『いよいよこの時がやって来ました。』
『長く苦しい戦いだった。』
『さぁ、ようやく!ようやくコアが貰えるよ!』
臨海学校から時は過ぎ、8月。IS学園は遅めの夏休みへと突入した。
全寮制であるIS学園ではこの長期休みを利用して地元に返る生徒が半分はいる。代表候補生なんかは特に自分の国に戻っている人ばかりだ。
そんな中、日本代表候補生になった天羽飛鳥は葉加瀬なのはを伴って、地元北海道ではなく東京都防衛省にやって来ていた。
理由は言わずもがな、飛鳥の専用機に積むISコアを受け取るためである。
「あっつ~い……。」
待ちに待った専用機のコア。はしゃぎたい所であったが、夏の東京を歩くのは北海道民にそれをするだけの熱耐性がなかった。東京都民には「今日ちょっと熱いねー」でも北海道民には「しぬぅ……」なのである。逆に寒さには耐性があるのだが、それが活かされることは東京にいる限りないだろう。
「なのはぁ、コールド・ブラッドは~……?」
「それよりも気象を丸ごと操れる方が便利かなって思って別の作ってたら忘れた~……。」
「この暑い中、雪でも降らしてくれるの……?」
「できるよー、完成したら……。」
「すご~い……。」
脳みそが溶けているのではないかと言うほど中身のない会話をしながら、ゲートであらかじめ発行されていた通行証を見せ、2人は防衛省へと入って行った。
『ほら!コア出せコア!』
『このゲームの面白味はバトルだけなんだ!そのためのコアを出せ!』
『CGが1枚も無い、名前だけのギャルゲーが!*1バトルさせろぉ!』
防衛省から黒塗りの高級車に乗って出て来た飛鳥となのは。防衛省内で何が有ったかは分からないが、来た時と違い車に乗っているため、問題もなくコアが貰えたのだろう。
「技術者がうるさかったけど、無事になのはに一任されてよかった~。」
「ボクより腕が上なら任せても良いけど、ボクに速さでも質でも負ける様な奴等に飛鳥は任せられないからね。」
「なのはの10倍ぐらい遅かったし、7倍ぐらい雑だったよね。」
「あれが日本でトップクラスの技術者って言うんだから笑っちゃうよね。」
いったい何をやったのか。まさか「小娘1人にIS作りを任せられるか!」と言った日本の技術者たちを相手に「戦おっか」の宣言をして、整備その他のスピードと質を競った訳ではないだろう。相手はチーム丸々1つでやったのに対して、こちらはなのはただ1人で1から10までやったのだから、10倍以上のスピードで7倍以上の質で仕上げたなど出来るはずがないだろう。もしそれが起こったなら、日本の技術者は成人もしていない少女にぼろ負けするという汚名が
「さ、帰ったらすぐコア積んじゃお?装甲にコアを馴染ませるのは時間かかるんだから。」
「
笑い合う2人。だから気付くのが遅れた――とかはなく、2人は自分たちに向けられた悪意に反応した。
「ドライバーさん、ちょっとごめんね?」
「はい?」
飛鳥は運転手に一言断ってからそのシートベルトを外し、素早く背もたれを倒した。
「うわっ!?」
直後、
――――ッダァァァァン!!!
「っ!?」
「へぇ、街中で消音器も使わずにヘッドショット狙うんだ。」
「防弾ガラスをものともしないか。音からして大体800メートル先のビルからかな?」
運転手が座席の背もたれと共に後ろに倒れたことで一瞬コントロールを失った車を、素早く運転手を退かして運転席に潜り込んだ飛鳥はすぐさま立て直し、背もたれを戻して座席を前に出し、片手でシートベルトを伸ばして装着し、アクセルを吹かしながら飛鳥は下手人のやり口に息を吐く。
転がって来た運転手を後ろの座席で受け止めたなのははすぐさま下手人の位置を割り出した。
「なのは、ドライバーさんお願いね。」
「はいさー。」
「え?え?」
困惑する運転手には目もくれず、飛鳥はハンドルを切った。
――――ッダァァァァン!!!
直後に音が木霊し、右のサイドミラーが根本から弾け飛ぶ。
「どこの人かは知らないけど、大した腕じゃないなぁ。これセシリアの方が射撃巧いよ。」
「比べちゃダメだよ、雲泥の差なんだから。」
「まぁね~。セシリアは
ブレーキペダルを踏みながらクラッチを切り、ギアチェンジを駆使して即座に減速。マニュアル車特有のテクニックを無免許で行い、
――――ッダァァァァン!!!
そのままの速度であればエンジンに直撃していた場所を弾丸が抉る。
「しつこいなぁ。」
「コア狙ってるみたいだからね、引くに引けないんだよ。」
諦めない相手に飛鳥が毒を吐く。
「なのは~。」
「えー?ここでー?」
『おっとこれは。』
『なのは頑張れー。』
『頑張る~。』
「(このっ!ちょこまかと!)」
最初の1発で、間違いなく運転手の頭を撃ち抜けるはずだった。タイヤを狙うこともできたが、十中八九パンク対策が為されていると考えてのヘッドショット。フロントガラスが防弾性であろうと、IS用の装備ならば容易く貫ける。だからこそ狙ったそれは、突如として運転手が後ろに倒れたことによって外れた。
すぐさま次弾を装填し再度撃ったが、クイッと蛇行した車のサイドミラーを破壊するだけに留まった。
3発目は流れるような急減速で完全に躱された。
通信から車で尾行している仲間の罵声が聞こえる。蔑まれる。
「(いや!そんなのいや!)」
4発目を弾倉に送り、未だに走り続ける車に狙いをつける。
「(もう外さない!外せない!絶対当てる!殺す!)」
――――もう1人になるのはいや!
緑の粒子が、視界を埋め尽くした――――
「悪人にもいろんな種類が居るなぁ。」
助手席で眠る下手人の女性を横目に見ながら、飛鳥は後ろから追ってくる1台の車両をバックミラーで確認する。
「なのは、どう?無理に動かしてゴメンね。」
「んー、コアの
「そっか、
「今から再設定するけど、運転しながら話せる?」
「マリカーしながら喋れるんだし、行けると思う。」
「なら、始めようか。」と、コンソールを空中に出したなのははそれを叩き出す。
「全情報
コアの成長を消し、
「――コア人格との対話終了、コア適正値の上昇確認。」
新たに生まれた人格との対話を終え、相互理解しコアの機体への適正を上昇させ、
「各稼働データ入力、ハイパーセンサー基準値再設定。」
今までの飛鳥のデータを入力し、それに合うように設定し、
「エネルギー充填、シールドバリアー形状変更。」
機体各部とのエネルギーパスを構築し、機体形状に合わせてシールドバリアーの形を整え、
「PIC制御をオートマチックからマニュアルへ移行、
慣性中和装置の操作を完全に飛鳥の手に委ね、
「──
その機体は完成した。
『それは対話の為の力。それは戦争を終わらせる力。』
『世界でたった1つの
『さぁ、初陣にしては面白味がないけど――――』
高速で走っていた車が突如として止まる。
そこに1台の車が近付き停車。運転席と助手席から2人の女性が降り、その手に凶器を持ちながらにじり寄って来る。
「貴方たちに恨みとかないけど、悪意を持ってこの子を狙うなら容赦しないよ。」
飛鳥は左足首に着けられた緑のアンクレットの名を呼ぶ。
「ダブルオークアンタ。」
――それを一言で説明するなら、片翼の天使だろうか。
青と白を基調とした装甲。左肩に大きな盾を装備し、しかし右側には何もない左右非対称。左腰にクリアグリーンの刀身をした剣を携え、武装全てが左に集中したアンバランスさ。しかし、そこに不自然であるという想いは抱かない。
「日本代表候補生、天羽飛鳥。」
左腰の剣を抜き放ち、
「目標を、」
飛鳥は一瞬で間合いを詰め、
「鎮圧する。」
左手で2人の腹を連続で殴った。
『いやそこは剣使おうよ!?抜いた意味!』
『よく考えたらIS装備してない相手に剣とか使えないじゃん?』