やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
翌日、いよいよ俺達の千葉村でのボランティア活動も終わりを迎えようとしている。
初日に皆で面通しを行い、昨日は俺とジョーあんちゃんが子供達に語り、そして初めて真剣に仕合った場所。
つどいの広場にて、この小学生達の校外学習の終了と俺達ボランティア班との別れの挨拶が交わされた。
「あ〜、そのだな、千葉に戻ったら近い内に留美の親父さんかお袋さんに挨拶に行くから都合の良い日を後で連絡してくれ。」
「うん分かった…じゃ無い、はい師匠分かりました。」
帰りのバスに乗り込む為に下山を始める前の僅かな時間、俺は留美に今後の事について、親御さんへのご挨拶に伺う為のアポイントを留美に取ってもらうって事で話をつけていた。
「あとな、そのだな…そんなに畏まった話し方じゃなくて良いんだぞ、別に普通に話してくれて構わないからな。」
師匠なんて呼ばれんのは、俺の柄じゃ無いし、何より第一照れ臭いだろう。
「でも、これから色んな事教えてもらうんだから、お母さんにもキチンとしなさいって言われたし。」
なんだ、留美はもう既にお袋さんに連絡済みなのか、しかも今の留美の言からして了承も得ていると判断出来そうだ。
「それにお母さんは八幡師匠の事も、雪乃さんと結衣さんといろはさんの事も知ってたし。」
はいぃ!?
どう言う事だ、俺達が留美のお袋さんと何らかの接点があるって…えっ?
「私のお母さん、総武高校で先生してるの。」
なん…だと、マジかよそれ。
「ああ、留美君のお母様は、我が校の鶴見先生なのだよ比企谷、昨夜鶴見先生から私の方に連絡があってね、それで私も知ったのだが、鶴見先生も君達に感謝しているとの事だよ。」
本当にマジでしたよ、しかも既に平塚先生にも連絡済みとは。
「アッと驚く為五郎…とは正にこんな時に使うべき一発ギャグなんだろうな、いや…驚愕の事実にそんなネタも出て来なかったけど…。」
出てるじゃないか、なんて突っ込みは無しの方向でお願いします。
しかしそうなると、コレは俺だけじゃなく奉仕部全員で鶴見家に挨拶に伺った方が良いのかも知れんな。
その辺りの事も、雪乃達と話を詰めておくかな、何処ぞの古典部の灰色の部員じゃ無いが、面倒事は手速く済ますに限るからな。
留美が小学生達の列に戻り下山を開始し去り際に改めて登戸先生が俺達に挨拶をしてくれた。
「帰ったら校長先生に報告しますよ、比企谷君…我が校の卒業生の少年は、とても立派な青年に育ち、そして一人の男としてもまた、立派に成長していっているとねではまた機会が在れば会いましょう。」
俺は去り行く登戸先生の後ろ姿に深く頭を下げ、そしてその姿を見送った。
『留美達の事をお願いします』心の中でそう願いながら。
帰りの車中で俺は件の話を皆に告げ、鶴見家への訪問の段取りを打ち合わせたのだが。
「平塚先生、基本先生達は夏休み中も平日は学校に出勤しているんですよね、だったら学校に行って直接鶴見先生に会うのも一つの手段として有効ではないですかね?」
「うん、そうだよね、いろはちゃんの意見にあたしは賛成かな!」
いろはの言う通り、確かに学校へ赴いて挨拶を済ますのも有りかもだけど…。
「けれどそれでは、留美さん自身が不在になってしまうでしょう、こう言った話は本人がいる場で話した方が良いのではないかしら。」
雪乃の意見は最も筋が通っている、と俺には思える。
俺達、留美自身、そして親御さんと、皆が揃った状況で話をする事がこの場合は最適解だろう。
「だったらよ、お前達の学校に留美嬢ちゃんも一緒に行くってのはどうだ、そうすりゃ手間が省けるし一遍に済むだろう。」
ジョーあんちゃんの何気ない発言、確かに留美が総武高校赴ければ手間はかなり省けるが、果たしてそれは可能なんだろうか。
「別に構わないよ、受付で入校許可を得れば学校関係者では無くとも入校は出来るよ、それになんと言っても留美君は鶴見先生のご息女だからね。
その方向で進めるならば、私からもその様に計らうが?」
平塚先生がそれが可能であり、手続きも済ませてくれると仰言ってくれたので俺達は、賛成多数ってか反対無しで、近日中に学校へ赴き鶴見先生へ挨拶へ伺う方向で話を進める事となった。
それに加えて俺達は、このまま一旦総武高校へと向い、其処で解散する予定となっており場合によっては鶴見先生と会える可能性もあるとか…。
やがて俺達を載せた車は総武高校の門前へと到着した、舞姉ちゃんの単車と共に。
そこに待っていたのは、鶴見先生では無く…入学式の日に見た車種と同じと思われる黒い、雪ノ下家の高級車。
もしかしたら都筑さんが雪乃を迎えに来ているのか、だとしたら久しぶりだし挨拶をしなけりゃな…。
車から俺達が降りたのを確認してか、雪ノ下家の車のドアが開き…。
「やっほー雪乃ちゃん、お姉ちゃんが迎えに来たよ!」
以前一度だけ会った事がある人物、雪乃とよく似た顔立ちと、雪乃とはあまり似つかぬ膨らみ……(っべ、何か雪乃がメッチャ俺を睨んでいるんですが、俺声に出してないよね)それは置いといてと、前に会った時と同じく胡散臭さを感じさせるよそ行きの、仮面の如き物を貼り付けた様な表情をした、雪乃の姉…名前は確か、陽乃さんだったかな。
「ゆきのん……。」
「雪乃先輩……。」
結衣といろはも、この場にこの人が居る事に警戒感を抱いたのか、心配気に雪乃を気遣う。
「大丈夫よ二人共、姉さんはただ私を迎えに来ただけなのだから。」
柔らかな笑みで二人に気遣は不要と述べる雪乃、本当に雪乃は柔らかく笑う様になったな…。
「!?………。」
その雪乃表情をその目で捉えた姉が、意外な物を見、驚いた様な表情を僅かな時間浮かべたが、すぐにまた元の作り物の表情を繕い…。
「やっほー比企谷君!雪乃ちゃんとは仲良くやってるのかな?」
今度は俺をターゲットに選んだのか、その身をグイグイと俺に押し付ける様に近寄って来た。
「あのですね、そんな過度の接触は止めてもらえませんかね(結衣といろはの視線が痛いから)…それから今の質問ですが当然ながら、雪乃は俺の大切な女性の一人ですからね、とても仲良くしていますよ。」
「ほぇ!?ええぇぇぇ!?」
俺の答えが意外に過ぎたのか…雪乃の姉は、多分ギャグ漫画やアニメなら下顎が大きく外れ目玉が飛び出した状態で描かれている事だろうと思わせる程に正体を失っている。
「姉さん、五月蝿いわよ、少し落ち着いたら?」
それを雪乃に窘められ、自信有りげに佇むその雪乃を、心底驚いたと言わんばかりの表情で見ている…雪乃の姉は今、あの胡散臭い仮面をかなぐり捨ててしまっていた。
「そうだぞ陽乃、君の妹の言う通りだ少しは声量を抑えないか。」
「おっ!何だこの嬢ちゃんは、雪乃嬢ちゃんの姉ちゃんなのかよ。」
「へぇ、確かに顔立ちを見ると雪乃ちゃんと似てるわね!」
車の運転席と助手席から平塚先生とジョーあんちゃんか降りてきて、更に単車から降りた舞姉ちゃんもこの場に集う。
と言うか平塚先生、今雪乃の姉の事名前呼びだったよな…と言う事は二人は知り合いだって事だな。
「はっ!?静ちゃん…に…ええぇ!?なっ、何で!?ジョー・ヒガシさんと不知火舞さんが一緒なの!?えぇーっ?」
再び炸裂する雪乃の姉の驚愕の声、全く以てその美人顔が台無しな位に崩れ去っていらっしゃる…ここまで来ると何か申し訳無く感じてしまうよな。
『ウチの兄貴と姉貴のせいで何だかホントに…サーセン!』と心の中で雪乃姉に謝罪しておきます。
「少しは落ち着き給え陽乃、ジョーさんと舞さんは比企谷にとって身内も同然の人達なのだよ、しかも比企谷はジョーさんと、舞さんのご主人でもあるアンディ・ボガードさんとその兄上のテリー・ボガードさんに格闘技を学んだ弟子でも有るのだよ、どうだね驚いたかね!!」
平塚先生が得意げに、まるで自分の手柄であるかの様にその豊満なお宝を大きく反らして、雪乃姉に俺達の関係を説明しておられる、俺は一瞬そのお宝に目線がロックオン・ストラトスしそうになったが、結衣といろはに背中を抓られ、雪乃に絶対零度の眼光を向けられたのでそのお宝から大きく視線を反らしました。
だってこのままだと俺は、多分…三人に『気化冷凍法』を喰らわせられてしまいそうだから………。
「もう!はちくんは分かり易すぎなんですよ。」
「もうホントだよ!ハッチンは!」
そんなになのかよ…俺、ってか思春期男子なんてそんなものじゃないの…と言いますか結衣さん、ハッチンってのはもしかしなくても俺の呼び名だよね、間違い無く。
やっぱり結衣の正体は紅魔族だったんですね………八幡知ってた。
「でもよくご存知でしたね、ジョーあんちゃんと舞姉ちゃんのこと…。」
俺はこれ以上責められるのが嫌なので無理やり話題を変えるべく、雪乃の姉に話を振ってみた。
「そりゃあ多少なりとも武術の心得がある人だったらお二人の事を知らない人の方が少ないんじゃないかな!
私と雪乃ちゃんも幼い頃から、母の友人である香澄おば様に古武術を習っていたからね。」
ああ、前に雪乃が言っていたよな、確か藤堂流古武術だったか。
「それに八年位前だったかな、千葉マリンスタジアムで行われた格闘大会を雪ノ下家もスポンサードしていたからね、テリー・ボガードさんと草薙京さんの試合、私会場でみてたもん、そこにヒガシさんと不知火さんもいらっしゃいましたよね。」
なんと…八年目にして初めて知る意外な真実、あの大会のスポンサーの内の一社が雪乃ん家だったとは、じゃあもしかして雪乃もあの会場に居たのか?
「……いいえ、私はその時は家に居たわ…。」
俺達が雪乃を見ていた為か、その疑問を察して雪乃はこたえてくれた。
「………でも、まさかそんな事があるなんて…妹の想い人がまさかまさかの伝説の格闘家の弟子だったなんてね、意外も意外、大意外だよ…でもそうか、だから家の母さんに対しても気後れせずに意見も出来て、気に入られもしたんだね、うんうん、それに同時に女の子を三人も落とすなんていつの時代の乱世の英雄なのさって突っ込みたくもなるよね。」
平塚先生の言葉を聞き俺の質問に答えた後、まるで値踏みでもする様に俺を見遣る雪乃の姉…。
何だよ人の事乱世の英雄って、あれか英雄色を好むってのに掛けてんのか、別に俺は色を好んでいるって訳じゃ無いんだけどな、ただ貴女の妹さんと結衣といろはの事を大切に思っているだけなんですよ。
その様には一欠片の遠慮会釈も無い、人によっては失礼だと、気分を害してしまうんじゃね、と思わせる素振りだ。
「そっかぁ…雪乃ちゃんは見つけたんだね……………でもそれで良いのかな、
一人の男性を三人で分け合うなんて、本当にそれで済むのかな…。」
雪乃姉の言葉が俺にはとても痛く感じられた。
俺達四人は、互いの気持ちを確認しあい、此れからを共に生きようと決意し合う事が出来たが、だがその家族の人達はそれをどの様に思うだろうか。
常識的にも、御両親の親心としても、そんな男との仲など認められる物では無いだろう。
だが、雪乃はそんな姉の言葉にも動じることなく、あくまでも自然体である様だ…結衣もいろはも、まるで自分の決めた事に一切の躊躇いさえも感じていない素振りだ、何だか俺だけがクヨクヨと考え込んでいるみたいだな…全く、女は強しだ。
だがしかし今の一言を発した時の、姉の表情は……何だ、何を思ってそんな顔をしたんだ?
深い…とても深く感じられる、憂いとも感慨ともとれる様な表情……はぁ、全く駄目だな、高校で皆に出会うまでボッチだったせいか、俺にはこう云った時の人の感情を慮れる程の経験値が足りて居無い……いや無いんだよな。
「ゆきのん…後でメールするね。」
「はい、私もしますね雪乃先輩!」
姉と共に迎えの車に向う雪乃へ、結衣が気遣いの声を掛けいろはもそれに同乗し、雪乃が優しい笑顔で答える。
「ええ、ありがとう結衣さんいろはさん、私からも連絡するわね、これから私達と八幡君の事も母さんに話さなければならないでしょうから、その事についてもね。」
そうなんだよな、近いうちに俺も雪乃と結衣といろはの親御さんに挨拶をしなけりゃいけないんだよな、そん時は親父さん方にぶん殴られる覚悟を以て当たらなきゃならないんだろうな……。
「…雪乃、近い内に俺もお前の家に伺わないといけないよな、結衣のところといろはのところもだけど。」
ええ…と雪乃は静かに返事をし車に乗り込む、その時の表情は自信に満ちた様に感じられる程に、或いは不敵にも感じられる様な笑みを湛えていた…本当に雪乃は強くなったよな。
「あのね比企谷君、老婆心で言わせてもらうけどさ、それはまだ時期尚早だと思うな、考えてもみなよそれを聞かされる親御さんの気持ちをさ、悪い事は言わないからそれを伝えるのは君が男として立派に独り立ちが出来てからにするべきだとお姉さんは思うな!」
ぐっ…確かに雪乃の姉の言う事は最もだ、俺はまだ只の高校二年生で社会の事も世間の事もよく知りはしない、謂わばまだケツの青いガキと言っても過言じゃ無いだろう…そんな小僧っ子が彼女達の親御さんの元へ行ったとしても、まともに相手にしてもらえないだろうな。
しかも三人の女性と……ならば、実績を作り、彼女達とその親御さんに安心してもらえる人間にならなきゃだよな。
其れでも、許してもらえる可能性は甚だ低いと言わざるを得ないんだが…。
去り行く雪ノ下家の車を見送りながらも俺は雪乃の姉の言葉を心の中で反芻している。
そして己が如何に考えが足りず、また彼女達とのこれからを甘く考えていたんじゃないかと……ああもう!あんまりグダグダ考えるのは止めだ止め!
俺がこんなじゃ彼女達を不安にさせるかも知れないだろう、実績が足りないならこれから作れば良い!
ガキだってなら成長して大人の男になりゃ良いんじゃねえかよ、あと三年で俺も二十歳になるんだ、そうすりゃ年齢的なもんはパスだ、後は実績…そうだな、まぁ、やれる事を一つずつ熟して行くしかないよな!
「雪乃先輩、すっごく良い笑顔でしたよね恋が人を…いえ愛が人を変えるんでしょうね、もしかして私と結衣先輩もあんな風になれているんでしょうかね?」
「うん!凄く綺麗だったね。」
いろはの言葉に結衣が深く同意する、俺もそれに同意見だ、やはり何時も行動を共にしているだけあるよな、いろはも結衣もしっかりと雪乃の事を見ているんだな。
いろは、お前だって雪乃のなんら引けを取らない程に魅力的な女の子だぞ、結衣だってそうだ。
いろはも結衣もそして雪乃も、出会ってからのこの一年半の間に互いに足りない部分を補い合い高めあって来た、だから今のお前達は出会ったあの頃よりも、ずっと成長しているし魅力も増してるんだよ。
正直に言って俺は出会った時から三人共に三者三様、それぞれを…可愛い娘達だと思ってたけどな。
ただまぁ、直接本人に言えれば良いんだろうけど、恥ずかしさと俺の柄じゃねえだろ感がハンパなくて言ってあげられないんだよなぁ…マジごめんな。
「なぁ結衣、いろは…さっきの雪乃の姉の言ってた事って、最もな事だよな。
俺決めたよ、これからお前達をちゃんと守れるだけの男になるって、そう思ってもらえるだけの実績を作るって!」
「だから、二人の御両親に会いに行くのはそれからで良いか?」
こんな自分勝手な気持ちの押し付けを果たして二人は受け入れてくれるだろうか。
「うん、あたしその時を楽しみに待ってるねハッチン!」
「はい、私もそれが良いと思います、誰にも文句の付けようの無い実績をはちくんが築けばそれだけハードルも下がるかもです!」
ふぅ…はぁ〜緊張したぁ…二人共こんな俺の身勝手な意見に賛同してくれるなんて、これは愈々以て実績を作らなきゃならないな。
その為にも、此れまで以上に鍛錬に励んで心技体共に成長しなきゃな。
決意も新たに俺は結衣、いろは、そして雪乃の三人と共に歩んで行こう!
しかし結衣さん…『ハッチン』呼びはどうにかならない物かなぁ…………。