「防衛省でISコアを受け取った帰りで襲撃に遭いカーチェイス。送迎を担当した運転手の代わりに天羽が無免許運転。その車内で葉加瀬が
事件の翌日、報告書を読んだ織斑千冬はため息を吐いた。貴重なISコアの運搬に護衛が着かないという
「仕方ないとは言え、これで謹慎か……。」
色々と目を疑うようなことが書かれているが、千冬が心配したのはそこだった。
幸いというべきか、赤信号を突っ切ることなくカーチェイスは行われ、それによっての事故も起こっていない。しかし
街中で発砲するような輩が相手だったこと、その発砲で運転手が呆けてしまいそのままでは撃ち殺されていただろうという状況だったため仕方ないのだが、違反は違反。IS学園、ひいては国で手を回したため厳重注意に留まったが、安全のためという名目で飛鳥は学生寮の自室で謹慎となっている。少なくとも夏休みの間はIS学園を離れることは叶わない。
「あとで様子を見に行くか。」
「……。」
ISコア強奪犯の1人、狙撃を担当していた女は事態を飲み込めずにいた。
4発目の弾丸を撃とうとした瞬間、緑の粒子を見たところで記憶が途絶え、気付けば病院のベッドの上。訳も分からないままやって来た医師に診察され、問題無しと言われてそのまま退院。
余りのことに病院を出たところで呆けていた。
「どうして捕まって無いのか。」
「!」
後ろからの声に急いで振り返った先、そこには1人の少女――葉加瀬なのはがいた。
「お前は……!?」
「説明してあげる。着いてきて。」
そう言ってなのはは背を向けて歩き出した。
何もわからないまま戻ったところで粛清は免れない。女性はその後に着いて行くしかなかった。
「結論から言えば、君には一般人になって貰った。」
病院の近くにあったファミレスに入り、なのはは持っていたカバンから何枚もの書類を取り出し、テーブルに広げた。
「これ……戸籍?」
「アメリカ人みたいだからそのままアメリカの戸籍を偽造して、出生とか学歴とか渡航記録をでっち上げた。」
「は?」
「あぁ、体の中のナノマシンは飛鳥が停止させたから、完全に一般人だよ」
「は!?どうやって!?」
「GN粒子は覚えてる?緑の粒子。あれでナノマシンに停止命令を出したって言ってたよ。ボクが調べた限りは完璧に停止してた。もう歯向っても死なないよ。」
「――――なによ、それ……。」
奮い立つ感情のままに立ち上がった身体を脱力させ、女性はクッションの効いたソファにダラリと背を預けた。
「どうして、こんなことした訳?私はお前たちを殺してコアを奪おうとしたってのに……。」
自分の様な人間を苦労して一般人にして、いったい何の得があるのか。明らかに敵対者を警察に引き渡さず隠した意味は。
分からない。何一つとして理由が分からない。仲間に引き入れるにしても、こうも手際よく事を運べるなら自分は不要だろう。逆に邪魔になる。戦力としても論外だ。それこそ要らない。
何が目的か?
「君、
「っ!」
「君は承認欲求を抱えた元IS乗り……ってボクは見てる。興味ないから調べてはないけどね。誰かに認められたいから何でもやる。認められている限り自分は1人じゃないから――。」
「……そうよ。認めて欲しかった……褒めて欲しかったの。」
「
「えっ?」
「ボクも飛鳥も、昔からあんまり理解されなくてさ。ボクは半永久機関とか作ってたし、飛鳥は熊とか普通に殺してたし。」
「(……熊?え、熊?)」
「ボクには飛鳥が居て、飛鳥にはボクが居た。親も居たけど、理解はされなかった。愛されてはいたけどね。まぁ社交性はあったから排除はされなかったし、上手く情報操作して周りの印象をいい感じに出来たからどうでもいいんだけど。」
「(熊?ベアー?)」
「君を助けたのは同情心からだ。ボクたちに居た理解者が君には居なかったことへのね。」
「ちょっと意味分かんない。熊?熊って言った?」
「幼稚園の時に絞め殺してたよ。素手で。」
「まさかのロリータ時代!?」
『こらコメント!私はゴリラじゃないぞ!というかゴリラでもクマと戦うなんてしないからな!』
『飛鳥が熊を相手にしたのって中学の時だよね。町に出たのを見つけて倉庫に置いてあった斧で……。』
『戦ってない!私は呼吸も神楽も使えないから!痣もないから!』
『星の痣は?』
『ない!10分間息を吸い続けて10分間吹き続けても波紋出来なかったし!』
『それは十分ヤバイんじゃ……。』
【天羽、私だ。】
部屋の外からノックと共に織斑千冬の声がして、天羽飛鳥は書いていたレポートから顔を上げた。
「織斑先生?今開けます。」
机から立ち上がり鍵を開け、飛鳥は千冬を迎え入れた。
「ん?レポートを書いていたか。謹慎を有効活用しているな。」
「機体も動かせないとコレしかやることがなかったので。それで織斑先生、何かありましたか?」
「様子を見に来ただけだ。菓子折りもあるぞ?」
そう言って左手に持ったレジ袋からポ〇チを取り出して見せた。
「ありがとうございます。入ってください、お茶出しますよ。」
よく掃除されている部屋、というのが千冬の印象だった。物はあるがきちんと整理されている。見える範囲では教本やノートが置いて有る程度で、特に目立った者はない。
「綺麗にしているな。」
「手持ち無沙汰でさっきちょっと。普段はもう少し散らかってますよ。」
「テレビゲームで遊んだら大抵繋ぎっぱなしですし。」という飛鳥は、戸棚からコップを2つ持ち、冷蔵庫から自家製の麦茶を出して注いで千冬へと手渡し、イスへと座る様に促した。
「それで織斑先生。私はあとどれぐらいで学園内を出歩けるようになりますか?部屋だとやることがゲームぐらいしか無くて暇で暇で……。」
「安心しろ。1、2日で部屋からは出られるようになる。アリーナも使えるだろう。」
「良かった。試したい機能が多いので気になってたんです。」
「そう言えば、お前の機体はどう言った物だ?ブレードを主武装にした近接型か?射撃も出来る万能型か?」
麦茶を一口飲み、千冬は世間話として専用機についてを飛鳥に聞いた。単純な興味だ。
飛鳥は近接が得意だが、射撃も十分な腕を持っている。本人の気質も有って剣をよく使っているが、セシリアのスターライトmk-Ⅲをスナイパーライフルで破壊することも可能な腕だ。それを考えれば、剣と銃どちらも持つ機体に仕上がっているだろう。が、それは素人考えと言えるものだ。もしかしたら剣を7本くらい装備した完全な近接戦仕様を作っている可能性もある。
こと飛鳥に限って、機体の可能性は無限なのだ。
「開発コード『セブンソード』。主武装はGNソードⅤ1振り、特殊兵装はGNソードビット6機の、一応近接型ですかね。GNビームガンとかもありますけど、牽制用です。」
「GN?」
「セシリアのブルー・ティアーズみたいに独自の粒子を利用してるので、それ専用って意味です。」
「ほう。しかしセブンソードか……葉加瀬なら射撃武器を採用すると思っていたが、牽制用しかないとはな。」
「あぁいえ、GNソードⅤは多機能武装で、ソードモードとライフルモードが切り替えられるんです。」
切り替え可能な武器、と聞いて千冬は展開装甲を思い浮かべた。展開装甲の技術が取り入れられた雪片弐型が実体剣とエネルギーブレイドを切り替えられるように、その技術によってソードモードとライフルモードを切り替える。
「(やはり葉加瀬は……。)」
「天才です。」
「天羽、心を読むのは止めろ。分かっていても驚く。」
「いえ、私もなのはも勝手に読めちゃうので……昔は何でもかんでも読んでたので、制御できるようになってる方なんですよ?」
「ならもっと精進しろ。」
ごくり、とコップに残った麦茶を飲み干し、千冬は立ち上がった。
「お前たちがどう言った存在かは私には関係ない。等しく私の生徒だ。困ったことが有れば相談しろ、いいな?」
「分かってます。」
机にレジ袋を置き、千冬は部屋を出て行った。
1人残った飛鳥は
「うーん、2回目でもう驚かなくなってる人は初めて。いや、束さんもか。」
そう呟いてレポートの執筆に戻って行った。