食べ損ねていた昼食を急いで食べ、午後の授業も予定通りに行った後の放課後。IS学園にある整備室の1つに駆け込んだ布仏本音は展開した【九尾ノ魂】の装甲を専用の工具で開き、そこにいくつものコードを繋いで整備室に備え付けられているコンソールと向き合った。
「…………。」
「本音……。」
無言のまま普段見せない真剣な眼差しで画面を流れる機体のデータを見つめる本音を見て、整備室の入り口からこっそり様子を伺っていた更識簪が小さく呟いた。
昼の戦闘で本音のISの出力が上がらなかったことについて、簪は機体の調整不足が原因だと考えている。何せ九尾ノ魂は出来上がったばかりの機体で、イメージ・インターフェースの試験運転も満足に出来ていない状態だった。実際に動かそうとしたことで初めて文字と数値を見るだけでは分からなかった不具合が露呈した──そういう『よくあること』だと。
本音が気にする気持ちも分かるが、だからといって思い詰めることではない。専用機開発では多かれ少なかれ必ず起こることだ。こういう経験をフィードバックして完成に近付けていくのだから、1度の不具合程度でへこたれてはいられない。
ここは親友として手伝おう。そう思いながらも、普段見られない貴重なキリッとした本音の表情に簪の女の子な部分が刺激され、もうちょっと見ていたいと整備室に踏み入るのを躊躇させていた。
「本音……がんばれ。」
そう小さく応援しながら、簪は1人整備室の外から本音のことを見守り続けたのだった。
「本音ちゃん、今頃思い詰めてるだろうなぁ。」
同時刻。IS学園にある葉加瀬なのはの工房にやって来た天羽飛鳥が膝になのはを抱えながら別の女の事を考えていた。
そのことに僅かに眉間に皺を寄せながら、なのはは飛鳥の膝の上で量子型演算処理システムの構築をしながら問いかけた。
「何かあったの?」
「ああ。本音ちゃん、昼の戦いでISの出力を上げられなかったんだよね。」
「大方、自分のせいで誰かが怪我したらどうしようとか考えてて駄目だったんでしょ。」
「よく分かったねなのは。」
飛鳥から話を聞いたなのはは瞬時に本音のISの出力が上がらなかった原因を口にし、それを飛鳥は肯定した。
「確かに調整不足っぽい感じもしたけど、それよりも本音ちゃん自身邪魔にならないかとか、庇われて代わりに怪我しないかとか、そういうことばっかり考えてたせいで動いてなかったなぁ。」
心配という雑念。それが本音がISの出力を上げられなかった原因である。
ISは単に動き回るだけなら勝手に肉体が発する微弱な電気信号を読み取って動いてくれるため、割とどうとでもなる。だがイメージ・インターフェースや飛行、武器の展開と収納などに関しては操縦者の思考、もっと言えば意思が密接に関わってくる。
特にイメージ・インターフェースはそれが顕著で、使う人間の意識の差というものが如実に表れる。機能上限に近い出力を出すには練度はもちろんのこと、操縦者の意思に迷いなどの雑念がないことが望ましい。
本音が出来なかったのはここだ。本音は自分のせいで誰かが傷付くのではないかと心配するあまり、それが雑念としてイメージ・インターフェースの使用の妨げとなったのである。
「言うの?」
「言わない。」
そのことを本音に言うのかとなのはが飛鳥に聞くと、飛鳥はそう答えた。
「本音ちゃん自身自覚はしてるみたいだったし、私から言うまでもないよ。」
「まぁ今更戦闘の素人が1人増えた程度で怪我するような専用機持ちじゃないしねぇ。杞憂でしかないってすぐ分かるでしょ。」
現在
とはいえ、本音は自分の未熟で誰かが傷付く可能性を許せるような娘ではない。九尾ノ魂を調整次第、模擬戦でデータを集積し、それをフィードバックして機体を育てるだろう。
「そのぐらいは手伝ってあげようかなぁ。」
案の定、
「かんちゃん、いっくよ~!」
「うん。来て、本音……!」
よく模擬戦の相手になっているのはやはり幼馴染の簪。それに次いで多いのが力になりたいと協力を申し出た織斑一夏だ。もちろん一夏は零落白夜を、簪はなのはから貰っている殺意マシマシのGNミサイルの使用を禁止しての模擬戦である。
「貫けビット~!」
本音の掛け声と共に背部バックパックの狐の尾を模した突起が射出され、有線式のランスビット9基となって簪に向かう。
この武装は銃を撃てばほぼほぼ外す本音のために整備科によって作られた物で、ラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンが装備するワイヤーブレードを参考に製作されている。そこそこの速度とビット特有の操作性でもって対象に肉薄し、狐色の刃での攻撃や有線なのを活かした拘束など熟練度が上がるごとに厄介さが増していく武装となっている。
9つの伸びた尻尾の如きビットを躱すなり【夢現】で切り払うなりして対処した簪は、荷電粒子砲【春雷】で本音を狙って撃った。
「お返し……!」
「うわっととと~。えへへ~、危なかった~。」
それを危なげながらも躱して見せた本音は、再びビットを簪に向かって射出した。
「お疲れさま、本音……。」
「うんうん~。お疲れさま~、かんちゃん~。」
ふへ~、と息を吐きながらアリーナの地面に降り立った本音がへたり込む。
「最後のビットの使い方、すごくよかったよ……。まさか自分でビットどうしをぶつけて軌道を変えるなんて思いもしなかった……。」
「えへへ~、頑張って考えたんだ~。褒めて褒めて~。」
「うん。本音すごい……。」
今回の模擬戦の結果は引き分け。シールドエネルギー残量では簪の方が上だが、正式な代表候補生である簪に、最大火力を禁止されているからとはいえ工夫でもってダメージを与えて見せたのは目を見張る活躍だった。
「機体も順調だね……。」
「でしょでしょ~?これならみんなの足を引っ張らなくて済むかな~。」
「大丈夫、私が保証する……。」
流石に代表候補生クラスとまでは行かないが、本音の実力はかなり上がった。機体の習熟や調整、本音自身の訓練などが実を結んだ結果である。
「ねえねえ~、かんちゃん~。」
「どうしたの、本音?」
「これなら~、私のせいでみんなが怪我をしたりしないで済むかな~?」
「――――。」
地面にへたり込み、いつもの笑顔を僅かに陰らせながら本音が簪に聞いた。
「私ね~、心配なんだ~。私のせいでおりむーとかかんちゃんが怪我しないか~って。」
「本音……。」
「ねえ、かんちゃん~。こんな私でも~、かんちゃんの側に居ても良い~?」
不安そうにそう尋ねてくる本音に、簪は自分も膝を折って背の高さを合わせると真正面から抱き締めた。
「わっ、かんちゃん?」
「大丈夫。」
「……かんちゃん?」
ぎゅっ、と力を込めながら、簪は本音に告げた。
「大丈夫。だって、私たちは1人じゃないから。お姉ちゃんも、一夏も、それに本音も居る。だから、大丈夫。」
「かんちゃん……。えへへ~。」
本音も簪に抱き着きしばらくそのまま抱き合っていたが、やがてここがアリーナであることを思い出し互いに顔を赤くして離れたのだった。
それから日を跨いだある日、再び
「みんな~、見てて~。私頑張るから~。」
戦うために隕石の落下地点に集まった専用機持ちたちの中からいつになく闘志を燃やす本音が1人前に踏み出し、手を前にかざして集中し始める。
「むむむむむ……!」
本音が集中し始めるのと同時に、晴れ渡っていた筈の空に突如雲が発生し、それは急速に広がると辺り一面を分厚い雷雲で覆い尽くした。
――九尾ノ魂のイメージ・インターフェース。それは空気中の水分を自在に操り、それによって天候さえも支配し雷や竜巻さえ発生させる驚異の第三世代兵装。
「雷電招来!いっけ~~~!!」
本音の掛け声とともに、アリーナに存在するすべての
一瞬の閃光の後、遅れることなくやって来たゴロゴロピシャーンという音が止んだ頃には、そこにあったのは雷の直撃を受け焼け焦げ、ショートしている
「わ~いわ~い!みんな見ててくれた~?」
満面の笑みで手を振りながら、本音は呆然とする専用機持ちたちに向かって駆け寄った。
『何故か
『何気に天候操作とかいう世が世なら戦争になる能力持ってるんだよなぁこの子。』
『武装が貧弱なのを差し引いても余りあるほどイメージ・インターフェースがおかしい。これが学生製作とかどうなってるんだ……。』
九尾ノ魂の戦闘描写はこれであってるのか、コレガワカラナイ。