やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
雪ノ下が企画し立ち上げられた俺達の奉仕部、由比ヶ浜の発案で校内掲示板に活動告知ポスターを貼り、同時に学校のHPサイトにも紹介してもらったりと知名度を上げる為の行動をいくつか行ったが、どうやら悩み事や困り事を抱えている人ってのはそんなにいないのかも知れないな、奉仕部に相談に来る生徒は創設から二週間、依頼者はゼロであった。
二週間を過ぎ初めて我が奉仕部へと持ち込まれた。
その依頼は材木座がもたらした物だった…イヤねもう何ての、材木座の奴はラノベ作家に成りたいから、その初投稿作を書き上げたから感想を聞かせてくれってのが依頼内容だったんだが…はぁ。
俺達四人は予め材木座がコピーを取ってあった、そのラノベをそれぞれ受け取り持ち帰って読む事にし、後日その感想を伝える事として、その日は解散した。
帰宅して夕飯、トレーニング、風呂と日々の日課をこなした後、材木座のラノベ原稿に手を伸ばしたのは午後九時を過ぎていた……そして。
読み終わったのは、午前四時を過ぎていた…結局徹夜になっちまったよ、お陰で朝のトレーニングから五現が終わる迄終始欠伸のし放しだった……。
まぁそれは良いが、由比ヶ浜の奴が机につっ臥し朝寝を決めている俺に朝の挨拶をして来たんだが、僅かな時間だが貴重な睡眠時間を得ようと思っていた俺としては正直ウザイとマジ思ったよ。
しかも由比ヶ浜の奴の様子からどうやら材木座の原稿を読んでいないと解った俺が、由比ヶ浜にデコピンを喰らわせたのは至極当然の行為だ、俺は悪く無い!!
放課後、部室へ行くと椅子に腰掛け静かに眠る雪ノ下の姿を確認、コイツは寝姿さえも絵になんのな…。
『みろ由比ヶ浜、あの雪ノ下の姿こそが苦行を成し遂げた者の姿だ。』と共に部室へ到着した由比ヶ浜へドヤ顔で宣告してやった。
由比ヶ浜もそれで反省し、心底申し訳無さそうに項垂れてしまったので、俺としては同じ間違えを何度も繰り返さなければ問題ないと諭し、目を覚ました雪ノ下も俺と同様な言葉を告げ今回は不問とした。
由比ヶ浜はきちんと話して、理を解けば反省する事が出来るヤツだと俺は信じている、不器用で要領の悪い所はあるけど、反省し次へ繋げる事が出来るだろうと俺は信じている。
それから数分後、部室へ一色が到着して堂々と宣言しやがった『すみません先輩方、私中二さんの小説全部は読めませんでした、ハッキリ言って余りにつまらなかったので7割位まで読んでめげてしまいました♡』とだ、コイツはいっそ清々しい位にぶっちゃけやがった。
丁度その時材木座が現れその一色の宣言を聞いてしまい、ショックのあまり部室の床をゴロゴロと転げ回った…。
だが一色の宣言は、材木座にとっての絶望の時間の始まりに過ぎなかったんだよな、次は雪ノ下による…まさに公開処刑とも言える、酷評の嵐。
俺は、その雪ノ下の評価を聞く材木座の精神がコロニーを落とされたシドニーの街の様に崩壊しないかと他人事ながら心配になってしまった…。
材木座、強く生きろよと、心の中で願ってしまった程だ。
雪ノ下に続いて由比ヶ浜が、感想を伝える番だが、残念ながら由比ヶ浜は材木座の原稿を読んではいない。
どう答えるべきか由比ヶ浜も、内心焦っていた事だろう…由比ヶ浜が考えた末に出した発言は『難しい字沢山知ってるんだね。』だった。
一応由比ヶ浜も家で原稿に目を通しては見たのだろう、その結果由比ヶ浜の目についたのは、必殺技や能力等に使われていた、日常生活の中ではそう使う事も無いやたらと画数が多い漢字だったんだろうな…。
由比ヶ浜の評価によるダメージで、材木座は腰掛けた椅子にすがり付き涙を滝の如く流していた。
そして最後は俺だ、この日はバイトが入っているからさっさと済ませるべく、俺は材木座の肩に手を置き努めて意識して優しい声で材木座へ語り掛けてやったよ、多分その声音でずっと話せるなら俺はきっと、優しさライセンスを取得出来る筈だ。
その俺の声に材木座の奴は涙を流したままにその顔に安堵の笑みを浮かべていた…だが結果として俺の評価こそが材木座にとどめを刺す事になってしまった。
『材木座、お前パクり過ぎだ俺が理解出来ただけで5作品のネタを確認できたぞ!』
『心配すんな材木座、最後に物を言うのはイラストだ!』
いやマジで、書店で新作見る都度思うんだけど、やっぱり初見で好きな絵師さんのイラストだったりするとさ、取りあえず一度は手に取るよね。
いやさ、ストーリーが二の次とか言う訳じゃ無くてさ、ラノベだと読者と本とのファーストコンタクトってぶっちゃける必要も無いって位イラストが担ってる訳じゃない?違う?違わないよね!?
俺の評価に一度は沈没した材木座ではあったが、やがてゾンビの如く起き上がり『また、読んでくれるか?』と俺達へ問うて来やがった…マジかよ材木座、あれだけケチョンケチョンに落とされて猶お前は…どんだけドMなんだよ!まじ引くわ〜。
…冗談はさて置き、材木座の奴が本気でラノベ作家兼格闘家を目指している事は少なくとも俺には届いた。
それが奉仕部女子軍にまで届いたかは定かでは無い。
初依頼となった材木座のラノベを読まされてから数日、今俺は一人で昼休みの一時をいつもの如くベストプレイスでマッタリと過ごしている。
由比ヶ浜はクラスの女子と約束があるとかで、雪ノ下は部室に用があるらしいし、一色は『もしかしたら遅くなるかもですけど、優しいせんぱいはきっといろはちゃんの事待っててくれますよね♡』とハートマーク付きで脅して来やがったよ、たまには一人で過ごしたいと思ってたんだがな…。
材木座の奴は新たな作品の構想を練りたいから、今週は組手を中止してくれとの事だ。
果たして彼奴、次はどんなの書いて来るやら…せめてあからさまにパクリだと見抜かれる様な物で無く、雪ノ下のアドバイスを受け入れてくれて最低限読める作品になっていてくれれば良いんだが、書くのが材木座だからな…。
まぁ良いか、一色が来るまでの間の僅かな時間だけど一人の一時を満喫しとこう。
…俺は暫し目を閉じ心地良い春の微風に吹かれ一人悦に入っていた、流れ行く風の音が加わり心地良さのステージがワンランクアップしている様に感じる、これが風流ってやつなのか…。
眼を閉じる事暫し、ふと気がつけば風の音に加えて新たな音が耳に木霊している事に俺は気が付いた。
『パコン…パコーン…』それはベストプレイスの正面に見えるテニスコートから聞こえる、ラケットがボールを捉える音とそのボールがコートにバウンドする音だな。
その音が気になり眼を開いて見ると、テニス部の部員だと思われる…銀色に輝いて見える髪のショートカットの女子が一人練習をしている様だ。
何度も何度もボールを叩き、ボールを追うその姿に俺は何時しか見惚れてしまっていた。
俺が居るベストプレイスからテニスコートでは若干距離はあるが、俺の高い視力を以てすればこの程度の距離なんとする程でもない。
要するにだな、何が言いたいかと言えば、ここから見えるテニス部員らしき銀髪の女子のルックスが…俺の好みドストライクだと言う事だ!
言わせんなよ八幡恥ずらかすぅぃ〜んだからね…キモッ、我ながらキモすぎるぞ、キモ幡とか呼ばれかねんレベルだ。
しかし、本当に、俺は普段から由比ヶ浜や雪ノ下に一色と小町に舞姉ちゃんと綺麗どころの女性は見馴れている筈なのに…こんなに見惚れるとは、ハッ!?
…まさか、これが…恋!?なのか…
「…せんぱい、まさかとは思いますけど愛しのいろはちゃんが来るのが遅いからって…練習中のテニス部の女子を視姦していませんよね(怒!)」
あらやだ一色さんったらいつの間に此処へいらしていたのかしら、せっかく人がスポーツ女子を穏やかな気持ちで愛でて居たのに、いきなり現れておいてその妙に怒りの籠もった声音で背後から声を掛けるなんて、全く野暮なお人も居たもんだ!ですよ一色後輩。
「人聞きの悪い事言わないでくれるか一色よ、俺はなただスポーツに爽やかな汗を流す女子を暖かく見守っているだけだぞ、そこに一分の疚しい気持なんぞ存在しないからな、見てみろ一色あの躍動する姿をひたむきにボールを追う姿を、人間の何かを追い求める姿とはかくも美しく見える物だと言う事を、彼女の姿は間違い無くそれを体現しているんだ、俺は今…そう、一つの芸術を鑑賞しているのだ!」
「せんぱい、人って疚しい気持があると饒舌になるって言いますよね、今のせんぱいは正にそれ!ですよ。」
ちっ…一色め、言ってくれるじゃあないか、普段俺は思考にリソースを割いているから確かに口数は少ない、それを解っているからか、一色よ。
「……さよけ……。」
「むっふぅん!敗北を認めましたねせんぱい、いいですかせんぱいのその両のお目々はこの可愛い後輩のいろはちゃんを見つる為にあるんですからね!」
むっふぅん!って、そんなの言語化して言う奴マジでいるのね…、うわぁ八幡知らなかったよ。
まぁでも、一色ならそれも有りだと思わせるんだよな、それがコイツの一色いろはの人徳のなせる技なのか?
てか、あるの一色に人徳…てかヤバかったな、もしも一色がダービーブラザーズだったら俺は魂抜かれてたかもな。
「…はぁ、でも何だかせんぱいがあの人に見惚れてていた気持ち、なんだか私も分かるかもです…ちょっと癪ですけどあの人可愛いですよ…チッ。」
ごくさり気なく、自然に一色は俺の隣に腰掛けてテニス部員であろう女子を見てそう評した。
だが一色最後の『チッ』はいかんよ、花の女子高校生がはしたないですわよ。
「だよな、しかしスポーツ女子ってのもなんだか新鮮だな。」
「………もぅ、せんぱいは…。」
いやもうって一色、俺ただ新鮮だって言っただけだよ、そんな事で気分を害されても…俺にどうしろってのさ…。
…その後テニス女子を無言で見守って居る間に昼休みの残り時間も、間もなく終わりを迎えるであろうと思えるくらいに時間は過ぎていった。
「あっ!やっぱりまだ居た、やっはろーヒッキー、いろはちゃん!」
皆さんご存知、胸に付けてるマークは巨峰の由比ヶ浜結衣、因みに今年度は俺と同じ2年F組と同じクラスだ。
「よう!由比ヶ浜、お前クラスの連中と飯食ってたんだろ?」
「やっはろーです、結衣先輩!」
俺達の姿を見留めた由比ヶ浜は、右手を振りながら近づいてくる、相も変わらずのニコニコ笑顔で。
「やあ〜そなんだけどね、優美子と姫菜と一緒に食べてたんだけどさ、ジャンケンで負けた人がジュース買いに行く事になってさ…えへへぇ〜。」
ソイツは所謂罰ゲームってやつか、俺は経験ないけど、リア充に類する人類は確かそう言うイベントをやってるって見聞きした事がある様な気がするが…あっしには関わりの無い事で御座んす!
「…すまん、名前で言われても俺には誰が誰だか分からんってかクラスで認識出来んのは由比ヶ浜だけしか居ないからな俺の場合は。」
「もう、ヒッキーはクラスの皆に対して関心が無さ過ぎだよ…でも、そっか…えへへ、もしかしてあたしって、その、ヒッキーにとってあたしって特別だったりして、えへへ…。」
何だか由比ヶ浜がもじもじしながら、何かを口走って居るが、由比ヶ浜よお前は俺にとっては人生初友達なんだから、特別っちゃ特別だろうがよ、いやさだからね、そんな照れないで欲しいんだが、なんかコッチまで、そのな…。
「せんぱい、せんぱい!当然私もせんぱいの特別ですよね、そうですよね、それ以外の答えは認めませんからね、答えはハイかYesかSiかJaかДаかOUiでお願いしますね!」
「…他の選択肢でお「あるはず無いじゃァないですか。」…ですよねぇ。」
俺は一体どの言語で答えなければいけないんだよな全く…誰か、心あらば教えてくれ!
「あっ、彩ちゃんだ!お〜い彩ちゃ〜ん、」
俺と一色の攻防戦を苦笑しながら見ていた由比ヶ浜が、知り合いが近くに居たのか、多きな声でその人物を呼んだと思ったら、テニスコートから出てきた銀髪の女子だった。
…何だと、由比ヶ浜はこの女子とお知り合いだったのか!?
マジか、でかしたぞ由比ヶ浜、俺、お前と友達でよかったゼーット!
ヤベっこっち来る、どうしよ緊張して来たよ、うわぁ土器が胸胸して来たよ。
土器が胸胸ってどっから出土した土器だよ。
もうすぐそこまで近づいて来てるよ、銀髪の女子が…うわ可愛い、近くで見ると超絶可愛い!
「よっす彩ちゃん、テニス部の練習だったの!?」
よっす、て何だよ?何か馬鹿っぽい挨拶だな…今流行ってんのかそれ、プ〜ックスクスッ可笑しいんでやんの!
「よっす、由比ヶ浜さん、漸く顧問の先生から昼休みの使用許可が降りてさ、今日から昼錬なんだ。」
前言撤回!流行らせようぜ!よっす、良いじゃん良いじゃん可愛いじゃん!
あ〜君達、朝令暮改とか言わんといてや!…何人だよ俺。
しかしルックスだけじゃ無くて、声まで可愛いじゃねえか、何て言うか若干ハスキーってかさ。
「そっか、良かったね彩ちゃん。」
「うん、僕もっと練習して、もっと上手くなって、テニス部を盛り上げたいんだ。」
僕っ娘キタ−ーーーーーッ!
しかも控えめなガッツポーズが、可愛らしさを強調していらっしゃる。
銀髪でスポーツ女子で僕っ娘と一体この娘はどれだけの属性コンボを繰り出すんだ、八幡の体力ゲージはもうレッドゾーンに突入してるよ?
「…なんと言ってもうちのテニス部弱いからね、今度のインハイで三年生が引退したら尚更だよ、二年生はあんまりやる気有る人少ないし、一年生も似た様な感じかな………。」
そうか、苦労して居るんだな銀髪の女子、しかしうちの女テニってそんなに弱かったのか、まぁ曲がりなりにも総武は進学校だしな、内申点の為にクラブに所属している生徒も多く居るのかもだな、だから女テニに所属している部員もそんな生徒が多いのかもな、所謂幽霊部員ってやつだな。
「そうだ、比企谷君ってテニス上手だよね。」
「へっ!?俺が?」
いや、俺テニスの経験なんか無いんだがな、有るとすれば今体育の授業でテニスを取ってるがそれだけだよ、その程度で経験とは呼べないだろうしな、しかも男女別の授業だから女子との接点は無い筈だ、何なら男とも無いけど。
「うん、授業でさ比企谷君のフォームとか見てるけど、経験者以外の人の中で比企谷君のフォームが一番綺麗だし、ボールもしっかり芯で捉えてるよね。」
よっ、止せよ照れるぜ、そんなに褒められるとさ、良いのか俺増長しちゃうよまた。
「何か褒めてもらって恐縮だが、うちの学校体育は男女別だよな!?」
「!?ヒッキーさ、もしかして彩ちゃんの事女子だと思ってたりする?言っとくけど彩ちゃんは男子だかんね!」
へ?由比ヶ浜さんや、今何と仰っしゃりましたか?男子と言ったの…まさかだよね、この銀髪の僕っ娘が!?
「「えぇ〜っ!!?」」
ハモっちまったよ、一色と。
だよな一色、お前も女子だと認識してたよなこの銀髪の僕っ娘を、イヤ有り得ねえだろう!この可愛さだよ。
「本当なんですか、結衣先輩…この人が男子だ…なんて、まさかですよね?」
「アハハ…良く言われるんだ、僕男なんだけど、しかも一年の時も比企谷君と同じクラスだったんだけとね。」
マジか、一年の時もって…俺ちっとも気が付かなかったよ!?だってさ一年の時のクラスの男子は俺と眼さえ合わせてくれなかったんだよ、イヤ女子もだけどな。
…しかしこの娘が、男だと…、俺の好みドストライクの具現化されたこの理想が、男だと…。
神は、色々と間違っている!
せめて性別くらいはきちんと産み分けされるべきだろう、つくづくそう思わずにはいられない、平日の昼下がりの出来事だった。