やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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川崎対マツダ、闘いは新たな局面へ。

 

 川崎とマツダとの闘いの火蓋が切っておとされ、その初手川崎が繰り出した飛燕龍神脚がマツダに叩き込まれ豪快に見事なダウンを奪う形となった。

 だがしかし、強かにダウンさせれられた側のマツダはと言えばさも何事も無かったかの様にひょいと立ち上がり川崎へと立ち向かって行くのだが、此処で少しこのエピソードを巻きで行ってみよう。

 

 まぁ所謂中略とでも言えば良いだろうか、決して手抜きをする為では無いと思って頂きたい。何故かと言えばだな要は同じ事が数度繰り返されたからだったりする、起き上がりしなマツダは再度川崎へと果敢に攻め入るのだが、その攻め方が一度目のダウンを喫した時と同じ様に先ずはフェイントを多用し川崎を幻惑しようとし、そこで川崎が反応を示すと待ってましたとばかりにマツダが技を繰り出すんだが、結果川崎に反撃を喰らいダウンする。

 そして起き上がっては果敢に立ち向かう、その繰り返しに正面から相対する川崎は若干嫌そうな表情をその整った美貌に現す。

 

 「痛っー…まいったぜこりゃあ、認めるのはちょっとばかり癪だが今の時点ではアンタの方が実力は俺より上だぜ、へへっ。」

 

 立ち上がり鼻頭の汗をその黄色い道着の右腕で拭いマツダはニヤリと嗤いながらそう宣うのだが、この晩夏の夕刻まだまだ夏の残滓は一月近くは続きそうな気温の中だし、その身に汗を滴らせる事は何ら可怪しくは無いのだが、しかしあれだけ川崎に返り討ちに遭ったにも係わらず少しもダメージを受けた様には思えない事を俺も、そして直にヤツと闘っている川崎など俺以上にヒシと感じ義門にている事だろう。

 

 「……そりゃ当然だろうね、アタシはこれでも九年間極限流門下生として鍛錬を行ってきたんだから年季が違うよ。何だったらアンタ此処でギブアップでもするの?ちょっと消化不良な感じもするけど負けを認めるんならそれでもいいんだよ。」

 

 油断なく、その構えを解く事無く内心の違和感を抑えて川崎がそう問うと、それを受けてマツダも『馬鹿言っちゃいけないぜ』とでも言いたげな面構えで言い返す。

 

 「バカな事言っちゃ行けねえぜってんだ、まさかリュウさんから聞いてた八幡以外にもこんなに強ぇ奴が居るなんて思っても無かったからなぁ、こんな面白い事なんて滅多に無いだろうし折角だからもっと付き合ってくれよ。」

 

 と思えばマツダが本当にそう言いやがった、しかもほんの一瞬チラリとだけマツダはその視線を俺へと移して。

 

 「……まあ良いんだけどさ、だったらアンタもっと本気でぶつかって来なよ、さっきっから下手なフェイントや騙し技使うばっかじゃん?」

 

 マツダからの返答に川崎は“つまらん”もしくは“がっかりした”かとの思いを滲ませた感を丸出しにマツダを煽るが。

 

 「へへっ、何言ってんだよコレだって立派な戦術ってヤツだぜ、悔しかったらアンタこそ力で俺を捩じ込んで見ろよってんだ!」

 

 人差し指をクイクイっと挑発的に動かしマツダが川崎を煽り返す、確かにマツダが言う様にフェイントやフェイクってのも戦術として組み入れる事は大いに有りだろうが、川崎としてはかつてサカザキのご隠居が出会ったリュウさん達の流派の技と真正面からガップリとぶつかりたいんだろう。何だかんだで川崎も極限流の門下生、その志向は格闘家脳である事間違い無し。

 

 「ッ……ああだったらアンタの言う通りにしようかねッ!」

 

 それを証明するかの様に川崎が若干イラッとしたのか、ムキになってその挑発にのっかってしまう。言うが早いか川崎はその身に素早く気合いを込めるとマツダに対して攻勢に出ようとするのだが、何故か後方に三歩程軽やかにバックステップし距離を取り、そして。

 

 「龍撃拳ッ!」

 

 攻撃の体勢を空かさず速攻で整えて気弾をマツダ目掛けて繰り出す。

 

 「来た来たぁッ!こんなもん打ち落としてやるぜぇーっ!」

 

 だがそれをマツダは恰も読んでいたとばかりにそう叫ぶと左半身を前方へと向け半身に構え、左腕を前方へと突き出し肘を直角に曲げて迫りくる川崎の龍撃拳の気弾の到来に併せ、そして。

 

 「ハッ!」

 

 数舜の遅延もなく的確に己目掛け飛来してきた闘気の弾丸をその手で叩き込み(はたきこみ)相殺する。

 それは川崎サイドに立つ俺から見ても見事なと形容しても良いタイミングだった、マツダ自身は自らを称して川崎よりも実力は劣ると言ったが、それでも今後マスターズさんの元で鍛錬を積めばかなりの手練となるだろう、多分だが。

 

 おっとそれよりも今は川崎とマツダとの闘いに意識を向けよう。

 川崎の龍撃拳を打ち消したマツダは、まるで残像を引き連れる様に高速で攻撃の体勢をとる、両腕を側部後方へと向け両の掌の間に迸る気力のエネルギーを溜めると、それを前方へと突き出そうとする。

 

 「ヨシッ今度は此方の番だぜ、行くぜぇーッハドゥーケェ「飛燕疾風脚ッ!」なっ!?」

 

 マツダが学ぶリュウさんとマスターズさんの流派の気弾『波動拳』をおそらくマツダは繰り出そうとしていたのだろうが、そのマツダの反撃を潰す為に繰り出された川崎の前方へと突進して放たれる突進蹴りから回し蹴りを二連撃で繰り出される蹴り技『飛燕疾風脚』がマツダへと迫る。

 事此処に来て俺にも解った、おそらくだが川崎はこうなる事を読んでいたのだろう。マツダの挑発的な発言にさっきはプッチン切れた様に見えていたが、どうやら川崎は冷静さを失ってはおらず(俺もそうだが、川崎も先の様な状況で気弾を放つに際して相手がとう対応するかを幾つか想定していただろう。例えばガードによる防御、左右何方かへの回避行動、そして空中へと飛び上がっての回避や同様に気弾を放っての相殺を狙うとか)敢えて威力をセーブした龍撃拳を放ち技後の硬直を短時に済むように調整していた様だ。

 

 「何ッ!?ヤベッ!」

 

 その事態にマツダは慌てて波動拳のモーションを解き防御態勢へと体勢を変えようとするが、このタイミングでは先の様にブロッキングは間に合わないだろう、精々がガードが間に合うかどうかといったところか。

 そして川崎の飛燕疾風脚の初段がマツダの腕へと着弾する。

 

 「ぅグぅッ……」

 

 やはり俺の予想通りマツダは辛うじて防御する事が出来はしたが、飛燕疾風脚の威力の前に軽く後方へ押し込まれてしまい、呻き声を小さく漏らしてしまう。

 

 「まだまだッ、そりゃアーッ!」

 

 しかしそれにも構わずに川崎はガードしたマツダの腕に飛燕疾風脚の二段目の高速の回し蹴りを強引に叩き付ける、ビシッと肉を打つ音を響かせて。

 

 「ぐぅっ………うわッ。」

 

 そして川崎の回し蹴りの強烈な威力の前にマツダのガードは耐久値を上回るダメージを与えられ、脆くも崩されてしまった(それはまるで金目当てでそのおこぼれに与ろうと近寄って来た太鼓持ち達が、その金が無くなった途端に離れていくかの様に。金の切れ目が縁の切れ目、やはり世の中はマジに世知辛い)それにより川崎の前に無防備を晒してしまうマツダ。

 当然その無防備な状態のマツダを放おっておく川崎では無く、後方へと弾かれたマツダに追撃を掛ける。

 

 「ハァッ!幻影脚ッ!」

 

 大上段から下段までの超高角度に蹴りを乱発し、相手に無数の蹴りを見舞う超高速の連続蹴りが川崎のトレーニングウェアに包まれたスラリと長く美しい脚より放たれる。

 ガードを崩され蹈鞴を踏んでいたマツダだったが、幻影脚を放つ川崎とマツダとの間には僅かながら距離がありその幻影脚はマツダには僅かに届いては無い、筈なのだが。

 

 「なっ、何いッ!?うわっ!」

 

 その幻影の如き無数の高速で繰り出される蹴りの範囲にまるでメ○粒子、いやその蹴りにより其処に真空でも発生しているかの様にマツダが吸い寄せられる。その様子たるや吸引力の高い某掃除機の如しだな、あな恐ろしや。

 

 「うげっろばぼゥ!!??」

 

 閑話休題、ダイソ○の掃除機もとい幻影脚に吸い込まれたマツダの肉体は、無数の蹴りにより発生した不思議空間を空へと持ち上げられその場に固定されビ“シビシビシビシ”と十数発の超高速蹴りを強かに叩き付けられる。しかも何か変な呻き声を発して。

 

 「うわぁーッ……」

 

 断末魔って程では無いが、幻影脚の止めの一撃を喰らい叫声を上げながら吹き飛ばされるマツダ。今度こそはタフなアイツも相当なダメージを被った事だろうな、それだけ今の幻影脚は俺達から見てもバッチリと決まっていた。

 

 「……お兄ちゃん、やっぱ凄いね沙希さん。」

 

 サカザキのご隠居やロバート師範をはじめとする極限流一門のトップに立つ御歴々が認める川崎の才能、だが九年の鍛錬により磨かれたそれに足りぬモノがあった、それは実戦経験だ。

 しかし今年になり、春に俺とそして今夏には舞姉ちゃんと実戦を経験し更にサカザキのご隠居やロバート師範に鍛え直され、加えて俺や留美と共に鍛錬に励みその実力は確かなモノとなっている。

 

 「あぁ、川崎の実力は手合わせをした俺もよく知っている筈なんだがな、改めて解ったわアイツあの時以上に強くなってるな。」

 

 だからその感慨を俺は小町の問い掛けに素直に返す。その一言だけを返して俺は幻影脚によりダウンしたマツダに目を向ける。

 

 「………けど………」

 

 もうそろそろ川崎の攻撃のダメージがマツダに重く伸し掛かってきても可怪しくは無い筈だ、幾ら奴が異様なタフネスを持ち合わせているとしてもな。

 だが、それでも俺にはマツダに対しての懸念が晴れない、それは先にマツダが語った事に由来する。

 

 マツダのマスターズさんへの弟子入りに際しての課題として、リュウさんから一本取ってくる事を課題とされマツダはそれを実行する為にリュウさんに対して立ち向かって行ったと言う。何度も何度も倒されては立ち上がり立ち向かったと。

 昨秋俺はこの場所でリュウさんと相対した、その場に静かに佇んでいるだけでも醸し出される強者としての貫禄或いはオーラとでも評すれば良いだろうか。それは俺の師であり長兄ともいえるテリー兄ちゃんに勝るとも劣らぬ程の。

 そのリュウさんとの闘い、初陣とは云え俺はほとんど何もさせて貰えずほぼ完封負けを喫し、挙げ句最後に食らった昇龍拳により二十分以上もの時間意識を刈り取られてしまった。

 それだけの技量を備えるリュウさん相手に何度もって、一体マツダには何が在るんだ。まさかあの『お師さん……むかしのように……もう一度ぬくもりを…』で有名な某南斗の聖帝様と同様、肉体の何かが常人とは逆に付いてたりするとか……まぁそりゃ違うよな。

 

 「痛っう〜っ。」

 

 そしてマツダはそう言いながらムクリと半身を起こして自分の腹部を摩る、これ迄と違い直ぐに起き上がらないところを見るに川崎の幻影脚は其れなりのダメージを与えたのだろうが、それでも決定打とはならなかった様だ。

 

 「……驚いたよ全くさ、アタシの技をあれだけ受けといてまだ起き上がれるなんて、一体どうなってるのさアンタの身体は?」

 

 痛いと言いながらその顔には苦痛の色がほんの少ししあ見て取れないマツダに、さしもの川崎も僅かだが驚嘆を禁じ得ないと言ったところだろうか、そうマツダに問うってか問わずにはいられないよなマジで。俺だってそうしてるわ。

 

 「へ!?イヤそんな事聞かれてもなぁガキの頃からじいちゃんに古武術習うのにすげえ扱かれてたし、今でもケン師匠に色んなトレーニングメニューを科されてるしな。」

 

 だから“そんなもん当然だろう”と言わんばかりにマツダは語るが、確かに鍛錬に拠って心身が強化されるってのは尤もな御意見ではあるが、モノには限度ってのがあるだろう。

 例えば俺達も気を巡らせ肉体の防御力を強化したり出来るが、だからといって機関砲やロケットランチャーの砲弾に耐えられる程の強化なんぞ出来はしないし、あぁいや何もマツダが軍事兵器とかに耐えられると言っている訳じゃ無いんだが。

 

 「いやだからってアンタね。」

 

 「いや、格闘技を学んでる奴ならそれは誰だって一緒だろう。」

 

 川崎と俺は思わずマツダに突っ込みを入れる。ついでに多少は不知火流をかじっている小町と最近格闘技を学び始めた留美も俺達の突っ込みに頷く。

 

 「そう言われてもなぁ、まあアレだ強いて上げるなら俺って昔っから身体が柔らかいってじいちゃんにも言われてたっけな。」

 

 「いや、タコとかの軟体動物じゃ無いんだからいくら何でも……」

 

 顎に指を当てマツダは俺達の突っ込みに対して答え川崎が突っ込みを入れるが、しかしマツダのその答えは俺の推測の内の一つに合致していたりする。

 肉体の柔軟性に依って多少はダメージを吸収出来るって事はあり得るのかも知れないと俺は思う。例としてあげると俺がいなし技として使用する『スリッピングアウェー』だっ首周りの筋肉をしっかりと鍛えあげて強化し且つ肉体の柔軟性有ってこそ繰り出せる訳だしな。まぁその上で実戦で繰り出すには反射神経とか先読みとか必要なんだが。

 

 「おっとそんな事よりも良いのかこんなにぺちゃくちゃと話なんかしててよ?まあ俺としては少しでも体力の回復が望めっからありがたいんだけどよ!」

 

 マツダが発したからかい混じりのの問い、ほんの短い時間ではあるがこの問答の間に確かに幾許かの体力やダメージの回復は生されている事はマツダの様子から窺える。

 起き上がりしな擦っていた腹部に手も当ててはいないし、ふてぶてしい笑みを浮かべて両手を腰に添えて身体を左右に振っている。

 如何にもそれは自身の肉体はもう回復したぜってアピールとプラス相手を挑発する為の行これ見よがしの動だろう。ホントいい性格してんなマツダ。

 

 「ああ、そうだね。まだ闘いは終わっちゃ無い、此処からがクライマックスだよ!」

 

 だが川崎は今回はその挑発には乗らずただ現実を見据えどっしりと構えてマツダに相対している、少なくとも彼女のその外見上はそう見て取れる、俺には。

 

 「おう!それじゃ勝負の再開と行こうぜッ!」

 

 マツダもそれに応え身構える。二人共気合は充分、川崎が言った様にいよいよ此処からがクライマックスになるのかもな。

 

 「ヨッシャァッ!行くぜぇ!」

 

 掛け声一声、二人揃って同時に駆け出す、そして再開される二人のバトルは二人共に接近戦を選択し打ち合いが始まる。

 

 「シッ!ハァッ!」

 

 「セイッ!フッ!」

 

 さっきまでこれ見よがしでオーバーアクションなフェイントを多用していたマツダだったが此処に至りそれが鳴りを潜め、繰り出すフェイントは攻撃の合間に加えるテクニカルなモノに取って代わっている。

 

 「はぁ、マツダのヤツ普通に闘えるじゃあないかよ。」

 

 何方もクリーンヒットは未だ当ててはいないが、実の中に虚を巧みに混ぜ必殺の一撃を加える為の空きを作り出すべく使い分ける。

 

 「うん、やっぱさ沙希さんの方が巧いけどさ、マツダさんも頑張って沙希さんに喰らいついて行ってるよね。」

 

 小町俺の呟きを拾い頷くとマツダの奮闘を評価する、この辺りの基礎技術はマスターズさんに仕込まれたモノか或いはマツダの言うじいちゃんに仕込まれたモノなのか。

 

 「シュ!シュッ!セイッ!」

 

 「ハッ!ヤッ!チェストォッ!」

 

 数十秒に渡り繰り広げられる二人の接近戦は徐々に単発だはあるが有効打が当たり始める。マツダの打ち下ろしの右手刀が川崎の左肩部を打ち据え、川崎の右正拳がマツダの左頬を深々と抉り込む。

 

 「さーちゃんがんばれぇ〜!」

 

 「頑張って沙希師匠!」

 

 「沙希さ〜んファイトですよ!あっでもマツダさんも負けないで頑張って下さい!」

 

 千葉の可愛い妹達のこれまた可愛い声援が闘う二人に送られる。俺も個人的には川崎に声援を送りたいところではあるが、此処はちょっと自粛する、何故なら敵地と言っても差し支え無い日本に単身乗り込んで来て闘うマツダに何時しか俺は敬意を払いたくなっていたからってか何気にウチのマイエンジェルコマチエルがマツダにも声援を送っている。

 どうやら小町も俺と同じ様に思っているんだろう流石は血を分けたマイシスターだ以心伝心気持ちが通じ合っている。そして流石は千葉の兄妹、この通じっぷりは承太郎とホリーさん以上だな。

 

 続いて川崎のミドルキックとマツダの足刀蹴りがぶつかり合い二人はその反動が双方にとってのカウンターとなって弾け飛ぶ。

 だが此処で川崎とマツダとのウェイトの差が出たのだろう、逸早く体勢の立て直しがなったのはマツダの方だった。

 序盤から技巧により優勢に闘いを進めていた川崎、マツダのフェイントを多用する戦法に遅れを取る事も無く完封と言える状況だったが、打たれてもへこたれない異様なタフネスを発揮するマツダを相手に思いの外スタミナの消耗があったのかも知れない、肉体的にも精神的にも。

 

 「おぉッと!もらったぜェ!」

 

 ほんの僅かな、数秒にも満たない時間体勢の立て直しが遅れた川崎に向いダッシュを掛ける。この対決に於いて初めてマツダに絶好のチャンスが訪れた。

 

 「なっ!?しまっ……」

 

 ダッシュで川崎との距離を詰め射程距離へと入ったマツダは技を繰り出す体制へと入る。

 グッと腰を捻り込み大きく踏み込んで空へと飛び立つ様に高速の回し蹴りを放つ。

 

 「トルネェーィドッ!」

 

 川崎を襲うマツダの高速の横回転連続回し蹴り、リュウさん達の流派の技で式名称は『竜巻旋風脚』だったか。それが鈍く大きな打撃音を響かせ川崎の身を打つ。

 

 「グハッ……ッぁぁ……」

 

 マツダの放った連続回転蹴り、竜巻旋風脚は計四発が川崎にヒットする、その最後の一撃を喰らった川崎は大きく吹き飛ばされ遂にこの闘いに於いて初のダウンを奪われた。

 

 「はっ……ははっ……よぉっしゃあぁッ!やったぜぇッ!」

 

 マツダはガッツポーズを決め、大きく口を開け喜びの声を高らかに上げる、実力差のある相手に一本決められた事が嬉しくてたまらん。その気持ちが分からんでは無いがマツダよ川崎は未だ終わらんぞ。

 

 「ふぅッ、はぁ……参ったねこりゃ……アタシもまだまだ修行が足んないね。」

 

 うつ伏せで寝そべった状態から両手で半身を起こし、片膝を立ててからゆっくりと起き上がりながら川崎は自嘲気味に言う。

 

 「おっ、何だよもう起き上がるのか、何だったらもう少し休んでても構わないんだぜ。」

 

 戯けた調子でマツダは茶々を入れるが、その顔は何処か嬉しそな表情をしてるし、マツダも川崎が立ち上がってきた事を喜んでいるんだろうな。口では休んでろ何て言ったが本当はまだやりたいってか。けっ、これだからバトルジャンキーはって誰だよ鏡見ろとか言った奴は。

 

 「……バカ言わないでよ、たった一度や二度のダウンでくたばる程アタシは(やわ)じゃ無いからね。」

 

 大まかに自身の外観上の肉体的ダメージを確認しつつ返す川崎、その様子から冷静さも失ってはいないしダメージも然程では無い事が俺達観戦者からも窺い知れる。

 

 「けどまあ、キャリアは短いとは言え流石はケン・マスターズの弟子だね、アンア結構やるじゃん。」

 

 ニヤリと構えを取りつつ敵手とその偉大な師をを評する川崎、一杯食わされたとは言え彼女が知りたかったマツダの流派の技をその身とその目で確かめられた事を喜びを感じている様だな。痛い思いをしてそれに喜びを感じるなんてマゾとか思わんといてほしい、格闘家たる者多かれ少なかれそう言った気持ちは大概持ち合わせているもんだ。

 

 「へへっ、ソイツはどうもお誉め頂き光栄だぜ!」

 

 軽くジャブ、ストレートとワン・ツーのシャドーを披露しつつマツダは川崎に返す。此方もクリーンヒットを奪えた事で手応えを感じ、この手合いに充実感を味わっているのだろうか。

 

 「待たせたね。」

 

 戦闘態勢を整えた川崎が構えを取り直しマツダに声を掛ける。

 

 二人の講義に分類すると源を同じとする二つの流派の遣い手の闘いはいよいよ最終局面へと向かうのか。

 


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