やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
我々はこの女性を知っている、いや授業で絡まないんだから、実はあんまり知らない。
知っているのは女子の体育担当教師って事くらいだ、なので正直あまり人の名前を覚えない俺が珍しくフルネームで覚えていたのって奇跡じゃね?
その人は女性にしては、かなり短く切り揃えられた黒髪からとても元気な人なんだろうとの印象を受ける、尚且つ体育教師で常にジャージ姿である事がその印象を更に底上げしている。
「君達、我が校の屋上は本来未許可の使用は禁止なんだよ、とは言っても鍵だって壊れていて殆ど機能してい無いんだしこのいい天気だからね、こんな所で思いっ切り身体を動かしたくなる気持ちも解らないじゃないかな。」
一応俺達が屋上に出入りしている事を注意しつつも、理解を示してくれているしもしかしてこのままお咎めなしにって事には…ならないだろうな。
「………………。」
「………………。」
俺も材木座も春日野先生が現れてから一言も声を発する事が出来ないでいる、
素直に謝って此処を立去れば良いのか、先生に連行されて生徒指導室へと直行って事になるのか現段階では判然としないからなんだが。
「…ふぅん、ヘッドギアに拳には練習用のオープンフィンガーグローブか、一応安全には留意してんだね。」
流石は体育教師だな、ヘッドギアやオープンフィンガーグローブなんて名称を知っているし、しかもグローブが練習用のだってひと目で見抜いているし…。
「ねえ、君達学年と名前を教えてくれるかな?」
はぁ…こりゃ観念するしか無いかな。
「…二年F組の比企谷八幡っす。」
「…二年C組所属、材木座義輝と申す以後見知りおかれい。」
ちっ!このおバカさんは、こんな時くらい普通に受け答えしろっての!
お前だって解ってるよね、春日野先生案外穏便に済ませてくれそうな雰囲気だって事さ、まぁこれが材木座なりの人との、特に免疫が無い女性と対する時の材木座為りの対処の為の術なんだろうが。
「うん、比企谷君と材木座君だね、見たところって言うか、そんな格好をしてるって事は君達が格闘技をやってる事は一目瞭然だね、よければスタイルや流派も教えてくれるかな?」
こりゃ確定だな、スタイルや流派まで聞いてくるなんてさ、春日野先生は格闘技経験者だ。
「うす、俺は八極聖拳をベースとしたマーシャルアーツに骨法とムエタイを兄貴達に学びました。」
「へぇ、八極聖拳って流派の事は知らないけど、兄貴達って事は比企谷君には複数の師匠がいるって事だね、で材木座君は?」
俺の返事に感心したかの様に評して春日野先生は改めて材木座へ質問する。
「我…お、俺は…で、ある…です。」
ボソボソと他者には聞こえない程度の声音で材木座は答えているんだろうけども、それじゃ不味いぞ材木座…受け答えはしっかりと聞こえる様にしなきゃよ。
「おい材木座、聞こえないぞもう少しハッキリと喋んないとよ、すいません先生コイツ女性に免疫が無いんですよ。」
「アハハ、焦んなくても良いからね材木座君、君のペースで良いから。」
へぇ、春日野先生ってかなり優しい人みたいだな、女性に対して免疫の弱い材木座にこんな風に語りかけてくれるなんて、ほれ材木座此処は一丁男を見せてみろよ。
「…わ、わ、俺は、俺の流派はサイキョー流です!」
直立不動の姿勢で多少吃りながらも材木座は、ちゃんと言い切れた、てか春日野先生が良い方向に誘導してくれたってのもあるけど。
なんて事を考えながら春日野先生を見てみると、ん、何だろうか…春日野先生が何だかすっげぇ驚いた様に目を見開いて、若干だけど身体をワナワナと震わせてる、どうしたんだ一体!?
「材木座君っ!今君サイキョー流って言ったよねっ、本当なの!?間違い無いんだよね!!」
うわっ!?ビックリ…春日野先生ってば急に一体どうしてしまわれたんでしすかって問いたいくらいの勢いで、材木座の両腕を掴んでその身をガクガクと超高速でシェイクしていらっしゃる…。
「…は、はい、そうでおじゃ…そうでしゅ……。」
あっ…噛んだ、言い直した挙げ句に噛んだ。
こんな時、あの作品の残念な水の駄女神だったら『プークスクス』とかって思っきり自分を棚上げして笑い転げるんだろうが、残念ながら俺は比較的材木座寄りの男だからな、結構女子と話す時噛んでしまったりするから、笑えないってか親近感を感じてしまうまである。
まぁ、あれだスタンド使いが惹かれ合う様にコミュニケーション能力不全者同士が惹かれ合った……ってキモッ!
だが何だろうか、春日野先生は材木座の流派の事を確認しながらも、随分と嬉しそうな表情をしている、ひょっとして先生は。
「そっかぁ!サイキョー流の門下生なんだねぇ、いやぁ良かったよ火引さんにも弟子が出来たんだ!」
やっぱそうなんだな、春日野先生は材木座の師匠と知り合いなんだ、しかもかなり仲が良かったと推察できる程に。
「…へっ、先生は叔父御と知り合いなのでありますか?」
「うん、そうだよ、火引さんとは私が高校生の頃に知り合ってね、それで私が格闘技を始めだ頃に少しだけ手解きを受けたんだよ、って今叔父って言ったよねもしかして材木座君って火引さんの甥っ子なの!?」
「…いや、何と言いますか、叔父御は我…俺の母方の親戚でありまして…。」
そんでもって材木座の奴、春日野先生が自分の師匠の知り合いだと知って、少し吃りがなくなってきたな、まぁ只何時もの中二発言が出そうになってんのを控えようとして引っかかってるけど。
しかし縁は異なものってか、世間は狭いってか…まぁこれが良縁ならば大歓迎っ感じなんだが、どうだろうな…。
「なんだ!そうなのね、うんそうかぁ火引さんのねぇ〜、ところでその火引さんは元気なのかな!?」
「…そので有りますが、実は叔父御とはもう四年ほど会ってはいないんです、ああいや、香港の方で相変わらず元気にやっているとは思うのでありますが…」
そんな感じに春日野先生が材木座とその叔父の事について話を始めてくれたお陰か、どうやら俺達は生徒指導室へと連行されずに済みそうな雰囲気だ、シメシメ!おっとイカン最後まで気を抜くべきじゃ無いよな、事態なんてもんはどう転ぶか分かったもんじゃないからな。
などと、俺が今後の流れについて考慮しているといきなり春日野先生がとんでもない事を言い出した、まさかそう来るとは…まさに計算外もいいところだ。
「そうだ材木座君、少しだけ君の技を見せてくれないかな、君が火引さんの元で身につけた物を見てみたいんだ。」
俺はこの先生の発言に我が耳を疑ってしまったが、どうやらそれは空耳でも此処とよく似た平行世界β世界線を垣間見た訳でも無い様だ、てことは今の先生の発言は現実の様である。
本気なのかよ春日野先生、本気と書いてマジと読むって位本気なんですか?
材木座の奴、今の春日野先生の発言にめがっさ戸惑ってキョドってるわ、そりゃそうだよないきなり先生からそんな事は言われりゃそうなるわ……けどこりゃある種チャンスじゃね?
「材木座、折角だ春日野先生に見てもらったらどうだ、幸いってか春日野先生はお前の師匠の知り合いなんだろ、その上格闘技経験者だってんなら、俺とは違う視点でお前の技に対するアドバイスを頂けるかもだぞ。」
自分が伸び悩んでいる事に材木座自身も気が付いている、俺と組手やスパーをやっていて此処暫く感じている事だ。
特に俺が川崎と仕合った後から、それは如実に現れている、と思う。
「それから春日野先生、何だったらミットもありますから直接受けてみたらどうでしょうかね。」
「えっ本当に、良いねえそれ!だったらそうしようか!」
と言う事で春日野先生がミットを着けて材木座の技を受ける事となり、一通りの技を披露し終え……。
「うん、しっかりと鍛え込んでいる様だね、感心感心!」
「…あっ…ありがとうございます。」
春日野先生は材木座の技に対して中々の高評価を付けた様だ。
材木座の奴すっげぇ嬉しそうだな、嬉しさのあまり鼻の穴がピクピクってしてるし。
「ねぇ、材木座君は当然我道拳は撃てるよね、出来るのならちょっと見せてもらえないかな?」
ほう、此れは…春日野先生はきっと材木座の師匠の火引さんって人のオリジナルの我道拳を知っているんだろう、と言う事は、材木座に此処で我道拳を撃ってもらい師匠のそれと見較べてもらい、可能ならアドバイスか或いは技の進化の為のヒントでも貰えれば。
「…はい、やります。」
材木座は始めはどうするべきか戸惑っていたようだが、やがて意を決して春日野先生の要請に従い、そして我道拳を撃つための体勢と構えを取り。
「我道拳!」
材木座の真正面、3メート弱程距離をおいた位置に立っていた春日野先生は、材木座が放った我道拳を正面から受け止めた。
当然春日野先生は防御体勢を取っていたことは言うまでも無いとは思うが。
「…くぅ〜っ…ふう、うんそうだね、今の我道拳にしても他の技にしても威力は申し分ないね、君の体格の恩恵もあるのかもだけど、威力は火引さんのを超えてるよ。」
その様に春日野先生は材木座を評価しているが、どことなくではあるが春日野の表情には不満の色が伺えるように俺には思えてならなかった。
まぁ材木座はそれに気が付かなかった様で、春日野先生の評価に気を良くしている事がありありって感じで『ありがとうございます!』なんてお礼を言ってるけど、材木座ここからだぞ、春日野先生の見立てとお前に対する真の評価はこの先の言葉にあると俺は読んだ!
「けどやっぱり、火引さんと同じで気弾が直ぐに消えちゃうよね。」
「うっ、それは……。」
俺の読みはズバリと的中したようだ、そして春日野先生に我道拳の欠点を突き付けられ材木座は何も言い返せず口を噤んでしまった。
「う〜ん、そうだなぁ、材木座は気もしっかりと練れてる様だし…やっぱり問題はフォームの方にあるんじゃないかなぁ…。」
春日野先生はフォームの問題と言うけど、それなら極限流の坂崎総帥やロドリゲス師範代はどうなるんだ、あの人達は材木座のそれと近いフォームからすげぇ気弾を放っているんだけど。
けど、春日野先生はまだ何かを呟いている、材木座の我道拳を改良する為の何かを頭の中から導き出そうとしているのかな………それから数十秒が経った頃、どうやら春日野先生は何かの結論に至った様だ。
「そうだ!ねぇ材木座君、私の横に着いて私と同じ構えをしてみてくれないかな。」
謎は全て解けた、とばかりに春日野先生が材木座を促す。
まさか先生は実地で材木座に気弾の放出法を伝授しようってんだろうか…いやそうだとしたら、もしかして春日野先生も気弾を撃てるのか!?
「材木座、先生の言ったとおりにしてみろよ、もしかしたら何かが掴めるかも知れないぞ!」
春日野先生の言葉に戸惑いを見せていた材木座だったが、俺がそれを促した事により意を決し俺に頷き、春日野先生の隣に並び立った。
「お、お願いします春日野先生!」
材木座と春日野先生が横並びとなり、春日野が先ずはリラックスと材木座に肩の力を抜く様に指示し、軽く深呼吸をさせる、深く呼吸をすると書いて深呼吸なのに軽くとは此れ如何に、だな。
「良し準備OKだねっ、先ずは左脚を前へ出して半身に構える…うん、そんな感じだよ。」
「はい!」
春日野先生の指示に従い材木座も同じ体勢を取る、そして次の春日野先生が指示し取った体勢を見、俺は衝撃を受けてしまった。
「そして軽く前に屈むように前傾姿勢を取る、そして右手と左手を後方へと持って行って…。」
「なっ…その体勢は!」
それは去年の秋……………。
「後方へ持って行った両の掌の間に、気を集中させて、気を球にする様なイメージを意識してみて!」
「はい!集中…集中!気の球…球を作る!」
春日野先生と材木座の両の掌の間に淡い輝きが生まれてゆく、ジリジリとスパークが走りやがてその掌の間に球形の球が形作られている事がハッキリと見てとれる、同じだあの人と!
「うん、良いよ材木座!出来てる出来てる!後は…思いっ切り両手を前へ突出す。」
「…思いっ切り前へ突出す、でありますか春日野先生!」
「そう、私に続いて撃ってみて…行くよぉ!波動ォ拳!」
同じだ、あの日俺がこの身で受けたあの人の…リュウさんの技と!
春日野先生が放った気弾『波動拳』あの日リュウさんは言っていた、リュウさんが学んだ武術は古来から続く名も無い暗殺拳だと、リュウさんとケン・マスターズさんの二人が同門の兄弟弟子として同じ師に師事し互いに競い合ったって。
だとすると、春日野先生はリュウさん達の妹弟子って事なのか…いや違う、春日野先生は材木座の師匠に手解きを受けたと言っていた…どういう事なんだ。
「おおおっ!波動ォ拳!!」
春日野先生から遅れる事数秒、材木座もその気弾を撃ち放つ、それはこれまでのほんの僅かな距離で消えていた今迄の材木座の我道拳とは違い数十メートルほど直進しやがて霧散した。
「………………………。」
「うん、いい感じだったよ材木座君、初めてであれだけの物を撃ち出せるなんてね大したもんだよ、此れまで君が日々の鍛錬をしっかり積んでいた、その成果が如実に現れたんだね。」
ああ、春日野先生の言う通りだ、材木座は中二病でコミュ症で、書いてくるラノベもしょうもない物だが、格闘技に対する気持ちと己を鍛え続けた日々の積み重ねは、本物だ。
だからこそ撃てたんだろう、リュウさん達と同じ技…波動拳を。
「うおおおおおっ!見たか八幡よ、我の気弾があんなに飛んだぞぉっ!」
ああ見てたよ材木座、まさかお前がリュウさんと同じ技を使えるなんてな、ほんの一分前まで想像さえしていなかったよ。
「おう、まぁ飛んだな。」
「反応うっすぅ〜っ!!」
いやまぁ、取り敢えずはこんなもんで良いじゃねぇかよ、其れよりも俺は春日野先生に聞かなきゃならない事があるんだからよ。
だから悪いが材木座、お前の事は一旦置いとくな。
「春日野先生…一つ良いっすか、先生はリュウさんとケン・マスターズさんのお二人と何か関係があるんですか?」
俺は春日野先生に質問した、そのものズバリを湾曲させる事なく。
俺が質問した事により、材木座は『はぁ?コイツ何言ってんの…。』って感じの表情で、まぁ材木座は預かり知らない事を話してんだから当然…では無いな、取り敢えずチミのその顔は鬱陶しいのでどうにかしなさい。
「波動拳ってリュウさんとケン・マスターズさんの技ですよね。」
再度俺は春日野先生へ質問を重ね尋ねた、具体的に波動拳と言う技の名を加えて。
「ねえ、比企谷君…ケンさんは色んな大会に出場していたし、君が知っていたとしても何の不思議は無いけど、何故君がリュウさんの事を知ってるのかな?」
リュウさんは表立った大きな大会に出場した記録は殆ど無いと言ってもいい、以前から俺はネットや市販の映像媒体で古い格闘技の試合や格闘家の特集などを探して視聴していたが、遂にリュウさんの闘う姿を収めた映像には出会えなかった。
その人の事を俺が知っている、春日野先生はもしかしてその事を訝しんでいるんだろうか。
「…去年の秋頃でした、俺は何時も修行で使っている雑木林で一人の格闘家と出会い、そして手合わせをしてもらいました…。」
俺の答えに春日野先生の表情は、先程と違い、驚愕とまではいかないかな、けど十分に驚いたって感じの表情をしていらっしゃります。
あの雑木林でのリュウさんとの邂逅、その時リュウさんは何と言っていた、確か誰か会うためにこの街に来た、リュウさんはそう言っていたよな。
やがて、春日野先生の顔から驚きの色は消え、何だか随分と…頬が緩んでいる様な何と言うか、不味い感じがし始めた様な気がするぜぇ、この八幡にはよぉ!
「はぁ〜っ、ホントに世間って狭いんだねぇ…。」
やっぱりそう思いますよね、まぁ『SF西遊記スタージンガー』のオープニングじゃ銀河系も狭いもんだって言ってるしね、ましてや日本の同じ千葉県内だしね、あるあるこんな事も…ってそうそうあるもんじゃ無ぇよ!多分、知らんけどさ。
「いっやぁ〜っ、リュウさんか言ってた将来が楽しみな少年って、君の事だったんだね比企谷君!」
バンバンと俺の肩を叩きながらそう言った、春日野先生のお顔は…ワクワクが止まらないぜ…と言っているかのようなそんな表情でした。