やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
川崎とマツダの二人がほぼ同時に放った蹴りがカウンターとなり、その反動による体勢をいち早く立て直し竜巻旋風脚を川崎へとヒットさせたマツダ。序盤から川崎が優勢に進めていたこの勝負、初めてマツダが川崎に対してまとまったダメージを与える事に成功した。
とは言え現時点ではまだ川崎の優勢である事には変わりが無い様に思われる、故に此れからどの様に動けばマツダが挽回を図れるかは未だ未知数ってところだろうな。
「しょッ!ソラァーッ!」
「ハッ!ヤァッ!セイッ!」
中近距離での互い主導権を奪い取るべく瞬く間に攻防が入れ替る、片方が拳を繰り出すともう一方は受け流しかと思えば流れる様に体勢を変えては水面蹴りを繰り出すし、バックステップで回避しては相手が体勢を立て直す前に逆撃を加えよう気弾を放ち……。
そんな攻防の間にも着実に二人の体力、精神力共に削られて行っているだろう。何せこの蒸し暑い残暑の中での闘いだしな、それにより此処ら辺りから何時行動選択判断のミスが起こっても不思議はなかろう。
「行くぜ!ドラゴンッスマッァシュッ!」
「ハァッ、セイリャァッ!」
そして近接戦の最中に偶然なのか必然か二人はほぼ同時にその身を僅かに屈めた体勢から放ったのは、アッパーカットのモーションから全身のバネを極限まで使い豪快に身体ごと翔び上がり相手の顎をうち貫くマツダの『昇龍拳』と川﨑の『龍牙』だ。奇しくも二人共に龍の名を冠する技がぶつかり合う。
「ぶっ、ぐわぁ〜……っ……」
「グッ…あぁーっ……」
互いの顎を強かに打ち付け合い弾き飛ばされた二人は背中から地へと墜落し数秒間のダウンの後立ち上がり向き合うと、二人共瞬時に自身の身体の状態を確認し問題無しと観て取り相手へと向き直ると再度突進、再びの接近戦へとなだれ込む。
今の、再度のある種のクロスカウンターにより二人の顎付近には打撃により内出血でもしたのか少し赤く腫れて見える、美人が台無しになってしまうからできれば川﨑にはあまり頭部や顔面には傷を負ってほしくは無いと思うのは俺のエゴなのだろうな。だが格闘者としては相手と己の力量を比べ合って殴り合いをやってる訳だし、そうもいかんだろうってのは解ってるんだがな。てかそこの君お前だってサキサキの事ぶん殴っただろうが!とか言わないの。
「……………ん!?」
更に続く攻防、しかし此処で俺は闘う二人に否正確に言うならばより川﨑の方にだが違和を感じた。
「すぅ、すぅ、ハァー……」
この闘い、比較的優勢に進めていた筈の川﨑の方がより頻繁に呼吸を整える為に小さく吸って吐いてを繰り返している。
単純に数値化してダメージ値を算出とか出来ないが、それでも与えたダメージは川﨑の方が高い筈だ。幾らマツダの耐久力が高く柔軟性に富んだ肉体をしているとしてもだ。
なら、だとすれば考えられるのは精神的な疲労だろうか。そうだな例えばこの仕合いの序盤から川﨑は優勢に事を勧めてはいたが思わぬマツダのタフネスぶりや鬱陶しいフェイント動作に苛つかされ不必要に神経を使う羽目になって、そのせいで気力を消耗してしまったとか。
「ねえ八幡師匠……勝つよね、沙希師匠!?」
共にこの一戦を見守る留美も川﨑の様子を訝しく思ったんだろう、不安気な眼差しを俺に向けて小さな声でそう問うてくる。
「……あぁ、大丈夫だ留美。けーちゃんと留美が応援してりゃあ川﨑は負けないさ、知ってるか留美、千葉の兄ちゃん姉ちゃんはな妹達の応援がありゃあ絶対無敵なんだ。どのくらい無敵かって云うとだな元気が爆発して熱血が最強ってくらいだ、だから信じて見守っていてくれ川﨑の事を。」
「………うん。」
俺の返答に留美は眼差しに、力を取り戻したかの様に強く俺を見つめると静かに頷き、闘う川崎へと視線を戻すと小さな声で『がんばって沙希師匠』と声援を送る。その隣ではけーちゃんもまた留美と同様に、川﨑に対し一生懸命に可愛く声援を送っている。
しかもそして何時の間にか二人は互いの手を繋いでいるし、今が闘いの場面で無ければ俺はこの妹達の貴すぎる光景を前に確実に尊死していた事だろう。
「お兄ちゃんさ、今留美ちゃんに何気にいい事言ってあげた感出してるけど、これでもかって位ネタをぶち込んでたよね。沙希さんとマツダさんが闘ってる大事な場面なのにさぁ、もう小町的にこれ以上無いくらいにポイント低すぎだよホント、だからゴミぃちゃんなんだよ。」
ジトッとした眼差を俺に向け小町の遠慮会釈無い辛辣な一言が俺に突き刺さる。しかし俺のぶっ込んだネタを理解出来ているって段階で、それなりに俺と親父によるオタク洗脳の効果が自分に現れてる事に気が付いているのやら。
「あいよ、何時もの情け容赦の無い突っ込みありがとよ小町。」
まあ言うだけ言ったからいいやとばかりにもう俺の事はアウトオブ眼中ってな感じに、小町は闘う二人に目を向けこの闘いの展開を見守る。
だが、俺は見落としてはいなかったぞ小町さん。俺にそう言い終え川﨑達の方へと顔を向けるその時、少しだけ頬を赤らめて更にぽしょりと小さな声で『まあ、留美ちゃんを安心させる為に言ったって所は高ポイントだけどね』とな。
残念だったなぁ小町ッ、我が八幡イヤーは(都合のいい時だけ)地獄耳ィィィイイイ!
何だかんだと言ってしっかり俺の事を見てくれているんだからな、全くもう本当に可愛いったらありゃしないぜ、日本語でデレる妹の小町さんったら。こうなりゃもう小町√に突入するしか……(ソグリッ)ハァッ!?何だ今の寒気は。
気の所為だよな……うん気の所為気の所為、止めよ今は俺も川﨑とマツダに集中だ。
「ほれっ!シュ!あらよッ!」
「………ッ!」
龍牙と昇龍拳との相打ちから立ち上がり川崎とマツダの二人は、今はさっきよりも少し距離を開き対峙しているんだが、さっき迄とは打って変わってまたもやマツダが序盤の時の様に巫山戯たフェイントや挑発を繰り出し始めた。
川崎へ向けて“べろべろばー”や“ハナホジ”をやってみたり、届きもしないパンチや蹴りの動作を見せたりと遣りたい放題だ。対して川崎はやはりと言うべきか努めてクールを装おうとしているが、溢れる苛つきを隠しきれてはいない。
「オラオラ、どぉしたどぉしたぁぁぁっ!?」
マツダの川崎に対する挑発の言動はまるで、以前春日野先生から聞かせてもらった材木座の師匠で親戚筋の叔父さんである“火引弾”さんの戦法を思い起こさせるモノがある。
ぶっちゃけ、もしこれに相対しているのが川崎では無く俺だったとしたら、うん。マジもう思いっきし『プッツンオラ!』しているわ、それだけマジ見てるだけでも苛つくモノがあるわ。
「はっ!呆れたねアンタ、さっき迄の技巧を尽くしたファイトは一体何だったのさ。」
「へっ、何言ってんだって、そんなに苛つくなって姉ちゃん。俺もさっき言ったよなコレも立派な戦術だってよ。」
そして案の定闘う当事者たる川崎も同様に、否当事者なればこそ俺以上に苛ついているのだろう、マツダにその意を問わずにはいられ無かった様だ。対してマツダの返答もまた先程と変わらずである、しかしコイツ案外強心臓してんのな。ちょいとキツめの美人の川崎にあんなおっかない鋭い眼光で射竦められてんのに呑気に言い返しやがるし。
まぁ、しかしケン・マスターズさんの弟子をやってんのならそれくらい強気でないと務まらんって事だろうとでも思っておくか。
「そうかい、だったらッ!」
苛つき、怒りのボルテージがマックスを迎えた川崎がその一言と同時にマツダへと向い突進してゆく。
きっと川崎はこう考え決意したのだろう『そんな小細工なんぞ力で強引に捻じ伏せてやる』と、その判断を実行に移すべく川崎はマツダの元へと向ったのだろう。
「ハッ!ハッ!フンッ!セいりゃァーッ!!」
ショートレンジから川崎がマツダの要らんフェイントやガードを崩すべくスピード重視のパンチと蹴りの連打を、ガードなんぞ構うものかとマツダに叩き付ける。
ビシビシとマツダのガードの上を打つ打撃音が鈍く響く、結果防戦一方に陥っているマツダも流石にこれには“手も足も出ない”状況に陥っている、様に……一見するとそう見えるだろうが、ガードに隠れたマツダの目と口はニヤついている。
「うん、ショーン君ってば案外役者だねぇ。」
流石は春日野先生だな、いち早くそれに気が付くとはな。ガードでその表情を川崎に見せない様にしているが、バトルステージから距離を取り全容がほぼ見て取れる観戦者からは丸分かりだ。まぁ偶々マツダが此方側に正面を向けているからなんだがな。
「すね、一見川崎に攻められて防御一辺倒な状況に追い込まれた風を装っちゃいるけど。」
「おっ、流石だね比企谷君も気付いてるね。」
俺が先生に言に同意するとチラッと此方を振り返り春日野先生が俺を評してくれた。まぁこの仕合いのジャッジを勤めている関係上直ぐに闘う二人に注視するが。
「まぁ、元がボッチ気質だっただけに他者の挙動とか言葉の裏側とかを粗を探すのは得意分野でして。けど何処までお人好しで人の出来た兄貴達や大切な人達と出会ったお陰でそう言う面が多少はマシになっちゃいるとは思いますけど。」
「あはは、そか……まあそれは置いといて川崎さんは性格が真っ直ぐなんだろうね。」
ですね、俺の事は置いときますよねぇそりゃあそうだ。うん知ってたよ八幡。
「川崎は四人姉弟の長女ですし、下の子たちの面倒も確りと見てますしね、責任感も半端ないですし。まぁそれが行き過ぎる事もあるんでしょうけど、それに何よりもアイツは格闘家として極限流空手に誇りを持ってますしね。」
だからこそ正面から正々堂々と闘うことを是と捉え真っ向からの勝負に拘るのだろう、だから外連味だらけの今のマツダの様なファイトスタイルは苦手なのかもな多分。まぁ後は実戦経験の不足も多少はあるだろうがな。
「そうだね、けどショーン君みたいなタイプの相手を攻略出来れば、川崎さんはまた一歩格闘家としての高みに行けるんだろうけど。」
春日野先生が彼女をそう評し、俺もそれに同意する。俺達が会話を交わしている間にも川崎の攻撃は続きビシビシと打ち付ける、そして川崎はいよいよ痺れを切らしたかマツダに対し強引な一撃を叩き込もうと大きなモーションを、大きく右腕を引いて右正拳を放とうと構える。
「いい加減アンタも手を出して来なぁッ!」
そして、掛け声一閃それを打ち込むべく繰り出すが、しかしそれこそがマツダの待ち構えていた瞬間だったのだろう。それに気が付き俺は。
「ハッ!不味い川崎ッ!!」
思わず声を上げ川崎に注意を促すが時既に遅く、川崎は正拳突きをマツダに向けて繰り出してしまった。
「シュウッ!」
「なっ!?」
川崎の右正拳にタイミングを併せて「シュウッ!」なんて声を出して動くマツダ(ファースト○ンダムのアイキャッチも斯くやだ)は突如ハイスピードでしゃがみ込む。
あまりのジャストなタイミングとスピードに川崎はどうやらその瞬間マツダを視界から見失ったんだろうか、驚愕の声を上げる。
「もらったぜ!」
川崎は此処に取り返しの付かない失態をおかしてしまった、超近接距離から無防備を晒す川崎に対してマツダは必殺の昇龍拳を放つ絶好のチャンスだ、しかし……何を考えたかマツダの奴が放ったのは昇龍拳では無く、事此処に及んでも奴がやらかしたのは。
しゃがんだ状態から大きく腕を伸ばし川崎の完全まで上げ繰り出したのは、パーンッ!と乾いた音を点てる両の掌。所謂それは猫騙しってヤツだ。しかしその手を叩き合わせる音と共に風圧が川崎の目に影響したのか。
「しまっ、うぁ!?」
思わず反射的に目を閉じてしまった、敵を目の前にこれは拙すぎる。
そして彼女に訪れる最悪の瞬間。連打に繋げる気なんだろうマツダがショートアッパーの構えを取り、それを打ち放つのだが。
「サ スーンクオリティ!!!」
「はあぁぁあ!?」
マツダがショートアッパーを放つに当たり叫んだ技名に俺は思いっきし呆れの声を上げてしまった。コイツ今何て言った!?嘘だろオイ、そう思わずにはいられんだろうコレ。
まさかJr以外の外人キャラがこんな場面でネタをカマスか!?
「よっしゃあ往くぜッ!!」
だが、ネタは兎も角そのショートアッパーの威力は洒落では済まず川崎はその身を僅かに空へと持ち上げられ大きな隙を晒している、当然これはマツダにとっては連撃を入れる絶好のチャンスだ。
「ハドゥーケェーン!」
無防備な川崎に向け波動拳を放つマツダ、しかしその波動拳を放った直後普通ならその反動で若干動作が硬直してしまう筈だなのだが、マツダはそれを恰も掻き消すかのようにハイスピードの残像を引きつつキャンセルし次の動作に入りそして。
「次行くぜ、喰らえッ!」
掛け声と共に波動拳を喰らった川崎を追い掛けショルダータックルを決め、更に数発のパンチを浴びせ川崎を空に浮かしたまま、次の動作に移る。
「ハイパーットルネェードッ!」
川崎を襲うマツダの残像付きの超竜巻旋風脚、鈍く大きな連打音が連続して重なり聴こえ遂に川崎を大きく吹き飛ばす。
おそらくコレはマツダの超必殺技クラスの技なのだろう、きっとこの技により川崎は甚大なダメージを被ってしまった事だろう。
「あ……あぁぁぁぁっ……」
痛撃を受け途切れ途切れの悲鳴を上げて川崎が此処に再びダウンを喫してしまう。
「さーちゃーん!」
「沙希師匠ーッ!」
堪らず悲鳴の様に川崎の名を呼ぶ二人の妹達、これは痛烈なダウンだったし少女達が声を上げるのも当然だ。
「ツー、スリー……」
しかし春日野先生はそんな少女達の思いも置いて冷静に春日野先生らカウントを進める。勝敗は兵家の常とは言えど俺も格闘技を通して親しくなり、共に留美に技を教える同氏たる川崎が痛烈に打ちのめされる姿を見るのは途轍も無く辛いが、妹達の手前今はそれを見せる訳にはいかんだろう。
そんな事を俺がやろうものならけーちゃんも留美も今以上に悲痛に胸を痛める、なのでそれはジッと我慢する。それに俺は彼女を、川崎を知っているからな。川崎は此処で終わるようなタマじゃ無いって事を。
「ファイブ、シック……」
「……っ、くぅッ…」
春日野先生によるカウントの進む最中、川崎が小さく痛みの声を漏らしつつもゆっくりと膝を立てはじめる、少し距離が離れてしまっているが俺には見えた。
「どうかな川崎さん、まだやれそうかな?」
川崎の側に駆け寄り、その状態を確認する春日野先生が川崎に問う、直ぐ至近にいる春日野先生にも当然見えているだろう、だからこそ春日野先生のその声には川崎を心配する気配があまり感じられない。
「……はい、ちょっとばかい痛かったけどアタシに問題はありませんよ先生、まだ行けますッ!」
彼女の、川崎の眼光にはまだ闘う者のスピリッツが、闘志が、未だ衰える事無く輝き続けている。それが理解るからだ。
「うん宜しい、では再開するよ川崎さん、ショーン君!」
川崎の返事に春日野先生は微笑みで返し闘いの再開を告げ、闘う二人から離れる。
「ふぅ、やられたよ……まんまとアンタの術中に嵌められた様だね。まだまだアタシも甘かったよ、けどアンタの今の強烈な一撃で目が覚めたよ。」
痛みを堪え呼吸を一つ、自身の失態を顧みて川崎はマツダの戦術を評して言うと、構えを取り直す。
「へえ〜、ソイツは何よりな事だな。って言いたいトコだがよ今のは結構俺的にはキョーレツにバッチリ決めたつもりなんだけど、アンタ無理してんじゃねえの。」
会心の一撃を決めたマツダも口ではなんだか川崎をおちょくる様にそう返すが、その表情には彼女を侮っている様な様子は無い。
「さあ、どうだかね。何なさだったら試して見ればいいじゃん、けど目が覚めたアタシは今迄の様には行かないよ!」
今の一撃でも川崎が沈まなかった事に驚愕と称賛の念が、マツダの心中を大きく占めているからだろう。
余分な力が抜けごく自然体に身構える川崎の言にニヤリと嗤う、そして。
「へっそうかよッ、じゃあ行くぜーッ……っ、お前何のつもりだよそりゃ、ああっんッ!?」
川崎を目掛けてダッシュするが、しかしその途中川崎の異変に気が付き戸惑い、そして彼女のその行為にマツダは侮辱でもされた様に怒りを顕にする。
それは何故か、身体から余分な力を抜いて構える川崎だが其れだけでは無く、何と彼女は闘いの中その両眼を閉じたからだ。正直これには俺も驚きを禁じ得ない。
「フッ、この闘いアタシはまんまとアンタの術中に嵌って醜態を晒してしまったからね、アンタの戦法はアタシみたいな不器用な人間には効果覿面だったんだろうね、ちょっと拙い部分もあるんだろうけど見事だったよ。だからさその術中に嵌まらない様にするにはどうすれば良いかってアタシなりに考えてみたのがこれだよ、此処からは目で見るんじゃ無く全身でアンタを見る!」
心眼とでも云うのだろうか、川崎は今それをやろうとしているんだろう。そしてマツダに対する返事にも構え同様に自然な力みの無い声音で彼女が冗談や相手を侮ってそんな行為に及んだのでは無いって事が理解出来る。
「そうかよ、じゃあ俺がその目を開かさせてやるぜ!」
言うが早いかマツダは身構え両手の掌に気を巡らせ集中し迸るエネルギーの塊を作り上げる。
「喰らえっ!ハドゥーッ…バァーストッ!」
思いっきり強く速く両腕を前方へと突き出し気弾を射出する、それは遠目にも通常の、リュウさんのそれや動画で見たマスターズさんの波動拳よりも威力スピード共に超えている様に見える。おそらくこの波動拳はマツダの超必殺技なんだろう。
しかしその超高速で飛来する波動拳を前にしても川崎はその目を開く事無く。
「ハッ!ハッ!」
己目掛けて飛来して来た波動拳を絶妙なタイミングで以て見事にその手で叩き落してしまった。
「なッ!?」
これには波動拳を放ったマツダも驚きを禁じ得ず、思わずって感じに気の抜けた声を漏らしてしまった。
うん、その気持ちには俺も同意するわマツダ。
「そっ、そんなモン偶然に決まってるぜッお次はこれだぜ!」
体勢を低く構えてマツダは高速で川崎へと突進していく、タックルによる組み付きを狙っての行動だろうが川崎はそれを、闘牛士よろしくサッと華麗にサイドへと躱し不発に終わらせ、それに留まらずタックルの不発にバランスを崩したマツダのダム(
思いっ切り前へとつんのめりベタンとうつ伏せに顔面から地へとぶっ倒れたマツダが『うげぇ』と声を漏らしてしまう。
「わーい、さーちゃんつよい!」
「沙希師匠、カッコいい。」
川崎の雄姿に二人の妹達の歓声が俺の耳朶に響くが、今俺はそれを気にする事も無く只々驚愕を以て川崎を見つめる他無かった。
間違い無く川崎はこの闘いで開眼したと言っても過言では無かろう。
ひたむきで真面目で、ある意味清廉な闘いしか出来なかったが故にマツダの小細工の前に後手に回ってしまっていたが、元から技量ではマツダの上を行っていた川崎が心眼とでも呼ぶべきモノを身に着けてしまったのだから。
「勝負……あったな。しかしこりぁ俺もいよいよヤバいかもな。」
俺はそう口に出さずにはいられなかった。この夏ジョーあんちゃんやロバート師範、そして雪ノ下さんと強者との手合わせにより俺も一皮剥けたと自負していたが、もしかすると川崎は………。
「へっ、まだまだだぜ!」
ダウンから立ち上がり顔に付いた土を払いマツダは強がって見せる、事がここに至ってもさっきの川崎と同様に闘志を失わないマツダに半ば俺は感心するが、今のマツダに川崎に勝つ為の道筋は見えない。
「もう一丁行くぜ、コイツはどうだぁッ!」
川崎へと向かいダッシュで中間距離まで接近したマツダは技のモーションに入り、必殺技を放つ。
そしてこの技が、この闘いに於けるマツダが繰り出す最後の技となってしまう。
「トルネェード!!」
「はぁっ!ハッ!ハッ!ハッ!ヤァーッ!」
マツダの竜巻旋風脚が川崎を襲うがしかし、川崎はその蹴りの四連打をブロッキングにより全てを捌きると、空かさず瞬時に反撃に移る。
「やぁ~ッ!」
ぐるりと大きく上半身を回してマツダへと放たれるのは、俺がロバート師範に喰らったバックハンドブローだ。
「なっ!?しまっ……うわぁーーッ……」
己の失敗を自覚するも時既に遅しで悲鳴を上げ高々と空へと打ち上げられるマツダの身体はその自由を奪われてしまう。
「はあーっ!極限流奥義!!」
バックハンドブローにより打ち上げられたマツダの身体が落下して来るのに合わせて突進し、川崎は遂に繰り出す。
「極限流奥義、龍虎乱舞……。」
「龍虎乱舞、これが。」
俺の口がその技名を紡ぐと留美がそれを反芻する様に呟く。
その間にもマツダの身を撃つ川崎の打撃、ジャブが正拳が、ローがミドルがハイキックが回し蹴りが次々とマツダを叩く。その打撃数が十数発に及び此処で龍牙によるフィニッシュが加わり、龍虎乱舞はかんせいするのだが。
「何っ!?アレは!」
川崎はフィニッシュの龍牙を放たずに、そこで撃ち出したのは。
「ワッ、ワイルドアッパー!?」
数日前に俺は川崎に請われ、テリー兄ちゃん直伝の地面スレスレの低空から大きく放つそのアッパーカットの打ち方を教えたんだが、まさかそれを此処で繰り出すとは思いもよらず。
「ぐはぁ……ッ…」っと呻いて小さく空へと浮かぶマツダに今俺は同情の念を禁じ得ない。
「エゲツねぇ川崎、此処から更に繋ぐのかよ……。」
龍虎乱舞をキャンセルしてまでワイルドアッパーで更にダメ押し弾をすべく川崎は次のモーションへと移行する。
おそらくこれから彼女が放つのは数日前に彼女から相談を受けたあの技に他ならないだろう、それは。
「行くよッ、ハァーッ、セイ!セイ!セイ!セイ!」
先ず始めに繰り出すのは近接状態からの極限流の蹴り技四連撃の「極限流連舞脚」だ。既にしてこの技自体が連続技に使える優れもので、最後の四撃目で相手は割りと空高くにその身を浮かせられてしまう。
「フッ!ソッリャーあッ!」
その威力打撃により浮いたマツダの身が重力により引かれ落下して来るのに合わせて次に放つは、極限流のサマーソルトキック「龍斬翔」
一度落下して来ていたマツダの肉体は再度川崎のその蹴りに依って空高く舞い上げられる、同時に彼女自身もバック宙の要領で空へと舞うのだが。
そして、この一連のコンボの最後の一撃は……。
「ハアーッ、ヤヤヤヤヤヤァッ!セイリャーぁッ!」
空へと舞いつつ放たれる無数の蹴り、それは空中版の幻影脚とでも形容すれば良いのだろうか。
ビシビシと高速で放たれる空中版幻影脚、その十数発の蹴りがマツダの身を叩きフィニッシュの一撃が遠く高くマツダを吹き飛ばし、技を終えた川崎はシュタッとばかりに着地を決め、その技名を呟く。
ロバート師範直伝、極限流空手の三種の脚技その、俺が命名した技名は。
「……飛龍三段蹴り……」
吹き飛ばされたマツダもまた地へと叩き付けられるが、しかし春日野先生のテンカウントに応えられず。
「この勝者川崎さんの勝ち!」
春日野先生より勝者の名が告げられる、この勝負の軍配は此処に川崎へと上がったのだった。
飛竜三段蹴り、技名の出処は解りますよね。