IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第108話 転入生、一緒に寝る

 日も落ちてすっかり暗くなってしまったIS学園。寮の門限もあり本来なら生徒は誰も校舎に残っていない時間帯だが、今日に限って織斑一夏は副担任である山田真耶の手伝いをしていたためこんな時間に帰路に着いていた。

 

「すっかり暗くなっちまったな……。」

 

 はぁ~、と吐き出した息が白く染まり、校舎から寮までの道の間に設置されている街灯の明かりに照らされてモヤのように一瞬視界を隠しては消えていく。

 

「そういえば、もう2月か。」

 

 今日は1月26日。1週間後にはもう2月という事実に早いなぁと思いながら寮に向かって歩いていると、ふと何か話し声が聞こえて来た。

 

「あーもー、そんなに泣かないでよ。もう6歳なんだから、あんたも立派なお姉ちゃんだろ?……うん、それじゃあ、おやすみ。お姉ちゃんもこっちで頑張るからさ、チビたちの事はエミリーが守ってね。」

 

 気になって声の聞こえた所を覗いた一夏は、そこで年季を感じるスマホを耳元から離したグリフィン・レッドラムがブルリと寒さに身体を震わせているのを見つけた。

 

「あれ、一夏?いつからそこに居たの?」

 

「す、すみません。聞くつもりはなかったんですが……。」

 

「いーのいーの、気にしないで。ブラジルの家族に電話してただけだから。」

 

 頭を下げようとする一夏を止めながら、グリフィンは電話の相手について話し始めた。

 

「今の相手、エミリーって女の子なんだけど、ものすごく甘えっ子で、私がここに来る時大泣きして大変だったんだよ。絵本のお姫様に憧れててさ、言葉遣いが丁寧で、髪型は縦ロールで、しかも炭酸がニガテなの。」

 

「あれ?それって……。」

 

「そー、そー!セシリアにそっくりなんだよね。だからセシリア見てると、可愛くって。」

 

 笑いながらそう言うグリフィンに一夏も笑顔になりながら会話をする。

 

「はは、小さいセシリアですか。会ってみたいですね。先輩の妹さんなんですか?」

 

「うん、かわいい妹だよ。家にはエミリーの他にも女の子が12人、男の子が15いるんだ。」

 

「そ、そんなに大家族なんですか!?」

 

 グリフィン自身とエミリーを合わせて29人。日本ではまず考えられない数に一夏が驚いていると、グリフィンは笑みを引っ込めて口を開いた。

 

「みんな、血のつながりはないけどね。」

 

「え?」

 

 グリフィンの口から出て来た予想だにしない言葉に、一夏は思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「私の家は孤児院なんだよ。赤ん坊の時に運営者のシスターに拾われて、ずっとそこで暮らしてきたんだ。」

 

 空に浮かぶ月を見上げながら、真面目な顔をしたグリフィンが語る。

 

「今いる孤児の中では私が最年長でさ、子どもたちの面倒をみたり用心棒したり、シスターに孤児院の仕事も教わってたんだ。……だから、簡単には離れがたくて。」

 

「もしかして、転入時期が遅れた『家の事情』って……。」

 

「そう、孤児院のことが心配だったんだ。私がいなくなっても大丈夫なようにいろいろと段取り付けてからにしたくって。シスターももう歳だし、まだ赤ん坊の子もいるからね。時間はかかっちゃったけど、どうしても妥協するわけにはいかなかったから。」

 

 絶対天敵(イマージュ・オリジス)の出現とほぼ同時期に各国の代表候補生にIS学園への転入要請がなされ、12月中までに選抜された者全員が転入した。例外はそもそも別枠だったベルベット・ヘルと更識楯無が連れてきたクーリェ・ルククシェフカを除けばグリフィンだけ。

 

 その理由は家の事情とだけ朝に聞いたが、グリフィンの口から語られた詳細は確かにそう纏められはするがとてもそう簡単に纏めていいものではなかった。

 

「偉い人には、世界のピンチに何を甘ったれたこと言ってんだって怒鳴られたりもしたけどさ。私にとっては、何よりも家族が最優先。誰に何と言われようと、ね。」

 

「何も間違ってなんかないですよ。」

 

 少しだけ表情を曇らせたグリフィンに、一夏ははっきりとした口調でそう言い放った。

 

「先輩は自分にとって大切なものを守ろうとしただけなんですから、間違ってなんかないです。俺は、姉や仲間や、俺の力を必要とする誰かのために強くなりたいと思っています。それが自分にとって大切だと思うからです。だから、気持ちは先輩と同じですよ。」

 

「一夏……。」

 

 僅かに目を見開いて一夏を見つめたグリフィンは、少しして笑った。

 

「ありがと。ふふ、君っていい奴だね。ねえ、1つ頼み事を聞いてくれないかな?」

 

「何ですか?」

 

「私の事、お姉ちゃんって呼んでくれない?」

 

「はい?」

 

 今までの雰囲気が全て霧散し、何処からともなく気の抜けたBGMが流れて来そうな雰囲気に変わる。

 

「今までチビたちにお姉ちゃんって呼ばれてたから、先輩って呼ばれるのくすぐったいんだよ。あと、敬語も無しで!」

 

「そ、それはちょっと……。」

 

 苦笑しながらグリフィンの頼みを断ろうとした一夏だったが、グリフィンの寂しそうな顔に言葉が止まってしまう。

 

「こー見えてけっこうホームシックなんだ。エミリーにはああ言ったけど、一番寂しがってるのは私かも、なんて……。」

 

「先輩……。」

 

「だから!お・姉・ちゃ・ん!」

 

 凄まじい勢いでそう頼んでくるグリフィンに、一夏は圧されながらも声を上げた。

 

「じゃ、じゃあグリ姉で!」

 

「え?」

 

「グリ姉なら、短いし呼びやすいし、いいかなって……。」

 

「ふーん、グリ姉かー……。グリ姉ねー……。」

 

 一夏の提案を口の中で数回繰り返した後、難しい顔をしていたグリフィンはバッと表情を明るくした。

 

「うん、いいじゃん!親しみがあって、家族みたいな呼び名だね。気に入ったよ。今度はそれでよろしく頼むよ!」

 

「わ、わかったよ、グリ姉。」

 

 2人の間でそんなことが決められたその時、空から隕石が降ってきた。

 

「何だっ!?」

 

「これは――敵襲だね!行くよ一夏!お姉ちゃんにまっかせなさい♪」

 

 

 

 

『という訳で、ブラジル加入イベント【その絆、きらめいて】の必須戦闘、夜の絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦です。』

 

『でもノクターン級*1までしか出て来ないからカットカット。見せ場なんかないよ。』

 

『フルセイバーやはりダメでは?』

 

『本来コンボハメするタイプの装備なのにクリティカル即死もやって来るクソ装備だよ。その上量子化もする。』

 

『ダメでは?』

 

 

 

 

 大型絶対天敵(イマージュ・オリジス)も数体現れた、グリフィンのIS学園で初陣。

 

 だがしかしいつものように天羽飛鳥が大型絶対天敵(イマージュ・オリジス)をフルセイバーで叩き切り、残りの小型絶対天敵(イマージュ・オリジス)を一夏たちが倒すことで戦闘は終わった。

 

「やったね!私たちの勝ちだよ!」

 

「ああ、グリ姉、大活躍だったな!さすがだぜ!」

 

 射撃ビットと打撃ビットを使って絶対天敵(イマージュ・オリジス)を一ヶ所に集めたり分断したりなどして翻弄し、常に味方が攻めやすい場作りをしてくれていたグリフィンに一夏がつい先ほど決まったばかりの呼び名で呼びながら駆け寄った。

 

「……待て一夏。今何と言った?」

 

「グリ姉って……聞こえたような……?」

 

「しかも、ずいぶんと親しげに……。」

 

 その呼び名に目敏く反応し、篠ノ之箒たちは怪訝そうな表情で一夏ににじり寄った。

 

「な、なんだよみんな。この呼び方そんなに変か?」

 

「そういう問題じゃないわよ!いつの間にそんな仲になったのかって聞いてんのよ!」

 

「どうして一夏は目を離すとすぐに女子と仲良くなるのよ!」

 

「何で怒るんだよ?仲良くなるのは良いことだろ?」

 

 数時間目を離しただけで仲良くなることに憤慨する2人にそう言った一夏に、後ろからグリフィンも賛同する。

 

「そーそー。一夏とはもう家族みたいな仲だからね。特別な呼び名も考えてくれたし、ね♪」

 

「なんだと!?夫である私に相談もなく家族を増やすとは何事だ!」

 

「と、特別な呼び名って……僕だけじゃなかったの?」

 

 上機嫌なグリフィンの言葉にアリーナが不穏な空気に包まれる。

 

「あれれ~?なんだか~嵐の予感~?」

 

「それもとびきり大きい嵐の、ね。はあ~、まったく一夏くんてば……。」

 

「……私は部屋に戻るわ。クーリェも寝てしまったし……」

 

「くーくーくー……。」

 

 嵐の予感を察知したベルベット・ヘルが眠ってしまったクーリェ・ルククシェフカを落ちないように抱えながら、この場の引率である真耶に視線を向けた。

 

「そ、そうですね。もう遅いですし、みなさん今日はこの辺で解散しましょう。ね?」

 

 それを受けた真耶が慌てて解散を宣言し、大きく欠伸をしたダリル・ケイシーがヒョイッとフォルテ・サファイアを抱えると一足先にアリーナを出て帰っていった。

 

 それに続こうと他の面々も出入り口に向かおうとした、その時。

 

「それじゃ一夏、今日は一緒に寝よっか?」

 

 グリフィンが一夏の横に並び立ってそう言った。

 

「な、なんでそうなるんだっ!?」

 

 バッ!とグリフィンから距離を取る一夏だが、そこで見たのはグリフィンの寂しそうな顔だった。

 

「私の部屋、ルームメイトがまだいなくて、1人じゃ寂しいんだ。家ではいっつもチビたちがベッドに潜りこんできてたから、1人じゃ落ち着いて寝られないんだよね。」

 

「あー、ずるーい!それなら私もお兄ちゃんと一緒に寝たーい!」

 

「こ、こら、オニール!なんて事をいうのよ!あいつに変なことをされたらどうするの!?」

 

「そうだとも!男など、所詮は獣!ベッドを共にするなど危険極まりない行為だ!というわけで1人寝が寂しいのなら今夜は私の身体が空いているが、どうだろうか?」

 

「ええい、一番危険なのはお前だ、ロラン!少しは慎め!」

 

 グリフィンの吐露に続くように各々が一緒に寝る権利を欲し始める。それに慌てて真耶が止めに入った。

 

「み、みなさん、落ち着いてください!あの、レッドラムさん、いくら親しくても男子生徒と一緒に寝ると言うのは、ちょっと問題あると言いますか、その……。」

 

「そうですわ!そんなの認める訳には参りませんわ!」

 

「それじゃ、セシリアが一緒に寝てくれる?」

 

「はい?」

 

 二へへ、とにやけた顔をセシリア・オルコットに向けたグリフィンが高揚からか褐色の肌を少し赤く染めてセシリアの手を取った。

 

「ふふ、セシリアってホントにかわいーよね。エミリーも大きくなったらこんな風になるのかなー?」

 

「え、エミリーさんとは、どなたですの?」

 

「部屋に来れば写真を見せてあげるよ。動画もいっぱいあるからさ。もー、めちゃくちゃかわいーから!」

 

「あ、あの、ちょっと……。」

 

「さー、それじゃ、部屋に行こ―!」

 

 グイグイと手を引っ張って連れ帰ろうとするグリフィンから逃れようと、セシリアは助けを求めた。

 

「い、一夏さん、助けてください!」

 

「すまん、セシリア!ここは人助けと思って辛抱してくれ!」

 

「そんな!では鈴さん、なんとかしてください!」

 

「なんだ、セシリアでもいいなら最初からそう言ってよね。それじゃ、オヤスミ~♪」

 

「ひ、ひどいですわ!ならば飛鳥さん、っていない!?いつの間に!?」

 

 実は真耶による解散宣言がされた時には既に量子化で帰っていたのだが、一夏のグリ姉呼びで動揺していたセシリアはそれに気付けていなかった。

 

 頼りにしていた3人に頼れなかったセシリアは手当たり次第に助けを求め始める。

 

「箒さん!」

 

「セシリア……一夏のために身体を張ったその雄姿、私は忘れないぞ!」

 

「シャルロットさん!」

 

「僕は女の子同士なら、何の問題も無いと思うよ?」

 

「ラウラさん!」

 

「平和のために、時には犠牲も付き物だ。」

 

「ルームメイトが出来るまでの間、これから毎晩よろしくね、セシリア♪」

 

「そんなあ~~~~~!!!」

 

 友に見捨てられたセシリアの叫びが、夜のIS学園に響き渡るのだった――――。

*1
大型絶対天敵の中で一番弱い奴等。




 短縮箇所がないと主人公空気になる……
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