やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

57 / 135
俺が子供達の前に出ていくのは間違っている。

 

 登戸先生の計らいで、改めてジョーあんちゃんは再び子供達に話を語る事の許可を得られた。

 

 「比企谷君、実は私は格闘技ファンでねぇ、学生時代にはアマチュアながらボクシングの経験もあるんだ、とまぁ私の事はさておき、今でも覚えているよ、我が校にあのテリー・ボガードさんが運動会の観戦に見えられた日の事をね、いやぁあの時はとても感激してしまってね、おまけにサインまで頂いて、いやぁ私はあの時程興奮を隠すのに苦労した日は無かったよ。」

 

 それは俺が小三の時の運動会ですね、母ちゃんと親父、そしてテリー兄ちゃんが来てくれたっけな、ロックの奴も運動会なんて初めての経験だったから、すげえ張り切ってたし、その雰囲気を楽しんでもいたしな。

 でもこの登戸先生のカミングアウト、すげえ嬉しいな、もしかするとこの先生なら留美の置かれた現状を解決する為に動いてくれるかも知れない。

 出来る事なら俺も在学中にこの先生と出会いたかったな、そうしたら当時の俺の状況も多少はマシだったかも…いや過度の期待は禁物だな、登戸先生だって普通の人なんだ全てを見通す眼を持っているわけでも無し、ましてや全知全能には程遠いんだからな。

 登戸先生も気が付かないからこそ、今日までの留美のクラスの問題があるんだから…。

 

 「出来れば後程ヒガシさんと不知火さんのサインも頂きたいものだねぇ。」

 

 ハハハッ、結構ミーハーなんですね登戸先生って…でもこの先生の存在は嬉しい誤算ってヤツだな。

 俺はあの花月園先生とやり合う覚悟でいた、あの…ちょっとイカレポンチな先生と。

 けど、登戸先生の介在でそれは防がれた、有り難い事にだ。

 

 「登戸先生、この度は私共の落ち度で多大な迷惑をお掛けして「いや、平塚先生あなた方には、何らの落ち度もありませんからどうか頭をあげてください、そう畏まられては此方が困ってしまいますよハハハッ。」ですが…。」

 

 平塚先生の謝罪を登戸先生は必要無しと止めると、平塚先生の表情には申し訳の無さが滲み出ている。

 元はと言えば、俺が言い出しっぺなのに、こうして先生達にまで心労を…。

 

 

 

 

 

 「あ〜ちょっとばがり、グダついちまったな、皆スマン!」

 

 ジョーあんちゃんのその一言により、トークショーは仕切り直された。

 ただし、今度はその趣向をすこし変えてみた様だ。

 あんちゃんは子供達に自身が先程話した内容について問い掛け、それに付いて子供達がどう思ったかを聞くと言うスタイルにだ。

 あんちゃんが話したタイの子供達に現状に付いて、可哀想だとか助けてあげたいだとか、実に子供らしい言動で以て答えている。

 

 「そうだな…皆ありがとうな、皆がそんなふうに思ってくれて俺は嬉しく思うぞ、だけどそれは俺の居るタイだけの話じゃ無いんだ、他にもいろんな所でいろんな人が困っていたり苦しんでいたりするんだ、俺は昔っから勉強なんてほとんどやらなかったし、ムエタイしか知らない様なモンだからな、その方法でしかやれない訳だ…だから皆は、皆なりの勉強をして俺よりも、もっと良い方法で困っている人を助けてやれる大人になってくれよな!」

 

 『はい!』

 

 生活の為にまだ年端も行かない子供がリングへ上がる、しかもそれが賭けの対象になっていたりして、詳しくは解らないが裏社会なんかも関わっているのかも知れない。

 そしてリング禍によって失われた小さな命、その悲劇を少しでも減らそうと、あんちゃんは門下の子供達に正しい技術を、身を守る術を教えているんだ。

 無論、元来ケンカ好き格闘好きな人だから、才能のある子を鍛えて強くしてやりたいって気持ちもあるだろうし、案外弟子を鍛えて将来自分がその子と仕合おうとか考えてるのかもだけどな。

 

 「さっきのあの先生…俺の思想の、気持ちの、その行き着く先は…俺も…あんなふうになっていたかも知れなかったんだよな。」

 

 いつの間にか、葉山の奴が俺の隣に来ていて、嘆息しながらそう呟くように口にした。

 ちょっ、お前離れろよな…こんな所をあの腐界の住人に見られたら、またぞろ妄想を大爆発させられるだしょう!

 と、まぁ冗談はさておき、つかあの腐女子さんならどんなシチュエーションからでも妄想を捗らせそうではあるが…。

 

 「なんだ、あのキョーレツさに中てられて思うところでもあったのかよ。」

 

 「…まぁ、そんなところだよ…。」

 

 おいおい、何だかヤケに萎れていやがるじゃないかよ葉山。

 その姿、正に『しおしおのパー』状態ってか。

 まっ、しゃあないよな、葉山からするとアレはある種の強烈なカウンターパンチを喰らったようなモンだよな。

 

 「さっきのヒガシさんの言葉…紛争地帯でも行ってそれを言ってこい…何だかまるで俺に言われた様な気がしたよ。」

 

 そうか、それでコイツは今戸惑っているんだな…おそらく皆仲良くって理想は否定するつもりは無いのかもだけど、現実問題、戦争だの紛争だのをお題目だけでどうこう出来る訳が無いんだし。

 それが出来るのは『THESTAR』の『長瀬優也』位なモンだろうよww

 

 「まぁ、お前が自分を顧みて何か思う処があるってんなら、精々自分で考えて答を探しゃ良いんじゃねぇの、俺は知らんけどな。」

 

 葉山との話はこれで終りだ、何時までも腐界のお姫様?に鼻血を出させ続けさせる訳にもいかんだろうし…。

 

 

 

 「さぁて、そんじゃ次は皆の学校の事を聞こうかな、皆は学校や友達の事好きかぁ!?」

 

 『はぁ〜い!好きでぇ〜す!』

 

 ジョーあんちゃんの呼び掛けに多数の子供達が声を揃えて返事をするが、中には一部だが『学校嫌い!』とか『勉強嫌で〜す!』とか聞こえる、まぁ居るよなこう云う子供って、どっちかって云うと俺もそっち寄りだからな。

 

 「ハハハハッそうか好きか!でもまぁ中にゃあそうでも無い奴もいるんだな、けどそれでも良いんだぜ!勉強が苦手な奴だって他に好きな物見つけてそれに対して一所懸命になれれば、何も学校の勉強に拘る事は無いんだ!」

 

 ジョーあんちゃんのその発言に幾人かの子が『えっ!?良いの?』とでも言いたそうな困惑顔をしている。

 きっとその子達は母ちゃん辺りから常日頃勉強しなさいと口を酸っぱくして言われているに違いない。

 

 「まぁこんな事を皆の父ちゃん母ちゃんに聞かれると、なんて事を言うんだって怒られそうだけどな。」

 

 だな、現代の世情を考えると親って多分…まぁ家の両親は違うけど、勉強して良い学校へ行って安定企業に就職しなさいって、だから今のジョーあんちゃんの発言の様にそれを否定する大人に対しては、あまり良い顔をしないだろう。

 けどその安定の終身雇用ってヤツだって壊れつつあるんだよな、それでも親としては子供の将来の安定を願うんだろうな、知らんけど。

 ふぅ〜、つくづく昭和の時代は良かったんだなと思わずにはいられないよな。

 クレージーキャッツも歌ってたし、二日酔いでも寝ぼけていても、タイムレコーダーがちゃんと押せばどうにか格好がつくものさってな。

 そんな気楽な人生、俺も送りたいもんだよ。

 

 「ただなぁ、学校の勉強だけが勉強じゃあ無いんだぜ!例えば野球やサッカーなんかのスポーツにだってルールってもんが有るし、技術テクニックってヤツを知って身につける事だって一つの勉強なんだからな。」

 

 生徒達の中の一部、多分スポーツが好きな児童だろうな、今のジョーあんちゃんの言葉にハッと気が付かされたみたいな表情をしている。

 

 「それにそういったスポーツだって今は日本国内に留まらずに世界で活躍する選手だって沢山いるだろう、外国でプレイすんのならその国の言葉をある程度は話せた方がコミュニケーションだって取りやすいだろう、その為に言葉を学ぶのも勉強だ。

 まぁ中にゃあんまり話せなくて身振り手振りでコミュニケーション取ってる奴も居たりするけどな。」

 

 そこで一人の男子児童が『ヒガシさんはどうだったんですか?』と質問をして来た。

 

 「俺か、さっきも言ったが俺も学校の勉強はそんなにして無かったんだ、けどムエタイで強くなる為の修行はタップリやったぞ、どうすれば強いパンチやキックが打てるかとか、身体のどの部分を鍛えればスピードや防御力が強化出来るかとかな、あとはどんな必殺技がカッコイイかとか、こう見えてそこら辺は考えてんだぜ。」

 

 そして今はきっと指導者として、後進を育てる為の勉強もしているんだろう。

 このオッサン、普段は『俺様は天才だからな、ナァハハハハッ』とか言って高笑いしてるけど…。

 

 「じゃあ此処らで違う話を聞くかな…そうだな、皆は友達は居るか!?」

 

 来た、いよいよ本題に突入だ。

 

 その質問に児童達は元気に『は〜い』と、「は」と「い」の間を伸ばして返事を返す、その発声が如何にも小学生っぽいよな。 

 そう言えば、何時ぐらいから何だろうかな、伸ばさなくなるのは。

 俺は小学生の頃は、ってか中学の時もだけど友達とか居なかったから、友達の家を訪ねてその子の名前を呼ぶなんて経験無いから………クッ、またしても眼から汁が、まぁ良い、子供って友達の家を訪ねて呼び出すとき『○〜○〜く〜ん、あ〜そ〜ぼ〜!』って言うよな、えっ何故ボッチだった俺か知ってるかって?

 …そりゃあお前、俺だって低学年の頃は、まだ夢見るお年頃だった頃はな、何時友達が出来ても良い様に、何時友達の家に遊びに行ってもバッチリとその子を呼び出せる様にシミュレーションしていたんだよ!

 俺は割と凝り性だからな、その辺に抜かりはなかったんだよ昔っから…けどそのシミュレーションの成果を披露する機会はついぞ訪れなかった訳だ。

 

 そう、俺は待っていたんだ…『8歳と9歳と10歳の時と12歳と13歳の時も僕はずっと……待っていた!』何をって!?そりゃクリスマスのプレゼ…じゃ無い、いつかわが町にもプラモ屋の『クラフト・マン』が、開店してその二階には『プラモシミュレーションマシーン』があって、そこで俺は俺の作ったガンプラで『プラモシミュレーションゴー!』出来るんだって!

 そしていつか狂四郎の『パーフェクトガンダム』をも超える俺の『ガンプラ』を作り上げる事を!

 スマン嘘です、これは以前ウチの親父が言っていた事です、親父コレクションの『プラモ狂四郎』を俺か読んでいた時にシミジミと親父が言っていた事で、俺とは何ら関係まりません。

 でもな親父の奴、プラモ狂四郎全巻集めて無くて、途中で途切れてんだよ『途中で飽きた』からだと、だからその後が気になってんだ俺。

 

 「だったら皆はその友達が困っていたり、悲しい目に遭っていたりしたらどうする?さっき皆は俺の話を聞いて、タイの子供達を助けてやりたいっていってくれたよな、じゃあそれが同じ学校の仲間ならどうする?具体的に言えば虐めとかだな、そういった事に出会したら、そん時ゃどうする!?」

 

 若干名、その質問にバツの悪そうな顔をする女子児童達が居る、言わずもがな留美をハブにしている連中だ。

 本当にただ何かバツが悪いなって程度にしか思って無いですって表情だ。

 多分バレてないよねって位にしか考えて無い、そう言うところだろうな。

 

 『助けます』とか『止めさせます』とか幾人かの、如何にも正義感が強そうな児童が答える。

 それに対し冷めた目をしている児童や俯き悲しげな表情を見せる児童も居る、どうやらその娘達は瑠美と同じ目に遭った被害者達だろう…。

 その傷はまだ癒えずなのか、或いは再び自分にお鉢が回ってこないかと恐れているのか…。

 

 「なる程そういう事ですか…。」

 

 登戸先生があんちゃんの言葉から察してくれた様だが、申し訳無い事にその面貌は苦味が滲み出ている。

 

 「そうか助けるか、今言った子はそう言うの見掛けたら本当に助けてやってくれよな!」

 

 『はい!』と元気良く答える正義感ある、子供達に笑顔でジョーあんちゃんは『良しゃあ!』と応える。 

  

 「でもな今助けるって言ったけどよ、俺の見たところそう出来ていないんだよな…。」

 

 えっ?どういう事、って無関係な子供達は思ってんだろうな。

 

 「やはりそうですか…。」

 

 無念そうに登戸先生が呟く…やっぱりこの先生は信頼出来る人の様だな。

 

 「…すみません登戸先生、これを仕組んだのは俺です、俺があんちゃんと平塚先生に頼んでこの場を設けてもらったんです…。」

 

 「いや、比企谷君なにも謝罪の必要はありません、我々は以前の君が体験したそれと云う前例があるにも関わらず、現在虐めを受けている児童が居ると云う現実を見落としていたのですからね。」

 

 登戸先生は覚えていてくれたんだな、当時受け持っていた学年は違った筈にも関わらず。

 まぁ、アレはテリー兄ちゃんとロックが映像で以てその証拠を確保してくれていたってのもあるけど。

 だけど登戸先生、子供の虐めってのも案外狡猾なんですよ、大人に見られない様に、気取られない様にと陰湿に事を運ぶ奴が多いんですよ。

 

 「昨日俺達は君らの中の一人と出会ってだなそれで、その事を知ったんだが…そうだなちょっとばかり昔話でもするかな…。」

 

 ジョーあんちゃん…昔話って、やっぱり…だよな。

 

 「あれからもう、八年っ位になるのかな、ソイツは皆と同じ小学校の卒業生でな、当時三年生だったか…。」

 

 そしてあんちゃんは語り始める、俺とあんちゃん達との出会いの経緯、それが俺に対する虐めに端を発する事だと。

 それを聞き『酷い』だとか『可哀想』とか呟く子供達。

 

 「…まぁ俺が言うより本人から直接話してもらった方が、良いのかも知れないな…おい八幡、コッチ来い!」

 

 名指しでジョーあんちゃんは俺に声を掛け、前へ出る事を促して来た。

 しかも俺に直接語れって…いや、こうなる事も実は内心俺の計算の内だったりする、これを計画したのは俺だ。

 『これも計算の内か八幡!』と言う…奴は居ないか。

 言い出しっぺが何もしないって訳にもいかないだろうとも思っていたから。

 だから俺は一発此処で腹を括んなきゃならないよな。

 

 児童達も『えっ、本人が居るの?!』って感じの意想外って表情をしている。

 そして、留美は…其れこそ心底驚いたって表情だな、意外だったか留美?

 さしずめそれは、『黒騎士ブラブォード』の攻撃手段が自身の髪の毛だった事を意外に思ったジョナサン・ジョースター一行の如く…って違うな、うん。

 

 「…うす。」

 

 「お兄ちゃん…。」

 

 「…ヒッキー。」

 

 「せんぱい…。」

 

 「…比企谷君。」

 

 呼び掛けに返事をし俺はジョーあんちゃんの隣へと歩を進める、その最中、小町と由比ヶ浜と一色と雪ノ下の四人が心配そうに小さく声を掛けてくれた。

 その四人の表情を、俺は見てはいないが、きっと…。

 

 「お願いします、比企谷君…責任は私が取ります。」

 

 登戸先生までもが、その責任を取ると言ってくれた。

 ここ数年、俺は尊敬に能う年上の人と出会う機会が増えた気がする、テリー兄ちゃん達兄貴分とは別に。

 雪ノ下のところの都筑さんからバイト先の運送屋で働く皆さん、初めてのガチで仕合ったリュウさん(結局あの時は、ほとんど俺の攻撃はリュウさんに通じなかったけど、けどあの経験があって俺は格闘者として一皮向けたって気がする)平塚先生もか、それからマイヤさんと…。

 

 

 「おう、お膳立ては整えておいたぜ八幡、お前端っからこうなる事を見込んでたんだろう。」

 

 …俺、ジョーあんちゃんに話さなかったよな、なのにあんちゃんは俺の思惑に気が付いて居たんだな。

 

 「サンキューなあんちゃん。」

 

 おうよ!とあんちゃんは俺の礼に答えてくれた。

 

 「一丁決めろや!」

 

 俺の肩に手を置きジョーあんちゃんは良い笑顔で、もう片方の手でサムズアップを決めた。

 相も変わらぬ、悪ガキがそのまま大人になった様な、憎め無い笑顔で。

 

 「…うす!」

 

 それじゃ始めるとしますかね。

  

 

 

 




関係ありませんが…。
ごちうさ三期に桑ちゃん(桑原由気さん)キター!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。