やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。   作:佐世保の中年ライダー

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やはり最強の虎の本気を引き出すのはまちがっている。

 

 開幕、俺は何とかこの仕合いの主導権を取れないかと奇襲戦法を試みたが、相手は流石に百戦錬磨の格闘家であるロバート・ガルシア師範だ、俺の放った幻影不知火からの浴びせ蹴りは寸での処でガードにより対処されてしまった。

 

 「お前が望んだ事やぞ八幡、お望み通りに見せたるわ、俺の本気っちゅうヤツをな!」

 

 ガルシア師範はその言葉の通りに俺へと向かい来る、リズムを刻むが如くにその身を揺すりながら次第次第に距離を詰めながらまた、威圧するかの様に闘気を放つ。

 俺はガルシア師範のそれに内心気圧され後ろへと下がりそうになるが、何とか思い止まる。

 

 「逃げ場なんて何処にもありゃしないってのッ!」

 

 自分自身に言い聞かす様に敢えて大きくそれを口にして怖じけそうな気持ちを鼓舞し、震えそうな身体に力を込めて半歩前へと足を踏み出す。

 そんな俺に合わせられたのかも知れないがガルシア師範は前進を止めて、極小さく軽く息を吐きそして最小のモーションで左の拳を放つ。

 

 「ハッ!」

 

 ジャブに近い威力よりも拳速を重視したかの様なそれを俺はパーリングにより弾こうと身構えそして、ガルシア師範の拳を弾くべく己の左手をサイドから振り払う様に放った。

 

 「甘いわッ!しゃあッ!!」

 

 「なっ!?しまっ……!?」

 

 ガルシア師範はその左拳を半ばで引き戻すと高速で自身の体を捻り、俺の左側頭部目掛けて回し蹴りを放ってきた。

 

 『ビシィィーッ!』と道場全体に大きく響き渡る鈍い打撃音、咄嗟に左腕で側頭部をガードする事が出来はしたが俺はガルシア師範の蹴りの威力に軽くよろめいてしまい。

 

 「まだまだやッ!」

 

 よろめく俺にガルシア師範のさらなる蹴りが放たれる、しかも今度は中段狙いのミドルキックだ。

 このままではその蹴りは俺の腰部に直撃してしまうだろう、なので俺は側頭部をそのままガードした状態でその場に屈み込む。

 

 再び響く打撃音俺はそれを何とか腕でガードする事は出来た証だが、その蹴りの威力と不確かな防御姿勢が祟り俺は弾き飛ばされるようにマットの上に倒れ込んでしまった。

 

 「……うっ、っうぅ……。」

 

 防御したにも関わらず俺はガルシア師範の蹴りにより地を(此処は道場だからマットだな)這わされてしまった訳だ、これが最強の虎の蹴りの威力かよ、もしこれがガルシア師範の全盛期の蹴りだったなら俺は今頃どうなっていたんだ!?

 

 「ほうやるやないか八幡、己からしゃがんでダメージを殺しよったか、せやけど完全には殺しきれへんかった様やな。」

 

 俺を見下ろしながらガルシア師範はこの一連のシークエンスに評価を下す、いや全くその通りですね返す言葉もございません。

 

 「くっ、はぁ〜っ……全くおっそろしい蹴りっすね、ガードして無きゃ今頃俺の意識は刈り取られていたかもですよ全く……。」

 

 「ははっ!せやけどお前まだそないな口が叩けるっちゅう事はまだまだ行ける言う事やなせやったら早よ立てや、立って続きと行こうやないか!?」

 

 はぁ〜っ、全く簡単に言ってくれるもんですね確かに俺はまだまだヤレますけどですね、ノーダメージって訳では無いてすし、ソレに痛いものは痛いんですから少しは労ってもらっても罰は当たらないと思うんですけど、ってそれは無理な話ですよねぇ〜何たって闘っている相手なんだし。

 

 『比企谷君まだやれるか』と黒岩師範代からの状況確認が入り俺はそれに応えると、師範代は頷きそして仕合いの再開を告げる。

 

 「ふぅ〜、はぁ〜っ……。」

 

 呼吸を調えながらおれは立ち上がるがさて……立ち上がったは良いけど受けたダメージがまだ少し残ってるし、これが回復するにはまだ若干の時間が掛かるかな、当然ガルシア師範もそれを見抜いていると判断して間違い無しだよな。

 だとすれば、当然出て来ますよねガルシア師範!

 

 その予想は当然の如く的中する。

 

 「飛燕ッ疾風ゥ脚!!」(弱)

 

 ガルシア師範は俺との距離を一瞬で詰める突進の水平飛び蹴り『飛燕疾風脚』を繰り出す。

 

 「くっ!」

 

 未だダメージを引きずる俺はそれに対しての迎撃が出来る状態に無い、なので此処はそれをガードでは無く回避する事を選択する。

 迫りくるガルシア師範の攻撃を左方向へ二歩半身の状態で躱す、ガルシア師範はおそらく俺が回避するとは思っていなかったのかそれが表情に表れている。

 多分だけどガルシア師範は、与えたダメージから俺が回復出来ていないとの考えから俺がガード徹すると思っていたんじゃなかろうか、そう考えれば今の『意外ッ!』って表情に理由が付く、つか俺もそんな事を考えているばかりで居るんじゃ無いっての!

 

 技を空振ったガルシア師範と俺との距離は約1.5mって処かな、このチャンス逃せ無いよな!

 

 「クラッ、シュート!……っ。」

 

 技を空振り体勢の整わぬガルシア師範に俺は側方より浴びせ蹴りクラックシュートを放つ。

 だがそれは先程のダメージが尾を引いてか技の切れが鈍っている様だ、回転速度が通常よりも若干遅くて飛距離にも影響が出来ている。

 だが俺のクラックシュートは、其れでも辛うじてガルシア師範の右肩部に浅くだがヒットし道場内の皆のざわめく声が聞こえてくる。

 

 「チィッ!」

 

 「ッ!?」

 

 ガルシア師範は攻撃を受けた事に軽く舌打ちをし、俺はダウンも奪えず与ダメージ量も大した事が無かったことに些か落胆の思いを味わう。

 ガルシア師範は打撃によりそして俺は不完全な攻撃を行ったが為に互いに体勢を崩し、空かさず攻撃或いは反撃への移行とは行かず先ずは体勢を立て直す事とし間合いを取り直す。

 

 「はぁ〜っ………シャッ!」

 

 「スゥ、スゥ…はあ~っ。」

 

 俺達は二人揃って体勢を立て直して一呼吸、お互いの顔を眼を見据えリズムを刻みつつ緩やかに前進し再度距離を詰める、ダウンを食らった際のダメージも殆ど無くなったし体力もまだまだ十分だ、そして其れはガルシア師範の方も同じだろうな、だって師範と来たらギンギンと眼光を鋭くし口角バリバリ上がってるしマジ怖っ。

 この様子からするとガルシア師範、今直にでも打って来そうだな、何ならこの一瞬後にでも出て来ても可怪しく無いって感じだ、ヤバいそう思うと心臓がバクバクと鼓動のビートを刻む速度が上がっちゃうわ。

 

 「ヨッシャァ、行くでぇ!」

 

 その掛け声と共にガルシア師範はステップを刻み前進し彼我の距離を詰める、詰めて至近距離からの攻撃が来た。

 左半身を前面に出して左肘を前に突き出した恰好で右腕を後方へと引いた体勢を取るガルシア師範。

 その肘をガードするべく俺はガードを固める、だがしかしその肘は攻撃では無く俺は無意味にガードをしてしまった形になった。

 

 「掛かったな、龍撃掌!」

 

 ガルシア師範の左肘はフェイントで本命の攻撃はその次に繰り出された右の拳だった、それは掌に気を纏った掌底打ストレートパンチの軌道で俺のボディ目掛けて放たれたそれを俺は。

 

 「ぐふぅっ!?」

 

 ボディへのガードが間に合わず至近距離からそれを食らってしまう。

 

 「ぅわぁぁっ………。」

 

 その威力の前に俺は後方へと吹き飛ばされたまらずダウン。

 やべぇ凄え痛ぇ腹の中の物を全部吐き出しそうだ、それにあんまりにも痛くて呼吸が……。

 

 「ぐはっ………はぁ〜、はぁ……。」

 

 俺は何とか立ち上がろうとするが、貰った掌底打のダメージに腹を押さえながら呼吸を整えようとするが、さっきダウンを食らったときよりも痛みの引きがかなり遅い。

 そりゃそうだよな今のはモロに直撃を食らったんだし。

 

 「ハッチン!」「八幡君!」「はちくん!」「八幡師匠!」

 

 結衣、雪乃、いろは、留美、四人の俺の名を呼ぶ声が聞こえる、悲痛な響きが籠もるそれに申し訳無いが俺は今は応えられない、それよりも今は少しでも速くダメージを引かせて立ち上がる事に集中しなきゃならない。

 

 「比企谷君立てるかね?まだ闘えるのか。」

 

 ジャッジを務める黒岩師範代が側に駆け寄り状態確認を取る、俺は膝を付き左手で腹を押さえた大勢でそれに頷く。

 はぁ、はぁと呼吸をする事により全身に気を巡らせるダメージを軽減させて改めて口を開き黒岩師範代に応える。

 

 「大丈夫です、ふぅ〜っ…今立ちますから………よっしょっと。」

 

 俺は応えながらゆっくりと立ち上がりガルシア師範を見やる、不敵な笑みを浮かべるガルシア師範の様子に若干俺はイラッとしてしまった。

 だってアレだろ、ガルシア師範と来たらその不敵な笑みは置いといても右手で掌底打を放ったって事は俺のクラックシュートのダメージが解っちゃいるけど殆ど無かったって事だもんな。

 

 「ふう〜っ……流石ですねガルシア師範、正に最強の虎の異名に偽り無しっすね恐れ入りますしすっげえ嫌にもなりますよ全く。」

 

 俺は少しすっとぼけた調子でガルシア師範に言ってやった、だってあんな顔されたんだからこれ位の事言ったって良いかな!?いい友!

 

 「おう、そら相応に経験を積んどるさかいな、こん位は出来て当然や。」

 

 龍撃掌って言ったか今の技、さっき黒岩師範代が大志の気弾を打ち消した技と理屈は同じだよな、でもって材木座が新たに試みている我道拳のある種の完成形でもあるんだよな。

 

 「ですよねぇ。」

 

 いや本当に流石だよな、俺が材木座に提案した事を極限流の皆さんは既に流派の技として実用化してんだもんな。

 やっぱり極限流創設から数十年、その間に新たな技も開發してるしこれ迄にあった技もきっと更に磨きをかけて進化させているんだろうし、或いはその人によって独自に身に付けた技もあるだろう。

 

 「なんや八幡、お前もう怖ぁて闘えへんとか言わんよな。」

 

 構えを取りながらガルシア師範はその様に仰る。

 

 「まさかですよ俺はまだヤレますよってか俺最初っから怖かったっすよ、何せ相手が相手ですからね。」

 

 嘘偽り無しの本音をガルシア師範にぶつけながら俺も構える、最初から解っていたし想像もしていたよ伝説と呼ばれる格闘家の先達達の怖さってのがどれ程の物かってな。

 あの日のジョーあんちゃんとの対戦もそうだった、そして今相対するガルシア師範もそれに負けないくらい、いやあんちゃんの時はガキの頃からの付き合い故の気安さってのが在ったけど、ガルシア師範に大してはそれも無い。

 

 「けどビビってばかりじゃい居られないってねっ、そんじゃあ行きますよガルシア師範!」

 

 「はっ!上等や来い八幡!!」

 

 よしこっから又仕切り直しだ、怖じける気持ちは心の隅に追いやってやってやるって気持ちを前面に押し出せ俺、じゃ無きゃ飲み込まれっちまうからなプレッシャーにさ。

 

 俺はガルシア師範に向い距離を詰めながら思考する、これ迄のやり取りで感じた事を。

 先ずは体格面だと身長で4cm程、体重では20kg弱俺の方が下回るし打撃の破壊力も同様だ。

 ただスピードだけはいくらか俺が上回っている、それは年齢と体重差から来るものだろうか。

 

 「だったらそれを活かさなきゃ俺に勝ち目は無いってのッ!」

 

 俺はガルシア師範の懐へと入り込むべく体勢を低くして構えての前進からの。

 

 「斬影拳ッ!」

 

 さっきのガルシア師範じゃ無いけど俺も攻撃するに当たり肘打ちである斬影拳を選択する。

 

 「甘いわ!その技は知っとんでェ!」

 

 でしょうねガルシア師範、この技は言わばアンディ兄ちゃんの代名詞的な技ですし、兄貴達のことを研究してるんなら知ってて当然ですね。

 なので俺が予測するにガルシア師範はこの俺の突進をビルドアッパー『龍牙』或いは川崎にも伝授しているガルシア師範版サマーソルトキック『龍斬翔』で迎撃するだろう。

 そして今ガルシア師範が取っている構えは、俺の予測通りだった。

 右の拳を腹部へと下ろした体勢から突進する俺のタイミングに合わせて撃ち込もうと狙っているのはやはり。

 

 「はあっ!そっりゃあぁっ!」

 

 予測通りに繰り出されたガルシア師範の龍牙、だがそれは俺にヒットする事無くガルシア師範の身体は俺に触れる事無く虚しく一人師範は空へと拳を振り上げ己自身も空へと飛び上がった。

 

 「なっ!?アカンしまった!」

 

 俺は先程のガルシア師範に食らったフェイクの左肘への意趣返しとばかりに、同じく肘打ち技である斬影拳を寸前で強制停止する事で龍牙を空振らせたって訳だ。

 それにより降下中無防備になるガルシア師範の着地に合わせて迎撃の技を繰り出す。

 

 「今だ!撃壁背水掌ッ、ハッ!ハッ!そりゃぁッ!」

 

 近距離からの掌底の三連撃であるアンディ兄ちゃんの撃壁背水掌、これによりこの仕合いに於ける俺の攻撃が初めてガルシア師範を芯から捉える事が出来た。

 三打目に当てた掌打によりガルシア師範の身体が宙へ浮く、其処に空かさず俺は追撃を仕掛ける。

 

 「バーンッ、ナックゥッ!!」

 

 追撃として選択した技はテリー兄ちゃん直伝のバーンナックルだ、気を纏った俺の左拳は落下するガルシア師範の身体の真芯を捉えて吹っ飛ばす。

 

 「ぐわァァ……っ。」

 

 呻きの声をあげながら吹っ飛ばされたガルシア師範は遂にマットに叩きつけられる。

 

 やったぞ俺っ!とうとう俺はあの最強の虎からダウンを奪う事が出来たんだ。

 この光景を目撃した道場内に居る観戦者達がどよめく、極限流の関係者達はガルシア師範がダウンを奪われると言う意外な結果に驚き戸惑って居るのか、そして結衣といろはは幾分か声を控えながらも喜びを現し雪乃と留美はほっと胸を撫で下ろすかよ様に、平塚先生はうむと良くやったとばかりに一つ頷く。

 しかしジョーあんちゃんは顔色を変えずジッと黙ってガルシア師範に目を向けている。

 

 「ロバート師範、まだやれますか?」

 

 黒岩師範代はガルシア師範の側へ駆け寄り状態を確認すべく俺の時と同じ様に声を掛ける。

 だけど確認するまでも無いですよ黒岩師範代、大丈夫ですガルシア師範は立ち上がりますよ……まぁジョーあんちゃんはそれが解ってたんだよな、だからじっとガルシア師範を見ていたんだろう。

 手応えもあったしダメージも確実に与える事が出来た、しかし完全KOって程のダメージ量ではないだから。

 

 「当然立ち上がって来ますよねガルシア師範。」

 

 黒岩師範代の言葉にガルシア師範は頷き荒い息を整えながら肯定してみせる、静かに立ち上がりながらガルシア師範は俺を睨め付けながら口角をあげる。

 その様はガルシア師範の異名に偽りが無い事を物語っている、それは恰も俺を獲物と狙い定めたかの様な野性的でいて獰猛な表情だった。

 

 「……ふぅ、あったり前やがな八幡、自分俺を誰やと思っとんねん!」

 

 立ち上がり一息吐くと俺の言を肯定の言葉を述べるガルシア師範、言いながらダメージはもう抜けとでも言う様に師範は構える。

 

 「勿論存じ上げていますよガルシア師範、極限流が誇る伝説の最強の虎、さっきからその野性味溢れる闘気がビシビシと伝わって来てますよ。」

 

 そうさ、ガルシア師範と来たら今のダウンから立ち上がった時から闘気をこれでもかって位に発してるし、こんなの何も知らない鍛錬も積んでない奴が相手だったらもうそれだけで意識を刈り取ってんじゃ無ぇかって位に恐ろしいわ。

 俺からダウンを取られた事でガルシア師範、貴方これ迄抑えていた気を開放しましたね。

 

 「て事は、今迄師範は完全なる本気の最強の虎の力を発揮していなかったって事ですよね。」

 

 ………ハハハ、ああもぅ何か俺ってば乾いた笑いしか出て来ないって感じだわマジで、今しがた奪ったダウンはガルシア師範が力をセーブしてたから奪えたって事なのか、だとしたら此れから見せるだろう本気の最強の虎の力………。

 

 「まぁ、それなりにはヤッとったけどやな、若干様子見も兼ねとったわ。

 まっ、せやけどお前相手なら本気を出しても良さそやって解ったさかい、こっからはマジで行かせてもらうで!」

 

 ガルシア師範は俺に対してそれを解き放つと宣告した、え〜っ嫌だなぁ。

 

 「はぁ〜あ、マジっすか参ったな着いて行けんかよ俺。」

 

 結局の所、俺がガルシア師範に対して現時点で上回っている点ってのはやっぱりスピードただ一点だけなんだよな。

 だから俺がやる事って結局のところそれを如何に活かして技を組み立てるかって事なんだよな………はぁ、しゃあないやるしか無いか!

 

 

 

 

 

 

 

  EPISODE82 END

 

 

 「つづくっ!」

 

 

 

 




ロバートの龍撃掌はKOF96〜の飛ばない龍撃拳の様な物だと思っていだきたいです。

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