やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

75 / 135
やはり俺達が極限流の内情を知るのは間違っている。

 

 サカザキ前総帥の俺に対する極限流への勧誘発言は、ここに集う皆にとってもまさに青天の霹靂というべきだろう。

 それはサカザキ前総帥の娘さんであるユリさんとガルシア師範にも当てはまる様で。

 

 「ちょっとお父さん何考えてるのよ、八幡くんはここに居るヒガシさんやボガードさん達の弟子なのよ、それを知っていながらなんで勧誘なんて、それこそお父さんの好きな演歌的な義理人情を欠く行為なんじゃないの!?」

 

 「ユリちゃんの言う通りでっせ師匠、ホンマに何考えとりますん?確かに八幡は仕合いで沙希に勝った言うし将来性はバッチリや思うけど、あくまで他流派の門下生みたいなモンやないですか。」

 

 お二人がサカザキ前総帥に苦言を訂してくださった、いやまあ実際お二人の言う事こそが正しいよな、俺はあくまでも餓狼の弟子なんだからさ。

 

 それから更にお二人はサカザキ前総帥に対し諫言してくれていたんだが。

 

 「えぇい!二人してゴチャゴチャと、元はと言えばロバート、ユリ、そして此処には居らぬがリョウ、お前達がイカンのだ!!」

 

 ドン!と拳をテーブルに叩き付けて、サカザキ前総帥は憤りも顕にしそう仰られた。

 それによりテーブルの上に置かれたグラスやドリンクの瓶が倒れてしまい、その中の氷や飲み物がテーブルにこぼれてしまった。

 しかも、そのサカザキ前総帥の行動に驚き格闘家でない女子達は、ビクリと身を震わせてる。

 御年七十を越えているとはいえども、長年格闘家として実戦と鍛錬を続けて来た歴戦の古強者であり、まあその歳にして未だ鍛錬を続けているであろう、強靭さを感じさせる肉体の持ち主だ、そりゃあ怖いわな。

 

 「へっ、何?ちょっとどういう事よお父さん!?」

 

 そしてユリさんにとっても、サカザキ前総帥の憤慨の理由が自分達にあるとのお言葉に心当たりが無い様で、だから戸惑いその理由を尋ねた。

 俺としてもその辺りの事情に付いては部外者だけども、極限流前総帥からよく解らない理由でスカウトを受けた身としては、出来うればお聞きしたいものである。

 なのでこれから語られるであろうサカザキ前総帥のお言葉は一言たりとも聞き漏らすまい。

 

 「ロバート、ユリ、わしはお前達に感謝しておるよ、お前たち二人が世帯を持ちわしに可愛い孫の顔を見せてくれた事に付いてはな、その点リョウの奴めは、自身の鍛錬ばかりに明け暮れよって、遂に恋人の一人も作る事も無くもう数年で五十を迎えようとしておるのだ。

 全くあ奴はキング嬢や藤堂の娘御など見目の良い女性と出会いながらも遂に浮いた話一つ無く終わってしまいよった…実に嘆かわしい。」

 

 サカザキ前総帥は切実に…切実に自分の息子が嫁を迎えなかった事を嘆いて居られる。

 やはり父親として、倅が何時までも独り身と言うのは何かと思うところがあるんだろうか、その辺俺はまだ十代だからなのか、あまり理解できない。

 

 「その点お前達は二人も子を成してくれた事であるからな、その辺りは良くやったと褒めてやろう…うむ。

 しかしじゃ、しかしなにゆえその子供達は我が極限流を学ぼうとせんのだ!?お前達の子が極限流を学び未来の極限流を背負って立つ男子となってくれれば、わしはなんの憂いも無く隠居じじいとして気楽な老後を謳歌出来ていたであろうと言うのに。」

 

 「だからわしは、わしがその才を見出した沙希坊とその想い人である八幡少年に、ゆくゆくは我が極限流の未来を託したと思ったのだ……今はまだ良い、リョウの奴めもまだまだ十分に若いからの、然しあ奴が老いた後に極限流を負って立つ事の出来る者を今の内に育てておかねばならぬであろうが!」

 

 結局のところ、サカザキ前総帥の思惑とは偏に極限流の未来を思っての事だという事なんだな、その為にサカザキ前総帥は俺を極限流の門下生にしたいと、そして更には川崎との間に…………って、ちょっと待て!待て!待て!待て!待ってってばよ!

 サカザキ前総帥ってば、何を言ってくれちゃってんのよ!?

 川崎の想い人が俺で、でもってその俺と川崎に極限流の未来を託すだってぇ〜っ!?

 俺はその言葉が気になりチラリとサキサキに視線を向けると……サキサキさんは顔を真っ赤にして、声も出せずに口をアワアワとさせている……えっサキサキさん、何その反応…まさかだよね?

 

 「むふふふふ…今から楽しみだな、沙希坊と八幡少年の間に子が産まれればきっと両親に似てさぞや強い子が育つであろうな。」

 

 またまた更に駄目押しの、お子様発言ですかいサカザキ前総帥!?

 そのお言葉でサキサキはまるで顔から湯気を出してしまいそうな程に、さっきよりもまた一段と深い赤に染まっているし!

 

 「…な、なっ、何を、何を言ってるんですかご隠居!アタシと比企谷は別にそんな関係じゃありません!

 それに、ご隠居も聞いたでしょう比企谷には三人も相手が居るんですよ、其処にアタシが…入り込む…余地、なんてある訳……。」

 

 その真っ赤なスカーフ…元い真っ赤なお顔で以て必死になってサカザキ前総帥の言葉を否定するサキサキだけど、その言葉は次第に小さくなって途中から何を言っているのかわからなくなってしまったんだが、何と言うかサカザキ前総帥の発言もだが俺の存在がなんだかサキサキに要らぬ迷惑を掛けてしまったみたいで申し訳無く感じてしまうんですけど。

 

 「ふははははっ、なにも照れずとも良いのだぞ沙希坊、沙希坊程の器量良しを袖にする様な男なぞそうそう居る筈も無かろうて…うむ。」

 

 嗚呼…俺、なんだかサカザキ前総帥が口を開けば開く程、サカザキ前総帥に対する敬意が薄れていく様な気がするんだけど、ハァ、何だかなぁ…。

 

 「…ちょっとさあ、お父さんいい加減にするっちよ!」

 

 サカザキ前総帥が、いい感じで気持ち良さそうに持論を打っているのを、其れまで静かに聞いていたユリさんが、その身をワナワナ震わせながら、怒りを顕にサカザキ前総帥に対して反撃に打って出た…でたんだけど、えっ?『いい加減にするっちよ』ってユリさん今そう仰っしゃりましたか!?

 

 「黙って聞いていればお父さんってば自分勝手な事ばかり言って、少しは沙希ちゃんと八幡くんの事を考えてから口を開くっちよ!」

 

 椅子から立ち、スビシっとユリさんは右手人差し指を憤慨したかの様にサカザキ前総帥へと突きつけて、その様に宣告した。

 

 「…ちょっ、ユリちゃんユリちゃん!言葉、言葉が昔に戻っとんで!?」

  

 そのユリさんを落ち着かせようと、ガルシア師範はまぁまぁとばかりにユリさんへ声を掛けるが、と言うかユリさんって昔はこんな風な口調で喋っていたんですね……『○○っち!』とか。

 

 「けど師匠、ユリちゃんの言う事はもっともな事でっせ、実際師匠かて覚えてはりますやろうあの当時の事!?」

 

 「そうだよお父さん!だいたいあの子達が格闘の道を選ばなかった原因はお父さんにあるっちよ!!」

 

 「ぎくっ!」

 

 『ぎくっ』て言ったよね、今サカザキ前総帥『ぎくっ』って…何かこの僅かな時間の間に、マジ俺の中のサカザキ前総帥のイメージが崩れまくりだよ!

 なんかさ俺、極限流の人達って皆さんきっとシリアスで漢字の『漢』と描いて男と読むってな雰囲気の人達ばかりなんだろうと思ってたんだけど、この数分で『極限流空手=ギャグキャラ軍団』の図式が成立しそうだよ…。

 てか、サカザキ前総帥って自分のお孫さんに何をしたんだよ一体。

 

 「お父さんさぁ、まだ小学校にも上がってない年齢の、当然まだ身体だって出来上がっていないあの子達に無理やり稽古つけたりしてたっちよね!

 しかも超スパルタな内容のをさ、それであの子達に大泣きされて『タクマお祖父ちゃん嫌い』って言われて凹んでたじゃん!」

 

 アハハ…此処に居る皆のサカザキ前総帥を見る目が次第次第に残念な者を見る目へと取って代わられちゃったよ…。

 

 「ぐ、めぬぬぅ…。」

 

 「ロバートさんも私も、当然あの子達に極限流の指導をするつもりでいたんだよ、けどそれはあの子達の成長の度合いに合わせて少しずつゆっくりやろうって二人で話してたっちよ!」

 

 サカザキ前総帥に対して尚も言い募るユリさん、ああガルシア師範ご夫妻としては自分達が描いていた絵図をサカザキ前総帥に御破算にされてしまったも同然なんだな。

 うん…そりゃあ恨み言の一つや二つも言いたくなるわなぁ。

 

 「そのおかけであの子ら、なんや空手がトラウマになった様でしてな、しばらくの間道着を見ただけで震え上がっとりましたわ、ホンマあれは親としても極限流の一員としても悲しかったですわ。」

 

 胸元で腕組みをしてガルシア師範はウンウンと頷きつつ、当時を思い出してその様に述懐している。

 然し道着を見ただけで震え上がるってどんだけサカザキ前総帥はお孫さんにトラウマ植え付けてんだよ…。

 

 「ぐ、ぐ、ぐぅっ…。」

 

 「イタリアって結構物騒な所が多いからさ、当然私としてもあの子達が危険な目を回避出来る様に、護身術としても極限流を学ばせるつもりだったっちよ!」

 

 「せやせや、あの後あの子らが道着を怖がるさかい仕方無しにトレーニングウェアを着せて、トラウマを払拭させる様にユリちゃんと二人で優しゅう宥めながら、少しずつ極限流の指導をしてったんやけど、結局あの子ら最後まで空手に興味を持たんやったから結局護身術レベルで止まりですわ……。」

 

 凄えなガルシア夫妻、空手がトラウマになった我が子に対して、親としてとことん親身に献身的に空手の指導を行ったんだろうな、まさに親の鏡じゃねそれ。

 

 「お兄ちゃんの時だってそうだったじゃん!お兄ちゃんって小さい頃から、本当に気が優しくて争い事や荒事に向かない人だったのに、お父さん無理矢理稽古付けたりして、それで私やロバートさんがお兄ちゃんに無理強いしないでってお願いした事あったっちよね!」

 

 そう言えば聞いた事があったな、極限流空手はその稽古があまりにもスパルタ過ぎて、折角入門して来た初心者がその辛さに付いて行けず、結果多くの門人を失っていたってさ、まぁその後サカザキ総帥やガルシア師範やロドリゲス師範代の活躍もあって、その厳しさこそが強さに繋がっているって認識されて、その覚悟を持った人が極限流の門を叩くようになったと。

 けど、やっぱりさ…その覚悟を持たない人にまで無理強いするのは良く無いよな、特にまだ身体が出来ていない子供とかはさ。

 

 「マジかよ、あの伝説の無敵の龍が子供の頃はそんな性格だったのかよ…。」

 

 ユリさんが語った昔のサカザキ総帥の性格に付いての言に、ジョーあんちゃんが食いついた。

 うん、俺もそう思ったよ、まさかサカザキ総帥が昔はそんな気性の人だったなんてな意外だ…。

 

 「おうせやで、昔のリョウはなホンマに気弱な性格でな、せやけど人一倍思いやりがあって心根の優しいヤツやってんねん、せやから俺はリョウのヤツがまさか格闘の世界に身を置くようになるなんて思っとりもせんかったわ!」

 

 そうだったのか、けど一体何があってサカザキ総帥は格闘の世界に飛び込んだんだろうか、その理由…知りたいな。

 

 「へぇー…サカザキ総帥さんってはちくんと何だか似ていますね、ヒガシさん舞さん。」

 

 「うん、そうだね、あたしもそう思ったハッチンと一緒だって!」

 

 「……ええ、私も同意見だわ、話に聞く昔の八幡君と昔のサカザキ総帥の気性は、なんだか近しいものがある様だと思えるものね。」

 

 えっ、そうかな…そんな事無いと思うけどな。

 

 「まぁそれは置いといて、お父さんもさぁ、お兄ちゃんやうちの子達の事もあって反省したんじゃなかったの、だから沙希ちゃんと大志くんにはスパルタ指導じゃ無くて普通に段階を経る様に指導したっちよね!」

 

 「…うぬぬぅ、そ、それはそうであるのだがな……。」 

 

 うわぁ認めちゃったよ、サカザキ前総帥…。

 何事もやり過ぎは良く無いって言葉をまさに体現している人だったんだな、そしてそれで結局のところ自身の所業で極限流の跡継ぎに拒否られたって、なんか残念過ぎるわ!

 

 「えぇい!今は昔の事などどうでも良い!問題はこれからの事じゃ!」

 

 うわぁ、今度は開き直ったよ…。

 

 「それで八幡少年よ、お主の返答を聞かせてもらおう。」

 

 あっ、その件はまだ引っ張るつもりなんですね、俺としてはこのまま有耶無耶に終わってほしかったんだけどな。

 はぁ、仕方無いな…だったら俺もきちんと返事をしなきゃだよな。

 

 「…あの、ですね…サカザキ前総帥のお誘いは俺にとって凄く光栄な事ではあるんですけど、俺は極限流の門下生にはなれません。」

 

 そうです、俺は極限流の門人にはなれない、それこそが俺の答えなんだ。

 

 「ほう、なんでや八幡!?当然その理由を聞かせてくれんのやろうな。」

 

 ガルシア師範が俺の答えを聞いて、ニヤリと悪戯っぽい笑みで、その理由を話すように促す。

 悪戯っぽいとは言っても、俺には其処に挑発的な物や嘲りの感情を見て取れない、その笑みは俺には何だか俺に対してとても好意的なものの様に思える。

 

 だから俺はガルシア師範に促された事もあるが、俺自身としてもその理由を正しく知って欲しいと思う、なので俺はそれに一つ頷いてから皆へ伝えた。

 

 「はい、それはですね…極限流の皆さんもご存知の様に俺は此処に居る、ジョーあんちゃんとテリー兄ちゃん、アンディ兄ちゃんにずっと教えを受けてきました。」

 

 「ひ弱で臆病者で嫌われ者だった俺に兄貴たちは優しく、そして厳しく接してくれて鍛えてくれて今の俺が培われて来ました。」

 

 どうかな、俺の思いは皆に伝わるだろうか………。

 

 「それだけじゃ無いな、兄貴達と出会ったお陰で俺は…俺の家族も救われたんです、忙しさのあまり子供の事をきちんと見きれていなかった両親…そんな両親に対して俺の心も離れていってた……けど兄貴達が俺と俺の家族をもう一度向き合う事が出来る様に取り持ってくれて、そのお陰もあって今の俺が形作られているんです。」

 

 「あの日三人の兄貴と姉貴、そしてタメの兄弟分が俺に出来て、兄貴達にその技を教わって…あとついでに親父からはオタクの知識を教わりましたけど、って此れは関係ないっすね。

 だから俺は、その兄貴達の教えを元にこれからも精進を続けて行きます、まぁ何と言うかですね…俺はもうずっと前から、そうだな流派名とか無いんですけどあ〜うん、敢えて言うならそうだ『餓狼流』かなうん、餓狼流とでも名乗っときましょうかね。」

 

 「要するにっすね、餓狼流は俺にとって家族の絆なんです…勿論俺んち比企谷家にとって家族ってのは兄貴達も含まれるるんですけど。」

 

 そう親父も母ちゃんもそして小町もテリー兄ちゃん、アンディ兄ちゃん、ジョーあんちゃん、舞姉ちゃん、そしてロックの事を家族と認識している。

 血縁は無いし、皆離れて暮らしているけど、俺達の家族なんだ。

 だから皆が家へ来る時は母ちゃんも、親父も『おかえりなさい』と言って迎えるんだ、けっして『いらっしゃい』では無くてな、そして当然見送る時は『行ってらっしゃい』だ。

 

 「そうであったのか…いやすまぬ八幡少年、わしは知らぬ事とは言え極限流の為に一つの家族の絆を奪おうとしておったのだな…この通りだ誠に申し訳無い事を言ってしまった、すまぬ。」

 

 サカザキ前総帥は俺の話を聞き終えると、直ぐにそう言って深く頭を下げ詫びの言葉を述べてくれた。 

 うん、この辺の潔さは流石に武術の一流派の創始者だな、孫程の歳の青二才に対してさえその様に自身の非を認め謝罪が出来るんだからな。

 

 「あっ、あのですね、判っていただいたのならっすね俺としてはもう結構なんで…そのどうか頭を上げてください、なんて言うかですね、その痛たまれない気持ちになっちゃいますから。」

 

 けど、その遥かに歳上の人生の先輩に頭を下げられるのって、あまりに度が過ぎると此方の方が凄え痛たまれなくなるんだよな、だからマジで止めて欲しいんだけど!

 

 まぁ、でもこうして俺の極限流への入門の件は片付いた。

 後はそうだな、良い機会だから、一応極限流の皆さんにも伝えとくべきだろうな…。

 

 

 

 

 

 

 




極限流関係のキャラ設定はかなり独自の捏造をしてあります。
リョウが独身者だとか、実際はどうなんでしょうかね…KOFではキングと中々に良さげな関係に見えるし、外伝では香澄の事も認めている様でもあるし……。
ロバートとユリの間に子供が二人居るとかも、当然捏造設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。