の毛ッ!
では無く俺の格闘仲間であり共に切磋琢磨し、また共に留美に格闘技を教えるクラスメイトの川崎沙希だったッ!。
「一体どう言うつもりなんだ、お前が自分から闘いを望むなんて正に黒騎士ブラフォ○ドが
その意外過ぎる川崎の申し出に俺は思わず『酒!飲まずにはいられないっ!』と言う事は無く(てか年齢的に駄目だし)只単に、話!聞き返さずにはいられないっ!ってだけなんたが。
川崎の格闘家としての力量はジョーあんちゃんや実際に手合わせをした舞姉ちゃんも認める処だし、それは数日間此処で共に汗を流したアンディ兄ちゃんも同様だ。
それに何よりも極限流空手創始者のサカザキのご隠居やロバート師範が、その将来を嘱望している程の逸材だし。
「………はぁ…アンタまた訳の解らない事を。」
キッとキツめの眼光を一度俺に向けて、直ぐに溜め息混じりに『アンタのソレには付き合ってられない』とでも言いたげに川崎はぼやく。
それから数秒の間を置くと、俺や留美から視線を外しながらポツリとその真意に至るであろう彼女なりの理由を語り始めた。
「そんなの別に意外でも何でもないじゃん、私だって極限流の門下の格闘家の端くれだし、それに。」
俺と留美を前に川崎は決意を以てそう告げる、ああ確かにな川崎も格闘家だけど、しかし川崎って妙な所で恥ずかしがり屋だったりする時があるんだよな、まぁその羞恥心を越えた時とかプッツンして開き直った時は肝が座ってメッチャ大胆になるけど。
「アンタも覚えてんでしょうあの日ご隠居が話してくれた事。アンタの師匠のテリーさんの師匠のタン老師や、アンタが出会ったリュウって人やあのマツダって奴の師匠のケン・マスターズの師匠との出会いがあってご隠居は極限流空手を編み出すに至ったってさ。」
川崎が言う俺も覚えているだろうと言っているのは、それはあの花火大会の日の事だ。アメリカからの来訪者『フランコ・ジュニア・バッシュ』と出会い、そのジュニアがひょんな事から材木座とパオパオカフェにて一戦交えた時にサカザキのご隠居が話してくれた、極限流とタン先生の八極正拳とリュウさん達の流派との意外な繋がりについて。
「ああ、その話なら確かに覚えてるわ。」
「沙希師匠、私も覚えてる。」
川崎の述懐に俺が肯定の返事をすると留美も心配そうな表情を見せながら共に頷き肯定する、まぁ留美もサキサキを師匠と呼び慕っているしな。
俺達の返答にうんと頷きサキサキは少し表情を和らげたかと思えば、直ぐにそれを改めて決意を込めた眼差しを見せて続ける。
「まあだからさ、そのリュウさんって人とマスターズさんの流派の流れを受け継いでいる、あのマツダって奴と手合わせしてみたいんだよねアタシもさ。」
成る程な、極限流とある意味密接な関係があるリュウさん達の流派の力をその身で直に確かめたいって事なのな、まぁ何だかんだ言ってもサキサキも十分に格闘家脳の持ち主なんだって事な。
「前にパオパオカフェで不知火さんと手合わせしてアタシ負けちゃっただろう。あの時は留美に何か格好悪いところ見せちゃったしね、だからアタシも少しはマシなところも見せたいし、それに最近はけーちゃんも空手に興味持ち始めたみたいだからね。」
サキサキは傍らにいる留美とけーちゃんの頭を優しく撫でながら、自愛に満ちた暖かな笑みを湛えた千葉の姉の顔で言う、俺もラブリーシスター小町や妹分の留美を見る時はこんな眼でみてるんだろうな。
そこ、お前の眼つきじゃあそんな優しさなんか現れる訳無いだろうとか言わないでね。
「そうかけーちゃんもなのか、まぁお前んところは大志も極限流門下生だしな、その影響を受けてたとしても何ら不思議は無いよな。」
まぁ小さい子どもってのはやっぱり身近な肉親の影響を受けやすいんだろうな、けーちゃんもまたそう言った肉親の影響を受けた子供の内の一人だったって事だ。
小町だって俺がテリー兄ちゃんに鍛えてもらい始めてから格闘技に興味を持ち始めて何時の間にか舞姉ちゃんに不知火流の技を少しずつ教わりはじめたし。
「うん、でも京華が知ってるのはさ此処でみんなとの鍛錬の様子だけじゃん、だけど結局のところ格闘家ってのはさ普段鍛錬を続けるのは実戦で勝つため、そんで大抵の奴は誰よりも強く在りたいって思いを持ってだろう、ご多分に漏れずアタシもそうだしね。
けど『勝敗は兵家の常』勝つ事もあれば負ける事もある。その結果大怪我したり下手を打てば命を失う事だってあるんだ、今はまだ京華も小さいから分からないだろうけどさ小さいなりに何か感じ取れるモノがあるかもだからさ。」
ああ、何ともまぁコイツはマジ俺とタメ歳なのに立派な格闘家兼千葉の姉としての立派な心構えと矜持とを持ち合わせてんだな、やっぱり子だくさん家族の
「なあ、けーちゃん。」
川崎の意志と真意を聞き終え、俺は膝を折り視線の高さをけーちゃんに合わせて呼び掛ける。
うん、こんなに近い位置から俺と眼を合わせても怖がったり泣いたり逃げたりしないで笑顔で接してくれるけーちゃん、マジ天使。
なぁ〜んて、感慨に浸ってる場合かーッ、と一旦置いて。
「けーちゃんは、さーちゃんや大志みたいに空手やりたいか?」
この小さな女の子にその気持ちを問う、子供らしいニコッとした笑顔で俺の問を聞くけーちゃんだが、俺には彼女の返事がどう答えるかは大体想像ができる。
「うん、けーかねおっきくなったら、さーちゃんやたーちゃんみたいに、えいやーってするんだよはーちゃん!」
小さな両手を大きく広げたり、見様見真似の正拳を繰り出したりしながら、けーちゃんは心の底から楽しそうに教えてくれた。
川崎と大志がけーちゃんの事を大事に思っているのと同様に、けーちゃんだって兄ちゃん姉ちゃんが大好きで、同じ事をやって一緒に同じ時を過ごしたいんだよな。
「そうか。」
「うん!」
俺はけーちゃんの頭に掌を置くとゆっくりと撫でつつ言えば、けーちゃんは元気に答えてくれた。何この天使このままずっと愛でていたい程めっちゃ可愛いんですけど。
まぁ流石に度が過ぎると比企谷八幡ロリコン伝説とか流布されそうだし、後ろの姉が修羅に変じそうだから自粛します。
「だとさサキサキ、まぁお前の思いも理解出来るし俺はそれでも構わんけど、一応マツダにも了解を得ないとだな。」
立ち上がり俺は川崎の要望に対し了承を伝えると、サキサキはフッと微笑み頷く。
「ああそれは勿論だけど、アンタいい加減サキサキって呼ぶんじゃないわよ。」
しかし俺は川崎により、終いには思っきり殺気の籠もった眼光も鋭くメンチを切られてしまった。
此れはアレだな、特殊な性癖をお持ちの方には途轍も無いご褒美に違いなかろうが、如何せん俺は至ってノーマルな性癖しか持ち合わせが無いからな、其処に恐ろしさしか感じんのだ。
「ハア〜っ!?俺にその姉ちゃんと闘えって言うのかよっ、八幡お前とじゃ無くて!?」
川崎と共に少し距離を置いていたマツダと春日野先生の元へと向い、二人に対し俺と川崎とで先の話を伝えるとマツダが素っ頓狂な声で聞き返してきた。
「おう、まぁ川崎のたっての希望でな。」
まぁそれも当然だろう、何せマツダの本来の目的は俺との対戦だったんだからな、この反応は致し方無かろうなと俺がマツダの立場だったとしてもそう思うわ多分。
マツダは訝し気に顎に手を添えて川崎を値踏みする様に彼方此方と見回す、てかこんな態度を取ってると相手を怒らせかねないぞマツダ。
「あァァんッ!?何さアンタ、まさか女相手じゃヤレ無いとか温い事を言うんじゃないだろうね、てかさそんなにマジマジと人の事を品定めしてんじゃ無いよ。」
そら見た事かよマツダ、お前ってば女子に対する対応がなってないんじゃねえのか、デリカシーってモノが無さ過ぎだろう多分。
「わっ、悪ぃワリぃ、別にそんな事は言わねえよ、俺の姉貴もかなり強いしさっきのサクラさんの技だって物凄えモンだったしな。ただ俺はリュウさんが評価していた八幡ってヤツとやってみて、リュウさんが評価するほどの奴かどうか確かめたいだけなんだって。」
両掌をピタッと併せて拝む様な格好でマツダはタジタジっと川崎に詫びを入れながら、自分に他意はないと否定しつつ自らの目的を再度川崎にと言うか俺達に伝えるが、川崎の方も一歩たりとも引かじとばかりに腕組みをしてマツダを睨む。
マジその佇まいたるや俺の親父達世代より多分以前のツッパリ全盛期のスケバンの如しだ。セーラー服にロングスカートプラス鉄板入りの鞄とか持ってたらバッチリだ。
「ねえショーン君、私はさ川崎さんとやってみても良いんじゃないかって思うよ。」
おっと、此処で進展しない事態に春日野先生がこの状況を打破するべくマツダに川崎との対戦を促してくれた。春日野先生メッチャ良い笑顔をしてますね、さしずめその心境たるや『オラわくわくすっぞ』ってところっすかね。
「えっ、どう言う事っすかサクラさん?」
その事態はマツダにとっては正に寝耳に水か青天の霹靂かってな具合だったんだろう、呆気に取られたかの様にマツダは手に持っていたバスケットボールを地面へと落としてしまってるし。
小さくバウンドするバスケットボールの弾む音がエコーの様に響く、それは今のマツダの心境を如実に現している、かどうかは知らんけど。
因みにその転がるボールをけーちゃんが楽しそうに追い掛けて行き、今はその小さな両手に収まっていたりする。
「それはねショーン君、君は知らないだろうけどさ、君の師匠のケンさんやリュウさんの流派と川崎さんの流派極限流空手とは過去に繋がりがあったんだよね。」
春日野先生はあの日、サカザキのご隠居が語った極限流空手とリュウさん達の流派との繋がりとをマツダへと語り聞かせる。
かの流派を学ぶ者のその先にある危険性、殺意の波動やそれに取り憑かれた豪鬼って人の事、エトセトラエトセトラってな具合にだな。
「まあ、そう言う訳でさ比企谷君との対戦も良いんだろうけど、川崎さんと対戦するのは君にとってもきっと多くの物を得られる結果になると思うんだ、それに何よりも川崎さんは君が思っているよりもずっと強い筈だよ。」
それに何より自分が川崎の闘いを見てみたいと、春日野先生は最後に偽らざる自身の本音をぶっちゃけワクワクとした表情でそう締める。
いやマジ、ぶっちゃけ過ぎじゃないっすか春日野先生、教師としてそこの処はどうなんでしょうかね。
「ねえマツダ、ハッキリ言って比企谷はアタシよりも強いよ、だからさアタシに勝てない様じゃアンタ比企谷には勝てないよ。」
それを受けて川崎もまた不敵な顔してマツダを挑発してるし、しかもさり気に俺との事まで言及してくれちゃってるし。
マツダの奴はそれを聞いて、俺と川崎の顔を交互に見比べたかと思うと、何やら腕組みして唸り始めたかと思えばイライラっと髪をガシャガシャと掻きまわすと。
「はぁ〜っ……あぁッもう分かったよ!やりゃあ良いんだろうやりゃあヨォーっ!」
と、ヤケクソ気味に声を荒げて遂に川崎の挑戦を受ける事を承諾してしまった。やっぱり女を相手にするのは怖いってマツダも内心思ってるだろうな。
まぁ、ある意味何て言うかご愁傷様ですマツダ君。
「じゃあ決まりだね。」
春日野先生が朗らかな声音によりその決定を告げ、川崎とマツダとの手合わせが此処には決定した。
今日、時に西暦202X年8月2X日。奇しくもそれはかつて共に修行の日々を過ごした二人の格闘家、サカザキのご隠居と剛拳師、その孫弟子にあたる二人が時を超えてその拳を振るい合う。
っても川崎の場合はロバート師範の弟子でもあるが、サカザキ!ご隠居の弟子でもあるんだからちょっと違うか。
対戦を前にして川崎とマツダは互いに距離を取り、闘いに於いて万全を期す為に柔軟、ウォーミング・アップを入念に行っている。
物事の如何に関わらず事前準備ってのは大事な事だ、たとえそれが仕事であろうと遊びであろうとバトルであろうともな。
「どうだ川崎コンディションの方は問題は………まぁい無いよ。」
軽やかにしなる彼女の肢体を確認しつつ俺は、彼女の現況に問題が無いと判じる。
柔軟を継続しつつチラリと近付いて来た俺へと目だけを向けて彼女は一言「ああ、アタシから言い出した事だしね問題があるなら最初っから言ったりしないよ。」普段通りのちょっと素っ気無い感じでそう川崎は答える。
「そうか、まぁお前に限ってありはしないんだろうが油断は禁物だ、さっきマツダ自身が言っていたがアイツがマスターズさんの弟子と認められたのが半年ばかり前だって。」
トレーニングウェアに包まれた均整の取れた靭やかで美しい肢体が軽やかに揺れ動く様を、俺の眼がそれを追う様に動こうとするが理性を総動員してグッと我慢。バレたら後が怖いからな。
「うんアンタの言いた事は解るよ比企谷、アイツのキャリアが浅いからって甘く見るなって事だよね。」
以心伝心って程のものじゃ無いんだろうが、川崎の方も俺が言わんとしている事をキチンと読み取ってくれている。
「おっ、おうまぁ此れはあくまでも俺の推測ではあるんだが、マツダは多分マスターズさんへの弟子入り以前に何某かの武術を学んでいたんじゃないかってな。」
でなければ、マスターズさんから出された弟子入り条件である『リュウさんから一本取ってくる事』をマスターズさんも課題として上げないだろう。
あのリュウさんを相手に格闘技の経験が無い者を送り込むなんて、ソイツに死にに行けと言っているに等しいし、また受ける方もそれなりに腕っ節に自信が無きゃ行かんだろうから………あぁいや世の中には自分の力量も把握出来ず自ら死地に飛び込むアレなヤツもいるわな。まぁマツダがそんな奴とは言わんけど。
「だろうね、アタシも何かそんな気がしてんだよね。アンタに勧められてマスターズさんの試合の動画とか見てみたけど、確かに極限流の技と近いモノも見て取れたよ、それにこの間の材木座とバッシュとの対戦の時も何と無く材木座の流派も近いものがあるかもって。」
柔軟を一旦止めて川崎は俺の推察を肯定し、そう付け加える。
材木座の流派、サイキョー流の技も基本構成は極限流空手やリュウさん達の流派と近しいし、更に最近は春日野先生から教えを受けてるし尚更だな。
「まぁ極限流やマスターズさんや材木座の流派の事は置いといて、多分だがマツダが習っていたと思われる武術はそれとは違うモンだと思うんだよな。ブラジルだったらカポエラとかパッと思い浮かぶけど、アイツ日系人だって言うから柔道とか古武術や空手は……まぁ考えても解らんな実際に手合わせしてみない事にはな。」
「そうだね、そこのところは実際に対してみて対応して行くしか無いだろうし、まあやって見せるよ留美や京華にカッコ悪い所は見せたくないし。」
気負いをまるで感じさせない優しい口調と優しい眼差しを少し離れている二人に向けながら川崎はそう答えた。
「左様で………。」
ああ此れは大丈夫なヤツだなと俺はソレに少しだけ安堵すると川崎から離れ小町達が居る位置へと向かおうと一言、激励とも言えなくもない言葉を掛けて彼女へ背を向け去る。
「そうだ、ねえ比企谷アタシこの一戦機会があれば当然狙って行くよ龍虎乱舞をさ、それと………アレもさ、アンタが名付けてくれたあの技もね。」
彼女のその宣言に俺は立ち止まり首を回して振り向くと、さっきとは打って変わって決意の籠もった眼差しを向ける雌豹がそこに居た。いや今正に急激に成長を遂げている美しくそして若き猛虎、ヤングタイガーの姿を俺の目は其処に見出し言葉に詰まる。
「おう、まぁ期待しとくわ。」
若干吃りつつ俺は一言その気持ちを誤魔化しつつ答えて「そんじゃ」と片手を上げて再び歩み出す。
おぉ、これって我ながら結構クールじゃね。さながら深夜の病院からエリ○さんの献身を見て安心し去り行くスピ○ドワゴンの姿とタメ張るくらい。
「ソレとさ、アンタがアタシの身体をジロジロ見回してたって雪ノ下達にも後で報告しておく。」
なんて思っていた時期はほんの数秒で終わりを告げてしまい、俺は川崎から十三段の階段を登る宣告書を突きつけられてしまった。
このタイミングでソレを言いますかね川崎さん、しかも見てみると何かすっげえ悪戯っ子みたいな顔しているし。