やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
これから俺は、ジョーあんちゃんと仕合う、それに辺り子供達始め先生方と序に葉山達にも闘う為のスペースを確保する為に下がってもらった。
ジョーあんちゃんとの仕合いを目前に控えて、俺の側には今、小町と雪ノ下、由比ヶ浜、一色の四人が集う。
両の拳に新調したグローブを装着(テリー兄ちゃんのヤツと同じタイプだ)し、その感触を確かめる。
まぁ買う時に一度試して見たからピッタリなのはわかってるけどね。
確認が終わり俺は皆に向き直り、一言告げた。
「あ〜、なんだかスマン…皆にも嫌な思いをさせちまったかな。」
皆の俺を見る目がとても悲しげで、まるで辛い何かに耐えているかの様な、そんな表情の様に俺には見える。
いくら昔の事とはいえ、あんな話を聞いたんじゃあ、皆良い気分では居られないよな。
「…そんな事無いですよ、せんぱい…ただちょっと驚いているだけですから…だって私、せんぱいが、あんなにも酷い目に遭っていたなんて思いもしなかったから…ぐすっ…なのにせんぱいはずっと優しい心を無くさなかったのかと…うぅっ…そう思うと私は…。」
「ありがとうないろは、でも出来れば泣かないでくれないか…そのだな、俺はお前たちの涙が、苦手っつか弱いってかさ、そのな、俺はお前達の笑顔が好きなんだ…だからお前にも笑っていて欲しいんだよ…。」
一色は話しながら感情が昂ぶってか泣き始めてしまい、其れを由比ヶ浜が宥めている。
俺の頼みに小さく『はい』と答えてくれて、涙を止めて笑顔を見せてくれようとしているんだ、ありがとうないろは。
「私もよ比企谷君…私は自分が恥ずかしいわ、貴方が遭ったそれと比べると私が体験した虐めなんて、児戯にも等しいレベルの物だったのね…なのに貴方はその私に『お前は頑張ったんだな』と言って私を認めてくれたわね。」
そして雪ノ下も…嘗て彼女が体験したと言う虐めの話を何時だったか俺達に話してくれたっけ。
「其れは違うぞ雪乃、虐めと言う行為にレベルだの何だのありやしねぇんだ、お前はその虐めに対してお前なりに闘いを挑んだ結果そういう事になったってだけだろう…俺はお前と違って兄貴達と出会うまで闘う事なんか出来なかったんだからな、だからやっぱお前は頑張ったんだよ、すげぇんだよ。」
その虐めに葉山が何らかの形で関わって、その結果があまりよろしく無かった為に雪乃はそれ以後孤高を貫き、それに依って頑なで意固地な気質になってしまったンだろう、けれどそれも俺達と出会って変わって行った、特に結衣といろはの二人の存在が大きいのだろう、彼女にとっては初めての同性の友人が出来た事が。
今でも多少ぎこち無さを感じる時もあるが、初めて出会った頃よりも柔らかく優しい笑顔を見せてくれるようになったな。
「ヒッキー…。」
結衣が小さな声で俺に声を掛け、そしておずおずとした仕草でそっとおれの右手を自らの両手で包んでくれた。
その手を結衣は自分の胸元近くへと導きって…おい!ソレは不味いんじゃあねぇのか!?
止めてこれ以上行くと『男の子だもんね息子は。
男の子を産んだんだから、仕方無いよね。』って劇場版『銀河鉄道999』のトチローのお母さんの名言をつぶやく羽目になっちゃうからぁ!
…と思った時期が俺にも在りました、結衣はその辺きちんと弁えていらっしゃった様で御座いまして、なので俺の右手が其処に触れる事はなかった。
べっ、べちゅに残念だなんて思っていないんだからね!
「あたしちっとも気づかなかったよ、あの時の男の子がヒッキーだったなんてさ、その男の子がそんな辛い思いしてるなんて…なのにさヒッキーはそんな目に遭っても優しい男の子で、その子にあたしは恋をしてさ、また会えるって思ってたけど会えなくて、いつの間にかあたしは諦めて…。
入学式の日にサブレを助けてくれた男子にあたしは恋をしてさ、その男子があの男の子だったらな…何て思った事もあるんだ。」
…ありがとう結衣あの日俺は、嬉しかったんだよ、お前が俺に普通に接してくれた事がさ。
兄貴達とあの時の女の子、あの一日でそれ迄の辛かった日々が、充実した日々にガラリと変わったんだよ。
世の中はあんな奴等ばかりじゃ無いんだって、優しくて暖かい人達も居るんだって、それが解ったんだからな。
俺もまぁ、あの女の子にまた会えるなんて思ってもいなかったけど。
「でもさ、あたしってきっと幸せなんだ、だって同じ人を二回も好きになったんだもん。」
「結衣先輩抜け駆けはズルいです!私だってせんぱいが本物の初恋の人なんですからね!」
「あら、奇遇と言うべきかしらねいろはさん、私の初恋の相手も比企谷君なのだから。」
いろはが俺の左手を取り、雪乃までもがいろはと共に俺の左手に其の手を添える。
3人の手から暖かさが伝わって来る…来るのだが、何このこっぱずかしさ!?
これって端から見れば、ある種の公開処刑じゃね?
うわ〜ジョーあんちゃん、メッチャこっち見てるよ…『闘いの前に随分と余裕があんだな!?』とか思ってそう。
うわっ何そのニヨニヨ顔微妙にむかつくわぁ。
「ムフフフフっ、お兄ちゃん小町は決めました!雪乃さんと結衣さんといろはさんには比企谷家にお嫁に来ていただきます、これは決定事項です異論は認めません!。」
ハァァァァァァァァァァァァァァ!?
何言うてますのん?、じゃあねぇっ!何言ってんのさ我が妹様はよ!?
「ちょっ!おまっ…何考えてんだよってかそんな事出来る訳がねぇだろうが、この国は一夫一婦制であって一夫多妻制じゃあねぇんだからね!ってかだったとしても、そんな「と言うのは冗談なんだけどね♡」…ハァ…お前なあ!」
ジョーあんちゃんのそれと変わらないニヨニヨ笑いを満面に浮かべ、冗談だと言う小町だが…言って良い冗談と悪い冗談って物があるだろうがよ。
全く心臓に悪いったらありゃしない、大体がそれじゃ皆に失礼だろうよ、いや三人共此れだけの好意を示してくれているのに、答えを出せない俺の現状…十分に礼を失していると言えるだろうけど。
「お兄ちゃんにとってさ、結衣さんも雪乃さんもいろはさんも皆掛け替えのない大切な人でしょ、小町の見立てではきっとお兄ちゃんはこのまま、三人の内の誰かを選ぶなんて出来ないって思うんだよね…だったらさ、ここは一つ三人まとめて面倒みよう!位の事言いなよね、お兄ちゃん♡」
「えーい!こうなりゃ俺も男だ皆まとめて面倒みよう、言いたかないけど面倒みよう…ってまたクレージーキャッツのネタやらせるつもりかよ!!
てかな、今時クレージーキャッツのネタとかやるの俺達兄妹か、吉岡平先生の『無責任艦長タイラー』を始めとする、『宇宙一の無責任男シリーズ』位のもんだよ、それさえも俺達が産まれるずっと前の作品なんだからな!」
小町に対する俺のツッコミが虚しく響き渡る。
コレから一世一代の大勝負に挑もうってのに、その前に気力ゲージをメッチャ削られちまったよ……トホホ…。
ジョーったら凄く嬉しそうな顔をしてるわね、その気持は私にも十分に理解できるわ。
バンテージを巻きながら、その瞬間が訪れるのを今か今かと、もう待ちきれないって顔をして。
「遂に来たわねジョー、この時が。」
「まぁな、あれから八年か…長かったようで案外早かったって気もするぜ、あのちっこいのがよ、今じゃ随分と図体もデカくなりやがってよ、一端の格闘家の仲間入りをしようとしてるってんだからな。」
本当にどれだけ嬉しいのよ、でもそうねこれがジョーでなくアンディやお兄ちゃんだったとしても、きっと今のジョーみたいな表情をしてるんでしょうね。
「あの、ヒガシさん不知火さん…。」
あらこの子は彩加くんだったわね、本当にこの子が男の子だなんて、一見すると信じられないわよね。
結衣ちゃん、雪乃ちゃん、いろはちゃんにも負けないくらい可愛らしいだなんて…もしこの子が女の子だったら、八っちゃんもしかしたら告白してたかもね。
「おう、彩加坊どうした、何か用かっつか八幡達の所へ行かなくても良いのかよ。」
…彩加坊って、ジョーってばもっと違う呼び方は無いのかしら、本当にセンスの欠片も無いったら有りゃしないわね。
全く…静さんも、こんなのの何処が良いんだか…。
でも一体どうかしたのかしら彩加くんってば、八っちゃんじゃ無く私達の所へ来るなんて。
「…はい、今はあの五人の中に入っちゃいけない気がするんです。
八幡にとって彼女達は特別な存在なんです、だから今は僕は行っちゃ駄目なんです。」
はあ、何この子!?すっ…ごい良い子じゃないの!
八っちゃん達の思いを汲んで、自分も八っちゃんの所へ行きたいでしょうに。
私とアンディの間に男の子が出来るなら、八っちゃんみたいなワイルドな感じの目の男の子が良いかなって思ってたけど、彩加くんみたいな可愛い系の男の子も良いかもね。
私とアンディとその子の三人で、親子でお揃いの服を着て街を歩くのも悪く無いわ!
「ほぉう…そうか悪ぃな彩加坊、気ィ使わせちまってよ、で、どうしたよ?」
「…あのヒガシさん不知火さん、ありがとうございます!」
えっ?彩加くん、いきなり何かしら…私達何かお礼を言われる様な事をしたかしら。
「あ〜ん?何だ彩加坊、薮から棒に礼なんてよ…一体どうしたってんだ!?」
そうよね鈍感男のジョーだってこれは訝しいって思うわよね。
「あの…今の八幡が居るのは、ヒガシさんと不知火さん、そして此処には居ないボガードさん達が、八幡を救ってくれたからなんですよね。
だから僕達は八幡と出会えたんだと思うんです、もしそうじゃ無かったら僕達は八幡と出会えなかったかも知れなかったんじゃないかって、だからありがとうございます。」
ヤバいわ!この子凄くヤバい、思わず家の子にしてしまいたい位にヤバいわ!
もう、なんて良い子なのかしら、寧ろお礼を言うのは私達の方だと私は思うんだけどな。
「何だそんな事か、寧ろ礼を言うのは此方だぜ彩加坊、ありがとうな八幡の奴とダチになってくれてよ。
それと、コレからもアイツのダチで居てくれるか!?」
「はい!」
うん!良い返事ね、本当にこれからも八っちゃんの事よろしくお願いね。
小さくお辞儀をして去って行く彩加くんを見送りながら、ジョーが嬉しそうに呟いた言葉は私と同じ思いだった。
「八幡の奴、ようやっと本物のダチって奴と出会えたんだな。」
「えぇ私もそう思うわ、でもジョーあんたも結構お兄ちゃんしてんじゃない、まぁあんた可愛くって仕方が無いのよね八っちゃんの事!」
「うっせぇ、気色の悪い事言ってんじゃねえ!」
ふふふっ、無理しちゃって。
嬉しいなら嬉しいって素直に言いなさいよね、かく言う私もその気持は同じなんだけどね。
あの小さかった男の子が今、一人の男として独り立ちしようとしている。
その第一歩が、これから刻まれるのよね。
でもこのカード、アンディ達も見たかったでしょう、後で知ったら悔しがりそうね、まぁだから私が代わりに見届けるわ。
「それよりも舞、審判の方は任せたからな!」
ええ、任されたわ、だから安心して全力で闘いなさい。
さて、そろそろか……今の俺が果たして何処迄喰らいつけるかな、相手は全盛期は過ぎたとは云え、チャンプに迄なった相手だし、その技は円熟の域に達しているんだ、ムエタイのリングにこそ上がる事は少ないとは言え、その他の格闘技の大会のリングではまだまだ現役だ。
…まあ其れは兄貴達三人皆に言える事なんだけどな。
それに、ロックの奴も今頃サウスタウンで開催されている大会に、テリー兄ちゃんと共に出場してるって言うしな。
「…だから、俺も負けちゃあいられないよな。」
「どうかしたのかしら、比企谷君?」
俺の呟きの声が聞こえたのか、雪乃が俺に声を掛けて来た、小さく囁いた程度の音声だったと思っていたんだが、聞こえたのか。
いろはと結衣もまた心配そうに俺を見つめている。
まぁ小町の奴は何時も通りな感じで、心配の欠片も感じさせない表情だけど。
「いや、何でもない…アレだちょっとした決意表明って奴?
だから、そのな、サンキューな…つかそろそろ時間だからな、四人共離れてくれるか。」
俺は皆にそう促す、此処は間もなく戦場(いくさば)ってのは大袈裟だよな、かと言ってリングでも無いし…闘技場って言っちまったら、今宵は満月時はそれ、場所は千葉村のつどいの広場の一角…って何だかなぁ『ピッツベルリナ山山麓』とか『骸骨の踵石』に比べると地名がイマイチだよな。
「…ヒッキー、あのさ…帰って来てくれるよね、あたし達の処へ絶対帰って来てね。」
…今の結衣の言葉はきっと、三人の共通の思いなんだろうな、其れを代表する形で結衣が言葉として紡いだんだろう。
その気持ちに、此処で応えないのは男じゃあ無いよなぁ。
「まぁ当然だろ、轟く叫びを耳にしてウルトラマンは帰ってきたんだからっ、てか何か今の言い方は今生の別れみたいじゃないかよ、あれか俺は最終話で地球を去って行く郷さんなの、お前たちはウルトラの星へ帰還する俺にウルトラ5つの誓いを空へ向かって叫ぶの?」
とは思うんだが、何だかむず痒くってちょっと茶化す様に言ってしまっいました。
「…ハァ、ホントにせんぱいは色々台無しにしてくれますよね、ホントにもうですよ!」
「…これだからお兄ちゃんはゴミィちゃん何だよ。」
つどいの広場の闘技場として与えられた空間には俺とジョーあんちゃん、そして審判役の舞姉ちゃんの三人が残り、他の皆は其処より十分に距離を取って其れを見守っている。
ジョーあんちゃんは上着のジャージを脱ぎ、Tシャツに短パン両手にはバンテージを額には日の丸の鉢巻を巻いた姿で闘うつもりの様だ。
ムエタイの衣装では無いんだな、シューズも履いたままでやるんだな…。
対する俺は、ジャージの袖を腕まくりをして両手には指貫きのグローブを頭にはテリー兄ちゃんから譲られた帽子を被り、コンバースの黒のスニーカーを履いた姿だ。
「八幡よぉ、やるからには初っ端っから一丁派手に行くぜ!お前ぇちゃんと着いて来れんだろうな。」
初っ端から派手にね、解ってるよあんちゃん、付き合うよ…その派手にって奴にさ。
「当然だよ、でなけりゃ挑戦何か最初っからしないって。」
「フッ!上等!」
ニヤリと獰猛ささえ感じさせる笑みと共に一言、そして踵を返し俺から距離を取る。
俺もまた同じ様にあんちゃんとは反対方向へ歩を進める、歩数にして八歩程歩き、八幡だけに………再び俺達は互いを向き直る。
さっきのあんちゃんの、あの獰猛な笑み…俺は思わず飲み込まれそうになっちまった。
まぁ当然だよな、何せ相手は百戦錬磨の元チャンプ、ペーペーの駆け出しの俺じゃあ…って飲み込まれてんじゃねぇよ俺!
ありったけの精神コマンド全部使い切る位やらなきゃ、経験の差は縮められ無いよな。
まずは当然「集中」を掛けて命中率と回避率のアップだ、其れから「気合い×3回」で気合い130超えの技を使える様にして、更には「必中」と行きたい所だけど…相手は野生の男だからなナチュラルに「ひらめき」使って来そうだから其れは使わずに「熱血」を…イヤ此処は絶対「魂」を懸けなきゃな!
なんてな、生憎と俺はスパロボのキャラじゃ無いから精神コマンドなんて物使えないんだけどね。
だけど気持ちとしてはそれ位でなければだよな、気合いをいれて闘いに集中して魂を懸ける、それ位でなけりゃあな。
「おい!八幡、覚悟は決まってんだよな、だったらさっき行った通り初っ端から派手に行くぜ!」
くう、あんちゃんと来た日には…俺はすげぇ緊張感持ってるってのに、あんちゃんは…そんな物まるで感じさせねぇのな。
「…ああそうだな、けど此処は一丁景気づけに前口上を一つ言っとくかな。」
ここ迄来たらもう逃げ場所なんて、無ぇんだ、緊張感なんて持ってて当然、相手はなんたって嵐を呼ぶ男だからな、だったら俺も俺らしく此処は一発!
「行くぜあんちゃん、キーワードH・A・C・H・I・M・A・N!やぁぁってやるぜ!!」
俺は言い終えると直ぐに、構えを取った、いつ闘いの開始を告げられても良いように。
「ハッ!どうせどっかから取って来たネタなんだろうがよ、良いじゃねえか気合いが入りそうな感じだぜ!じゃあよ、俺も一つ………サクサク行くぜ!」
そしてあんちゃんも、それに付き合ってくれた。
舞姉ちゃんの口から仕合い開始の宣言がされたのは其れから数秒の後の事であった。
この作品、ピクシブの方にも上げて居るのですが、前回での八幡が過去に受けた虐めの描写に不快感を抱いた方が少なからず居られたようです。
過去に私自身が受けた虐めの内容を多少マイルドにして八幡の過去に当てはめたのですが…う〜んこう言う表現の難しさを改めて感じてしまいました。