IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第103話 天羽飛鳥、温泉に入ってる

 人里離れた大型温泉施設で起こった不可解な絶対天敵(イマージュ・オリジス)の出現と消失の調査に訪れた織斑一夏ら専用機持ちたち。

 

 しかし1人隕石の落下地点を調査しに向かった天羽飛鳥が忽然と姿を消してしまった。

 

「くそっ、天羽さんは一体どこに行っちまったんだ……。」

 

 2時間の捜索も空しく飛鳥を見つけることが出来なかった一夏たちは、1度温泉施設のロビーに戻って状況を整理していた。

 

「飛鳥ちゃんが私たちと別れたのはこの温泉施設の入り口。そして連絡が着かなくなったのはそれから20分も経たない間だったわね。」

 

「うん。正確な時間は分からないけど、それくらいだった……。」

 

 20分。1秒あれば宇宙に行ける飛鳥が居なくなるには十分過ぎる時間ではあるが、普通に考えれば専用機持ちが居なくなるには短すぎる時間だ。

 

「みんな、20分で飛鳥ちゃんを落とせる?」

 

「零落白夜のクリーンヒット以外無理でしょそんなの。それにしたって千冬さんにしか出来ないし、まずもって不可能ね。」

 

「飛鳥さんは回避がとてもお上手ですし、防御もフィールドとシールドの2重。何よりワープで逃げることも出来ますから、生き残ることを優先されれば間違いなく無理ですわね。多少なりとも攻撃することを考えてくれるなら話は変わりますけれど、その場合は単純に国家代表クラスの防御力がなければ逆に落とされますわ。」

 

「そうよねー。となると戦って落とされた可能性は考えなくていいわね。」

 

 それぞれの答えに、聞いた更識楯無が溜め息を吐いた。

 

「コア・ネットワークで場所が分からないのは絶対天敵(イマージュ・オリジス)対策で行った情報機能の一部遮断処理のせいにしても、それにしたってISを展開してれば位置は分かるし、ハイパーセンサーでも見つけられないなんて、間違いなくISが潜伏(ステルス)モードになってるからなのよねえ。」

 

 本来、ISはコア・ネットワークによって繋がっており、大まかな位置が互いに分かるようになっている。現在はISを狙っているらしい絶対天敵(イマージュ・オリジス)対策で待機形態時の位置情報は隠されているが、それもIS展開中は普段通り分かるようになっているし、何よりハイパーセンサーを使えば生体反応や動体反応を頼りに探すことも出来る。

 

 しかしハイパーセンサーを使っても分からないとなれば、それはISを潜伏(ステルス)モードにしているとしか考えられない。位置情報は元よりレーダー類での探査からすら逃れる潜伏(ステルス)モードなら、2時間ISで探して見つからないのも納得がいく。

 

「でもそれって、天羽さん自身が隠れようとしてるってことになりますよね?」

 

「そうなのよねえ。何で潜伏(ステルス)モードにしてるのかしら……。」

 

 潜伏(ステルス)モードにするには設定を弄る必要がある。それはつまり飛鳥が隠れようとしていることを意味する。

 

「ほんと、何処に行っちゃったのよ、飛鳥ちゃん……。」

 

「あのー。」

 

 不安そうに呟いた楯無の元に、この温泉施設のオーナーがやって来た。

 

「オーナーさん。すみません、仲間が居なくなってしまったのでのぞき魔探しは――。」

 

「その方でしたら、皆さんが出て行ったすぐ後に来て、今温泉に入ってますよ?」

 

「――断らせて……えっ?」

 

 楯無が固まった。ポカンと口を開けて他の面々も固まった。

 

「すみません、話しかけ辛い雰囲気だったもので……。」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるオーナーに数秒視線が突き刺さり、弾かれるように全員が走り出した。

 

 

 

 

『温泉来たらまず束さんを捕まえる所からだよね。』

 

『居る場所が固定なの本当に助かるなぁ。』

 

『話し終わったら温泉で帰るまで休んでよっか。』

 

『特に意味ないけど全部回ろっと。』

 

 

 

 

「で?」

 

 2分後。露天風呂でたった1人くつろいでいた飛鳥を確保した専用機持ちたちは、よく掃除の行き届いた石の床の上に正座させた飛鳥を囲んで問い詰めていた。

 

「あたしたちがこんな寒空の下、あんたを探し回った2時間の間にたった1人満喫した露天風呂はどうだった?」

 

「最高でした。」

 

「でしょうねえ!」

 

 凰鈴音が咆えた。額に青筋を浮かべる乙女にあるまじき表情でキレた。

 

「何故潜伏(ステルス)モードになどしていた?」

 

「お風呂に入る時は織斑さんに『今お風呂入ってるな』って思われないよう、潜伏(ステルス)モードになるように設定してるので、それが原因だと思います。」

 

「むっ、それは……まあ許そう。」

 

 睨みつけるような表情だったラウラ・ボーデヴィッヒは、飛鳥の答えに僅かに考えてから引き下がった。ラウラにも羞恥心はあったようで飛鳥は安心した。

 

「どうして通話に出なかったの……?」

 

「束さんの所に行ってたので出ることが出来ませんでした。」

 

「篠ノ之博士……!?」

 

 更識簪がほんの少し怒ったようなムッとした顔で聞き、その答えとして飛鳥の口から飛び出た名前に全員が驚かされることになった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。姉さんに会ったのか?」

 

「会ったというか……。」

 

 困ったような顔をしながら、飛鳥はいくつもある露天風呂の内の1つに視線を向けた。

 

「そこでくつろいでます。」

 

「ふひー……。」

 

 ぷかぷかとその大きなバストを湯舟に浮かべた女性がそこにいた。メカメカしいウサ耳はなく、露天風呂なのでもちろん不思議の国のアリスをモチーフとしたドレスも着ていないが、それは間違いなくISの開発者・篠ノ之束その人だった。

 

「篠ノ之博士!?」

 

「まったく気付きませんでしたわ……。」

 

「ね、姉さん……。」

 

 若干1名くつろいでいる姉の姿に放心しているが、専用機持ちたちは突然現れた束の存在に驚いていた。

 

「今回の件を聞いてどうせ居るだろうと思って探したら案の定居たので、協力して貰えるように説得してました。」

 

「飛鳥ちゃんそんなことしてたの!?」

 

「というか束さん居ないとなのはの負担がマッハなのでずっと探してました。見つかって良かったです本当に。」

 

 湯船から上がって大分経ったことでいい加減寒くなって来たのか、声が震え始めた飛鳥を慌てて露天風呂の中にリリースし、肩まで露天風呂に浸かった飛鳥がとろけ始めた頃に話しを再開した。

 

「それで、飛鳥ちゃんはいつ頃篠ノ之博士がここに居るって気付いたの?」

 

「隕石以外の痕跡が消えたって話を聞いた時に居るんじゃないかなって思いました。確信したのは露天風呂にナノマシンが混じってるのに気付いたからです。多分研究用に生体情報の収集とかしてたんでしょうね。今はもう停止させました。」

 

「へ、へえ……。」

 

 そんなの入ってたの、ここ。そう思いながら今飛鳥が入っている湯舟を見つめる乙女たちを無視しながら飛鳥は続けた。

 

「で、ここらに居るだろうなって確信が持てたので近場で違和感のあった場所を探して、それで束さんを見つけました。」

 

 ちなみに、楯無と一夏がオープン・チャンネルで飛鳥に連絡を取ろうとして出来なかったのは、飛鳥がその時には既に束によって情報がシャットアウトされているラボの中に入っていて、そもそもコールが掛からなかったからである。面倒なので飛鳥はそのまま流したが、呼び出しの話は寝耳に水だったりした。

 

「その後はもうやることないので温泉満喫してました。今回の件全部束さんのせいでしたし。」

 

「いやそれをあたしたちに連絡しなさいよ!京都の時もそうだったけど、あんた篠ノ之博士のことになると途端に何も言わなくなるわね!?」

 

「正直露天風呂に早く入りたかった。」

 

「そこに直れえ!」

 

 鈴の怒号が、寒空の下の山々に木霊して消えていった……。

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「中、どうなってんのかなあ……。」

 

 女湯に入る訳にはいかない調査メンバー唯一の男性である一夏は、脱衣所前の休憩スペースでたった1人、突入していったみんなを待っているのだった。

 

「男湯、入っちゃダメかな……。」

 

 持って来た温泉案内のパンフレットを見ながら、一夏は1人孤独と戦っていた。

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