やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
川崎と共に、留美の鍛錬についての方針を軽く打ち合わせを済まし…と言っても基本川崎は平日の夕方はほぼバイトと予備校があり、俺もまた部活とバイトを入れている為に、留美への指導は早朝トレーニングをメインに行う事となった。
尚、昼や夕方は留美自身に自主トレをしてもらう事も決定され、そのメニューの作成にはもう数日留美の早朝トレーニングの様子を見定めてから俺と川崎で決める事にした。
とはいえ身体的にも成長途上の留美に必要以上の負荷を掛けさせるべきじゃないからな、その辺りは常識の範囲内で。
「なぁ留美、今日は朝早くから鍛錬したけど、どうだった…早起きや筋トレとか辛くはなかったか?」
普段俺が朝のトレーニングを午前五時に起床してから始めているので、留美にもそれに合わせてもらったんだが、流石に慣れない時間に起床して身体を動かすってのは結構堪えるんじゃないかと思うんだよな。
実際最初の頃は俺もそうだったし、テリー兄ちゃんは俺の体力の具合に合わせてメニューを決めてくれたんだけど、それでも始めはな。
「うん…身体は慣れてないからキツイけど楽しかった、八幡師匠に教えて貰う通りにすれば私も強くなれるんだって思ったら、キツイのも平気。」
くぅぅ…ルミルミ!可愛い事言ってくれるぜ。
今日は初日って事もあって若干俺も気負っていた部分があったし、トレーニングに付き合ってくれたジョーあんちゃんが、俺の至らない所を助言してくれたりしたし、とても指導者としては合格点はいただけないと思い知らされた、それで今朝から俺は少しヘコみ気味だったんだけど…今の留美の言葉に救われた気がするよ。
あっ、因みに舞姉ちゃんは小町のトレーニングに付き合っていました。
「ははっ…サンキューな留美。」
俺の謝意に留美はドリンクを飲みながらコクリと頷いた。
その仕種が、なんだか小動物の様で、俺の心が癒やされた様な気がした、うん決めたぞ、留美は小町に次ぐ俺の妹だ!
たった今そう決めた、異論反論は認めない。
なら俺は留美の兄ちゃんとして、その行く末を見守ってやらないとな!
「ところで比企谷、アンタ、留美の修行に彼奴は絡ませないのかい?」
「はあ!?誰だよ彼奴って?」
ドリンクをチビチビと飲む留美の様子を暫し愛でていた俺に、川崎が唐突に妙な事を言ってきた……マジ何の事だ?
「彼奴だよ、ほらアンタのダチのガタイのデカイのが居るじゃん。」
「…ガタイのデカイのって…………あぁもしかして材木座の事を言ってんのか川崎!?」
俺の知人で、川崎も面識がある奴って言ったら材木座位しか思いつかないからな………しかし。
「ばっ…お前何言ってくれちゃってんのよ!?俺の可愛い妹分を彼奴の目に触れさせる訳無いだろう!!」
そう、当然だぜ川崎、あのコミュ症ファットマンが留美の様な美幼女を視界に入れてしまったらどんな事案が発生するか分かったもんじゃ無ぇからな!
なぁんてな、彼奴にそんな事案を引き起こすだけの度胸はないんだけど。
「けど、比企谷…彼奴だって格闘家の端くれだろう、実際アンタ達学校の屋上でしょっちゅう組手やってんじゃん。」
…まぁ確かに彼奴は組手の相手としてはうってつけの相手なんだが、それはそれ、これはこれってやつだよ。
「うっ…まぁ、そ~なんですよ川崎さん(デデデデン)ちょっと待って下さい山本さん(デデデデン)実はですね(デデデデン)え〜(デデデデン)そ〜なんですって…ごめん何でもない。」
いかんぜよ、川崎さんってフレーズから思わず『恋のぼんちシート』っちったぜ…。
案の定川崎がめっさ怖い目で俺を睨んでるし…てかこの歌川崎知らないよな、A地点からB地点まで行く間に既に恋をしてたんです、とか…。
「ハッチン、それって中二の事なの、てかハッチンが時々お昼居なくなるのって中二と遊んでたんだ!」
いやいやいやいや結衣さんや、遊んでたって…まぁ、遊んでもいたかなぁ?
「ふぅん、八っちゃんところの学校って八っちゃんと沙希ちゃん以外にも格闘技をやってる子がいるんだ。」
「ほう、そいつどんな武術でなんて流派の遣い手なんだ八幡。」
ベテラン格闘家の二人も食いついて来たな、こりゃ少し説明しなきゃなんないかな材木座について。
「ああ、俺達の同級生に材木座って奴が居るんだけどさ、ソイツ基本俺と同じボッチでコミュ力が壊滅的な奴なんだけどさ、なもんで一年の時から体育の時ペアを組んだりするんだけど、初めて組んだ時そいつの体付きがさ、太ってんのにシッカリと筋肉が着いてたから、何かやってんのかって聞いたら、サイキョー流って流派の武術を学んだって言うから、じゃあ俺も格闘技やってるから組手とかやらないかって、誘ったんだよ。」
と、簡単にだが材木座の事について、俺とどういった関係かを話した。
そしたらどうだろう、いきなりジョーあんちゃんがプルプルと身体を小刻みに震えさせ始めてしまった。
「ぷっ、くくくくっ…いやまさか、マジで存在していたのかよプププッ…。」
…ジョーあんちゃん、一体どうしたんだよ、なんか笑いを堪えながらブツブツ言ってるけど、存在がどうとかって…何の事だ。
皆もジョーあんちゃんの醸す奇妙な雰囲気に、戸惑っている様だ。
「ああスマンな、ちとサイキョー流って流派の名を聞いてな、思わず笑っちまいそうになっちまった。」
そう言った後、ジョーあんちゃんは自分が知る『サイキョー流』にまつわる話を俺達に教えてくれた。
それは、以前ジョーあんちゃんが教えてくれた『サガット』と云う伝説的なムエタイチャンプとの関係…。
「……と言う訳で、そのサイキョー流の使い手は結局サガットに適当にあしらわれていたらしい。」
それはなんともはや…とても残念な逸話に彩られていた。
まぁ確かに材木座の使う気弾の我道拳も殆ど飛ばずに消えるし、あの対空アッパーの晃龍拳もどこか中途半端だった、しかし…。
「まぁ、確かにサイキョー流の技は中途半端感が否めないけど、最近ちょっとした出会いがあってな、彼奴腕をあげたんだよ。」
「ほう…まぁ時間はあるんだしよ、その話ちょっと聞かせてみろよ八幡。」
ジョーあんちゃんが興味を示し、皆もどうやらそれを聞きたそうにしているので、俺は材木座とあの人との出会いの話を皆に語る事にした。
ジメジメと湿気が鬱陶しい日々が続く今年の梅雨が明けたのは、七月も中旬が差し迫る頃だった。
梅雨明けしたとはいえ、次にやって来るのは灼熱のアッザムリーダー…コンクリートとアスファルトに覆われた現代日本の比較的都会たる関東圏たる我が千葉県も、大都会東京と然程変わらぬ陽射しとその照り返しにより熱せられた灼熱の大気温に俺のハートもダウンダウン。
もうこれ体感的に40度超えてんじゃねって、日々が幾日も続くのかと思うと『気持ち的に梅雨とあんまり変わんねぇなお天道様よ』と、恨み言の一言も言いたくなる俺は、やっぱり何処にでもいる小市民なんだろうと自覚せずにはいられない。
だって…雑誌を買う時上から3冊目位を買うし。
と、まぁそんな事はどうでも良いか、不平を言い始めたら幾ら時間があっても足りゃしない。
長々と語ったが、とにかく梅雨明けの快晴の青空の元、俺は久し振りに学校の屋上へと足を向けた。
恒例の材木座との昼錬を行う為にである事は言うまでも無いよな。
スパーリング用のヘッドギアとオープンフィンガーグローブを入れたバッグを肩に引っ提げて、屋上建屋の扉を潜り屋上へと出てみれば。
「…まだ来ていやがらないのかよ材木座の奴は………まぁほっときゃそのうち来るだろうし、日陰で待ってるかな。」
等と、誰も居やしないと思われる屋上で俺は一人独り言を呟いた、何せ独り言ってのは一人で声に出すから独り言な訳で二人で喋りゃそれは独り言では無く只の会話に成り下がる……下がるのか?
なんて事をつらつらと一人思考していると…。
「此処だ我は此処に居るぞ!」
とあまり聞き慣れたくは無いが、この一年と数カ月の間に随分と聞き慣れた、彼奴の声が屋上に響き、そしてその屋上に映る棟屋の影、その上部にファットな人影も併せて映っていた。
要するに、塔屋の上に彼奴は立っている訳ですね。
「…なんだよ材木座、お前来てたのかよしかも棟屋の上に態々上って、御苦労な事だなおい!」
棟屋の上での胸元に腕組みをし、俺を見下ろし材木座は一瞬口元がニヤリと笑みの形となったが。
「喝(かぁーっ)!」
突然大声を上げた、そして俺はこの時点で察しましたよ…ええ。
材木座の奴が何をしたいのかをね…声を上げた材木座はポーズを変えて、俺を指差し本格的にそれを始めた。
しゃあなしだな、付き合いますか。
「答えよ八幡(ドモン)!流派東方不敗は!」
「王者の風よ!」
俺が返すと共に材木座は棟屋から「トォーゥ!」と元気に飛び降り、着地と共に俺へと向かい拳の連打を繰り出して来た。
「全新系裂!」
そして俺も併せて、拳の連打を材木座へ向けて放つ。
「天破侠乱!」
「「見よ東方は赤く燃えている!」」
互いの拳と拳を併せて、俺と材木座は最後の決ポーズを格好良く(多分)更に気分良く決めた!
男二人が屋上で互いの拳を併せ、ニタリと笑う姿は果たして他者から見たらどの様に思われるかなど、この時の俺達の頭の中には1ミリ秒たりとも頭に過る事などかった。
後になって冷静に考えると、滅茶苦茶恥ずい思いをする事になるんだろうな。
『黒の歴史が、また1ページ』って屋良有作さんの声が脳内に響いちゃいそうだよ八幡。
「ウォーミングアップはこれ位で良いか材木座?」
「おうさ!梅雨の間に身体が鈍ってはおらぬ様だな八幡よ!」
再び男二人でニタリと笑い、俺達久々に屋上で組手を始めた。
十分程二人で組手を熟し、いい加減腹も空いた事もあり俺達は一旦昼食を取る為に組手を止め、棟屋の日陰で何時もの様に昼飯を摂った。
「時に八幡よ、我ら格闘家たるもの仕合いに臨むにあたり、前口上を述べるのが作法だと我は思うのだが、お主は如何様に思う?」
飯を食い終わり腹もこなれてまったり気分の俺は、暫し材木座と雑談へと突入し、その流れの中唐突に材木座はその様な事を言い出した。
まぁ日本でも、もしかすると海外でも古来の合戦とかでは名のある戦人は一騎打ちとかに臨む時、名乗りを上げてから臨んでたりしてたらしいし、今でも確かにリングに上がった格闘家の人達も、試合前のパフォーマンスをやってたりするし、材木座がそう言うのもわからんでも無い、ってか俺が初めて見たテリー兄ちゃんのジャンプしながらジャンパーを着るヤツ、超かっけぇって思ったし。
「…まぁ、良いんじゃね?」
「あるぇれ?反応薄くない!?」
いや俺は普通だと思うぞ、お前が少しウザいだけで…でもって此れは材木座の前ふりだって事を俺は重々承知しているまである、だから。
「…今このタイミングでそんな話を振るって事は、お前既に何らかの口上を考えて来てんだよな?」
俺は半ば諦め気分で、ため息を吐きつつ振り返してあげた。
八幡ってば優しいからね、ここで敢えてスルーとかしないから。
「モハハハハッ!当然の事でであろう八幡よ、我のやる事に抜かり無しだ!」
…嘘をつきなさんな材木座、お前のやることは抜かりだらけじゃないかよ…。
「ヌフっ!そうか聞きたいのかね八幡君よ!!ならば聞かせて進ぜよう!」
…いえ、そう言うの間に合ってますんで、と本当はそう言いたかったが、それを言っちゃうとコイツ絶対足元に縋りついて『聞いてよねぇ八幡、お願いだから意地悪しないで!』とか言いそうだからな、何も言わず俺は材木座のやりたい様にやらせる事にした。
材木座は得意げにニヤリと笑い、まるで何処ぞのライダーにでも変身するかの如くポーズを取りながら向上を始めた。
「両の拳に野望を載せて、唸れ必殺我道拳!拳豪将軍材木座義輝、刻限通りに只今参上!!」
向上とポーズを決め、材木座はどうだ格好いいであろうと言いたそうな顔をして俺を見下ろした。
「………元ネタはマイトガインかよ、時に材木座、そのネタをチョイスしたのはやはり中の人繋がりだからなのか?」
「……八幡、そう言うメタい事言うの止めてもらえないかな……。」
俺が褒め称えでもすると思っていたのか材木座、残念だかそう簡単に褒めたりなどしてはやらぬぞ!
まぁ俺も勇者シリーズ好きだし、マイトガインはかっけぇとは思うけどね…材木座のキャラじゃないような気がするんだよな。
「では、八幡お主ならどの様な前口上をするのだ!?」
…俺だったらか、そうだなやっぱりそんなに長くならないシンプルなのが良いよな…。
「おっ!一つ思いついたぞ。」
あのネタで行こう…と俺としては自信のあるネタを思い付いたから、それを前口上にしようと思った。
「ホウ、ならば聞かせてもらおうか、お主の前口上とやらを!」
材木座が赤い人のセリフをパクって俺に対して前口上を促す、クククッ…材木座聞いて驚け、これが俺の前口上だ!
「いくぞ…ハチマーン!ヘッダーッ、トラングーッ、レッガァーッ!」
俺は右腕を垂直に伸ばし手を広げ、左腕を腰だめに拳を握り込んで大きな声で前口上のセリフを叫んだ!
「…………………………………。」
「…………………………………。」
そして沈黙が屋上を支配した。
「…………八幡、お主はUFO戦士であったのか…しかもほぼまんまだし。」
「………つまんねえなら、いっそそう言ってくれ……。」
此処に俺はまた一つの(黒)歴史を築いてしまった様だ、俺は自分の(マイナスの方向に作用する)才能が怖いぜ…。
しかしダイアポロンに合身したあとの各マシーンの余剰パーツってどこに行くんだろうな!?
しかもその合身のあとタケシの身体がダイアポロンの内側で、そのダイアポロンと同じサイズに巨大化するんだよな…てことは、ダイアポロンの内部の機械部品って………考えちゃ負けだな。
「材木座、時間もまだ残ってるしもう少し組手やっとこうぜ。」
「うんむ、良かろう!梅雨の間マトモに身体を動かせなかったのでな、是非もなしである。」
材木座が大仰に同意してくれたので俺達は再度組手を行う事にした、梅雨の間まともに身体を動かせなかったてのは、俺も同じだからな、対人戦の感を取り戻す為にももう少し動いておきたかったので、この同意には感謝だ。
「ぬおっ!我道拳!!」
材木座が放った気弾をサイドステップで左サイドへ躱し、躱しざま材木座へ懐へ接近する、そして我道拳を放った後、まだ体勢を戻しきらない材木座の腹部へ軽く拳をあてた。
「お前のそれは射程が短すぎんだよ、その割に体勢の戻しが遅いからこう接近されると防御も間に合わないだろう…だからその技は単発より連続技に組み込んだ方がより効果的なんじゃねぇのか?」
俺は以前から思っていた材木座の気弾の欠点を指摘し、それを使用する際のタイミングを提案した。
「う〜む…やはりそうであろうかな、我も薄々はそうではないかと思いはしておったのだがな…………。」
と、材木座自身も己の技の欠点を自覚はしていた様で、俺の言に素直に頷いてくれた。
う〜ん、もう一年以上の付き合いになるし、コイツがどんな奴かも解っているし、材木座がレベルアップ出来るのならそれに協力するのも、俺としては吝かでない。
それにコイツが強くなれば手合わせをする俺としても、より強い相手とやれる訳で…べ、別に捻デレった訳じゃ無いんだからね!
「なぁ材木座、俺が思うにお前のそれは気の集約が不足しているんじゃないのか、もっとこう…気を放出する掌にグッと気を溜め込んでサッと出せれば、飛距離も延びるんじゃないのか、実際威力自体はかなりの物だしな、例えば極限流の坂崎総帥やロドリゲス師範代なんかはお前の我道拳と近いモーションで気弾を放っているけど、威力も飛距離も申し分なさそうだろ。」
あと材木座には話していないが川崎の気弾も坂崎総帥のモーションとは若干違うみたいだけど、かなりの威力を持っていたし、マジで痛かったよなアレ…。
それから俺達は、互いの技について、ああでもない、こうでもないと意見しあっていると、其処に俺たち以外の第三者の声が響いた。
「ああ!やっぱり居た!」
それは俺達男子は授業で絡むことが無い為にあまり聞き慣れない声で…。
「いやぁ、噂話だけだと思ってたけど、まさか屋上でこんな事をやってる生徒が居るなんて思いもしなかったよ!」
それは女子の体育を受け持つ(歳の頃は二十代終盤位か、まぁ平塚先生と同じ位の年代かな)ジャージ姿の女教師。
名前は確か『春日野さくら』先生だったかな……。
と言う訳で…出て来ました。