やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。 作:佐世保の中年ライダー
詳細は作品中で。
今夜開催される花火大会を前に千葉市とサウスタウンとの姉妹都市提携の話が公式に発表された、そのイベントを終えた雪乃の両親と姉の陽乃さんとマイヤさんに加えて極限流空手創始者である坂崎のご隠居と、雪ノ下姉妹に古武術を教えた師匠でもありゆきのんのママと古い友人でもある『藤堂流古武術』師範、藤堂香澄さんまでもがこのパオパオカフェへと参集しこの集いは意外な程の大所帯となってしまった、てか密集度高すぎ問題発生中だなこりゃ。
その密集度はかつて長崎県に存在していた炭坑の島『端島』(世間一般的には軍艦島と言った方が通りは良いか、何せその最盛期には東京の約九倍の密集度だったそうだから)の最盛期よりも多いんじゃね、とは言い過ぎですか、そうですか。
「因みに件の端島だが、炭坑閉山後無人島になってしまったがその島自体は別に無くなった訳じゃないし地元では観光資源に活用しようと色々やってるみたいだ、これマメな。」
「……はぁ、いきなり何を言いだすんだ八幡、まるで話が噛み合っていないじゃないか。」
俺の呟きと言うには些か長いセリフにアンディ兄ちゃんが突っ込みを入れてくれる。
「どうせお兄ちゃんの事だからさ、何か
そしてそれに、俺の生態を熟知している小町がアンディ兄ちゃんに対して説明を加える。
小町の言葉に「だろうね」と同意して溜息をつくアンディ兄ちゃんと何とも微妙な形容し難い表情を見せるこの場に集う人達に「よせやい照れるぜ」なんてセリフを吐こう物ならきっと顰蹙の嵐に見舞われる事間違い無しだろう、なので俺はその衝動をグッと我慢する事にした。
「まあ八幡の事は置いておいて、藤堂さんと雪ノ下さんのご長女殿にはお初にお目にかかりますね、アンディ・ボガードですよろしくお願いします。」
俺の葛藤を他所に今日の俺達一行の保護者的立場にあるアンディ兄ちゃんが先ずは初対面の二人に挨拶をし、藤堂さんと姉乃さんも改めて挨拶を返しその後は続けて俺達もと相成った、まぁこれは至極当然の流れだよな。
さて、互いの紹介も一段落付き皆でテーブルを囲み俺達は歓談へと洒落込んだ訳だが、お初にお目にかかった藤堂さんがアンディ兄ちゃんに対してしみじみと語り掛ける。
「アンディさん、これは厳密には貴方のお兄様にも述べなければならないのでしょうが、此処にはいらっしゃらないのですから先に貴方へ伝えておきますね。」
姿勢を正し藤堂さんは深々とアンディ兄ちゃんへと頭を下げ礼の言葉を述べるのだが、当の本人たるアンディ兄ちゃんはと言うと何が何だか解らないとその表情が物語っていた。
その事態にアンディ兄ちゃんは慌てて藤堂さんへ顔を上げてほしいと促し、暫くして藤堂さんはその言葉に従ったって事ではないのかも知れんが、頭を上げるとその理由を語り始めた。
その理由ってのがまた何と言えば良いのか、縁は奇なものって言葉を知らしめる様な感じの何とも世間は案外狭いって思わせるものだった。
「かつて、私の父は武者修行と我が藤堂流を世に知らしめる為に旅立ち、そして極限流の此方にいらっしゃる拓馬殿とそのご子息亮殿と相対し敗北しました。
そしてその敗北が元で父は失踪し…」
藤堂さんの話を要約するとこう言う事だ、父親が旅立った頃まだ当時中学生だった藤堂さんは修行中であったが師匠でもある父親が居なくなり、その修行に行き詰っていた。
そんな自身の修行の行き詰まりを打開する為に藤堂さんが思い付いた事、それは藤堂さんの父親龍白氏の古い友人でもあり先輩でそして同じ古武術の達人であった『周防辰巳』氏の元で稽古を付けて貰う事だったそうだ。
因みにだがその周防辰巳師はテリー兄ちゃんとかなり良い感じの美人なフレンドで、周りの皆んなは『もう、お前らマジで付き合っちゃえよ、何ならもう結婚でもしろよ』と言われている、コマンドサンボの遣い手である格闘家にしてフリーランスのエージェント、そのコードネーム『ブルー・マリー』こと『マリー・ライアン』さんの祖父なのだそうだ。
なっ!世の中案外狭いって感じるだろう。
そして周防氏の元に足繁く通い修行を付けてもらいその実力も向上し、藤堂さんは辰巳氏へ深く感謝と礼の言葉を述べると、その後失踪した父を探しにアメリカへと旅立つ。
「その私と入れ違う様に、リョウさんとの闘いに破れたギース・ハワードがこの日本へと来日し周防先生の元で弟子として修行を開始し、やがて………」
高いレベルで古武術を物にしたギースはアメリカへと帰国、その際にギースは師匠である周防辰巳師を殺害してしまったのだと言う事だった。
元よりタン老師の元で修行し、そのタン老師をして己の弟子の中で最も強大な気を発揮したのはギースだと言わしめた程の遣い手だ、その実力の程は計り知れない。
「私がその事実を知ったのは、それからかなりの時間が過ぎてからでした。
我ながら不甲斐ない事です、お世話になった恩師の死も長い間知る事なく父の捜索や実家の雑事に追われ、いいえ此れは私のはたらいた不義理に対する言い訳ですね。
ですが、そのギース・ハワードを貴方達兄弟が打倒してくださったのです、アンディさん改めて申します。
テリーさん共々我が恩師の無念を晴らして頂きありがとうございました。」
語り終え藤堂さんは再度アンディ兄ちゃんへと最大の感謝を込めているって、周りの皆にもそれがありありと感じられる程の所作で以ってその思いを伝えた。
「とっ、藤堂さんどうか頭をお上げください、僕達兄弟にとってギースは父の仇でもありましたし、それにギースを倒したのは私では無く兄のテリーですからね。」
心からの藤堂さんの感謝の言葉にアンディ兄ちゃんは戸惑いと照れを感じてだろう、しどろもどろに語り掛ける。
俺はその辺りの経緯を直で知る訳では無いからな、このギース・ハワードが関わる一連の出来事についてテリー兄ちゃんやアンディ兄ちゃんから聞いた範囲内でしか判断出来は無いんだが、このギースと言う人物と関わった人達がどれ程不幸な目に遭ってしまったのかを聞くにつけ、無関係な俺でさえも思わず憎しみに近い感情を抱いてしまいそうになるわ。
それは周防氏だけじゃ無く、テリー兄ちゃんとアンディ兄ちゃんの養父であるジェフ・ボガードさんもギースの手に掛かって殺害されているし、恐らくはテリー兄ちゃんの知らないところでもギースの野望の邪魔になる人達を闇に葬っているかも知れない、それ程までにギース・ハワードと言う人物は己の野望、欲望の邪魔となる者に対して非情に排除しサウスタウンの暗黒時代を象徴する一大勢力へと上り詰めていたんだ。
「それだけじゃあ無いッ、奴はロックとロックの母ちゃんを見捨てやがって、そのせいでロックはッ!!」
俺はギース・ハワードの事を考えているうちに、次第に心の中の憤りが沸点を越え無意識にも罪の無いテーブルを右手で打ち据えた。
「っ!? 八幡落ち着くんだ!」
そんな俺をアンディ兄ちゃんが俺の肩に空かさず手を掛け強い声で嗜める、その声に俺はハッと我に返ると周りの皆を見渡す。
格闘の世界に身を置く人達は兎も角雪ノ下一家や結衣、いろはや鶴見母娘などは俺のいきなりの行動に戸惑っていた。
「はっ……そのすいません。」
この場を騒がせてしまった事を俺は謝罪し、周りの人達も一部戸惑っている人も居るがそれを受け入れてくれた。
「私達、初めて見たのかも知れないわね、八幡君が怒りを顕にする所を。」
女子陣を代表したのか、雪乃が俺の目を見据えて静かな口調でそう言うと、結衣といろはもそれに同意してゆっくりと頷く、俺は再度彼女達に謝罪する。
先とは違い、今は頭も冷え冷静さを取り戻したからか取り乱した姿を見られた羞恥心もあり、頭を掻かずにはいられなかった。
「前にヒガシさんから聞きました、父親に捨てられお母さんを失ったロックさんをテリーさんが養子にしたって…そのロックさんの父親がギース・ハワード、なんですよね。」
控えめな声音でいろはがそう確認する様に俺やアンディ兄ちゃんを見つめる、それはきっと千葉村での事だったんだろうなと俺には思い当たった。
それに倣うかの様に結衣と雪乃も此方を見つめ、それが伝播する様にみんなの視線が集中する。
くっ、しまった俺とした事が『ひらめき』を掛けるのを忘れていたぜ、つかひらめきの百パー回避は一回だけだからこの状況じゃ無駄か。
まぁだからしゃあないな、覚悟を決めて話しておくかと勇んでみた物の俺が話そうとする傍でアンディ兄ちゃんが『そうだよ』といろはに返事をし続けて話を始めたよ、ラッキー!なら俺は黙って見ておくことにしようか。
以前にジョーあんちゃんと舞姉ちゃんがいろは達には話していた事もありアンディ兄ちゃん話はそれにほんの少しエピソードを追加しただけだったんだが。
「そんな感じでね、八幡は小さな頃から自分の事より人の為に怒る様な子供だったんだよ、そんな八幡だったから兄さんもロックも八幡の事を気に入ったんだろうね。」
それは俺にとってどうにもこそばゆい話だったりするうえにアンディ兄ちゃんと来たらや、たらと優しい顔して語るもんだから俺は途中からどうして良いやら解らず目を逸らして店内の常設リングの方を見ていた。
そのリングの上には物凄い体格の良い外国人の若い、年齢的には俺と然程変わらないくらいの歳の兄ちゃんが陣取っていた、その身長は悠に百八十センチを超える長身に全身をガッシリとした筋肉に覆われていて、両手にはグローブを付けている事からそのファイトスタイルはボクシングかキックボクシング、或いはムエタイ辺りだと推察される。
「フフフそうよね、でもそう言うけどアンディだってあの時から八っちゃんの事気に入っているんでしょう、お兄ちゃんやジョーと一緒ね、それと八っちゃん自分の事を話されているのが恥ずかしいからって何時までも余所見しないの、良いわね。」
おっと、今正にリング上では件のデッカイ兄ちゃんが試合を開始しようとしているその時、敬愛するお姉またに俺の現実逃避を窘められてしまいました、イヤね兄ちゃんや姉ちゃんが俺の事を評価してくれるのは正直ありがたいとは思うんだよ、思うんだけどさ。
「なっ……慣れてないんだよ、こう言うのってさ。」
ポリポリと軽く頭を掻き努めてぶっきらぼうを装いつつ、てか自分では装うまでも無くまんま素でそんな感じだとは思うが、まぁ兎に角そう演じたと思ってもらいたい。
実際高校入学以前は身内以外に評価してもらう事なんて無かった事だし、嘘は言っちゃいないよ俺。
「ふふ、ねえ母乃(仮)ちゃん、どうやら雪乃ちゃんの殿方を見る目は確かの様ね、勿論結衣さんといろはさんもですけどね。
今時こんなにも義侠心の厚い少年など探しても早々に居るものでは無いでしょうしね。」
ほえっ!?
そこに突如として乱入し爆弾を投下して来たのは藤堂さんだった、藤堂さんはゆきのんのママに語り掛けながらもメッチャ優しさを感じさせる眼差しで俺、雪乃、結衣、いろはと微笑みながら高評価ボタンを押すような事を仰る。
「ふふふ、そうでしょう香澄ちゃん、何と言っても私の娘達ですからね。」
しかも駄目押しの如く、ゆきのんのママ迄もがだよ本当何なのこれって、これが所謂褒め殺しってやつなのか。ウッソマジで俺ってもしかしてキルされちゃうのか!?
切るか斬るか伐るかKILLなのかは解らんけど………しかしアレだな俺もそうだが、その藤堂さんとゆきのんのママの言葉の爆弾によって雪乃も顔を紅くし俯き気味に目を背けてはにかんでいる、いろはと結衣も同様にだがそりゃそうだわな、恥ずか死ぬわ。
てかままのんさん、何気に雪乃だけじゃ無く結衣といろはも半ば娘認定してるんですね。
初対面の藤堂さんに迄こんなにも評価を受けるとか恥ずかしさを通り越して寒イボが発疹してしまいそうだわ、あ〜っ背中がめっさカイカイだムズムズするう。
「あの、ありがとうございます香澄おば様、母さん。」
俺が背中を掻きたいという誘惑に必死こいて抗っている最中、はにかみ俯いていた雪乃が何時の間にかその顔を上げて藤堂さんに感謝の言葉を伝えていた。
「あっ、ありがとうございます。」
雪乃に続き結衣といろはもまた藤堂さんとゆきのんのママへ謝辞を伝える、雪乃と違い若干わたわたとした仕草でのテンパリモードだったが。
「………………。」
しかしそんな中に在って俺は一人気になる人が居る、それは雪乃の姉である雪ノ下陽乃さんの事だ。
この一連の歓談の中に在って彼女は、何故だか解らないがあまり積極的に会話に参加して来ない、いやまぁこの人と会うのはこれで三度目くらいだからこの人がどんな人なのか大して知りもしないんだが。
彼女はこの場に於いて、誰かが話をする度に人好きのする笑顔を見せてはいるんだが(現に十平衛先生なんかは彼女のルックスとスタイルにその表情を崩しデレデレしているし)俺にはそれがどうにも不自然な物に視えて仕方が無い。
それは何だか初めて会った当初の雪乃のそれに近い様に思えるんだが、何かこの人は抑圧されているのだろうか、俺の気の所為なら良いんだがな。
リングの上から響いて来る打撃音をBGMに食後のデザートをいただきながらの歓談も終わりの時が訪れようとしていた、それは。
「貴方そろそろ向かいませんと行けませんわね。」
「ああ、もうそんな時間か、いやぁ楽しい時間と言うのは本当に過ぎ去るのが速いものだね、名残惜しいですが私と妻は此処らでお暇させていただきます。」
席から立ち上がり雪ノ下夫妻はこの場の皆に丁寧に別れの挨拶を述べるとこの場を去ってゆく。
「陽乃悪いけれど、後の事をお願いするわね。」
ゆきのんのママがこの後の(多分イベントに付いてだろうが)それを雪ノ下姉に託すと彼女は『ええ母さん任せて下さい』と答え、ままのんはフッと微笑んで姉ノ下さんへと頷き、改めて旦那さんと共に挨拶を済ますとパオパオカフェを去っていった。
俺達は暫しその二人の後姿を見送る、やはり地方議員として行政に携わりしかも比較的大きな会社の経営まで手掛けているんだからな、まさにそのタイムスケジュールたるや分刻みの忙しさなのだろうか、だとしたら俺はそんな世界には身を置きたくないな。
『WOOOOO!!!!!』
リングの近辺に陣取り、そのリングの上で繰り広げられている闘いに熱狂する観戦者達の歓声が木霊する、どうやら闘いは観客がそれ程までに盛り上がる程のファイターが現れその実力を発揮しているのだろうか。
まぁ俺達としてはこれまでそちら側には注目していられ無かったから、どんな闘いが繰り広げられていたかは知らないがな。
「何ぞリングの周りが騒がしいのう、注目に値する格闘家でも闘っておるのかのぅ。」
その熱狂的な騒がしさにリングを背にしていた十平衛先生は、のそりとリングを振り返り見ると、釣られた訳では無いだろうが坂崎のご隠居と藤堂さんも同様にリングの上に視線を向ける。
「……ほう、あれはキックボクシングですかな、あの若いの中々のパワーの持ち主のようですな十平衛殿。」
この場の長老格二人がリングの上の外人兄ちゃんに着目し評価を下し、俺達もそれを倣い見る。
優勢に試合を運んでいる、身長が裕に百八十を越えるマッチョなキックボクシングを使う外人兄ちゃんと劣勢にある白い道着を着た空手家、こちらの選手は見た感じ身長百七十五センチ程のスリムな体型の二十代前半位の年齢だろうか。
空手使いの人は頑張って外人兄ちゃんのラッシュを捌いているがそれも徐々に危うくなりつつある様だ。
「あれって………もしかして!?」
暫しリング上の試合を観戦していた舞姉ちゃんだったが、何かに気が付いたかの様に声に出してそう言うとアンディ兄ちゃんが『どうしたんだ舞』と問う。
「ねえアンディ、あのキックボクシングの使い手の子って彼の面影が在ると思わない!?」
そう言われたアンディ兄ちゃんもリングの上に着目する、厳密にはキックボクシング使いの外人兄ちゃんにだが。
しかし、舞姉ちゃんが言う彼の面影ってのが正しければあの兄ちゃんは舞姉ちゃんとアンディ兄ちゃんの知り合いの子供とか孫とかって事になるのか。
そうとなれば俺としても、リングの上の外人兄ちゃんに着目しない訳には行かない。
『シッ!シッ!シッ!フンッ…ダブゥッコングッ!!』
外人兄ちゃんの下段しゃがみ状態からのジャブの連打からの必殺技、聞き取りづらいけどその技名は『ダブルコング』と言うらしいが空手使いに炸裂する。
「ああ間違い無く舞の言うとおり、彼はジュニアだ。」
「ええ……まさかあの子があんなに大きくなっていたなんて思いもしなかったけれどね。」
外人兄ちゃんは舞姉ちゃんの言った通りの人物だったらしく、二人は何処か懐かしげにリングの上で繰り広げられている二人の闘いを観戦している。
元祖、龍虎の拳では「重ね当て」以外の技が無かった藤堂龍白でしたが、その娘香澄がKOFにて当て身技が追加されていたので、ならばその技の出処は何処かと勝手に思案して時代的にギースの師匠に行き着きました。