やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
ほんのりと空の青に傾き始めた陽光に夕方の朱の色が指し始めた、ついさっきアタシはアメリカから訪れた元全米格闘王ケン・マスターズさんの弟子であるショーン・マツダって奴と対戦し何とか勝利を収める事が出来た。
色々と反省すべき処はあったけどそれは今後の課題って事として、取り敢えずはこれからこの場で行われる二人の男の闘いを注視する事にしようか。
さて、ウォーミングアップも済んで比企谷とJrが指呼の間をおいて向かい合い、春日野先生が二人の間に立って注意事項を伝えている。流石に二人共表情が材木座と三人でバカやってたさっきよりも引き締まっている。アイツのこう言うところって結構グッと来るんだよね……って何考えてんのさアタシもってば、今更雪ノ下や由比ヶ浜や一色と張り合う……ああッもうヤメヤメ、こんな事考えているどうするのさ、もう!
「沙希師匠、八幡師匠顔が変わったみたい。」
アタシの左隣に居る留美が、何時もの歳のわりには落ち着いてる感じの静かな口調で、比企谷の今の雰囲気に気が付いたみたいだね。
本当によく見てるよ留美も比企谷の事をさ、それだけ信頼してるって事なんだねアイツを。
解っているよね比企谷、留美の信頼に応えるんだよ、いいね。
「うん、さしずめテンションがバトルモードに移行したってところかな、比企谷のヤツ。」
「うん。」
「へぇ~、そんじゃさっき迄の意味の分かんねぇネタはもう言い出さねぇのか?」
マツダが何処か気の無い風にバスケットボールをバウンドさせながらそんな事を聞いてくる。
「うん、其処はどうか解らないけど、八幡は巫山戯ながらでもやる時はやる人だからね。」
アタシ達は口々に比企谷の現状に付いて語り合う、やっぱりこう言う姿を見るとこれから始まる二人の闘いがどう展開されるか否が応でも気持ちが高まる。けれど。
「いゃぁ……何と言いますか、ウチの兄は何処迄行ってもウチの兄ですからねぇ……」
小町がそんなアタシ達の熱を他所に否定的な見解を口にして来た、やっぱ何だかんだ言っても血縁者の小町がそう言うと、ちょっとばかり不安がよぎるんだよね。
「確かに、Jrさん相手にどう闘うかって事は考えてはいるんでしょうけど、ソコはまあウチの兄ですし多分、そうですね……きっとこんな事考えてますよ『この八幡が判断するかぎりJrの動きの
気持ちドヤっとした感じで小町は比企谷の口真似を披露した。
ああ…うん、何か小町がそう言うとそんな感じがそこはかと……
「オイオイちょっと待ちなさいな小町さんッ!!あのですね、何と言うかあのですね!人の考えを読んだりするの止めてもらえる!?しかもほとんどそのものズバリを言い当てるとか何なの二部のジ○セフなのそれとも音○明のラジコン飛行機をパクって飛ばす策を的確に読む四部の承○郎さんなの君、マジ勘弁して下さい。そんな事された日にゃお兄ちゃんネタ師として
そして比企谷は比企谷でコレなんだよね。
「ほら、どうですかコレですよ皆さん!コレがウチの兄の兄たる所以ですよ。」
『むっふん!』って、ちょっと得意気に胸を張ってるけどさ。小町だって比企谷程ではなくってもそれなりにオタクな知識を持ってるって事じゃん。本当にこの兄妹は、何処まで仲がいいんだろうかねぇ全くさ。それに第一、比企谷はウェイト的にはウェルター級くらいなんだからスピードでJrに劣るって事は無いだろうに。
「いや、何て言うかやっぱり小町は比企谷の妹だよ、紛れもなくね。それと比企谷アンタそんな事で
「そりゃお前やっぱサ○シがアニ○ケをリストラされた今、目指すからにはポケモン○スターいや……まぁ、うん。何かスマンっす。」
いけしゃあしゃあとアホな事を言い出した比企谷をアタシは、めいいっぱいに眼力マシマシで睨みつけてやったら、比企谷のヤツ怖れをなしたのかシュンとして“すまんっす”だってさ、フフっ何か可笑しいの。
さて広場の中央付近、相変わらずのグダグダを終え気を取り直して比企谷とJrが真正面から相対し、春日野先生から改めて二人へと問い掛ける。
「さぁーて、二人共準備は良いかな!?」
先生の言葉に二人が頷く。
「それじゃ行くよ!」
三歩程後ろ歩きで二人から離れた春日野先生が右手を大きく揚げる。
闘う二人も自分のコーナーポストへと向うボクサーの様に離れ距離を取る、そして…………
「ファァイナルッ、フュージョォンッ!」
「出番だぜクエーサー!!」
「オオッ!事、此処に至ってでも決して初心を忘れぬか、我が盟友達のなんと天晴事かッ!」
バカ三人がこの期に及んで、また何か叫ぶし。何かアタシゃ思わず蟀谷を押さえたくなるよ。
「レディ……」
その言葉に二人は今度こそ気を引き締めてファイティングポーズを取り構える。比企谷の方は若干アップライト気味に、対してJrは少し前傾姿勢の正面をガードで固めたボクシングのインファイターの様に。
「ファイト!!」
号令一閃、同時に春日野先生の右手がサッと振り降ろされ、闘いの開幕をつげた。
「行くゼッ、ハチマンッ!!」
大声での宣言から先ずはJrがいち早く比企谷へと突進を敢行、彼我の距離を縮めての近接戦闘を企図してるんだろね、対して比企谷は全身でリズムを刻みながらも、その場からほぼ動かずにJrを迎え撃つつもりかな。
「応!とっとと終わらせてウチ帰って、ラ○ザの
間近へと迫って来たJrを迎え撃つ比企谷だけど……アンタ何を言ってるのよ、てか何さ太ももって?誰の太ももよ、馬鹿じゃないの!全くっ。
「フンッ!ソイツぁVery goodな提案ダッ……ナァッ!!ダアァッ、ダッ、ダァーッ!」
しかもJrもJrで思いっ切りノッて来るし、本当にこの厄介オタクはマジメにヤレっての……ってかコイツら口では巫山戯た事を言い合ってるけど、言い合いながらも攻撃も防御もちゃんと熟してる。
「ホント、やれる事はやれるんだよね………」
超近接距離での攻防はやっぱリーチとパワーはJrに分があるね、でも手数とスピードには比企谷の方に分がある。
自分よりも小柄な比企谷に対してJrはきっと、大振りにならない様に気を付けながら通常攻撃はコンパクトにって意識し心掛けている様に感じる。
多分パオパオカフェで幾度もリングに立って色々な相手と仕合った事がJrの経験値を大きく加算させたんだろうね、ヤルじゃんJrも。
「うん……八幡師匠もだけどJrさんもスゴイ。」
へえ、留美も二人の技量が判る様になって来たんだね。まあ元から留美は真面目な娘みたいだしね。しかもこの数週間の間にアタシや比企谷の闘いを直に観てきた事もあるんだろうけど、案外見る目が肥えたのかも知んないね。
「留美、まだ基礎を学び始めたばかりだから実際に試合や実戦をやるのはまだまだ先になるけどさ留美、アタシや比企谷だけじゃ無く、なるだけ多くの人の闘いを観るようにしておきなよテレビでもネットでも会場に足を運ぶでも良い。そうやって見る眼を養うって事、それもまた今後の大きな経験になるからね。」
なら、技術や身体や精神以外にもその見る眼をもっと鍛えてあげられれば、留美はきっと強くなれる。
「はい!沙希師匠。」
アタシの目をしっかり見つめて力強く留美は返事をしてくれた。フフフ、良い返事だね留美。アタシ達と一緒に強くなろうね。
「シッ、シッ、フンッ!」
「ッ!フッ、おっと!」
そして教科書に載せても良いくらいの技術の披露の様な近接戦闘、その技量故だろう互いにクリーンヒットは未だ無し。でも其の均衡はちょっとした切っ掛けで崩れるし、それが何時訪れても可怪しくない。
「フッ、ハッ、シッ、シッ!」
今のところ敢えて脚技を使わず、ボクシングスタイルから丁寧に放たれるコンパクトなジャブにストレート、パンチとパンチの間の腕の返しも重量級にしてはかなりの速度だ。
でも、それじゃあJrの本来の持ち味を活かしきれないんじゃないのかね。それに未だ攻撃に転じない比企谷の動向も気になる。
Jrが放つパンチを比企谷は的確に尽く躱す、それは恰もJrの動きをその眼と身に刻みつける様に。
「……だとすると、もうそろそろだろうね。」
もう十分に比企谷は、今のJrのスピードにもパンチにも慣れてるだろうからね、後はその隙を見つける事が出来ればこの展開を大きく変える一撃を放てるだろう。
「はい、小町もそう思います。」
「うむ、であろうな。」
アタシの言葉に小町と材木座が同意する、二人共比企谷の実力をよく知っているからね。小町は比企谷の実の妹だし、その師であるテリーさん達の事も比企谷同様小さな頃から交流もある。それに材木座は一年の頃から比企谷と共に昼の鍛錬を続けてきてるから、アタシや留美以上に比企谷の力量は把握してるだろう。
それに、Jrとの対戦を観戦したアンディさんや舞さんにも防御技術を高く評価されてたしね。
「へぇ、八幡のヤツそれほどなのかよ、まあサキがそう言うんだから間違い無いんだろうな。」
「そうなんだ、やっぱり八幡はすごいんだね!」
「ナッ!?」
「シャァ!」
比企谷はJrが繰り出した渾身の右ストレートに見切りを付け最低限の動作でJrのパンチの内側へと回避しつつ、素早く繰り出す高速のジャブを二連打。
「ウッぐ!?」
ハンドスピードを重視している為に強く力は込めて無いだろうけど、カウンター気味に極まったからそれなりに威力は合っただろうね。
現に比企谷のパンチに依って顔面から上半身を後方へ仰け反らせる格好になってしまったし。
「Shitッ!!」
しかしJrは悪態をつきながらもダメージを無視した様に後方へ右足を下げて踏ん張り、体勢を立て直そうと強引にその脚に力を込めて地面を蹴り立てて前へと上半身を無理に突き出す。何てデタラメやんのさ、下手を打つと足の脛に無理な負担が掛かって大怪我するかも知れないのに。
「ダァあァーッ!!」
しかも驚く事にその反動を利用して更に右の打ち下ろしまで放とうとしている。今度は自身の前面、顔から胸部をきちんとガードして。
とは言っても片腕では防御出来る範囲はそんなに広く無いし、それに相手は比企谷だよJr。ただ単に大振りをすれば良いってものでも無いだろう、否相手に依っちゃそれもアリなんだろうけど比企谷相手にはちょいと雑に過ぎる攻めになっちまうよ。
ほら、そのJrの打ち下ろしにタイミングを合わせて二歩バックステップで後方へと回避する。すると結果Jrは比企谷に対して無防備を晒す事になるんだよね。
「オゥ、マィガッ!?」
それにJrも気が付き焦りのあまり驚愕の声をもらし、次の行動へと移ろうと意識はしてるんだろうけども、あんな大振りをかましたんだから簡単には行かない。
「クラッッ、シューゥ!!」
そして、勿論そんな隙を比企谷が見逃す筈も無く容赦無く攻撃を叩き込む。大きく身体を空中で高速回転させながら放たれる浴びせ蹴り。
「ウ、グァーァッ……」
肉を打つ音が強かに響き、同時に技を受けたJrの呻き声がそれに重なり、たまらずJrが地に伏した。
「………フゥ……」
Jrのダウンをその眼で見留めて比企谷は一呼吸、乱れた頭部の帽子を整え直して再度Jrへと静かに目を向ける。
「………う……っう、流石に効ィタぜハチマン……」
Jrはムクリと身を起こすと、グローブを着けた掌で比企谷のクラックシュートを受けた肩周辺を擦りながら膝を立てるけど、ダメージの為にまだ立ち上がれないでいる。
「だろうな、けど、どうしたJr!?もう立てない何て
自分の放った技の威力を寸分たりとも疑わず、謙遜もせずにアッサリと肯定して見せたうえで、比企谷はJrに発破をかける。
「ソンな訳無いダロうが、マダ俺は行ケルぜ!」
比企谷に力強く応えてJrがユックリと立ち上がると不敵な面構えで互いに顔を合わせる、良いねアンタ達二人共格好良いじゃん!アタシも何時の間にか手に汗握ってるよ。
「そう来なくっちゃな、と言いたいところだけどなJr。もうお前自身も理解してんだろうが、今迄のやり方じゃあ駄目だって事はよ。いやまぁ狙い自体は悪くは無いんだろうが、丁寧とコンパクトを心掛けるあまり肝心のお前の持ち味のダイナミックさが発揮出来て無いって。」
衰えないJrの闘志に比企谷も嬉しそうだ、だからって訳じゃ無いんだろうけど比企谷はJrに対して、この闘いにおけるJrの問題点を指摘し改善を促してる。
「オゥ!ソウだな。お前のスピードに対抗スルにはコレかッテ考えタンだが、ヤッパりオレらしく無かッタな。」
「まぁ狙いは悪くは無いんだよマジでな、けど攻撃が単調になり過ぎて俺としては見切りが付け易かったんだよ。だから其処に緩急やフェイント、それにお前の持ち味のパワーアタックが加わってたら俺もヤバいかも知れないな。」
「ハッハーッ!随分とサービス精神が豊富ジャねぇかヨ、ソイツは余裕の表レってヤツか!?」
比企谷の見解を聴きJrは、改めて自らの考えて咀嚼してみたんだろうね、その上でどうすべきか答えが見つかり精神的に余裕が生まれたみたいだ。顔付きが何だか良い方向に変わった。
「そんなんじゃ
「ハッハーッ!OK! MyBestfrieod!!ハチマン!遠慮なく行くゼ!」
フフ、良いね。良い感じに盛り上がって仕切り直しが出来たみたいだね、なら二人の真なる闘いが此処から始まるんだね比企谷、Jr。二人共後悔の無いようにね。
さて此処からは巻で行くよ、比企谷の助言から本来の調子を取り戻したJrと、本調子のJrとの闘いを望んだ比企谷との闘いはもう間もなくクライマックスを迎えるだろう。
その後の事をざっくり語ると、やっぱりスピードと手数で勝る比企谷が連撃を数度叩き込みダメージを奪うも、調子を取り戻したJrも要所で重い一撃をクリーンヒットさせ幾許かのダメージを与える事に成功、そして今。
「DoubleKoon……」
「ぐぅっ……」
「Braking!!」
Jrの豪快な必殺技が比企谷を捉えしかもその技に更に
Jrの必殺技を食らい、体勢を崩し無防備な状態に置かれている所にブレーキング、その後に待ち受けるものは当然。
「ダーーッ!ガーーッガーーッガーーッガーーッ!!」
Jrによる怒涛の如き強烈な連撃が始まり、比企谷を蹂躙する。おそらくコレはJrの超必殺技かPotentialPowerだろう。
「ぐはぁっ………」
こんなモノを食らっちゃ流石の比企谷も立ち上がれたとしても、受けてしまったダメージ量は………
「ハァ……ハァ……ハァ……ハ〜ッ、ハッハッハーッ!ドうだハチマンッ!?オレのFullPowelはよ、ドエらく痛ェダロ、ケドまだ終リジャあねえだろうナァッ!」
「うぅッ゙……ぃっ……てぇ……ハハ、流石に効いたぜ、マジ痛えっての。」
Jrの呼び掛けに本当に痛そうに呻きながら鈍く動き始め比企谷は苦笑いしながら半身を起こす。今ので起きれただけでも大したものだよ比企谷。
辛いねコレは、二人共もう満身創痍だよ、きっともうあとワンアクションかツーアクションで決着だろうかね。
「八幡師匠頑張って!」
「はーちゃん………」
そして留美と、何となくだろうけど京華もそれを感じているみたいだね、ゆるりと立ち上がってゆく比企谷を小さな声で応援する。
ほら比企谷、小さな二人がアンタを応援してるんだよ。普段アンタが言っている千葉の兄貴ならしっかり立ち上がんなよ、もうひと息じゃん。
「へぇ、ヤルじゃねぇか、あのデカイ奴の方もよ。コレで八幡もかなりダメージ食らっちまったし、こりゃもうそろそろ決着だな。」
「うむ、であろう!我が盟友は何方も大した者達よ。そしてお主の言う通りであろう、二人の体力も精神力も限界に近かろうしな……」
マツダと材木座もきっと解ってるんだろうね、だからこそ今二人を称賛する様な事を言ってるんだね。そしてその決着を見届け様と………
けれど、皆で闘う二人を見守る
「お兄ちゃん、もうあんまり余裕無いはずなのに何だか嬉しそうに笑ってますよ沙希さん。」
立ち上がり、疲れとダメージからか、まだファイティングポーズをきちんと取れてはいないけど比企谷は小町が言う様に、口元に微かな笑みを浮かべていた。
「あっ……本当だ小町はちゃんの言う通り八幡、ちょっと笑ってるみたいだよ、それにJr君も。」
戸塚が小町の言を受けてソレを口にする、そしてJrの方もまた比企谷と同様に笑みを浮かべていると告げる。ああ確かにね、二人共本当に楽しそうだ。
「ハァ……フゥ、なぁJr。どうやら俺に残された力はあんまり無いみたいなんだ、なもんで次のアタックに俺の残りの全部を費やす事にするわ……」
「フッ、フッ、ハァ……そりャ奇遇ダな、実はオレもパワーは残り少いンダゼ……だからオレも次ガFinalattackだゼ!」
バカ正直に自分の置かれた状況を告白し合う比企谷とJrは、お互いの顔を真っ直ぐにその目に捉えて不敵に笑いあう、本当に格好いいよアンタ達。
だからさ、アタシ達がアンタ達の全部を見届けるからさ、その宣言通り思い切っりぶつかり合いな!
「
「
アタシ達の思いが比企谷とJrに届いているかは解らない。向かい合う二人は最後の気力を振り絞る為だろうか、大きな声でまるで己に活を入れる様に吼えるとゆっくりと間合を詰め始めた。
オーソドックススタイルで構えるJrと、そして………
「えっ!?沙希師匠、八幡師匠が構えを取ってない、もしかして八幡師匠は……もう構えも取れないくらい苦しいのかな?」
比企谷が普段見せる構えを取っていない事に気が付いた留美がアタシに尋ねる、今の比企谷の体勢は左半身を前方に半身に向けてJrと対峙している。しかし両の腕は軽く肘を曲げダラリと下げていて所謂ファイティングポーズを取っていない。
「イヤ、そうじゃ無いよ留美。比企谷のアレは敢えてそうしているんだよ、Jrの攻撃に対してどんな場所からでも反応し対応出来る様にって自然体で臨んでるんだよ。」
アタシはそう留美に説明をしたけれど、それは留美を心配させたくないって気持ちが合っての事。確かにアタシが留美に説明した事は事実の内の一つではあるけど、実際は留美が言う様に比企谷の体力の消耗が激しくて構えを取ってJrに対するよりもより楽に動ける様にって事と“且つ”ラストアタックに総てを掛ける為にあの体勢を選択したんだとアタシはそう思っている。
「最後の一撃に掛ける為にね。だから留美、最後まで比企谷達の事見届けてやりなよ。」
一応はアタシの言葉に納得してくれたみたいで、留美は直ぐにアタシから比企谷へと目を向けて小さく頷いて返事をくれた。
「……うん……」
残り少い気力と体力のありったけをその身のうちからかき集め、二人の漢がゆっくりと歩を進め互いの距離を縮める。
緩やかに、静かに必要最小限のリズムを刻みカウンターを狙っている様な素振りを見せる比企谷と、ソレを理解したうえで正面のガードを固めてフェイント交じりに肩や腕をひく着かせて攻め入るタイミングを伺うJr。
「………ハァ……フゥ。」
「……フッ………ハァ。」
微かに響く二人の呼気と衣服から発する擦過音とステップを踏む事に聞こえる靴音、そして音無く滴る二人の汗と間もなく訪れるだろう二人の臨界点も限界。
「………そろそろ、だね。」
「そうみたいだな。」
「うむ、行くであろうな。」
アタシ達は誰に確認するでも無く向かい合う二人を見ながら、そう呟く。今の現状を見るにJrの方が先に動きそうな気がするんだよね、Jrも多分比企谷がカウンターを狙ってるって読んでると思うし、だけどJrと比企谷の身長差が十センチくらいあるしJrの身体的特徴、欧米人的に手足がアタシ達黄色人種よりも長いから必然的にJrの方が射程距離が長い。だから比企谷があくまでも近接戦闘で勝負を付けるつもりならJrのその長いリーチを殺さなければならない。
まあでも比企谷にはアレがあるんだけどね、アイツの眼と反射神経があって成立する妙技『スリッピングアウェー』がね。アレが極まればいまの二人の状態なら比企谷の勝ちは決定付けられたも同然だろうけど。
さてどう出る比企谷、そしてJrもさ。
「おっ、どうやらデカいのが先に動きそうだぜ!」
意を決して先に打って出たのはJrだった、逸早くマツダがソレを口に出すと二人の闘いの行方を見守る皆が固唾をのんで見守る。
「ハァーッ、シッ!シッ!」
掛け声と共にフロントステップで比企谷へと接近し左のパンチを繰り出す素振りを、ほんの少しだけ比企谷へ向けて繰り出す素振りを見せては引っ込める。或いは肩と腕をひく着かせても見せてのフェイント。
からの本番前の倒す気のないリードブローとしての左ジャブをJrが繰り出した。
「………ッ。」
ピシッと軽く比企谷の腕のガードを叩いたJrのジャブ、比企谷はソレを辛うじてガードは出来たけど珍しく否、肉体の限界が近いからだろうか比企谷がソレに反応してしまって、悔しげに舌打ちをする音が比企谷の口から漏れ出た。
「シャーッ!」
幻惑され迷いが生じたのかな、比企谷の動きが少し鈍い。だからか比企谷がJrが放った本命のコンボに繋げる為の左ブローに反応が遅れてしまいう。
不味いねこのタイミングじゃ十八番のスリッピングアウェーは使い辛いだろう。
自分の読みを外し舌打ちをした比企谷だけど、強敵の攻撃を前にして何時までもソレを引きずる様なヤツじゃ無い。瞬時に気持ちを切り替えたって事が、その変化した表情から見ているアタシ達にも見て取れる。
「フッ!」
ギリギリの見切りでJrのジャブをバックスゥェーで躱す比企谷と、そのジャブこそ不発に終わったものの次に繋げる為に高速で左を引き戻すJr。
「Go!Finis!!」
ラストアタックを意図して放つJrの渾身の若干打ち下ろし気味の右ストレートに対して比企谷は先の左ジャブを躱した時のスゥェーによって上体を後ろに反らした体勢のままで無防備だ。
比企谷を捉える為に前に出て身体ごと叩きつける様にJrは右を打ち下ろす。
「危ない八幡師匠ッ!?」
スゥェーにより反らした体勢も戻さずにいる比企谷に迫るJrのブローに、危機感を募らせた留美が必死な形相で叫ぶ。
慕っている比企谷のピンチに叫ばずにはいられないんだろうけど、だけとさきっと大丈夫だよ留美。比企谷の眼はまだ死んじゃいない。
「大丈夫だよ留美、比企谷はヤルつもりだよ。全く食えないったらありゃしないんだから。」
アタシは比企谷のその眼を見て確信した、先のJrの左ジャブを躱す為に行ったと思っていたスゥェーだけど、比企谷はただ単にパンチを躱す為だけに“ソレ”を使ったんじゃ無いって事をね。
そして、その時は今訪れた。
「シッ、セイリャァッ!」
Jrの打ち下ろし気味の強烈な右のパンチをギリギリまで引き付けた比企谷は、その場から更にその身を大きく後ろへと反らして両の掌を地につけ、同時に両足を大きく振り上げる。
それは後転しながら放たれるアンディさん直伝の技、蹴り上げる脚に炎の気を纏わせた必殺技を比企谷流にアレンジしたモノ。
「ぅ、がぁッ………」
それが今Jrの顎を強かに捉え、同時に比企谷が創り出した炎の気がJrの顔を中心に纏わり付き、堪らず呻き声を発しつつ顔を覆うその炎をどうにかしようとJrは藻掻き蹌踉めく。
「確か、『闇 浴びせ蹴り』って技だったかね。」
技を出し終えた比企谷は膝立ちの状態となり、其処で瞬間的に空気を吸って吐く一呼吸を入れるとJrの状況を見て取り、最後の力を振り絞り立ち上がりJrへむけてダッシュした。
「八幡師匠ッ!!」
留美が比企谷の名を呼ぶ、その声には比企谷の勝利を願う祈りが込められている様にアタシには、いやこの声を聞いた皆にもそう感じられただろう。
比企谷がJrへと向かい駆け出したと時をほぼ同じくしてJrの身に纏わりついていた『闇 浴びせ蹴り』の気の炎も鎮静化し始め、Jrも体勢の立て直しを図ろうとしているけれど。
「遅いね、もう………」
比企谷はもう既にJrの内懐へと到達し、まさに今にも次のアクションへ移ろうとしていた。
「ィ、ガッ!?」
もう、其処まで接近されてしまっては大柄なJrでは対処が難しいだろう、ソレを本人も理解しているが為驚愕の声を漏らしたんだろう。
「OKィ!フッ!!」
Jrの内懐、超接近距離で比企谷は掛け声一発技の体勢へと突入。
上方から大きく振り回した右腕からJrの腹部へと深々と突き刺さる悶絶モンの右ボディブロー。
「ぐハぁッ……」
その威力の前にJrの身体が腹から折れてしまいJrの呻き声が小さく伝わる、しかし間髪置かずに比企谷はその身を折ったJrに追い打ちの左アッパーカットを見舞い、続いてJrの巨体が持ち上がり遂にはその脚が地を離れてしまう。
「ぅグォ……」
この時点でもう既にJrの意識は途切れ始めているのかも知れない、しかし比企谷の攻撃はコレで終わりじゃ無いみたいだ。
再度、比企谷は右腕を高々と掲げるとその拳にありったけの気をグッ込める。そしておおきく振りかぶって、振り下ろした拳を力強く大地へと叩き付ける。
「マキシマムッ!アタァーックッッ!!」
比企谷の拳を突き立てた大地から空高く伸び上がる炎の牙の様な巨大な気のエネルギーがJrの巨体を飲み込み、そして空高く跳ね上げ。
「グゥぅガァぁァァァ……」
断末魔の様な悲鳴をと共にJrの巨体は、やがて重力に引かれて地面へと堕ち。そして空は更に朱の色を濃くし、蒼と混じった紫色と、東の空は更に深い藍と漆黒とが顕れ始めてた。
そんな初秋の夕暮れに二人の男の闘いは、その幕を閉じた。