やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
土曜日の昼下り、午後一時を過ぎた頃にその二人は我が家に訪れた。
和服姿の少しきつ目の眼差しが如何にも遣り手感を醸し出している。
若い頃はさぞかし美しかったのだろうと容易に想像でき、流石は県議とはいえ政治に携わり、この千葉の建設土木業界に於いては知らない者は居ないであろう雪ノ下建設社長の令夫人。
そして、入学生の日に俺が由比ヶ浜ん家のサブレを助ける為、道路へ飛び出しライジングタックルをかまし破壊してしまった車に乗り合わせていた少女。
入学式に於いて新入生代表とし凛々しく責務を果たし、全校生徒に堂々とその存在感を示した少女、雪ノ下雪乃。
しかし俺はその事故の時、彼女に対し事故に巻き込んでしまった事を謝罪した際に感じたんだよな、この雪ノ下雪乃と云う少女は、他者に対し壁を作り踏み込ませない様にしているんじゃないかと。
頑ななまでに、自分のテリトリーを死守しているかの様な感じか…。
それが俺の思い過ごしか正解かは、現時点では何とも言えないがな。
その後の、会談は極当たり前の挨拶から入り、母ちゃんが代表を務める我が比企谷家、ガハママが代表の由比ヶ浜家、そして雪ノ下婦人の三人が互いに非は己にあるとして謝罪合戦を繰り広げ、このままでは黄金聖闘士同士の戦いの如く千日戦争になるんじゃね…と俺は内心アホな事を考えていた。
「結衣さんでしたね、散歩中に手綱を手放した貴女の責任は確かにあります、それは解りますね。」
雪ノ下婦人は由比ヶ浜へ、そう問いかけ、由比ヶ浜は神妙にも姿勢を正し「はい」と返答をした。
「八幡君、貴方の身を呈してまで小さな命を救おうと行動を起こした、その勇気は評価に値すると私は個人的には思います、ですが後先を考えない行動により被害を被った者が居ると言う事も事実ですよ。」
俺の顔、眼を確りと見据えて雪ノ下婦人は諭す様に語りかけてくれた。
俺も由比ヶ浜同様に「はい」としか言えなかった。
俺と由比ヶ浜の返事を聞き、雪ノ下婦人はそれ迄の事務的な表情を崩し、柔らかな微笑を湛えた表情を俺に向けてくれた。
「都筑から報告は受けていますよ、八幡君の言動は…貴方は都筑へ事故に対する謝罪をきちんとした上で、結衣さんへの忠告も行い、更に雪乃に対しても謝罪をしてくれたそうですね。」
その優しさを湛えた雪ノ下婦人の言葉に、俺は「…いや、その、ですね…。」と意味をなさない様な単語を頭を掻きながらボソボソと発する事しかできなかった。
「はい、確かに私は彼から謝罪を受けました。」
雪ノ下は事実をありのままに偽り無くそして、簡潔に己の母親に対し返答をする。
それを確認する様に軽く頷き、雪ノ下婦人は家の母ちゃんとガハママへと向き直り宣言する様に語った。
「私は決めました、比企谷さん、由比ヶ浜さんこの度の事故、我が家の車の修理費についてですが、私としては貴女方にそれを問おうとは思っておりません、当然それは当方の保険より賄うものとします、元よりそのつもりでしたしね。」
「ですが雪ノ下さん、それでは貴女方が一方的に損をしてしまうだけではないですか、元を正せば家の娘が原因で起こった事故ですし、我家も何らかの処罰を受けて当然だと私は覚悟しています。」
「そうですよ雪ノ下さん、結果的に家の愚息が車を壊してしまったんですから家も弁済をして然るべきだと私も思いますけど。」
母ちゃんとガハママは雪ノ下婦人へ反論するが、当の雪ノ下婦人は左右へ首を振り、それを否定する。
「私には何がどうなっているのか解りませんが、八幡君が走行中の車と接触し車は修理が必要な程に壊れているにも関わらず、当の八幡君はかすり傷一つ負ってはいないと云うではありますが、下手をすれば今頃八幡君は大怪我を負って入院、或は命を失う事態となっていた可能性もあるのですよ、そうなった場合我が家が被るであろうダメージは如何程の物かと考えれば車の保険料が跳ね上がるくらい、何程の物ではありませんよ。」
雪ノ下婦人の言葉に母ちゃんとガハママは複雑そうな表情で押黙る。
確かに普通の人間ならそうなっている可能性が高いからな、俺は幸いテリー兄ちゃん達にずっと鍛えてもらったお陰で何とも無いんだが…もしかして俺は、と言うか格闘家と云う人種は人間を辞めているのかな?石仮面も被ってないのに。
『俺は人間をやめるぞ!ジョジョーーッ!!』ってか?、嫌、辞めてないし!俺人間だからね、人間だよね!?
この一連の会談の末に見せた雪ノ下婦人の微笑、それ様子に一番驚いた表情をしていたのは、意外にもその娘である雪ノ下雪乃であった。
我が家を訪れてから、彼女はあまり声を発す事はなく、殆ど表情と姿勢を崩さず凛としてソファーへ座る姿は入学の日に俺が抱いた印象通りだったんだが、その彼女が自分の母親の微笑に驚き戸惑っている。
何故彼女がそんな顔をするのか、やはりそれは俺には解らん。
解らないなりに予想を立てるなら、雪ノ下婦人は普段から我が子の前ですら笑う事なく、俺達に最初に見せていたきつ目の表情と態度で接していたとか、はたまた或はそう言った事により家族間に於いて深い溝が出来てしまったのか、その辺りの真相を俺が知る事があるのかどうか今の俺には解らない。
硬い話はこれで終わりだと母親達は事故についての話は打ち切り、普通に極ありきたりに主婦同士の会話を楽しんでいる様に俺には見える。
社長婦人に社畜おばさんと専業主婦とその立場は違えど、母親達はそんな事等関係なしに話が弾んでいる様だ。
前にテレビでやってたけど、おばさん同士は初対面でも割とすぐに打ち解け仲良くなって行ってたけど、おじさん連中はおばさん達と違って打ち解けるのに時間が掛かってたよな、そういうのも男女の性差とかから来るんだろうか、まぁ俺ならおじさん連中よりも更に打ち解けられず、そのまま気づかれること無くそのままフェイドアウトして行くだろう。
それがこの俺ハチマン三世、ボッチのエリートだ!
俺のアホ語りは取り敢えず、一旦置こう。
おばさん達の話に何時の間にか小町と一色も加わっていた。
一色が作って来てくれたバウムクーヘンとコーヒーが、人数分二人によって準備され会話に彩りを添えている。
俺と由比ヶ浜はその様子に置いてきぼりを食らったみたいで、なんだか浮いている様な気分だ。
だがそれ以上に雪ノ下は、この場で所在無さげに戸惑いの表情をしている。
どうするこんな時、俺は雪ノ下に声を掛けるべきだろうか…
俺の逡巡を他所に、動いたのは由比ヶ浜だった。
由比ヶ浜はソファーの雪ノ下の隣に座り、太腿の上に握られている雪ノ下の手の上にそっと自分の手を添えて、その屈託の無い笑顔で雪ノ下に話し掛けた。
「雪ノ下さん、さっき自己紹介したけどさ改めて、あたし由比ヶ浜結衣よろしくね、えっとさあたし雪ノ下さんと友達になりたいんだ。」
そう言いながら由比ヶ浜はその手を持ち上げ、握られた二人の手は互いの胸元辺りの高さで繋がっている。
おぉすげぇな由比ヶ浜、この一連の動作、見事なもんだ。
コイツは小町と同等か或はそれ以上の高いコミュ力を持っているようだ、由比ヶ浜自身は意図していないだろうが俺としてはなんだか二人の間に百合百合しい雰囲気が見て取れて、小腹が満たされた気分だ。
由比ヶ浜、見事な自己紹介だったぞ。
良かった、もし俺が堪らず雪ノ下に声を掛けていたら自己紹介が事故障害になっていたかも知れないからな。
ああ、そこの君親父ギャグ乙とか言わない様に、それは俺が一番解っている事だからしてだな…くっそう!
いや実際俺はマジで由比ヶ浜は凄いと思った、入学式の日と今日と俺が感じていた雪ノ下の壁を、ATフィールドをあっさりと侵食してしまったのだからな。
「…あの、由比ヶ浜さん…手を離してもらえると助かるのだけれど、その、それに貴女距離が近すぎるのではないかしら、パーソナルスペースは弁えるべきだと私は思うのだけど。」
困惑を顕に雪ノ下はそのペースを由比ヶ浜に握られ、どうするべきかを思案しているのだろうか。
「う〜ん、じゃあさ、雪ノ下さんがあたしと友達になってくれるなら離してあげるね。」
ニコニコとして、心の裏表をまるで感じさせない由比ヶ浜、と言うか由比ヶ浜は元来、そう言った計算高さを持ち合わせて居ないのかも知れないが、だがそれこそが案外雪ノ下の心を開かせる最高の武器なのかもな。
対雪ノ下、最終人型決戦兵器エヴァンユイオン…語感の悪さは気にしない。
「はぁ、解ったわ…その、よろしくお願いね由比ヶ浜さん。」
溜息と共に返された雪ノ下の返事、由比ヶ浜から視線を逸し顔を赤く染めながら発せられたそれに由比ヶ浜は満足したらしく、雪ノ下の手を離し改めて挨拶を返すのだが。
「うん!よろしくねゆきのん!」
笑顔で発するその言葉に聞き覚えの無い単語が混じっている。
あぁ早速発動したようだな、由比ヶ浜に流れる紅魔族の血が。
「…由比ヶ浜さん、一つ聞きたいのだけど…そのゆきのんとは私の事なのかしら?」
「うん、そうだよゆきのん、可愛いでしょう!」
雪ノ下は由比ヶ浜へ問いただし、返ってきた返答に困惑している様子が手に取るように俺には理解できた。
「あのだな雪ノ下、諦めた方が良い事がこの世にはあるんだよ、その一つが由比ヶ浜のネーミングセンスだ、お前はまだ良い方だと俺は思うぞ、俺なんかヒッキーと付けられたんだからな。」
だから俺は、雪ノ下へ忠告したんだがな、由比ヶ浜はブー垂れて俺に遺憾の意砲を放つし、雪ノ下は…
「もしかして由比ヶ浜さんは、貴方の普段の言動を鑑みてそのニックネームをつけたのかしら、だとすれば強ち由比ヶ浜さんのネーミングセンスは間違ってはいないと言う事かしら…」
などと、中々に辛辣な事を言い出して来やがった。
もしかしてこれが雪ノ下の地なのか、それとも照れ隠しなのか、現時点でその判断は早計か…
「失礼な俺は引き篭もりじゃないからな、何なら朝晩のロードワークは欠かさないし、学校にもちゃんと通ってるからな、それに早ければ来週からはバイトもするしな。故に俺には引き篭もり要素は無いと断言出来る。」
俺は堂々と雪ノ下に反論するのだが、それに対する返しは予想外の方向からもたらされたのだ。
「…でもさぁ、お兄ちゃんって基本それ以外は外に出たがらないよねぇ、大抵何時も古い映画とかアニメのDVDばっかり見てるし、後は本ばっかり読んでるよね。」
我が愛する妹よりのフレンドリーファイヤーが俺に炸裂し、皆の視線が俺に集まる。
特に女子中高生からの視線が痛いうえに、母ちゃんなんか笑いたいのを必死こいて我慢していやがるし、ガハママと雪ノ下婦人は微笑まし気に俺を見ている。
ヤメロ、俺に羞恥プレイの趣味はないから、だからそっとしておいてくれ。
「やっぱり由比ヶ浜さんの目は正しかったようね…。」
「アハハ、あたしそんなつもりでヒッキーって呼んでんじゃないんだけど、なんかごめん…。」
女子高生組の言葉が痛いが、由比ヶ浜と雪ノ下は上手く打ち解けてくれたみたいで、良かったとして置くか。
「あ〜、もう、3人だけで良い雰囲気作らなでくださいよ!ずるいですずるいです、私も混ぜて下さい。」
あ〜、もう、小悪魔系女子中学生一色いろはが参戦して来やがりました。
これはキツイぞ、俺の気分は終が二人にはなったよ様な気分だ、コイツは俺の手には余るぞ。
にしても今のは良い雰囲気だったのかよ、俺にはそう思えなかったんだが。
「あれ、居たのか一色!」
だからココは適当にあしらった方が良いだろうか。
「ブゥ〜!酷いですせんぱい、私を除け者にしてぇ、私だって雪ノ下先輩とお近づきになりたいんですから、仲間に入れてください!」
そう宣言し、一色は雪ノ下の左隣、由比ヶ浜とは反対側に座り、雪ノ下に対しお得意のあざとい笑顔で迫り始めた、コイツのあざとさは男に対して発動する物とばかり思ってたんだが、女子にも発動出来るのか。
「雪ノ下先輩ってすっごく綺麗ですよね、髪の毛もサラサラツヤツヤで、お肌も白くって…私、嫉妬してしまいそうですよぉ!」
「だよねいろはちゃん、ゆきのんって本当に綺麗だよね。」
一色の褒め言葉+嫉妬の言葉に被せる様に由比ヶ浜は雪ノ下を褒めながら、抱き着いた。
「あ〜結衣先輩ずるいです!私も雪ノ下先輩とイチャイチャしますぅ!」
由比ヶ浜へ対抗し一色までもが雪ノ下へ抱き着いた。
女子三人により繰り広げられるゆるゆり展開。
良いと思います!!
「あの、二人とも暑苦しいのだけど…離れてくれないかしら…。」
そう口では言っている雪ノ下だが、その顔が朱に染まっている所を見ると満更でも無いのかもな。
だが、恐らくは雪ノ下は…多分こう言った友達との関係を築いて来れなかったんじゃ無いかと俺は感じるんだが、彼女の口数の少なさと、二人をあしらえない辺りに俺はそう感じているんだよな。
一頻りゆるゆり展開を繰り広げる三人だったが、それは奴の闖入により終わりを告げる。
そう、奴だ、此の場に於いて俺以外の生物学的分類上男にカテゴライズされる奴。
カマクラの闖入によってだ。
カマクラは再び此のリビングへと現れたかと思うと、何故かは知らないがそのターゲットを雪ノ下へと定めたようで、雪ノ下の足元へ辿り着くと、犬で言う所のお座りポーズで雪ノ下を見定め、得意の低音ボイスで『んにゃ〜っ』と一鳴きアピールをしやがった。
コイツはやっぱり女好きだ、それが見事に証明された瞬間に俺は立ち会った。
しかし、別に何の感慨も湧きやしないな、てかコイツがどう云う奴かがハッキリとしたな。
「…猫…さん、あぁ猫さん、何て可愛らしい…。」
その声は小さく途切れ途切れに耳に入って来た。
雪ノ下はその身をかがめ、手を伸ばしてカマクラを恐る恐る触れようとしている。
歓喜にほんのりと、先程のゆるゆり展開の時とは若干違う朱に染った顔でカマクラを見つめている。
それは遠く離れていた、恋人に再び出会えたかの様な歓喜に溢れていた。
まぁ、俺は恋人なんか出来たこと無いから知らねえけど…。
「あっカーくん起きたんだね、雪乃さんその子はカーくん、カマクラって言うんですよ、カーくん雪乃さんに興味津々みたいですから、抱いてみませんか。」
躊躇う雪ノ下へ小町は助け船を出し、意を決した雪ノ下はカマクラを抱き上げ自らの膝の上に乗せ、思う様モフり始めた。
コレは邪魔をするべきじゃ無いと由比ヶ浜と一色は判断したようで、雪ノ下から距離を取り、暫くはカマクラとの逢瀬を満喫させようと思ったのだろう。
離れた二人は生暖かい眼差しで雪ノ下を愛でている様だ。
「カマクラ、カマクラさんね…カマクラさん素敵なお名前ね…にゃ〜お…」
左手で背中を右手で胸元を、雪ノ下はカマクラをモフりながら、カマクラをさん付けで呼んだかと思えば、猫語まで話し始めたよ。
どんだけトリップして居るんだコイツは、ヤバい薬を使っているんじゃ無いだろうな、てかコイツにとっては猫の存在がドラッグになってんのか?
猫にマタタビ、雪ノ下に猫、おおこの三つが揃えばトリップの永久機関が完成するんじゃね? 俺は知らんがな。
雪ノ下は心ゆくまでカマクラをモフり倒し満足したようで、どう言う効果があったのかは知らないが、その肌艶はキラキラと輝いている様に見えた。
それはまるで、ふんすと鼻息荒くどやる時の古味さんの様だった。
ネコニウムを確りと充填出来たようで何よりですが、ネコニウムを搾取されたカマクラは些か以上にヘバッている様だな。
カマクラ、ナイスガッツ!心の中でお前に敬礼しよう。
普段が普段なので奇妙な友情は感じないがな、カマクラ普段の行いの不幸を呪うがいい、一つ言わせてもらうが俺は図っちゃ居ないからな。
時刻は午後5時を周り、我が家に集った皆様はお帰りあそばす頃合いになっていた。
皆互いに別れの挨拶を交わし、帰路に着く。
「それじゃあヒッキー君ママ、ヒッキー君またね、ヒッキー君も何時でも家に遊びに来てね、何だったら家の結衣をお嫁に貰ってくれて私達と一緒に暮らしても良いのよ♡」
ガハママさん!何を言っていますのですか!!
貴女の隣を見てください、由比ヶ浜が真っ赤になってお怒りになっていますよ解っているんですか!
「もう!ママは、イキナリそんな事言わないでよっ!あたしとヒッキーはまだそんなんじゃ無いんだから、それはこれから…って何いわせるのよ!」
「あらあら結衣ったら照れてるのね、でも頑張らないとヒッキー君はカッコいいから、後悔する事になってもママは知らないわよ。」
由比ヶ浜もガハママも何を言っているのでせうか…俺がカッコいいとか、無いよな、無いだろう…自分で言ってて切なくなったよ…。
「バイバイヒッキーまた学校でね。」
「おう、またな…。」
キラキラな笑顔の由比ヶ浜に俺は、いつもの様にぶっきらぼうに返してしまった。
そんな俺の態度に由比ヶ浜は一欠片の不満も表さず変わらぬ笑顔で「うん!」と応えてくれる。
すまん由比ヶ浜、ぼちぼちとでも慣れていくから勘弁してくれ、ボッチだけにな……こりゃ山田君に座布団全部没収されるな。
由比ヶ浜母娘に入れ替わる形で雪ノ下母娘と挨拶を交わす。
「雪ノ下、今日はありがとうな、少しだったけど話が出来て良かったよ。」
「…いえ、私もその入学式の日は貴方に対して少しだけ失礼な態度を取ったのでは無いかと思っていた所よ、ええほんの少しだけなのだけど…。」
何ての、コイツは素直じゃねぇな、一言詫びるだけなのにこんなに持って言い回してよ、全く親の顔が見たい…と思ってら隣にいらっしゃいましたね。
雪ノ下のお母様そんなに睨まないで下さい、基本僕ちんは臆病者なんですからしてその様なお顔は…。
「雪乃さん、何ですかその物言いは、淑女たる者その様な不作法な発言は控えなくてはいけません。」
ほっ、良かった、雪ノ下婦人は俺では無く御自身のお嬢さんを叱るのですね。
だが、そのお叱りのお言葉は静かに発せられているにも関わらず、得も言えぬ迫力を感ぜずには居られない。
その佇まいたるや、正に女帝の如し。
「っ、すみませんお母様…以後気をつけます。」
何か不味いな、雪ノ下が女帝の如き母の一言ですっかり萎縮してしまったよあだぞ。
此処は一つ、俺が何か言わなきゃだよな…でなきゃ男が廃る、そうだよな兄貴たち。
「あの雪ノ下さん、お嬢さ…雪乃さんは俺の見る所、男性…あっいや人との付き合いが浅いんじゃないかと思うんですよ、だからですねその距離感が掴めず、ああ言った言動になるのでは無いかと思う訳です、だから此処は穏便にですね、お嬢さんの成長を見守ると思って頂ければとでしゅね…。」
うわぁ…折角我ながらいい感じで話せてたと思ったのに、コレだよ。
オイそこ、母ちゃん、小町、一色よ、人の失敗を笑うんじゃありません!
「にゃハハハ、おっ、お兄ちゃんがカッコつけようとして、ぷっ!アハハハぁ可笑しいよぉ〜!」
クッ、小町ィィィ!覚えてろよ、後母ちゃんと一色、二人共だからな。
「はぁ、比企谷さんが羨ましいですわね、我が家は雪乃の他に三つ上の姉がおりまして、要するに二人姉妹なのです。
なので八幡君の様な優しく寛容で、それでいて確りと自己を確立している男の子を見ると、私も息子が欲しかったと尽く付く思ってしまいますわね…。」
イヤイヤ、マダム雪ノ下…俺はそんな御大層な男ではありませんよ、それは買いかぶりが過ぎると言うものです。
「雪乃の成長を見守る様にとの事ですね…解りました私も母親ですから、此処は八幡君の言に従ってみましょう、しかし八幡君…貴方はそこらの高校一年生とはどうやら格が違う様ですね。」
雪ノ下婦人は俺の言を受け入れてくれた、しかし凄いなこの人は。
ただ単に威厳や凄みが有るだけじゃない、たかだか一高校生の発見を受け止め認める処が在れば認めるか。
「…いや、俺はそんなだいそれた者じゃ無いですよ、もし雪ノ下さんから見てそう見えたのなら、それは両親と…それから俺を鍛えてくれた兄貴姉貴達のお陰ですね。」
そうだよな親父と母ちゃんが家庭を支えてくれて、テリー兄ちゃんとアンディ兄ちゃんとジョーあんちゃん、そして舞姉ちゃんが、俺と小町を心身ともに鍛えてくれたんだ。
後はまぁ、ロックと言う身近なライバルが居てくれたから、負けじと精進出来たってのもあるな。
色々あった一日だったが、過ぎてみたらあっと言う間だったな。
雪ノ下婦人は帰り際に、将来は我社に来ないか何て言ってくれたが、あの人の元で働くとなると…アカン!プレッシャーで胃を悪くすく未来がみえる。
嗚呼、アムロ刻がみえる…。
そして今俺は最後のお勤めを果たしているのであった。
それは一色を送って行く事だ、此れは小町より授かった任務であるのだが、小町の奴は家では一色と反りが合わない様だったが、何だかんだと言いつつもこう言う事には気が回るんだよな。
可愛い奴め、そんな娘に育ってくれてお兄ちゃんは嬉しいぞい!
…………………もはや語るまい。
「所でせんぱいはどうして今ジャージなんですか?」
数分ばかり無言で歩いていた俺達だったのたが、開口一番で一色は質問してきた。
何だかその声音には不満の色が感じられる、普段なら小町が俺の服装をチェックするんだが、今日はその小町がジャージを許可してくれた、それは。
「お前を送り届けた後にな、ロードワークをして帰るからな、まぁそれで汗をかいちまうからな、コイツはトレーニング用のジャージだ。」
「…そう、なんですね、せんぱいは、やっぱりアクション俳優志望…なんですか?」
そうだった、一色は俺をアクション俳優志望だと勘違いしていたんだったな。
恐らくだが一色はそう勘違いして、将来映画やテレビに出ている役者が自分の知り合いだとか、彼氏だとかそういったステータスを見出して俺に近づいたんだろう。
だったら俺は早めにその勘違いを正してやらなきゃだな…それが最も一色の為になる事だ、その結果一色が俺から離れたとしてもそれは仕方の無いことだ。
「あのな一色、お前は勘違いをしているんだよ。」
俺の言葉に反応する様に、一色は俺に向き直りつつ、その目を反らすことなく俺の眼を確りと見つめている。
あたかもそれは、一色なりに何かを覚悟している様な…そんな感じだな。
「俺はな、実は格闘家としての修行中なんだよ。だからまぁ、そんな訳でな俺に絡む価値はあんまり無いと思うんだがな…そこんとこどうなんだ?」
一色は俺の告白を顔色一つ変えず、眼を見据えたままだ。
「…せんぱい、私はあの日のせんぱいのアクションに、不謹慎かもしれませんがすごく興奮しました…だってテレビで見る様なすごいスタントアクションみたいでしたから、だから私はそんなせんぱいとお近づきになれたら私のステータスは爆上がりだあっ!て思いました。」
だよな、俺の読みは大方当たっていたな。
「でも、それだけじゃ無いんですよ、だってせんぱいは…優しいです。見ず知らずのワンちゃんの為にあんな行動するなんて、きっとそんな人他には居ませんよ、だからです。」
「そして此処何日かせんぱいと過ごして、せんぱいがアクション俳優志望かとかどうでも良くなっちゃいました。」
僅かな憂いを秘めたような口調と表情に、俺は揺れる一色の気持ちを見たような思いに囚われた。
「そして納得がいきました、せんぱいは上大岡先輩達に何かをしたんですね、だから上大岡先輩は私を見た途端あんな態度で…。」
今朝までは俺はその事実を、どう誤魔化すかと考えていたが、今の一色に対してそれはあまりにも不誠実じゃないかと思い、だから俺は…誤魔化すのを止める事にした。
「ああ、一昨日お前達と別れたあとにな、アイツ等十人ばかりで訪ねて来てくれたもんでな、丁重におもてなしをしてやったんだ。」
政治家さんたちも言っているよな、日本はおもてなしの国だと。
それを実線する俺は立派な愛国者だよな、うん。東郷さんと一緒に国防仮面がやれるレベルだな。
「!せんぱい、十人相手におもてなしって!それに怪我一つ負ってないですよね…雪ノ下先輩の家の車の時もそうですけど、どうなっているんですかせんぱいの身体は?」
そりゃ驚くだろうな、鍛えていない一般の人からすると、でもな一色、俺なんか名だたる格闘家の人達からすれば、まだまだ産まれたてのひよこの様なもんなんだよ。
「鍛えてますから、シュッ!」
俺はヒビキさんポーズでおどけて見せるが、返ってきたのは…それはそれはまるで不浄な物でも見るかの様な、蔑み色の目だった。解せぬ、響鬼は俺が最も好きなライダーなのに…鍛えて鍛えてやがて人を越える響鬼は格闘家の道に通じる物があると俺、思うんだ。
「せんぱい、私…本気ですからね、私だけでは無いですよ、結衣先輩もです、それにもしかしたら雪ノ下先輩もいずれは…ですねそう言うの女子は敏感なんですから。」
「だ・か・ら・私を本気にさせた責任取ってくださいね♡」
何時の間にかたどり着い駅の前で一色はあざとさ全開でそう言った。
だが俺はそのあざとさにコレまで感じだな胡散臭さをまるで感じなかった。
「ここ迄で良いですよせんぱい、またですせんぱい、バイトの無い日はよろしくお願いしますね」と言い残し一色は改札の向こう側へと去って言った。
それを見送り、俺はロードワークをこなすべく駅に背を向け走り始める。