やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
そんなこんなで、俺達は会場へ来る時に乗せてもらったリムジンに再び載せてもらい、やって来ました比企谷家の前。
リムジンを降りて、俺を先頭に皆があとに続いてくれて、いざ我が家のドアを開かんとしたその時。
我が家の扉はあらなんと、内側から開かれたではあ〜りませんか。
開かれた扉から現れたのは、当然ながら我が家の住人。
初めに見えたその姿は、母ちゃんだった、続いて親父の姿が見えた。
『ただいま。』とそう言おうとした時だ、俺の機先を制し先に言葉を発したのは母ちゃんだった。
「…おかえりなさい八幡…それから皆さんこんばんは、八幡の母親です。」
「はじめまして、八幡の父です。
狭い家ですがどうぞお上がりになって下さい。」
母ちゃんとそれに続いて親父が、皆に挨拶をして家へ入る事を促した。
「はじめまして八っちゃんのお父様、お母様、私不知火舞と申します。」
皆を代表するかの様に舞姉ちゃんがうちの両親に挨拶をし。
「はい、良く存じております、不知火舞さん、テリー・ボガードさんにアンディ・ボガードさん、ジョー東さん、それとそちらのお子さんは、テリー・ボガードさんのご養子のロック・ハワード君でしたね。」
舞姉ちゃんの返礼に答えた親父、俺は親父が皆の素性を知っている事に驚いてしまい、何で知っていたのか聞いてみると「父さん実は格闘技、結構好きなんだよ。」との答えが帰ってきた。
意外な答えが返ってきたのに、瞬間俺の表情はポカン状態。
親父の趣味志向を俺はちっとも知らなかった。
この一事を取っても、如何に俺達家族が互いに、コミュニケーションを取っていなかったかと言う事実を物語っているよなぁ。
「母ちゃん、小町はどうしたの?」
さっきから気になっていた、この玄関に小町の姿が見当たらない事。
それが気になり俺は聞いてみた。
「小町は、寝ちゃったのよ…さっき迄起きていてね、お兄ちゃんが帰ってくるの待ってるって言ってたんだけどね。」
ここじゃあ何だから、話は家の中でしましょう、母ちゃんの言葉に従い皆で家へ上がり話す事にした。
まぁ最初っからテリー兄ちゃんの目的はそれだったんだから、漸く目的が果たせるってなもんだ。
リビングのソファの上に小町はタオルケットを掛けられて寝かされていた。
小さな小町の可愛い寝顔に、俺は心が暖かくなってゆくのを感じた。
「……ただいま小町。」
そっと小町の頭を撫でながら、小声でただいまと告げた。
「小町ね、お兄ちゃんと一緒にアテナちゃん見るんだって、お母さんが起きてからずっと言ってたのよ。」
そうだったんだ、今日のイベントはテレビで放送されていたんだよな。
麻宮アテナファンの小町はそれを知っていて、俺と一緒に見る事を楽しみにしていたんだ。
ゴメン小町、一緒に観れなくて。
「でも八幡が帰って来ないから、ガッカリしていたのよ。」
「でもな、その後のテリーさんの試合中継に八幡、お前が映っているのを小町が見つけてな、お兄ちゃんがアテナちゃんの所に居るってテレビを見て大騒ぎでな、まぁ俺達は気付けなかったんだけどな。」
「だけど、テリーさんの帽子を八幡が被せてもらってた時に漸く私達も判ったのよ、大きく映ったからね八幡がテリーさん達と一緒にいたんだって、それまでもチラチラ八幡が映っていたのに私達は気付かなかったけど、小町は最初から八幡だと気付いてたのよ。」
「本当に小町はお前の事が大好きなんだよ、父さん本当にお前に嫉妬の炎に身を焦がしそうだぞ八幡。」
その日の出来事を語る両親、改めて俺の事を想ってくれる妹の存在。
その事に心が充たされてゆく、でも親父ィィィ、最後で台無しだぜよ。
改めてリビングに集った俺達は、今朝からの一連の出来事を両親に語った、そして何故そうなったのか、切っ掛けとなったのは俺に対する虐めだ。
「と言う訳でこのカードに、今朝撮影したデータが入っている、コレをどう使うかはあんた達次第だぜ親父さん、お袋さんもな。!」
奴等に良い様にヤラれていた今朝の俺の姿が映された映像、テリー兄ちゃんはそれを親父に渡した。
「…何から何まで、ありがとうございますテリーさん、この好意決して無駄にはしません。八幡の今後の為必ず役立てます。」
「…自分の子供がそんな目に会っていると云うのに、それに気が付いていなかったなんて、私達は父親母親失格ですよね。」
テリー兄ちゃんへの感謝と己の有り様に対する反省の弁を口にする両親の姿に俺は何とも言えず、只それを観ているだけだったんだが。
「……うぅ〜ん…んぁ〜っ!あっ、お兄ちゃんおかえりなさい。」
そんな時に小町が目を覚まし、おかえりなさいと言いながらボディアタックをかましてくれた。
思わずぐえっと声が出そうになっが、そこはガマンの男の子。
そうなのです、為せば成る、ザブングル……
このネタ、知っている人は昭和世代かスパロボ好きだよな、八幡知ってる。
息が詰まりそうな状態を我慢して何とか、ただいまが言えて、俺は安らいだ気持ちを抱いた。
「よう、目が覚めたんだなコマチ。」
俺のお腹に抱き着いて頭をグリグリとしていた小町に、テリー兄ちゃんが、呼び掛けると、小町はキョトンとした顔でテリー兄ちゃんを、そしてリビングの状況をキョロキョロと確認し。
「あ〜!テレビのすごく強いお兄ちゃんだぁ!」
大きな声でテリー兄ちゃんを指差しながら、言う小町の表情は驚きと喜びに溢れていた。
「俺はテリーだ、よろしくなコマチ」
「うん!!テリーお兄ちゃん!」
テリー兄ちゃんの小町に対する自己紹介と小町の返事、それに続き皆も小町に自己紹介を始める、小町はそれぞれの名前プラスお兄ちゃん、お姉ちゃん呼びで返事し、以後そう呼ぶ事が定着する。
ロックもお兄ちゃんと呼ばれ、意味は理解出来なくとも、小さな小町に好意を向けられている事は解った様で、優しく笑って接してくれた。
因みに皆の小町に対する呼び方だが、舞姉ちゃん以外は普通に小町と呼ぶ。
舞姉ちゃんはと言うと「こまちゃん」と呼ぶんだが……何処ぞの田舎にお住まいの越谷さん家の小さな長女かよ。
まぁ俺の事を八っちゃんと呼んてる時点で、なんと無くそう言う呼び方になるんじゃ無いかとは思っていたがな。
一通りの挨拶も終え、話は再度俺の現状に対しての事が話される。
改めて両親は俺に対しての謝罪を口にする、そして小町はその眼に涙を溜めて以前虐めが原因で負った怪我の治療を手伝った事を両親に話し、両親にはそれに対し何故言わなかったのかと問われた。
「…俺、今日テリー兄ちゃんに肩車してもらったんだ、いつも見えないずっと遠くまで色々沢山見えたんだ、それが何か俺……嬉しかったけど…俺、父ちゃんにも母ちゃんにも肩車してもらった事無い………。」
そこで俺は言葉に詰まって、沈黙してしまい。
「要するに八幡は、話しても無駄だと思ったんじゃ無いですか、いつも仕事で帰りが遅く、話をする時間もあまり取れていなかった、八幡は僕達にそう話してくれましたよ。」
「休日はあんた等、仕事疲れで遅くまで休んでいて、起きて来てもまだ小さい小町の世話も有るだろう、だから八幡に対して目を向ける事がおざなりに成ってたんじゃあないのかい?」
アンディ兄ちゃんとジョーあんちゃんの二人が両親に、言葉に詰まった俺の代わりに物申してくれた。
「八っちゃん自身それを分かっていたんでしょう、まだ小さいこまちゃんの事を目を掛けなきゃいけないって、そう一歩引いてしまったんでしう。」
「自分はこまちゃんのお兄ちゃんなんだからって、八っちゃん自身が我慢してしまったって言うのも有るんだよね、そうなんでしょう八っちゃん!?」
「………………」
何も言えなかった、確かに舞姉ちゃんの言う通りだ、俺自身が両親へと距離を取った。
だから甘えたかったのに甘える事を躊躇ってしまった、痩我慢をしてしまっていた。
何処ぞのテレビ番組に出て来る教育評論家なんぞは「それでも、それを察する事が親としての在るべき姿だ。」とかしたり顔で宣うんだろうな、けど物事そうそう上手くは動かない。
家の両親は仕事人間だった事、俺が自分を抑えた事、両親と俺が共に小町を優先的に考えてしまった事。
そう言った複数の人間の思考が思惑が働いた結果がこの状況を作り上げたんだよな。
何も教育評論家の言を全否定しようとは思わない、彼等の言う事も一理有ると思う。
只、うちの家族がそんなだから、俺を含めて互いの事を理解し合うと言う事をおざなりにしてしまった。
それだけの事なんだよな。
「…ねぇ八幡、八幡はさ覚えているかな…八幡が小学校に上がってすぐの頃の事、休みの日にお母さん寝坊しちゃって朝食作れなかった事が有ったよね。」
あぁ、覚えてるよ母ちゃん。
親父と母ちゃんは前日帰りが遅くて、二人は朝起きて来なくて、俺と小町は普通に起きていて「お腹空いたね」小町がそう言って、朝食を俺が作ったんだ。
それからだったんだ、休みの日に俺が小町分と二人分の食事を用意する様になったのは。
「テーブルの上に、トーストと玉子焼きと焼いたウインナーと、ちょっとしたサラダが並べられていてさ、コレどうしたのって聞いたら小町が…お兄ちゃんが作ったんだよって、本当に嬉しそうにそう言ってさ…。」
「八幡はお母さんが、作っているの見て覚えたって言ってさ…お母さん本当にビックリして、だって小学校に上がったばっかりの八幡が料理が出来るって思ってもいなかったからさ。」
母ちゃんはそこまで言って、躊躇う様に、口をつくんだ。
暫し沈黙し、意を決したのか再び語り始めた。
「ごめんね八幡、あの時お母さんは八幡の事褒めたよね…でも本来ならあの時お母さんは、八幡の事叱らなきゃいけなかったんだよね、なのにそれからはしょっちゅう八幡に甘えて。」
え!?何で!?
何で母ちゃんは俺を叱らなければならなかったんだ、理由が分からない。
「だって、小学校に上がったばっかりの子供に刃物やガスコンロを扱わせるなんて、危険だからやっちゃいけない事なんだよね。だからお母さんあの時…先ずは八幡の事叱ってガスコンロや包丁は、お母さんと一緒の時しか使っちゃ駄目って注意して、それから…それから寝坊してごめんねって謝って、それから…ありがとうって言わなくちゃいけ…なかっ…なかったんだよね。」
最後は言葉に詰まりながら、母ちゃんは俺を抱きしめそう言った。
小さくごめんねと何度も耳元で呟く母ちゃん、その声を聞くうちに俺も母ちゃんの背に腕を回して、母ちゃん、母ちゃんって呼んで…。
数年ぶりに感じた、母ちゃんの温もりに感極まり、何時しか俺は泣いていた。
俺の腕を掴んで、小町もまた泣いている、そして親父も俺の頭に手を置き謝罪の言葉を呟く。
俺は自分の心が次第に解けてゆくのを感じていた。
ずっと蟠っていた物が解けてゆく。
「ちくしょー、泣かせんじゃねぇよ」
ジョーあんちゃんは、鼻を啜りながら貰い泣きしていた。
一々昭和っぽい反応をするジョーあんちゃんに、俺達は次第に泣き笑いの状態になって行ってしまった。
シリアスブレイカーかよ、あんた。
「ふぅ、コイツはどうやら俺の考えていた最悪の事態は避けられそうだな。」
テリー兄ちゃんは安堵し、そう俺達に告げた。
テリー兄ちゃんが言う最悪の事態とはどう言う事なのかそれは、皆がテリー兄ちゃんを注目する中、ゆっくりと語り始めた。
「もしも俺が考える最悪の状態にあんた達が有ったら、俺は八幡の親権をあんた達から奪うつもりだったんだ。」
テリー兄ちゃんのその言葉は、親父と母ちゃんに取ってみてら、とても重く受け入れ難い発言だろう。
二人はその言葉に言葉を失い、テリー兄ちゃんの真意か語られる時を固唾を飲んで待った。