やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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オーナーが元格闘家なのは普通なのか?

 パオパオカフェ日本一号店の想像以上に大きかった店舗の規模に驚愕と言うのは些か大袈裟に過ぎるかも知れないが、まぁ驚いた事には変わりがない、俺としてはこれだけの規模の飲食店を世界展開させる事が出来ているオーナー、リチャード・マイヤさんのその手腕にこそより以上の驚異、感嘆の念を抱かずにはいられないな気分だ。

 

 開店から一月余りが過ぎた状況でありながら、店舗駐車場にはかなりの数の車が駐車されていて、店の繁盛ぶりがそこからも伺えると言うものだな。

 だがまぁ…穿った見方をすると、今日が休日の土曜日って事と今がまさに昼飯時という事が影響しているんじゃ無いかと思わなくも無い。

 

 おっと、何時までも歩道から建物を見続けているわけにはいかないか、覚悟を決めて先方へ伺うこととしますか。

 

 「しっかし、ここの駐車場随分と広いな…四〜五十台は停まってんじゃねえのこれ…。」

 

 そのうえでまだまだ空きのスペースも残ってると来た、店舗+駐車場これだけの土地一体幾らで買ったのやら、想像も出来ないな。

 

 「更にはこの建物の高さと来たら三階建以上のタッパがあるよな。」

 

 ここまで来るとカフェってよりちょっとしたアミューズメントパークって規模じゃ無いのこれ、実際店内にリングが設置されてんだしあながち間違っちゃいないか。

 まぁ入店前から色々と感想や感慨を抱きながら入り口まで歩いて来たが、はたして店内はどんな雰囲気なんだろうか。

 オーナーのマイヤさんの母国ブラジルや南米をイメージした物だろうか…入って見りゃ分かるか。

 

 『いらっしゃいませー!!』

 

 入店一番、店内で立働くウェイターやウェイトレスの人達の挨拶の声が響き渡る。

 てっきり南米風の挨拶で迎えられるかと思ってたけど普通に日本語だった、ってか店員さん達は殆どが日本人だよ。

 でも何気に見渡してみたら外人さんもいるな、最近はコンビニとかでも普通に居るからそんなもんかな。

 

 それから俺は店内をキョロキョロと見廻しみる、店内は2階建てになっている様で、二階にも客席がある様だな、それから階高がかなりある、おそらく三メートル以上ありそうだ。

 そしてこの店の売りであるリングは俺が入店して来たほぼ建物の正面に位置するメインの入り口から見て中央よりやや右寄りに設置されていて、そのリングの周りは吹き抜けになっていてニ階席からも試合観戦が出来る造りになっている、そう言う造りでないとニ階席に案内された客から不満が出るよな。

 

 そして今その肝心のリング上では、南米の人と思しき人達がダンスパフォーマンス…いや此れはカポエラの演武と言ったほうが良いか。

 低く構えられた体勢からリズミカルに手脚を動かし踊る、マットに片手を付き空を蹴り上げる様に回転し更にはブレイクダンスの様に頭頂部をマットに付けての高速回転。

 

 「…大丈夫なのかよアレ、将来ハゲても知らないよ。」

 

 マジであれって頭髪と頭皮、更には毛根とかにもダメージ与えんじゃね?

 俺ならやって見ろって言われてもお断りだな、見てる分には凄えと思うけど。

 現に客も飲み食いしながら『凄え、凄え』言って喜んで見てるし好評を博しているみたいだな。 

 

 「お客様、どうかされましたか。」

 

 へ?…ああ俺が何時までも入り口付近でキョロキョロ見廻してるから不審者と思われたのか…ごめんなさい、俺は決して不審者じゃありませんから、ただ単に眼つきがすこぶる悪いだけでなんです。

 あっ、眼つきが悪いからそう思われてるのかな、駄目ですよ印象だけで人を見ては、その何気なくあなた方が抱く印象に日々傷付いている眼つきの悪い系男子は多分世界のいたる処に存在してるんだからね。

 

 「あっと、すいません俺リチャード・マイヤさんに会うために来ました、比企谷八幡と言います…」

 

 右手で後頭部を掻きながら、店員さんにペコペコと頭を下げて詫ながら来店理由を告げる俺、マジ日本人、そして小市民。

 

 「はい比企谷様ですね、マイヤ様より案内いたします様に承っております。」

 

 「そうですか、良かった約束の時間には少し早く着いてしまいましたけど、大丈夫ですかね…。」

  

 現在時刻は十二時四十分、約束の時間迄まだニ十分は有るからな…こう言った人と会う為の約束事にニ十分前は早過ぎたよな。

 しかし三十代後半位と思われるその男性店員さんは、爽やかな笑顔で問題はないと答えてくれ、そのうえでマイヤさんが居るニ階にあるバックヤードの事務室へと案内してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこには幾人かのスタッフらしき人達とその人達に指示を出している、大柄な浅黒い肌で後頭部に髪を結った中南米辺りの方だと思われる人の横顔が見て取れた。

 日本語と英語の入り交じった話し言葉であるが、その発音は明瞭で聞き取り辛さは感じられない。

 歳の頃は四十代後半、かつてはカポエラの使い手として『キング・オブ・ザ・ファイターズ』に出場した事もある格闘家だっただけに威厳のある雰囲気を醸しているな。

 だが、威厳があるだけじゃ無いみたいだ、身振りや手振りも交え更に笑顔で相手の肩に手を掛け語り掛ける。

 こう言ったスキンシップに依って、従業員に親しみを持って接する…うん、俺には無理だな。

 

 

 一通り従業員に指示を出し終えたマイヤさんは、俺へ向かい右手を挙げ挨拶をしてくれた。

 

 「やあ君がハチマン君だね、私がリチャード・マイヤだ、よろしく頼むよ。」

 

 挨拶の言葉を掛けながらマイヤさんは俺の方へ近づき、右手を差し出した。

 男臭くも良い笑顔をもってだ、俺は少しだけ戸惑ったけど右手を差し出し握手を交わした。

 マイヤさんは笑顔はそのままで俺の肩をポンポンと叩きながら…

 

 「この日本にロックと並ぶテリーの弟子、そしてアンディとジョーの弟子でもある少年、君と会える日を私は楽しみにしていたよ。」

 

 と仰った、それはそれはとても良い笑顔と、握られた右手の力を更に籠められて。

 

 「あの、なんかスンマセン、挨拶するのが遅くなってしまいまして…。」

 

 痛い痛いです、マイヤさん!怒ってますか怒っておられますか。

 俺ってもしかして不義理をしましたかね、てかテリー兄ちゃんマジでツケ払い終わってんの、痛いですよマイヤさん、あと痛い。

 

 「ハハハハッ、イヤすまんテリー達に鍛えられた君の力を知りたくてね、いやもし私が現役から退いていなければ一つ手合せを願いたかったのだがね。」

 

 マイヤさん、格闘家特有の肉体言語を以て語り合いたかったと言う訳ですね。

 良かったマイヤさんが現役から身を引いていてくれて、マイヤさんのお弟子さんのウィルソンさんの試合動画見てて思ったもん、カポエラの動きすっげぇ対処し辛そうだなってさ。

 マジで良かったマイヤさんが一線を退いていてくれて…。

 

 「イヤ、俺なんてまだヒヨッコですからね歴戦の勇者達には及びませんよ。」

 

 マイヤさんは漸く握力を緩め、手を離してくれた。

 

 「謙遜する事は無いハチマン君、君が常にトレーニングを怠っていない事は今の握手で伝わったよ、あちらに部屋がある此処では何なのでそちらで話をしようじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マイヤさんに案内された部屋で俺は川なんとかさんの事についての経緯を話しなんとか穏便に済ませられないかと願い出た。

 

 「…ハチマン君、君は気持ちの優しい男なのだな、なる程なテリーが君を気に掛ける訳が解ったよ気がするよ。」

 

 なんか、マイヤさんが妙に俺の事過大評価している様な気がするんですが、出来れば辞めていただきたい、だって水晶米なんだもん!…すいません嘘です俺は水晶の様に透き通ってなんかいません、ただ単に恥ずかしいだけです、ああでもでも、黒水晶なら何かいいかね、もなんたって黒だからなカッコいいよね。

 でも黒水晶ってさ、魔除けの石とか邪気払いの石とかって言われてんだよね、だったらなんかそれって俺のキャラじゃ無いな、俺の眼を見て魔とか邪とか寄ってきそうじゃね。

 

 いや来ないでくださいお願いします。

 

 「川崎沙希君か、年齢の詐称など確かに法的に問題のある行動であるし、こちらとしても何らかの処罰はせねばならないのだろうが…。」

 

 「…すね。」

 

 普通に解雇処分とかだよな、何度も言ってるけど店側に多大な損害を与える可能性が高いからな。

 

 「だけどね、その川崎君を最終的に採用したのは私なのだよ。」

 

 な、な、なんとぉオーナー自ら採用なされたのですか、マジですか…。

 

 「ああ、私は日本語をなんとか話せはするが読み書きは出来ないからね、日本のスタッフに履歴書を読んでもらい格闘技経験者がいないか確認してもったうえで、経験者は私が自ら面接をし演武を見せてもらったのだよ、その中でも彼女は最も良い動きをしていたのでね即決採用したと言う経緯があるのだよ。」

 

 おい聞きましたか黒レースさん、貴女ってばオーナー直々のお墨付きで採用されたんだってよ、相当気に入られてんだな…しかも即決採用かよ。

 まぁあれだけの美人空手女子だから、店側も川なんとかさんのルックスとかで男性客の集客率が上がるとか、その辺りの計算もあるかもだけど。

 だったらマイヤさん、なるだけ温情を持った判決をお願い出来ないなでしょうかね。

 

 「だからこそ惜しいな、彼女を手放さなければならないのはね…。」

 

 そうですよね、それが一般常識って奴ですよね。

 だが、もし川なんとかさんがこの職場を失ったとして、根本的な問題の解決を見ない限り川なんとかさんは他の所で同じ事を繰り返すかも知れない…。

 

 「あのマイヤさん、その決定を少しだけ待ってもらえませんか、彼奴の金銭的な問題が解決すれば、彼奴は年齢詐称して深夜帯のバイトをする必要が無くなるんです、そうすれば深夜帯は駄目だとしても条例の許す範囲でのバイトなら可能じゃ無いですかね。」

 

 そうだ川なんとかさん家の経済的問題から、大学進学の為の資金と予備校へ行く為の資金が多分賄えないんだ、だがそのどちらかが解決出来れば川なんとかさんは経歴詐称をする必要は無くなる。

 けど、バイトそれ自体は、暫くは彼女には必要だろうからな。

 

 「ほう、その問題を君が解決すると言うのかね?」

 

 「いえ、俺は…イヤ俺達は彼女の問題を解決はしません、解決の為の手伝いをするだけです。」

 

 「俺達?その手伝いとは君だけではなく、他にも居るのかね彼女に手を差し伸べ様としている者が。」

 

 「はい、居ますよ…俺にとって心強い仲間がソイツらと一緒に方法を考えてアイツに提案してみますよ。」

 

 ふむ、とマイヤさんは手で顎髭をさすりながら、俺の提案を真剣に吟味している様だ。

 その姿がメッチャ様になっていてシブいです、ガタイのいい中年外人さんのこう言った姿って何でこんなにかっけぇて思えるんだろ。

 

 「ではこうしようじゃないかハチマン君、君達が彼女に提示した内容により、彼女の置かれた現状が解決を見て、そのうえで彼女が我々に対しこれ迄の事を正直に打ち明けてくれたなら、私は彼女の罪を問わない事にするよ、それで良いかねハチマン君。」

 

 来た!来た来たキタキタ、キタキタオヤジーッ!

 おっと、冷静になれ俺、ステイクールだよ。

 取り敢えずマイヤさんは、現状考えうる限りかなりベターな回答を提案してくれたんだ、後は俺達が川、黒レ、えっと川崎?に対して彼女が納得出来るだけの提案をプレゼン出来ればな。

 

 「ハイ!それで構いません、いやそれでお願いします。」

 

 椅子から起立し俺はマイヤさんに深く頭を下げた。

 それはもうとても深く、営業担当のリーマンが取引先のお偉いさんのクレーム処理の為に頭を下げるかの如く。

 それは親父と母ちゃん、その二人の血を継ぐ社畜としての才能の、その可能性の開花を告げるかの如く。

 そんな物に目覚めたくねえ〜、だってさS(社畜)B(血)D(殺)システムを発動した一角獣型のMSにぬっころされそうじゃん!

 

 

 その後俺はマイヤさんと暫し雑談を交わした、大半はテリー兄ちゃんの話題だったけど、テリー兄ちゃんがパオパオカフェに対してどれ程ツケを溜め込んだのかとか…テリー兄ちゃん、俺そんなの知りたくなかったよ…。

 まぁでも何だかんだと、マイヤさんのテリー兄ちゃんに対する友情は確かな物だと言う事は伝わって来たけどね。

 

 

 「それではハチマン君、良い結果が得られる事を期待しているよ、彼女にとっても、君達にとっても、当然我々にとってもね。」

 

 マイヤさんは別れ際最後にそう言ってくれた。

 後はあいつ等と見つけ出さないとだよな、川なんとかさんに提案する内容を。

 ベストでは無くても構わない、この場合ベターな答で良いんだよな、彼奴が納得出来る解答を提示できればな。

 

 

 

 

 階段を下り一階へと降りてみると、リングに程近いテーブルに良く見知った四人の姿が確認出来た、その四人見渡す限りにおいてこの店内で最も華のある一団だろう事は間違い無いだろう。

 その一団に近づき声を掛けている猛者が居たがそれは敢え無く撃沈した様だ。

 その代表たる、氷の女王の絶対零度の言葉の刃の前にズタズタに切り裂かれてしまったのだろう、アームドフェノメノンさせたんだろうな。

 残念だな、振られる(事故る)奴は踊(ダンス)っちまったのさ不運(ハードラック)とよ。

 すごすごと引き下がるヤローを尻目にその四人の方もどうやら俺に気が付いたようで、その中で最もたゆんたゆんな物をお持ちのお方が、大きく手を振って。

 

 「お〜いヒッキー、こっちだよお!」

 

 大きく手を降るのに合わせて、そのたゆんたゆんがプルンプルンとリズミカルに揺れております。

 それはあたかも無限の軌道を描くかの様に…。

 

 『ローリング20’s…あれが、デンプシーロールか…。』

 

 それは伝説が蘇った瞬間、引退した幕ノ内一歩に代わりその新たな使い手が現れた瞬間…その、歴史的な瞬間を俺は目の当たりにしたのだ。

 俺はいつの間にか来ていたのか、ボクシングのメッカ後楽園ホールに…。

 なれば俺は宣言したい『我が生涯に一片の悔いなし』とな。

  

 「せんぱい、此処ですココ!いろはちゃんの隣が空いてますよぉ♡」

 

 そして全日本あざと可愛い後輩選手権千葉代表にして、現在唯一俺の後輩と呼べるたゆんまでは行かずともプルッ位ならワンチャンありそうなヤツが座席指定をして来て。

 

 「なぁに言ってんですかお兄ちゃんは私の隣に座るんですよ。」

 

 と我が天使、全日本あざと可愛い妹選手権千葉代表にして優勝確実、世界大会進出確定が見込める逸材が張り合う。

 いやね、君達がいるテーブル円いからね、何なら君達が指し示している椅子って同じ場所だから、そこに座ると俺は自ずと君達が俺の両隣になるから、だから君達は言い争わないで。

 

 

 

 

 小町と一色の間に挟まれて遅めの昼飯をいただいております、あ〜ワニの唐揚げ美味えわ〜…ジョーあんちゃんの言ってた事は事実だったんだね、初めて知ったよ。

 てかパオパオカフェって一体どれだけのメニューがあるんだよ、和洋折衷って言葉じゃ言い表せない驚きだよ、驚異の世界だよ、知られざる世界だよ、そして素晴らしい世界旅行だよ、まぁ胸囲の世界なら今俺の目の前に存在してっけど。

 おっと、雪ノ下さんや何故に俺を睨みつけているんですかね、止めてその凍える様な視線を向けながら微笑まないで下さい、そしてその手に持ったスマートフォンを閉まってください、何なんですか貴女は、千葉県はスマートフォンとともになんですか?何でもかんでもスリップで済ませようって気なのかな…若干スリップしそうな部位が確認出来ていま…。

 嘘です嘘ですごめんなさい、そんな事思っておりませんとも…えぇ断じて思ってなぞ居りませんぞ。

 

 

 

 

 腹も満たされ、マイヤさんとの話のあらましを伝えて俺は皆の意見を聞いてみた。

 朝メッセージで伝えた川なんとかさんに対する俺の考察と、それに対する皆の見解を。

 

 「せんぱい、ほら私って去年最初は予備校通っていたじゃないですかぁ、雪乃先輩が勉強会に加わって成績がアップしてからは余り行きませんでしたけど。」

 

 あゝそうだね君そのお陰で入試三位の成績で入学出来たんだよね。

 

 「それでですね、当時予備校を決めるに当たり学校案内等の資料を集めたんですけど。」

 

 一色は妙に勿体つけた喋り方で、関心を集めようとしている…それよりも早く結論を言いなさい。

 

 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!です、これを観てください。」

 

 あらま、誰もくしゃみなんかしていないのに、飛び出してきましたよ。  

 てゆうかぁ君って女子だよね、だったらアクビ一つで呼ばれた方が良いんでないの。

 

 「此処ですココ!ここを見て見てください。」

 

 と俺の内心に突っ込みを入れること無く一色さんったら勝手にお話し進めちゃってさ、いいもんいいもん。

 

 「どうです先輩方コレならイケそうじゃないですか、どうですか!」

 

 エッヘンと両手を腰に当て雪ノ下程では無いが薄い…何でもありません。

 

 なる程なこれなら川なんとかさん次第だけど行けるかもしれない。

 

 川なんとかさん次第だけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

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