やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
極限流空手道場へとお招きいただいた俺達一行は、あいにくと不在だったご隠居さん達が帰られるまでの間、門下生の皆さんの鍛錬の様子を見学させていただいた。
それから十分程の時間が過ぎた頃、ガルシア師範の『今帰ったでぇ!』の言葉と共に、お三方が道場へと帰還された。
『押忍!お帰りなさいませ!』
幹部の皆さんはじめ門下生の方々が一旦修練の止めお三方へ挨拶をする、おおっ…スゲえ統制が取れてんな。
と俺は、その様に感心してしまった、つか川崎姉弟も皆と一緒に挨拶してたんだけどね、やっぱ二人共この道場へ通っていた頃の習性つか習慣が残ってやんのね…ははっ。
「おお、皆おおきにな、俺らの事はかまへんから皆鍛錬に励んでくれや。」
ガルシア師範は道場の皆に手を挙げ答えると鍛錬の再開を促し、そして道場内の俺達の存在に気が付くと三人揃ってこちらに歩み寄りながら友好的に声を掛けてくれた。
「おっ、スマンな待たせてしもたようやな、よぉ来てくれたな八幡にムエタイチャンプにお嬢さん方に、沙希と大志も皆の案内ご苦労さんやったな。」
「うむ、皆さんよくぞ参られた、大したもてなしも出来ぬがゆっくりしていってくだされ。」
「やっ!皆いらっしゃい。」
ガルシア師範、サカザキのご隠居さんにそしてユリさんと、お三方は順繰りに歓迎の意を表してくれたは良いのだが。
「ねぇねぇ沙希ちゃん、どうなのあれから少しは八幡君と進展はあったの?ねぇねぇ!?」
と、挨拶が終わるやいなやユリさんは川崎に対してとんでもない事を言い出してくれやがりました。
てか本当に止めて下さい、そう言った発言は!
「ちょっ…ユリさんは何を言っているんですか!?あっ、アタシは別に比企谷の事なんて…………。」
ちょっマジで何を言ってんだよユリさんは、見てくださいよ川崎は顔を赤く染め怒りに身を震わせて?否定してくれているじゃないっすか、それにほらほら、こっちでは三人の少女から何か恐ろしいまでのダークオーラを纏っているし、思わず俺のナニがキュッと縮こまってしまったじゃないっすか。
何ならもう三人揃って、修羅道に突入してこの場に屍山血河を顕現させてしまいそうまであるぞ、コレ。
「皆どうだね、我が極限流の門下の者達の鍛錬の様子は、沙希坊と大志坊には懐かしかろう、八幡少年とヒガシ君はどうかな?」
サカザキのご隠居の質問に皆口々に己の抱いたこの道場の感想を述べる、女子達はこの道場の熱気に圧倒され、まだ小さな少年少女の門下生までが鍛錬に励んでいる事に驚きを禁じえないとも。
「そうっすね、何かスゲえ懐かしいっす俺、俺もあの子達みたいに此処で修行してたんすよね、黒岩師範代やご隠居さんに色んな事教わって…。」
「アタシもですご隠居、アタシ達姉弟は此処で皆さんに良くしていただいて、此処での修行の日々があったからこそ今のアタシがいるんですよね、その事を再確認出来ました。」
サカザキのご隠居さんは皆の述べる感想を聞き満足そうに頷くと、俺とジョーあんちゃんに目を向ける。
「ああ、まぁ何だ俺もジムを開設して指導者となった身だしな、それなりに参考にはなったぜ。」
ジョーあんちゃんは、あんちゃんらしい素直では無い言い回しを以てこの道場に対する評価を下すが、ジョーあんちゃんときたらこの道場へ招き入れられてからずっと、感心した面持ちで皆の鍛錬の風景を見ていたくせにな。
「はははっ、そうか……。」
サカザキのご隠居さんは、そのジョーあんちゃんの評価に呵々と笑うと、次は俺へと目を向ける。
なので俺も、此処はその視線に対して真剣に答えるぺきだろうな、ネタとか抜きで。
「…そうっすね何てか…もしかするとこの中から将来、次代の無敵の龍や最強の虎が現れるかもって思うと何だか楽しみっすね。」
その俺の言葉にサカザキのご隠居さんだけでは無く、ガルシア師範とユリさんまでもが嬉しげに微笑んだ。
やはり創始者として、そして指導者としても無敵の龍や最強の虎の二つ名を継承させられる様な後継者を育てあげるって事はこの上ない喜びなのだろうな。
きっとそれはテリー兄ちゃんやアンディ兄ちゃん、そしてジョーあんちゃんも同様だろうか。
それから俺達は道場二階の応接室へと案内され、お三方プラス黒岩師範代の四人と暫し歓談し、其処で黒岩師範代と極限流空手との出合いのエピソードなどをお聞きした。
それによると黒岩師範代は高校を卒業と同時にアメリカへ放浪の旅へと出発ヒッチハイクなどをしながらアメリカ各地を見聞して回るつもりでいたそうた。
「その旅の途中にちょっとした厄介事に巻き込まれてね、その時たまたま其処に居合わせたサカザキ総帥の介入により助けられて、そのまま二年程私はアメリカに留まりバイトをしながら極限流空手の門下となり修行の日々を過ごしたんだよ。」
そして二年後帰国した黒岩師範代は改めて、教育学部体育学科へと進学、スポーツ武術を通じて若者の育成に携わりたいと思っての事だそうだ。
大学を卒業後、地元であるこの○○市の私立高校の体育教師として採用され、その後この日本に極限流空手道場の支部を創設するに当たり尽力。
現在は教師と空手道師範代を立派にこなす、まさに二足の草鞋を履いているって状況だそうだ。
「黒岩先生、同じ教職に就く者として私は貴方に尊敬の念を禁じ得ません。
貴方の様な方に学ぶ学生達は、とても幸運な少年少女達と言っても過言ではないでしょうね。」
黒岩師範代は平塚先生からの惜しみない称賛と尊敬の念を表明され、強面の顔を赤く染めまるで世慣れぬ少年の様に照れている、まぁ平塚先生って見た目超美人だからな、そんな人に心からの称賛を受けりゃそうなるのも致し方なしだな。
「なんやぁ鉄夫、お前その別嬪さんに惚れたんちゃうやろな?せやけど残念やったな、その別嬪さんはソコのムエタイチャンプと良い仲やねんで。」
などとガルシア師範は黒岩師範代に対しチャチャを入れ、サカザキのご隠居さんとユリさんも朗らかに笑い、当の黒岩師範代も頭を掻きつつ照れ笑いしつつ反論する。
「いやぁ、からかわないで下さいロバート師範、私は別にその様な事は…。」
実は黒岩師範代、皆さんには内緒ってかタイミングが掴めず言い出せなかったそうなのだが、お付き合いをしている女性が居るそうで、この場で其れをカミングアウトする羽目になってしまったりする。
其れを聞かせれた俺達も極限流の皆さんも黒岩師範代に祝福の言葉を贈った事をここに明記しておこう。
世間的には怖いって印象が強い極限流だけど知り合ってここ数日で俺が感じた事は、実は極限流の皆さん案外アットホームな感じなんだってさ。
やがて歓談もそこそこで切り上げ、俺達は再び道場へと赴き、極限流の皆さんのご好意により俺と留美は川崎姉弟と共に道場での鍛錬へ参加させて頂いた。
俺は同年代と思しき男子門下生との組手を、川崎も以前此処でお世話になっていたであろう門下の年上の人達とやはり組手を、留美も同じ年頃の女の子達と共に型稽古を。
地元千葉での例の胸くそ悪い留美に対する悪感情など、この道場の門下生の子達にはある筈もなく、共に鍛錬の時間を共有する事で留美とその子達はごく僅かな時間で仲良くなっていた。
帰る頃には皆で連絡先の交換を行っていた事は言う迄も無い事だな、うん。
「ヨシ、大志何時でも構わないぞ、撃って来い!」
黒岩師範代と大志が三メートル程の距離を置き対峙し攻撃を促す、その距離から察するに黒岩師範代は大志に気弾を放てと言っているのだろう。
「ハイっす師範代!行きます。」
大志は左半身を前に構えを取り、一呼吸。
「はぁーーーーっ!」
右手を後方へと持って行き、それを前方へと大きく振り抜く。
「虎煌拳!」
なっマジ!?大志のヤツ気弾を放てたのかよ、へぇやるじゃないか。
俺の中でこの瞬間大志に対する評価がこれまでより一段階アップした、っても小町の回りを彷徨くお邪魔虫には違いないんだがな!
「フンッ、何のっ!虎煌撃!!」
黒岩師範代は迫りくる大志の気弾を、己の拳に纏った気で相殺、いや大志の気弾を打ち消した。
打ち消して尚、黒岩師範代の拳から気の輝きが消えていないところを見るに、大志の気弾よりも黒岩師範代の纏った気のエネルギーの方がはるかに強かったんだろうな。
ややあって黒岩師範代は己の拳に纏った気を消し、大志の顔を見据え真剣な表情で評価を下す。
「うむ、しっかりと鍛錬を積んでいる様だな大志、あの頃はまだ虎煌拳を放つ事が出来なかったのにな、フハハッ。」
「はい!あっ…お、押忍!」
黒岩師範代の評価に大志は挨拶を以って返す、抑えようとしてはいるが、大志のヤツ顔がものごっつ嬉しそうじゃないかよ、こりゃああれだな、ニヤけるのを止められないって感じか。
そして俺は、一人の少年門下生と対峙している。
「押忍!俺、鮎川拓って言います、今高一っす!あの比企谷さんマジ凄いっすね、あのテリー・ボガードさんとアンディ・ボガードさんとジョー・ヒガシさんの弟子だなんて、今日はよろしくお願いしまっす!」
俺の組手の相手をしてくれる事になったのは鮎川君って言うちょっと可愛い系の男子門下生だった。
キラキラの黒い瞳とサラサラの黒髪に身長160チョイくらいの少し華奢な体型……。
「お…おう、よろしくな鮎川君。」
俺は鮎川君の可愛さに己の顔が熱を発しているのではないかと少しばかり気になってしまったが、ちょっと待ってくれよ、確かに鮎川君は可愛いが、だがそれでもマイエンジェルトツカエルには敵わないのだ!
ふっ、この程度の可愛さで俺の信仰心は揺るぎなどしないのだ…………すんません嘘つきました、メッチャ揺らいでましたよね俺。
嗚呼戸塚、駄目な俺をどうか許してくれぇッ!
おっと、何時ものアホ思考はこれ位にしておこう。
俺と鮎川君は貸し出してもらったプロテクターとヘッドギアを装着し、実戦形式での打ち合い稽古を行う。
極限流へ入門してまだ一年に満たない鮎川君は、まだ気弾の放出など出来るレベルには達していないらしい、なので俺もハンデと言う訳でもないんだが、気功による攻めは控えて基本的な打撃技の使用に留めることした。
鮎川君との打ち合い稽古は僅か三分程の時間であったんだが、その三分間、俺は先ずは受けに回り鮎川君に攻撃させてみたんだが、その鮎川君の打撃に正直驚いた。
拳打も蹴りもコンパクトで鋭くそして体格の割に重みもあり、とても経験一年未満の新米の物とは思えなかった。
きっと鮎川君は、日々基礎鍛錬を真剣にそしてひたむきに決して努力を怠ること無く、打ち込んでいるんだって事を十分に感じさせられる程の物だった。
鮎川君がもしこのまま真剣さを失わずに鍛錬を続け、そして気を身に付けたとしたら果たしてどれ程の者になるだろうか、これはマジで俺もウカウカとは出来無いな。
いつか鮎川君とマジの仕合いをやった時に負けない様に俺も鍛錬を怠っちゃいけないな、やっぱアレだ俺も歳下には負けたく無いしな。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
打ち合い稽古を終えて一礼、それから俺と鮎川君はヘッドギアを外して一息吐く。
「ふぅ〜っ…あの、本当にありがとうございました比企谷さん、やっぱ凄いっすね俺と一つしか違わないのに。」
ヘッドギアを片手に鮎川君が改めて礼を言ってくれた、その顔は打ち込み稽古を終えたばかりの為か、ほんの少しだけ息が弾み頬が紅潮しているが、その表情は嬉しそうに綻んでいる。
「お、おう、サンキューな…けど鮎川君だってマジで凄えって俺は思うぞ、まだ空手始めて一年位だろ、それでアレだけやれるんだからな、大したもんなんじゃね。」
「えっ、本当っすか比企谷さん!?俺も比企谷さんや川崎先輩みたいに強くなれるっすかね!?」
俺が鮎川君の言葉にに返礼すると、鮎川君は満面の笑を浮かべ更に言葉を重ねて言い募る。
俺は鮎川君のその勢いに若干引き気味になったが、彼の問に肯定の意を示す。
「ああ、そう言や鮎川君は気の鍛錬はまだ始めたばかりなんだろ、今のまま打撃技の鍛錬も怠らず更に気功技術を身に付ければ鮎川君の戦いの幅は今以上に多様な選択肢を得る事になるんだからな当然拡がるだろう、まぁだからこのまま続けていきゃそうなれるんじゃね、そいつは多分自分次第ってヤツ?」
「っう〜ぅ、ハイ!俺これからも精進します!」
鮎川君は、俺の言葉に『たまんねぇ』って感じに感激を現す、そんな様子も何か可愛いぞっ……と、そうだった俺は鮎川君に一つ確認しょうと思っていた事があったんだった。
「なぁ、鮎川君はもしかして今成長期だったりするのか?」
俺がそう思ったのは何か確信が有る訳では無く、今んところ何となくそうなんじゃないかと感じたからってだけなんだけど。
「えっ、はい…俺去年の年末は160無かったんですけど、今は163センチあるんですよ、だから半年チョイで5センチ伸びてるから多分…成長期なんですかね。」
やっぱりか、俺がそう思ったのは単純に、今鮎川君が着ている道着が少し小さいんじゃないかと思ったからなんだけどな、だったら何でそんな小さいサイズを着ているのかと考えると、行き着くのは成長期って答えだ。
道着自体はまだ新しいっぽいのにも関わらずにだ、まぁそりゃ経験一年未満だからまだ新しいんだろうけど。
「……マジか、鮎川君が今よりガタイがデカくなったら今より当然更に力が強くなるんだろうし技のリーチも伸びて間合いも変わってくるよな、はぁ…本当俺もうかうか出来ないわコレ。」
それから少しの間俺は鮎川君と話をして、とは言っても殆ど鮎川君の方から話を振って来てそれに俺が答えるって感じなんだがな、やはり元ボッチの習性故だろうな、初対面の人間との会話をあまりスムーズにこなせないのは…。
しかし何とか会話が出来たのは、俺達にはお互い格闘の世界に身を置いて居るって共通点があるからだろうけど。
で、でもな、これでも前よかかなりマシになってんだからな、うん多分な。
それからやや在って、黒岩師範代から皆へ鍛錬の一旦休めの号令が掛かり、門下生の皆はそれに従い、その視線を黒岩師範代へと向ける。
これから、黒岩師範代から皆へ何かしら伝達事項でもあるのだろうと思っての事だろうな、きっと。
「ああ…いや皆は休憩してくれて構わないぞ。」
黒岩師範代は何か伝える事があるのでは無く、本当に休憩する様にと再度促すと門下生の皆さんは道場の壁寄りへと移動し着座、タオルを取り出し汗を拭いたり、稽古での反省点などを話し合ったりなど思い思いの時間を過ごす。
しかし、どうやら俺はそうも行かないらしく………はぁ。
黒岩師範代と共にガルシア師範が俺の元へと来られ、そして……。
「なぁ八幡、スマンがちと俺とやり合うてくれへんか!?」
何とあの最強の虎、ロバート・ガルシア師範から俺への仕合いの申し込みであった…まさかだよな!?
「………まさか、本気ですか?」
俺は、あまりにも意外な申込みに戸惑いを禁じ得ない、だってそうだろう。
ガルシア師範はここ十数年間確かに大会などに出場する事が無かったし、それは家業の方が忙しいって事と師範として後進の育成に当たっていた事も理由だろうけど、それでもその身形とその発せられる気からガルシア師範が自己の鍛錬は疎かにしていないって事はヒシヒシと伝わって来る。
コレは俺の推測だがガルシア師範は今でもまだジョーあんちゃんやアンディ兄ちゃんと五分でやり合えるんじゃないかと、俺は思っている。
「おう、そら本気やで八幡、お前の経歴を知ってや、ほんでそれがそこのムエタイチャンプとやり合えるだけの力を持っとるって思うとな、俺かてこの身でそれを感じてみたい思うた訳や、それが人情っちゅうもんやないか!?」
いやいや、人情かどうかは知らんけどですよ…はぁマジか、どうすっかなぁ、まさかあの伝説の最強の虎と手合わせ出来るとか、そりゃ俺にとってもありがたい事だとは思いますけど、う〜んどうしたものやら。
はてさて、あの最強の虎による手合わせの申込み、それに対して俺は一体どう応えるべきなのか、そしてどうなってしまうのか、それはまた次回の講釈で。