やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
ありがとうございます、アホな作品ですけど楽しんで頂ければ幸いです。
うわ〜っ、とうとう言ってしまっちまったよ俺、しかも何なんだよ三人の女の子に対して同時にとか馬鹿じゃ無えのかってんだよ、バーカバーカ!現実的に考えてマジ最悪じゃん。
『お前達が俺の翼だ!』とでも言うのかよ全く、テレビ版フロンティアのラストの早乙女アルト以上に最悪だよ三枚の翼とか、一翼多いし或いは一翼足り無いからバランスも取れないだろう。
オーラバトラーならオーラコンバーターの下には二対四枚の翅が付いて……ってまた考えが非ぬ方向に進もうとしていたわ、俺の馬鹿。
いやね、確かに最初は彼女達の方から三人一緒で構わないって言ってくれたけど、だからと言って彼女達のその好意に甘えっ放しなのは如何な物なのかとあの日からそう考えなくはなかった。
一年以上もずっとこんな俺に対して好意を示してくれていた彼女達に対して俺はこれ迄ずっと煮え切らない態度を取ってきていた。
それは俺にとって彼女達が初めて出来た友達と呼べる存在であり、また初めて本格的に同年代で異性を意識した女子達であり、その三人の異性にそれぞれ異なる魅力と好意を感じていたことは自覚している。
だからこそきっと何れ最終的に誰か一人を選ばなきゃならない時が来るだろう事も予見していた。
だがもしその時が来たとしても結局俺は誰も選べないんじゃ無かろうかと、そしてその時が訪れたとしたら俺はきっと『逃げるんだよォ!』してしまうんじゃなかろうかと、我が事ながにそれが容易に想像出来ていた。
その選択肢を選んでしまう事は彼女達に対する裏切り行為だし、結果彼女達を悲しませそして苦しませる結果に為るだろうと解っていながらだ、はぁ…マジに最低でヘタレだな俺は。
けどそんな俺に彼女達は本気で自分の想いをぶつけて来てくれた、その上で三人揃って俺に受け入れて欲しいとまで言ってくるし、本当に兄貴達に教わって八年も格闘技を学んでいる俺なんぞより余程彼女達の方が人として強いんじゃないかって、しみじみと思わせられた。
そして俺は彼女達のその想いを受け入れた、それはもしかしたら俺は心の何処かでその提案を“これ幸い”と思う気持ちが在ったのかも知れない。
これで俺は三人の内の誰かを傷つけずに済むだなどと、傲慢にもそう思ったのかも知れないし或いは自分の臆病さから目を背ける口実が出来たとかそんな風に思ったのかも知れない。
だが、今日俺がロバート師範の連撃を喰らいぶっ飛ばされるって悲惨な姿を見せてしまった事で俺は彼女達に格闘家の現実を知らしめてしまった。
『勝敗は兵家の常』闘いに身を投じる以上は勝敗は必至だし場合によっちゃ再起不能レベルの大怪我や下手を打つと命を落とす事もあり得る。
その現実を知り戦いと縁のない彼女達が尻込みするのは致し方ない事だし、それに拠って彼女達が俺から離れて行くって決断をしてしまったとしても、それも又同様た。
だけど………だけどそれでも俺は雪乃と、結衣と、いろはに俺の側にずっと居て欲しい、それがどれ程に傲慢で我儘で道義的にも最低で法的にも認められていないと解りながら。
「すまん、完全に俺の一方的な気持ちをお前達に押し付けてしまってるけど、これが俺の偽り無い本心だ、お前達とこれからも一緒に泣いて笑って時には喧嘩してって、ど根性ガエルの歌詞じゃ無いけど俺は………そう在りたい。」
心臓の鼓動が高速で脈打つ極度の緊張感に俺は息苦しさを感じる、この緊張感は先のロバート師範と相対していた時と変らない程に、否もしかするとそれ以上に。
俺は三人をこの眼で見つめる、早く答えが欲しいって気持ちとそれを知りたく無いって思いとがせめぎ合う、こんな体験は今迄に経験したこと無いし何ならもう二度と経験したくは無い。
そして俺を見つめ返して来る六つの瞳は光を映しゆらゆらと揺らめいている、それはとても美しくこの世のどんな宝石等よりも遥かに貴重で、何物にも変えられない価値あるもの。
共に見つめ合う事暫し、いつしかその六つの宝玉から若干の時間差を置いて雫が滴り落ちる。
「…………………!?」
ああ、そうなのか。
俺は六つの瞳からは己が眼を反らし俯きそして諦る、やはり俺の勝手で三人をこんな血なまぐさい世界に関わらせるべきじゃ無いんだろうな。
この心優しく美しい少女達ならきっと俺などに関わらずとも、それぞれに良い相手と普通の恋愛を経験してやがてそれぞれに伴侶を得て、ごく一般的な家庭を築く事も出来るだろう。
なら俺はもう彼女達と関わっちゃいけないのだろう、彼女達の未来の為にも俺は身を引くべきだ。
覚悟はしているがそれでもやっぱり辛いよな、俺はその辛さに耐えようとしているのか何時しか両の拳をグッと強く握り込んでいた。
爪が掌に食い込む感触、もしかしたら少し血が滲み出ているかも知れないが、そんな掌の痛みなど彼女達との関係を断つ事に比べたら何程の事も無い………しかしそうやって心の整理を付けようと思っていたりその時、ふと気付けばその拳を包む様な暖かい優しい感触と温もりが広がる。
「八幡君………。」
俺の名を呼ぶ雪乃の声が聞こえ、俺は背けた顔を上げると其処には俺の真正面に雪乃が居て右に結衣が、そして左にいろはが居て左右の二人が俺の手を両手で優しく包み込む様に掴み取り、その目は俺を優しく見つめてくれている。
「私達三人は貴方が馬鹿だと言う事はこの一年以上の付き合いで十分に理解しているわ、その上で私達は貴方を愛したのよ。」
真摯に俺の顔を見つめ寸分たりとも視線を逸らさず雪乃は語る、一点の曇りもない強い意志に裏打ちされたかの様な美しさが其処にはある。
「うん、ハッチンがガルシアさんに攻められて沢山殴られる姿は見てらんないって、そんなの嫌だってもう止めてって思ったけどさ、でもそれだってハッチンが選んだ道なんだよね、テリーさん達がハッチンの未来の為にハッチンに教えてあげた大切なものなんだよね。」
「そうですよね、はちくんがヒガシさんとテリーさんとアンディさんから受け継いだ、はちくんとはちくんのお兄さん達との絆なんですよね、その大切な絆を私達の為にはちくんに断ち切らせる様な選択はさせたくないですし、だったら私達でそんなお兄さん達との絆に負けない位の絆をこれから私達で築いていけば良いんですよ!」
俺の左右から雪乃にも負けない強い眼差で見つめ暖かな言葉で語り掛ける結衣といろは、そして涙を滲ませながら優しく微笑む三人。
「俺は……こんな俺がこれからも一緒に、お前達と一緒に居ても良いのか!?
これから先俺は今日以上にヤラれっちまうかも知れない、無様な姿をお前たちの前に晒してお前達に悲痛な思いをさせてしま………!?」
俺は其処で言葉を詰まらせたそれは突然に俺の口を塞がれたから、それは俺の左の拳を両手で掴んでいてくれた筈の結衣が俺の正面に回り背伸びをして俺の首に両腕を伸ばして捕まえ、その身長差を縮めて俺の唇に彼女が自身の唇を俺に触れさせたからだった。
突然の事態に俺は頭が真っ白になり掛けるが寸出の処で意識を保つ、それを見ていた人達から歓声やその他色々な感情が混じった複数の声や呻きが聞こえる。
「……………なっ!?ゆ、ゆ、結衣さんあなた一体何をしはりますのん?」
俺は慌てて結衣を引き離すと、パニッっているが為か何処ぞのエセ方言で以てその結衣に問い質す、いやマジ何を考えてこんな公衆の面前でしかも他所様の道場の中でち、チ、チッスとかって……。
俺は身体全体が羞恥によって火照るのを意識しながらもそれを押し留めて結衣を見る。
結衣もまたこの多くの人が居る中で大胆に過ぎる行動に出た為か顔を真っ赤に染め上げて羞恥心に耐えるかの如く、強い眼差しを堅持しつつ俺の目を見て宣言する。
この娘はこんな小さな身体できっと勇気を振り絞ってこの様な行為に及んだんだろう、それは理解出来る……んだが、コレは余りにも恥ずかし過ぎる。
「今は言葉なんか要らないよハッチンこれがあたしの気持ちだから!世界で一番大好きな貴方に対するあたしのっ!」
そう宣言して、やがて結衣はその羞恥心により顔を俯かせ両手で顔を覆ってしまった、当然だろうが絶対に結衣は俺に自分の初めての口付けを捧げてくれたんだよな、いやまぁ俺も当然ながら初めての体験だった訳なんだけど。
そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいだろうが、なんて野暮な事はこの際は思わないし口にしない。
俺の大切な人がその想いを全霊を持って知らしめてくれた、そうだと理解出来るから。
あっ、そう言えば俺初めて知ったわ、キスってズキューーンって効果音がしないって事。
「ズルいですよ結衣先輩ばっかりっ!はちくん私にもして下さい!」
「そうよ結衣さんこのドサクサに紛れて何を一人だけ、八幡君解っているでしょうね当然貴方は私達にもそのくっ、口付けをしなければならないのよ、けれどそうね此処は人目が多過ぎるから然るべき場所で後程と言う事で此処で行為に迄及ぶ事は許してあげるわ。」
いろはと雪乃がぶっ飛んだ事を宣うがちょっと待って欲しい、アレって俺がした訳じゃ無いんだからねお二人さん。
けど結衣の勇気ある行動と三人の言葉に俺は、彼女達がこれからも俺が共にある事を許してくれたって事実だけは過たずに理解できた。
比企谷とあの娘達との絆の強さを、正にアタシ達はまざまざと見せ付けられてしまった訳だね。
不覚にもアタシはそんな彼奴等を美しいって思ってしまった、互いを思い合う四人の姿にそう感じずには居られなかった、これからも彼奴等が歩む道程は平坦なばかりじゃ無いだろうおそらくは曲がりくねった道だったり起伏の激しい道だったり、そして先の見えない暗闇だったりするんだろうね。
それでも彼奴等はその道をともに歩んで切り抜けて行くんだろうね、それはきっと世間的には理解されない事だろうしもしかするとガキの戯れ言って風に評される事になるんだろうけど。
だけどアタシはそんな彼奴等を認めてやらない事も無い、だからもう一度言うよそんな事など関係無くアタシには彼奴等の姿が美しく感じられる。
けど同時に彼奴等の姿を見ているとアタシのこの胸が僅かにチクリと痛むのもまた自覚している。
「なぁ、沙希嬢ちゃんは良いのか、嬢ちゃんも少なからず八幡の事を意識してんだろう?」
アロハシャツをだらし無く着崩したヒガシさんが少しだけ気遣いの色が感じられる声音でアタシに問う、この人は一見ガサツな人の様に思えるけど案外優しい人だって事をここ数日で知った。
早朝の鍛錬に着いてきたけーちゃんの事を相手してくれたし、かなりの子供好きなんだろうなこの人は。
「ヒガシさんアタシは結構欲張りなんですよ、だからあの娘達みたいに一人の男をシェアする様な愛し方は抵抗があるし、それにどうせならアタシ一人のだけモノにしたいって思ってるから今のアタシはあの中には入れないですよ。」
成功しているかは解らないけどアタシは努めて精一杯不敵な感じを演出しつつヒガシさんに返事をする、とは言えその発言はアタシの偽らざる本心でもあるんだけどね。
「そうか、まぁ嬢ちゃんは見目も良いし料理の腕もかなりのモンだしな、あの朝練の時に作ってきてくれた握り飯も味噌汁もスゲえ美味かったぜ、だからまぁ嬢ちゃんはきっと良い嫁さんになるって俺は断言するぜ。」
ヒガシさんは頭を掻きながらそんな事を言ってくれた、お調子者なトコもあるけどこの人は本当に暖かい人なんだね。
だから彼奴があんなにも心を許して兄貴と慕ってるんだろうね。
テリーさんやアンディさんみたいなイケメンって感じじゃ無いけどさ、この人は間違い無くイカした良い男だと思うんだよねアタシは、だから。
「平塚先生、年下のアタシが言うのもなんですけどね敢えて老婆心ながら言わせてもらいます。
ヒガシさんの事逃しちゃ駄目ですよきっとこの先、先生はこの人以上の相手とは絶対に巡り会えないって断言出来ますからね。」
だから平塚先生にはこれ位の事を言ってやっても構わないよね、ふふふッ彼奴ならこんな時『爆発しろリア充!』とか言いそうだけど、今の彼奴はそれを言う資格が無いレベルのリア充野郎になってしまってるんだけどね。
「なっ、川さ……んッんん!何を言うんだ川崎、そんな事は当然の事、私は必ずや良き妻となってジョーさんを支えて行く所存だよ。」
イキナリ振られて一瞬たじろいだ平塚先生だったけど直ぐに体裁を取り繕うとさも当然って感じで宣言する、ハイハイご馳走さまです………フフッ。
僅かな時間に色々な事が起こった極限流空手道場を辞去し帰路に就き、帰って来た我が家。
小町が舞姉ちゃんと一緒に不知火道場に行ってるし親父と母ちゃんは明日から夏季休暇だから今日中にあら方の仕事を片付けるべく残業確定で遅くなるとの事で、今我が家には俺とジョーあんちゃんの二人だけだ。
そのジョーあんちゃんはと言うと、明日の朝に日本を経つから今はその準備をしている、つっても元が大した荷物を持って来ていた訳でもなく然程時間が掛かる訳じゃないけどな。
鼻歌交じりに演歌を口ずさみながら胡座をかいて乱雑に荷物をバッグに突っ込むあんちゃん、つかもうちょいきちんと整理しようやあんちゃん。
「……なぁジョーあんちゃん、今回はさ特にあんちゃんに色々と力貸してもらったよな。」
俺はジョーあんちゃんの正面に位置取り同じ様に胡座をかいて座る、するとあんちゃんは訝しげに『あぁん!?』と呟き俺を見返して言った。
「何だ藪からスティクに?どうしたってんだよ八幡。」
「……あんちゃんそれメッチャつまんねえよ。」
「へっ、お前ぇが普段言ってる訳の解かんねえネタと大して変わんねえだろうがよ!」
なっ、失礼な俺の厳選したネタと変わらないだと……そんな事ある訳ないだろうがよ、無いよな!?
まぁそりゃもういいや、俺は改まってジョーあんちゃんと向き合い感謝の気持を伝える、いや今回だけじゃ無いんだけど何ならこの八年間沢山のものをジョーあんちゃんだけじゃ無く兄貴達には貰ってきたんだけどな。
「あのさ、あんちゃんには色々面倒かけてっからさ、まぁ礼を兼ねてさこれ貰ってくれないか。」
俺は予め買っておいたジョーあんちゃんへの贈り物のビニール包装を感謝の言葉と共に差し出す、あらやだ何かこう言うのって凄え照れるもんだな。
ヤバっ何処かしらからあの腐女子さんの愚腐腐腐って声が聞こえてきそうだ。
「おう、くれるってんなら貰ってやるぜ、サンキュー。」
手を差し出し包を受け取るとジョーあんちゃんはそのふわりとして軽い包に怪訝そうにしている、多分だがあんちゃんは食い物だとでも思ってたのかも知れないな。
「まぁ開けてみて見りゃ良いんじゃねえの。」
おう、と答えてジョーあんちゃんはビニールの包をガサガサと開いて中身を取り出した、俺があんちゃんに贈ったビニールの中身はそれは。
「ハハハッ!八幡っお前ぇは気が利くようになったじゃないかよ、ありがとよ気に入ったぜ!」
俺が贈ったそれを一枚一枚確認する様に大きく広げてみて笑いながらジョーあんちゃんはそう言ってくれた。
感謝の印として俺がジョーあんちゃんへ贈ったものそれは三枚のアロハシャツだ、このあんちゃんは暑い夏場は大抵アロハかTシャツで過ごしているから贈るならやっぱりコレだろうと思ったんだよな。
「おう、気に入ってくれたなら何よりだよ、まぁそんなに高いもんじゃ無いけどさ向こうでも着てくれよ。」
俺はポリポリと自分の頬を右の人差し指で掻きながら照れ臭くってソッポを向きながら返事を返す、そこの君俺は今断じてデレたりなんかしている訳じゃ無いんだからねっ………キモいな。
それからまたジョーあんちゃんは鼻歌を歌いながら俺の贈ったアロハも自分のバッグに仕舞い込み、取り敢えずの旅立ちの準備は完了だ。
「ヨッシャ準備完了ッてな、オイ八幡もうそろそろ夕方の鍛錬の時間だろ、行こうぜ最後にお前にもう一丁見せとかなきゃならねぇものがあるからよ。」
そう言ってジョーあんちゃんは俺を促して夕方のトレーニングへと向かおうと言うとサッと立ち上がってニカッといたずらっぽく笑う。
俺はそれに答えて立ち上がる、ジョーあんちゃんが言う俺に見せたいものそれはおそらく。
お気に入り登録をされた方のユーザーネームに、某漫画家様のペンネームと同じ名を発見したのですがもしご本人だとするとビックリ感激です!