バディファイトif〜臥炎キョウヤに弟がいたら〜 作:楠木東弥
バディポリス日本支部。
世界最高峰の技術力を有したその施設の一角に、エクスペリメンタル・ステージというものがある。
直訳で試験的な舞台と読むその場所は、バディポリス職員のみが使用可能なファイティングステージだ。
日夜凶悪なファイター、クリミナルファイターを取り締まる職員たちには、当然ファイトの腕も求められる。
いくらバディポリス結界でクリミナルファイターを捕らえたとしても、ファイトで負けては意味がない。
故に創設者が多大な資金と時間を要して作ったこの施設は……連日使用者0がデフォルトとなっている。
理由は単純、時間の無駄で、さして必要がないからだ。
デッキのチューニングがしたいなら適当な休憩場所でやれば良いし、ファイトしたいなら机の上にカードを展開すれば良い。
エクスペリメンタル・ステージでカードを実体化させて攻防を繰り返すのは、完全に時間の無駄なのだ。
が、この日は違った。
一組の男女の声が、だだっ広いステージに木霊している。
「【竜剣 ドラゴブレイバー】を装備、さらにゲージ1を払い、【ジャックナイフ・ドラゴン】を【ジャックナイフ”アグレッサー”】に進化!」
「オォォォ!」
紅い宝石のような鎧に身を包んだジャックが、2枚のソウルを伴ってレフトエリアに登場する。
その隣、センターエリアに降り立つのは当然、ジャックのバディである龍炎寺タスク。
「行くよ、アタックフェイズ」
「対抗であります!ゲージ1を払い、【クィンク=ラーダ・高機動フレーム】をコールであります!」
対し、彼らの前に立ちはだかるのは一隻の戦艦。
宙に浮いた白と黄緑を基調とした機体に、二本の巨大な電動レールが装着されている。
ローレンツ力を利用し、強烈な電流を一気に流して膨大な磁界を発生させて物体を加速射出させる装置。
より簡単に言うなら、超巨大なレールガンだ。
「僕が【クィンク=ラーダ】を破壊する! ジャック、トドメは頼む!」
「オウ、任せろ!」
タスクの握る【竜剣 ドラゴブレイバー】がセンターをこじ開け、ジャックのブレイド・ターミネイトが対戦者、帝都クウのライフ3を削り切ろうとした。
だが戦艦は切り裂かれることなく、完全にブレードを受け止めている。
「キャスト、【本気で来いよ!】であります。その攻撃を無効化し、自分のライフを+1でありますよ」
これでアタックフェイズは終了。
もう攻撃できるモンスターはおらず、タスクにガルガンチュア・パニッシャーがない事をクウは知っていた。
故に初勝利を夢想するのも仕方ない事だろう。
タスク相手にそれをするのは、甘いと言わざるを得ないが。
「ファイナルフェイズ! キャスト!」
「うぇぇ!? そっ、そんなバカなであります! ガルガンチュア・パニッシャーはもうないでありますよ!?」
「僕たちは日々進歩する。これが新たなパニッシャーだ、【ドラゴニック・パニッシャー】!」
「うわぁぁ〜んっ!!」
直後、クウのフラッグが霧散し機械音声がタスクの勝利を告げた。
結界は解かれ、アイテムも、モンスターも、そしてパニッシャーも消える。
残ったのはバディモンスターであるジャックと戦艦……【暦級五番艦 サツキ】だけだ。
「ありがとう、良いファイトだったよ」
「こちらこそであります。タスク先輩とファイトが出来たなんて光栄であります」
帝都クウ。
蒼い瞳に水色の髪を二つの珠で結び、海軍服風のコスチュームに身を包んだバディポリス見習い。
そして小4。つまり10歳だ。
そんな少女が仮にもバディポリスとなっている理由は、バディのサツキにある。
シンプルな兵器だけで見ても破格の制圧力と破壊力、ワームホールの起点となる重力場を個で発生させられる科学力、未だ空想論の域を出ない“感情を持つ機械”の存在、つまりサツキが存在している事そのもの。
モンスターとして見ても、機械として見ても、常軌を逸したモノ。
それがサツキなのだ。
「でも、珍しいでありますね。タスク先輩が誰かとファイトするなんて」
「そうかな? この前牙王君とファイトしたし、そんなに変でもないよ」
嘘だ。
今までのタスクは彼しか所持していないオリジナルカードを多数抱えていたため、情報が漏れるのを恐れて公式ファイトをしてこなかった。
だが臥煙キョウヤという明確な敵が現れた今、そんな事を言ってられる様な状況ではない。
(彼に対抗しうるのは弟の臥煙悠斗だけ……それはマズい。僕ももっと貪欲に、誰も追いつけないようなスピードで強くなってみせる)
とはいえ、強いカードを乱雑に纏めるだけでは手札事故は必須。
故にこうして帝都クウにファイト相手を申し込んだ、というわけである。
「ふむ、二人だけとはまた珍しい組み合わせだな」
その時、自動ドアが音を立てて開きドーン伯爵が現れた。
その手には杖ではなく、薄い資料が握られている。
タスクとクウは彼の方を向き、表情を真剣なものに切り替える。
伯爵が現れる時即ち、特別な依頼がある時だ。
日本で唯一フューチャーフォースを使える存在、タスクにしか解決できない事件というものは多い。
「今日はどの様な要件ですか? ドーン伯爵」
「あぁいや、今回用があるのは君ではない。クウ、君だ」
「え、自分でありますか?」
「そうだ」
二人がなぜ、という疑問を発するより早く、伯爵がその口角を上げ、
「遥か未来の世界に興味はないかね?」
そう語り始めた。
◆◇◆◇
新たなデッキが完成した。
みんながいたからこそ出来た大胆なコンセプト変更を経て、それは今、僕のダークコアデッキケースに収められている。
【イーター】を始め、手に入れたモンスターがほぼ無駄になってしまったのは悲しいの一言では表せられないほど複雑だが、彼の言葉を借りるなら、
「これも僕の運命か」
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもない」
目の前に立つ一体のモンスター【スターウィザード キヌース・アクシア】にそう答える。
彼は闘技場でソフィアと出会ったらしく、それ以来同行を許しているらしい。
理由はわからない、気まぐれか、はたまた別の理由があるのか。
「ふーん。で、今まであえて聞かないでおいたけど、今から何するつもり?」
「未来を読んで当ててみると良い。あぁ、ちなみにこの未来を変更する予定はないから安心して良いぞ」
「……なんでキヌース一族の秘術を知ってるのかは置いておいて、正気なの? スタードラゴンワールドに跳ぶなんて」
人間とドラゴンワールドが融合し、技術大国となった世界、それがスタードラゴンワールド。
僕は今から、その世界に行こうとしている。
「理由は二つ。まず、新たな《
《ドラグアームズ》はスタードラゴンワールドにのみ存在する機械生命体。
そんなモンスターがこの世界に存在するのは、バディポリスとタコ助、そしてヴィーが持つ時空超越技術で未来に跳び、その世界のモンスターを連れてきているためだ。
つまり、新たな《ドラグアームズ》を手に入れるには未来に行くしかない。
ヴィーもスタードラゴンワールドの産物、強化する術はなくはないだろうという読みだ。
「で、ソフィアは? 私、彼女がいないと戦えないのだけど」
「ソフィアには地球に留まってもらっている。イーターの解析と、監視だ。だから君も戻って良いぞ」
「えー、私の予知、いらない?」
「いらない。というか使えないだろう」
1000年後に跳ぶんだぞ、魔力がいくらあっても足りん。
「ま、付いて行くけどね」
「……まぁ、問題はない、か」
話が一区切りついた直後、上の方から異音が響いた。
ここ、バディポリス本部の屋上よりも、遥か上空から。
見れば、青空や雲を抉り取るように巨大な虚が空いている。
それはおよそ自然界に存在しない怪音を撒き散らしながらみるみるうちに大きくなっていき、見事なワームホールが出来上がった。
そこから現れるのは、一隻の戦艦。
宙に浮くサイズ5、人工AIが搭載された初のモンスターにして人智を超越した存在、【暦級五番艦 サツキ】であった。
「な……な……何なのよ、あれぇ……」
「超時空破壊兵器、まぁ簡単に言うと、世界の切り札だな」
サツキが完全に姿を現すと、ワームホールは収縮していつもの空に戻る。
僕とアクシアがバディポリス屋上に立っていたのは、このためだ。
サツキ本体、そしてソレがワームホールを通過出来るスペースの確保は難しい。が、空なら問題ない。
それに無理して地下や家にワームホールを作れば、空間修復の影響で大惨事は必至だからな。
「お前がっ! 臥煙悠斗でありますか!!」
そして、サツキの双砲、その上に立つ人物が一人。
白い服の裾と蒼い髪が靡き、水色の瞳の少女が静かにこちらを見下げている。
「あぁ! その通りだが、降りてきてくれないか!」
空に向けてそう叫ぶと、彼女は双砲から飛び降りた。
アクシアが短い悲鳴と共に目を剥くが……心配はいらないだろう。
彼女らほどの信頼関係なら、バディスキルは持っていて当然なのだから。
その予想は的中し、
「ふぅ……改めて、初めましてなのであります」
「あぁ、初めまして。帝都クウと、暦級五番艦 サツキ」
僕と同じタイプのバディスキルで降りてきた彼女は、僕の予想以上に予想以下だった。身長が。
いや、小6の平均身長なんぞ覚えてないが、確実に未門牙王らよりも低い。
ちゃんと食べているのだろうか……と、心なし、彼女の視線が懐疑的なものになっている事に気付く。
いくつか心当たりはある……が、こちらから触れる必要もない。
「タスク先輩から聞いたであります。お前、臥煙キョウヤの弟でありますね」
「あぁ、そうだな。それが?」
コアデッキケースの生産を確固たるものにした、まさしく時の人。
それが兄だ。今時、知らぬ人な方が珍しいだろう。
「タスク先輩はキョウヤが嫌いであります。なら、私も嫌いであります。そして、弟であるお前も嫌いであります」
「そうか、心底どうでも良い」
タスクがキョウヤを敵対視した事は嬉しいが、帝都に嫌われようが問題はない。いざという時【サツキ】の力を借りられないかもしれないので、不安要素ではあるが。
「じゃ行こうか。僕も君も、暇じゃないだろ?」
「チッ、なんかお前、嫌な奴でありますな」
「初対面で嫌いと言い切った君に言われたくないなぁ」
そんな口論を交わしつつ、僕らは【サツキ】に乗り込んだ。
ちなみに最後の「言われたくないなぁ」は尻すぼみになるのではなく、語気が強まってます。
!を付けることも考えたのですが、それだと強過ぎてしまう。
こういう細かい所を適切に表現出来ないのはもどかしい。
ちなみに帝都クウですが、結構好きなキャラです。
富士宮風音と同じぐらい。
風音3期から一切出番なかったの許さねぇからなぁ?