IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第112話 日常、それはイベントの予感

『どうも皆さん、おはこんばんちは。いつもパタパタ空を飛ぶ、天羽飛鳥です。』

 

『はいはーい。天っ才博士、葉加瀬なのはだよ。』

 

『無事レクイちゃんが生まれました。あとは連れてかれないように守りながらなのはの方の完成を待つだけです。』

 

『このペースだとバレンタイン翌日になるけどね、完成。』

 

『まぁ絵面は変わらず絶対天敵(イマージュ・オリジス)との戦闘だけなんだけど……。』

 

『ブラジルが来たから歓迎会のスポーツイベントあるんじゃないの?』

 

『今1月末なんですがあの。』

 

 

 

 

 レクイ・コンペが姿を現してから早数日。IS学園では特に事件もなく平和な日々が続いていた――

 

「刻め、ソードビット!」

 

【グッ!?グ、グ……。】

 

 ――が、絶対天敵(イマージュ・オリジス)の現れる頻度は増えていた。

 

「はい終わり!それじゃレクイちゃんのとこ行ってきます!」

 

「あ、うん。お疲れさま飛鳥ちゃん。」

 

 GNソードビットによる速攻の連続斬撃で絶対天敵(イマージュ・オリジス)を倒すと、そう言って足早にアリーナを去っていった天羽飛鳥を見送った更識楯無は怪訝な顔をして呟いた。

 

「飛鳥ちゃん、あのおっきな剣を外してどうしたのかしら?」

 

 

 

 

「レクイちゃーん!」

 

「ママ!」

 

 ヒシッ!と互いに抱き締め、ついでにぐるぐると回った飛鳥とレクイはそのまま手を繋いで歩きながらお喋りを始めた。

 

「今日は何食べよっか?」

 

「ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」

 

「昨日も食べたけど今日も食べる?」

 

「うん!」

 

「じゃあ私、今日はエビフライにしようかなぁ。」

 

「えびふらい?」

 

「おいしいんだよ、エビフライ。タルタルソースが特に。」

 

「食べてみたい!」

 

「なら今日はエビフライにしようか。」

 

「うん!」

 

 レクイの食事をハンバーグからエビフライに変更させた飛鳥。その様を背後から見ていた他の専用機持ちたちは戦慄していた。

 

「すごい、強制じゃなくて自分から食べたい物を変えさせた……。」

 

「あれが育児テクニックか……。」

 

「なんか飛鳥、手慣れてない?確か1人っ子よね?」

 

「ええ、その筈ですわ。なのはさんの世話を焼いていたとは聞いてますけれど……。」

 

 視線の先では楽しそうにエビフライについて聞いているレクイと、それに子どもが興味を引くような謳い文句で説明する飛鳥の姿。

 

「あれをなのはさんにも……?」

 

「さすがにしないでしょ。たぶん素よ、素。」

 

「単純に子ども好きなのではないでしょうか?」

 

「それもあるだろうが、何より彼女が母たらんとしているのが原因だろうね。娘に色々なものを食べて欲しいという親心さ。」

 

「10代にして親心って。青春しなさいよそこは。」

 

 後を付けながら食堂までやってきた面々は自分たちも昼食を食べようといい加減隠れるのを止め、それぞれ今日の注文を決めていった。

 

「それにしても、IS学園の食堂ってメニュー豊富よね。」

 

「そうだな。メジャーどころは揃っているし、アレルギーや宗教に配慮したものもある。」

 

「それだけじゃなくて、郷土料理もある程度取り揃えてるんだからすごいよね。」

 

「世界各国から生徒がやって来る関係上、仕方なくこうしているという面もあるんでしょうけれど。それにしたって豊富ですわよね。」

 

「何よりおいしい。」

 

「それ。」

 

 受け取った料理を持ってテーブルに移った専用機持ちたちはそのまま会話を続けた。

 

「料理人ってすごいよね。包丁とか、あんな早いのにミスしてないんだもん。」

 

「そりゃそうならないと回らないからよ。包丁いれるのに手間取ってたらお客さん待たせちゃうでしょ。」

 

「繁盛してる時なんて地獄よ、地獄。皿洗いなんて特に面倒なんだから。」

 

「そういえば、鈴と乱は飲食店の娘だったな。」

 

「調理を手伝ったことはないけどね。でも仕込みは手伝わされたわ。あと接客と皿洗い。」

 

「100皿とか洗ってみなさい。腕が攣るわよ。」

 

「……思えば、あたしの握力って皿洗いでついたのかも……?」

 

「アタシも……。」

 

 自分の二の腕の筋肉をぷにぷにと触りながら思案顔になった2人を放置して話題は続く。

 

 そんな平和な、IS学園の1日。

 

 

 

 

 そうして平和に過ごしレクイもすっかりIS学園の風景に馴染んできた2月中旬頃、その戦争は始まろうとしていた。

 

「ばれんたいん?」

 

「そう、バレンタイン。」

 

 バレンタインデー。それは和気藹々とした外聞とは裏腹に、個数と質を争う学生たちの戦争。

 

「日本だと女の子から男に渡すのが一般的だけど、それはそれとして仲の良い友達にも渡すからなぁ。チョコレートを渡す日って覚えれば大丈夫だよ。」

 

 横から覗き込むレクイに説明しながら、飛鳥は金属製のボウルの中でチョコレートを湯煎し溶かしていく。

 

「何で溶かしちゃうの?そのまま渡すんじゃダメなの?」

 

「ダメじゃないけど……うーん、何て言えばいいのかなぁ。」

 

 購買で買った赤いパッケージの板チョコの箱を持ちながら聞いて来たレクイに、飛鳥はチョコを溶かすためにゴムベラを動かしながら少し考えてから答えた。

 

「手間暇かけることで、分かりやすくしたい、のかなぁ?」

 

「わかりやすく?」

 

「普通の人間は、些細なことで誤解する生き物だから。」

 

 普通の人間は表層意識を読み取ることも出来なければ、高い感受性で感じ取ることもなく、また本能的に察することもない。拳を交わしても、本心を話しても伝わるとは限らない。

 

「時間をかけて形を作ることで、言葉だけじゃ伝わらないことを分かりやすく伝えたいんじゃないかなぁ。」

 

「ママも?」

 

「私のはただの様式美だよ。バレンタインってこういうものだから。」

 

「知ってる!『こてーかんねん』だよね!」

 

「待ってどこでそれ知ったの。」

 

「束が教えてくれた!」

 

「どういう状況で教えたんだ束さん……。」

 

 溶けて液状になったチョコに生クリームを加えて再び混ぜながら、飛鳥はレクイと一緒にチョコ作りを進めていく。

 

「今回は手軽に型に流し込むだけでいいかなぁ、人数も多いし。」

 

「ママは誰に渡すの?」

 

「んー、なのはと束さんと千冬先生と山田先生と、あとは専用機持ちで……24人?うわ多っ、型足りるかな。」

 

 綺麗に生クリームが混ざったチョコを型に流し込んでいく。

 

「よかった、足りた。」

 

「これで完成?」

 

「あとは冷蔵庫で冷やして固めたら完成かな。それじゃ、後片付けしようか。」

 

 チョコの入った型を冷蔵庫に移し、使ったボウルやゴムベラを洗った飛鳥はレクイを連れて食堂に遊びに行くのだった。

 

 

 

 

 翌日、2月14日。土曜日の今日は本来校舎に来る必要はないのだが、カフェテラスエリアのスイーツ目当ての生徒や、今は頻度こそ少ないが訓練機ISを使うために登校する生徒も居るために一般開放されている。

 

 そして専用機持ちたちにとっては作戦本部がある建物なのもあって、休日ではあっても校舎で過ごすようになっていた。

 

 そんな訳で織斑一夏も登校していた訳なのだが、休日なのを差し引いても静かなことに首を傾げていた。いつもなら専用機持ちの誰かと会うのだが、今日は誰とも会わない。

 

 まさか自分が知らないだけで招集でもかかったのかと考え始めた時、背後から一夏に声が掛かった。

 

「やあ、おはよう一夏。良い朝だね。」

 

 オランダ代表候補生、ロランツィーネ・ローランディフィルネィが軽く手を挙げながら一夏の隣に並ぶ。

 

「おお、ロランじゃないか!良かった、ロランがここに居るってことは招集が掛かった訳じゃないんだな。」

 

「ん?なんのことだい?」

 

「いや、今日はまだ専用機持ちの誰とも会ってなかったからさ。何かあったのかと思って。」

 

 並んで歩きながら一夏がそう言うと、ロランは納得したように軽く笑った。

 

「ははは、そういう事か。察するに、みんなは君に接するタイミングを伺っているんだよ。今日は特別な日だからね。」

 

「え?今日って何かあるのか?」

 

「何だい、呆れたな。知らなかったのかい?カレンダーはよく見るべきだよ。」

 

 そうして話しながら進んでいる内に校門前までやってきた一夏たちを、ずらりと並ぶ女子たちが出迎えた。

 

「キャー!ロラン様がいらっしゃったわ!」

 

「おはようございます、ロラン様!」

 

「みなさん、静粛に!はしたないところをお見せしてはいけないわ!美しく1列に並び、順番にお渡しするのです!」

 

「「「はいっ!」」」

 

「嗚呼!来てくれたんだね、私の可愛い百合の蕾たち!」

 

 大勢の少女たちに向かってロランは小走りで近付いていく。

 

「ロラン様、これ、チョコレートです!今日のバレンタインデーのために、愛情をこめて手作りしました!」

 

「ロラン様、私は手紙を書きました!チョコレートを召し上がる時にお読みになってください!」

 

「ロラン様、私のチョコも受け取ってください!」

 

「嗚呼、ありがとう、ありがとう!君たちの愛、しかと受け取らせてもらう!」

 

 その光景を見た一夏は、ああ今日ってバレンタインデーだったのか、と1人納得していた。

 

 ――2月14日。それは質と量、どちらも手にしてこそ勝者となる仁義なき戦争の始まる日。

 

 一夏はこの時、まだ自分がどんな目に合うのかを知る由もなかった。

 

 女子校にいる唯一の男子生徒が、バレンタインデーでどんなことになるのかを……。

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