やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
一陣の風が吹いた、それは俺達思春期男子にささやかな幸福の一時を与えてくれた。
俺達は今、春風の妖精に祝福を受けたのだ…そうそれは祝福の風、リィン・フォース。
『パンッ!パンッ!』
時同じくして、俺と材木座は意図せずに魅惑の黒レースに柏手を打った。
本来なら二礼、二拍手、一礼をするべきだろうがそこは割愛させて頂く、そして川なんとかさんは自分の身に何が起こったのか気が付いたのだろう。
俺達が柏手を打った意味にだ。
川なんとかは『ハッ!』と驚きの表情を一瞬浮かべたかと思うと、間髪入れずに緩やかに揺れるスカートをその手で抑えた。
紅潮した顔とキッと鋭く研ぎ澄ました眼で俺達を睨めつけ、ぷるぷるとその身を震わせたかと思うと。
何を思ったのか、川なんとかさんは己が立つ建屋の屋上の床を蹴った!
蹴った先には…いや単純にジャンプしただけなんだけど…。
てか!嘘お〜ん!!
建屋の上からこの屋上の床まで少なくとも3m近くあるよ!
その上その建屋から俺達二人がいる位置は8〜9mは離れてる!
ちょっ、マジかよ!しかもジャンプしただけじゃなくて、川なんとかさんってば空中でキックの体勢とってるよ!
マジかよ、マジかよぉ〜ん!
そのあまりの出来事に、一瞬ポカンしていた俺と材木座だったが、川なんとかさんに攻撃の意思があると気が付き我に返り、咄嗟にその場から離れた。
リアルライダーキック、その川なんとかさんの蹴りは見事なフォームを維持しながら俺と材木座が居た場所の床に炸裂した。
『ズシャァ!!』と音を起てながら数メートル程床を滑りながら、川なんとかさんはキックの体勢を解きダッシュで瞬時に俺達へ接近し、その左右の手で同時に俺と材木座の胸ぐらを掴んだ。
マジかよ、コイツ凄えな、俺達の反応よりも早くダッシュで俺達の懐へ接近して、その胸ぐらを掴むか。
コイツ…速いぞ!まるで3倍の速さを誇る赤い人の様に。
俺は二年になり今のクラスに配属されそれなりにクラスの人間を観察してみたんだが、この川なんとかさんに実は、俺は密かに注目していた。
何故なら、彼女の足運びや姿勢、佇まいから彼女が何かしらの武道の経験者だと推測が付いたからだ、しかもおそらくはかなりの実力者じゃないかとな。
その推測は今の一連の彼女の動作から事実だと実証された。
「…忘れろ!」
胸ぐらを掴まれた状態に置かれた俺と材木座の耳朶に、とても女子が発しているとは思えない低音でドスの効いた声音が響き渡った。
「「why?」」
材木座とハモってしまった…不本意なんだけどさ。
「あんた達は今、何も見なかった、良いねもう一度言うよ、あんた達は何も見ていない!」
俺達の胸ぐらを強い力で締め付けながら川なんとかさんは、俺達に念を押す。
イエス以外の返事は認めないと、その締付けと眼光と紡がれた言葉が言っている。
「「SirYesSir!」」
なのでそう返事をしておきました、だから川なんとかさん、お願い申し上げ奉ります。
何卒、何卒その胸ぐらを掴む手をお離し下され!
「…その言葉、忘れるんじゃないよ、いいね!」
最後に俺達をキッと一睨みして、俺と材木座が首を上下に振るのを確認して川なんとかさんは、その御手を離してくださいました。
川なんとかさんが、その手を離してくれたおかげで漸く俺は痛む首元を擦り、皺になったシャツを整えられた。
その俺達の様を一瞥し、川なんとかさんは踵を返しこの場を去ろうとして、ふと俺と材木座が使用していたヘッドギアとグローブ、そしてジャージの存在に気が付きしばし眺めていた。
やがて、何かに納得でもしたかの様にため息を一つ吐き再び俺達を見やり。
「…アンタ達遊びでやってんじゃないよ、怪我しても知らないからね。」
一見、俺達を心配している様にも、馬鹿にしている様にも聞こえるセリフを残し去っていった。
「…なぁ材木座。」
「何だ八幡…。」
「無理だよな。」
「無理であろうな。」
「「忘れられねぇ…。」」
十メートル程も離れた位置にいた、女子のソレをはっきりと見極められる視力の良さを、そして思春期男子の習性の恐ろしさを川なんとかさんは理解していない様だ。
あっ材木座の場合は眼鏡による視力矯正があってこそだと思うんだが、俺と同じ位見えていたとしたら、材木座の眼鏡は伊達眼鏡だと言う事なのか?
さて今日の昼休み、俺は川なんとかさんの下着が黒のレースであるとの大発見をした訳だ。
だが、俺はやはり奥ゆかしい男なのだろう、こんな大発見をしたにも関わらず決して学会に発表しようなどとは露程にも思わないのだからな。
この奥ゆかしさは川口浩探検隊隊長にも伍すると言う物だろう。
「…教室戻るか…。」
「…そうだな…。」
大発見をして屋上を後にする、来る時あれだけ居たリア充カップルやウェイ系集団、ギャル系集団いやしない。
まぁ、もうすぐ五時限目が始まるからな、当然っちゃ当然だよな、俺もさっさと教室へと戻っている最中だし。
だが、どうやら俺はToLoveるの神に愛されているようだった。
途中で、材木座と別れ歩く事数分。
「あ〜っ、居た居た!こんな所に居たんですせんぱい、もう!探したんですからね!」
それは数日前の土曜日、俺を一日中引っ張り回し疲れ果てさせ朽ち果てたダグラム状態にしてくれた一色いろは後輩。
一色はちょこちょこと小走りで駆け寄ってくるその姿は、なんだか小動物を思わせる、こんなとこにもあざとさを感じるんだが。
これが素なのか造り込まれた仕草なのか、最近は分からなくなって来た。
「…一色、もうそろそろ授業が始まる時間だぞ、早く教室戻れよな。」
「もう、せんぱいったら何言ってるんですか、本当はいろはちゃんと会えて嬉しいくせに。
そんなに無理して自分を偽らないで良いんですよ、ほらほら素直になりましょうよ。」
おいおい一色、人の二の腕をつんつんしない!
何してくれてんの前は、俺の二の腕の秘孔を突いてんのかよ、いつの間にお前は一子相伝の暗殺拳の継承者になったんだよ。
「ちょつ!お前突くなつっ突くなってばよっ、そんなに突いたって俺は『ひでぶっ』ちゃわないからね!なんなら『たわば』も『あべし』もしないから!」
「はぁ?せんぱい何言ってるんですか訳が分かりませんよ、私の親愛の表現をそんな風に迷惑がってる様に誤魔化すなんて、せんぱいってばどんだけ捻でれさんなんですか、本当は嬉しくてしかたが無いくせにそれを上手に表現出来ないんですね、でも私としてはそんな不器用なせんぱいも悪くないですよ、寧ろバッチコイかもですね!
そんなせんぱいの真実のデレ顔をこの私一色いろはちゃんが、現出させてあげますから楽しみにしてくださいね。」
…一色、何言ってんですかはお前の方だよ、捻でれって何だよお前は小町と連帯してんのかよ、しかもスマホの文字変換一発で出ないような造語の使用は控えなさい。
それに真実のデレ顔って何?どんな顔なのってか、そんな顔に需要あんの?
「…いや、マジでそろそろ時間だからお前も教室に戻れって言ってるだけなんだが!?」
「そんな、野暮な事言わないでくださいよ、只ちょっとだけせんぱいに会ってせんぱいニュウムを補給したいなって、思っただけなんですよ…だめ、でしたかせんぱい。あっ今の私、お米ちゃんよりポイント高いですよ…ね!」
そこっ!うるうるお目々で上目遣い禁止、何だよせんぱいニュウムって?俺から何かそんなヤバい鉱石でも採集できんのかよ、しかもちょっとだけ会いたいとか、そんなのお前…恥ずかしいセリフも禁止だよ。
アクアのウンディーネさんも言ってたよね!
「…駄目な事は、無いんだがな、そのだな…もう時間も時間だからな…。」
「はぁい、せんぱい今日はバイトですよね、だから放課後は逢えないかなって思ってですね、一目せんぱいと逢いたかったんですよね、もう会えましたから私教室に戻りますね。でわでわ!」
敬礼ポーズ一発かまし、離れていく一色に何だか名残惜しさを感じてしまった俺は、さっきまで一色がつんつんしていた二の腕の所に反対の手の掌を宛ててしまっていた。
全く俺も随分と絆されたもんだな…。
「そうだ!せんぱい」
数メートル程離れた一色がクルリと反転して俺に向き直る、その一色のアクションに合わせる様に制服のプリーツスカートもヒラリと翻る。
ちょっと…『たまんなく好きなんだよね、そう言うのさ』俺は心の中でティンプのセリフを呟いてしまった。
何ならCVはギャラクシーな万丈さんの声だった。
「…今日の私、あの日買った下着つけてるんですよ。」
とんでも無い事をとんでも無いタイミングでカミングアウトした一色は、更にとんでも無い事に両手でスカートのちょっとだけ裾をたくし上げて魅せやがったよ!
俺は今、一体どんな眼をしてんだろうか!?
どんな眼をしているか其れは解らないが、その目線が何処に向かい注がれているかは健全な思春期男子ならば当然…。
しかし敵(一色)もさる者、思春期男子の欲望を正確に把握しているのだ。
一色がたくし上げたスカートはそれが見えないギリギリの位置に固定された(ガントリーロックが解除じゃ無くて固定されちゃったよ)それが尚更に孟宗竹…では無く妄想力を掻き立てる。
「あはっ♡せんぱい、ドキッとしましたか!?ここから先はもう少し大人になってからですよ。」
「でわでわ、今度こそせんぱいまたです!」
再度敬礼し、今度こそ本当に一色は一年の教室へと戻っていった。
一色よそんなビッチな行動するんじゃありません!
俺だから良かったけど、他の男だったらお前どんな目に遭うか分かったもんじゃ無いからな。だが…
くっそう一色め、とんでもない物を盗んで行きおって!
『いいえ、あの方は何も盗らなかったわ。』
いや、ヤツはとんでもない物を盗んで行きました!
『?』
貴方の思春期男子の欲望です。
『はい!』
教室へ戻って来ると、もう既に川なんとかさんは、自分の席に着き頬杖をついていた。
川なんとかさんは入室して来た俺に気が付き、俺に視線を送るがその目が語っている『さっき言ったこと忘れるんじゃないよ!』とな…それが解るなんて俺ってもしかして覚醒したのか、やったね、八幡ったらもしかしてサイコミュ兵器搭載のモビルスーツの操縦出来ちゃうね。
目線で俺に語り終えた川なんとかさんは、極自然な態度でその視線を俺からフェードアウトさせ、まるで最初から自分の眼中に、俺と言う人間の存在など無かったと言わんばかりの態度です。
本日のお務めの時間の終了を告げるチャイムが鳴る、それは俺達学生という名のプリズナー達が学校という名のプリズンから開放される事を告げる開放の狼煙だ。
「じゃあねヒッキー、あたし部活行くね、ヒッキーもバイト頑張ってね。」
いつの間に身支度を整えたのか、由比ヶ浜が俺の席の側に寄り別れの挨拶をしてくれた、その顔はやはり三浦との仲直りが出来た事が大きく影響しているのだろう、ここ数日の由比ヶ浜の表情に現れていた屈託がなりを潜め、何時もの天真爛漫な由比ヶ浜の顔だ。
「おう、すまんが頼むな由比ヶ浜、一色にはさっき会ったが雪ノ下には会ってないからよろしく言っといてくれ。」
うん、それじゃ明日ね…由比ヶ浜の無邪気な挨拶に少し癒やされた様な気分になれたし、この気分を維持したままバイトへと向かいましょうかね。
…と思っていた時期が俺にもありました。
教科書をスクールバッグに詰め終え席を立ち上がろうとした時、今正に教室から廊下へ出て行こうとしていた川なんとかさんと目が合ってしまった。
「…………。」
数瞬、俺を見る川なんとかさん…その目は再度確認を取るかのように鋭く俺を睨めつける。
『解った分かった判りました、忘れる忘れる忘れます。』俺は心の中で返事をし、川なんとかさんは納得してくれたかは解らないが、直ぐに教室を出て行ってしまった。
「…何か、台無し気分だな…。」
下駄箱へ向かう為階段を下り、1〜2階の間の踊り場で俺は今日一度も顔を合わせていなかった雪ノ下とエンカウントしてしまった。
「あら、今帰りなのね比企谷君。」
「おう、雪ノ下…由比ヶ浜がもう部室に行ってるけど鍵開けてんのか?」
「いえ、今日はまだ私が部室へ行っていないから鍵は開いていないわ。
由比ヶ浜さんに悪いから早く部室へ行かなければならないわね。」
「だな、そうしてやってくれ。」
「ええ、そうするわ…ねえ比企谷君、今日由比ヶ浜さんがその…三浦さんを伴ってJ組に私を訪ねて来てくれたのだけど、その三浦さんが謝罪をしてくれたのよ。」
そうか、三浦は雪ノ下にも謝罪をしていたんだな、彼奴はあんななりをしていて、高飛車な奴ではあるんだろうが、反省が出来た時はしっかり筋を通して謝罪する事が出来る奴だったんだな。
そこももしかしたら由比ヶ浜の存在が影響してるのかもだけどな。
「ああ、今朝な俺にも謝罪してくれたよ三浦の奴な。」
「そう、ならばあの問題はコレで手打ちと言う事で構わないわね。」
「そうだな、そうしてやってくれ…俺達には関係ないが由比ヶ浜にとって三浦は友だ…」
友達だからと言おうとした時、階段を駆け足で下っていた男子生徒が俺と雪ノ下が居た踊り場で、急ぎ過ぎていたのだろうか、どうやら足を縺れさせた様でバランスを崩し俺に接触してしまった。
「うわっ!」「きゃっ!」
其れにより俺は更に雪ノ下を巻き込んでしまい、その雪ノ下を踊り場の壁へと押し付けてしまった。
そして当の本人たる、俺達を転倒に巻き込んだ男子生徒は何事も無かったかのように立ち上がり。
「ごめんなさい、スンマセン、勘弁してください、急いでっから失礼します。スンマセンした!」
と、まくし立てて風のように去っていった。
其れは百歩下がって良しとしよう。
問題はこの場に残された俺と雪ノ下の現状である、今俺は雪ノ下を壁へ押し付けてしまった体勢になっている、片手を壁についてな。
そこまでは百一歩譲ってまだセーフと言ってもいいだろう…問題はもう片方の手の現在所在地にある。
さぁ、皆さんもうオチが見えて来ましたね!
そう、俺のもう片方の掌は今とんでもない物に触れていた。
慎ましやかではあるが、確かな柔らかさを感じさせるそれ。
ソイツに触れる事は死を意味する!
どうする、どうするよ!このままでは雪ノ下は確実に変身してしまう。
俺はこの場で目撃してしまうだろう。
雪ノ下がバオーとなり、アームドフェノメノンしてしまう瞬間を。
そのブレードに絶対零度の氷を纏わせた。
雪ノ下版バオーの必殺能力、Absolutele ZeroSaverphenomenomを。
「…比企谷君、いい加減にその手を退けてもらえないかしら、そして覚悟は出来ているのでしょうね、貴方がこの世から消え去る時が来てしまったのよ。
貴方はこれからこの世全ての罪を背負い旅立たなければいけないのよ、でもそうね感謝しなさい、貴方がこの世で最後に触れた人間が私の様な美少女なのだからその光栄を胸に、粛々と覚悟を決めてこの世との別れの時を迎えなさい。」
この時、風は吹かなかった。
ここで俺に出来る事は「すいませんでしたぁ〜っ!!!」謝罪の言葉とDo・GE・ZA☆だけだった。
こうして俺のToLoveるまみれの一日は終わりを告げる、頬に真っ赤な紅葉を残して。