やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
もう一度確認だ。
手元良いか!?
手元良し!
足元良いか!?
足元良し!
ヘルメット良いか!?
ヘルメット無し!
安全帯良いか!?
安全帯無し!
オイオイ、一体何処の工事現場の朝礼だよ!?
メットも安全帯も無きゃ躯体工事は出禁食らうぞ、後安全靴も要必要だ。
ボケはこれ位で良いか…。
何時までも女子を待たせちゃ行けないよな、八幡それ知ってるよ。
だってさ、小町に由比ヶ浜、雪ノ下に一色の四人からここ一年間調きょ…教わって来たからな。
準備OK!…待たせた川崎。
再び俺は構えを取り、リズムを刻みながら前進を開始する。
眼の前の強者へと向かって、一歩、一歩と緩やかに。
川崎もまた、仕合い開始時と同じ構えで以て前進してくる、何か時間が巻き戻ったみたいだな。
違うのは、互いに幾ばくかのダメージを受け、その技の幾つかを互いに知ったって事だな。
俺と川崎、互いに前進し徐々にその彼我の距離は近付いて来る、まぁ当然そうなるわな…。
二人共その目線は互いの顔に合され、その眼を反らす事は無い、イヤ反らせないと言った方が正確だな。
緊張感による均衡状態が支配するリング上、眼を離した途端何が起こるか解らない状態に汗が滴る。
俺もだが、おそらくは川崎もコレだけで多分ゴリゴリと削られている事だろうな…精神力を。
『ゴクリ…』今飲み込まれたのは、鳴ったのは、どっちの喉だったんだろう。
もしかしたら二人同時だったのか、分からない…だが、それが合図となった。
「シャアッ!」「ハッ!」
ほぼ同時に放たれたのはお互いの右の拳だった、それを放ったのは緊張感故の焦りだったのか。
防御も回避も次へ繋げる為の組み立ても無い、冷静さを欠いてしまった攻撃だった…と思う。
俺達は互いの拳をその身に、顔面に受けてしまった。
出した腕が二人共右手だったから、立ち位置が交差する位置で無かったからクロスはしなかったが、互いの攻撃で互いにカウンターを食らった様なもんだ。
「ウッッ…」「クァッ…」
互いが互いに吹き飛ばされる様な状態になり、距離が離れてしまったが、ダウンには至らなかった。
再度の接近、からの攻撃は、川崎の方が速かった。
再び放たれるフリッカー気味の高速の左の連撃。
それを俺は左の前腕で捌く、一発、二発、三発と。
そして四発目を捌くと同時に、俺は川崎の懐に潜り込み、川崎の左手を伸び切ったタイミングに合わせ掴み取り、更に右手で川崎の胸倉を掴み。
「セイリャア!」
背負い投げ、テリー兄ちゃん命名『バスタースルー』でもって川崎を投げ飛ばした。
マットに叩き付けられた川崎は「うっっ!」と苦悶とも取れそうな呻きを漏らしマット上をバウンドした。
…どうだコレで!?
「はあ〜…ふう〜、ハッ!」
ダウンした状態でひと呼吸したかと思うと、川崎は勢い良く飛び跳ねる様に立ち上がって来た。
立ち上がり、すかさずに取られる構えにはそれなりのダメージを与えられた事だと思う、川崎はそれをおくびにも出しちゃいないけど。
「まさか、此処で投げ技を食らうなんてね、やるじゃん…ハハッ、結構ダメージ来てるかな…。」
思うんだが、それだけ喋れる所を見るとね、有ったのかなダメージ…とか思っちまうよな。
けど、躊躇う訳にはいかないしな、ガトーじゃ無いけど…今は行くのみ、だ。
川崎は確実にダメージを受けている、それは間違い無い、だからこのまま畳み掛けるぞ川崎!
「ダァーッ、シャアッ!!」
フロントステップから前方へジャンプし、ジャンプの勢いを加えて打ち下ろしのパンチを放つ!
少々博打が過ぎる気がするが、どうだ川崎!
「グッ!」
俺のパンチを川崎はガードにより耐えた、それも耐えただけじゃ無い。
耐えたうえに、反撃に転じてきた。
俺のパンチをガードし耐える為に膝を曲げ前に置いていた左脚と、後方へ引いていた右脚。
その左脚を回転軸として大きく撓らせながら放たれる下段への水平蹴り。
「せりゃアァ!」
体勢の立て直しが間に合わなかった俺はそれにより脚を払われてしまった。
不確かな体勢にもって受けてしまった蹴りは、俺の左脚の脹脛を捉え、そのダメージにより俺の左脚は所謂膝カックンの様になってしまった…かっこ悪いっすね八幡君。
何て考えてる場合じゃないか、これ追撃確定じゃんか!
「はぁ!」
更にもう一度超低空での水平回転を加えて迫る川崎の蹴り、此れは防御出来無ければ、側頭部に食らってしまう!
クッソォォ、間に合え!
側頭部を守る為に左に身体を撚る、それにより左腕でのガードが間に合った!
「セイッ!」
ガードした腕にどえらい威力の蹴りが炸裂した、瞬時に襲い掛かってくる衝撃と痛み、そして…。
ガードをしたにも関わらず、俺の身体はガード毎吹っ飛ばされ、マットの上を滑る様に転がってしまった。
俺はまたまたダウンを食らった。
「か、ハァッ…。」
いくら体勢が悪かったとは言え、まさかガード毎叩き伏せられるとは思ってもいなかったぜ。
だがまだ行ける、ちょっとばかり左のアンヨの脹脛が痛いし、左のお手手がジンジンするけどさ。
くう〜っ、左脹脛がジンジンするよ、後左腕も、八幡超〜痛い!
「立って来たね比企谷、そうでなくっちゃね!」
にゃろう!簡単に言いやがんなよ、川崎サキサキィッ!
ニヤリとそんな不敵な笑みを浮かべやがって、ドSかよお前!
…べー、思わず想像しちまったよ、ボンデージ衣装で鞭を持ってハイヒールの踵で男を踏みつけてるサキサキを…。
けど川崎、お前だって受けてんだろ、さっきの投げのダメージをさ。
だったらまだまだ、状況は五分五分ってところだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「ふぅ、はぁ、ふう〜…」
お互い呼吸も乱れて息切れして、体力もかなり消耗してるよな。
さて、後どんだけ行けっかな。
呼吸を整えて、筋肉をリラックスさせてっと…それって波紋の呼吸かよ!って言いたいトコだけど、闘いを続行するなら此れ必要なんだからね!
「はあ〜、ふう〜っ!」
「…すぅ〜、ハァ〜…。」
良し、整いました!
彼我の距離は大凡六メートルってとこか、左の脹脛は痛いけどまだダッシュも出来そうだ。
あの技使ってみようかな…長年ってか此処二年程掛けて取り組んできた、俺独自の技を。
そうと決まればダッシュで距離を詰めての、接近戦からタイミングを図って。
と…考えていましたが、何だオイ!
マジかあの構え…川崎、お前撃てんのよあの技!!
川崎は頭上で両手を交差させて、右へ身体をひねり込みながら両の腕を後方へ下げた!
来る、ダッシュのスタートを切ろうとしていた俺は回避は間には合いそうに無い、ガードで耐えられるか!?
「覇王翔吼拳!!」
来た!!!
俺は咄嗟にクロスアームガードの体勢を取り迫りくる巨大なその気弾を正面から………受け止めている。
「うぐぐぐぅ!!」
なんて威力だよコイツは、クロスアームのガードが弾かれそうじゃねえかよ。
「ぐっ、ギギィ!」
だが良し、覇王翔吼拳のエネルギーが薄れて来た!
「破ァァ!!」
その薄れたエネルギーを俺は両腕を振るい打ち消した。
…打ち消したは良いが、これでまた体力を持っていかれたよ。ハァ〜。
行けるかな俺…そして川崎はどうだろうな。
…見てみると川崎も息を乱し、右手を膝の上に置き呼吸を整えている状態だった。
「…ハァ、ハァ、今のが覇王翔吼拳の威力かよ…ハァ、来るのが分かってて、ガードしたってのに…なんて破壊力なんだよ、ハァ〜。」
「…分かってて、ハァ、ふぅ、それに耐え切ったアンタこそ…どうなってんのさハァ〜、でもね比企谷…アタシの覇王翔吼拳は、ハァ、ハァ、師範代クラスの方達の、それと比べるとハァ、ふぅ、まだまださ…漸く撃てるようになった…って程度のモノだよ、はぁ〜…。」
…マジでか、恐るべし覇王翔吼拳、恐るべし極限流空手…だな、マジで。
今のがサカザキ総帥やガルシア師範の覇王翔吼拳だったら、今頃俺は…怖っ!
呼吸は整って来た、けど体力も耐力ももう…こりゃ長いことやれないな。
俺もだけど、川崎もだな…そうだろう川崎。
こっからが、いよいよラストステージって奴だな、俺は構えを取り直しこの素晴らしく濃密で熱い時間を共に築き上げた強敵(友)を見据える。
川崎もまたその両眼で俺を見据え、そして不敵な笑みを見せている。
『Oh!なんと言う…。』
マイヤさんのつぶやく声が聴こえた様な気がするが、今はどうでも良い事だ。
キュッ、キュッ、キュッ…
トン、トトンッ…
ウレタンフォームのマットの上に、二人分の靴音が響く、軽ろやかなステップを踏む音が。
良し、行くぞ川崎!
時を同じくして、俺と川崎は互いへ向けて走る!
そして、始まる超接近戦。
「シュッ!」
川崎の顔面へ右ストレートを放つ、がギリギリの間合いで避けられた。
間髪入れずの川崎の反撃の左、俺の顎にヒットした…川崎はそう思っただろうな。
スリッピングアウェー、この最終フェーズに於いてそれを俺は発動出来た。
それが俺に最大のチャンスを与えてくれた。
当てたと思っていただろう左に、手応えを感じ無いそれに川崎は、もしかしたら焦りを感じたのかも知れない。
川崎の左の腕の戻しに合わせ、靴一足分の距離を詰めながら俺は川崎の肝臓部分に左拳をコツンと当てる。
「フッ!!」
瞬間、俺はその拳に気を発動。
「グハッ…」
俺が左拳より発した気はほんの微々たる物だ、だがそれで充分だ。
それにより体勢が崩れる川崎に、最後のアタックを仕掛ける。
トン、とステップを踏み体勢を上下入れ替える。
「ラァイジン!」
発勁の技法による高速の回転運動による上昇は通常のライジングタックルを超えるスピードと上昇高度を持って俺と川崎の身体を空高く運ぶ。
「ぐぁっ…」
その衝撃による呻きを漏らしながら、空を彷徨う川崎。
俺は川崎よりも高い位置で上止点を迎えると、体勢を入れ替え両の脚先を揃えてそれを川崎へ向け再度回転運動をしながらの下降。
降下角度は…多分三十度位かな、多分図ってないから知らんけど。
「スクリュースピィン!」
高速回転降下キック、それが川崎にヒットし、それがこの仕合の勝敗を決める一撃となった。
マットの上に着地した俺と、マットの上にダウンした川崎。
今の俺と川崎の立ち位置はライダーキックを決めた仮面ライダーと怪人の立ち位置って感じか。
後ろを向いた格好になっているので、まだ自身の眼で確認していないけど、川崎が立ち上がって来る気配は無い。
俺のオリジナル超必殺技、名付けてライジングスクリューキック実戦での使用はこれが初めてだが、上手く決まってくれた。
「ウィ、WINNNERハチマン!」
マイヤさんの口から発せられた勝者コールは俺の名を告げていた。
「あ〜〜〜〜っ、しんど…。」
深い深いため息と安堵の気持ちが、口をついて出てしまったよ。
そしてまだ立ち上がる気配の無い川崎を介抱しようと振り向いたら……。
………川崎の着ていたバーテンダー衣装がボロボロに弾け飛び、その…美しい柔肌と見事な輝きを放つ豊満なそれを包む黒い黄金聖衣がご開陳されていた。
「黒のレースか……。」
俺は自分が着ていたジャンバーを川崎に着させて……………。
眼を覚ました川崎の前で、バッチリと決めました。
無差別格闘早乙女流奥義、猛虎落地勢を、つまるところ。
「すんませんでしたあーーー!」
土・下・座だ、言わせんなよ。
顔を真っ赤に染めてプルプル小さく震えていらっしゃる川崎さんが…俺は怖いよ、小町ちゃん…お兄ちゃん明日のお天道様拝めるかなぁ!?
「アンタね、女の服をひん剥くなんてありえないだろう……。」
「返す言葉も御座いません!」
平にご容赦を、平にご容赦を、何卒!
土下座+マットへ額擦り付けの、怒りの対女子用超必殺技を発動し、川崎大魔神の怒りを鎮める為に祷る気持ちで出し続ける。
「…責任、とってよね…。」
ボソリと呟かれた川崎の声は俺の耳にはよく聴き取れはしなかった。
店の衣装をボロボロにした事をマイヤさんに詫びたが、マイヤさんはそれを笑って気にしない様にと言ってくれた。
マジで感謝だよな、ああいった衣装ってメッチャ高いんだろうからな…。
店を出て、俺は皆に川崎の件が片付いた事をメッセージで報告。
『そう、了解したわ。』
『お疲れ様\(^o^)/ヒッキー!ありがとね♡』
『了解です<(`・ω・´)ご苦労さまでしたせんぱい!チュ♡!』
すぐさま返ってきた返信に俺は恐れの気持ちを抱いてしまった、もしかしてコイツらずっとスマホ持ってスタンバってたんじゃないだろうな…。
明けて翌日、日曜日。
プリティでキュアなアニメを見て、心身ともに癒やされていた俺に小町が言ってきた。
「お兄ちゃん、大志君のお姉さん夜のバイト辞めるってよ!」
ニコニコと笑顔で告げる小町は、心の底からその事を喜んでいる事が見て取れる。
「頑張ったんだねお兄ちゃんも大志君のお姉さんも、小町的に超ポイント高いよ!大好きお兄ちゃん♡」
そう言ってガバっと勢い良く小町が、俺に飛び付いてきた。
その小町の背を右手でぽんぽんと軽く叩き。
「サンキュ、小町。」
更に明けての翌月曜日、あれ!?俺の日曜日はどこ行ったんだっけ。
昨日の朝のあまりの感激に記憶が吹っ飛んだのかな…。
今日は生憎の雨で、ベストプレイスでの昼飯の時間を楽しめないので、皆で特別棟四階の奉仕部部室で食べていたりする。
「へへえ〜ん、どうですかせんぱい、いろはちゃんのお陰で上手く行ったんですよ、せんぱいなので私はせんぱいからのご褒美を所望します。」
敬礼と共にトンデモナイ事を言い出す一色、何で俺がご褒美を与えないといけないの、教えてマイティーチャー…駄目だ、平塚先生じゃ教えてくんないよね。
てか教えきれないんじゃないかな、多分、確実、絶対に!?
「一色さん、貴女の功績は認める所だけれど、それとこれとは話が別よ。」
「そっ!そうだよいろはちゃん、そんなんでヒッキーの事独り占めしようなんてあり得ないんだからね!!」
あ〜こうなったか、程々で止めといてね君達、俺が居たたまれ無くなるから。
トントン、トンとノック音が響いた、ラッキー!お客さんが来た、この状態から抜け出せる。
「邪魔するよ。」
雪ノ下の入室許可を発するよりも早く開かれた扉から、サキサキが入室して来た。
「……。」
無言で入室して来たサキサキは赤い顔をして俺へ向かって迫りくる…何?
何で迫って来んの、怖い怖いよ、俺今示せないよ迫りくる悪に、その力に勇気をさ…ってかサキサキは悪じゃ無いけどさ、だからスペースランナウェイする必要もないけどさ。
真っ赤な顔で、上から睨みつけて来るサキサキは…何で無言なんですかね。
「…ん!」
と言って突き出されたそれは形状から弁当箱を包んでいる物だと分かる。
「何?」
くれるっての、何で!?
川崎の顔を見ても赤いまま、どうしようかなと思案して居ると…。
とても痛い視線を右方向から感じ取ってしまった、三人分の視線を。
ギ、ギ、ギ、ギ、と錆び付いたかのように動きの悪い首を回すと、予想に違わぬ冷たい眼が三対ロックされていたよ。
「あら、何かしら誑し谷君、受け取れば良いのではなくて?」
「…ヒッキー、あたしはまだ作れないんだよね………」
「むう〜、せんぱいはまた!有り得ません!超有り得ません!!」
何か今の俺の状態って引くも地獄引かぬも地獄ってヤツじゃね?
コレをどうしろってんだよ!?
「アンタには世話になったからね、それとアンタ達にもさ…。」
因みに川サキサキが持ち込んだお手製弁当は後でスタッフの一人が美味しく頂きました。
嘘です、イヤ嘘じゃないんだろうけど味どころじゃ無かったです…ハイ。
川崎を極限流の使い手としたときから、龍虎の女子キャラの宿命、脱衣KOは決められていたのでした。
八幡のオリジナル超必殺技はライジングタックルに新巨人の星のスクリュースピンスライディングを付け足した物とイメージしていただければわかり易いと思います。
ユーチューブ辺りにアップされているかもですね。