バディファイトif〜臥炎キョウヤに弟がいたら〜   作:楠木東弥

23 / 31
Q.(前回の更新から経った時間)なんぼなん?
A.はい、こちら約2ヶ月となっております。
二ヶ月!?あのさぁ……。

はい、というわけでまたも二ヶ月ほど失踪してました。
読者兄貴も半分、いや9割ほど忘れていたと思いますが、俺も半端忘れようとしてたからモーマンタイ(謎理論)
ところで、スイッチで今までのカードが全て収録されているゲームが発売されるという情報が未だ耳に入って来てないんですが、どうなってるんですかブシロードさん?


第23話 兄弟の会話

ヴィーと視界を共有できるデバイスを通じて、タスクとジェネシスのファイトが始まった事を知る。

いざという時はすぐさま相棒学園に転移させるよう言っておいたので、特に問題はないだろう。

むしろ、問題はこちらの方にある。

 

「特に調整してないイーターのデッキ……はっ、笑えないな……」

 

ドラゴンズ・ヴァーズィンはABCカップ運営に預けてしまっている。

これは僕だけ特別というわけではなく、本戦出場者全員が出さなければならない。

違反しているかどうか確かめ、試合開始までイカサマを仕込ませないためにすることなので仕方がないこと。そう、納得してしまっていた。

しかし、あぁ、平和ボケしすぎたか。

 

異世界ならいざ知らず、日本なら平和だと。

こんなあっさりと危機が訪れたのに、いつから平和だと錯覚していた。

反省しよう。次からは失敗しない。

 

「次があると良いけど、なっ」

 

重く重厚な扉を開け、また新たな闘技場へと足を踏み入れる。

モンスターは……サイズ3が三体。

それぞれ《破壊竜王 ガタストル》、《グランドドラゴン ゼルザール》、《暴竜 ザガラリス》。

いずれも力自慢のモンスターで、魔術反転などの特殊能力を有していない。

 

「《百鬼魔導 ゴゥアウェイ!》」

 

瞬間、凄まじい衝撃音と共に三体のモンスターが地に平伏した。

その隙に、いつの間にか巨大化していた《イーター》がまとめて喰らう。

……我ながら、極悪なものだな。

モンスターとはいえ、人間を超える存在の命をこんなアッサリと奪うというのは価値観が狂いそうだ。

 

「へぇ、随分と良いものを手に入れたようだね、悠斗」

「っ!?」

 

瞬間、体が勝手に反応する。

いつでも魔法を行使出来るよう構え、さらに[百鬼]のモンスターを何体かと、《幻魔忍者 果心居士(かしんこじ)》をコールしておく。

《アジ・ダハーカ》がくれば全て消し飛ぶためさして意味はないだろうが……ただの気休めだ。

そして、それらは僕の予想を超える方法で突破される。

 

「ぐっ!?《百鬼魔導 闇違え》!」

 

――空間が、割れた。

《闇違え》も《イーター》を始めとする[百鬼]のモンスターも、真っ二つに両断される。

もちろんそれを成したものは見る事が出来ないが、《闇違え》と[百鬼]達の断面によって()()()

 

線だ。

目に見えない透明な直線が、空間を引き裂いてこちらに向かってきている。

それはとんでもなく早く、見てから対応できるものではない。

そして、

 

「っあ……!?」

 

右手首が、いとも容易く切断された。

神経が途切れ、これから一切動くことのない手首が重力に従って地面に落ちる。

骨が見える。血が見える。肉が見える。

それは紛れもなく、僕の右手だ。

 

瞬間、断面から血が溢れた。

際限なく漏れ出るそれはあっという間に地面を赤色に濡らし、それでも尚止まる様子はない。

あぁ、そういえば聞いた事がある。

 

交通事故で体の一部が切断されて、止血などの応急処置をせずとも生き残る事例があるらしい。

それは、断面がズタズタになっていたからだ。

そのおかげで動脈などの太い血管が塞がれ、結果的に失血死しなかった。

 

けれど、今の僕はどうか。

空間を割る。

まさしくそうとしか形容できない攻撃をされた手首の断面は、血で隠されていても綺麗だと断言できる。

つまり僕はこのままだと、遠からず失血死で死ぬ。

 

「何もしなければな……!《餓狼、深気功》……!」

 

ロウガも使っていたデンジャーワールドの魔法カードを使用する。

ディザスターフォースで具現化したその力は、回復。

瞬間、僕の体と切り落とされた右手に変化が起こる。

 

血だ。

前述した二つが、血管のように繋がった。

骨も肉も途切れているというのに、何十何百もの血管がいつも通りといわんばかりに繋がっている。

そして、右手がひとりでに浮き出した。

見慣れたその光景に驚くことはなく、右手が僕に向かって高速で飛んでくる。

 

すると、くっついた。

骨も、肉も、神経もなにもかも。

失われた血を除き、僕の体は数分前と同じ状態にまで戻った。

本当なら増血もしたいが、ピンポイントでそれを為せるカードはないので我慢する。

今はそれより、

 

「《戦神機 サーチホエール》。この辺りの人間の反応を探れ」

 

全長2メートルほどの、鯨型の探索機。

それは雄弁に、周囲に存在する僕以外の人間の存在を感じとる。

 

「そこだ!《イーター》!」

 

そして、丁度観客席の陰にいた人物に《イーター》が攻撃を叩き込む。

普通の人なら致命傷どころか即死なはずで、

 

「キャスト、《黒竜の盾》」

 

それはつまり、僕の兄にとっては痛くも痒くもないということだ。

アッサリと《イーター》の攻撃をいなし、コツコツとわざとらしく音を立てながら観客席を下って来るのは、紛れもなく僕の兄、臥炎キョウヤ。

 

「……随分と、悪趣味な剣だ」

「ふふ、格好いいだろう?《終焉魔剣 アクワルタ・グワルナフ》と言ってね。《アジ・ダハーカ》が生み出したものさ」

「へぇ、鬼に金棒って言うのかな?今の兄さんに敵う存在なんていないんじゃないか」

 

《アジ・ダハーカ》、そして《グワルナフ》。

それは、ゾロアスター教と呼ばれる宗教に出てくる悪の化身と、光輪である。

アヴェスターという聖典によると、アジ・ダハーカは火の神アータルと光輪、クワルナフを奪い合ったという。

色々端折ると、結局アジ・ダハーカは退くのだが、この世界ではアータルなんぞいないのでアジ・ダハーカはこの通り健在である。

 

「いや、そうとも言えない。最近、三つ目の活動が活発になり始めてるからね……っと、これは悠人には関係ないか」

「気になるような情報の寸止めはやめろって昔言わなかったっけ?ほんとに変わってないな、兄さん」

 

あぁ、なぜだろう。

目の前にいる人間は、世界を滅ぼそうとしている奴だ。容赦なく人を殺す人間だ。僕を、実の弟の手を一切の躊躇なく切り落とすような人間だ。

そんな兄さんを相手に、僕はどこか懐かしさと嬉しさを覚えている。

 

「フフ、じゃあ本題に入ろう。龍炎寺タスクを闘技場に招いたのは、彼の力を更に引き出すためさ」

「……いつから、目を付けてた?」

「彼が、日本で初めての少年バディポリスになった時からだね。世界で一枚しか存在しないカードを使っていた時点で、彼が選ばれた人間というのは分かっていた」

 

世界に一枚しかないカード。

身近なもので言うと《ガルガンチュア・パニッシャー》、《アジ・ダハーカ》、《外道竜鬼 イーター》、あぁ、あと《グワルナフ》か。

僕と交流のある人物が異常なだけで、世界で一枚しか存在しないカードの希少性は計り知れない。

 

そしてそれを持つ人間は、選ばれた存在。

龍炎寺タスク、そして兄さんを見る限り、それは間違いない。

 

「彼はハッキリ言って異常だ。異常なほどに、選ばれている」

「神様にか?」

「神?ククッ、ハハハッ!まだ知らないのかい?悠斗。彼を選んだのは、神様なんかではないよ」

 

神様なんかではない?

あぁ、まただ。同じ土俵に立っていないから、言っていることが理解できない。

圧倒的な、必要情報の欠落。

 

「誰がタスクを選んだのかは、今はどうでもいい。ソフィアはどこだ」

「心配しなくても、彼女は健気に戦っているよ……ロウガとね」

「……ロウガと?」

「あぁ、これが証拠さ」

 

兄さんが指を鳴らすと、ソフィアとロウガが戦っている映像が大画面で映し出される。

ロウガのライフは8、ソフィアが2と、圧倒的に不利だが。

 

「座標は?」

「Dの14。行くのかい?」

「もちろん」

 

それさえ知れれば十分だ。

デバイスを通じてヴィーに連絡を取り、すぐ側に黒いワームホールを作ってもらう。

それに片足を突っ込んだ瞬間、

 

「なんっ!?」

 

尋常でないほどの衝撃が、全身を貫いた。

地震とは違う……これはそう、火山噴火のような。

震源の方向に視線を向けると、ここからでも分かるほどの巨大な刃が幾つもの闘技場を切り裂いていた。

まるで、《ガルガンチュア・パニッシャー!!》のように。

 

「……《ドラゴニック・パニッシャー》……?」

 

タスクが叫んでいた技の名を、おうむ返しのように呟く。

 

「フ、フフッ、フクク、まさか、まさかだ。まさかもう、新たなパニッシャーを手に入れていたというのか?この短期間に?」

 

兄さんが、笑っていた。

歪な顔で、ただ唇を吊り上げただけのような、そんな嗤い。

それに気を取られている間にも、《ドラゴニック・パニッシャー》の影響で闘技場はどんどん崩れていっている。

一刻も早く、闘技場を出なければ。

 

未だ口角を上げている兄さんを横目に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今度こそワームホールに入る。

一瞬にして景色が移り変わり、ロウガとソフィアが視界に入った。

 

「っ、悠斗様……!?」

「だ、誰!?ソフィア知ってるの!?」

 

ソフィアと……バディエリアにいる青い魔術師の手を引き、

 

「おい待て悠斗!俺とファイトしろ!」

「ンなことしてる暇ない!お前も早く逃げろ!ヴィー、もう一回ホールだ!」

『了解した』

 

ロウガの発言を半端無視し、目の前に現れたワームホールに躊躇なく入る。

今度は……気絶して地面に倒れているタスクに、そのバディであるジャックナイフ。

ジェネシスの姿はないので、おそらく逃げたのだろう。あいつがそう簡単に死ぬとは思えない。

 

「ジャックナイフ!この穴は相棒学園に繋がっている、早く入れ!」

「お、応!」

 

またも景色が移り変わり、酔ったような気分になってしまう。

だが、上から燦々と照りつける太陽を肌で感じ、確信する。

 

「無事、相棒学園に戻ってきた……ほんとに無事かは、わからないけど」

 

ともかく、ソフィアに危害が無くて良かったと言ったところか。

それに、完全に兄さんと《アジ・ダハーカ》の手の平で踊らされていたわけではない。

なにせ……僕と兄さんたちの土俵を同じに出来る可能性のある情報を得たのだから。

 

「ははっ……ざまぁみろ」

 

瞬間、貧血により僕は気を失った。

 

◆◇◆◇

 

時は、ほんの僅か遡る。

燃え盛り、崩れゆく数々の闘技場の中、臥煙キョウヤは思考にふけっていた。

 

「……今日は、とても素晴らしい日だった」

 

新たにタスクに与えられたパニッシャー、《ドラゴニック・パニッシャー》。

さらに《ジャックナイフ・グローリア》、《ジャックナイフ・グランテーゼ》。

それに加え、弟である悠斗も《イーター》を始め、着々と力をつけて来ている。

 

「これで、また一歩近づいたよ。そうは思わないかい?アジ・ダハーカ」

『だが、奴らはお前の前に姿を現していない。まだ足りんのだ。それに』

「それに、なんだい?」

『お前は、臥煙悠斗に一杯食わせられたぞ』

 

瞬間、キョウヤの顔から笑みが消える。

そんな馬鹿なと、バディの言葉を疑ったため。

悠斗は自らの手の平の上で踊り、そして導かれる存在であり、決して一杯食わせられるような存在ではないという思いが故の、純粋な疑問。

だが、確かに心当たりはある。

 

「……あぁ、あれか」

 

《幻魔忍者 果心居士》。

それはキョウヤが悠斗の前に姿を現す前からコールされており、つまりキョウヤに対し能力を発動していたということだ。

そして《果心居士》の能力は、

 

「対象者の思考を読む……フフッ、まんまとやられたね。甘く見てたよ」

 

つまり、悠斗は《果心居士》を通じて一気に情報を得ることが出来るという事だ。

これを一杯食わせられたと言わず、なんと言おう。

 

「流石僕の弟だ。うん、嬉しいよ」

 

誰に対してでもなくそう呟くキョウヤの瞳にハイライトはなく、ただドス黒い朱が仄かに煌めいていた。




前回ソフィアのファイトを書くと言いましたが、なんとボツです。
キヌース・アクシアの出番はまたいつか、お楽しみに(出るとは言ってない)

あ、イナズマイレブンの投稿もあくしろよ、と思ってる読者兄貴も多いと思いますが、違うのです。こんな遅れているのは訳があるのです。
最近序盤の展開読み直してみて、「ファッ!?なんだこれ!?」と思ったのでまとめて直そうと思いまして、今書き直してるんですね(なおクオリティに自信はない)

そんなわけで、投稿できるのはまた後になりそうですねクォレハ……。
まるで英雄たちのグレートロードみたいだぁ(直喩)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。