やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
最近俺に対して情け容赦って言葉を因果地平の彼方へと追いやってしまったかの様な態度をちょくちょく見せる川崎に、首根っこを引っ張られ春日野先生の前に敢え無くドナドナされてしまった俺は。
「全くお前はマジで最近俺の基本的人権の侵害が甚だしすぎんだってぇの……おのれぇッサキサキ見ていろよ、次の春闘ではベア交渉満額回答を勝ち取ってみせるからな、いやむしろそれ以外には首を縦には振らんまである。」
川崎に対して毅然とした態度?で抗議し、決意を述べる。それは“人として男として”絶対に必要である筈の、俺の基本的(ベース)待遇の質的向上(アップ)の要求。
それは職業人として主張し勝ちとるべき当然の権利です。いや俺は働いて無いけど。
「アンタはぁ……この場に及んで何時までも馬鹿な事言ってんじゃ無いよ全く、それに第一誰を相手に闘おうって言うのさ。」
「そりぁお前、この俺の有り様を認めてくれない“この世の中”と云う名の、言わば“僕を苦悩させるさまざまな怪物たち”と言う強敵と闘うに決まってるだろう。出来れば面倒臭い事は避ける主義の俺だが、多分この人生の内に数度はそんな事から避けられない事態が俺の身に降りかかるだろうからな、その時は真正面んからかどうかは知らんけど、全力で立ち向かわざるをえないだろう。そうかつてお前のところのサカザキ総帥がユリさんを救うために覇王翔吼拳を使わざるを得ないと決意を固めた時の様にな!」
「ハンッ!!そんなアホな事の喩え話にウチの総帥のエピソードを使うんじゃ無いよ、もうッ!てか第一アンタが何時までもグジグジと覚悟を決めきらないから悪いんじゃん、てかついでに聞くけどアンタ何気にコレクタ○ズ好きだよね。」
どうやらサキサキってば俺がサカザキ総帥のエピソードを持ち出した事が起きに召さない様だ、俺としては極限流空手門下の彼女に忖度したつもりなのだが、どうやらそれが裏目に出てしまった様だ。コイツは俺もまだまだ精進が足りないって事かもな、フヒ。
あと更に加えて答えると、毎週『池袋交差○24時』を毎週視聴するくらいにはザ・コレ○ターズは好きだけどな。
「いやだってお前なぁ、相手はあのケン・マスターズさんなんだよ緊張して当たり前田のクラ○カーだろう。何なら俺はお前のところのサカザキ総帥相手でも多分こうなると胸を張って言い張れるまである!」
世界的に名を知られた偉大で有名な格闘家達、ケン・マスターズさんやサカザキ総帥をはじめとする極限流空手の師範、師範代クラスの人達など。俺が目指す遥か先にいる強者達、そんな人達を前にしちゃな。
まぁ、サカザキのご隠居やロバート師範と出会った時は一緒にジョーあんちゃんと舞姉ちゃんが居てくれたお陰で然程緊張せずに済んだが、それは別の話だ。
てかこれは仮定の話だが、もし俺がテリー兄ちゃんと出会わずに別のルートで格闘家を目指したとする、もしそうなっていたら俺はテリー兄ちゃんやアンディ兄ちゃん、ジョーあんちゃんに対してもこんな感じになっていたのではなかろうかと思わんでもないしな。
「はぁアンタそんなくだんない事に胸を張ってどうすんのさ、大体そう言う事はもっと万人に認められる様な事をやる時にするもんだろ。」
『プハハハッ…おいおいお二人さん仲が良いのを見せつけてくれるのは構わないが、いい加減俺も話に加えちゃくれないか。』
俺とサキサキの不毛な討論に痺れを切らしたのか、春日野先生のスマートフォンスピーカーから朗らかな笑声を響かせてマスターズさんが話に加わって来る。
「はっ!?すいませんでしたマスターズさん。」
異口同音。はっ!と思わず焦り俺と川崎は、ほぼ同時にマスターズさんへ謝罪の言葉を口にする。普通に考えりゃ俺達を呼んでいる人を前にグダグダと茶番を演じてしまっていた訳だからな、謝罪するのは当然であるわな。
『ハハハッ、まあそんな風に敬意を払ってくれるのは嬉しくもあるがよ、二人共そう肩肘張らず普通に話そうぜ。』
気さくにマスターズさんが、その様に言ってくださった事に俺とサキサキはめっさ恐縮する事しきりってヤツで、思わず俺はマスターズさんに見られてもいないのに後頭部を掻いてしまう。
『取り敢えず自己紹介でもしておくか、まあ何だ知っているとは思うが俺が其処に居る君達の邪魔をしに来たショーンの師匠のケン・マスターズだよろしくな。それで八幡の事はリュウのヤツやさくらちゃんか聞いてるから少しは知っちゃいるんだが、すまないが極限流のお嬢さん君の事を教えてくれないか?』
「極限流門下、川崎沙希と言いますマスターズさん、字は
『はい』とマスターズさんへ返事をし川崎は自らの名を名乗る、俺もそれに続きお約束の『同じく伊坂十蔵』の名乗りを上げようとしていたんだが、背後から乾いた厚手の紙をパンパンと叩く音が響いていたので自重する。
そして恐る恐る振り向くとその顔にメッチャ不自然な笑顔を湛えている小町が居た。その手には小町自身の腕の半分以上の長さの白い厚紙で作られたハリセンが握られている。うんどうやら俺は寸での処で命を拾った様だが、お約束をやれなかった事に若干の残念さを感じる。
「へぇ〜っ、サキって言うのか。やっぱりいい女にはいい名前が付いてるモンなんだな。」
命拾いをした俺を他所にマツダはマスターズさんに対し名乗りを上げた川崎のフルネームを知り、一人ほやっとした声音とでれっとした表情でそれを褒めそやす。
コノヤローもしかすると闘いを通して川崎に惚れてしまったのかも知れんな。心なしマツダの表情がデレっとしているし。
『ほう、沙希か。確かにショーンじゃ無いが綺麗な良い名前だな。しかもまだヒヨッコとは言え、この俺の弟子をぶっ倒す位に強いってんだからな、大したもんだぜ!』
「恐縮です、マスターズさん。」
『ハハハ……さっきも言ったがそう
マスターズさんが川崎の名とマツダとの手合の結果とを称賛し、それに応える川崎に砕けた態度で緊張を解く様に促すと、川崎は僅かな間だがどうした物かと思考を巡らせた様だったが、直ぐに答を決めたか真っ直ぐに春日野先生の持つスマートフォンへと視線を向け答える。
「はい、分かりました。」
『おう、そうしてくれ。それから八幡、お前もな。』
颯爽と川崎がマスターズさんへ返事を返すとそれを受けたマスターズさんはついでとばかりに俺にもそう促されるが、しかしそうは言われても相手は憧れの格闘家の一人であるマスターズさんだから失礼な態度にならないかと不安なんだが、しかし御本人からのお言葉もあるしな。
ここは一つどうにか失礼にならない様に気を付けながら、マスターズさんの要請に応えられる様にしないとな。
「うす、マスターズさん。」
そう思い直ぐに返事を返してみたものの、どうにも言った後にこのいつもの調子の返事がちょっと失礼っぽいのではなかろうかと、後悔している俺ガイル。
『おう!それとな、其処に居るみんなもだけど、マスターズさんって呼び方は止めてくれよな。さくらちゃんみたいに気軽に俺の事は名前で呼んでくれて構わないぜ。』
しかし其処はやはり人間が出来ているのだろう、マスターズさんは何も気にせず鷹揚に頷くと気さくな声音で自身を性では無く名前で呼んで構わないと言ってくださった。
このスマートフォンのスピーカーから聴こえてくる声音もそうだが、時々視聴しているネット上の過去の動画でのマスターズさんへのインタビューや自身の語りから、陽気で人当たりの良いおおらかな人物だって事は伺い知れていた。
「ねえねえお兄ちゃん、ケンさんってさ何かテリーお兄ちゃんと感じが似てるよね。」
その人柄を敏感に察知した小町が俺の背後から呼び掛けてきてそんな事を言う、確かに俺もそう思っていたので小町に同意しそれに頷く。
そして小町はヒョコッと俺の両肩に手を添えて身を乗り出すように春日野先生のスマートフォンに近づくとそれに語り掛ける。
「分かりました。それじゃケンさんって呼ばせてもらいますね。あっ自己紹介させてもらいますけど小町はお兄ちゃんの妹で比企谷小町と言います、よろしくお願いしますケンさん。」
マジで我が妹ながら何なんだ、この積極性は。相手が偉大な格闘家であるケン・マスターズさんだってのに物怖じ一つしちゃいないじゃあないか、そのコミュ力(53万)パないわ小町さん。
しかしまぁ確かに小町が言った様に、俺もマスターズさんの人柄にはテリー兄ちゃんと近しいものを感じてはいたけど。
『おうよろしくな小町ちゃん。しかし何だ八幡には妹が居たのかよ。しかも兄貴と違って積極的で元気な娘みたいだな、結構な事だぜ。』
小町の挨拶に気さくに応えるマスターズさん、確かに言う通り小町は俺と違って社交性A(超スゴイ)で御座いますですし。
「まぁそりゃそうっすよ、何たってウチの妹は世界の妹ですからね。何なら世界の妹の覇権を掛けた四年に一度のシスターファイトが開催されたら絶対優勝間違い無しでシスター・ザ・シスターの栄冠に輝く事が約束されているって言っても過言じゃ無い逸材ですからね。」
グッと右の握り拳を胸元付近に置いて俺がマスターズさんに小町の素晴らしさを語ると、周囲は瞬間沈黙に支配される。その沈黙に気恥ずかしさと不安とをヒシっと感じて俺はキョロキョロと周囲を見回すと。
「………うわっちゃ〜っ、これだからゴミぃちゃんは。」
「はあ……始まったよ。」
「八幡師匠……ホント、残念。」
「八幡、お前って結構ヤバいヤツだったんだな。」
みんながさも残念なものを見る様な目で俺を見、さらに口々に駄目出しをする。いやもう半ばそれも馴れたモノなんだが、こう揃って言われると悲しくなってしまうが涙は流さない。別にロボットでもマシーンでも無いし。しかしこうなっては俺には燃える友情ってものが分からなくなりそうだわ。
『………ぷっ、ハハハハハッ。いやコイツは兄妹仲良くて結構な事じゃねえか。野生の狼ってのは身内や群れを大切にするって言うし、噂に聞くテリー・ボガードってヤツなんざ身内だけじゃ無く、一度拳を合わせた連中とも忽ちのうちにダチになっちまうって話だしな、俺もヤツには何れ会ってみたいと以前から思っていたんだぜ。』
身内達プラスお邪魔虫からの冷めた俺評を他所に、マスターズさんはそれをさも愉快と高らかに笑い飛ばしてくれた。やっぱり世界トップクラスの格闘家の人ってのは人間ができている人が多いな、しかもテリー兄ちゃんの事を高く評価さてくれている様だしな。まぁ弟分としちゃこいつは嬉しい事だ。
「うす、ありがとうございますマスタ……ケンさん。何てかそう言ってもらえるとテリー・ボガードの弟子としてはそう言ってもらえて、すっげえ光栄です。」
俺は素直にマスターズさん、もといケンさん(と呼ばせて頂こう)に伝えると『おう!』とケンさんは鷹揚に応えてくれた。
続けて留美とけーちゃんもまたマスターズさんへ自己紹介と挨拶を済ませ改めてマスターズさんは俺達に声を掛けてくれる。
『八幡、沙希ちゃん、それからみんなも今回は俺のバカ弟子が世話をかけちまったな。それにさくらちゃんもありがとうな。』
弟子であるマツダの来訪に対してマスターズさんが俺達に詫びるが、俺も川崎もそれを迷惑だとか世話を焼いたとか思っちゃいない、なのでそう言われると此方の方が申し訳無く思ってしまうな。第一俺は結局マツダと一戦交えた訳でもなし。
「いえ、お気になさらないでくださいケンさん。私としてはマツダとの対戦を通して手応えを掴む事が出来ましたし。」
川崎も多分同じ様に感じたのだろうな、チラリとマツダに一瞥するとマスターズさんに対してその様に伝えた。
『フッ、そうかい。まあショーンのヤツが君の成長の糧の一部にでもなったんなら俺としても何よりってもんだぜ。』
優しい声音でマスターズさんが川崎に答える。いや、先の手合いに於ける川崎の成長は一部何てものではすまない程凄まじいモノだったと、その一部始終を目撃した俺達は思っておりますよ。そしてマジ次に川崎と仕合う時、はたして俺は彼女に勝てるだろうかと。
『しかしなぁ、リュウのヤツが再会の日を待ち侘びている狼を継ぐボウズに極限流空手の未来を担うお嬢さんにウチの不肖の弟子か……なあさくらちゃん、こうして次の世代の若い連中が着実に台頭しつつあるんだな。こりぁ俺達もうかうかしちゃいられないな。』
少しだけ低音のシリアスさが含まれた声音に僅かな感慨を込めた、そんな声音でケンさんは春日野先生へ呼び掛けると、春日野先生もケンさんには見えないだろうが一つ頷きそれに答える。
「うんそうだね、私も最近は実戦こそやってないけど比企谷君達にはすっごく刺激を受けてるよ。それにこの間お会いした同世代の不知火舞さんだって現役を続けてるって話も聞いたしね。まあそれで、仕事に支障が出ない程度にはだけど私も負けていられないかなって思ってさ。」
ちょっと可愛いけど、ボーイッシュ(年上の人を評するのにどうかとも思うが)な感じの溌剌とした楽しげな声音で春日野先生がケンさんに答える。
春日野先生って俺達の事そんな風に思っていてくれてたのか、一格闘家として先達にそんな風に思われてるとはマジ感謝だな。
そして十平衛先生が言ってた通り春日野先生は指導者として大成しそうだ。
『ハハッそうか、ソイツは楽しそうで結構だな。ヨシ決めたぜ!俺も今詰ってるスケジュールを片付けたら、近いうちそっちに顔を出す事にするぜ。』
えっ!?なんですとぉぉッ!……春日野先生に刺激されたかケンさんの口から驚くべき、そして余りにも意想外過ぎる発言がなされる。それはまさにスタンドも月までぶっ飛ぶ程の衝撃。
『そん時ゃ八幡、一丁派手にやろうぜ。リュウのヤツが認めたお前の拳、俺も見せてもらうぜ!』
そして更に畳み掛ける様に告げられるケンさんからの宣戦布告、イヤイヤ漸く何とか取り敢えず挨拶だけは出来たばっかりだってのにいきなりや“ろうぜ”って、マジっすか、マジなんだろうなぁ。
「比企谷、どうしたのさアンタ何固まってんのよ!ほらしっかりしなって。」
「…………ほへっ!?」
パシッと川崎が俺の右肩を叩く音と衝撃に間抜けな声を出し、お陰でどうやら俺は小っ恥ずかしい事だが意識が飛んでいたらしい。
ある意味俺だけが、スタープラチナ・○・ワールドに掛けられた様なモンか、いや違うけど。
しかも「ほへっ!?」とか口から漏れ出てるし、こりゃあまりにもあまりな、小っ恥ずかし過ぎの超究極形態完成形じゃねえかよ。
「はっ!?スマン。あまりの言葉にちょっとばかり意識が持って行かれてた様だ。」
「しっかりしなよ、ケンさんはアンタの目標とする格闘家の一人なんだろう。だったらさ、そんな人にあんまりダサい所を見せない様にしなよ。」
「ああ、サンキューサキサキ。」
川崎に対し発破を掛けてくれた事に謝す。口調は若干ぶっきらぼうな感じだが、俺は其処に彼女の細やかな心遣いを感じる、マツダじゃあ無いが川崎って案外家庭的だしブラシスコンだし、一見孤高を装っちゃいるが情に厚い一面もあるし、マジでイイ女なんだよな。
「あの、ありがとうございますケンさん。ベテラン格闘家のケンさんから見りゃ俺はまだまだヒヨッコだとは思いますけど、その時は胸を借りるつもりで思いっ切りブツからせていただきます!」
川崎に向けていた顔を俺は春日野先生の持つスマートフォンへと戻してから、俺はケンさんへ自身の決意の程を伝える。
『フッ、若いヤツってのそうでなくっちゃな。おうッ!その時は全力で来いよルーキィ!』
全力で来いよルーキィか、ケンさんのこの言い方、本当にケンさんってテリー兄ちゃんと為人が近しいよな特に陽気でフレンドリーなアメリカンって感じが共通してる気がするんだわ。いやまぁ聞くところに依るとケンさんはクォーターらしいし生まれ育ちは日本だって事だけど。
「はいッ、よろしくお願いしますその時にケンさんに失望されない様に鍛錬を積み続けます、いやまぁ勿論それ以降も当然っすけど。」
『フッ良いぜ、良い返事だ。ソイツは楽しみだな。その言葉忘れるなよ八幡ッ、それから沙希ちゃんと小町ちゃん留美ちゃんだったな、君達と会えるのも楽しみにしてるぜ。』
こうして俺達は近い将来ケンさんと会い拳を交える事を約束した、ケンさんに告げた様にケンさんを失望させない為に鍛錬により一層力を入れないとな。
『まあまだ色々と話し足りない気もするがみんなにも都合ってモンがあるだろうしな、もうそろそろ切り上げるとするか。』
そして、その約束を交わした事を契機としケンさんはこの通話を切り上げに入る、携帯電話による国際電話だし通話料もそれなりに高額になるだろう、まぁビジネス方面でも成功を収めている人には微々たるモノかも知れないけど。
だが、近い将来こんな電話を通してでは無く、直に面と向かって会える可能性が高いって事は重々承知してはいるんだが。それでももう少しケンさんと話をしたい、格闘技やその他色々な事をお聞きしたい。
そう思ってしまうのは俺の我儘、あるいは贅沢な欲求だろうか。
スマートフォンから聞こえるケンさんの締めの挨拶の言葉、それに応えるこの場に居合わせた俺達。
何かもう一言、この通話が打ち切られる前にもう一言語りたい。
「あの、ケンさんッ……」
そしてその思いに突き動かされ俺の口から発せられたソレは意図していた格闘に関する事柄では無く、ある意味非常に俺らしいアホな台詞であった。
ケンさんに対し何を、どの様な事を質問したのか……それは次回の講釈で。
遅ればせながら、本城淳さん著『やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。』にて、当作の八幡、いろは、沙希、アンディをゲスト出演させて頂いております。
格ゲー風キャラ同士の掛け合い台詞を書かせて頂きましたので、そちらも読んでいただけますと幸いです。