やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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二つの笑顔。

 

 突然に雪ノ下の名を呼ばわる声に、その声が聞こえてきた方向に顔を向けた。

 その人物は高速で雪ノ下へ駆け寄ったかと思うと。

 

 「きゃあ〜もう、雪乃ちゃん久しぶりぃ、元気してた?最近ちっとも実家に帰って来ないからお姉ちゃんは寂しかったんだぞ!」

 

 ガバッと雪ノ下を抱きしめ、早口にそうまくし立てた、話の内容からこの人が雪ノ下の姉である事は解るんだが。

 

 「ちょっと、やめて姉さん暑苦しいわ離れて!」

 

 「あっ、ごめんごめん、久しぶりだったからつい、にゃハハハっ…。」

 

 雪ノ下の苦情に慌ててその身を離し、頭を掻いて苦笑する、雪ノ下姉。

 その容姿は、髪は雪ノ下よりも短いが顔立ちは流石に姉妹だけあって、面立ちもよく似ている、然しその身体付きは雪ノ下と比べると幾分ふくよかで、その胸部を飾る膨らみは…由比ヶ浜には劣るものの、中々に豊かな物をお持ちの様だ。

 

 ふぅ〜セーフ、誰の殺気も感じなかったぞ、どうやら俺もワンランク成長した様だな、多分誰も褒めてはくれないだろうし、此処は一つ俺が褒めてやろう。

 

 『偉いぞ俺!』

 

 と思っていたら、小町が俺に冷たい視線を送っておりまするわ、ヤバいどうやら小町には俺の思考が筒抜けの様だ、止めて小町そんな目でお兄ちゃんを見ないで!

 

 「……………。」

 

 

 「あっ、ごめん雪乃ちゃんお友達と一緒だったんだよね、初めまして雪乃ちゃんのお姉ちゃんの雪ノ下陽乃です、よろしくね。」

 

 何ともまぁ、雪ノ下と比べて社交的と言うか何と言うか、雪ノ下にも引けを取らない、いや、年齢の分だけ熟成されていて尚且つ少し違うベクトルの美しさを醸し、更に妹を超えるプロポーションとその…おそらくは誰に対してでも発動されているであろうと思われる社交性とそれを彩る笑顔。

 

 「…はっ、初めまして由比ヶ浜結衣と言います、ゆきのんはあたしの大切な友達です。」

 

 「えっと、雪乃先輩の後輩の一色いろはと言います。」

 

 「うす、比企谷八幡っす。」

 

 「短っ、お兄ちゃん短いよ、あっどうもお兄ちゃんの妹の比企谷小町です、よろしくお願いしますね陽乃さん!」

 

 由比ヶ浜も一色も雪ノ下姉の美貌と愛想の良さに圧倒されている様だな、しかし小町と俺としては舞姉ちゃんと云う真の絶世の美女を、子供の頃から見慣れてるし大した感銘を受ける事も無いって訳だ。

 そして俺には、この姉ちゃんから葉山と通じるそこはかとない胡散臭さが感じられた。

 いや葉山なんぞ比べ物になら無い位だな、だから俺はこの姉に警戒心を抱かすにはいられないと感じてしまった。

 

 「そっかそっかぁ!皆、雪乃ちゃんと仲良くしてくれてるんだね。」

 

 「そして君が比企谷君かぁ、なる程なる程ぉ…。」

 

 しげしげと、色々な角度から雪ノ下姉は俺の事を眺め回す、その眼光はさっき迄の愛想の良さげな印象が鳴りを潜めている…。

 そして俺にはそれがまるで、新たに見つけた獲物に舌なめずりをする、爬虫類の様な陰湿な物を感じられた。

 おそらくはこの場でそれに気がついているのは俺だけでは無いだろうか。

 

 「家の母さんは君の事を、歳に似ず鋭い眼光と思慮深く優しい心根を持った、今時稀有な少年だって言っていたけど…いやぁ中々どうして眼鏡の似合うクールで、イケメンな男の子って感じだよねぇ。」

 

 「ハァどうも、恐縮でもして見せればいいんですかね。」

 

 だが、…この姉ちゃんから感じるこの二面性の様な物は一体、どの辺に目的があるのか。

 いや、この姉ちゃんの表面的な社交性については理解出来る所もある、県議とは云え代議士でこの千葉では比較的大きな建築土建屋の家の長女だ、それこそ銀英伝の門閥貴族が開く華やかな社交界のパーティーと迄は言わないが、其れなりの公の場に駆り出される事も多々あるのだろうと想像できる、そこで身に着けたこの姉ちゃんなりの処世術って奴なんだろうが。

 

 「いやぁイイね君、流石は家の母さんが気に入っただけの事はあるって訳だね…ところで比企谷君、雪乃ちゃんとはもうキス位は済ませたのかな♡」

 

 「「ハァァァァ!!!???」」

 

 由比ヶ浜と一色が雪ノ下姉のトンデモ発言に驚愕の声を挙げた。

 うんありがとう君達、本当は俺も挙げかったんだ。

 全くこの姉ちゃんはいきなり何を言い出しやがるんだか!

 

 「なっ、何を言い出すのかしら、姉さん…私と比企谷君はまだそんな関係では無いわ。」

 

 ちょっ、雪ノ下お前まで何を言い出すんだよ、姉ちゃんのおちょくりに乗らないでよ。

 

 「あ〜っ、ゆきのん!ズルい!!」

 

 「そうですよ雪乃先輩、どさくさに紛れて自分だけ、抜け駆けしようとしないで下さい!」

 

 ほら言わんこっちゃ無い、こうなるでしょうが、君分かっててやってるよね。

 

 「へえ〜、なぁんだ比企谷君、モテモテじゃん!このっ、このっ!」

 

 くっ、肘でボディをツンツンしないで頂けないでしょうかね、雪ノ下姉!

 その作り込んだ、気さくで物分りが良くてノリのいい年上のお姉さんキャラ、やり過ぎると鼻につきますよ。

 

 「そうなんですよ陽乃さん!いやぁ妹としては、兄に突然訪れたモテ期にワクワクが止まらないって感じなんですよねぇ!」

 

 そして小町、お前も余計な事を言わないの!

 

 「ほうほう、それはそれはニヤニヤも止まらなくなりそうだね小町ちゃん。」

 

 何?何で君達はそんなに、意気投合なんかしちっゃったり、なんかしてんのかな、僕には解らないよ。

 

 「いやぁ、雪乃ちゃんのお姉ちゃんとしては残念だけどさ、コレはこれで楽しめそうだなぁ!」

 

 …あぁ、なんか相手にしているのも疲れて来るわこれ、マジで何がしたいんだこの姉は、端から見てりゃ妹とその友達と偶然出会って、その交友関係に興味が湧いただけに思えなくも無い、てかそれも多分にあるだろうが、ああもう面倒クセえ〜…。

 

 「ところで雪ノ下のお姉さん、あちらにいらっしゃる人達ってお姉さんのお連れの人達じゃないんですか。」

 

 先程、この姉が現れた辺りから、俺達が居るこの場所より数メートル程離れた位置に居る五、六人の男女の一団はこの姉の連れだろうと思われる、さっきからその場で動かずに此方を伺っているようだからな。

 

 「あっちゃぁ、そうだったゴメンネ雪乃ちゃんとお友達の皆、私も友達と一緒だったんだよね、いやぁお姉さんうっかりだよ。」

 

 そうそう、それで良いですから…早くドコカへ行ってください、マジで。

 

 「と言う訳だから雪乃ちゃん、たまには実家にも顔を出すんだゾ!」

 

 「ええ、分かってるわ。」

 

 うんうん、そんな感じで良いですよ、早く去れ姉よ風の如く去るのだ!

 俺はこの姉が、一刻も早くこの場から離れてくれる事を期し願っていると、当のその姉は、去り際に俺の耳元で囁く様に言った。

 

 『君が雪乃ちゃんが変わる切っ掛けを作ったんだね、コレからも私を楽しませてね義弟君!』

 

 …………この姉は、何を勝手に義弟認定してやがるんだ、人の将来を勝手に決めんじゃねえっての!

 

 「それじゃあ皆、またね。」

 

 雪ノ下姉は愛想の良い笑顔で手を振りながら、友人達の待つ方へと去って行ってくれた。

 たく、何が私を楽しませてねだ、他人はてめぇが愉悦に浸る為の道具じゃ無えんだからな。

 

 「なんか、凄い人だねゆきのんのお姉さん…。」

 

 「そうですね、あんなに綺麗で人当たりも良くて、まさに完璧超人って感じですよね。」

 

 そうだな一色、それを演技でやっているところは、俺も凄いと思わなくも無いが…。

 

 「ああ全く、よくもまああそこ迄演じられる物だよな。」

 

 「比企谷君、貴方はあれが解ったと言うの、流石ね。」

 

 そりゃな、あそこ迄わざとらしけりゃ気が付くだろう、妹の友人達にまで気さくに接する気の良いお姉さん、しかも男にまでスキンシップを仕掛けそれでいて嫌な素振りも見せない、例え相手が俺であろうと、それこそ材木座であったとしても変わんねぇだろう。

 マジで、上手いことそれを演じていたよ、けど俺を見る眼はそれだけじゃ無かった、明るさの裏に潜む陰湿さみたいな感覚を中てられた気がするわ。

 

 「なぁ雪ノ下、お前前に古武術を習っていたって言ったよな…それってあの姉ちゃんも一緒にだったんだろう。

 そしてその実力は姉ちゃんの方が上じゃ無いのか。」

 

 「…そこ迄解るのね、ええその通りよ比企谷君、姉さんは私では至れなかった奥義まで伝授されたわ、何事も常に私の先をそして上を征く…そんな姉さんに憧れ追いつこうと私は藻掻いていたの。」

 

 藻掻いていたって事は今はそうじゃ無いって事だよな、前に葉山がそして今雪ノ下姉が言った様に、雪ノ下は変わり始めている。

 

 「誰もが恐れていた私の母に対して意見を言える人と出会って、私は姉さんの後追いをするだけでは無く違う道があるんだと気付かせてくれたのよ。」

 

 「左様で…。」

 

 まぁあの母ちゃんはな威圧感半端ねぇからな、格闘家の放つ闘気とはまた違うプレッシャーを感じさせるってか、政治や事業の世界で海千山千の猛者や或いは亡者みたいな人間と相対して来た経験が作り上げた圧力なんだろうな。

 雪ノ下もあの姉ちゃんも、ずっとその圧力の下に押さえつけられていた、と言うか押さえつけられていると思ってる、雪ノ下の場合は思っていたのか。

 今の雪ノ下は自分の道を試行錯誤しながらも模索してんだよな。

 

 「まぁ俺としては、厄介事が俺の身に降りかかんなきゃそれで良いけどな。」

 

 「…………。」

 

 

 

 

 

 先週までのジメジメとした湿気も感じられないくらいに晴れ上がった青空が眩く輝く、梅雨の合間の日本晴れ。

 今日はそう呼ぶに相応しい日だ、と同時にその輝く太陽は既に夏を感じさせる程の熱量を立ち地に叩きつけている。

 

 「それでは、これより奉仕部による略式誕生会を始めたいと思います!。」

 

 略式誕生会ってのは、本当に簡単に部室内で済ます誕生会って事だ、交友関係の広い由比ヶ浜の事、どうせ後から部員以外の面子も集まって本格的に祝うだろうから、先に部員だけで軽く祝っておこうとの提案より始まった行事た。

 何をやるのかと言うと、誕生日の祝の言葉を贈り、雪ノ下の淹れた紅茶とお菓子を食って駄弁るだけ…要は依頼の無い時の俺達の日常と何ら変わらないって事だ。

 

 「結衣先輩、誕生日おめでとうございます!」

 

 「おめでとう由比ヶ浜さん。」

  

 「おめでとう…ゆっ、結衣…。」 

 

 一色司会の元進行して行く、誕生会は和やかに進行して行く。

 

 「今年もありがとうみんな、えへへぇちょっとの間、ヒッキーとゆきのんよりあたしがお姉さんだね!」

 

 そう、学年が下の一色は兎も角、六月生まれの由比ヶ浜、八月生まれの俺、そして雪ノ下は一月生まれと、確かに生まれの順番で見るとそうなるって訳だ。

 

 「…そうだな、年齢に精神が噛み合えば言う事なしだけどな、お前は見た目幼く見えるからな。」

 

 極々一部はとても大人だが、身長は割と低めで童顔だからな。

 

 

 「もう!ヒッキーってばまたそんな意地悪な事言ってたまには素直に褒めてくれたって良いじゃん!」

 

 「そうですよせんぱい!こういった席で今のセリフは無しですよ。」

 

 「あ〜、悪りぃ解ったよ俺が悪かったスマン。」

 

 いやホント、折角の祝の席でその主賓の機嫌を損ねちゃ不味いか、反省すべきだなコレは。

 

 「意地悪の罰としてヒッキーはあたしとデートする事、良いよね約束だよ!」

 

 ニコニコ笑顔で右手の小指を差し出す由比ヶ浜の顔にはもう、不満の色は消えていた。

 一色の誕生祝の時の前例があるし、しょうが無い…それに由比ヶ浜なら俺を、ランジェリーショップに連行するなんて恐ろしい事しないだろうならな…しないよな、頼むぞ由比ヶ浜。

 

 「あぁ解ったよ約束だ。」

 

 俺も右手を差し出しその小指と小指を絡めて、おそらく十年以上振りに指切りげんまんなんぞをやってしまった。

 

 『指切りげんまん、嘘ついたら…』

 

 ところで指切りげんまんで嘘付いて、マジに針千本飲んだ人って居るのか?

 居ないよな、そんなマゾい、体内からアイアンメイデンの刑みたいな事やる奴もヤラせる奴もさ…。

 

 

 

 

 

 部活終了後、改めて由比ヶ浜結衣生誕祭を開催すべくその開催地へと向う。

 

 参加者は、俺達奉仕部一同と戸塚、葉山グループに小町…そして仲間に入りたそうにしていた材木座を加えた、総勢十三名に及んだ。

 その会の内容は割愛しよう、しかし由比ヶ浜が心のそこからこの会を喜び、また参加した皆に感謝している事は全員に伝わっていた事だろう。

 目尻に光る雫も笑顔も、全ては喜びと感謝から発せられている物なんだ、由比ヶ浜のはな。

 

 雪ノ下の姉、雪ノ下陽乃…その笑顔の作り物めたさに嫌悪の感覚を抱き。

 由比ヶ浜結衣の笑顔に、癒やされた様な気持ちにさせられる。

 

 二人の女性の笑顔の質の違い、願わくば由比ヶ浜はじめ俺と友誼を結んだ女性達にはあんな歪な笑顔の仮面を被らなければならない様な、そんな人生を送って欲しくは無い…俺としてはそう思わずにはいられない。

 

 

 

 因みに、由比ヶ浜結衣生誕祭会場は、お馴染みになりつつある『パオパオカフェ日本一号店』であった事だけは明記しておこう。

 

 PS、バイト中だったサキサキは誕生会には参加出来なかったが、それでも祝の言葉を由比ヶ浜に贈った様だ。

 

 サキサキ良い奴。

 

 

 

 

  

 

 

 

 




一学期中、七月のエピソードは番外編や二学期への変更として、次回から千葉村篇に行こうかと思います。
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