やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
「う〜ぁ〜っ、
アンディ兄ちゃんとの組手により今後の俺にとっての長期的課題を突き付けられた翌日、俺は相棒のZX−25rのタンデムシートに小町を乗せて一路千葉への帰還の途に着いた訳なんだが……。
「いやね、だから俺言ったよね小町ちゃんこの季節の2ケツは地獄だって、ぷはぁ〜っやっぱりこの季節マッ缶も良いけどスポドリだよなぁ。」
まだ慣らし運転も終っていない関係もあり回転数も上げられないから然程スピードも出せない訳で、風を切ってかっ飛ばすなんて事は出来ないからな暑さに負けた小町と序に俺も水分補給の為に途中のコンビニでドリンクを購入し、建物の日陰に逃げ込みそれを喉に流し込んでいる所だ。
「まぁ、それは置いてな小町、こうなるのはお前にも予想出来てたんじゃないのか、だから言ったろう明日アンディ兄ちゃん達と一緒に車で帰った方が良いってな。」
アメリカから帰って来て早々だがこのお盆の季節だし、当然とは言わないが道場も休みにするそうで明日からアンディ兄ちゃん達も千葉へ顔を出すそうだから俺は小町にそれに同乗するように勧めたんだがな。
「だって舞お姉ちゃんの後ろに乗った時はさ、高速道路をビュンビュン飛ばしてすっごく気持ち良かったんだもん、それに早く家に帰ってカアくんのお世話もしなきゃだし。」
だからお兄ちゃんも高速に乗ろうよと同じくスポドリを飲みながらせがむ小町に俺は溜息を一つ、今はお盆休み期間中で家の両親も家に居てカマクラの餌やりやトイレ交換もやってくれてはいるだろうけど、カマクラ大好き小町ちゃんとしては早い所家に帰ってカマクラを猫っ可愛がりしたいんだろう、猫だけにな。
「ふう、小町がカマクラの世話をしたいってのは解ったが、俺は二人乗りで高速を走る事は出来ないんだよ。」
法的に高速道路での二輪による二人乗りをするには条件がある、それは運転者が免許取得から三年以上経っている事と二十歳以上である事、俺は去年の誕生日の翌日に試験を受けて二輪免許を取得したから一般道での二人乗りは出来るが、高速道路の二人乗りの条件を何方も満たしていないから当然法規上それは出来ない。
喉を潤しながらその事を小町に説明しているんだが、クワッと目を見開き楳図か○おバリに驚愕の表情でもって小町はギヤースカと騒ぎ立てやがった。
「しょうが無いだろうが、法的に無理な物は無理なんだから、はぁしょうが無い家まではまだ距離があるからなこうやって定期的にコンビニよって水分補給しながら帰ろうぜ。」
「うう、まぁしょうが無いか。」
何だかやたらと兄妹二人でしょうが無いを連呼しているが、そう言う時もあるさと見逃してもらいたいものだ、赤い彗星の人ではないがこれも若さ故の過ちと言う物だろうか、否そんな御大層なものじゃ無いですかそうですか。
今朝の早朝鍛錬を終え、朝食を頂き不知火家から帰宅する為に出発したのは朝に八時を過ぎた頃だった。
朝食を終え出発迄の時間俺達は今後の予定などを皆で話しをしていた。
「じゃあアンディ兄ちゃんと舞姉ちゃんも明日は家に来るんだね、十平衛先生はどうするんですか。」
食後のお茶を飲みながら俺はそれを皆に問う、北斗丸は多分両親の元に顔を出すんだろうから聞かなくても良い。
「ああ、そうだよ比企谷の兄さんや姉さんとも直に会いたいし、それにリチャードも来日するって言っていたし、僕も千葉のパオパオカフェにも行ってみたいからね。」
俺の問いに答えてくれたアンディ兄ちゃんの口から意外な人物の名前が飛び出し、俺はちょっと驚いた。
川崎のバイト騒動の時に知己を得たパオパオカフェのオーナーで兄貴達の古い友人でもあるリチャード・マイヤさんが再び来日する。
「マジでマイヤさんまた日本に来るんだ、ついこの間アメリカへ帰ったばっかだと思ってたんだけどな。」
最初はサウスタウンから始まった料理店だったパオパオカフェだが、今では世界に複数店舗を出店しているし、そのオーナーのマイヤさんださぞや毎日忙しい事だろう。
「フフッ、リチャードも色々とプロジェクトを抱えている様だけど、その一つを日本で行う予定なんだそうだよ。
今回の来日はその内の一つの懸案の為の来日と言う事もあるんだろうね。」
なる程な、前にマイヤさんに会った時に言ってたっけな、パオパオカフェ主催の格闘大会を企画しているって、今回の来日はその辺りの企画を煮詰める為の物だと言う事だろうな、となると俺と川崎にも出場依頼が来るかもしれないな。
コイツは褌って奴を締めてかかんなきゃだし改めて鍛錬に身を入れようか、それこそがこの場合の転ばぬ先の杖になるだろう、ちょっと違うか。
「そうさの、わしも一度八坊と小町ちゃんの親御殿に挨拶に行かねばならんが坂崎拓馬がこちらに居るのなら会いに行くのもよかろうかな、あ奴の弟子達も見てみたいしの。」
次に顎髭を弄びながら十平衛先生が答える、そう言や十平衛先生ってまだ家に来た事無かったっけかな、まぁ来てくれるってのなら歓迎はするけど結衣達へのセクハラ行為は俺が阻止せねばなるまいな。
それに加えての極限流への訪問するのか、十平衛先生と坂崎のご隠居の数十年ぶりの再会の時か、互いに格闘家同士積もる話もあるだろう。
「けど十平衛先生、坂崎のご隠居は暫く日本に居るみたいっすけどロバート師範は昨日イタリアに戻ってる筈ですよ、何せ財閥の総帥も兼務しているそうですからね、そうとう忙しいんじゃないっすかね知らんけど。」
現役を退き隠居の身である坂崎のご隠居と違い、ロバート師範は主要な大会にこそ出場しないけど、極限流の師範としてのイタリア支部運営にガルシア財閥総帥としての責務、その忙しさは俺なんぞには推し量り様も無いだろう。
「何じゃ、最強の虎は居らなんだか、それは残念じゃのう。」
お茶を飲みながら煎餅をボリッと齧り始めた十平衛先生に俺は少しだけ呆れてしまった、いや貴方少し前に朝飯食ったばかりですよねと。
十平衛先生は小柄な身体にも係わらずかなりの健啖家でもある、齢八十を越えて尚食欲旺盛、健康そのものだ。
まさか極限流道場へ行って坂崎のご隠居と一戦やらかそうとかしないよな、しないよね!?
「本当に十平衛の爺ちゃん良く食うよな、オイラより食ってんじゃないの。
あっ、オイラも師匠と一緒に行くからよろしくな八兄ィ!」
そして珍しく大人しくしていた北斗丸が口を開いた。
その前半に関しては俺も同意する激しく同意する所謂禿同だが、後半部分はいただけん!
「いや、お前はご両親の元へ帰省するのがスジってもんだろうが、てか来るなよ。」
コイツはほっときゃ何をやらかすか知れたもんじゃ無いし、そのせいで俺の生活が掻き乱されちゃたまらん。
基本この俺、比企谷八幡は静かに暮らしたいんだよマジで。
「もうっ、いい加減にしなよお兄ちゃん、まるくんを邪険にしちゃ駄目って小町言ってるよねっ!」
可愛い顔にキッとお怒りモードの表情を拵えて小町は俺を叱る、解せん。
「でも、お兄ちゃんの言う事も一理あるよね、まるくんお父さんとお母さんの所行かなくて良いの?」
………小町さん、君もそう思ってるなら何も俺の事怒らなくても良いんじゃないでしょうか。
俺は小町のその言葉に世の中の理不尽さをヒシと感じ一人心の中で嘆く、此処で“あんまりだぁ”しないだけ俺も大人になったものだと己の成長具合に自画自賛しておく。
「まぁ、家にはその内顔出すよ、まだ夏休はもうちょっとあるしさ。
それよりもオイラ小町ちゃんや八兄ィの住んでる街も行ってみたかったしね、ニッシシシッ!」
いやお前の事情なんて知らんし、と言ってやりたいところではあるんだが。
俺や小町が暮らす千葉のいってみたいとか、そんなしおらしい事言われてしまっては俺としても邪険には出来ぬ。
千葉の良さを知千葉マニアがもしかすると新たに誕生する可能性の目を剪む事など俺には……出来ん。
なので俺は断腸の思いを耐えて、北斗丸の千葉行きをスルーしよう。
「ふふふっ大丈夫よ八っちやん、北斗丸の事は私が責任を持って監視しておくからね。」
そんな俺の精神的葛藤を知ってか知らずか定かでは無いが、我が姉貴分はそう申し出てくれた。
流石はお姉たま、俺の思いをサラッと慮ってくれてさり気にフォローをしてくれるっ、そこにシビれるあこがれるゥ。
以上の様な経緯を経て俺と小町は皆より先に今朝、不知火家を後にし千葉への帰宅の途に着いたって訳だ。
数時間の道程を越えて我が家へと帰り着いたのは午後二時を過ぎた頃だった。
俺は暑さにへばった小町にシャワーを浴びるよう促し、小町もまたそれに否とは言わず素直に了承。
着替えを取りに自室へと一旦向かった小町と別れ俺は一路リビングへと、其処はクーラーを効かせてガンガンに冷やされたおそらく外気温度と比べ十度は下回る、半袖では長居できないであろうと思われるレベルに冷された空間と化していた。
其処にダラリと寛ぐのは二人の人間と一匹の猫、それは言わずと知れた社畜街道一直線、休みの日には半ばリビングデッドと化す事について定評のあるウチのおとんとオカン。
そして、滅多な事では俺に媚び一つ売らないふてぶてしいにも程があるリアル『俺、つしま』CV大塚○夫な我が家の猫。
「親父、母ちゃん、流石に此れは温度下げ過ぎだろ、これじゃクーラー病になっちまうんじゃね。」
パジャマ姿で夫婦揃ってリビングでクーラーに浸りきった状態でテレビを見ながら昼間っから………。
「あっ…ありのまま、今見た事を話すぜ!
俺は小町と二人で不知火道場から家へ帰ってきたんだが、その帰ってきた家のリビングでは俺の両親が真っ昼間っからだらけ切ってビールを飲んでいやがりやがった。
しかも柿○ーとハッピ○ターンをおツマミにしてだ、何を言いたいのかは大方理解してもらえたと思うが、その両親の姿に大いなる呆れの気持ちの片鱗を、俺は味わったぜ………」
一体この二人は何時から飲んでいたのやらだ、リビングのテーブルには空になった350mlのビール缶が既に7〜8本と今現在二人が手にしたビールの缶と食い散らかされたおつまみの袋。
まぁ、平時は仕事に忙殺されているんだから偶の休み位はダラケてもらっても大いに結構なんだが……。
「お〜イエィ八幡、帰ってそうそうに長いネタをご苦労さん!」
「あ〜、お帰り八幡、小町は一緒じゃ無いのぉ!?ヒック……」
飲んだくれてこんな
「はいお父さんお母さん、麦茶だよこれ飲んで早く酔を醒ましてよね、本当にしょうがないんだから。」
シャワーを浴びおえTシャツにショートパンツスタイルのラフな格好に着替えを済ませた小町は、そんな二人を口ではしょうが無いなどと言いつつも甲斐甲斐しく世話を焼く。
かく言う俺は帰って早々にこの酔漢二人に捕らえられビールを飲まされそうになってしまったが、そこは流石に鍛えてますからシュッ!とばかりに回避に成功する事は出来たよ当然、だがこの二人は小町がシャワーを済ませてこのリビングに来る迄に更に三本のビールを飲み干しやがったし。
「う〜ん、ありがとなぁ小町ぃ。」
「んぐっんぐっ…ぷあ〜っ冷えた麦茶が滲みるう〜っ、ありがとうね小町。」
麦茶を用意してくれた小町に礼を言いながらそれを飲む両親、さっきまでの醜態はいくらか鳴りを潜めている。
しかしこの中年夫婦、さっき迄麦のお酒をしこたま飲んで今また今度は麦のお茶を飲んでやがる。
「どんだけ飲むんだよ、麦尽くしじゃねぇかよ、あれか大麦畑で捕まえてっとか言わないよね。」
俺は両親をジト目で見ながら苦言を贈呈する、それは定年により退職する老サラリーマンを送る後輩社員の如く、などど言う事は無く単純に呆れてしまったが故の言葉なんだけどな。
「ふぃ〜っ、甘いなそれを言うならライ麦畑だろう八幡、今のは面白く無かったぞ。」
「いや、何言っちゃっていの今のは別に狙ったわけじゃないし。」
それをこの酔っぱらい親父と来たら人の苛つき指数を爆アゲしてくださる。
俺は思わず拳を握り込み何時でも発射出来る態勢を取らずにはいられない、いや既に取ってんだけどね。
「まぁまぁお兄ちゃんも怒んないの、小町これからちょっと遅いけどお昼ごはん作るからさ、落ち着いとこうね。
お父さんとお母さんもお酒ばっかりじゃ無くって少しはご飯も食べなきゃ駄目だからね。」
うむ、この妹の良く出来た事よ、感激のあまり俺感涙にむせび泣く思いだよってかもう、目から汗が出ちゃってる気がするわ。
それから三十分程で小町は四人プラス一匹分の昼飯を用意してくれて、俺達はそれをありがたく頂戴し皆でリビングでまったりとしている所だ、そののんびりタイムに俺と小町が明日以降の話をしたものだから。
「ほう、あの山田十平衛先生が我が家になぁ、これは歓迎の準備を整えておかなきゃいけないかな。」
格闘技ファンで皆で飲むのが大好きな親父は当然こう言うと俺は予測出来ていたし、おそらくその後に続く母ちゃんからの御達しも。
「そうね、貴方後で車出して八幡と一緒に買い出しに行って来てね、必要な物は後でメモって渡すからヨロシクね。」
はいこうなりました、我が家の帝王たる母ちゃんの御達しに対して俺と親父には拒否権などある筈もなし、親父の酔が抜けた後に買い出しへと駆り出される事が此処に決定した。
くっ、我が家は台所を預かる女性陣の発言力が強過ぎる、故に俺達男チームはこんな場合隷属を余儀なくされるのが常である、うむ家庭内で上級国民と下級国民の格差社会が構成されているとは世知辛い。
くっ、かくなる上はマッ缶をダース単位で買い込んでやるっ!やるったらやるぜ母ちゃん。
「それから八幡、マックスコーヒー買っても良いけど買い過ぎは許さないからね!」
流石は帝王、俺の考えなどお見通しって訳ですか、俺の企ては実行に移す前に潰えてしまった。
それは恰もVIPを護衛するSSが如く、事を起こす前に不審者を捕らえるかの様に華麗に。
「何で解ったん!?」
「私が何年アンタの母ちゃんやってると思ってるのよ、あんたの考えは全部とは言わないけどある程度はお見通しよ、母ちゃんナメんなよ。」
俺はリングに上がる前に既に母ちゃんの前に敗北していたって訳ですか、それは恰も最後迄黒塗りのまま何もせずにくたばった夜叉八将軍の不知火の様に。
「おい八幡一つ教えておいてやる、俺はな母ちゃんと結婚してこの方一度として勝利を収めたことが無いんだよ、ただ一つのことを除いてな………それが何か知りたいか八幡。」
親父のやつが俺と母ちゃんの攻防、一方的に敗北を喫した俺としては防御もままならず終わった様な物だが、その結果を見届けたその親父が何だか勿体付けてそんな事を言いやがる、ゲンドウポーズまで付けて。
そんな事をやられた日には当然俺も興味を多少は抱いてしまう訳で、俺は親父に頷いてみせる。
「それはな、八幡……ベッドの上での攻防戦だ、お前も雪乃ちゃんと結衣ちゃんといろはちゃ『ドゴォっ』…たわらばっ、ゴワッ!?」
勿体つけて喋りだしたその口から出て来たのがコレだった、しかも全部言う前に『カアチャン怒りの鉄拳』を喰らうってオチまで付いて、マジで聞こうとした俺が馬鹿だったよ。
いや親父の事だからこんな結末もあり得たんだけど、それもかなりの高確率でな。
「未成年の子供の前でアホな事を言うんじゃないわよっ!この馬鹿旦那が!」
母ちゃんの渾身の拳骨が親父の頭をクリティカルジャスティだ、顔を真っ赤に染めた母ちゃんが拳を握りしめてワナワナと震えているが、そりゃそうだよな。
この真っ昼間っから自分の息子に対してR指定を付けなきゃいけないようなネタをかまそうとしたんだから、この結果は甘んじて受けるべきだよ親父。
「……親父、アンタは何処のパウロさんなんだよ。」
俺はそんな親父にパウロと命名してやりたい気持ちをその口から発し、頭から煙を発するソレを不憫なモノを見る眼で眺めていた。
しかし一つ疑問なんだが、さっきの顔を真っ赤にした母ちゃんは果たして、その顔の赤さは怒りから生まれたものなのかそれとも羞恥心から出たものなのか、それは今の俺に解らない事だ。
ソレから母ちゃんは親父に一瞥くれてリビングを出て行った、それは怒り心頭な感情を落ち着かせる為だろう。
母ちゃんの拳骨によって撃沈した親父を放置して俺は小町と食後のお茶を啜っていた、その時唐突にテーブルの上に放置していた俺のスマートフォンが静かに振動し、着信を告げる。
バックライトが点灯したモニターにはそれがメールの着信では無く音声通話の着信である事が表示されていた。
俺はそのスマートフォンを手に取り相手の名を確認する。
「……雪乃からか。」
そのモニターには雪乃の名が表示されていた、俺が雪乃からの着信を拒否するなどと言う選択をする訳も無く、直様に通話を選ぶ。
雪乃からの通話の要件とは何か、それは次回の講釈で。
さあ雪乃からの要件は何でしょうか。