やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
さて、思いがけずも俺はガルシア師範から手合わせの申し出を受けた訳だが、それは俺にとってはまたとない機会であるのかもしれない。
四十代も後半、ここ十数年も公式的な大会などに出場もしていないとは言えども、相手はあの最強の虎だ。
果たしてこの勝負を受けて俺に勝ち目はどれ位あるんだ……さてさてどうなるどうする比企谷八幡!?
極限流空手道場日本支部、今その道場に於いてあの最強の虎と呼ばれたロバート・ガルシア師範が俺と一戦交えるべくその練武場にて待ち構えている。
「すう………はァー。」
そして俺もまた、ガルシア師範と相対すべく覚悟を決める為の、一呼吸。
「どうした八幡、柄に無く緊張なんかしてんのか。」
そう声を掛けて来たのは俺の兄貴分にして、元日本人初のムエタイチャンプでもある『ジョー・ヒガシ』だ。
「……まぁ、そりゃあさ、相手が相手だから緊張位幾らでもするんじゃね。」
内心俺は思っていた事がある、それはこの格闘の世界に身を置く者としていつかは、相対したいと思っていた。
『無敵の龍』と『最強の虎』それからやはり尊敬する兄貴達『伝説の餓狼』
駆け出しルーキーの俺が、それらの伝説を築いた格闘家達にどれだけ食らい付く事が出来るかって疑問もある、だが俺はつい先だってその目標の内の一人と対したんだ。
勝てはしなかったけど、何とかついて行けるだけ力は身に付ける事が出来たって自負もある。
「まぁな、老いたりとは言え相手はあの最強の虎だしな、だがよ八幡、お前ぇだってガキの頃から俺達が技を仕込んでやったんだ、いくら相手が伝説とは言えそこ迄恐れる事は無ぇぜ!」
そうだな、俺の中には三人の兄貴達が長年掛けて仕込んでくれた技がある。
ならそれを信じて一丁挑んでみようかな、って何か今の俺ちょいカッコよさ気じゃね?
「オイコラ、何人の事年寄り扱いしてんねん、俺はまだ五十にもなってへんねんで!」
ジョーあんちゃんの発言は、どうやらガルシア師範の耳に確りと届いていた様で、ガルシア師範からの突っ込みが入ってしまった、ホンマスンマセン。
「まぁ、そらええわ…ほんで八幡覚悟は決まったんか?」
ガルシア師範は自分の頭を一掻きして嘆息したかと思うと、真っ直ぐに俺へと向き直り、その鋭い眼光を向けて来た。
「……くっ!?」
俺はそのガルシア師範の眼光に一瞬怯んでしまった。
長く実戦から遠ざかっているにも関わらずこれ程までの気を放てるのかよ、これが伝説の格闘家の一人、最強の虎。
こう言う言い方は失礼かもだけど、その気力は老いて尚健在って処だろうか、今更ながらに俺はこんなおっかない人と対峙しようとしているんだよな、怖いなぁもう、俺とっとと家に帰りたい!
「八幡君…………。」
「ハッチン……。」
「はちくん……。」
雪乃、結衣、いろは……はぁ参ったわなこりゃ、もしかすると俺の怖じ気が三人に伝わったのかな。
「……あ〜、何だそのすまん、そんなに心配そうな顔しないでくれ。」
何が今の俺カッコよさ気だってんだ、自分の大切な人達にこんな顔させるとかダサいにも程があるってもんだろうこれじゃあさ。
「八幡師匠……。」
更には可愛い妹分にまで。
「…留美、此処で一つカッコいいところの一つや二つでも見せないと男としての貫目が問われるってな、皆も見ててくれるか、俺があの人相手に何処まで喰らいつけるかさ。」
俺は留美の頭に掌を乗せ、その頭を撫でてから、改めて四人へ所信表明を行った、いつかの目標の一つが偶々今日になっただけだ、ただそれだけ。
それに今、この場にはこんなにも俺の事を見守ってくれている人が居るんだ、そう思えば湧いてくるよな、勇気ってやつがさ。
「…うん、ちょっと心配だけどあたし見てるね、ハッチン憧れの人の一人と試合するんだよね。」
「ええ、最後まで見届けるわ、貴方の闘いをこの目で。」
「はい、ですからはちくんは思いっ切りやっちゃって下さい!」
「うん、八幡師匠…。」
結衣と雪乃は両の手のを組んで、いろはは敬礼のポーズで、留美はガッツポーズで俺を見送ってくれる。
「そんじゃ、やっぱりコレを被んなきゃな。」
一昨日の誕生日に三人によりプレゼントとして贈られた黒い帽子を取り出して被る、黒い帽子と黒いジャンパーにブラックジーンズ。
若い頃のテリー兄ちゃんの別カラーバージョンの衣装に身を包み、仕合い用の指ぬきグローブを装着し。
「……それからジョーあんちゃん、骨は拾ってくれよな。」
こっから先何があるか解らないし、なので俺はジョーあんちゃんに後の事を頼む、まぁ若干カッコ付けてみたけど。
「へっバッカ野郎、カッコつけてんじゃん無ぇよ、オラよ行ってこい!」
流石にあんちゃんには直ぐに解ったみたいだな、やっぱ付き合いも長いってのもあるけど何だかんだと俺はこの兄貴にも割と影響を受けてんだよな。
「ああ、じゃ「比企谷!……。」何だよ川崎、どうかしたか?」
ジョーあんちゃんに答えて仕合いに向かおうとしたその時川崎が躊躇いがちに俺に声をかけて来た。
当然だろうけど、川崎は俺に何かを言おうとしているんだろうけど、それを上手く言語化出来ていないんだろうか、だからその気持ちが躊躇いとなっているのかな。
「あっ、アタシは立場上アンタの事を応援出来ないけどさ、まぁそれなりに頑張んなよ!」
意を決して川崎は俺にその言葉を伝えてくれたんだろう、だよな川崎は極限流の門下生だし幾ら学校の同級生と言えども、自分の師匠筋に当たる人と対戦しようって相手を面と向かって応援は出来ないわな。
ソッポを向いて顔を赤らめるて、川崎は出来得るギリギリのラインで応援の言葉を贈ってくれたんだろうな。
「おう、まぁお前もサンキューなサキサキ!そんじゃあまあ、今度こそマジで行ってくるわ。」
ちょっと気取って俺は右拳をグッと突き上げてサムズアップを決めて歩を進める、この位のカッコ付けは許容していただきたい。
『サキサキって言うなっ!』と言う川崎の叫びを背に受けて俺は練武場へと足を踏み入れる、そこで待ち受けているのは、伝説の格闘家の一人、最強の虎。
「すいません、お待たせしました。」
練武場中央にて待ち構えるガルシア師範に俺は待たせてしまった事に恐縮し詫びを入れる。
「おう、エライ待たされたで実際ってな、まぁ冗談や。」
ガルシア師範はそれに対して冗談口を叩いて笑って済ましてくれた、まぁこれくらいの事は言われてもやむ無しだな。
しかしガルシア師範、こうやって対峙しみると改めてその大きさが理解出来る思いだ、いやそれは身長とか体格などの外見的な物では無く、きっとガルシア師範がその身のうちから発する気迫に拠る物だろう。
ガルシア師範の身長は180cmと聞くから俺との身長差は4cm位だし、まぁ体格はガッシリとしているから80kgは余裕で超えているだろうな。
この体格から繰り出される蹴りの破壊力は一体どれ程のものだろうか、まぁ確実に川崎の蹴りよりも遥かにパワーは上だろうな、はあ〜っ何かもう既に逃げ出したい気分なんですけど、そう言う訳にはいかないよな、うん知ってる。
「オイオイ八幡、お前今更怖気付いたんちゃうやろな!?」
なっ、ガルシア師範ってば何でそんなに鋭いんですかね、もしかしなくても俺の表情を見てそう判断したんでしょうけど、やべぇなぁ、そんなにビビり具合が出てんのかよ。
「うっ、そりゃあそうっすよガルシア師範、何せ相手が相手ですからね、緊張する位勘弁してください。」
バレてんならアレだ、何も態々取り繕う必要も無いだろうから、思いっ切り開き直ってこれ位は言っても良いよね。
うん、百戦錬磨のガルシア師範なら笑って済ましてくれるさ………多分な。
「おっ、何や八幡、おだてても手加減はせぇへんからな、せやからお前も覚悟して掛かって来い!」
はぁ〜、ガルシア師範笑ってくれると思っていましたけど、そうでは無かったわ、確かに口元はニヤリと口角を吊り上げてるけど、その眼光はとても笑っている人のそれじゃありませんです。
ほんの気持ちだけでもリラックス出来る状態に精神を持っていけるかと思ったけど、そうは問屋が卸さないってかよ。
「ガルシア師範、俺なんか泣けて来ましたわ……。」
この期に及んで往生際が悪いって言われそうだけど、グチ!言わずにはいられないッ!あの社畜のような父親……のってゴメン親父、親父と母ちゃんは俺と小町を育てる為に一所懸命働いてるんだよな、なのに俺と来たら現実逃避にアホな事考えちまったよ………。
嵐の前の静けさか、それとも台風の目の中には入り込んだのかってなくらいに道場内は現在静まり返っている。
これから始まる闘いの舞台たる練武場に居るのは、俺とガルシア師範、そして審判を務める黒岩師範代の三人だけ。
黒岩師範代によりこの仕合いのルールが説明される、っても基本的に金的とか目潰しとかあからさまな反則行為をやっちゃ駄目って事位なんだけど。
「すぅー、はぁ〜っ…。」
もう一度俺は深呼吸をして精神の安定を図る、ここ迄来ちまったらもう逃げられないしな。
「はぁーっ…ふぅ……よしッ!」
覚悟は決まったと思う、さっき迄若干手が震えていたけど今はもうそれも止まってるし。
てか不思議だな、俺凄え怖いはずなのに、何でか少し今ワクワクして来たぞ。
もしかして俺って何処ぞの戦闘民族の血が流れてんのかも知れないな……ってな訳ゃ無ぇ〜っての。
「両者、開始線まで下がって。」
黒岩師範代の号令に従い俺とガルシア師範は距離を取る、マット上に印された白線の位置まで下がって。
黒岩師範代が中央に位置し、それを挟む形で俺とガルシア師範との距離は4メートル位だな。
俺たち二人が開始線まで下がった事を確認し、黒岩師範代は一つ頷き、右手上方へと挙げる。
「これよりロバート・ガルシア師範と比企谷八幡君の対戦を行う。」
その言葉にガルシア師範は、お決まりだろうと思われるセリフを一言発する。
「ほな、行きまっせぇ!」
そのセリフと共にガルシア師範は構えを取る、臨戦態勢完了ってな。
そして俺も此処は一つ言っておくか、やっぱりココはあのセリフだよな。
テリー兄ちゃん、使わせてもらって良いよなテリー兄ちゃんのセリフをさ。
「Come On! Get Serious!!」
まるで挑発でもしているかの様なセリフだけど、きっとテリー兄ちゃんはこの言葉を発す事によって自身も本気で行くからお前も本気で来い!って思いを込めて相手に投げ掛けてんだと俺は思っている。
だからさ、俺もこの言葉にその思いを込めてガルシア師範、貴方に投げ掛けました。
そして俺もまた直様構える、もう幾秒と経たずに黒岩師範代から告げられるだろう。
「それでは………。」
黒岩師範代の掲げていた右手が下方へと振られる。
「両者とも、始めッ!!」
そして遂に黒岩師範代の口から闘いの開始が告げられた、最早八幡に逃げ場は無しだ!
だったら此処はやっぱり俺から前に出なきゃだよな。
「おりゃあッ!」
俺は思いっ切り勢いを付けて前上方へジャンプしてから一気にガルシア師範の方へと急降下。
「はっ、いきなりジャンプからの攻撃かいな、せやけどそんなん迎撃してくれて言うとる様なもんやでって何ぃ!?」
ガルシア師範は俺がジャンプからの急降下に合わせて龍牙で撃ち落とそうと考えていたのだろう、しかし。
「そうは行かないっすよ、ガルシア師範!」
俺の身体は降下しながら幾つもの残像を生みながら、僅かにガルシア師範の立ち位置を躱しながら降下する。
降下地点はガルシア師範の左側斜め後方だ、其処から速攻の攻撃をガルシア師範へとぶつける。
「セイッ!!」
これぞ、アンディ兄ちゃん直伝、不知火流奥義が一つ『幻影不知火』とその追撃技の踵落としだ。
「チィッ、なんのッ!」
だが流石は最強の虎だ、俺の踵落としの急襲をガルシア師範は既のところでガードしてダメージを免れた。
技を防がれた俺は、ガルシア師範からの反撃を警戒し咄嗟に飛び退りガルシア師範から距離を取り、体勢を立て直す。
道場内で俺達の仕合いを観戦している極限流の門下生達からどよめきの声が漏れる、掴みはOKって所かな。
「……今のは結構驚いたで八幡、これ以上に無い奇襲戦法にうってつけの技って感じやな、技の特徴からして今のは不知火流の技やろ?」
まっ、マジかよガルシア師範……たった一度見ただけの技の特徴を見抜いて、しかもその流派まで当てるなんて。
「……まさに最強の虎の異名に偽り無しッスね、そこ迄見抜かれるなんて思いもしませんでしたよ。」
俺は感嘆の思いを込めてガルシア師範に自身の思いを漏らした、嘘偽無しのマジもんの感想って奴だ。
「まぁ何や、お前の師匠達は三人共有名人やさかいな、ネット上を漁ればぎょうさん動画がアップされとるし、映像ソフトも発売されとるやろ、それを当然俺も見とるっちゅう訳や。」
はぁなる程、ガルシア師範もっすね、俺もやってる事ですしね、これもネット社会の弊害って奴ですかね……ってそんな御大層なもんじゃ無いですわね。
それによって世界中の沢山の格闘化の人達の、それこそ時代を問わずにその仕合いを技を見る事が出来るんだからな。
「ですね、けどそれはガルシア師範だって一緒ですよ。」
ネット上に上がっている動画の数こそ少ないけど、ガルシア師範やサカザキ総帥の動画を俺は何度も見返しているんだからな。
「さよか、けど俺のは時代が古いからそんなに動画は出回っとらんと思うんやけどな。」
そう言うながら、ガルシア師範は再度構えを取り、俺に対し恐ろしい程の闘気を放出。
「お喋りはここ迄や八幡、あんま喋りよってもギャラリーをシラケさすだけやからな。」
ガルシア師範はそう言って一旦口を閉じると、その身をリズミカルに揺らし始める、そして再び。
「お前が望んだ事やぞ八幡、お望み通りに見せたるわ、俺の本気っちゅうヤツをな!」
来る!
伝説に謳われる最強の虎の本気が、恐ろしいまでの圧力となって俺の身に降り掛かっている気分だ。
此処は極限流空手道場日本支部、相対するは伝説の格闘家である最強の虎。
その伝説に果たして駆け出しの若造の力と技が何処まで通じるか、そして最強の虎の技に若造は何処まで耐えられるのか、次回も八幡と地獄に付き合ってもらう。