やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
チンピラさん達を漏れなく全員リング外に叩き落とした終え、今リング上に残っているのは俺とサキサキの二人だけ。
チンピラ軍団のボスとチンピラ軍団はリングサイドの一箇所に纏め、逃げられない様にマイヤさんを始めとしたパオパオカフェのスタッフの皆さんとファイターの皆さんが、既に連絡を済ませたお上に到着次第引き渡せる様に取り囲んでいる。
ふう、我ながら良い仕事したぜ。
あ〜ぁ、多分この人達警察に取調べられたら色々と余罪とかも出てくるんだろうな。
まっ、俺には関係ないからね…でも、もしかしたら参考人として事情聴取とか協力要請なんかはあるかもだな、面倒臭いけど仕方が無いか…。
更にはこのチンピラ軍団の悪行のお陰で、パオパオカフェは今日の営業を急遽取り止める事となってしまった。
オーナーであるマイヤさんの計らいでこの日の料金は無料とし、更にお詫びの品として割引クーポンを皆さんにお贈りすると言う徹底振りだ。
「オーナーさん今日はこんな事になったけど、また来ますからね。」
と、ほぼ全てと言って差し支えない程のお客さんがマイヤさん始めスタッフの皆さんに概ね好意的な声を掛けている。
今日この店を訪れたお客さん達はおそらくリピーターとなる人が多いだろう。
テリー兄ちゃん、どうやらこっちのパオパオカフェもサウスタウンと同じ様に愛される店になりそうだよ。
チンピラ軍団の警察への引き渡しも恙無く終え、現在店内にはマイヤさんとサキサキ含むパオパオカフェのスタッフさん達と、俺だけが残っている。
スタッフの皆さんは店内の清掃片付けなどに忙しく動き回っていたが、それもほぼ方が付き、帰宅の途につき始めた人も居る。
その中にあって、俺とサキサキはリングサイドからそのリングをなんと無く感慨深く見上げている。
「……ふう、やれやれだな。」
「…何がさ?」
たかだか相手はチンピラであったが、人前でリングに上がっての実戦はこれが初めてだったからな。
闘った相手に不足はあったけど、リングと言う舞台での闘いに、俺は興奮を覚えていたのも事実だ。
「…て訳でだな、なんと無く感慨に耽っちまったんだよ…笑いたきゃ笑っていいぞサキサキ。」
「サキサキ言うな!てかさそれ言ったらアタシも同じさ…アタシも今日初めて人前でリングに上がったんだからね。」
俺の言に一言サキサキがそう返し、再びリングを見上げ、二人共無言になってしまった。
何か普段はこう言った、女子と二人になった時とかって、いたたまれなくなったりする事が多いんだが…今は何だかそんな普段感じる所在無さなどを感じていなかった。
もしかしたらサキサキも、そんな風に感じてたりしてな。
「ねえ、比企谷…もう一度リングに上がってみないかい?」
はぁ!?
そう問い掛けてくるサキサキの表情には、純粋に仕合う事を望んでいる者の挑戦的な眼差しがあった。
コイツ案外バトルジャンキーなのか、怖いよサキサキ、超怖い。なんてな。
…実は俺もサキサキと同じくそれを望む気持ちがあったりなんかしてな。
「…ハハッ、お前も同じなのかよ、川サキサキサキ…。」
「サキが多すぎだってのバカ!」
けど良いのか、組み手かスパー位なら問題無いかも知れないけど、今はなんてか、そんなもんじゃなくて…俺は今このサキサキと仕合ってみたいと思っているから。
「試合をしたいのかねハチマン君、サキ君。」
従業員の皆さんがあらかた帰り終えたこの店内で、マイヤさんが俺とサキサキにそう聞いてきた…いつの間にか此方に来ていたんですねマイヤさん。
「マイヤさん…。」
何だかマイヤさんったらとても良い笑顔でおられますね…。
これってきっと、やって見なさいって事ですよね。
「君達二人の試合なら、私個人としても見てみたいと思ってね。」
でしょうね、俺だってテリー兄ちゃんとサカザキ総帥かガルシア師範が仕合うなら絶対観たいと思うしね、うん。
まぁ現実的には今の俺達じゃ、それよりも一〜二枚落ちるんだろうけど。
「…だってよ、比企谷。」
「マジで…本当に良いんですかマイヤさん?」
マイヤさんは俺の問に頷き、超電磁フィールドウォールを展開させるので気弾を放っても構わないと言ってくれた。
そして、この仕合い於いて、自分が見届け人を務めるとも…。
そこ迄言われちゃさ断れ無いよな、何より俺自身がやってみたいと思っているしな。
再び俺はリングへ上がった、トントンと軽くステップを踏みマットの感触を確かめる。
ウレタンフォームの感触はすこぶる良好だ、うん、俺もう既にテンション上がり始めてるよ、ウハッ!…べーっ、マジべーっしょ、思わず戸部ってしまうくらいだよ。
あっ、因みに俺赤コーナーね。
良し!ウォーミングアップはこれ位で良いな、顔を上げ青コーナーのサキサキを見ると…向こうも準備万端って感じかな、イイ顔してんなサキサキ。
「準備は良いかね二人共。」
対角線上に見合う、俺とサキサキにニュートラルコーナーに立つマイヤさんから声が掛かる。
その声に二人ほぼ同時に頷くと、マイヤさんも答える様に頷き返し。
「では私はリングから降りよう、降り次第直ぐにゴングを鳴らそう。」
その一言を残してマイヤさんはコーナーロープの間を跨ぎ、リングを降りていった。
後は…待つだけだ、その瞬間を。
なぁ川崎、お前も今そう思っているんだろう…。
「待たせたね、では。」
リングサイドからマイヤさんの重低音の声が響く、決して大きな声では無いけど今この静けさが支配するかの様な店内に於いては十分に聴き取れる声量だ。
木製のハンマーを軽く揚げ、振るわれると。
『カァーン!』と甲高い鐘の音が響き渡った、今正に賽は投げられたって奴だな。
やろうぜ川崎!
右の拳を顎の側に、左の拳は軽く前方胸元に構え、ステップを踏みながら時計方向へ前進移動しながら様子を伺う。
対するサキサキはと言うと、左半身を前にし半身に構えた状態で右拳は握り込まず顎より下に、左も同様拳は握り込まれず、前方肘を軽く曲げ腰の辺りに構えられている、ほぼノーガードと言って差し支えないが、きっとガードよりも裁きと躱す事に長けているんだろうな。
同じく時計方向へ三歩、四歩と移動していたが…川崎は前方へ、俺に向かい距離を詰めて来た!
ダッシュから一閃、上体を軽く後方に反らし、しゃがんで右手をマットに着けた体勢、左脚での下段蹴りで俺の脚を狩りに来た。
まさか、開幕いきなりこんなトリッキーな攻撃を仕掛けて来るなんてな。
開幕早々脚を狩られるなんて、たまったもんじゃない、俺は反時計方向へ小さくジャンプして避け体勢を整え反撃を掛け様としたが、川崎は既に立ち上がり構えを取っていた。
早えぇなコイツ、もうかよ!
そう、体勢を整え終えていた川崎は、すかさず次の攻撃を仕掛けて来ていた。
下段より上段へと撓る様に振りあげられる左腕、ボクシングで言う所のフリッカー気味のパンチ、おそらく此れは牽制を兼ねているんだろう。
それを俺は左腕でガードしたが…
『パシーンッ!』と受けた左腕から乾いた音が響く。
一撃の重さは無いが、鞭の様に撓るそれはジンジンとした痛みを左前腕に残した。
更にそれが二発、三発、四発と連続して繰り出されその繰り出され、受けた数だけの打撃音が響く。
痛えなオイ、ミミズ腫れになんねえよなコレ。
けど、此のまま受け続ける訳には行かないよな、だから俺は川崎のパンチが繰り出されるタイミングに合わせて後方へバックステップした。
俺というターゲットを消失した、その拳打ちは空を虚しく切り裂き、川崎にとっては予想外だったのか一瞬だけ顔色を変えた。
俺の反撃が来ると思ったのだろう、川崎はその左腕を素早く引き戻し防御体勢整えようとしている。
「バーン!…」
川崎は俺がバーンナックルを放つと思っただろうな、川崎はさっきのチンピラさん達との闘いの時俺の技を見て餓狼の技と言っていた。
つまり川崎はテリー兄ちゃんを知っているって事だ、ネットかテレビ中継か、それとも直に観戦した事があるのか。
だから咄嗟にバーンナックルに対してのガード体勢を取ろうとした。
だが川崎、残念だけどコイツはフェイントだ!
俺はお前が正面からの防御体勢を取ることを促したんだ。
時計方向へサイドステップ!
瞬間に構えを取り、そして撃つ!!
「飛翔拳!」
川崎の防御の空きを付き胸元目掛け高速で直進する気弾、飛翔拳。
だが、大したもんだよ川崎は…。
ガードが間に合わないと理解したんだろうな、咄嗟に川崎は自ら体勢を崩すように川崎から見ての時計方向下方へ上体を下げる事で回避しようとした。
それにより俺の飛翔拳は、川崎の右上腕部に軽く掠り当たりした程度に終わってしまった。
咄嗟にそれだけ動けるなんて、本当に大したもんだよ川崎!
けどね、お前が体勢を整え直すよりも俺の次の攻撃の方が速いぞ。
「シュッ!」
体勢を立て直そうとしていた川崎に、接近し打ち下ろす様に上方から下方へ左フックを繰り出す。
それは川崎の頬へヒットした…のだが思いの外手応えが少ない。
どうやらクリーンヒットとはならなかった様だ。
川崎はもらう事を覚悟し、敢えて俺の打撃に合わせ俺のパンチの軌道が打ち下ろしだった事もあり、倒れ込む事でその威力を半減させたんだ、マジか…なんてクソ度胸してんだよ川崎は!
しかもそのままダウンしたんじゃ、立ち上がりの際に不利になる、そのリスクを少なくする為にダウン際に回転受け身を取る事で俺との距離を放して立ち上がってきたよ。
おそらく今の俺のパンチはクリーンヒット時の六割以下の威力しか無かっただろうな。
「…川崎、お前天才かよ!?」
今の一連の川崎の動きに対して、俺はそう賞賛した。
「いや、そんな簡単な言葉で済ましちゃいけないよな、何年もお前が研鑽してきた成果だよな…スマン。」
「…別に、謝んなさんなよ、アンタだってそれはアタシと変わんないだろう、長い間研鑽を積んで来たんだろう?」
「ハハッ。」「フッ!」
期せずして思わず二人同時に笑みが漏れてしまったよ、やっぱり俺達二人共バトルジャンキーなのかな。
さて仕切り直しだ…。
次は俺からだ、行くぞ川崎!
俺は何の駆け引きもせずに、川崎へ向いダッシュで接近する、川崎もまた俺に合わすようにダッシュで接近する。
コイツは何処まで男前な奴なんだよ、美人なのに、何なのお前、あっ!美人格闘女子高生だな普通に…略して『ビジンダー』てのはどうだ!駄目だよなうん、版権とか色々とさ…。
「ハァッ、セイッ!!」
川崎の上段回し蹴りが繰り出される、対する俺は。
「ソッリャァッ!」
バックスピンキックで迎え撃つ、互いの蹴りがクロスボーンの様に瞬時に交差する、打撃音と共に。
そして、互いの蹴りの威力が互いに返って来たかのように弾かれてしまった。
「「まだまだぁ!」」
同時に声を出し、同時に立ち上がり体勢を立て直しての再接近から、俺は左腕で顎下をガードしアッパーを繰り出す。
それを左手で払いながら川崎の反撃へ繋げての左裏拳が顔面へ迫る!
「チィっ!」
スウェーで躱すが、完全には躱しきれず鼻先を掠ってしまった。
すかさず拳を戻し、川崎は一歩踏み込んで右の手刀を打ち込んできた。
極限流の氷柱割か!
上空から叩き落される手刀、この軌道だと打たれるのは胸元辺りか!?
今の俺の体勢では回避は無理だ、だったらどうする。
俺は打ち降ろされる川崎の手刀が胸元に当たる直前に、両腕のガードが間に合いその威力は半減出来たが、その技の勢いの前にダウンを余儀なくされてしまった。
強かに背中からマットに叩き付けられて、小さくバウンドする。
ウレタンフォームのマットのお陰でダウン時の背中ダメージもほぼ無いし、打たれる覚悟を決めていたので、全体的なダメージ自体も少ない。
なので俺はマットの上を回転して、川崎からの追撃が来ない位置で立ち上がった。
俺が回転の勢いを利用して立ち上がった時、川崎もまた振り抜いた手刀を戻してダッシュしすかさず攻撃を繰り出してきた。
「幻影脚!」
無数に放たれる超高速の蹴りによる連撃が俺に襲い来る。
クッ、ヤバい!このままじゃガードが弾かれんじゃねえか…。
その俺の心配はどうやら杞憂に終わったようだ、俺のガードをこじ開ける事が出来ないと判断したのか、川崎は蹴りを止め一旦距離を取ろうと後方へ一歩下がった。
川崎、お前判断を誤った様だな、今の蹴り後数発撃たれていたら俺のガードは崩されていたぞ!
この川崎の後退は俺にとっては大きなチャンスだ、その後退に合わせ俺が打つのは。
「斬影拳!!」「うっっ…。」
川崎の後退に合わせ、打ち込む俺の肘は川崎の胸元へ初めてヒットした。
そして攻撃はこれだけでは終わらないぜ。
「せりゃッ!」
疾風裏拳、技を受け崩れた相手に更なる追撃の裏拳、これにより川崎はダウンを喫した。
良し、確実にダメージを与える事が出来たぞ。
しかし、コレで終わりじゃ無いよな川崎、まだやれるだろう!
「ぐぅっ…。」
ダメージを引き摺りながらも立ち上がろうとしている川崎。
片手と片膝をマットに着きながらも、痛みに耐えながら…。
「ハア〜、ふぅ…。」
吸って吐く、ひと呼吸。
そして…立ち上がる川崎、本当に凄え奴だ、このひと呼吸で心身ともに立て直したよな、ダメージを抜きにしてもさ。
「…やるね比企谷、アンタさ…こっちも負けらんないね!」
「おう!見せてみろ川崎!」
迎え撃ってやるぜ川崎、次はどう出てくるんだ!?
「ハァ!!」
掛け声一発、川崎は空高く飛び上がった。
此れは飛燕龍神脚か、だとするとお前いきなりすぎんじゃねえか!?
この位置からなら俺は左右どちらにでも回避出来るし、ここで待って対空技で迎撃だって出来る。
それが解らないお前じゃ無いだろう。
ヤケになった…なんて事は無いよな、何かしらの考えがあっての事だろう。
だったら俺だって、此処で簡単に迎撃なんてしないぞ。
ダッシュして川崎との距離を詰めて、川崎の飛燕龍神脚を殺す!
しかし、この判断は俺の誤りだった。
「破アッ!」
川崎が空中から放った技それは飛燕龍神脚では無かった。
俺は甘かった、どうかしていた!!
馬鹿だな俺は、龍撃拳を打ち飛燕龍神脚を放つ川崎を見て、そのスタイルはロバート・ガルシア師範のそれだと判断してしまっていたんだ、俺は…。
だけど、普通に考えればガルシア師範もサカザキ総帥も同じ極限流だ、その使う技には自身が考案した技もあるだろうが、ベースとなるスタイル極限流の技を共に鍛錬していただろう。
なら自信考案の技以外の共通の技などは、(実際飛燕疾風脚など共通の技を使っているんだしな。)使えてもおかしく無い筈だったんだよな。
サカザキ総帥は拳での攻撃を主体に、ガルシア師範は脚技主体に、実践に於いてはその得意とする技を主に使っているにすぎないのだろう…なのに俺と来たら先入観から判断しちまって、考えても見ろよな俺。
テリー兄ちゃんの技をベースにアンディ兄ちゃんとジョーあんちゃんの技、全部じゃ無いけど伝授してもらってる奴が居るだろうが、えっ!?誰だって。
鏡を見てみろっての、俺だよ俺。
川崎が空中から放ったのは気弾。
サカザキ総帥の使う、空中より繰り出す必殺の気弾、サカザキ総帥のは『虎煌拳』だったかな…。
全くの予想外の技の前に、迂闊に前へ出て行った俺はそれをダイレクトに食らってしまい、堪らず俺は二度目のダウンを喫した。
「…つっう、てぇなおい。」
マジで痛え、なんて威力だよ極限流の気弾はよ、あまりの痛さに八幡もうお家帰るって言いたくなったよ…。
…嘘だけどね、だってこんなんで終わりたく無いじゃん。
折角、こんな身近にこんな凄え奴が居たんだよ。
まだまだ、やり相対よな!
手も腕もまだ動く、脚だって十分に力が残ってる。
「比企谷!まだ立てんだよね、早く立ち上がりな。」
全くお優しい事ですわね、川崎さん。
解ってるよ、お前だって立ち上がって来たんだもんな。
「ウオーッ、成せばなるザブングルもウォーカーギャリアもハチマンクンも男の子おーっ!」
気合一発、勢い付けて俺は立ち上がった。
待っててくれてる奴が居るからな。
「悪りぃな川崎、待たせた…こっから仕切り直しだ!」
「ああ、男が女を待たせてんじゃ無いよ全く!」
さあ続きをやろうぜ極限流!
書きたい事が増えて、終わりませんでした。