やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
「ほれ一色、お前の分だ。」
雪ノ下が主催する新たな部活の拠点となる教室の一角にまとめ置かれた椅子とテーブルの山から、俺は二脚の椅子を取り出してその一つを一色に手渡す。
「はい、ありがとうございまぁす!せんぱい♡」
どうでも良いけど一色さんや、たかだか椅子を受け取るだけの為に、態々そのあざとく作った甘々の声音で礼なんて言わなくても良いんだよ…。
「おぅ、なぁ雪ノ下序だからテーブルも一つセットした方が良くないか、なんなら俺がやっとくけど。」
「…そうね、悪いけれどお願いできるかしら比企谷君。」
現状雪ノ下と由比ヶ浜が自分用に用意した椅子二脚しかないからな、これじゃあ部室としての体裁が整ったとは言えないだろうからな、それにまぁそんな大した物じゃ無いが力仕事なら男の俺がやっといた方が良いだろう。
『悔しいけど僕は男なんだな…』イヤね悔しくは無いよこの位はさ、スマンちょっと名言を言いたかっただけです。
「おう、任された。」
「ありがとねヒッキー!」
こんな何程の物でもない事でも、由比ヶ浜の様に『ありがとう』と言われるとこちらとしても悪い気はしないよな、一色もその辺はしっかり礼を言ってくれるんだが、由比ヶ浜と違って一色はあざとい感じがするから微妙な気持ちになるんだよな、おっと思考にばかり意識を向けないで作業もやらないとな。
「それじゃ雪ノ下、教えてくれコレからお前が何を始めるのかをよ。」
テーブルと椅子もセットし終えた、これで最低限部室としての体裁は整った。
「…そうね、比企谷君、去年初めて貴方のお宅へお邪魔した時の事を覚えているかしら?」
初めて俺ん家へ雪ノ下が来たときね、あの事故の時の事だな、てかそれはここに居る四人全てが関わってんだよな。
雪ノ下だけじゃ無く由比ヶ浜も一色もその日初めて家へ訪れて、あの件についての話し合いがなされ、それから俺達四人は共に行動する様になったんだよな。
あれからもう一年が経ったんだな。
「ああ覚えてるよ、今この場にいる俺達四人全員が関わってるからな。」
「…ええ。」とコクリと小さく頷き肯定する雪ノ下はいつもの如く凛とした澄まし顔ではあるが、何だか僅かに何時もと違う様な気がするのは、思い過ごしかな。
「…あの日、比企谷君…貴方は私の母に言ってくれたわね、私の…自分の娘の成長を見守ってくれと。」
「ああ、そうだな…一字一句その通りとは言わないがそんな事言ったな俺。」
「そして、貴方達と共に過ごすようになって、私は貴方に言ったわね世界を人ごと変えると…。」
真剣な眼差し、挑むような眼差しとも見える雪ノ下の鋭い眼差しに俺は、いつもの様に脳内で一人行っているお巫山戯さえも止めるべきだと思ってしまった。
それだけ雪ノ下は真剣なのだろう、侍戦隊じゃ……イカン集中しろよ俺、今はそんな時じゃ無いだろうがよ。
「…ああ、人間なんて十人十色とか実績も功績も無いケツの青いガキだとか、そんな事言ったかな。」
「そうね、そして先ずは自身の成長をこそ優先すべきと…その貴方の言葉に正直に言って私は少しだけ貴方に対する反感の気持ちを抱いたわ…だけれど同時に貴方の言葉は真に的を射た物だとも思えたの、はっきり言って私は…その、自分で言うのも何だけど、人との関わりを持たないで来たのよ私は優秀だから何でも一人で出来ると、だけど確かにそう…世間的には私は何の実績も功績も打ち立てては居ない只の一学生に過ぎない、だから比企谷君、私は貴方が言う様に自分を成長させなければならない、将来の自分の為にも、そして私に足りない物不足している物が何かと考えてその内の一つが人との関わりだと。」
少しばかり長い雪ノ下の独白に俺は感心の思いを抱いた、雪ノ下は俺の言葉を真摯に受け止め自身の成長と云う事を自らの課題としてそれをどう成し遂げようかと一年近くも考えていたのだろう。
その一年が長いのか短いのかは人によって感じ方は違うだろうが。
「…そうか、雪ノ下はこの部活で他者との関わり合いを主題として活動しようと企図しているんだな、それで具体的にはどんな事をするつもりなんだ?」
「ええそうね、先ずはこの部活を通して私達自身を高めてゆく事、その為の人との関わりを持つ、その為に困っている人や悩んでいる人、そんな人の悩み事や困り事の解決の一助となる様に助力する事。
それがこの部活を通して行う活動内容よ。」
…なる程な、要は部活を通してボランティア的に人助けをするって訳か、だがそれって…。
「…雪ノ下、お前の企図する所は大まかに理解出来た、しかしなちと線引きが難しいと思うんだが。」
「どういう事ですかせんぱい?」
「ヒッキー何でそう思うの?」
ああ、まぁそう思うだろうな、人助けをするって何か無条件で良い事ってイメージがあるし、そういう事やっている人は偉いって単純に思うもんだ。
「いやな、人助け助力って行いを否定している訳じゃ無いが、その助力って果たしてどれ位までやって良いかって事だよ、一から十まで全部俺達が肩代わりするのか、もしそんだけ手伝ったとしてだ果たしてその手伝われた側は、どうなるかどう考えるか、そしてその相手は成長出来るのかって事を考えてみてだな…」
下手をすると、俺達はその相談者に良い様に利用される結果になるかもだ、更に人によってはそれに味をしめて俺達は体の良い便利屋みたいな扱いを受ける様になるかも知れないんだ、そんな事態は俺達にも相手側にも何の利にもならないだろう。
…ああ利用者側には利益があるか、タダで厄介事を引き受けてくれる奴が居ると思えばな。
「…なる程ですね、人って一度楽を知ると際限無くそれを求めてしまう所があるでしょうしね…。」
「スゴイねヒッキー、そんなの良く思いつくね。」
「比企谷君の懸念は尤もね、だから私はさっき言ったでしょう、解決の一助にと…私の目的とする所はあくまでも、悩める者の問題解決の一助、そうね例えるならば飢えた者に獲物を取ってあげるのでは無く獲物を取る方法を教える事と言えばいいかしらね…。」
ほう、そう来るか…確かにその辺りが落としどころだな、依頼者から相談を受けたうえで俺達がその相談に対してどう動くか、何処から何処までを俺達が助力するか、先ずは打ち合わせて方針を決めて行動を起こす、三人寄れば文殊の知恵じゃ無いが俺達は四人居るんだし、なせば大抵何とかなる!かな?
「…分かったよ雪ノ下、そう言う事なら微力ながらお前の活動手伝うよ、ただ俺の場合一応バイトもやってるし、その日は悪いが早上がりか休ませて貰うが、それでも良いか?」
「せんぱいある所いろはちゃん有りですので、私も当然手伝いますよ雪ノ下先輩!」
「あたしは最初っからゆきのんと一緒にやるつもりだったから、当然手伝うよゆきのん!」
良し、皆の意見は一致した様だな、これで態勢は整ったと思っていいな。
「ありがとう、比企谷君、由比ヶ浜さん、一色さん…これからよろしくお願いするわね。」
椅子から立ち上がり美しい所作でもって礼をする雪ノ下、こんな仕草もコイツは本当に様になるな。
「おう、まあよろしくな。」
「はい!よろしくです雪ノ下先輩。」
「うん、がんばろうねゆきのん!」
いい感じにこの部活はスタートを切れそうだな、一年前の入学の日偶然出会った俺達がこうやって一つの処に集って新たな活動を始める、人との関わりあいによって自己と相手の成長を促すか、雪ノ下と俺は特にだな…由比ヶ浜と一色はコミュニケーション能力に問題は無いと思われるからな。
ただ雪ノ下の主張を全否定するつもりは無いが…なぁ雪ノ下、こうは思わないか、本当に飢えた人と出会ったとして、果たしてその人に悠長に獲物の取り方を教えるだけの余裕があるのかと、場合によっては一度獲物を与えて飢えを癒やした上でなければ、手遅れになってしまうんじゃないか?
…まぁ始まる前から、マイナス要素にばかり眼を向けるのも如何なものかってな、逆にそう云った要素にぶち当たる事でもしかしたら俺達の成長につながる可能性だってあるかもだしな、だったらその度に俺達四人とその俺達に依頼をして来た人達と一緒にそれを乗り越えられる様にディスカッションして行けばいいかな、決して只の便利屋になっちゃいけない。
「それで雪ノ下、俺達が始めるこの部活だけど、部活名は考えているのか?」
まさか『人の成長を大いに盛り上げる雪ノ下雪乃の団』とか付けないよな、多分雪ノ下は俺と違ってヲタ属性は持っていないだろうし、ここに居るのは宇宙人でも未来人でも超能力者でも無い。
ちょっとアホの子だけど天真爛漫にして胸部に巨大な実りを有する広報担当その1。
部内で現状唯一の後輩キャラ、小悪魔あざと系妹分の広報担当その2。
眼つきが悪く友達が出来ないボッチ系男子、餓狼達に育てられたヒヨッコ格闘者雑用全般担当。
そして文武両道を地で行く、この学校一の才媛にしてこの部の発起人であり、この『HOY団』(嘘)を率いる団長。
てか、この部は広報担当が多すぎじゃないか、更に言えば女子三人共見目良い少女ばかりだ、この三人が揃っているだけで何もせずに広報になるんじゃね?
「まさか聚義庁とか忠義堂とかって付けないよな。」
「比企谷君、ココは水の滸では無いのだし、百八の星が集う訳でも無いのよ、その様な名前はつけるわけが無いでしょう…。」
流石は雪ノ下だな、水滸伝知ってたんだな、俺の場合は親父コレクションにあった吉岡平先生のラノベの『妖星紀水滸伝』から入って本家の水滸伝読んだんだんだが、登場人物達の無法っぷりにドン引きした思い出があるんだよな。
しかもまだ最後までは読んでないし、中華の翻訳小説って何か文体に馴染めないと辛いものがあると思うんだ、イヤねそんなに沢山の中華翻訳小説を読んでる訳じゃ無いけど…もう最近は北方謙三先生版を読もうかと思案中だったりする俺です。
「じゃあアレだ、今一度世界を洗濯致候とか「海援隊などと付けるつもりもないわ、しかもご丁寧に日本を世界と言い換えて…はぁ…。」…瞬時にそれを理解して突っ込みを入れるお前も大概だと思うけどな…。」
雪ノ下の知識は一体どれ程のものなんだよ、勉強だけじゃ無く雑学なんかにも精通してんのか、凄えな雪ノ下が居りゃあもうウィキペディアをググんなくて良いんじゃね、コイツはもう歩くウィキペディアだな、命名するならユキペディアで良いか。
「もう!せんぱい雪ノ下先輩の相手ばかりしないで私の相手もしてください、知ってますか?うさぎは寂しいと死んじゃうって言いますよね、せんぱいが相手をしてくれないと可愛い後輩うさぎちゃんがどうなっても知りませんよ?」
「ヒッキー、犬だってそうだよ!寂しかったりすると元気無くなっちゃうし不貞腐れたりもするんだよ?だからあたしも、そのヒッキーと…。」
うさぎに犬か、確かに由比ヶ浜は犬っぽいな、一色のうさぎは、何か狙い過ぎ感ハンパない気もするがそれをチョイスする辺りが一色の一色たる所以かもな。
あちゃあ、ヤバい何か想像してしまったよオイッ!
犬耳と犬しっぽ着けた由比ヶ浜とバニーガールのコスした一色の姿を、しっぽをブンブンフリフリしながら笑顔で迫る由比ヶ浜と、バニー姿であざとい笑みを浮かべて、胸元にライターとか挟んで…
イカンイカン、想像すんなよ俺、この場でそんな想像してしまうとだ…そのだな、男子の生理的現象が起こって立ち上がれなくなるだろうが…。
「…ふむ、新たに創設する部活動、部長は雪ノ下が務めるか、言い出しっぺなのだから妥当な判断だな、活動内容は以前雪ノ下が報告してくれた通りの内容なのだな…。」
四人揃って職員室に平塚先生を訪ね、雪ノ下が纏めたレポート用紙を渡し、平塚先生は丁寧にその内容を吟味する様に読み進め、納得とばかりに頷いている。
雪ノ下が纏め上げた内容におそらくは不備など無いだろう、雪ノ下自身は何の気負いも無いと言った感じで平塚先生の答えを待っている様だな。
それとは逆に、由比ヶ浜と一色は緊張しているのか平塚先生の様子をソワソワとしながら伺っているようだ、お〜いお前達、そんなに心配しなくても大丈夫たぞ平塚先生が顧問に着いてくれるって言ってるんだから心配は無用だぞ。
「……その部活動の名称は『奉仕部』か、良し!問題無しだ、生徒会と学校側には私が話を通す、活動の趣旨も君達の志にも何ら問題は無い、間違っても不受理などと言う事態にはならないさ、しかも雪ノ下は成績も優秀であり掲げられた活動内容も素晴らしい物があると、きっと判断されるだろうからな、うん。」
「やった!良かったねゆきのん、皆一緒に部活出来るよ!」
「そうですよ雪ノ下先輩、皆で頑張って行きましょうね!」
「えっ、ええありがとう、よろしくお願いね由比ヶ浜さん、一色さん、後序に比企谷君も…。」
「ちょっと待て!俺はついで扱いなのかよ、納得行かねぇ不当待遇だ!改善を要求するぞ、でないと俺泣いちゃうぞ良いのか、男の泣き姿なんかウザいだけだぞ、そんな姿をお前たちはコレから目の当たりにするんだぞ其れでも良いの?」
女子三人、トライアングル手繋ぎしていた三人は俺の要求を冷たい目で見ている、何その眼は?止めてよねその眼だけで俺の心のハートはポッキリブレイクして壊れちゃうよ。
…何だよ心のハートって、ブレイクして壊れるってアホ丸出しじゃねえか。
「もうヒッキー、ゆきのんは冗談言ってるだけなんだからさ、そんなに悲観?しなくても良いんだよ、それよりもさヒッキーもゆきのんといろはちゃんも手を出して見て!」
何?手を出してって、まさかアレか皆の手を重ねてシュプレヒコールみたいなのやるの?
『奉仕部ファイトお〜』とかどっかの吹奏楽部みたいにやんの、何それ凄え恥ずかしい…でも何かやって見たい気もする、ヤベえどうしよ何か八幡ってば照れちゃうよお!
「あ〜君達、盛り上がっている所悪いが此処は職員室だと言う事を理解しているのかね、そう言う事は別の場所でやってくれ。」
平塚先生からのお叱りが下ったよ、そりゃまあ確かに職員室だからな、他の先生方の視線も俺達に向いてるし、控えた方がよろしいよな。
「すみません先生、少し喜びの感情が溢れてしまったようです、そうっすよね先生の言う通り場を弁えます。」
職員室を退室し俺達は一度部室へと戻る事にした。
部室に俺達のバッグなどの荷物も置いてあるからどちらにしろ戻る必要はあるんだけどな。
『君達も承知の通り私は生活指導を担当しているが、その役職柄生徒の悩み事などの相談も多々受けていてな、どうだろうかその中から君達奉仕部にその相談者を送る事にして、その悩める者たちの為に行動を共にしてみないか。』
平塚先生はそう言ってくれたが、良いのかそれは生徒のプライバシーを侵したりとかって事にならないのか、いや先方が納得してるならば良いかもなのか、それに先生も俺達学生の手に余る様な相談を俺達に回す何て無いよな。
「だけど平塚先生の提案は私としては有りだと思うんですよね、私達奉仕部はまだ発足仕立で知名度もないし、実績も作らなきゃですし。」
「…確かには先ずは校内の掲示板にポスター貼ったり、学校のサイトに紹介乗っけるとか最初はそのくらいしか思い付かないからね。」
「ええ、最初は地道に開拓して行かなければならない事は初めから想定していたわ、だから平塚先生の申し出は願ったりね。」
女子連には平塚先生の提案は、概ね良好に受け入れられてる様だな。
確かに現状それがコレからの活動して行く上で必要ではあるのかもだな、俺としては面倒事は避けたい気もするんだがな。
まあでも、コイツラと一緒ならそれも良いかな。