やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
比企谷八幡の日曜の朝は一杯のコーヒーから始まる。
苦い人生に細やかなる甘さをもたらすそれを彼はこよなく愛しているのだ。
暴力的な迄の練乳と砂糖が織りなす甘みのハーモニーはシンクロ率100%を越え、飲む者をオーバーヘブンへと導くだろう。
選ばれし男の選ばれし飲み物、それがMAXコーヒー。
等と朝も早くから俺は一人脳内放送ネットワークに於いてMAXコーヒーのCMを流していた。
そのナレーションは、我ながらとても良く練り込まれた台詞だど自画自賛するまである。 練乳だけにな。
だが、MAXコーヒーはコカ・コ○ラ社の商品であるにも関わらず、そのBGMは何故かネス・カ○ェのCMでお馴染みのミュージックであった。 解せぬ。
長々とMAXコーヒーについて語ってしまったが、実のところ俺は朝一からMAXコーヒーを飲んでいると云う訳では無かったりする。
毎朝午前5時に起床し、身支度を済ませたらロードワークを開始する。
一通りの朝のメニューを消化した後、朝食の席において俺は始めて、MAXコーヒーを口にするのだ。
程良く汗をかき、シャワーを浴びて火照りを抑えて、朝食のパンと共に口にするMAXコーヒーの甘さは、たちまちの内に全身に染み渡る。
その、身体に染み渡りゆく甘みはまるで桃源郷よりもたらされた甘露の如く、俺を震わせる。
俺はベッドから上半身を起し、枕元のスマホを確認する。
そのスマートフォンの画面に表示されます時刻は午前四時五十三分。
俺は己のスマホの目覚ましを午前五時にセットしてある。
今日もまた俺はスマホのアラームが鳴るよりも早く起きた訳だ!
勝ったな、今日もまた俺はこのスマートフォンとの闘いに勝利を収めたのだ。
フッ!全く敗北の味と言うものを知りたい物だな。
…俺は一体何に対して勝ち誇っているんだかな、嘗てジョセフ・ジョースターは言いました『相手に対して勝ち誇った時ソイツは既に敗北している。』とな、ならばこそ俺はその先人の言に習い戒めねばなるまい。
この程度の勝利に酔いしれている様では、何時か誰かに足元を救われかねないからな。
てか、俺はたかだかスマホのアラーム一つに対して何を思考しているんだよ。
「しゃあない、起きっかな。」
寝起きでボッサボサの髪をガシガシと掻きながらベッドから起き出し、一つ欠伸をしてトレーニングウェアに着替えます。
ボッサボサの髪の毛に軽く櫛を当てて整えます。
以前は適当に手櫛で済ませて居たんだけどね、それを見たマイスウィートエンジェルリトルシスター小町が私に言いました。
『…あのさお兄ちゃん、それって小町的に超ポイント低いよ…せめて櫛くらいちゃんと当てようよ、そんなだからごみいちゃんって言われるんだよ、もう小町はお兄ちゃんと一緒にお出掛けしてあげないよ…ソレでも良いならそうすると良いよ…。』
…はい、俺には反論の余地がありませんでした。
だってね、小町だからね…。
トレーニングウェアへと着替えを終えて、マイスウィートルームから階段を下りて一階へ、我が愛すべき社畜人生を送る御両親様は、今はまだベッドの上でご就寝中だ、とは言えそれも後三十分位だろうがな。
?いや今日は日曜だったな、という事は二人はまだまだその惰眠を貪るつもりだろう。
ならば俺は両親に気を使い、せめて少しは静かに寝かせてあげるとしよう。
全く俺ってば、何と言う息子力の持ち主なのだろうか、全く親の顔が見てみたいぜ…って我が家の両親の寝室、その扉の向こうに居るんだった。八幡ったらうっかりさんね!
もう、水戸黄門に『うっかり八幡』って新たなレギュラーキャラとして出演出来るレベルだよ。
「およっ!おっはようお兄ちゃん。」
「おう、おはようさん小町今日も可愛いな、その可愛さたるや正に銀河を突き抜ける矢の如しまであるな。」
「うん、ありがとうお兄ちゃん、お兄ちゃんは…う〜んまぁ普通にお兄ちゃんだね。」
…妹の俺に対する評価について。
「お兄ちゃんはこれからロードワーク出るんだよね、小町ももう少ししたら出るからさ、家の鍵持って行ってね。」
「ハイよ、了解…あと小町今日は日曜だから親父も母ちゃんも多分昼近くまで寝るだろうからな、出来るだけ静かしとこうな。」
「…あぁうん、そだね小町も気をつけるよ、行ってらっしゃいお兄ちゃん。」
俺の忠告を素直に受け入れ声のボリュームを抑えて、行ってらっしゃいお兄ちゃんと言ってくれる小町は全世界妹選手権に出場すれば優勝間違い無しだな!
異論は認めんぞ、それが世界の真理なのだからな。
10月も下旬になると、午前5時はまだ日の出の時間をを迎えておらず、世界は闇に包まれている。
「…闇が深くなるのは夜が明ける直前であればこそか…千三百年ばかり未来の宇宙でアーレ・ハイネセンはそう言うのかな…。」
等と、どうでもいい事を呟きロードワークをスタートする、そうすりゃそのうち夜も明けるだろうからな。
俺の休日の朝のロードワークは、少しばかり平日よりも長く時間を掛けているんだが、その理由の一つはこれから行く場所に有る。
家の近所の高台にある私有地である雑木林、そこの持ち主の人の善意からそこは公園のように開放してくれていて、夏にはセミやカブトムシを求める親子連れで賑わっていたりする。
俺としては、あまり虫が好きじゃ無いからな、虫君達との遭遇はご遠慮願いたいがな。
ただそこにはオーナーが決めたいくつかのルールがある、その一つが雑木林の一部分を占める竹林へは立ち入らない事だ。
筍大好きなオーナーが筍を採る為に作った竹林なんだとさ。
まぁ後は常識的にゴミを散らかさないとかそんな感じだな。
何故俺が此処にトレーニングに来るのかと言うとだな、テリー兄ちゃんとロックと修行をしていた小3の時この場所の存在を知ったテリー兄ちゃんがオーナーに掛け合って雑木林の中の一本の巨木にサンドバッグを吊るす許可を貰い、それ以後此処を修行の場所にしていたからなんだなこれが。
「……ヨシ行くか。」
その高台へと登るには五十段程の石段を登らなければならない。
この石段の昇降を十往復するのも、トレーニングメニューの一つだったりするんだよ。
けど、今日は石段昇降は後回しだ、サンドバッグ撃ちを先に済ますつもりだからな。
「……フゥーっ…ヨシ休憩!」
十分程サンドバッグを叩いていただろうか、俺は一息吐いて汗を拭ってサンドバッグから距離を取り、此処へ登って来た階段の方を振り向き驚愕に眼を見開く事になった…。
そこに一人の人物が悠然と佇んでいたからだ、その程度の事で驚愕するなんてお前変だろう、なんて思わないで貰いたい。
昔っから俺は人一倍気配に対して敏感な性質だったんだ、だから割と離れた距離に居る人の気配だって感じ取れたりするんだよ、そんな俺なのに…俺はこの人の気配を感じ取れなかった。
「…すまないな少年、修行の邪魔をしてしまったようだな…。」
その人の背後から朝日による日の光が射して居る影響から、その面貌を伺い知る事を困難にしているが、その人の佇まいから俺は敵意の様な悪意に類する感情を感じる事は無かった。
徐々に昇りゆく太陽により、その人を面貌を隠す影は薄れてゆく…。
「…いや、大丈夫っすよ、此処は万人に開放されて居る場所ですし、丁度一息吐いてたとこですから…。」
次第に見え始めるその人の姿は、テリー兄ちゃんが持っていたズタ袋と同じ様な袋を肩に掛けていて、黒い髪を短く切っている事が解った。
そしてその人は静かにこちらへ向かって歩を進めて来た、静かに悠然たる雰囲気はそのままに。
近づくに連れて更に分り始めたのは、その人が道着を身に着けている事だ、かなり長い年月をその人は…その道着と共に歩んで来たのだろうか、袖は片口から破れかなりのダメージを受けている様子が見て取れる。
あぁ、この人はやはり格闘家なんだな。
その身に着けた道着は、この人の修行の日々を闘いによる勝利と敗北と血と汗を刻み込んでいるのかも知れないな。
「すまんが、少しだけ邪魔をさせてもらっても構わないか少年。」
互いの距離は現在3M位か、ここ迄近づけばもうハッキリとこの人の姿が細部迄確認出来た。
年の頃は四十代前半辺りか、面貌は少し厳つくも見えるが、この人の本質は穏やかなのかも知れないと感じさせる物がある。
赤い鉢巻を額に巻いて、両の拳にはオープンフィンガーグローブを着け、その足は、なんと靴も靴下も身に着けては居なかった。
「…はい、別に構わないっすけど…あの、裸足で大丈夫なんすか!?」
それが俺的に結構衝撃的で、思わずそう聞いてしまったよ、ヤバいな…怒らせてないよな…他人の沸点てそれなりに付き合わないと、どこら辺にあるか解んねぇからな。
イキナリ怒りだしたりする人だって居るかもだし…。
「…ハハハ、変な心配をさせてしまったな、すまん。
今は修行中だからな、決して四六時中この格好と云う訳でもないんだ。」
その男臭い顔立ちに笑顔が広がる、この人はあれだな男が惚れる漢って奴だよな。
ガッシリとした体格はそれ程高身長と云う訳でも無い、身長は俺と然程変わらない。
なのに何だかこの人の身体が俺には材木座よりも大きく感じられた、ってもこの人がファットな体形をしてるって意味じゃ無いからな。
そう感じられる存在感があるって事だからな。
今、俺はハッキリと感じ取れる…この人は強いと。
その実力はテリー兄ちゃんに勝るとも決して劣ったりはしないだろうとな。
あぁ、世の中ってのは凄え広いんだって改めて思ったよ。
こんな凄味を感じさせる人が居るなんて、この人とテリー兄ちゃんが手合せしたらきっと凄え闘いになるだろうな。
うっわっ!ヤベえよ、凄っげえ見てみたい。
「…………。」
その人は黙したまま、俺達のサンドバッグを手を掛け見詰めている、まるで其処から何かを感じ取ろうとしているかの様に…。
「…このサンドバッグから、俺は、少年…君の鍛練の日々を感じ取れる様な気がするよ、このサンドバッグに刻まれたキズや凹凸にまるでそれが現れている様だな。
君はまだまだこれから強くなるだろうな、楽しみだ俺はまた一人強い奴と出会えたのかもな…。」
うわぁ、何だよ!凄え嬉しい、この人のこの言葉が!
テリー兄ちゃんに褒められた時と同じ位嬉しい!
「…少年、一つ頼みがある、今の君の力を俺に見せてくれないか…発展途上の君の力を、そして何時か今以上に成長した君と再び拳を交える日の為に…少年、俺に君の力を見せてくれ!」
正直この人のこの申し出は俺の今の力量からすると、無茶も良い所だ。
だってな、万に一つも勝ち目なんか有りゃしないんだからな、この申し出を俺が断ったとしても、何の不思議も無いだろうな…。
でも、今、俺はこの人の申し出を断ろうと云う気持ちがまるで起こらないんだよ、立ち向かって行った所でボコられる事確定してんのにな、参ったな…俺は自分で言うのも何だが、冷静な判断力があると自負しているんだがな、なのにこれから俺は無謀な挑戦をしようとしているんだ。
もしかしても俺にも流れ始めているのかもしれないな、餓狼の血って奴が。
「…分かりました、見て下さい、今の俺の力を…取るに足らないヒヨッコ程の力っすけど…お願いします!」
「…解った受けて立とう!」
…正面から対峙して改めてヒシヒシと感じる、この人の強さの程を。
軽く上体を前傾させ、右の拳を顎の辺りに、左腕をほぼ直角にボディの辺りに構え軽く振り、リズムを刻んでいる。
軽やかに全身を揺らし、リズムを刻んでいるにも関わらず、俺の眼にはその人が…まるでそこにドッシリと根を下ろし天高く伸び上がっだ巨木の様に見えた。
参ったな、マジで一分のスキもないんだな、俺が何処からどんな攻撃を加えたとしても、その全てを軽くいなされてしまいそうだ…。
相対する俺は、テリー兄ちゃんのファイトスタイルを受け継いだ構えを取っいる。
まぁ、ぶっちゃけらとその構え自体は比較的似た様な感じだ。
だが、構えと違い二人の間には決定的な違いがある…それは流派とかファイトスタイルとかそんなもんじゃ無い。
俺とこの人では、格闘家として己が身に刻み込んできた日々、経験、志し。
それらの物が圧倒的に違うんだよな。
「…どうした少年!ただ睨み合っているだけじゃ、お前の力は示せないぞ、今この場にあるのは勝ち負けだけじゃ無いんだぞ、見せてくれお前の今を!」
…そうだよな、俺は今の俺をこの人に示さないといけないんだよな、そして俺はこの人の今を見せてもらうんだ。
ヨシ、覚悟は決まったぜ!
「……行きますよ!」
「ヨシ来い、少年!!」
ガードを上げて、俺はダッシュでその人との距離を詰めて、ボクシングで言う所のインファイト、至近距離まで詰め寄り、顔面目掛けて左ジャブを放つが…。
「ふっ!!」
それに合わせて、左腕で払われてしまった。
完璧に撃ち込みのタイミングを見透かされたブロッキングだ!
ヤバい左手を戻せ!迎撃が来るぞ!
来た!ガラ空きの俺の左の頬を目掛けてあの人の右の拳が迫って来る!
クッ!駄目だ、左腕の戻しが間に会わない!どうする、もうあの人拳は眼の前に迫っているぞ、どうする高速の拳が今正に俺の頬の皮膚を掠めた、このままマトモにヒットしてしまえば、確実にダウンを奪われる!
一瞬の刹那の攻防、その結果俺はダウンを奪われてはいなかった…。
自分自身でも何が起こったのか理解出来ていないんだが、俺は何をしたんだ?
今、俺とあの人はさっきの至近距離とは違い、互いの拳も蹴りも届かないロングレンジで相対している。
いつの間に、こんなに距離を取っていたんだよ…。
「…やるな少年!スリッピングアウェーをあの態勢から使うとはな!」
…マジかよ、俺そんな技を使ったのかよ?あの一瞬で!?
「その眼、その反射神経…天賦のものかも知れないな、そして真摯に修行に打ち込む姿、本当に楽しみな奴に俺は出会えた様だな!」
そう評してもらえたのは、マジで嬉しいけど多分さっきのは無意識でやったんだと思うんだよな、おそらくもう一度同じ事をやれと言われても出来無いと思うよ俺。
コレって綿密に計画を練った訳じゃ無く偶然が重なった結果でイゼルローン要塞を無血開城した様な奇跡だよ、多分。
「ヨシ、今度は俺から行くぞ!」
あの人のその言葉に俺は迎え撃つべく防御姿勢をとったのだが。
あの人のはコチラへ距離を詰めるでは無く、両腕を身体の後方へと持って行き左脚を前へ、合わせて上体も前方へ更に傾けた。
何だ?何が来る…コレは逆に俺から仕掛けた方が良いんじゃね?
ツーステップもあれば、十分に拳が届く間合いだ!行くか!?
!?ちょっと待てよ、この構え!?
何か見覚えがあるぞ、直接見た訳じゃ無いけど、何処かで?
何処でだ、ヤバい見過ぎた!このタイミングでの接近は不味い、来るぞ!
そうだ!この技知ってるぞ、コレはあの人と同じ技じゃないか!
そうだよな、この人はテリー兄ちゃんにも匹敵する程の格闘家なんだ、なら出来てもおかしくは無い筈!
「行くぞ!波動拳!!」
来た!やはりだ!このタイミングじゃ回避は無理だ、ならどうする?
防御か、いや、それじゃ次の動作に支障が出る。
なら、俺もあの人と同じくブロッキングするのが正解だ!
タイミング合わせろ、俺!
ヨシ今だ、ブロッキング(ジャストディフェンス)!!
あの人が放った気弾をブロックで打ち消し、返す刀で反撃に出る。
あまりにも短い刹那の時間、気を込める時間が足り無いが、今は巧緻よりも拙速を尊ぶべきだ!
気の充填も足り無いし、技の発動の為のモーションも省略せざるを得ないが、其れでも、コレも今の俺だ!
「バーンッ、ナックゥッ!」
俺の咄嗟に仕掛けたバーンナックルだったが、どうやら俺の賭けは功を奏した様だ。
微かな気を纏った俺の拳はあの人の頬を捉え、あの人は体勢を僅かに崩した。
中途半端なバーンナックルだ、ダウンも奪えないし、威力も微々たるものだ、あの人はきっと直ぐに体勢を整えて来るだろう。
一度仕切り直さなければならないだろう、バーンナックルでダウンを奪え無かったのは逆に不味い結果となる可能性が高いからな。
距離を取るぞ、そのままあの人を通り過ぎ躱す様にだ。
「…驚いたぞ少年、今のはあの伝説の餓狼の技だな!」
「そう言う貴方こそ今の気弾は『ケン・マスターズ』さんの技と同じですよね…。」
ケン・マスターズは有名な格闘家だ、テリー兄ちゃんと並び2大アメリカンヒーローと称される凄腕の格闘家だ。
『残念だが、ケン・マスターズとはまだ拳を交えた事が無いんだよな、何時か機会があれば、俺はケン・マスターズを訪ねようと思っているんだ。』とテリー兄ちゃんはかつて言っていた。
「ああ、ケンとは同門、同じ師匠の元共に学んだ親友でありライバルだ…そう言うお前はテリー・ボガードの弟子なのか!?」
「うす、テリー兄ちゃんだけじゃ無いですよ、アンディ・ボガードとジョー・ヒガシも俺の師匠で兄貴分です。」
「なんと、現代に生きる忍者とサガットにも劣らぬと言われるムエタイチャンプもなのか、コレは益々楽しみだな、お前の将来が!」
コレで俺も、あの人も互いの技の素性が解った、俺は何度もケン・マスターズさんの試合の動画を見た事がある。
多少この人との違いはある様だが、技の基本はほぼ同じだろう。
だからと言って、今の俺にとってはそれが勝ち筋となる確率はコンマパーセント程度の上昇だろうがな。
「…言葉で語るのはここ迄だ、少年行くぞっ!お前も全力で来い!」
「押忍!行きますよ!!」
俺はあの人へ向かって、拳を振り上げて接近戦を挑み、そしてあの人もそれを迎え撃つ。
「ウォォ!!」
「セイッ!」
互いに拳を蹴りを撃ち合う、そして必殺技を…。
だが自力の差は如何ともし難く、俺は結局あの人に対して取れたクリーンヒットと呼べる程の攻撃は3発程しか当てる事が出来なかった。
逆に俺はもう何発もの打撃を受けていた。
そして…………。
「行くぞ少年!昇竜拳ッ!!」
…目を覚ました俺の眼に映った物は、巨木の枝とその葉が作った天井だった。
残念だが『あっ、知らない天井だ』は言えなかった、八幡残念。
「目が覚めたようだな少年。」
俺は今、どうやらあの人との手合せの結果気を失い寝ていた様だ、あの人のズタ袋を枕にして。
「…はい、スイマセン、世話を掛けましたね…。」
「気にするな、俺の方こそお前の強さが想像以上だったからな、本気を出したよ、どうだダメージは少しは回復したのか!?」
「そうっすね、あの俺、どの位寝てました?」
「三十分って所だな…。」
…そうか、割と俺寝ていたんだな。
いい加減起きなきゃだな、早く帰んねぇと小町に怒られるかもだからな。
今頃小町もトレーニング終わって朝食の準備してる頃だろうからな。
「よっ…ッてぇっ!」
「急に起き上がるな、もう少しだけ休んでいろ、幸い骨に異常は無いがもう少しダメージを抜け。」
「…はぁ、っすね。」
しゃあない、小町に叱られらるだろうが、粛々と甘んじて受けよう。
それ受ける!と、どっかで聞いた事のある声が聞こえて来た気がする。
「…今日はここへ来て本当に良かったぞ少年、お前に出会えたからな。」
あの人は少し厳つい男臭い顔に笑顔でそう言ってくれた。
それは何の混じりっ気も無い、この人の本心の言葉だと解る。
俺も同じ気持だ、俺も此処へ来て良かった。
この人と出会い拳を交え、負けちまったけど、凄え痛いけど、凄え気持ちよかった。
「…あのそう言や俺達、お互い名前を名乗って無かったっすよね、俺は比企谷八幡って言います、貴方の名を教えて下さい。」
「…八幡か、いい名前だな…俺の名はリュウだ。」
「…リュウさん、ですか。」
「…リュウさんはどうしてこの街へ来たんてますか?」
今日この場で出会ったリュウと言う名の格闘家、その格闘家が何故この街へ来たのか、俺は好奇心から質問せずにはいられなかった。
「…この街に俺の旧い友(好敵手)が居てな、彼女はこの街で教師をしているんだ。」
多分この人の言う友とは、ライバル的な意味合いも含んでいると見たよ八幡。
そして、リュウさんはその人を彼女と言ったよな、て言葉その人は教師でしかも女性格闘家なのか…まさか平塚先生とか言わないよな?
「…そうだったんすね、リュウさん…俺はもっと精進して強くなりますよ、そして今度は俺の方からリュウさんを訪ねます、その時はまた闘って下さい。」
俺は、今の俺のありったけの思いをリュウさんへ伝えた、きっとこの先俺はこの人との邂逅を生涯忘れない。
そしてその生涯忘れる事の無い記憶を何度でも刻みたい。
「ああ、強くなれ八幡、俺ももっと強くなる、そしてまた拳を交えよう。」
そう言ってリュウさんは右の拳を俺へ向けて突き出した。
当然俺はそのリュウさんの拳へ、俺の左拳を合わせた。
それは何時か再び出会う時のた為の約束の印だ。
リュウさん別れ帰宅した俺を待っていたのは、暖かな妹の手料理では無く…。
お叱りの言葉と正座だった。
俺が朝食へ有りつけたのはその一時間程後の事だった。
時系列としては、番外編その1、その2共に高1の出来事です。