IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第110話 明滅、それは生誕までのカウントダウン

「え、光ってる?」

 

 カフェテラスエリアからいつものように工房にやって来た天羽飛鳥は、作業する葉加瀬なのはと篠ノ之束の横で光っているエネミーコアを見てそんな間の抜けた声を上げた。

 

「束さん、私のレクイちゃんに何したんですか……?」

 

「何で束さんはいつも真っ先に疑われるんだろうね?」

 

 真っ先に疑いを向けられた束が心外だと頬を膨らませる。

 

「全く。ちーちゃんもそうだけど、あーちゃんも何かあるとすーぐ束さんを犯人にするよね。失礼しちゃうよ。」

 

「でも大体束さんだったよね。」

 

「中学時代の事件は大体束さんが原因だったからなぁ。」

 

「少なくとも山を駆け巡る謎のUMAと学校七不思議になった夜な夜な動き回るロボットは束さんじゃなかったよ。」

 

「「ぐっ……。」」

 

 中学時代の黒歴史を掘り起こされた2人が言葉を詰まらせる。ストレス発散のために山籠もりをしていたどこぞのイノベイターの影が捉えられて発生したUMA事件と、興が乗って学校でも製作に勤しんでいたら夜になったと気付かず試運転を始めそれを残っていた教師に見つかり学校中で噂になった事件を出されてしまえば、軽率な犯人扱いは出来ない。

 

 例えそれ以外の全てが束の仕業だったとしても。

 

「でも今回は本当に束さんじゃないよ。というか、なーちゃんは知ってるよね?勝手に光り出したこと。」

 

「訂正する間もなく束さんが膨れたんだよ。」

 

「で、結局原因は?」

 

生まれそうなんじゃない?それかイマージュ・オリジスちゃんを呼んでるか。

 

「ちょっとレクイちゃんの所に行ってきます。」

 

「いってらっしゃーい。」

 

「親バカめ……。」

 

 レクイ・コンべと会うためだけにこの工房に置くようになったタオルケットと枕を取り出しさっそく横になった飛鳥を、2人は口々に見送った。

 

 

 

 

「あっ、ママ!」

 

「レクイちゃん、こんにちは。」

 

 ダブルオークアンタのコア人格が過ごす花畑。そこに置かれたテーブル上でコア人格とトランプをしていたレクイがイスから飛び降りると飛鳥に向かって駆け出し、ギュッと抱き着いた。飛鳥もそれを抱き止め抱え上げると、先程までレクイが座っていたイスに腰かけて自分の膝の上にレクイを乗せた。

 

「こんにちは、クアンタ。」

 

「こんにちは。今日も遊びに来たの?」

 

「いや、今日はレクイちゃんに聞きたいことがあったから来た。」

 

「わたし?」

 

 膝の上から見上げてくるレクイの頭を撫でながら、飛鳥はレクイにエネミーコアの明滅についてを聞いた。

 

「うん、もうすぐ外に出られるの。」

 

「そっか。外に出たらなのはたちと一緒に遊園地とか回ろうね。」

 

「…………。」

 

「レクイちゃん。」

 

 ニコニコと楽しそうだったレクイが、外での予定についての話になると途端に押し黙ったのを見て、飛鳥はレクイの名を呼んだ。

 

「──ママ、ごめんなさい。わたし、一緒にいけない。」

 

「なんで?」

 

 レクイの頭を撫でながら、飛鳥はできるだけ優しい声音で問いかける。

 

「……わたし、わたしね?ここから出たら、全部忘れちゃうの。ママのことも、クアンタのことも、ここで2人と遊んだことも……全部、忘れちゃうの。」

 

「──そっか。」

 

 レクイの言葉にそれだけ呟いて、飛鳥はレクイの頭を撫でることにだけ集中し始めた。

 

「約束も、思い出も、全部忘れちゃう。ごめんなさい。ごめんなさい、ママ。」

 

 レクイの新緑色の瞳に涙が浮かぶ。飛鳥の胸元に顔をグリグリと擦り付けてその涙を隠しながら、レクイはひたすら謝罪の言葉を言っていた。

 

「いっぱい遊んでくれて、いっぱい話してくれて、いっぱい構ってくれたのに、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……!」

 

 ──別に、記憶を失うのが怖い訳じゃない。

 

 コア状態からの復旧時に、自分の名前以外の記憶を失うのはイマージュ・オリジスの生態の1つだ。それを怖いと思うことはない。

 

 けれど、この花畑で過ごした日々が消えるのは、イヤだった。

 

「レクイちゃん。」

 

「……なに……?」

 

 もはや隠せなくなって泣きじゃくるレクイの頭を左手で優しく撫でながら名前を呼ぶと、レクイは顔をあげずに飛鳥の胸に顔を埋めたまま反応を返した。

 

 そんなレクイを抱きしめながら飛鳥は言う。

 

「例えレクイちゃんが忘れても、私とクアンタが覚えてる。」

 

「っ……!」

 

「甘えん坊で、遊びたい盛りで、すっごく可愛い娘がいることを。私達は覚えてるよ。」

 

「ママぁ……!ママぁ!!」

 

「よしよし……。」

 

 ダブルオークアンタのコア人格が見守る中、飛鳥はただレクイを宥め続ける。

 

「(──外で戦闘が始まった。でも、今はダメ。飛鳥抜きで頑張って。)」

 

 機体に届いた敵襲のアラートを操縦者に知らせないまま、ダブルオークアンタのコア人格はレクイが泣き止む時を待ち、1人紅茶を飲みケーキ食べていた。

 

 

 

 

「くそっ、キリがない!」

 

 雪片弐型から伸びる零落白夜の刃で近くの絶対天敵(イマージュ・オリジス)を攻撃し、倒したのを確認してから織斑一夏は額を流れる汗を拭うと、次の絶対天敵(イマージュ・オリジス)に向かって剣を構えた。

 

 つい1、2時間前にも飛来した隕石から出て来た絶対天敵(イマージュ・オリジス)と戦ったばかりだというのに、ただでさえ珍しい同日2度目の隕石。しかも、そこから出てくる絶対天敵(イマージュ・オリジス)の数が尋常ではない。かつてないほどの量が攻めて来ていた。

 

「どぉりゃぁっ!!」

 

 掛け声とともに炎を纏った双天牙月を絶対天敵(イマージュ・オリジス)に叩きつけ、アリーナの地面ごと陥没させた凰鈴音は素早く双天牙月を引き抜くと周囲を見渡した。

 

「ああもう、まだ半分も倒せてないじゃない!どんだけ居るのよ!?」

 

「この数、わたくしのオーバーライトでも倒し切るには時間が掛かりますわね。」

 

「私のGNミサイルは、もう撃ち切っちゃった……。」

 

「かんちゃんは~、最初に、どっかーん!って、やっちゃったからね~。私の雷も~、多すぎて手が回らないし~。」

 

 絶対天敵(イマージュ・オリジス)を一掃できるだけの高威力攻撃を持つ面々も、流石の多さに食傷気味になりながら戦闘をしている。特に更識簪は最大火力である山嵐のGNミサイル48発同時発射を2回使用して既に弾切れを起こしてしまったため、尚更辟易(へきえき)した状態だ。

 

「こらそこー。おしゃべりしてないで戦うっスよー。」

 

「キリキリ働けよー、1年共ー。じゃないと日が暮れるぞー。」

 

 そんな状態の1年生たちを注意しながら、フォルテ・サファイアとダリル・ケイシーが美しい連携攻撃で絶対天敵(イマージュ・オリジス)を倒していく。しかし結構な早さで1体ずつ確実に倒しているのに、一向に減っている実感が出ないほどの多さに流石のイージスコンビも舌打ちをしていた。

 

 時間のかかる戦闘が続く最中、全体を俯瞰(ふかん)していた簪が眉をしかめた。

 

「……変な感じが、する。」

 

「私も同意見だ。敵の数もだが、なにより動きに違和感があるね。」

 

「私たちではなく、どこかを目指して進撃している……?」

 

 簪の呟きにロランツィーネ・ローランディフィルネィが同意し、ベルベット・ヘルも絶対天敵(イマージュ・オリジス)の動きを見て標的が自分たちではないと看破する。

 

「もっとおかしいことがあるよ。戦闘が始まって結構時間が経ってるのに、飛鳥さんが来ない。」

 

「いつもなら、もうとっくに来て敵を切り倒している筈ですね。」

 

 シャルロット・デュノアとヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーの言う通り、この第3アリーナにはあのとても目立つ光る粒子を放つ機体が見当たらない。居たなら今頃半分は片付いていそうなのだが、どういう訳か天羽飛鳥はこの場に来ていなかった

 

「一体、何が起こっていると言うんだ。」

 

 篠ノ之箒がみんなの内心を代弁したその時、第3アリーナで戦っていた専用機持ちたちに通信が入った。

 

『お前たち、聞こえているな。』

 

『緊急事態です!』

 

 落ち着いたいつもの様子の織斑千冬と、対照的にやや興奮気味に語りかけて来る山田真耶の声に、戦闘の手を少し緩め全員が聞く態勢を取った。

 

『新型の絶対天敵(イマージュ・オリジス)を確認、葉加瀬さんの整備室がある方面に侵入されました!』

 

「なんだって!?」

 

 真耶の報告に一夏が驚きの声を上げる。

 

「なるほど、絶対天敵(イマージュ・オリジス)はそこを目指していた訳か。あの人が来ないのはその防衛に当たっていたから、ということだな。」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒはその話を聞いて1人納得し、うんうんと頷いていた。

 

「でも、なんで絶対天敵(イマージュ・オリジス)がそんな場所目指すのよ!?」

 

「あそこにはなのはちゃんだけじゃなくて、篠ノ之博士も居るわ。博士自身か、あるいは博士が持ち込んだ何かしらを狙ってるんじゃない?」

 

『残念だが違う。恐らく敵の狙いはエネミーコアだ。』

 

 凰乱音の疑問に更識楯無が推論を語るが、千冬はそれを否定し秘密にしていたことを明かした。

 

「エネミーコア?千冬姉、それってなんだ?」

 

『以前天羽が見つけてきたイマージュ・オリジスのコアだ。葉加瀬の使っている整備室に保管させていたんだが、どうも今回はそれを狙って攻めて来ているらしい。』

 

「飛鳥ちゃんいつの間にそんな物を!?」

 

 千冬の説明に楯無が代表して驚きの声を上げる。もちろん他の専用機持ちたちも驚きで目を丸くしていた。今日カフェテラスエリアで秘密の行動をしていたことについて問い詰めたというのに、半日も経たない内に別の秘密が判明したからだ。

 

『侵入した新型はいずれも大型だ。そのおかげか葉加瀬たちのいる整備室までの通路で詰まっていて進行は遅い。しかしアリーナを片付けてから向かうという訳にもいかん。そこでお前たちを2班に分ける。』

 

 楯無の驚きの声を無視して千冬の采配が通達される。

 

『織斑、凰鈴音、凰乱音、更識姉、更識妹。以上5名は直ちに整備室に向かう新型の迎撃に当たれ。残りの者はその場にて、引き続き隕石から現れるイマージュ・オリジスの対処だ。』

 

『みなさん、頑張ってくださいね!』

 

「「「了解!」」」

 

 真っ先に飛び出した一夏を先頭に、6人の専用機持ちが葉加瀬なのはの工房に向かって飛翔した。

 

 

 

 

「!見つけた!」

 

 先行していた一夏が、通路を窮屈そうに進む2体の赤い大型絶対天敵(イマージュ・オリジス)らしき存在を見つけて声を上げた。

 

「これが、新型の絶対天敵(イマージュ・オリジス)……。」

 

「今までのとは威圧感が違うわね。みんな、気を引き締めて。」

 

 今まで現れた大型の絶対天敵(イマージュ・オリジス)は、その大きさからか少なからず威圧感を放ってはいたが、今回の新型絶対天敵(イマージュ・オリジス)はその比ではない。

 

 猛禽類、あるいは竜。それを模した、本来であれば空を自由に飛び回っているだろう新型絶対天敵(イマージュ・オリジス)は、その翼のような部位を折り畳み、体格と全く合っていない狭い通路を通ろうとしているだけで一夏たちを圧倒してくる。

 

 桁外れの防御力を持っていた、かつて街中に現れた樹木のような絶対天敵(イマージュ・オリジス)とはまた別の強敵の出現に、武器を握る手に知らず知らず力が入る。

 

 だがその時、一夏はあることに気付いた。

 

「傷を負ってない……?天羽さんと戦ってるんじゃなかったのか?いや、そもそも──天羽さんはどこだ?」

 

 てっきり、幼馴染みであるなのはがいるここを守るために第3アリーナに来なかったとばかり思っていた。しかし件の新型は傷1つ付いておらず、また飛鳥の姿もどこにも見当たらない。

 

 ISを展開していればハイパーセンサーでどこにいるか分かるのだが、それもない。

 

 どこかつい先日の温泉施設であった出来事を思い起こさせる事態に一夏は焦ったが、それを振り払い目の前の絶対天敵(イマージュ・オリジス)に剣を向けた。

 

「ここから先へは行かせないぜ!」

 

 

 

 

「泣き止んだ?」

 

「……うん。」

 

 花畑の中心で、抱き締めたレクイ・コンべが泣き止んだのに気付いた飛鳥は少しだけレクイを身体から離すと、その頭を撫でて笑った。

 

「ねぇ、レクイちゃん。歌おうか。」

 

「歌う……?なんで?」

 

「あなたが、生まれるから。新しい始まりを祝して。」

 

「……わかった。」

 

 頷いたレクイを見てまた笑うと、飛鳥は歌を口ずさんだ。

 

 新しい始まりを祝福する、歌を。

 

「Happy Birthday To You────」

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