やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
坂崎のご隠居とマイヤさん、そして謎のスーツ姿の三十代位の男性を加え遂に面子は揃った、のだろうと思うが。
「あの、そちらの方はどなた様でしょうか。」
未だ紹介もされていない謎の男性、この人がどんな人だかわからない上に俺を含めた格闘に携わる人間達、そんな者達を集めて雪ノ下家は一体何を話そうと言うのか、気になる。
この木なんの木でお馴染みの○立のCMに出てくるバカでかいあの木くらい、俺は気にって仕方の無かったので思い切って尋ねてみた。
「ああ、此れはうっかりしていたよ、申し訳無い、彼の紹介がまだだったね。」
ゆきのんのパパが苦笑交じりにその事を詫びて、件の人物を指して俺達への紹介がはじめられた。
「紹介しましょう、彼はこの千葉市の市会議員、武蔵中原忠弥君です。」
ゆきのんのパパの右隣に立つこの人物の名前と肩書きとが説明された、まさか市会議員なんて人がこの場に現れるとは思ってもいなかったが、そうなると俺の予想していた事態とはもしかすると違ってるのかも知れないな、とするとはて此れは一体どう言う会合なんだ。
「皆様お初にお目にかかります、千葉市議会議員を努めております武蔵中原忠弥と申します、本日は暑い最中お集まり頂きありがとうございます。」
ピシッと姿勢正しく腰を折り、爽やかさをヒシヒシと感じさせる様な声音で挨拶をバッチリと決めた武蔵中原議員、その姿に俺は思わず感心する。
此れはあくまでも俺の持つ印象なんだが、国会だろうと地方だろうと議員と名のつく者は選挙で票を得る為、特に選挙期間中ともなればその為にいくらでも爽やかさや清潔感を演出するって言う穿った見方をしてるんだが。
此れはやっぱりちょっと失礼な見方だろうか、何と言っても雪乃の親父さんも県議を努めているわけだしな、っとまあそんな事を思いながらも皆に続いて俺も武蔵中原議員に挨拶を返す。
この場に参集した皆の紹介挨拶も一通り済み(まぁその大半が顔見知りだった訳なんだが)遂にこの会合の目的が語られる、それは。
「千葉市とサウスタウンとの姉妹都市提携ですか……。」
武蔵中原議員の口から紡がれたその言葉を舞姉ちゃんが反芻する様に問い、武蔵中原議員は『はい』とよく通る声でこたえた。
しかし姉妹都市提携なんて話しが飛び出すとは予想外だった、これはどうやら俺の予想は外れたっぽい感じだな。
俺は当初この面子が集められた理由はパオパオカフェ、マイヤさんと雪ノ下議員とが組んで何かしら格闘大会でも企図しているんだろうと推察していたんだがな。
「はい、実はですね此れは私が二年程前になりますか、マイヤ氏がこの千葉にパオパオカフェを出店するとの情報を知った時から考えていた事でして。
それから市長を始め市議会の御歴々に話を持ち込み今春パオパオカフェのオープンを以って漸く上からゴーサインが出まして。
この四ヶ月ほど私をはじめ数人の若手議員を中心にサウスタウンのある○○州へと赴きマイヤ氏の協力、ご尽力を得てあちらの市長や町長とも協議致しまして上手い具合に話が纏まったと言う訳なんですよ。」
しかも既にその話は本決まりってか、けど実際のところ姉妹都市提携ってもどう言う事やるんだ、日本国内他の地方でも色々なトコが国内外問わず姉妹都市だとか或いは言葉を変えて友好都市だの親善都市だのってやってるみたいだが、その実状とか活動内容とか全くと言ってもいい位に知らないんだよな。
「付きましては来月、パオパオカフェに於きまして姉妹都市提携の宣言をイベントとして執り行う事と決まりまして、もし御都合が宜しければ皆様にもそのイベントにご参加頂けないかと。」
宣言イベントへの参加か、そう言うのってアレだよな長いリボンを複数人で鋏で切って、それを合図にくす玉が割られて紙吹雪が舞って白い鳩が飛んでいくってヤツか、なんだがそんな発送しか出て来ないとか俺も案外貧困な発想力しかないのか。
いやそれもやるかもだけど、いくら何でもそれだけってのは捻りもなんも無いだろうし、此処は主催者側の演出に期待したい所だな。
「まぁ、俺は千葉住みっすからね平日とか学校が無きゃ参加は出来ると思いますけど。」
千葉市民としては、参加するに当たりその辺の事がクリアされてるんなら
「それならば問題はありませんよ比企谷君、このイベントの開催日は9月○○日の月曜日。
この日は君の学校、総武高校文化祭後の振替休日ですからね、イベント参加に支障は無いでしょう。」
言い直す前に武蔵中原議員からのご回答がありました、くっ我が野望ここに潰えたり……ってかマジでその日程なの、恐らく文化祭となりゃ雪乃や結衣、それにいろはが張り切って何かやるだろうし俺はきっとそれに駆り出されて馬車馬の如く働かされるだろう。
その文化祭終了後の心と身体をリフレッシュする為の休日が、潰れるだと……
「そっ、そうですか………。」
俺は力無く、そう返すのが精一杯だった。
「僕は問題ありませんけど、舞と十平衛先生はどうかな。」
「私は当然アンディと一緒なら何処へでも行くわ、十平衛先生はどう?」
「無論ワシも参加しよう、その様なイベントならば綺麗所もさぞや大勢集まるだろうのぅ。」
アンディ兄ちゃんもそれに承諾し、舞姉ちゃんと十平衛先生もそれぞれの思惑から参加の流れへと、そして。
「当然ワシも参加させていただこう、日本とアメリカ、二つの都市の友好大いに結構!」
坂崎のご隠居も参加を快諾しこの場に集った者達は全員参加が決定となった。
「皆さん御協力感謝いたします。」
サイド7グリーン・ノア○通称グ○プス……再度武蔵中原議員は立ち上がり俺たちへ向け深々と頭を下げた、そしてその顔を上げたときには満面の笑みがその顔から溢れていた。
武蔵中原議員が着席し話の続きがゆきのんのパパと武蔵中原議員の口から語られる、当日は千葉市側からは千葉市長はじめこの件に携わる議員の方が参加。
県を代表してゆきのんのパパこと雪ノ下県議と一応千葉県選出のなんタラ言う国会議員も顔を出すとらしい。
そしてサウスタウン側からも市長や町長と言ったお偉方が参加するとの事。
そして、あの人の名が告げられる。
「そして、スペシャルゲストとして比企谷君もよくご存知の人物………サウスタウンヒーロー、伝説の餓狼と呼ばれる世界的格闘家デリー・ボガードさんに参加して頂く事が決定しております。」
幼い日、虐めって名の地獄から俺を救い出し今日までの道筋を作り導いてくれた恩人であり師匠であり、そして三人の兄貴達と姉貴達の実質的長兄、まぁ兄弟分であるロックにとっては義父だけど。
俺の最大の目標であるテリー兄ちゃんの名が武蔵中原議員から告げられた。
「テリー兄ちゃんが……。」
テリー兄ちゃんもこのイベントに参加する、そうなると当然ロックも同行してくるだろう………あれそう言えばテリー兄ちゃん『秋口にはそっちに行ける』ってあの日言ってたっけ、と言う事は。
「アンディ兄ちゃんさ、もしかしてこの事知ってたりする!?」
疑惑の眼差し(って程大袈裟じゃ無いが)を俺はアンディ兄ちゃんへ向ける、あの時アンディ兄ちゃんはサウスタウンのパオパオカフェにテリー兄ちゃんと一緒に居た訳だしな、もしかして今回の話を聞いていたとて何ら不思議は無いと思うんだが。
それを取り敢えず確認しとかなきゃならないと俺の使命感が、別に言っちゃいないけどな。
「ははっ、まあ実はね。」
やっぱりか、アンディ兄ちゃんは教えてくれた、あの頃にサウスタウンで開催されたキングオブファイターズへ北斗丸が参戦を希望しアンディ兄ちゃんは保護者としてそれに同伴していたし、その大会で優勝したテリー兄ちゃん主催の祝勝会にアンディ兄ちゃんも参加していた上に、その会場はお馴染みのパオパオカフェだった訳だし。
「あの時アンディ兄ちゃんもテリー兄ちゃんと一緒に居たしね、この話を聞いていても可怪しく無いって思ったんだけどね。」
『済まない、正式に発表される迄は内密に』とのお達しがアンディ兄ちゃんはじめその情報を知っていた人達には通達されていたんだとさ、まぁ事が事だからな。
そしてまた武蔵中原議員による姉妹都市提携の経緯が語られたんだが、その武蔵中原議員がこの企画を漠然と考え始めたのには、何と俺の存在も関係していたらしい。
「もうかれこれ八年程前になりますかね、当時の私はまだ市議会議員となって間もない頃でしたし大した役割は与えられてはいませんでした。」
武蔵中原議員は語ってくれた、当時まだ経験も浅く役職も無かったけども千葉市民の一人として、また議員としても自身の暮らす街の発展に寄与したいと常に考え、またどうすればそれが可能かと。
「あの光景を私は忘れませんよ、何せこの千葉にあの世界的格闘家テリー・ボガード氏が暮らしていたうえに、この地元の小さな少年に格闘技を指導していたんですからね、ボガード氏ご自身の養子であるロック君と比企谷君、君達三人のトレーニングに打ち込む姿を目の当たりにして私も君達が懸命に格闘技に取り組む様に、私もこの街の発展に懸命に取り組もうと決意を新たにしたものです、そしていつか何らかの形でボガード氏と何某かのコラボレーションを行えればとの思いを常々抱いていたんですよ。」
切々とその想いを語る武蔵中原議員の姿に我ながらどうにも安っぽいなと思わなくも無いが、感銘を受けてしまっていた。
しかも今回の企画の出発点が俺たちの存在に在ったなんてな、灯台下暗しってかお釈迦様でも気付くまいってか…いや別にそんな例えとか要らんわな。
「そんな思いが漸く実現出来る事となった上に先日雪ノ下さんからご連絡がありましてね、それが何とこの千葉に極限流空手道場が開設されると言う話ですしね、此れはもう話を進める為の追い風に他無いではありませんか!
そしてゆくゆくはこの千葉をサウスタウンに続く一大格闘都市へと発展させてゆくのですッ。」
サウスタウンと千葉2つの街が協力仕合い格闘技のイベントや大会を開催か、それが叶えば俺も一格闘家として腕が鳴るっ感じだが、しかし武蔵中原議員は気が付いているんだろうか。
光ある所には影もある、テリー兄ちゃん達の活躍もあり確かに今のサウスタウンは昔と比べて大分平穏な街になったそうだけど、それでも闇の勢力が完全に潰えたって訳じゃ無い。
現状この日本だって国際交流だの何だのと言って……(あまりこういう場で政治的な事は言わないほうが良いか)昔と比べて治安も悪くなってるしな。
兎に角闇の勢力とかがこの千葉の街に紛れ込まなければ良いんだが、と俺としては懸念するんだが。
「なる程面白い!だがしかし武蔵中原君、君はかつての裏社会に牛耳られていた時代のサウスタウンの事を知っているかね、この千葉の街がかつてのサウスタウンの様にならぬ様に対策も練らねばならないのでは無いのかね、まあだがその様な事態になる様ならば我が極限流空手としてはその為の協力は惜しまぬぞ。」
胸元で腕を組み力強く頷き坂崎のご隠居は武蔵中原議員やゆきのんのパパに協力を申し出る、流石に坂崎のご隠居は暗黒期のサウスタウンをよく知っているだけある、その危険性を誰よりも知っている事だろう。
それこそここに居るアンディ兄ちゃんや現在サウスタウンに居るテリー兄ちゃんやロック以上に。
「ワシも長く格闘の世界に身を置いて来たしの、それなりに修羅場も経験しておるが、流石に歳を食いすぎたわい。
じゃがこんな老いぼれでも若いモンに何かを伝える事はまだまだ可能じゃて、そんなワシの残された人生の時間は心正しく真っ直ぐな心を持つ若いモンを育て上げる事だろうかのぅ、お主もそうであろう拓馬よ。」
十平衛先生は自身の真っ白で長い自身の顎髭をなでつけながら、己の気持ちを吐露し坂崎のご隠居にも問い掛ける。
意外だ、柔道の指導の時以外は何時も女性にダラダラしている十平衛先生がこんな真面目な事を言うなんて、明日は雨どころか槍が降ってくるんじゃないのかコレ……。
「うむ、正にその通りでありますぞ十平衛殿、未来を担う若者を育て上げる事こそが我ら旧世代の努めでしょうな。」
二人の老格闘家が力強く頷き合う、この街をかつてのサウスタウンの二の舞いにさせない様にと、俺はその二人をかつて無い程に敬意を抱かずにはいられなかった。
例え普段どれ程助平ジジイだったとしてもな、かつての偉大な格闘家の威厳今尚健在って事か。
それからまたイベントについての詳細を説明を受けてこの日の会合はお開きとなり、俺達は来訪時と同様に雪ノ下家の車で我が家まで送っていただけた。
何故か雪乃までもがそれに同乗して我が家へとやって来ると言うオチが付いたんだがな。
「連絡を取ってみたのだけれど、結衣さんといろはさんも家族旅行から帰ってきているそうよ、なので二人とも貴方のお宅へ伺うそうよ。」
との返答が雪乃から車中に於いて語られた、どうやら今夜の我が家は騒がしくなりそうだ。
「ぐっひひひっ、何とかわい子ちゃんが揃うとな、コレは楽しみじゃのう。」
そして俺はエロ爺さんから彼女達を守らなきゃならないだろう、まぁそうなっても舞姉ちゃんという強力な守護神がいるから、何とかなるだろう。