やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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新学期の始まりは喧騒と共に。

 

 教室へと入り、自分の席へと向かういろはの後ろ姿を、俺は何とも複雑な気分で頭を型崩れの帽子を被った名探偵宜しく、ガリガリと掻きながら眺めやる。軽やかな足取りでクラスメート達からの挨拶に、いろはも挨拶を返しつつ机にバッグを置いて着席すると、数人のクラスメートがいろはのそばに集まって何やらトークタイムが始まった。

 

 『おはよう一色さん。ねぇねぇ、さっきの人って二年生の人だよね。雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩と、ちょっと眼つきが悪いけど、よく見れば結構悪く無いって言われてる先輩だよね。』

 

 『ええ、そうですね。御三方とも私の大切な人ですよ。』

 

 『そっ、そうなんだ。ふ〜ん。』

 

 何やら興味津々なクラスメート達の質問に、韜晦するでも無く言い淀むでも無くあっさりと真実を話す、いろはの答えに彼女のクラスメート達が此方に、特に俺へと目を向けて来た。いや、まぁ、うん、恥ずらかしいったらありゃしない。

 それに、何かきっとこの場に留まろ物なら高確率で面倒になりそうだから、とっととこの場を離れたい。まぁそうだな俺としては此処はひとつ『比企谷八幡はクールに去らずに逃げるんだよォ!スモーキーーッ!!』するぜ。誰にも気取られない様にステルスヒッキーを発動!直ぐ様亜空間に突入してデスドライブ。このまま何処までもバッフ・ク◯ンから逃れる為に宇宙を駆け巡るソロ・シ◯プさながらに学校中を逃げるんだ。

 

 『スペースランナウェイ・イデオン イデオン』ならぬ、『スクールランナウェイ・ハチマン♪ハチマン♪』とテーマ曲はやはり『たいら◯さお』さんに歌っていただきたい物だ。因みにだが、『復活のイデオン』で知られる『たいら◯さお』さんもまた、桑原◯気さんと同じく長崎県佐世保市の出身である。これ豆な!

 

 「待ちなさい、何処へ行こうとしているのかしら八幡君。これからいよいよ真打ちの登場と言う場面にも拘らず。」

 

 しかし俺のスクールランナウェイプランは、不意に俺の肩口に白魚の様なしなやかな指を持つ手を置かれた事に依って強制的にブレーキが掛けられた。

 そうなんだよな。同盟軍三個艦隊の内の一個艦隊(いろは)は目的のポイントへと到着したが、残りの二個艦隊(雪乃と結衣)がまだ左右両翼から俺を挟撃しているって状況でした。八幡ってば失念。

 

 「真打ちって……何?お前まさかこんな廊下の真ん中で落語でもおっ始める気なの、すげぇ根性だな。さしずめ名付けるなら雪呑亭雪乃師匠ってところか、てか一体どんな精神しているんだよ?」

 

 真顔で自らを真打ちと宣う雪乃に対して、俺は少し戯けた(おどけた)調子でそう問えば、彼女から帰って来るモノは。まるで、全ての物の防御壁をも容易くい貫くかの様な鋭い眼光。その瞳には同時に、全ての物の温度を奪い瞬く間に凍結させてしまうのでは無いかと想像させられる絶対零度の刃(エッジ・オブ・アブソリュート)の輝き。

 その輝きの前では、蚤の心臓、蛇に睨まれた蛙よろしく、俺の色々が縮こまってしまうと云う怪現象に苛まれてしまい、結果。俺はと言うと『ザ・ワールド』もしくは『スタープラチナ・◯・ワールド』状態に陥ってしまうまであり。

 

 「っ……いや、冗談だからね。そんな目で睨まないでくれると……」

 

 その時間停止が解かれた瞬間、俺の口から発せられたのが今の悲しいまでに調伏されたが如きセリフだ。

イヤ、マジで怖いんだよ雪乃のにらみつける攻撃。何せ追加効果で先の様に凍結や麻痺の効果まで発揮するからな。

 

 「なら、解っていながらそんな誤魔化しで煙に巻く様な真似はおよしないさ。今しがたいろはさんにも言われたばかりでしょう。全く、貴方と言う人は。」

 

 雪乃はそう言って俺に苦言を呈すと、十八番(おはこ)のやれやれポーズを披露し、眼力を少しだけ和らげて俺をみつめる。急激に和らげられたそれに俺は何やら自分の顔が紅潮してることを自覚する。

 恐怖の後に与えられた安堵。これぞ正に鞭と飴の使い分けか、あるいは俺だけが、雪乃の策略によって吊り橋効果を受けてしまったのか!?だとすると。

 

 雪乃さん、恐ろしい娘!

 

 「おぅ、まぁ何だ。この問題は本部に持ち帰りまして速やかに検討を行い近日中には答えをぉ……ぉってぇッ!?痛ぇッ、チョッまっ、俺が悪かったから腕をひねらないでぇぇぇえぇ!!」

 

 気を取り直し、俺が雪乃からの苦言とプレッシャーに対しての回答を述べていると、何時の間にか雪乃はサラリと音も無く俺の背後に回り込んで、瞬く間に俺の腕をロックして関節をあらぬ方向へと捻り上げた。

 そのあまりの見事な体移動と流れる様な(後方なので見てはいないけどな)所作には感嘆を禁じえない。

 

 「私だって、母さんや姉さん程では無いけれど幼い頃に香澄おば様から藤堂流の基礎的な体術を教わっているのよ。」

 

 俺がギブアップを宣言すると彼女は関節を離してくれた。その痛む肘や左腕部を摩っていると雪乃はそう答えてくれた。まぁ、多分おっかさんの代から藤堂さんとの付き合いがあるんだし、母親と姉がその技を使えるのなら雪乃がそれを使えたとて不思議は無いんだが……しかし。

 

 再度言おう。雪乃さん、恐ろしい娘ッ!否、この場合は『雪ノ下家の女性陣、恐ろロシア』が適解か。

 

 

 

 

 いろはのクラスを後にして、俺達はお次に雪乃のクラスへと向かっていった。何故、向かっていったと過去形を使ったのかと言うとだな。

 その道中の他者からの目線が更に増大したからに他ならないからだ。

いろはは一年生であるからして目的地は一年生の教室であり、それはある意味それ程俺達(俺)の存在が知られているとは言い難い事もあったのだが、しかし。

 二年生の島ではどうかと言われると、もう1年以上もの時間をこの学校で生活してきた事もあり、その注目度は一年生連中からのそれと比してバク上がりだ。かてて加えて、それが学年で最もその存在が知れ渡っていると言っても過言では無い美少女であるところの雪ノ下雪乃と、これまた成績面では彼女に劣るものの美少女レベルとしては彼女と遜色の無い、由比ヶ浜結衣の二人と共に歩いている訳だ。

 まぁ、しかし流石に一年以上も通っていれば、雪乃と結衣が友人同士である事を知っている生徒も居るだろうし、何なら其処に俺も加わっている事を知る者も居るだろう。居るよね?

 

 おそらくは、全学年の男子生徒の中にも多く彼女らに想いを寄せている者も居るだろう。実際、雪乃も結衣も所謂ラブレター的な物を下駄箱に入れられていた事もあれば、告白を受けた事もあった様だし。結果、結衣は相手にやんわりとお断りのお言葉を、雪乃は相手によってはけちょんけちょんに精神的ダメージを与えて断ったとか。

 

 『あら、私には意中の相手がいるのだから、それ以外の有象無象な男子に何を遠慮をする必要があるのかしら?』

 

 部室にて、そう言って連なり来るヤロー共のメンタルをポッキポッキと折りまくって来た武勇伝を、何事も無い事の様にあく迄もクールに紅茶を啜るゆきのん、マジパネぇ〜ッス!  と、話は逸れたがまぁ、そんな二人が俺を挟んで並び歩いていて、しかも雪乃は俺と手を繋ぎ絡めるような、所謂恋人繋ぎで。そして右肩に担いだスクールバッグの端をちょこんとつまみ、はにかんだ様な表情の結衣。まぁだからきっとこの光景を見た連中の大半は家に帰って枕を涙で濡らし、そして俺に対する呪詛を唱える事だろう、しかしそれは是非に止めて欲しいものだ。

 

 「先のいろはさんの発言では無いけれど名残惜しいものね。此処までエスコートありがとう、八幡君。」

 

 雪乃のクラスであるJ組の前で俺達二人、繋いだゆっくりと手を離さと雪乃がまるで男の心を蕩かすかの

様な、一種の妖艶させても感じさせる様な声音でそう言った。

 

 「ああ、うん。ちょっとばかし周りからの俺への圧がキツイが、まぁ其処はしゃあ無しだろうな。」

 

 こんな場面で、そんな囁きを聴かされりゃあ男としてはたまったものじゃ無いだろう。男の殺し方を極めてるんじゃないですか雪乃さん?

 そんな眩しい彼女から、それこそ男としては駄目な気もするが俺は堪らずプイッと視線を逸らし頭を掻いてそんな気持ちを誤魔化す。けっ、ヘタレとでも呼ばわば呼べよ!

 

 「フフフ。今はそうなのかも知れないけれども、今後は私達が逆に数多の女性陣から怨嗟の篭った視線を投げかけられる事になるのでしょうきっと。だから今の内に貴方が私達のものだと言う事を周知徹底しておかなければならないのよ。ねえ、結衣さん。」

 

 何とも不敵な笑みと言えば良いのだろうか、自身に満ちた笑みを湛えて雪乃は聞く者によってはドン引きしそうな、俺としてもちょっと背中が寒くなる様な発言を淡々とブチかました。そして、結衣に対してその発言の同意を求めるのだが。

 

 「えっ!?あぁ〜、そうだよね。うん、絶対そうなるよね。」

 

 話を振られた結衣は一拍の間、何事かと問われた事の理由を理解出来なかったのか、或いは此処で話を振られるとは思わなかったのか『ほへっ』とした顔をしていたが、直ぐに雪乃が発した言葉の意図を察した様で、やたらと元気な声で雪乃の言に追従した。

 女子二人お互いに目を合わせ頷き合い、そして二人は俺へと顔を向ける。何?この二人の以心伝心ぷり。

 

 「何せ貴方は伝説の餓狼と呼ばれる、それぞれが世界でもトップクラスの実力を持つ御三方の弟子なのだし。鬼の山田と恐れられた方から柔道も学んでいるのでしょう。そんなバックグラウンドも在るけれど何よりも、あの坂崎翁やガルシア師範も貴方の事を認めているのだし、今後表舞台に立って其処でその実力を示せば、世界がきっと貴方に注目する事でしょうね。」

 

 雪乃はスクールバッグのサイドポケットから折りたたみ式の携帯型の櫛、コームとかって言うのか?を取り出して俺の頭髪を調えながらそんな事をかったのだった。

 てか、近い近い!そして好い匂い過ぎる!全く一体この三人の少女達は、どれ程俺をドギマギとさせれば気が済むんだよ。俺だって健全な青年であるからしてこんな事をしてもらえて悪感情を抱くはずなどあろう筈もないのだが、しかし彼女のその行為が更に俺に対するヘイトを溜めている事に気が付いてもらいたい。

 

 

 

 

 雪乃と分かれて俺と結衣は共に俺達のクラスであるF組の教室へと到着し、今正にその教室の扉を開くべく俺はその手を扉へと掛けると、横方向へとその扉をスライドさせて開いた。 

 その一枚の合板によって地上とバイストン・ウ◯ルとを隔てる境界の役割を果たしていたのだが、俺がその扉を開いた事により、廊下と教室との境界が取っ払われ俺の視界に教室内の景色が映される。

 教室内のアチラコチラには幾つかの中小規模のグループが形成されており、其々のグループが楽しげに会話を楽しんでいる。大方夏休みのアレヤコレヤの青春の1ページを語り合っているのだろう。やれ何処に行ったとか、夏のリゾートでひと夏の出会いから一夏の大人の階段を登る夜のアレまで行ったとか。きっとそんな事でも話しているんだろう、まぁ知らんけど。俺ならそんな1ページを語るよりも、銀河の歴史を、また1ページ視聴するがな!  

 おっと、話を戻そう。その中で特に目立って五月蝿く騒いでいるグループの中の一人の男子生徒の声が特に響いている。その五月蠅さと特徴的な喋り口調でそれが誰かは直ぐに解り、俺はうぜぇと思いつつもそちらにチラッと目を向ける。

 

 「ヒガシさんってすっげぇ気さくな人でさぁ、マジ最高に良い兄貴って人だったっしょ!でな、比企谷君とヒガシさんの試合がまたバリ凄かったんよ!観てたみんなもなんてぇか手に汗握るってヤツ?最後の方なんてみんな、もうスッゴイ感動って雰囲気で涙流して拍手してる子供とかもいたべ!」

 

 しかも話してるのは、千葉村での事で俺やジョーあんちゃんとの事をメインテーマにしてるし。ちょっと止めてよねそれ、あんまり度が過ぎると肖像権の侵害で訴えるぞ。

 まぁ、訴訟とか面倒だから多分やらんけど、っとそれはさて置いてベチャベチャと喋りまくっていた戸部が、扉の前に立つ俺に気が付いた様で此方に顔を向けてさも楽しげにサッと手を挙げる。

 

 「おおっ、おはっ!久しぶりっしょ比企谷君!丁度良かったベぇ〜、今大岡と大和に比企谷君の話をしてたところなんよ。」

 

 ブンブンと小刻みにその手を振りながら戸部がそんな事を大声で言うものだから、室内の同級生達の多くの目が俺へと向けられた。何ともその注目のされ方にむず痒さが半端なく居心地が悪い。珍獣にでもなった様な気分だ。なおペットショップに置かれても買い手がつかず、不良在庫になって最終的には何処かの山に不法投棄され野生化し害獣指定されるまである。

 

 「……おお、おはよう、まぁ久しぶりだな。」

 

 新学期早々の朝っぱらからテンションの高過ぎる戸部に引きつつも一応俺も挨拶を返しておく、俺も日本人だからな、挨拶は大事。

 

 「ほらほら比企谷君。みんなにも教えやってよぉあん時の事とか、ヒガシさんやアンディさんとか舞さんの話とか俺ともっと知りたいっしょぉ〜!」

 

 戸部はスタスタと俺の下へと駆け寄ってくると、やたらと気安い態度で肩を組んで来てそう言った。てかいきなりサラッと人と肩を組むとかコイツ、さてはリア充だな!てか一応このクラスのトップカースに位置するグループの一員だったわ。

 

 「いや、そんないきなり言われてもだな……」

 

 普段教室内では余り、と云うよりもほとんど人とつるまない俺にトップグループの戸部が気安く話し掛けてくるものだから、クラスの大半の視線はそんな俺達に釘付け状態となっており、馴れぬ事態に俺はうんざりとした気分に置かれつつ断ろうとしたのだが、其処に被せる様に。

 

 「ああそれってナイスだね戸部!アンディさんと舞さんの話ならあーしも知りたいしもっと教えてほしいわ。ヒキオ!」

 

 この夏スッカリと舞姉ちゃんの信者と化した感のあるパッキンドリルなあーしさんが、若干の気怠さを現した様な何時もの口調で乗っかった来やがった。

 

「………はぁ。」

 

 何なんだよこの連中、連休明けの最初の一日くらい平穏に静かに過ごせないものなのか?杜◯町に潜み暮らす“お手々大好き”な殺人者の様に。

 

 「ほらヒキオ、バッグを机に置いたらこっちに来な!あと、結衣も一緒にね。」

 

 俺の溜め息が気に食わなかったのかどうかは知らんけど、まるで気に食わないクラスメートを体育館裏に来なサシでやり合おうぜとでも命令口調であーしさんが俺を呼び。

 

 「ほらほら優美子もあぁ言ってっしさぁ、行くべぇ比企谷君、ガハマちゃんもさ。」

 

 それを天声とでも捉えたかの様に戸部は、俺と俺の横に居る結衣に自らのグループの陣地へと促す。本当にマジで、そんな陽のあたる場所に陰キャボッチを誘おうとしないで欲しい。下北沢の陰キャなギター弾きのピンク髪の少女の様に俺の身体が溶けだしたらどうしてくれんだよ。

 

 「うん。でも戸部っちも優美子もさ、もうあんまHRまで時間も少ないしさ、そんなに話とか出来ないんじゃない?」

 

 そうだそうだ!良いぞ結衣。俺の為にも、もっと言ってやってくれ。同じピンク髪でも千葉の少女は下北の娘とは違って陽キャに分類される種族だ、同じ陽キャの攻勢に対して身体が溶け出すなんて事も無かろうなのだァァァッ!!

 

 「つっても結衣、ちょっとくらいの時間はあるっしょ!」

 

 しかし敵もさるもの(いや別に敵じゃ無いが)結衣の張った防御陣も何のそのと、さらなる攻勢に打ってくる。

 

 「うん。けどほら今日は新学期初日なんだしさ、学校もお昼までなんだし放課後とかに、みんなで話とかも出来るんじゃない?ハッチンも確か今日はバイト無かったよね?」

 

 頑張れ結衣、バーミリオ◯会戦の折、帝国軍が駆使した幾重もに構成された多重防御陣の如く、あーしさんの戦力と戦意を少しずつでも削り取ってくれ。

 そうすればきっと早晩に、HRの時間が訪れるだろう。同盟領各地に散った、帝国軍の諸将がバーミ◯オンの戦域に戦力を率いて引き返して来る様に。

 

 「はぁ……何だか朝っぱらから随分騒がしいね。何やってんのさアンタ達は。」

 

 俺達が教室へと入室した際に閉じた扉がガラガラと開かれ、耳朶を打つその音と声音は俺達のよく知る人物の物で、そして、その声が奇しくもこの場に於ける俺に対する福音となった。声の主であるクラスメートの川崎沙希がゆっくりとした低めのトーンで宣えば、室内はこれまでの喧騒が鳴りを潜めた様に静まり返ってしまった。恐るべし、昭和の時代のスケバンの遺伝子を持つ女!

 

 「おぉ、サキサキ今朝ぶりだな、元気してたか?」

 

 そして、挨拶の出来る日本人な俺は空かさずサキサキに朝の挨拶を贈る。この窮地から救ってくれそうな状況を作ってくれた事に対する感謝の念を込めて。

 

 「はぁ?アンタねぇ、ほんの一、二時間前に会ってんのに元気してたも無いでしょうが!」

 

 しかしサキサキには、俺のそんな心付けは届かなかった様である。やはり海外資本のパオパオカフェでバイトをしているサキサキには目に見えるキャッシュな現ナマをチップと言う形で示さねばならないのか?

 

 「いやまぁ、そうなんだが。コレはアレだ女子がよく言う甘味は別腹ってのと一緒で、朝の鍛錬と学校とではまた別腹って事……」

 

 「キャア〜ッ、待ってたよ川崎さぁ〜ん!いいえお姉様ぁ!」

 

 そんなしょうも無い思索は捨て置いて、俺はサキサキに言い訳がましく理屈を並べ倒そうとするも、それを遮る様にクラスの各所から女子達の多くが嬌声を上げて川崎に群がって行く。その近くに居る俺と結衣と戸部はその女子達の群れに押しのけられて、片隅へと追いやられてしまった。

 

 「川崎さん!凄かったね、花火大会の日のデモンストレーション観てたよ!本当にかっこよかったぁ!」

 

 「私も私も!会場には行けなかったけど、テレビで視てたよ!一緒に居たお爺さんも渋くて格好良かったね!」

 

 ワラワラと生存者に群がるゾンビの如くに、サキサキの周りに集り来る(たかりくる)女子生徒の群れから矢継ぎ早に繰り出される言葉のマシンガンの前では、基本俺と同様にボッチ気質なサキサキもたじろいでいて、言葉も出せず俺の方へと助けを求める様な眼差しを向けてくる。しかし、すまんサキサキ。俺がその群れの中に入り込んだとてお前さんを助け出す事は適わんだろう。てか寧ろ彼女達からすると、その中に飛び込んで来る邪魔者なんぞ敵として認定されるに決まっている。

 『バイオ粒子反応あり・破壊!』

 ってな感じにバイ◯粒子に反応し直ぐ様破壊行動を取る、バイオハンター・シ◯バの様にな。

 

 「強く生きろよサキサキ!」

 

 南無と拝み手をして見せて、俺はサキサキに声援を送ったのだが、どうやらそれは彼女の気に召さなかったらしく、殺意の気の篭った鋭い眼光を俺に向けて放って来る。

 

 「アンタ、後で覚えてなよ!」

 

 怖いよサキサキ。だがそう言われても、ベクトルの違う力を発揮する恐るべき女子陣が相手では、俺にはどうしようも無いんだから勘弁してくれ。それに、そのお前にとっての災難ももう間もなく終焉の時を迎えるだろうから。HRの時間を告げる鐘の音が、もう暫くすると鳴り響くだろうからそれ迄の辛抱だ。

 

 「あはは、大変だね川崎さんも。あっ、おはよう八幡。」

 

 そしてサキサキの被る災難の為に拝む俺の元に、天からの授かりものが下げ渡された。

 

 「おお!おはよう戸塚!相変わらずの眩しい笑顔で、俺の心の闇も根底から払拭してくれるな!」

 

 その可憐な美しさを持つリアル男の娘であるところの、初めての我が友(meine Freunde)マイン フロイント、我が心の天使、戸塚彩加こと聖天使トツカエルが御降臨あそばされたのだ。その存在に俺の心が洗われるのも何時もの事だ。てか何時も洗われるってのなら、俺の心は戸塚が居ないだけでどれ程穢れてしまうんだって話だな。

 

 「もう八幡ってば、またそんな大袈裟な事言って!どうせならそんな台詞は由比ヶ浜さん達に言ってあげなきゃだよ。」

 

 俺の戯言を聞き届けた上で戸塚は苦笑しつつも可愛く窘めてくれる。

 

 「いや、うん。そうだな。戸塚の言う事は常に正しい!」

 

 浄化された今の俺の心は戸塚の言葉に対して否となど否定の言葉を発する能力を失い、只々天上からの言葉に従う清教徒と化すのだ。

 

 「うわっ!もう、相変わらずハッチンってば彩ちゃんの事好き過ぎだよッ。」

 

 清教徒化した俺を結衣がドン引きした眼と声音で突っ込んで来る、その彼女の言葉が終わるタイミングで教室のスピーカーから、HRの時間が間もなく始まる事を告げるチャイムが鳴り響く。

 

 「おっ、チャイムが鳴ったな。コレでサキサキもこの狂騒から開放されるだろうな。」

 

 とは思うんだが、サキサキを囲う女子の群れは彼女の側を離れ難く思っているのだろう、中々動こうとはしない。相手が男子や不届き者とかならサキサキも群らがる者を蹴散らすんだろうが、相手がクラスメートの女子ではそうもいかないか。

 

 それから一分少々、サキサキも漸く女子達の群れから開放された。

 

 「ほら、其処の一団。もうとっくにチャイムは鳴っているぞ。早く自分の席に着き給え!」

 

 俺達のクラスの担任である平塚先生が、トレードマークである白衣を着込んで教室へと姿を現して、彼女達を嗜める事に依って。

 喧騒の終焉を見届け、俺達もようやっと自分の席に落ち着いて着座する事が出来て、俺はその状況を創り出してくれた担任である平塚先生に視線を移し。

 

 「なっ………!?」

 

 一瞬、思考がフリーズしてしまった。

 

 教室の教壇に立つ白衣の妙齢の、喋らなければハイレベルな美女である事間違い無しな平塚先生のその顔は、まるで妖艶に艶艶しく煌めき輝いて見えたからだ。それは、間違い無くジョーあんちゃんとのアレやコレやが作用している事の証左であろう。

 




漸く、教室へと辿り着きました。

楽曲引用  復活のイデオン  たいらいさお
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